もう、限界なのだ。  
 
 大きな音を立てないよう気をつけて、扉を閉める。灯りが消され暗い部屋の中、  
聞こえるのは規則正しい寝息だけ。その寝息の主の元へと、私はそっと近づいた。  
 …よく、寝ている。昔から変わらない、穏やかな寝顔。今から私が行おうとして  
いることを実行したら、きっともうこんな無防備な姿を見せてくれないんだろうな。  
それを寂しく思うけれど…それ異常に、耐えられないのだ、私は。  
 私が血の繋がらない弟である聡に恋をしたのはいつだったのだろうか。実は、血  
が繋がっていないと知ってから?…ううん、きっとそれよりもっと前から、私はも  
う聡を弟として見ていなかったのだと思う。  
 
 …ごめん、聡。  
 
 心の中で謝りながら、その言葉とは裏腹に聡の両手をとる。起こしてしまわない  
ようそっと上に持ち上げ、聡の頭の上でまとめた。ポケットから取り出したのは、  
この日のために用意した手錠。…本物ではないけれど、聡の両手を塞ぐくらいなら  
できるだろう。…縄や紐では、途中で外されてしまうといけないから。  
 聡の両手を手錠でまとめ、動かせないように鎖でベッドにくくりつける。…これ  
で、準備は完了だ。…両親が泊まりで出掛けている今日しか、チャンスはない。  
 
「…ダメなお姉ちゃんでごめんね」  
 
 すやすやと眠る聡の上に馬乗りになる。腰をかがめて、口付ける。最初は軽く。  
だけど、それだけじゃ足りなくて、薄く飽いた唇に舌を捩じ込んだ。  
 
「ん、んんっ」  
「………ん…っ」  
 
 ぴちゃり、と唾液が混じる。息苦しいのか、聡は眉間に皺を寄せ小さく声を漏ら  
した。…でも私はキスをやめない。聡に気づかれてもいい。聡が起きてしまっても  
いい。もう、後戻りなんて、できないのだから。  
 
「…はっ……んん、さと、る…」  
 
 何度も何度も口付ける。服越しに感じる聡の体温。聡の香り。…なんでこんなに、  
聡が好きなんだろう。  
 
「…さとる……」  
「ん……ね、ちゃん…?」  
 
 聡の瞼がぴくりと動き、ゆっくりと上がる。至近距離にある私の顔を瞳に映し、  
不思議そうに二、三度瞬いた。だがすぐに、ただの悪戯だと思ったのか再度目を閉  
じる。  
 
「…なにしてんだよ…重い……」  
「………聡、好きだよ」  
 
 そう囁いて唇を重ねる。驚いたように、目が見開かれた。  
 
「…な、……え…?」  
「聡が好きで、好きすぎて、おかしくなっちゃった」  
 
 頬を撫でて、さらに口付ける。今の状況が理解できないらしい聡は、混乱したよ  
たようにえ、え、と何度も呟いた。身体を起こそうとしてやっと、両手が塞がれて  
いることに気づいたらしい。ガチャガチャ、と金属が触れ合う音がした。  
 
「…な、にを…じょ、冗談…」  
「冗談なんかじゃない。…聡が、欲しいの」  
 
 半笑いだった聡の表情が、困惑に染まる。そんな顔させたいわけじゃなかったの  
に、何故だか少しだけ満たされた。  
 キスしながら、右手を聡の脚の付け根に伸ばした。  
 
「…っね、ねぇちゃん!やめろよっ!」  
「やめない」  
「な、なんでだよっ!おいっ、ねぇちゃん…っ!」  
「好きなの」  
 
 聡が暴れて、金属音が部屋に響く。そんなに動かしたら明日、手首に傷ができて  
いるかもしれない。そう思うと胸が痛む。仕事を早く済ますためそのまま手錠をつ  
けたが、こんなことならリストバンドかなにかを付ければ良かったかもしれない。  
 後ろ手でジャージとトランクスを一緒に下ろし、聡のそれを撫でる。聡が息を飲  
んだのが分かった。  
 
「っ、やめろっ!」  
「やめないって、言ってるでしょ」  
 
 手を動かして刺激してやると、聡のものが段々と固くなっていく。それでもまだ  
足りない。これでは、私の中に入って来てはくれない。  
 聡の腹に下ろしていた腰を上げ、腿の上に移動する。半端に孤立した聡のそれを、  
両手で包み込んだ。息を吸い込み、  
 
