連休だからって、特に何をするわけでもない。
相変わらず外はよく晴れて、相変わらず俺は孤独だ。
ということは必然的に俺にとっての休日とは暇という名の牢獄にとらわれる禁錮刑に他ならない。
ああ、何故に主は創世の最後に休まれたのか――――
なんて社会人の皆さんが聞いたらぶっ飛ばされそうな事を脳内で掻き回しながら、俺は勝手に部屋に入って掃除機をかけ始めた母親に悪態をつくと外に飛び出した。
くそ、家にも俺の居場所はないのか。
そんな哀れ極まる家なき子・俺が次に求めた安住の地は…意外ッ! それは図書館ッ!
…いや、本当に。
ここは空調もきいてるし、寝てても怒られないし、…なにより俺を知ってる奴がいない。
休日の度に足しげく図書館通いなんていう殊勝な奴が俺の知り合いであるはずはないからな。
そんな感じで倦怠の鎖を引き摺りながら図書館へ向かった俺であったが――――
結論から言うと、甘かった。
館内は受験勉強やら年寄りやらがひしめいており、もちろん席なんかまるで空いちゃいない。
余計に重くなった足を感じながら、失意の俺はある一角を目指した。
≪ヤングアダルト≫
図書館の一番奥まったところにあるこのコーナーは、ヌルヲタの俺が唯一楽しめる場所だ。
なんてったって、ラノベの充実振りが尋常じゃない。電○からコバ○トあたりまで一通り揃ってやがる。
こんなとこに金かけてていいのか、なんちゃって政令指定都市。財政難なのに。
それはともかく、早速市民の権利として読む本を物色する。何がいいだろうか。
…くそっ、半○の月を一巻だけ借りた奴誰だ。先生怒らないから手を上げなさい。
そんな風に脳内一人芝居を演じながら本棚の列を右へ右へと動いていく。端まで行った所で裏側に回り込もうとして――――
「きゃっ」
あ。なんかぶつかったっぽい。
そんなふうにボーっとしてる俺の前で小柄な人影が、抱えていた本をばら撒きながらよろめいて、後ろに倒れそうになる。
「!? 危ねっ」
慌てて相手に手を伸ばす。
某米空軍人のソニックブームよろしく神速で繰り出された俺の両腕は、予想以上に小さいその体をがっちりとホールドした。おまえにもかぞくがいるだろう。
ふー、びっくりした。さすがにわざわざ図書館まで出てきて傷害沙汰ってのは御免だ。安堵感が体の奥から滲み出してくる。
「大丈夫でした? どこか怪我は…」
視線を下に落として、言葉を失う。
最初に見えたのは頭。俺の鳩尾の少し上くらいに押し付けるようにして抱いている。ほんとに小さい。どうやら子供のようだ。
…いや、そこはどうでもいいな。さて本日最初のクエスチョンは。
この子の頭を抱きかかえているのは俺の左手。では右手は一体どこにあるでしょう? 前門正解した方にはいつも旅の未来系―――――
…ええい、逃避するな俺の心。そうさ、認めるよ。でもこれは偶然だ。神に誓って。
俺の右手は、相手の「女の子」の穿いていたベージュのバルーンスカート、その上から小さいおしりをわしづかみにしていたのだった。
その後は気まずかった。
慌てて体を離して後ずさる俺を一睨みした後、その女の子は床に散らばった本を黙々と拾い集め始めた。
「あ、て、手伝うよ」
なんとか立ち直った俺は一番遠くまで飛んだ本を拾って駆け寄った。うわ、なんか難しそうな本。
「…ありがとうございます」
低い声でぼそっとつぶやくとその子は怒った顔のまま身を翻して、去っていった。
あまりの冷淡な態度に、俺は再び硬直するしかなかった。
「…なんだありゃ」
いくらなんでもあの態度はないだろうよ。いや確かに痴漢まがいのことをした俺も悪いんだけどさ。事故だったってなんでわからないかな?
なんとなく辺りを見回してみる。よかった、誰もいない。さすがに今のを見られてたら気まずいからな。
胸をなでおろした俺の視界の片隅に何かが写った。なんだ?
近寄ってみると、それはチェーンつきのパスケースだった。