森の中で狩りをしていた青年・オリーブ。
しかし獲物を追ってつい深く入り込んでしまったせいか、道に迷ってしまいました。
途中、パートナーとも逸れてしまい、いよいよ右も左も分かりません。
暗く、寒くなってきました。携帯していたブランデーも、とっくに空です。
「さて、どうしようか」
途方に暮れていた時でした。
ふと目をやった先の、森の木々の間に、小さな轍のようなものを見つけます。
開けたその先には、微かな灯火が。
「わお、こいつは助かった」
疲れて棒のようになっていた足も少しだけ軽くなり、その源へと、彼は急ぎます。
目の前に現れたのは、こんな所に場違いな、洒落た洋館。
森の中にこんな物があるのか、と感心している余裕もなく、彼は入口に立ちました。
『当店はVIP御用達の、秘境を売りにしたレストランです。どうぞお入り下さい』
と書かれた立て札が立っています。そんなものなのでしょう。
寒くて今にも凍えそうな彼は、考えるよりも早く中に入ります。
中は温かく、ホッと一息吐くと、そこにはテーブルと注意書きがありました。
『当店は予約制となっております。ですが、どうしてもと仰るお客様も多いので、突然の方はこちらで順番待ちを御願い致しております。どうぞご了承下さい』
なるほど、と合点のいったオリーブ。座り心地の良い椅子に座って待ちます。
すると、きぃ――と音がして、奥の扉が開きました。
見ても、誰かがいる気配はありません。
とりあえず、お腹もぺこぺこのオリーブは、一刻も早く何か食べたいのです。
迷わず奥に進みますが、目の前にあるのは同じように、次の間へと続く扉。
そしてこの間にもテーブル、そして洋服かけだけがぽつん、とあるのでした。
『帽子・上着・手袋・武器等、他小物以外の持ち物はここに預けて、次にお進み下さい』
もどかしさを覚えつつも、彼はその通りにしました。
しかし、あんな場所に置いておいて、盗難にあったりしないだろうか?
そんなことを考えますが、続き部屋は温かく、地味ながら小奇麗な空間です。
「きっと防犯には気を使っていて、これは一種の演出か何かなんだろう」
と納得して、この部屋のテーブルの上にある、羊皮紙に書かれたメッセージを読みます。
『非常にお手数ですが、当店では清潔なお客様を歓迎しております。右手のシャワールームを、宜しければお使い下さい』
汚れを落とし綺麗さっぱりになったオリーブ。身嗜みを整えて、”お使い下さい”と書いてあるスーツを着込みます。
親切でありがたい反面、随分と変わった趣向のレストランだな、と彼は思いました。
もしかして、サービス料込みで法外な食事代を取られたりするのだろうか?
一応、財布には数枚の大きな札が入っていましたが、そう思うとちょっと考えてしまいます。
ですが、背に腹はかえられません。彼は分岐部屋に戻ると、左の扉を開きます。
それにしても、いつになったら食事に辿り着けるのか――そう思っていた彼の表情が、安堵に変わりました。
『お疲れ様でした。この先で食事となります。最後に、こちらをまずお飲みになって、喉を潤して下さい』
一見怪しげにも見えるビンが置かれています。中には透明な液体。
渇いていた彼は、考えるより先に手を出しました。
甘く、少しだけブランデーに似た、苦味もある喉越し。さあ、いよいよ食事だ、と意気込んで最後の扉を開けます。
そこは薄暗く、ナイトクラブのようなライトアップが為された部屋でした。
何だここは、と思った彼の目の前に、長い影が現れます。
「いらっしゃい、人間さん」
女性の声。影の主が、段々と見えてきます。白く伸びた足、大胆なスリットのドレス、腰は括れ、胸元は大きく開いて、抜群のプロポーションです。
そして、顔。惚れ惚れするような美女でした。しかし、横に伸びる耳が――長く尖っていました。
魅了されかけるも、異変に気づいたオリーブ。逃げ出そうと振り返ります。
しかし、今入ってきた扉が開きません。
「恐がらなくても良いよ?」
影がもう一人。やや背は小さく童顔ですが可愛らしく、全体的に小悪魔のような露出と装飾の多いドレスがよく似合っている、やはり長い耳の女性でした。
