まあ、でも、良かったんじゃないかって思う時がある。  
 セックスというのは肌と肌が触れ合うこと、それは汗とかが混じりあうってことで、俺はそういうのに抵抗というか、嫌悪感に近いものがある。  
 単純に未経験だから妄想が膨らんで嫌悪感も膨れているだけかもしれないけど、それでも今さら構築された価値観を覆すには色々と切っ掛けが必要っぽくて、少なくとも今はクラスメイトが口々に漏らすようにセックスをしたいとは思わない。  
 だから良かったのだろう、きっと。  
 まあ、向こうがどう思っているかは知らないけど。  
 
「あ」  
 そんな間抜けな声を出したのは両者同時で、うわ被った、とか反射的に思ったけど、そういう場合でもなかった。  
 夕日の差し込む教室は茜色で、空気の感じを微妙に変えている。いつもならそこにあるだけの机や椅子も、何か違う存在感を見せて、だからこそ平易ならば驚くことに対して落ち着きを見せているのかもしれなかった。  
「な、何してるのよっ?」  
 我がクラスの誇る、眼鏡をかけた清楚美人生徒会長、そんな阿呆な肩書きがそのまま当てはまっておかしくない彼女が椅子を揺らして立ち上がり、細めた目で俺を見据えた。  
「・・・・あー、気紛れ・・ってか、暇潰しに歩き回ってただけだが・・」  
 気まずさに後頭部を掻きながら答えると、彼女は短く息を吐いて不快感を示し、机の上に置いている鞄を手に取る。  
「・・今のこと、誰かに言う?」  
「・・・・・・さあ、どうだろ・・・・」  
 それは正直な気持ちだった。  
 教室を覗けば清楚美人生徒会長が鞄に頭を載せ、スカートの中をまさぐっていれば、嘘を吐く余裕などありはしない。  
 彼女は「・・そう」とだけ呟いて歩き出し、俺を通り過ぎて教室を出て行く。  
 俺は彼女が残した髪から香った匂いだけを覚えて、ぼんやりと家に帰った。てっきりネタにして自慰でもするかと思ったがそうはならず、むしろ醒めた気分で眠りへと落ちることができた。  
 
 彼女は、見ていて清々しいくらいに活発的だ。  
 それは声が大きいとか行動が早いとかいうことではなくて、やるべきこと、やらなければならないこと、それらを的確に判断して事務的な作業、淡白な姿勢で取り掛かって終わらせることができる、という意味だ。  
 彼女自身がそんな態度をとるので他者は従うか傍観するかしかなく、その能力の素晴らしさに気付いた担任が推薦した結果、彼女は望まず生徒会長になった。  
 望んでいない、だけど彼女は不満を漏らさず仕事をこなし、元来の凛とした面立ちもあって人気は上昇し、いつしか誰もが認める万能の生徒会長となった。  
 そんな彼女から届いた初めての手紙の内容が、以下のものだ。  
 
『六時、**通りの**ホテル前に』  
 
 素っ気無い、ただし内容から事情を察すのは容易な、いかにも彼女らしい手紙だった。  
 朝、登校して机の中に入れられていた手紙を読んだ俺は、彼女の考えを知り、朝からずっと彼女を眺めた。  
 どんな時も最低限の緊張感を失わない顔は強さを窺わせて、行動する際の背筋の伸びや腕の振り方には洗練された品の良さがあった。休み時間の最中、友人に話しかけられて表情を綻ばせている顔や、眼鏡を外してレンズを拭いている時の表情には、内にある人間らしさを感じさせた。  
 そして放課後、暇潰しに学校内をうろついて、五時過ぎに校門を出て指定された場所に着けば、私服姿の彼女が立っていた。  
「・・・・何で制服で来るのよ」  
 呆れて溜息を吐く彼女に、俺は肩を竦めた。  
 彼女は膝丈のスカートにTシャツ、その上にジャケットを羽織っていて、制服姿の時とは違う、生徒会長としての凛々しさとは違う美しさを見せている。  
「・・お金、私が払うから」  
「割り勘でもいいけど」  
「いい、私が払う」  
 そう言って歩き出した彼女に並んで、人通りの少ないホテルの入り口に向かい、立ち止まることもなく入っていく。  
 ホテルの中は想像よりも明るく、料金を払うと思しきカウンターは想像の通り相手の顔を見ることができないようになっていた。そんな感じに周囲を窺う俺を置いて、彼女はてきぱきと財布から紙幣を取り出してカウンターに置き、キーを受け取ってエレベーターに向かう。  
 
