「お前は玉無しか?」  
「……出し抜けに失礼なこと言ってるんじゃねぇよ。」  
 
 俺が自分とハル姉の関係を説明して、それを聞いた友人の小馬鹿にした台詞に、軽くムッと  
しながら俺は言い返した。  
 
 
 
    〜 Sweet Omelette 〜 Chapter 2  
 
 
 
 季節は春。  
 俺は高校を卒業して、調理専門学校へと進学した。  
 
「いいか、相手は一人暮らしの女で、しかもそのマンションの鍵をお前に与えている。」  
「鍵が無いと寝こけてるハル姉をたたき起こせないだろ。」  
「そうだ、寝室に入ることまで許していて、しかもあられも無い寝姿を見られても怒るどころか、  
 むしろ襲って良いとまで言っているんだぞ。」  
「ハル姉の冗談かもしれないだろ。」  
「いいや、明らかにそれは誘ってるだろ! 据膳食わぬはなんととやら、そこまでされて  
 ピクリともしない男なんて、まさにタマをどっかにおっことして来たとしか考えられないだろ。」  
「うるせぇ。」  
 
 ここで今俺に対してバカみたいな熱弁を振るっているこの男。  
 こいつは調専に通うようになってから知り合った友人で名を西村という。  
 同じクラスの同い年で、無類の女好き……かどうかは分からないが、四六時中女にモテる事  
ばっかり考えてるナンパ野郎なのは間違いない。  
 どういうわけだかクラス分けされた先でこいつと妙にウマがあって、それ以来友人としてよく  
一緒にあそびにいったりもしていた。  
 
「で、そのタマなし呼ばわりの俺を引き連れて合コンとか、人選を間違っているとお前は  
 思わないのか?」  
「いや、お前にそんな年上のいい人が居るとは知らなくてな。お前にも出会いの場を与えよう  
 という友への心遣いだよ。」  
「で、本当は?」  
「それが相手の子がさ、1対1じゃ遊びに行きたく無いっていうからさ、じゃあ2対2ってことで  
 向こうも友達連れてきて合コンってことで話付けたんだよ。  
 というわけで赤塚くぅん、お・ね・が・い。」  
「だー、男がしなつけても気持ち悪いだけなんだからヤメロ。付き合ってやるから。」  
「流石心の友だぜ。アリガトウ赤塚くん!」  
 
 ……というわけで、俺たちはこれから女の子と合コン、なのらしかった。  
 
 合コンの待ち合わせ場所はとある居酒屋。  
 少し離れたその居酒屋へ向かう俺たちはてくてくと歩道を歩きながらさっきのような馬鹿話に  
花を咲かせていたのだった。  
 
 そして歩いていると、後方から耳慣れない甲高いエンジン音が聞こえてきた。  
 西村はそのエンジン音に反応して後ろを振り向く。  
 
「お……すげぇ、ありゃあ……」  
「ん?」  
 
 西村が後ろを見て目を輝かせてるので、俺も振り返ってエンジン音の発生源を確認すると、  
ずいぶんと車高が低くて鋭角的なデザインの車が後方からこちらへと走ってくるのが見えた。  
 
「すげー、ありゃ、」  
「カウンタックだっけ?」  
「ちがーう!ガヤルドだ!しかもスパイダーじゃねーか。」  
 
 そんな違いわかんねぇって。  
 そういや西村は女の子だけじゃなくて車好きでもあった。  
 カネがないんで愛車は中古の軽らしいけど。  
 
 そのスポーツカーはふらふらと蛇行しながら俺たちの横を追い越して、すぐ先で路肩に停車した。  
 そして少し間が有ってドアが開くと、見覚えのあるスーツ姿の女が下りてきた。  
 
「あれ、ハル姉?」  
「え、あれが噂のハルカさん?」  
 
 西村、目を輝かせながらハル姉を気安くハルカさんなんて呼ぶな。  
 
 さてそれはともかく、ハル姉は遠目に見てあまり機嫌が良くなさそうだった。  
 運転席側から降りてきた男と何か口論になっているようにみえる。  
 俺はすぐにその場へと駆け寄った。  
 