森に住むと言われるエルフの話を、彼は思い出しました。
近づいてくる二人に、開かない扉に追い詰められるオリーブ。
頭がくらくらしてきました。何の毒を盛られたのか、考える内に意識がどろんと弛緩します。
背の高い方のエルフが、彼の胸に手を置いてきました。
「ひっ!」
恐怖に引きつる相手の顔を見て、彼女は妖しく笑いました。
その後、極端なほどに感じるディープキスに、意識は飛びます。
やっと強すぎる衝動から、一時的に理性を取り戻した時、彼はベッドの上に仰向きに寝かされていました。
そして、上にはいつの間にか、小さい方のエルフが乗りかかって見下ろしています。
「目が覚めた? くすくす…」
体が熱く、心臓と下半身の一部分が、激しく脈を打っています。
「き…みらは…あっ!?」
悶えるような、痛みというよりは快感に抗います。体が今にも暴走しそうでした――目の前の”女”に向かって。
「大丈夫、気持ち良くしてあげるだけ。だから――」
艶めいた唇が、唇に降ってきます。今度は、もう一人からのキス。
「――ぷはぁ……アルーに、欲しいの」
謎のエルフは、官能的な息遣いをしながら、スーツを剥き始めます。
「アルーね、こうやって…服を脱がすのが好きなの。ぞくぞくして、それだけで、イク」
ゆっくりと、撫で回すように彼のスーツを脱がし、そして片手を自らの下半身に伸ばして、卑猥な音を立てているのです。
暗がりでよく見えませんが、その部分を見たい衝動に駆られます。
ふりふりのゴシックスカートの中の、ガーターのショーツは小さく薄く、それが中まで透けて見えるほどに濡れているのが、想像出来るくらいです。
「あ…はん…そこっ…」
体の上で、快感に捩れるもう一つの体。普通の状態でさえ、興奮しない訳がありません。
そして勿論、普通じゃありません。自らのモノが、これだけで暴発しそうなほどに活発なのです。
肌が剥き出しになっても、羞恥心を感じる余裕すらありません。本能を前に、意思を繋ぎ止めるだけで精一杯でした。
「下、どんな…なんだろ…」
ボタンを外して、チャックを下ろして、主張するモノを悩ましげに見つめます。
「あっ…はあっ…もう、少しぃ…」
ズボンを膝まで下ろして、太腿の辺りに、指を躍らせます。
全ては、変態のようでもあるこのエルフ――アルーの、エクスタシーの為。
そして、愛でるように下着の上から、モノを弄ります。息遣いは、とても激しくなっていました。
いよいよ最後の一枚。焦らして焦らして、やっとそれを剥ぎ取ったアルーは、声を震わせました。
「いい…君の裸、んっ…も、だめっ――んあぁっ!」
自慰が、終わりを迎えました。ぽた、ぽた、と滴る音を聞こえさせて。
彼の足元で体を震わせて、目に涙を溜めて、しかし口元は快感に緩みます。
彼女は四つん這いで、目の前に戻ってきました。
「…我慢、したんだ…じゃ、ご褒美、あげる。…ぐちゃぐちゃに、して?」
求めてくる瞳と、いつの間にか肌蹴た胸元に、やや小さな膨らみとピンク色の突起が主張をしていました。
彼の理性は、崩壊しました。抱き締めるや否や、貪るようにキスをし、長い耳にもキスをし、体という体を擦りつけます。
全てを自分の物にすべく、狂い愛でます。体位まで、逆転させて。
空腹なんて、頭どころか体すら忘れ去っていました。
胸を愛撫するに飽き足らず、下着の中に手を突っ込んで、荒々しく秘部を、指で刺激します。
絡みつく愛液が熱く、そして流れるように出てきます。これでももう、物足りません。
「あっ! うう…く、うっ…!」
彼女の中に、入っていくモノ。裂けそうなほどにきつかった入口も、格段の快感でした。
性欲に溺れたまま、奥を何度も突きます。疑問すら、もはや持てません。
「いっ…て…?」
心をくすぐるような表情に、遂に彼に限界が来ました。
「全部…、出して…っ!」
その体を必死に抱き締めてきた彼女から、抜く余裕はありませんでした。
「うっっ――!!」
中に出しきれない精液が、器から零れます。彼女は、それを股座から指で掬うと、口元に。
「はぁ…こんなに、濃くて…」
ちゅぱ、とまるで水飴でも味わうように、舐めるのです。
