※以前、このスレ投下した『夫婦神善哉』と、ロリバスレにて連載中の『俺のババァがこんなに可愛いはずがないッ!』のクロスSS(ただしIF番外編)です。
※属性的には、狐娘&百虫姫様(プラスおまけでロリババァ)with巫女衣裳。
※元の作品を知らなくても意味は通じるようにしたつもりですが、多少は情報不足かもしれません。さらに、微量のネタバレっぽいモノもありますが、あくまで「外伝」──「もしかしたらこんな未来があるかも」くらいにお考えください。
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『解放の日 〜イイ日、旅立ち?〜』(前篇)
在来線の鈍行列車を乗り継ぎ、さらにトドメに、1時間に1回しかないボンネットバスに乗ること30分。
ようやくその4人は目的の場所にまでやって来ていた。
「──青月(せいげつ)、そろそろ終点のようじゃぞ」
煌めく銀色の髪と菫色の瞳を持つ美女が、隣りに座る男性に注意を促す。
女性の方は、ミスコンどころかミスユニバースでも優勝できそうなくらい整った顔立ちと均整のとれた見事なプロポーションなのに対して、男性の方は平平凡凡とした容姿をしている。
「ふわぁ〜あ、やっと着いたか〜」
「あ、これ、車内で伸びをするでないわ。ホレ、お主の鞄とジャケットじゃ」
とは言え、文句を言いながらも、モノグサそうな男の世話を嬉々として焼いている美女の姿を見れば、大概の人間は「割れ鍋にとじ蓋」とか「蓼食う虫」とかいう言葉を思い浮かべるだろう。
それはそれで桃色のATフィールドっぽい何か(別名・だだ甘空間)が形成されているため、ちょっかい出す馬鹿はめったにいないだろう。
「ほら、アナタ、そろそろ降りる準備をしませんと」
「ぬ! ま、待て、もうちょっとで、この雷狼竜めを……って、ギャー! 雷撃くらった!!」
「あらあら」
2メートル近い身の丈とそれに見合った筋肉質な身体を持つ巨漢が、掌中の小さな携帯ゲーム機に夢中になっている光景はある意味微笑ましいとも言えるが、傍らにいる彼の妻らしき女性は微笑みつつ、呆れているようだ。
こちらの女性もまた、すぐ前の席の美女に負けず劣らずの端麗な容姿をしていた。
巨漢の傍らにいるとあまり目立たないが、170センチを軽く超える程度の長身と、日本人離れしたグラマラスなボディは、単独なら非常に人目を引くことだろう。
とくに、豊かなその胸部(彼らの妹分の女子高生いわく「オッパイっぽいナニか」)は、決して貧しくはない乳房を持つ銀髪の麗人をして羨ましがらせるほど。
もっとも、顔の表情や全体の雰囲気は、「包容力のある優しい大人の女性」という印象なので、「色気」より「母性」を感じる人の方が多いだろうが(事実、彼女は何人かの子を産み育てた経験がある)。
「はいはい、勇矢殿も落ち着いてくだされ。仕事が終われば、青月めにゲームのお供させますゆえ」
「む、それは助かる」
「はぁ……ま、それくらいならいいッスよ。勇矢の旦那、HR5でしたっけ? 俺が手伝えば緊急クエくらい楽勝っス」
意気消沈する巨漢を銀髪の美女がなだめ、相方の男性が承知したおかげで、ようやくその場は収まった。
「……で、アンタら、いい加減、降りてくれんか? ここが終点なんやけど」
騒ぎの収拾をみはからったようなパスの老運転手の言葉に、慌てて4人の男女は、バスを降りる。
「誠に、あいすみませぬ」
「すみません、ウチの人がご迷惑を」
美人ふたりに頭を下げられた運転手は、気を悪くした風もなく笑って手を振り、折り返し駅の方へとバスを走らせて行った。
「「「…………」」」
「──で、その東原神社へは、どう行けばいいんスか?」
微妙に気まずい沈黙が落ちかけた瞬間、「青月」と呼ばれた青年が絶妙なタイミングで話題を提供する。
「う、うむ。そうだな。えーと確か、この辺の道を真北に……って、おや? おかしいのぅ」