 支払われた料金と壁にかけられている料金表を比べれば、使用時間を割り出すことができた。  
 静かな唸り声を上げる個室の中で彼女の横顔を見れば、彼女は凛とした眼差しを正面に向けている。  
「・・会長、ここ使ったことあるの?」  
「・・・・あるわけないでしょ」  
 短いやり取りは扉が左右に開くことで終わって、やはり明るい廊下を歩いてキーの示す部屋番号の扉の前で止まる。  
 彼女が鍵を開けて扉を開けば、普通のホテルと何ら変わらないように見える空間が目の前に広がった。  
 先を行く彼女に続いて足を踏み入れて、部屋を見渡す。ベッドが丸く、シーツがけばけばしいくらい赤いのを除けば、普通のホテルの一室にしか見えない。  
「いい部屋だな」  
 何気なく言えば、彼女はジャケットを脱ぎながら「そうね」と答えた。  
 ジャケットは椅子にかけられ、次いでTシャツを脱ごうとして手を裾にかけたところで、俺は「あ、待った」と言う。  
「・・・・なに?」  
 彼女は腕を交差させて裾を掴んだ体勢で止まり、訝しげな目で俺を見ている。  
「別に、服は着ててもいいよ」  
「・・・・・・・・?」  
 俺の言葉に彼女は首を傾げ、それから意識的かは分からないが半歩だけ身を引いた。  
「・・え、そういう趣味、なの?」  
 眼鏡の奥の瞳が気持ち悪いものでも見るような淡さを含んだので、俺は取り敢えず首を左右に振って否定する。  
「え、でも、服が・・汚れるのは、嫌だわ」  
「あー、別に汚れないよ。セックスはしないから」  
 
 そう言うと、彼女は生徒会長としての表情を捨て、眼鏡を拭いている時のような、人間味のある怪訝な顔をした。  
「変かもしれないけど、セックスって嫌いなんだ。いや、経験があるわけじゃないんだが、嫌悪感があって」  
「じゃあ・・・・お金?」  
 彼女の顔が再び生徒会長のものに戻るが、俺はそれにも首を振って答え、溜息を吐きながらベッドに腰を下ろす。ベッドは驚くほど弾力性があって、背後に倒れそうになった。  
「・・・・じゃあ、どうするの?」  
「どうしよう」  
 それが問題だった。  
 あんな場面を見られた彼女が、俺の一挙一動で不安になるのは分かったし、その不安を晴らすために俺とセックスする、セックスをさせるということで不安を晴らそうという考えも分かった。  
 でも問題は、俺自身がセックスに生理的な嫌悪感を覚えていること、だからといって金に執着があるわけでもなければ、彼女に対して被虐的もしくは恋慕に似た感情も抱いていないということだった。  
「まあ、俺は多分、言わないから、ホテル代だけで終わりってことでいいけど・・・・」  
 通らない道理だろうな、と思ってはいたが、案の定、彼女は会長としての顔で首を左右に緩やかに振った。  
「・・駄目よ、その・・安心、できないわ」  
 俺は溜息を吐いて気晴らしに後頭部を掻く。そしてぼやくように言う。  
「でもさ、例えば・・・・例えば俺と会長がセックスして、会長はそれで俺も共犯だ、俺の口は封じた、と思えるとして、俺がセックス大好きで、セックスのことしか頭にない奴だったとして、エロマンガを啓蒙していたとして、学校の教室やらトイレ、更には会長の家とかでもセックスしたいって言い出して、させないと全部ばらすって脅しをかけたりしたらどうするの?」  
 実際、俺じゃない誰かなら有り得ない展開ではないと思える。何しろ会長とセックスできるのだ。  
 そんな俺の言葉を吟味するように黙っていた彼女は、短く息を吐き、細めた双眸で俺を見据えた。  
「そういう問題じゃないのよ・・分からない? まず目の前の不安をどうにかするために、一つ手を打ってるの。それが駄目で、例えばあなたの言うようなことになったら・・・・その時は、また考えるわ」  
「・・・・うーん、意外と場当たり主義だな・・」  
 知る由もなかった彼女の一面に面食らいながらも、溜息を吐いて妥協案を練る。  
 