「熱くて…おいし。…ね、もっと…遊ぼ?」
そして、口づけ。精液の、何とも変な味が、”男”の感覚をより淫らに鈍らせます。
「次は私の番よ、アルー?」
抱き締めてまたもどかしく弄り合う二人の前に、声と共に現れたのは、あの背の高いエルフでした。
「ちぇっ…ま、いっか。味見する?」
うっとりとした表情を浮かべる彼女に対し、もう一人のエルフが、その唇を奪います。
彼の目の前で、女同士が舌を絡めて、音を立てています。
「…んん…、悪くないじゃない」
「この人、また後で貸して? まだココが、熱いの」
「はいはい。交代よ交代」
そう言われると、彼女は渋々といった感じでオリーブの腕から離れて、ベッドを下りて暗がりに消えていきました。
一方彼は、射精後の反動で、少しだけ理性を回復し始めていました。
「私はエレナ。どう? 感想は」
「…一体…何なんだ?」
「まだ、抑えきれないでしょ? あなたが飲んだのは、私たち特製の媚薬」
長ければ三日三晩、火照りが収まらない――そんな代物だったのです。つまるにどういうことか。
ここは、確かにレストランなのです。ただし、体を食べ合う為の。食欲ではなく、肉欲を満たす為の。
彼の表情に、険しさが宿ります。
「もう、やめてくれ…」
しかし体は疼きます。目の前のエレナと呼ばれたエルフの女性も、やめる気はないようです。
スリットから美味しそうな足と、その先に見える下着。艶かしく足を上げて、下腹部に跨ります。
「良いのかしら? ふふ…抵抗しても構わないけど」
彼は体を起こすと、ベッドの端に逃げます。
「…そう。なら少し、休むのも良いかもしれないわね。ちょっと面白いものでも、見る?」
ベッドから下りると、エレナは細い手を、目の前に伸ばしてきました。
取ると、ぐいと引かれます。彼の体は、ふらつきながら立ち上がっていました。
美女――ならぬ美エルフの微笑み。それだけで、また心は昂ります。
暗い部屋の端、扉を一枚隔てて、その先でした。
「!!」
広がっていた光景に、オリーブは絶望の淵に叩き落されます。
そこではもう一組の”食事”が行われていました。
裸に剥かれた人間の女性が、広いベッドの上で、長い耳の男たちに、犯されていたのです。
「カレン――!?」
それは、たった先刻まで共にいたはずのパートナーの、無残に輪姦されている姿でした。
しかし悲痛ではありません。目の前で肌を紅潮させ、何本ものモノを、穴という穴に挿れられ、悦び喘いでさえいるのです。
夢中でしゃぶりつくその顔は、明らかに正気を失っていました。
すっかり男エルフらの性奴隷と化したかのように、白濁塗れの姿を晒しています。
カレンは、オリーブのパートナーであり、信頼を寄せる恋人でした。
心が、砕け散りました。それなのに、体はあろうことか、その光景に興奮していました。
屈辱を感じながら、持ち上がる下。それに気づいたエレナが、手で優しく包み込んできます。
「……っ!」
湧き上がる快感と共に、僅かな心は何もかもが絶望と諦めに染まり、どうでも…良くなってしまいました。
糸が切れたように、腕を回して抱き締めます。ドレス・スーツをお互いに脱がし合って、キスを繰り返します。
ベッドに戻って来て、柔らかな上に体を投げ出して、見つめ合います。
「…誰よりも、愛してあげる」
豊満な胸を、体に惜しみなく押し当てます。柔らかくて、何も考えられなくなって――。
人間とエルフ――異なる二種族の性交がまた、始まりました。
一通り舌で相互に愛撫をすると、エレナは相手の下半身に、手を置きます。
そしてどこからか取り出したのは、見覚えのあるビンでした。
「これは媚薬に樹液を混ぜたもの。ぬるぬるして、きっと気持ち良いはず」
言いながらまるでローションのように、自らの胸、そして体に垂らします。
オリーブの体とモノにもたっぷりとかけられると、疼きは一層強く、体が張り裂けそうに熱くなりました。
モノを胸の谷間に挟んで、扱きます。纏わりつく液がまた、その気持ち良さを倍増させ――。
「うわっ――!」
再びの射精。彼女の顔が、汚されていきます。
「…そんなに、良かったかしら? …嬉しい」