「ね、ねぇちゃ…っ!!」  
 
そのまま、咥えた。  
 びくん、と聡の腰が跳ねる。口の中のものも同じように震え、大きく、固くなっ  
ていく。実践したことなどなかったけれど、この日のために知識だけは蓄えた。ソ  
フトクリームを舐めるように、下から上へ舌を動かす。  
 
「う、あ…っ」  
 
 吐息と脈打つそれが、聡が感じているのだと教えてくれる。嬉しい。  
 
「さとる…好き、好きだよ…」  
「や、め…」  
「ふふ、聡の、固くなってる」  
 
 先端を舌先で刺激する。私の唾液だけでなく、聡の先端もじわりと滲んでいるよ  
うだ。聡のものは口では咥えきれないくらい大きくなった。…これで、十分だろう。  
 
「聡、好き…愛してるの」  
「だ、ダメだよねぇちゃん…俺たち、姉弟なのに…!」  
「でも血なんか繋がってない…私、聡のお姉ちゃんなんかじゃないわ」  
 
 今の私は、泣いてるのか笑ってるのか自分でも分からない。少しだけ滲んだ視界  
に、焦ったような聡の顔が見えた。  
 愛してるわ、聡。  
 スカートをめくり上げ、下着をずらす。そのまま、勃ち上がった聡のものを跨ぎ、  
腰を下ろした。  
 
「ぁ、うあ、あ…っ!」  
「…あ、いっ……」  
 
 前戯すらしていないのにびちょびちょに濡れていたのにも関わらず、聡の圧倒的  
なものを受け入れたそこに鋭い痛みが走る。血も流れているようだ。でも、その痛  
みすらいとおしい。だってそれは、聡が私に与えてくれた痛みだから。  
 
「…く、さと、る…聡…っ」  
「ね、ちゃん…まさか……」  
「……初めてが聡で、嬉しい、の…」  
 
 痛みのせいか、それとも喜びのせいなのか。頬を伝った涙はそのまま聡の腹へと  
落ちた。  
 
「聡…愛してるわ」  
 
 愛液と破瓜の血を潤滑油にして、ゆっくりと動き出す。聡は説得するのを諦めた  
のか、顔を背けて私の事を見てはくれない。…それは悲しいけれど、嫌われても構  
わなかった。嫌われても、聡が欲しかった。姉の顔をして聡の側にいるのは、もう  
限界だった。  
 
「聡…ぁ、聡ぅ…っ」  
「…っ、ぅ」  
 
 がむしゃらに腰を揺らす。じくじくと痛い。そこに、快感なんてない。それでも。  
 私の奥深くに、聡がいるという実感。それだけで、満足だった。  
 
「聡、愛してる、聡…っ」  
「…くっ、ダメ、だ…っ、ね、ちゃん、どいて…っ!」  
「嫌、嫌よ…っ!」  
「ねぇちゃん…っ!」  
 
 聡の限界が近いのだろう。必死に堪えながら、私にどくよう懇願する。けれど、  
私がそれを聞き入れることはなかった。  
 
「…聡、きて、きて、聡…っ!」  
「だ、めっ、ね、ちゃん…っ!」  
「さとる…っ!」  
「……っ!!」  
 
 締めつける私の中で、聡が大きく震えたのが分かった。同時に目の前の聡の顔が、  
絶望で彩られる。  
 ああ、どうしてそんな顔をするの?私は、こんなにもしあわせなのに。  
 腰を上げると、聡のものと聡が吐き出した精液が私の中から伝い落ち、ベッドを  
汚した。そっと、お腹を撫でる。痛みはあるけど、幸福が勝っている。  
 
 たとえ、今までのような関係に戻れなくても。  
 たとえ、聡が私に笑ってくれなくても。  
 
 
 ―――ねぇちゃん!  
 
 
 一瞬、脳裏に幼い頃の無邪気な聡の笑顔が浮かぶ。  
 そして、昨晩一緒にテレビを見ながら私に話掛ける、昔から変わらない笑顔も。  
 
「……聡、愛してるわ」  
 
 そうキスをした瞬間零れた涙の理由は、私にも分からなかった。  
 
END  
 

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