少し反省しました。  
 
半袖の女の子・・・もとい女性を雪山に突っ込むのは、漢のやる事ではないです。慌てて抱え起こしました。  
 
「ウルトラひゃっこいです!」「すまん、半袖だったっけ」「雪、払うからじっとしてな」  
「ふっ、服に染みる前に早くです!」  
 
バサバサ、パンパン。  
 
ぷっ。髪の毛まで雪まみれだな。  
 
梅姉ちゃんを引き寄せ、髪の毛に付いた雪を落としてると、急に梅姉ちゃんが変な声を上げた。  
 
「ひゃん!」  
「何ですか、その変な声」  
「あっ、あのな、あのな、武坊とこんなくっついたの久々だべ・・・」  
「んっ?」  
「だっ、だからな、だからな、だからな・・・」  
 
梅姉ちゃん、何を言ってるんだ?。何で顔が真っ赤なんだ?。  
 
今日は、梅姉ちゃんを散々投げ飛ばしたりしたけど、今みたいに温もりを感じる距離では無かったか。  
近いか?。近いかな?。近いよな・・・。  
 
気が付けば、梅姉ちゃんの体温、匂い、柔らかさを感じる距離。  
屈んで腰に手を回して、髪の毛を鋤いてるのってまるで恋人達がイチャイチャしてるみたいだな・・・。  
 
「少し背の高い〜♪」  
 
お袋、少しじゃ無いけどな。いや、突っ込む所違うな。  
 
「お袋、何時から其所にいる」「そして何をしてる」  
「可愛い二人を愛でてるの」  
「そんなに暇なのかよっ!」  
「そだそだ!急がねば」  
「何か用事か?」  
「診療所が忙しいみたいなんだわ」「お父ちゃん助けに行ねばなんね」  
「うおいっ!急げよっ!」  
「そっだな・・・」「梅子ちゃん、すまんけど武志の晩御飯お願いしていいべか」  
「あっ、まかして下さいです」「武坊を更に大きくするっす」  
「梅子ちゃんありがとな」  
「武志、私は父ちゃんと向こうに泊まるからな」  
「じゃ、続きをどぞっ!」  
 
車に乗り込み、お袋は去ってった。  
 
お袋、息子の恥ずかしい姿を愛でるのも良いけど、患者さんを診るのを優先しようよ・・・  
 
「つっ、続きは・・・」  
 
んっ?何か言ったか梅姉ちゃん。車の走る音で聴こえんかったよ。  
 
「何か言ったか?」  
 
「・・・私、どうすれば良いんだべ?」  
「何を?」  
「私達変わっていくんだよ」「良いのか悪いのか分からないんだけど」  
 
「・・・」  
 
逃げないんだ。やっぱりお姉ちゃんなんだな。俺も同じ事を考えてたよ。  
 
「梅姉ちゃん、俺も・・・」  
 
おいっ!梅姉ちゃん。何ですかその顔はっ!。その《むちゅー》キス待ちの顔は。  
 
突っ込んで欲しいんですか?。欲しいんか?。欲しいんですかっ!。  
 
俺は梅姉ちゃんを抱き上げ、顔を引き寄せた。  
頬を染めた白い顔、閉じた瞳の上の長い睫毛、そして切れ長の艶やかな唇。  
 
《チュッ》  
 
キスをした。  
 
おー、びっくりしてるな。目が点になってますよ。  
 
「ジャイアントスイングで雪山に突き刺さると思ったですよ」  
「やるか?」  
「やですよ」  
「俺も村を出て、少しは成長したべ」  
 
「えーとな、今回の里帰りでな何か結論がでるかもな」「たからあんまり急かすな」  
「・・・」  
「じゃ、ちっと待っててくれ」  
俺は着ていた革ジャンを、梅姉ちゃんに掛け、鍵を取りに玄関に向かった。  
 
顔が熱い。雪山に埋まったら、気持ち良いだろうな・・・。  
 
 
青色のワンピースに白いエプロン。  
 
思い出す昔の事。  
 
 
『さくらおばちゃん、どこへいっちゃたの?』  
『うめこおねいちゃん、ぼくおなかがすいたの』  
 
 
俺が6才、梅姉ちゃんが10才の時、梅姉ちゃんの母親桜さんが亡くなった。  
幼馴染みで一番の親友の、桜さんを亡くしたお袋は、深く悲しんだ。そして、大きな問題に直面した。  
大きな問題とは、俺の育児である。  
 
この村に診療所をつくる事を目指して、医者に成ったお袋と、お母さんに成る事を目指して、お母さんに成った桜さん、違う夢を持っていた二人だけど、一つ同じ夢を持っていた。  
 
『幼馴染みを作ろう』『私達の子供を幼馴染みにしよう!』  
 
 
お袋は、同僚の医者であった親父と結婚して、夫婦で村に帰ってきた。そして無医村であったこの村に、二人で診療所を開いた。  
 
 
『育児ならわたすがやるだよ、約束守ってくんろ』  
『実はな〜・・・』『はなから当てにしてたんだ』  
 
 
お袋は約束を守り、梅姉ちゃんの幼馴染みである俺を産んだ。  
桜さんは診療所で働くお袋に変わって、俺を娘と同じく、大切に育ててくれた。  
 
 
『このこな〜に?』  
『あなたの幼なじみよ』  
『おさななじみってなに?』  
『すっごく、良いものなの』『だからいっぱい可愛がってあげてね』  
『うんっ!いっぱい、い〜っぱいかわいがる』  
 