巨漢が頭をかきながら、以前此処に来た時の記憶を掘り返そうとするが、どう見ても目の前の道は東西方向に敷設されていて北へは行けそうにない。
「アナタ、わたくしたちがこの村に来たのは、もう30年以上前の話ですから……」
なるほど、そんなにも時が経てば、道路が大きく変更されていてもおかしくはない。
しかし、「30年以上前?」 目の前の巨漢もその妻らしき女性も、20代後半かせいぜい30歳程度にしか見えないのだが……。
「神様のライフスパンで話しせんでくださいよ」
やれやれと肩をすくめる青年。
そう、目の前の男女は、一見したところごく普通の(まぁ、少々ガタイが良すぎたり、美人過ぎたりするが)夫婦に見えるが、実のところ人間ではない。
まがりなりにも、この豊葦原の瑞穂の国を守護する八百万の神々の一柱、御祇弓丈夫尊と御祇永智蟲媛命だったりするのだ(ちなみに、普段は三上勇矢、紫苑という人間名を名乗っている)。
神格という点では、古事記や日本書紀に記載された有名人、いや「有名神」にいささか見劣りするが、こと「現在の人間界で自由に活動できる神」というくくりで見るなら、このふたり──もとい一組は、かなりの強さを誇っている。
しかも、先ほどから青年の傍らに寄り添う銀髪の美女も、純粋な人間ではなく、複数の尾をもつ妖狐の生まれ変わりだったりするわけだが。
集った4人中3人が人外とは、なんという濃いメンツ!
いかに現在の社会でMH(ミスティックハンター)が公認の職となり、人間以外の知的生命体(神や魔物含む)の存在が認められているとは言え、希少なケースであることは間違いなかろう。
閑話休題。
「しゃあないなぁ。希ちゃんに電話でもしてみるか。えーと、ケータイは……」
「青月よ。こんな辺鄙な場所で携帯電話が通じるとお思いかえ?」
自らのパートナー・葛城葉子に指摘されてポケットから取り出したケータイ片手に凍りつく青年。言われてみれば確かに、ケータイのアンテナは一本も立っていない。
無論、このメンバーなら、霊視するなりダウジングするなりすれば、目的地の場所に辿りつくことも不可能ではないが、さすがにソレはあまりにマヌケ過ぎる。
「辺りに人もいないし、どうしたもんか」と、青年──阿倍野橋月が悩む前に救いの手がもたらされた。
「あぁ、もう来てはった。皆さ〜ん!!」
道路を少し東にたどった方から、おっとりした少女の声が聞こえてくる。
一同がそちらに目をやれば、道路に直角に接するように獣道と見まがう細い道が設けられていて、そこから紅白の巫女装束姿の女の子がトテトテと駆けてくるところだった。
年のころは13、4歳──おおよそ中学生くらいだろうか。膝近くまで伸ばした艶やかな黒髪を、水引きでひとつにまとめた由緒正しい巫女さんスタイルだ。
今時の中学生の標準と比べるとやや小柄で、化粧気も皆無だが、見た目に反して大人びた落ち着いた雰囲気が感じられるのは、この歳で巫女をしている経験故か。
「本日は、遠いところを、よぅお越しくださいました」
ペコリと頭を下げる様子も自然で様になっている。
「うむっ、出迎え御苦労。ちょうど神社にどう行けばわからず、少々困っておったところだ」
(いや、勇矢さん、威張って言うトコじゃないから、そこ)
青月は呆れたものの、「ま、こういう人、いや神サンだしなぁ」ととうに諦めている。
もっとも、青月や葉子は、人外に知り合いがズバ抜けて多いために感覚が若干麻痺しているが、本来の神の在り方からすると、勇矢の態度ですら、実にフランクで寛大とも言えるのだ。
まぁ、これは勇矢が元人間から昇神した身であることも関連しているのだろうが。
とは言え、今回の「仕事」に夫婦神・御祇弓丈夫尊と御祇永智蟲媛命の力を借りられることは望外の幸運だった。
そう、青月と葉子は前述の通りMH(ミスティックハンター)──「既知外現象防止家」を生業としている。MHの業務の大半は、前世紀末から活性化した霊的現象への対処や、人に仇為す妖怪・魔物の退治だが、今回は少々勝手が違った。