「・・どっちにしろ、俺はセックスはしたくない。好きな相手がいて、その相手が求めてるんならともかく・・そうでもない相手と肌を合わせることには、気持ち悪さしかないし・・」  
「・・・・・・気持ち悪い」  
 俺の発言に彼女が不服というか不満そうな顔をしたが、別に彼女のことが気持ち悪いと言ってるわけじゃない。  
「あー・・・・あ、なら、胸、触らせてよ」  
「・・・・・・っ」  
 漸く導き出した妥協案は些か突発的だったのか、彼女は面食らった表情をして眉の形を可愛らしく変えた。  
「あー・・駄目?」  
 お互いに納得するためには、俺は何かを彼女に強要しなければならない、彼女は俺に何かを施さなければならない、その理論の末に導き出した答えだったのだが・・・・と案ずる俺の目の前に、彼女が寄ってくる。  
「・・・・・・いいわ」  
 俺は立ち上がり、息を殺すような彼女の態度に罪悪感を覚えながらも、彼女の胸に手を伸ばす。  
 Tシャツの膨らみは些細なもので、その膨らみに手を添えると、硬い感触があった。少し驚いて指に力を入れれば、やはり硬めの感触が指に広がる。  
「・・・・想像してたより硬いね」  
 見つめ合ったままも気まずいので言ってみると、彼女は目を逸らして呟く。  
「・・ブラ、してるし・・」  
「あ、なるほど・・・・」  
 こういう微妙な空気は苦手なんだけどな、と思っていると彼女は短く溜息を吐いて、俺の手をやんわりと払う。  
「・・・・ちょっと待って」  
 そう言ってTシャツの裾に手を入れ、その手を背中に回し、取り出すとその手にはミルク色のブラジャーがあった。  
「・・ん」  
 どうやら促されているらしいと知り、再び手を伸ばして彼女のTシャツの上から胸に触れれば、柔らかい、小さな膨らみが手に感じられた。  
 押せば僅かな膨らみは凹み、指先に力を入れれば小さな膨らみにも拘わらず揉むことができた。  
「・・はー、柔らかい・・」  
 
 あの会長の胸を揉んでいる自分の姿を客観的に想像すると、清純な花を無造作に踏み潰しているような罪悪感に襲われたけど、それこそが彼女の求めるものなのだと言い聞かせて続ける。  
 そうして初めての感触を堪能していると、体が良からぬ欲望に反応して、まあ淡白に言えば勃起した。  
「・・・・あーっと・・」  
 ズボンを押す痛みに声を上げて彼女に申し訳なさそうな表情を見せる。  
「・・・・・・・・?」  
 彼女は理解できなかったみたいだが、俺の視線に促されて目線を下げて、俺の膨らんでいるズボンを見て理解を得たようだった。  
「・・・・・・するの?」  
 何か危険を孕んだ彼女の言葉に、俺は首を振って答える。  
「・・しないよ、そう簡単に消える抵抗感でもないし・・・・あー、でも・・・・・・」  
「・・・・でも?」  
「・・でも、手とか口とか、まあ、それぐらいの接触なら、抵抗感もないかな、とか・・・・」  
 ほとんど思いつきの発言は可能を期待したものではなかったけど、彼女はしばし黙り、それからおもむろに俺の胸を押してベッドに腰を下ろさせると、跪いて俺の足の間に体を入れた。  
 まさか、と思いながらも抵抗する意欲を失って彼女の顔を見ていると、彼女はいつもの面持ちでズボンに手を伸ばし、機械的な動作でフックを外してチャックを下ろす。  
「・・・・ああっと、会長、いいの?」  
 思わず聞くが、彼女は俺の膨らんでいるトランクスを見つめたまま頷いて答える。  
「・・・・・・そう」  
 ならば、俺に言うことはない。  
 そもそもこれは、この行為は、彼女が安心を勝ち取るための行いに過ぎない。そこに俺の意思は微かな影響力しかない。俺が望めば恐らく彼女は望んだとおりに行動してくれるだろうけど、それは彼女が望むからでもあり、そうなると俺の意思なんてあってもなくても、ほぼ変わらないとも思える。  
 と、下らない思考で意識を逸らす中、彼女はトランクスの裾から手を入れて、俺の硬くなっているものに触れた。  
 指先が棒の部分に触れただけで冷ややかな感触と触れられている実感が快感として生温く体を走ったけど、俺は彼女の事務的行動を壊さぬよう、敢えて感覚を遮断して反応を殺す。  
 彼女は片方の手でトランクスを脇にずらし、棒を指先でつまんで外に引っ張り出して、露になった俺にとっては見慣れたものを直視した。  
 