 
梅姉ちゃんも、俺をいっぱい可愛がってくれた。  
 
 
お袋はどうするか悩んでいた。  
 
医師を休み俺を育てるか。父の実家に俺を預け、医者としてこのまま診療所で働くかと。  
 
 
『ぼく、とおくにいっちゃうの?』『うめこおねいちゃんとも、はなればなれになっちゃうの?』  
 
 
まだ幼い俺は、母を亡くした梅姉ちゃんの気持ちを慮ることも無く、自分の不安を言うだけだった。  
梅姉ちゃんは自分の悲しみを微塵も出さず、俺をひたすら慰め続けててくれた。  
 
 
『ならないっ!』『ならないです!』『お母さんの代わりはわたすがするです!』  
 
 
お母さんとお揃いの、大好きな青色のワンピース。子供用でも大きすぎる、白いエプロン。  
梅姉ちゃんはお母さんのお手伝いする時の、お気に入りの格好でキッチンに向かった。  
 
 
『出来たです』  
『こどもは、ひをつかっちゃいけないんだよ』  
『うるさいです』『早く食べるです』  
 
 
少し甘い炒り玉子、焼いたハム、四つに切ったトマト、トースト。  
 
これが、梅姉ちゃんが俺に作った初めてのご飯だった。  
 
食べ終わった後、梅姉ちゃんは俺を抱きしめて言った。  
 
 
『武坊は心配すんな』『わたすが守るから』  
 
 
すでに梅姉ちゃんより大きな俺を、背伸びをし、力一杯抱きしめながら言った。  
 
 
桜さんの四九日の法要の時だった。  
 
 
『お母さん後は任せて下さい』『わたすが世話します』『わたすが武坊の面倒見ますです』  
 
 
梅姉ちゃんが、桜さんのお墓の前で言った。  
近くに居た俺の両親、梅姉ちゃんの親父さんは、暫くの間固まり・・・  
 
そして大爆笑をした。  
 
 
『だって、チビっちゃい梅子ちゃんが大人びた口調で、お前の面倒見るって言ってんだもん』『お前は、梅子ちゃんをうっとりと眺めてるし』  
 
 
桜さんは、梅姉ちゃんが幼い頃から家事全般を手伝わせていて、梅姉ちゃんはもう大体の家の事が出来る様になっていた。  
 
 
『私も出来るだけ家に居れる様にしますから』  
 
 
村の世話役であり、地元の生産物の売り込みに日本各地を飛び回っていた、梅姉ちゃんの親父さんは、今の仕事を他の人に任せて、なるべく地元に居るようにしてくれた。  
 
それから九年間、俺はチビっちゃい梅姉ちゃんに守られて生きてきた。  
 
 
「ひゅーん、ひゅんひゅーん、ぱしゅーんっ!」  
 
やれやれ、物思いにも浸ってられないか。  
さて、突っ込みを入れんとな。  
 
「梅姉ちゃん、何だよそのへっぽこ音」  
「くちターボですよ」「隣が重いんで車が加速しないからですよ」  
 
何だよ、くちターボって。確かに俺は、要らんぐらいで大きく成ったけどな。  
 
梅姉ちゃんの作るご飯の所為か、持ってるDNAの所為か、元々でかかった俺は、今や身長185cmオーバー、体重90sの立派な体型に成長いたしました。  
 
「なー梅姉ちゃん」  
「なーに?」  
「第一浴場行くの止めて、別の所行かないか?」  
「なしてだよ?」「やっぱり恥ずかしいんか?」  
「いや違う、違うんだ、公共浴場だから他の人も入ってくるべ、俺は良いけど梅姉ちゃんがな・・・」  
「心配してくれてんのか?」「あっ、ありがとうなっ」  
 
誘導成功かな?。  
今言ったことは、嘘では無いんだけど。  
第一浴場は大好きだけど、今の精神状態での梅姉ちゃんとの混浴は何かきついです。  
それに、梅姉ちゃんは合法とはいえ《ろり》だから、下手すると通報の恐れが有るし。  
 
「心配してくれて有難いんだけど」「安心してくんろ」  
「何で?」  
「ほれっ」  
 
梅姉ちゃんは、コンソールボックスを開けて、何やら取り出した。  
んっ、鍵か?。何の鍵だべ?。  
 
「もうつくだよ」  
 
最近出来た、温泉を利用した除雪システムのおかげて、道には雪がほとんど積もって無く、車はすんなりと第一浴場にたどり着いた。  
 
変だな。俺は回りの雰囲気に違和感を感じた。  
 
「梅姉ちゃん、何か閑散としてるな。」「なしてだ?。」  
「さー着いただよー」  
 
んっ、入り口にチェーン?、何か看板が・・・。  
看板には、《閉鎖中》と書いてあった。  
 
「へへーん、貸し切りですよ」  
 
勝ち誇ってやがますね。  
分かりました俺の負けのようです。  
 
 

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