「君に挑戦してもらうのはここだ」  
 
案内役の男に先導されてくぐった扉の先は、予想よりはるかに広い所だった。  
いや、広い、というより長いというべきだろうか。  
横幅は10メートルほどだが、長辺部分は100メートルはあろうかという長方形の部屋。  
ただし普通の床があるのは入り口から1メートルほどと、遠く反対側に見える出口から1メートルほど。  
その間は覗き込んでもそこが見えないほど深い穴になっていて、そこに1本の柱が通されている。  
柱の太さはしがみつけばちょうど反対側で指先が触れ合うほどだろうか。  
赤黒いそれが何でできているのかは想像もできないししたくもなかった。  
 
「見れば想像がつくと思うが、この橋を渡り向こう側の出口まで到達できればクリアとなる。  
 そして途中で下に落ちれば失格だ。  
 時間や方法に制限はない。  
 ただしこれだけは着けてもらう」  
 
そういって男が懐から取り出したのは1本の黒い布。  
 
「さすがにそのままでは誰でもクリアできてしまうからな。  
 これで目隠しをして進んでもらう。  
 それ以外ではしがみついて慎重に進もうが一気に駆け抜けようが自由だ。  
 なんなら橋を使わず飛んでいっても構わないぞ」  
「……くっ」  
 
にやりといやらしく口角を上げる男に、私は思わず唇を噛み締める。  
安い挑発だと頭ではわかっていても、そうそう感情を抑えきれるわけがない。  
そんな私を見て男はますます笑みを深めたのだった。  
 
事の発端は数ヶ月前にさかのぼる。  
私たちの世界は突如として異世界からの侵略を受けることとなってしまった。  
私たちの世界には存在しない”魔法”を操る侵略者に通常兵器はあっさりと駆逐され、一方的に蹂躙されていた人類最後の希望が魔法少女と呼ばれる存在。  
世界が繋がったことで流れ込んできた魔力に偶然適性を持っていた人間だけが、侵略者に対抗しうる力を持っていたのだ。  
 
私が魔法少女として覚醒したのは1ヶ月ほど前。  
それから何度かの勝利を経て調子に乗った私は、3日前の戦いで逃げる敵を深追いしてしまった。  
その逃走が罠のある場所まで私をおびき出す作戦だったことに気づいたのは、不意打ちで電撃を受け薄れ行く意識の中。  
そして次に気づいたとき、私は敗北した魔法少女がどうなっていたのかを知らされた。  
 
囚われた魔法少女は殺されることはなく、連れ去られた異世界で敵の娯楽に供されていたのだ。  
衣服はすべて剥ぎ取られ、身に着けているのは魔法を封じる首輪だけ。  
その状態で奴らがアトラクションと呼ぶ様々なステージに挑戦させられ、その姿を晒し者にされる。  
すべてのステージをクリアすれば解放されると説明されたが、そんなものがどれだけ信用できるのものか。  
それでも今の私にはそのわずかな可能性にかけるしかなかった。  
 
「わかっているとは思うが、万が一落ちても命を落としたりしないよう配慮はされているから安心するがいい。  
 無論、それなりのペナルティはあるがね。  
 それでは健闘を祈るよ」  
 
頭の後ろしっかりと布を結び、完全に視界が閉ざされたことを確認すると、男が部屋から去っていく気配があった。  
そうすると広い部屋に1人残され静寂が訪れる。  
とはいえ、誰もいないといってもこの状況は魔法で数え切れない相手に見られているのだ。  
首輪と目隠しだけの姿を無数の男達に見られていると思うと死にたいくらいの羞恥に襲われる。  
それでも、諦めるわけにはいかない。  
帰りを待ってくれている仲間たちの姿を思い浮かべて自分を鼓舞し、私は挑戦を開始した。  
 
首輪さえなければ、それこそ一飛びで終わらせられる。  
だがそれができない今、橋を渡っていくしかなかった。  
しゃがみ込み、手をぺたぺたとつきながらゆっくり前へと進む。  
ほぼ全裸に近い格好で、よちよちと四つんばいで歩くさまは傍から見たら随分とみっともないものだろう。  
どこかから嘲笑っているはずの男たちへの怒りを原動力に換えゆっくりと進んでいくと、やがて固い床の感覚が途切れた。  
暗闇の世界でその先を手で探ると、不意に手のひらに床とは違うものが触れた。  
 