「・・・・・・・・・・」  
 彼女は、まるで異世界の産物でも眺めるような瞳で、俺のものを見つめている。  
 その時間が数秒、しかし恐らく彼女にしてみれば長い時間だったのか、はっと目を瞬かせると上目遣いに俺を見て、難しい表情を見せた。  
「・・・・変な、臭いがするのね・・」  
 その言葉は一つの疑問に直結する。  
「・・会長、経験、あるの?」  
 およそ漠然と浮かび上がった疑問に、まさかと思ったが、彼女は息を詰まらせてから首を左右に振った。  
「え、会長、処女?」  
 思わず漏れた言葉に彼女の眉が顰められる。  
「じゃなくて、えと、したことないの?」  
「・・・・・・ええ」  
 言い直した俺の言葉に彼女は頷き、その言葉は俺に若干の驚きを与えたけど、彼女にしてみれば些細なことらしく、俺のものを指先で握って先端を見つめている。  
「・・・・どうすればいいの?」  
 表情と言葉から推測するに中断するつもりはないらしい。  
 俺は小さく溜息を吐き、まあ性欲の発散を手伝ってくれるのならいいや、という軽い気持ちを心掛けて彼女の頭の頂、黒髪を見つめて言う。  
「握って、上下に扱くとか・・」  
「・・・・・・うん」  
 彼女は棒状のそれを手の平で包み込み、微妙な力加減で皮を上下に扱き出す。それは快感とは程遠く、子供が悪戯で行っているようなむず痒さしか与えないが、黙って彼女の長い睫毛を眺める。  
「・・・・あんまり、みたいね」  
 不意に彼女が上目遣いで俺を見て言った。  
 俺が困った顔で肩を竦めると、彼女は難しい表情をして手を止め、心持ち顔を上げて俺を見つめる。  
 
「・・・・もっと、何かないの?」  
「ええっと・・・・口、つけられる?」  
「・・・・・・・・・・」  
 彼女は目の前のものに視線を戻し、それを睨むようにして見つめてから、何も答えずゆっくりと先端に唇を寄せる。  
 柔らかい唇が触れると、初めての感触にあれが反応し、勢いよく反り返って彼女を驚かせた。  
「・・あー、ごめん。手で根元を固定してもらえると・・・・」  
 無言の圧力に負けて言い訳っぽく言うと、彼女は納得したのか、白く小さな手を毛の中に入れ、片手でしっかりと根元を押さえた。  
 それから再び唇を先端に触れさせる。薄く開いた唇によって柔らかく挟まれた先端は、彼女の口の中の熱い息がかかり、棒状の部分には彼女の穏やかな鼻息がかかった。  
「・・あーっと、唇をつけたまま動かすとか・・」  
 彼女の目が指示を仰ぐように俺を見たので、そう答える。  
 その言葉を遵守するように彼女は唇を先端から棒に移動させ、更に下降させて自身の手、顔に毛が触れるほどの根元まで唇を移動させた。  
 彼女の唇は呼吸するように動いていて、僅かに挟まれた皮の部分は彼女の唇の移動によって生温い刺激を与えられ、もどかしい快楽を生んだ。  
 そうして彼女は根元まで唇を滑らせると、今度は裏筋に唇をつけて、筋をなぞるようにして唇を先端に戻す。もどかしい快楽が広がっていく中、不意に震えた俺のものが彼女の眼鏡を押し上げた。  
「・・・・・・・・・・」  
 彼女は唇を離し、斜めになっている眼鏡の位置を直してから、俺のものの先端に唇を寄せる。  
「・・・・会長、眼鏡、外したら?」  
「・・・・・・いい」  
「・・あー、そう・・」  
 ならば、俺に言うことはない。  
「・・・・他、どうすればいいの・・?」  
「・・・・あー、唾液、溜めて銜えるとか・・・・・・」  
「・・・・・・・・・・」  
 
