「ただいま」
きぃ、というアパートの扉特有の甲高い開閉音を響かせ、男が薄暗い部屋に呼びかけた。
電気が消えたままのリビングは、主の潔癖を体現しているかのように殺風景な清潔さと静寂を保っている。
呼びかけに答える声がないのを異に介す風もなく、男は部屋の中央に置かれたソファを覗きこみ頬笑んだ。
一人暮らしには若干広すぎるリビングに据えられた大きな革張りのソファ。そこには一人の少女が腰かけていたのだ。
ちょこんと可愛らしく座らされているその少女は、しかし男の声に気付いた風もなく虚ろな笑みを浮かべたままだ。
両膝に手を乗せ小首をかしげたまま、大きめの目は男のほうを見向きもしない。
よく見てみると、その少女は先ほどから指先一本動かしている様子がなかった。
しかしそんな少女の様子をさして気にせず、男はまるで恋人を慈しむかのように髪を指で梳いた。
「相変わらず可愛いな、愛香は」
ぷっくりとした桜色の唇を指でなぞられ、頬に口づけを落とされても愛香と呼ばれたその少女はピクリとも動かない。
ピンクを基調としたロリータ趣味の服を着せられ、彼女は本物のお人形のようにソファに身を預けていた。
くりんとしたカールをツインテールに結いあげ、大きなリボンがあしらわれたヘッドドレスを付けている彼女はまるでお姫様のようだ。
胸元をきゅっとリボンで絞りあげたデザインのその服は、愛香の年相応の膨らみを一層強調しているように見える。
その膨らみに手を伸ばすと、服の上からも柔らかい感触が分かった。
「時間を止めていなかったら、きっとまた張り倒されてるんだろうな」
今でも殴られた所が腫れてるんだぜ。愛香の胸を執拗に揉みしだきながら、男はそう言って苦笑した。
元々は気の強い性格だったのだろう、しかし今ではそんなことも忘れたかのように彼女は男に触られながら微笑んでいる。
空手部の主将を務め男勝りな勝気さを持つ彼女も、今では可憐な人形として男のなすがままなのだ。
男に向かって勇ましく突きを繰り出した手も、今はお行儀よく膝の上で揃えられている。
そのギャップにたまらずに押し倒せば、一切の抵抗もないまま彼女はトサリと転がった。
反動でパタリと投げ出された手の力なさは、表情以上に彼女の意思のなさを物語っている。
そのまま愛香を弄ぼうとした手を止め、男はこれからどうやって遊ぼうか思いにふける。
際どい格好をさせて窓から見えるか見えないかの位置に立たせるのもいい、そのまま意識の時間を動かすのも楽しそうだ。
集めに集めたコスプレ衣装を使って、今みたいに等身大の着せ替え人形にするのもたまらない。
自身の身に起きていることにも気付かず赤の他人に恥ずかしい姿を見せているのだと知ったら彼女は果たしてどんな反応を見せてくれるだろう。
時を戻して反応を見るのも悪くは無いが、それが躊躇われるほどに時を忘れて人形となっている愛香は美しかった。
転がった反動でスカートがめくり上がり、蛍光灯に照らされる白くむっちりとした太ももが酷く官能的だ。
性欲処理の道具として使うにはあまりに惜しく、しかし思わず触れずにはいられないほどの魅力が彼女からは立ち上っていた。
我慢できずに、男は何か言いたげに小さく開いたままの口に舌を差し込み愛香の暖かい咥内を執拗に弄び始めた。
柔らかい舌に男自身の舌を絡ませ、小粒の真珠のような歯をひとつひとつ丁寧になぞる。
流し込まれた唾液が潤滑油となり、やがて静かな室内はちゅくちゅくとした淫靡な音に満たされ始めた。
舌は細く薄い喉をなぞり、形のいい鎖骨をねぶり、胸元へと降りていく。
胸元を結いあげるリボンを解いてボタンをはじけば、まるでマシュマロのような胸がふるんと顔を出した。
その柔らかな膨らみにむしゃぶりつきながら、男は徐々にボタンを弾きながら服を乱していく。
蛍光灯の明かりを見つめたままぼんやりと微笑む彼女は、そんな状況に気づくことさえ出来ずにされるがままだ。
胸を大きくはだけた扇情的な姿で転がる彼女に意思の光は無い。
今や自身が何のなのかさえも分からないまま、愛香はこの部屋でいつまでも弄ばれ続けるのだった。