「――ッ!?」  
 
ぶよぶよと変な弾力のある感触。  
しかも妙に熱い。  
感触はともかく温度が予想外だったせいで思わず手を引いてしまったが、改めて触れてみると確かに熱いが火傷するとかそれほどではない。  
一瞬焼けた鉄板の上で猫を躍らせるという悪趣味な行為が思い浮かんだりもしたが、すくなくともそういった趣向ではないらしかった。  
 
ゆっくりと四つんばいの姿勢のまま床から柱の上に移動する。  
柱はそれなりの太さがあるとはいえ、視覚を奪われて平衡感覚があいまいになっているのだ。  
一瞬の油断が命取りになる。  
案内役の男は落ちても死なないとはいっていたが、落ちれば何をされるかわかったものではなかった。  
 
「――っと……」  
 
慎重に慎重を重ねて、どれくらい進んだ頃だろうか。  
目が見えないせいで距離感も失われていたが、しばらく進むと手のひらの感触が不意に変化した。  
突然訪れたぬるりとした感触に、思わず手を滑らせそうになる。  
一旦進行を止めて手で探ってみると、途中から柱にぬるぬるとした液体が塗られているようだ。  
その液体が発しているのか、甘いような生臭いような臭いが不意に鼻をついた。  
 
「さすがにこのままで終わらないとは思っていたが、さて、どうする?」  
 
今までの状態なら慎重に進めばそれほど問題なかったが、ここから先はそうもいきそうにない。  
 
「仕方がないか……」  
 
しばらく悩みはしたものの、私は意を決して柱の上に腰を下ろした。  
そのまま両足で柱を挟み込むような体勢で進行を再開させる。  
本当は完全に抱きつくようにした方が安定はするのだろうが、極力柱と触れ合う面積を少なくしたかったのだ。  
この体勢でもこれまでは手のひらと足裏だけだった不気味な感触が、内股全体に触れていて気持ち悪いのだがまだ我慢できないほどじゃない。  
 
「くっ……んっ……ふ、う……」  
 
柱をカニバサミ状態でずりずりと進んでいくと、常に股間と内股が柱と擦れる。  
ぬるぬるとした液体のせいで擦れて痛いというわけではないが、その代わり――、  
 
「気持ち、悪い……」  
 
触れ合った場所から嫌な熱がじわじわと染み込んでくるようだ。  
 
「は、……あ、はぁ……」  
 
いつしか下半身からの熱が全身にまわり、吐く息まで熱を帯びて全身を汗の雫が伝い落ちていく。  
柱が熱を持っているとはいえ、そこまで熱いというわけでもないのに明らかに何かがおかしかった。  
 
「んひぃっ!?」  
 
それまで同様に腰をずりっと前に引き寄せた瞬間、それまでとは違う感覚に全身がビクンと跳ねてしまう。  
 
「な、なにが……あぅん!? こ、これ……」  
 
もう一度腰を進めてみると、またしても股間から電気を流されたような強烈な感覚で一瞬頭の中が白くなる。  
意識が朦朧とした瞬間上半身がぐらリと揺れたが、とっさに柱を挟む足に力を込めてかろうじて落下を防ぐ。  
ただし――、  
 
「ひぁぁあ!?」  
 
それは股間を強く柱に押し付けることになってしまったのだった。  
 
「はあ、ぁ、……あ、あ、はぁ」  
 
進行を完全に止め、肩で息をつく。  
ひどく喉が渇き、唾液を飲み込もうとするもそれは妙に粘っこくて喉にへばりつくようだった。  
 
『随分と苦戦しているようだね』  
「ひぃ!?」  
 
体の異変で頭がいっぱいの所で、突然頭の中で響いた案内役の男の声にみっともないほど派手に驚いてしまう。  
 
『やれやれ、まだ十分の一も進んでいないというのに、その有様とは先が思いやられるね』  
「じゅ、じゅうぶん、いち……?」  
 
軽い調子で言われたその一言に私の心がズンと重くなる。  
私を動揺させるための嘘かもしれないが、もし本当なら残りはまだ十倍以上もあるのだ。  
 
『まあ、仕方がないかもしれないな。  
 そろそろ想像もついているとは思うが、その液体は強力な媚薬になっていてね。  
 そんなものに自分から股間を擦り付けるとは、世界を守る魔法少女は随分と好き者のようだ』  
「……くっ」  
 