以前、ちょっとした縁で知り合った少女(?)、東原希からの依頼によって、「封印された祟り神」をわざわざ起こそうと言うのだから……。
* * *
「それにしても、希さん、よくご決心されましたね」
神社への道すがら、葉子が余所行き(と言うか仕事中用)の口調で、希に話しかける。
「い〜え〜。もともと事の発端は、身内のしでかした不始末ですさかい」
「って言っても、好きな男が出来て駆け落ちしただけだろ? それを不始末って言いきるのは、あんまりじゃねーかな」
青月が、憤慨したように言うが、希はゆるゆると首を横に振った。
「確かに、人同士の感覚ではそうかもしれまへんなぁ。けど、ウチの家には、その神様を祀るいう使命があったんです。
さらに言ぅたら、姉は既に巫女としてその神に仕えとった身、つまり「就職」としとったワケです。阿倍野橋さん、たとえば公務員が突然仕事放り出して、休職届も辞表も出さんと旅に出たら、普通は非難されるんとちゃいます?」
「それは……まぁ」
なるほど。そう考えると確かに、その方法の是非はともかく、罰せられても致し方ない状況であるのかもしれない。
「だからって、本人以外を罰するってのはなぁ」
彼が一番引っかかっているのはソレらしい。
「縁座という概念は現代日本でこそ廃れたが、世界的に見ればさほど珍しいわけではないぞえ」
「そうですね。人間界はともかく、少なくとも神界ではポピュラーな法理ですよ」
聡明なふたりの年長女性、葉子と紫苑がそう言ってたしなめる。
青月とて、まだ若いがそれなり以上の場数を踏んだA級MHだ。「人」の道理が必ずしも「人外」に通用するはずがないことは十分理解しているのだが、感情面で素直に納得できる程、大人でもないのだろう。
「ふふふ、ウチのために憤ってくれはるんはうれしいけど、過ぎたコトやさかい、もぅエエんです……」
ほんの少しだけ翳りのある笑顔を希が浮かべているのは、過去の記憶に想いを馳せているからか。
勘のいい読者ならもうおわかりかもしれないが、問題の「封印された祟り神」こそが、かつてはこの東原神社の祭神だったのだ。
祟り神といえど、神は神。きちんと祀られていれば、とてりたてて災害を起こすようなコトはなかったのだが……。
問題は、ここの「神」がいささか短気で気まぐれな性格だったことだろう。
希と共にこの幼い頃から巫女として「神」に仕えていた彼女の姉は、中学を卒業するや否や幼馴染の少年と駆け落ちし、何処かの土地へ逃亡してしまったのだ。
怒った祟り神は、自らの力の範囲外に逃げた姉ではなく、その妹たる希にある「呪い」をかけた。
もし、祟り神の従者の下級神が、主による八当たりめいたとばっちりに同情し、呪いの効力をねじ曲げてくれなければ、希の命は13歳の誕生日に失われるはずだったのだ。
その後も色々問題を起こした祟り神は、地上に顕現する神と魔に対する見回りを職務とする夫婦の武神──勇矢と紫苑によって、罰として封印されることとなった、というワケだ。
そして、神界における土地神の引き継ぎその他諸々の手続き(例の従属神が後釜になった)が無事に済み、一度は閉社していた東原神社を再開するにあたり、くだんの「封印中の祟り神」の処遇が問題となったワケだ。
「狭いところですけど、楽にしといてください」
本殿から少し離れた位置に立てられた社務所──というか希たちが寝起きしている生活空間に案内された青月たちは、畳敷きの居間に通され、「儀式」の前の最後の打ち合わせをする。
「……っと、段取りは以上の通りです。紫苑さん、意見をお聞かせ願えますか?」
すでにあらかじめ手順は相談してあったが、葉子が術師としての大先輩たる紫苑に、現場に着いたうえでの判断を尋ねる。
「そうですね。大筋では問題ありませんが、完全に封を解く前──七分ほどの段階でも、かの者なら強引に弾き飛ばすことは可能でしょう。そうなった時の対処を、もう少し具体的に詰めておいた方がよいかもしれません」
