「おーい、コージー」
「ん?」
4限目が終わって昼休みに入り、教科書など前の授業の片付けをしていると、アイツに呼ばれた。ちなみに自分の名前は浩二で、苗字は富田ではない。
「お、サツキ。んじゃ飯食おうぜ。」
一緒に食事をするのはいつもの事である。
「それがさー…弁当忘れた…」
ほう…私が丹精込めて作った海苔弁を忘れて来るとは良い度胸だな、貴公。とはいえ、忘れたのだからしょうがないか。
「さっさと売店行って買って来な」
「財布も忘れた…だからコージ、頼む!」
この女、更に金までたかるか…まあ、忘れたものはしょうがない。無言で財布から500円玉を取り出して握らせる。後できっちり取り立てたるわい。
「サンキュ、じゃあ買って来るね!」
「40秒で購入しなー!」
「120秒で頑張る!」
そう行って皐月は教室からダッシュで外に出て行く。
こっちとしては弁当忘れた馬鹿を待っている義理は無いので、さっさと自分の弁当を開ける。
「いただきます」
ともかくこれを言わねば食事という気分になれない。まあ、言わない奴もそういないと思うが。
さて、華麗な箸捌きを決めようと海苔弁を手に取った時、やはり一緒に食う事の多い前田と大森が話しかけてきた。
「なあ浩二くんよ」
「なんだよ」
前田に返す。
「お前、本当に大山と仲良いよな。あんなクール美人が幼馴染みなんてうらやましいぜ、コノヤロー」
「…」
うるさい前田と違って、大森は何も喋らない。というかこの女は普段から喋らない。
「しかし前ちゃんよ、お前には大森がいるだろうに…」
この二人も幼馴染みである。ついでに付き合ってる。
「いやいや、コイツはクールだけどね、美人というか、カワイイって感じだからね。やっぱ、男ならクールビューティに憧れるだろ」
おい前田、横にいる大森がかなり複雑な表情しているぞ。…とは教えてやらない。
前田はまだべらべらと喋っており、面倒だから全部聞き流すつもりだったが、何を思ったか突然質問して来た。本当に面倒な男だ。
「でさ、やっぱりお前って朝は毎日大山に起こしてもらっているわけ?家、隣なんだろ?」
考える。昔はよく起こして貰ったが、最近では自分から起こしに行く場合も多い。
「いいや、そうでもない。」
「へぇ…じゃあ弁当は?それ大山の手作り?」
違う。今日の弁当はわしが育てた、もとい作ったものだ。だいたい、
「作った本人が忘れてちゃ話にならねー」
まあ昨日の弁当は皐月謹製だったがね。
「そうだよな…そういえばお前らん家ってどっちも共働きだよな。じゃあさ、毎晩ご飯作って貰ったりとかは?」
「ないね。」
大抵は一緒に作っているからな。どうでもいいが聞き耳立てている連中が増えてきたな…
「つまんねーな。じゃあ、部屋の窓で行き来とかは?」
「そりゃ毎日だな。」それを聞いた前田が、やたら嬉しそうな表情をする。
「マジで?マジで!?スゲェ、都市伝説じゃないんだ!リアルギャルゲーじゃん!」
「うぜー…」
ハイテンションになって余計に鬱陶しくなった前田の横から、大森が、何故か今まで誰も俺達2人に聞いて来なかった質問を放った。
「付き合ってるの?」
小さい声だったが、その瞬間、目の前のやかましい馬鹿を含めて教室全体が静かになる。おい、全員で聞いてたのかよ。さすがにビビったぞ。
教室の中をぐるりと見渡してみると、みんなじっとこちらを見ている。せめて目ぐらい反らせ。
すると、教室の向こうで、男子の出席番号最後の山田が何やら険しい表情でこちらを見ているのを見つけた。まあ、大体の察しはつく。
…しかし、すまない、私にはサツキがいるのだよ。君の想いには応えられない…まあ君が男な時点で論外なんだがね。
心の中で彼に謝罪した直後、再び大森に聞かれる。
「ねえ、どうなの?あなたたちは付き合ってるの?」
そりゃもちろん。
「当たり前田のクラッカー!」
教室がシンと静まったままなのは、何故だろうか。沈黙が続く状態で、ようやく私の幼馴染みが帰って来た。
「コージ、遅くなってごめ…何?ここは葬式会場か?」
「ええ、色んな意味でね。」