「……だから、お付き合いのお話ははっきりお断りしたはずです。」  
「別に付き合ってくれなんて言ってないさ。でも一度ぐらい食事に付き合ってくれても良いだろ。」  
「そうやって何人女子社員を毒牙にかけたんですか。」  
「これまたストレートな物言いだね。」  
 
 男は高そうな車に相応な、コレまた仕立てのいいスーツに身を包んだニヤけた二枚目だった。  
 絵に書いたようなスマイルを浮かべながらハル姉を引き止めている。  
 ……なんというか、嫌な感じだ。西村のように愛嬌のあるナンパ男とは違う、遊びなれた感じの  
男に見えた。  
 俺は助け舟を出すつもりでハル姉に声をかけた。  
 
「ハル姉。」  
「え? あ、アキ君。」  
 
 俺が声をかけると、ハル姉は一瞬ポカンとして、それからささっとこちらに走りよってきて  
手持ち無沙汰にしていた俺の右手にぶら下がった。  
 
「……君は? 蒔苗君の弟さん?」  
「え、あ、俺は、」  
「私の『彼氏』です。」  
 
 は?  
 相手の男に誰何されて、俺がなにか答えようとするより先にハル姉が言い切った。  
 
「ふぅん。ずいぶんと子供に見えるけど。年下趣味とは知らなかったな。」  
 
 どこか小馬鹿にしたように男は言った。  
 でも別に腹も立たない。俺はジーンズに上着を羽織って教科書の入ったナップザックを  
ぶら下げた見るからに学生なわけで、実際何の力も無いガキンチョといっても良い。  
 でもハル姉はそうではなかったようで、  
 
「年は関係ありません。あなたのようないい加減な人と違って彼は私を大事にしてくれますから。  
 此処から先は彼に送ってもらいますから結構です。さようなら。」  
 
 ハル姉が拒絶の言葉で突き放すと、男はむっつりとした表情で車に乗り込み、けたたましい  
エンジン音とともに走り去った。  
 男が居なくなったところで、改めてハル姉に話を聞くことにした。  
 
「……で、これはどういう事なの?」  
「アキ君こそ、なんでこんな所にいるの、って、そっちの彼は?」  
 
 ハル姉に言われて西村の存在を思い出した。  
 
「俺のことすっかり忘れてただろ。」  
「いや、そんなことはないぞぉ。」  
「うわ、ぜってー嘘だ。」  
「あなたはアキ君のお友達?」  
 
 ハル姉に聞かれて、西村は居住まいを正すと一分の隙も無いスマイルで答えた。  
 
「西村って言いマース。おねぇさんは蒔苗春香さんですね。いや、噂に違わずお美しい。」  
「あら、ありがとう。」  
「お暇ならこれから一緒に合コンなどいかがでしょうか。」  
 
 西村からジャブが繰り出されたが、ハル姉もまた鉄壁の笑顔でそれを軽々と跳ね返す。  
 
「うーん、今日はご遠慮するわ。また今度機会があったら。それより、アキ君借りて行っても  
 良い?」  
「ええ、どうぞどうぞ。」  
「ありがとう。じゃ、アキ君はもらっていくわ。バイバイ。」  
 
 あっさり売り飛ばされた俺はハル姉にぐいぐいと引っ張られて今来た道を戻る。  
 口をはさむ間もありゃしない。  
 
 そしてハル姉に引っ張られて電車に乗り込んだあとで、俺は気がついた。  
 そういや西村のやつ、一人で合コンどうする気なんだろう。  
 
                   ◇  
 
 ハル姉のマンションの最寄り駅で電車を降りた俺たちは駅近くの居酒屋へと入った。  
 
 電車の中でハル姉はなにも言わず、駅を出た途端に「今日は飲みたいから付き合って。」と  
ハル姉のおごりで居酒屋へと入ることになったのだった。  
 
「おにーさん、ビール二つと枝豆、それにざる豆腐の冷奴とだし巻き玉子、鳥からあげ  
 持ってきて。」  
「ハル姉、俺未成年。」  
「イイから付き合ってよ。別に飲んだ事ないわけじゃないでしょ。」  
「まあ、親父の晩酌にたまに付き合ってるけどさ。」  
 