相手と直接対峙してその力の程を知る紫苑の指摘は有難かった。
なお、解封儀式に参加するのは、「人」である青月、葉子、希の3名のみだ(正確には葉子は半人半妖とも言うべき存在だが、大きなくくりでは人の内に入る)。勇矢と紫苑は、あくまで非常事態が発生した時の保険である。
解封の結果、3人の手に負えない状況になった場合は、ふたり(二柱?)が速やかに「祟り神」を手持ちの勾玉に封じて神界へ送還し、そこで然るべき裁きを受けさせることになるだろう。
そして、神界の掟に照らし合わせれば、禁固刑とも言うべきこれまでの封印とは段違いに重い罰に処せられることはほぼ間違いない。
心優しい(青月に言わせるとお人好し過ぎる)希は、そうなることに心を痛め、言うならば「執行猶予の保護観察処分」で済むように、何とか「祟り神」を説得するつもりなのだ。
幸い、勇矢達の役割は西部劇の保安官的な側面もあるので、「現場での柔軟な対応」としてその程度の融通は利かせられる……あくまで、「祟り神」が大人しくすると誓うことが条件だが。
「そう言えば……希ちゃん、アイツは来てないのか?」
一通り話が済んだところで、湯呑のお茶で喉を潤した青月が思い出したように辺りを見回した。
「タカぼ…じゃなくて、たかゆきさんには、買い物に行ってもろてるんです。そろそろ戻ってくるとは思うんですけど……」
少しだけ心配そうになった希の表情を見て、葉子はニヤリと微笑み、からかいモードに入る。
「あれれ、希ちゃん。「彼」のこと、そう呼んでるんですか? 前は「まだまだ子供だから、タカ坊で十分」だなんて言ってのに」
「あ、いえ、その……」
「へぇ。男の立場から言わせてもらうと、やっぱり好きな女性(ひと)に子供扱いされるのって、意外に凹むモンだぜ」
自らの恋人(2歳年上)にチラと目をやりながら、至極真面目な顔を作った青月もそんな言葉を漏らす。
無論、ふたりしてこの純情可憐な巫女さんをからかっているのだ。
──もっとも、単純に生きた年齢だけ言えば、転生前の記憶を持っている葉子はともかく、20代始めの青月の三倍近い歳月を、このロリっ子は積み重ねているのだが。
当時12歳だった東原希にかけられた呪いとは、「13歳になると死ぬ」というものだった。それを憐れんだ従属神が、彼女に「12歳から歳をとらない」という第二の呪いを付加したのだ。
ちなみに、希の呪いに関して言うと、前者は紫苑が祟り神封印の際に解き、後者は紆余曲折の末、一昨年青月達が解くことになったため、今の希は、「普通に生きて、成長し、そして年老いて死ぬ」ことができる。
その意味では、青月なぞはまさに「青二才」だから敬語で話すべきなのだろうが……
彼の気安い口調と希の礼儀正しく控えめな性格、そして希の実年齢をしばらく知らなかったという事実により、「希ちゃん」「阿倍野橋さん」という呼び方が定着してしまい、結局それで通している。
「ただいま〜」
タイミングがいいのか悪いのか、ちょうどその噂の人物が帰宅したようだ。
「あ、皆さんもういらしてたんですね。遠いところからワザワザすんません」
玄関に並んだ4人分の靴を見て予測していたのか、18、9歳の少年は、ごく自然な感じで頭を下げたのだが、そこには、なにやら微妙な空気が漂っていた。
「どースかね、旦那。あの落ち着きぶりは?」
「むぅ……アレは、間違いなく経験後だな」
「実年齢はともかく、あのふたりの外見じゃと、限りなく背徳的なイメージがあるのぅ」
「あらあら……。でも、葉子ちゃん。昔は13、4歳でひと回り以上上の殿方に嫁ぐ子も少なくなかったじゃないですか」
客4人が顔を寄せてヒソヒソ囁き合い、その横で自らの想い人が「はぅ〜」と真っ赤になっている様を見て、帰宅したばかりの少年──瀬戸孝之は首を傾げるのだった。
-後篇に続く-