そして、先端に口をつけ、咥えたのです。残りを綺麗に舐めとるように。
他にも胸を腹部に擦りつけたり、秘部を舐め合う体勢になったりと、彼女は本格的なことをしてきました。
体中、いろいろな液体でべたべた、それでも絡み合い弄り合う二人。
「ん…たまらない…」
最後に上に乗って、自らモノを奥へ導きます。器がしっかりと締めつけて、動く度に擦れます。
何度も出してきたのに、気を抜けばまた思わず漏れ出してしまいそうなほどの、快感でした。
がく、がく、とベッドが揺れ、あ、あ、あ、と小刻みに聞こえる吐息混じりの声。
二人もまた、最初の結合を迎えようとしていました。
全身を性感帯にして、乱れて揺れる体。耳を垂らして本能に任せる彼女は、美しく淫らでした。
「うんっ…あっ…すご、い…っ!」
「あっ…うわっ…!」
「くぐっ――!」
限界と共に、どくん、と下半身が痙攣し、オリーブのモノがまた、精液を噴きます。
「あっっ――!!」
それが彼女の中に、しっかりと流し込まれていきます。
「…来て、る…!」
「……はぁ、はぁ、…あなたのもまた、癖に、なりそう」
二人はまた抱き合って、キスをしました。するとまた、疼いてくるのです。
「…ずっと私は、あなたのもの。そうして…良いわ」
オリーブは、ああ――と、抑揚のない言葉を漏らしました。
そして彼女に愛撫を始めるのです。モノは早くもまた、硬く反り上がり始めていました。
――それから、火照りを冷ます為の性交は、優に半日を超えたでしょうか。互いに果てきることもなく、続きました。
エレナとアルー、交互に。そして、二人一緒に。何度も何度も中に出して、本当にぐちゃぐちゃになっても、それでも愛欲は尽きませんでした。
いいえ、ひょっとするとオリーブにはもう、愛を感じることすら、出来なくなったのかもしれません。
朦朧とした意識に、正気はありません。子どもが出来るとか、体が保たないとか、そんなことは当然考えてもいません。
ただ体に残る欲求を、目の前の女で満たすだけの、獣にでもなったかのようでした。
軍から捜索の依頼を受け、森に足を踏み入れて数時間。
チームの隊長、オズワルドが見つけたのは、怪しい液体の痕跡でした。
血ではありませんが、夥しい量のそれが、地面に道を作っています。
「シャーリー、仲間を集めろ。戦闘になるかもしれない」
生温かな空気を、彼は敏感に感じ取っていました。
その液体の跡を辿っていくと、やがて森の開けた場所に着きました。
「!!」
そこには、凄惨な”食事の跡”がありました。
「…行方不明になっていた、オリーブとカレンに間違いないようだ」
目の前には、横たわる男女の姿。互いに衣服を身に着けていません。
むせ返るような臭いに、一帯に篭った温い空気。
そして、精液に塗れた二人の体を見れば、何が起こったのかは見当がつきました。
「…エルフに、襲われたらしいな。いや、誘い込まれた――と言うべきか」
チームは二人をすぐに救助し、担架に乗せて、その場から運び出しました。
勿論、その場にエルフの姿は、ありませんでした。
二人の体は寒さの割に、行為から間もないのが幸いしてか冷たくなってはいませんでした。
しかし、衰弱しきっているのは確かです。応急処置だけ施して、急いで撤収をかけます。
「ちっ…」
彼は、臭いを紛らすように煙草に火を付けます。
そして、すぅ――と息を吐き、すぐに吸殻入れに放り込みます。
「…魔法で幻を見せて、やることがこれか。馬鹿にしてやがる」
銃を持ち直し、もう一度現場を振り返ります。
彼にとっては、二人は当然被害者です。その被害者が、一見ですが、幸せそうな顔で眠っているのは、皮肉でした。
「――その人たちは、また戻ってくる。何度助けても、必ずここにね。くすくす…」
「!?」
銃を構え、周囲を睨みつけるオズワルド。しかし、それらしい影は見えません。
「シャーリー、今何が聞こえた」
「…何も聞こえませんでした」
空耳でしょうか。しかし、仮に本当だとしても、こんな森の中からでは、どこから声が発せられたのか――分からないでしょう。
「……出発だ。全員なるべく固まって、一刻も早く森を抜けるぞ」
おしまい