 そうこうしている間に店員の手によって素早くビールとお通し、それに枝豆が運ばれ、  
俺の目の前にも良く冷えたビールのジョッキがどんとおかれた。  
 
「はい、乾杯。」  
「はいはい、わかったよ。」  
 
 ジョッキを突き出すハル姉に、俺は諦めて自分のジョッキを手にするとハル姉のジョッキと  
カチンと打鳴らした。  
 するとハル姉はジョッキを口に当てたかとおもうと喉を鳴らして一気に飲み干した。  
 
「おにーさんおかわり。」  
「速いってハル姉。ハル姉ってお酒強いのか?」  
 
 ハル姉とお酒を飲むのはコレが初めてだから、ハル姉が強いのか弱いのか、酒癖も良いのか  
悪いのかさっぱりわからない。  
 
「ん〜、全然弱い。」  
「だったら少しは加減して飲めよ。」  
「今日は飲みたい気分なの。」  
 
 お代わりが届くとすぐに口をつけて一口二口飲むと、ジョッキをどんとテーブルに叩きつけた。  
 
「で、今日は何があったの? さっきの男のせいだろ。」  
「そうよ。社長のバカ息子。あんにゃろ、うちの課長にも圧力かけてきたのよ。」  
「社長から何か言われたとか?」  
「違うわ。あのバカ息子を溺愛してるのは社長の奥さんなんだけど、奥さんは取締役でね、  
 そっちからなにか言われたみたい。で、あたしにバカ息子と付き合ってくれないかって。」  
 
 忌々しそうに言うと、ハル姉はまたビールを煽った。  
 
「で、ハル姉はどうしたのさ。」  
「会社内でも何人も女子社員泣かしてるって評判の男よ。言ってやったわ。コレ以上無いくらい  
 はっきりきっぱりお付き合いは嫌ですって。で、帰ろうとしたら家まで送るって言い出して、  
 しつこいから今回だけって事で車に乗ったんだけど。」  
「で、さっきのあれか。」  
「そう。途中で食事だけでもって言い出して。ホテルのレストランでよ。そのままうまくホテルの  
 部屋に連れ込もうって魂胆よ。」  
「で、逃げ出したと。」  
「そう。そこにたまたまアキ君がいて……って、さっきはあそこで何してたの。」  
 
 大分酔が回ってきているのか、据わった目つきで俺をジトッと見て問い詰めてきた。  
 
「いや、西村に無理やり誘われて……女の子と……合コン……しに行く途中だったんだけど。」  
「……」  
 
 ……ハル姉の目に剣呑な光が宿っていた。  
 
「……ハル姉?」  
「……アキ君は、あたしが獣の毒牙に掛かりそうなその時に、ピチピチの若い女の子と合コン  
 しようとしてらんら。」  
「いや、別に俺はそういうつもりもなかったんだけど、成り行きで……」  
 
 なんか、雲行きが怪しくなってきた。  
 
「そーらよね。あらしみらいな年上のおばはんより若い子のほうがいいよね……  
 おねぇちゃん捨てられちゃうんら……」  
「いや、誰もそんなこと言ってないじゃん。」  
 
 なんとなく絡み酒っぽい感じになってきた。  
 
「大体、ハル姉まだ22だろ。どこがおばさんなんだよ。」  
「らって、アキ君より4つも年上なんらよ。あらしは大人で社会人れアキ君は未成年れ学生らもん。  
 あらしは20ひゃいでアキ君はティーンエイジャーぢゃん。若い子のほうが良いって言われても  
 仕方らいもん。」  
 