 無理があるか、とも思ったが彼女は唇を離し、舌を覗かせて自身の唇を濡らしてから、頬をすぼませて唾の音を小さく鳴らした。  
 そしてすっかり唾が溜まったのか、彼女が先端に唇を寄せると、先程までとは違うぬめった感触があり、俺のものは頭を進める彼女の口内に易々と呑まれていった。  
 彼女の口の中は唾液に溢れていて、それを示すように彼女の唇の端からは唾液がこぼれた。  
「・・あーっと、舌、動かしたり・・」  
「・・・・・・・・・・」  
 俺の言葉に従って彼女の舌が蠢く。  
 先端にべたりと張り付くように触れたかと思えば、彼女の舌は唾液の中を泳ぎ、尖らせた先端で俺の先端の割れ目をなぞった。まるで鋭さのある快感が刺さるような、そんな気持ちよさに酔いながら、彼女の黒く滑らかな髪を撫でる。  
 彼女はそれについて咎めることもなく、舌を動かす。  
 舌は雁をなぞるように、先端をなぞるように、かと思えば広がられた表面で裏筋を下から上に舐めるように、唾液の音を頻繁に鳴らしながら蠢いた。  
「・・・・あー、出そうになったら言うから、離れて・・」  
 声を出すことはできなかったが、彼女は上唇を棒に押し付けるようにして頷いてくれた。  
 これで快楽の放出を危惧することもなくなったと安堵して、彼女の行為を敏感に感じ取る。最中、彼女の髪を撫でていた手で朱に染まっている耳を撫でてみる。彼女の耳は柔らかく、少し熱かったが、触れているだけで心地よかった。  
 次第に慣れてきたのか、彼女の舌の動きは滑らかになり、頭を小さく動かして唾液のこぼれる唇で皮を扱き、根元の手でも余った皮を扱き、俺のものを刺激した。  
 彼女が頭を動かすたびに唾液が派手な音を響かせたが、彼女は頓着せず俺を射精に導いている。  
 段々と射精の予感が近付いて、扱かれるたび、舐められるたびに背筋が寒くなる感覚が走って、そろそろ堪えることができないところまで来た時、俺は彼女の髪を撫でるように叩いた。  
 
「・・会長、そろそろ・・」  
 彼女は銜えたまま頷き、口に含んだ唾液をこぼさないよう、唇をすぼめて頭を引く。その際に皮が押し上げられ、それでも根元の手は皮を扱いていて、射精の近いそれに強烈な快感が走る。  
「・・・・はぁ、会長、うまいですよ・・って・・」  
 感心の声も途中で止まった。  
 彼女は俺のそれと唇を唾液の糸で繋いだ状態で、目の前のそれを手で扱きながら、訝しげな目で俺を見上げる。  
「・・ちょ、会長、もうちょっと離れないとっ・・・・」  
「・・・・・・?」  
 口の中の唾のせいで喋れないのか、呆然としている彼女の頭をどかせようとしたが、遅かった。  
 俺のあれは彼女の手の扱きに促され、激しく震えて、先端から精液を吐き出した。それは経験上から思い出すに最も勢いよく飛び、彼女の顔、眼鏡や鼻にべったりと張り付く。  
「・・・・・・・・・・」  
 さすがに手を止めた彼女の呆然とした顔を見ながら、俺の射精は終わった。彼女の眼鏡のレンズから白濁とした粘り気のあるものが垂れ、床に落ちる。鼻にかかったものは緩やかに流れて唇を濡らした。  
「・・・・あー、ごめん・・・・・・」  
 溜まったものを吐き出した解放感に満たされる俺の顔を見て、彼女が眉を顰める。  
 しかし何も言わずに立ち上がり、洗面所に消えると水の流れる音が聞こえ、姿を見せた時には凛々しい顔から俺の精液は消えていた。  
「・・・・・・あー、ごめん」  
 厳しい表情の彼女に再び謝り、頭を下げる。  
「・・・・別にいいわ。私も悪いんだし・・」  
 
 彼女はそう言うと、俺の足の間に跪き、ティッシュを取って俺の濡れたものを拭う。もはや触れることに抵抗感はないのか、彼女は会長らしい事務的な仕草で処理を終えた。  
 ズボンのチャックを上げてフックまで止めてくれて、彼女が立ち上がる。  
「・・気持ち、よかった?」  
 淡白な物言いに、俺は二度、頷く。  
「・・・・そう」  
「あー、それで、物は相談なんだけど・・・・」  
「? なに」  
 眉を八の字にした彼女に、俺は苦笑いのような、困った顔のような、所謂ところの我がままを言う時の顔を見せる。  
「・・まあ、セックスはしなかったわけだし、これからもするつもりはないから、これからも何度か・・・・とか、駄目?」  
 俺の提案に彼女は溜息を吐き、視線を逸らして答えた。  
「・・・・あなたの言葉、私にしてみれば脅迫でしかないんだけど・・・・・・まあ、いいわ。別に、嫌ってほどじゃないし」  
「・・・・・・あー、そう?」  
 後頭部を撫でながら、彼女の揺れているスカートの裾を持ち上げる。  
「! な、なにしてるのっ?」  
 一瞬だけ覗いた白色の下着を隠すように、彼女は慌てて身を引き、スカートを押さえつけた。  
 その顔は真っ赤で、仰天している表情は可愛らしいものがある。  
「・・・・いや、何となく」  
 俺が誤魔化すように笑うと、彼女は会長としての顔を捨てて大仰に溜息を吐き、俺の額に軽い拳骨をぶつけた。  
 
 終わり。  
 

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