確かにさすがにここまで来れば自分が感じているものが性感だというのは想像がついていた。  
だが、このぬめりのある状態を四つんばいで進むのはそれこそ自殺行為だ。  
それをわかった上でこの男は言っているというのが私をより一層苛立たせた。  
 
「ん……ぅ……く……」  
 
だから私は頭の中に響く男の声を無視するように進行を再開させる。  
変な声を出してしまわないよう唇を強く噛み締めながら。  
 
「く、あ、悪趣味な……」  
 
それからどれくらい進んだだろうか。  
頭に響く声が再び沈黙してしばらくした頃、またしても柱の表面に変化が生まれたことを手のひらが感じ取った。  
それまでは単純な円柱形だった柱の頂点が、わずかながらに盛り上がっていたのだ。  
しかもその山は頂点が波打っていて、それが何を狙っているかは明白だった。  
できるなら避けて進みたいが、中央にあるこの山を避けようと腰を左右どちらかに寄せるとバランスを取るのが難しくなる。  
媚薬効果があるという液体はなくなるどころか、むしろ進めば進むほど量を増す傾向にある。  
どうやら塗られているというより柱から滲み出しているようだ。  
 
「ええぃ!」  
 
しばらくの躊躇の後、私は思い切って腰を進めた。  
止まっていても何も進展しないどころか、ますます媚薬に体を侵されていくだけなのだから。  
 
「んひぃぃ!?」  
 
それでも最初の山が股間を通る際にはあまりの刺激に動きを止めてしまう。  
媚薬のせいで固くなってしまったクリトリスが山とぶつかりごりっと捻り潰される激感。  
加えてその直後に山が浅くではあるが膣口をこじ開けて潜り込んでくるのだ。  
さんざん媚薬粘液を擦り込まれた急所には、その浅さでも十分すぎた。  
 
「こんなの、でぇ……あひぃ、ぃぃいいっ!」  
 
全身を貫く快感に歯を食いしばって耐えながら、腰をクイクイと前へと引き寄せる。  
その度に連続する山にクリトリスを潰され、膣内を掘られ、挙句の果てにお尻の穴までなでられる。  
媚薬のせいだろうか、あろうことか肛門をグイっと押し上げられる感覚にすら得も言われぬ心地よさを感じてしまう。  
 
「ひっぐぅぅぅぅ!?」  
 
どれくらい山を越えた頃だろうか。  
快感のあまり白く霞む頭で、それでも懸命に進んでいた私の股間を、突然それまでとはさらに1段違う快感に貫いた。  
 
「あひぃ、ひぐぃ、な、なにぃ、なになになにぃ!?」  
 
あまりの刺激に腰を止めているのに快感が止まらない。  
それまでは少なくとも進むのを止めれば、少しは息もつけたのに。  
しかもこの変化は完全な不意打ちだった。  
媚薬粘液の時も、山のときも、一応は手のひらで変化を予め知ることができた分まだマシだったのだ。  
 
「あぐっ、あああ、、あっくぅ!」  
 
ビン、ビン、ビン! とリズミカルに背筋が伸びる。  
自分が何をされているのかもわからないまま私は翻弄されていた。  
 
「い、いったい、なにされてぇ!? あ、ひぃ、いっくぅぅぅぅぅ!!」  
 
ここまでたまりにたまっていた快感が爆発的に膨れ上がっていく。  
頭の中が一片の隙間もなく気持ちよさに支配されて――、  
 
「いやらぁ、いやいやあいあいあーー!」  
 
必死に思い浮かべようとする仲間たちの顔が押し流されていく。  
 
「あ、あ、あ、ああああああああああああ!!」  
 
そして私は、憎むべき侵略者たちがどこかから見ているだろう状態で盛大に絶頂を迎えてしまったのだった。  
全身がビクンビクンと痙攣し、股間の辺りの液感が一気に強くなる。  
媚薬粘液の生臭さの中にほのかに漂うアンモニア臭に、自分が失禁したのだと気づいたのは、  
全身が脱力して柱に寄りかかるように倒れこんでしまってからだった。  
体の前面全体で感じる粘液の感触。  
敵にイカされた挙句失禁までしてしまったという羞恥。  
まだ全身に強く残る絶頂の余韻。  
すべてがごちゃ混ぜになって頭がうまく働かない。  
それでもせめて柱から落ちないよう手足を絡めてしがみつきながら、私はしばらく動けずにいた。  
股間を責め立てていた何かは現時点では止まっている。  
それだけがせめてもの救いだった。  
 
 

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