 枝豆をもぐもぐ頬張りながらビールをぐびぐびあおってハル姉はすっかり拗ねまくっていた。  
 
「あーもう、どう言えば良いんだよまったく……」  
 
 こっちもだんだんつき合いきれなくなってきてビールをあおった。  
 良く冷えたほろ苦い液体を飲み下してお代わりを頼む。  
 
「大体ハル姉こそ、さっきいきなり俺のことを彼氏なんて言って、こっちの気持ちはお構いなし  
 かよ。」  
「……あらしの彼氏役嫌らった?」  
 
 う、捨てられた子犬みたいな目でこっち見んなよ。  
 
「……別に、そういう訳じゃ。」  
「じゃあ……アキ君あらしの事しゅき?」  
「なんで両極端なんだよ……いや、まあ……」  
 
 ……ここで簡単に自分の気持を吐露してしまって良いのか、一瞬躊躇した。  
 そうしたらハル姉のやつ、ブスッとした表情で一言。  
 
「……やっぱり嫌いなんら。」  
「だー! 少しは考えさせろよ。」  
「じゃああらしのことしゅき?」  
 
 ……くそっ、もうどうとでもなれ!  
 お代わりで運ばれてきたビールを再び煽って、ぼそぼそと答えた。  
 
「まあ……すき、かなぁ……」  
「……」  
「……ハル姉?」  
「えへへへへ。」  
 
 ハル姉は満面の笑顔……というより、デレーっとした酔っぱらいの顔で笑った。  
 ……俺の言った事、酔が覚めたあとも覚えてるんだろうか。  
 
「アキ君にしゅきって言われちった〜 しあわせ〜」  
「はいはい、好きに言ってろよ。それにしても、あの男どうすんの? 今日のあれで手を引いて  
 くれりゃいいけど、そうは思えないぞ。」  
「ん〜……そうらね〜……ろうしようかにゃ〜…………ぐう。」  
 
 早っ!  
 もう潰れた! ジョッキ3杯でもうダウンかよ!  
 って、俺もすきっ腹でビールをがぶがぶやったせいで結構回ってる……  
 そして、タイミング悪く運ばれてきた冷奴とだし巻き玉子と鳥からあげを前に、少し途方に暮れた。  
 
                   ◇  
 
「ん……あれぇ。」  
「あ、起きた?」  
 
 ハル姉を背負いながら、俺はハル姉のマンションへ向かっていた。  
 俺自身も酔っていて少し足取りがふわふわしているので気をつけながらゆっくりと。  
 
「起こさないように気をつけながら歩いてたんだけど。自分で歩く?」  
「ん、このままがいい。」  
 
 そう言いながら、一度上げた頭をまた俺の肩に預けてきた。  
 ハル姉の髪が揺れて、シャンプーのいい匂いが俺の鼻をくすぐった。  
 
「アキ君の背中、広くて逞しいな。」  
「親父に鍛えられてるから。料理人にはパワーが必要なんだとさ。」  
 
 実際重い寸胴鍋を持ったり、片手で重いフライパンを振り回したり、パワーが有って困ることは  
ない。  
 親父なんて結構マッチョな体してるしな……しばかれるとめちゃめちゃ痛いんだよ。  
 
「昔はあたしがアキ君をおんぶしてあげたのに。」  
「……そりゃ俺が小学生の時の話だろ。」  
「いつの間にか、アキ君も『男の子』から『男』になってくんだね。」  
 
 そう言って、ハル姉は俺の背中にぎゅっと抱きついた。背中に胸があたってるんだけど……  
 それから、ハル姉は一つため息をついてつぶやいた。  
 
「……会社、辞めちゃおっかなぁ。」  
「あの男の事? 辞めてどうするのさ。」  
「……お嫁さんにでもなるかな。」  
「相手は?」  
「……アキ君が貰ってよぅ。」  
 
 ハル姉はぎゅっと抱きつくと、そう俺の耳元でささやいた。  
 その台詞が妙に色っぽくてドキッとした。  
 
「俺はまだ学生だって。大体なんで俺なんだよ。」  
「アキ君はねぇ……オムレツなの。」  
「オムレツ?」  
「甘くってふわふわで優しくって、いつだってあたしにはあったかいの……」  
 
