いま、娘たちの心は歓喜に満ちていた。
故郷を離れ、長い旅路を経てたどり着いた西の地で、ついに大王と対面を果たしたのだ。
尊き陽の神の教えを生涯にわたって伝える大任を胸に、十二人の月の巫女は額ずいたま
ま、使節の代表が述べる口上を聞いていた。
「大儀であった、陽の國の使者よ。なんじが國の誠意、喜んで受け取ろう」
「かたじけのうございます、西の國の大王よ。我等が國との友好が末永く続きますように」
代表が深々と身をかがめたあと、けして頭をあげぬまま、大王の御前を辞す。それが教
えられた作法であった。
「待て、娘たちよ」
大王の声にぎょっと体がすくむ。
想定外のことに、唯一場を治められる代表を探すも、その姿はすでにない。
使節の真の目的は達せられていた。
「顔を上げよ。非礼を許す」
ぐずぐずとためらう心を押さえつけ、十二人の巫女は命令にしたがう。
覇気を隠さぬ大王が、鋭い眼ざしで巫女たちを射抜いた。
神域で女だけに囲まれて育てられ、旅のなかではじめて男を目にしたばかり。気を臆し、
護衛たちとさえ言葉を交わせなかった十二人にあらがう術はなく、身をできるだけ固くし
じっと耐えるのみだった。
「陽の國が飼う雌の子の美しさは噂でしか知らんが、なるほど、これを差し出されては堪
えきれぬわなあ」
「われらが恐ろしゅうてならんのでしょう。年がひとつ巡るごとに寄越してくるのですか
ら」
「ミヤトの雌の子はどうか。先の年、大王より下された」
「ああ、いまや二匹と聞いたぞ。手荒いやつらにしては、よう残したものだ」
大王の直臣が口々に放つ言葉は、娘たちの理解の外にあった。弱きものをいたぶる残酷
さをむきだしに嘲弄しているのだと、粟だつ肌で気づきつつ。
陽の神につかえる巫女。西の地に教えを広げるために選ばれた十二人の娘。ほまれある
使節の一人という誇りを抱き、ただそれだけを信じていた。
「われらに捧げられた贄だ。わが忠実なしもべたちよ、そなたらの望むとおりにせよ」
空気がぐんと重苦しくなる。
ここにきて、娘たちの心がはげしく乱れた。
開け放たれた扉を守る衛士の数がふくれあがっているのを見て、次々に悲鳴があがる。
逃げようにも逃げられず、ひとかたまりに身を寄せ合い、おろおろと視線を彷徨わせる
さまは哀れだった。
「この雌の子がいい。これをもらう」
「ではこれを」
「陽の國はむごいことをする」
「われらは優しいぞ」
「従順であれ。されば苦しみはない」
西の國で太陽の教えが受けいれられたという話はいまだ聞かない。