 そう言って、体を俺の背中に預けてまた眠ってしまったようだった。  
 
「そんなの……おれだって同じだよ……」  
 
 俺は一人つぶやいた。  
 いつだってハル姉は明るくって、一緒に居るだけで楽しくなる。  
 
 そうこうしている間にマンションにたどり着いて、エレベーターで登って部屋の前まで来た。  
 
「ハル姉、鍵……って、寝てるか。」  
 
 仕方ないのでハル姉を背負ったまま自分のポケットから鍵を引っ張り出してドアを開ける。  
 そして玄関で一旦ハル姉をおろして靴を脱ぎ、ついでにハル姉のローヒールも脱がせて、  
お姫様抱っこで奥の寝室へと向かった。  
 寝室のドアは都合よく半開きになっていて、ハル姉を抱えたまま背中で押すだけで開けることが  
できた。  
 
 部屋は月明かりが差し込んでいたけれど薄暗かった。  
 床の上には本も散らかっていて電気を付けたいところだったけど、あいにく両手でハル姉を  
抱き抱えているせいでつけられなかった。  
 油断をすれば床に散乱した本の山に蹴躓くので、足先を探りながら部屋の中を進む。  
 慎重にそろそろと進んで、ようやくベッドにたどり着こうとした最後の最後でハードカバーらしき  
本の山を思いっきり蹴っ飛ばした。  
 
 「痛ッ!」  
 
 まるでタンスの角にぶつけた時のような小指の痛みで悶絶しながらベッドへと倒れ込む。  
 とっさにハル姉の上に倒れこまないように体を捻った。  
 
 ぼふぼふっ!  
 
 ハル姉の体と俺の上半身がベッドの上に落ちる。  
 抱えていたハル姉をかばうのに精一杯で受身を取れずに胸から落ちて一瞬息が詰まり、  
激しく咳き込んだ。  
 
「げほっ、げほっ……うっく、痛ぇ……」  
 
 結構激しく打ち付けたつもりだった足の小指はそれほどでもなかったようで、指先が少し  
じんじんしているだけだった。  
 
 呼吸を整えてから立ち上がり、ベッドの上のハル姉を見ると。  
 ハル姉は乱暴にベッドの上に放り出されたにも関わらず、まだ眠っていた。  
 
 スーツが皺になるな、と気がついて、上半身を抱き上げてスーツの上着を脱がす。  
 そして、少し躊躇してからスカートのホックとファスナーを下げてスカートを脱がせた。  
 脱がせた上着とスカートはハンガーにかけておく。  
 
 ベッドの上のハル姉はというと、上はブラウス、下はパンツの上に黒いストッキングという  
格好で、まだすやすやと眠っている。  
 寝顔を見てメガネが掛けっぱなしになっているのに気がついて、ハル姉の顔からメガネを外した。  
 メガネを外した寝顔は年よりもあどけなくて、うっすらと開いた唇からはスウスウと寝息を  
立てていた。  
 なんとなしに、手を伸ばしてそのうっすらと開いた唇をそっとなぞる。  
 
「ん……」  
 
 ハル姉が少しだけ身じろぎして、わずかに開いたブラウスの胸元から胸の谷間が覗いた。  
 ボリュームの有る胸元が呼吸に合わせて上下し、その布の下にある物の存在感を主張する。  
 さらに下に眼をやると、しどけなく投げ出された黒いストッキングの脚があって、ひどく  
扇情的に見えた。  
 
 その時の俺は酔が残っていて……いつもよりも理性の箍が緩んでいたのかもしれない。  
 
 そのハル姉の脚がひどく魅力的に見えて……手を伸ばし、ストッキング越しに太ももを  
するりと撫でた。張りがあって、滑らかな太ももの感触にくらくらする。  
 そして、その手のすぐ横にはハル姉の、下着に包まれた下腹部がある。  
 
 触れてみたい。そう思って、ふと我に帰る。これ以上はまずい。  
 ごくりと固唾を飲んで、そろりと手を離そうとした。  
 
「……触ってもいいんだよ。」  
 
 その言葉に振り返ると、ハル姉が目を覚まして俺を見ていた。  
 
「いや、これはっ、ち、ちが、うわっ!」  
 
 慌てて一歩引こうとしたところで、ハル姉に手をとられてベッドに引き倒された。  
 一瞬布団で視界を失って、慌てて仰向けになると同時に俺の腰の上に何かがどさりと乗っかって  
押さえ込まれる。  
 見上げるとハル姉が馬乗りになっていて、上から俺の顔をのぞき込んでいた。  
 
「はっ、ハル姉っ。」  
「……あたしは、アキ君とこうしたいって、ずっと思ってた。」  
「……」  
 
 ハル姉は俺の顔に両手を添えると、自分の顔を俺に近づけてきた。  
 そのまま目を閉じて、俺の唇と自分の唇を重ねてくる。  
 しっとりとしたハル姉の唇が俺の唇に吸い付く……初めてのキスは、口紅とアルコールの味がした。  
 それだけで俺の頭の中がショートしたように真っ白になる。  
 
 少しの間、ちゅ、ちゅ、ちゅ、と、ついばむようにキスをしてから唇が離れる。  
 でも顔は至近距離のままで、ハル姉の瞳が俺の瞳をのぞき込んだ。  
 そして少しの間見つめ合ったあと、また唇が重なる。  
 今度はハル姉の舌が俺の口の中へと滑り込んできて、俺の舌先をとんとんとつついた。  
 そして、舌がふれあって絡み合う。  
 ハル姉の体の柔らかい感触と、舌の絡みあうヌルヌルとした感触に俺はとんでもなく興奮していた。  
 心臓が跳ね回っているのかと思うような動悸で息苦しくなって、呼吸も荒くなる。  
 
「んふ……アキ君興奮してる。」  
 
 ハル姉は上半身を起こすと、そう言って妖艶に笑う。  
 ハル姉が視線を落とした先。ハル姉の腰の下にある俺のジーンズの股間がパンパンに膨らんでいた。  
 
 ハル姉はちょっとだけ腰をずらすと細くてきれいな指で俺のジーンズの上をまさぐって  
ボタンを外し、ファスナーも引き下げてトランクスの布地をずり下げる。  
 姿を表した俺のペニスは大きく膨張し、いきり立ちすぎてほとんど腹に張り付いていた。  
 
「すごい……男の子のってこんなにおっきいんだ。」  
 
 どこか興奮しているような声色でそういうと、ハル姉は俺のペニスの上に腰をおろした。  
 腰を使ってパンストに包まれた股間をこすりつけて俺を嬲る。  
 
「すごく熱いよ……どう? 気持ちいい?」  
 
 パンストと下着の薄っぺらな布地を通して、俺もハル姉の股間の熱を感じ、興奮は益々高まる。  
 目の前の女を犯したくてたまらない。  
 酔いで開放された本能のせいで、頭がそれしか考えられなくなっていた。  
 
 俺はムクリと起き上がると、ハル姉の両手を押さえ込んで逆に押し倒した。  
 
「きゃっ! あっ、アキ君!」  
 
 遅倒したハル姉の唇を俺の唇と舌で犯し、白い首筋に唇を這わせる。  
 俺の唇に付いていたハル姉の口紅が、ハル姉の酔いでピンク色に染まった肌に赤いラインと  
キスマークを記していく。  
 
 鎖骨にキスマークを付けて唇を離し、一度起き上がると今度はブラウスの前を開いた。  
 いちいちボタンを外すのさえもどかしく、ほとんど無理やりバリバリと力任せに引っ張り開くと  
ハル姉の荒い呼吸に合わせて上下する双球が顕になる。  
 ブラジャーを無造作にずり上げて、転げ出た右の乳房にむしゃぶりついた。  
 
「あっはっ、アキくぅん!」  
 
 張りのある左胸を乱暴に揉みしだきながら右胸の乳首を口に含んで舌で舐め回す。  
 左手のモチモチとした感触に夢中になりながら、口の中の乳輪を舌先でくるくるとなぞると、  
その中心の乳首が硬く凝って大きく膨張するのを感じた。  
 乳首がぷっくりと立ち上がってきたのを感じて、今度は左胸に吸い付く。  
 
「ひやっ……んんっ。」  
 
 ハル姉の口から嬌声が漏れる。  
 その声がなお一層俺を興奮させる。  
 
 左の乳首も固く立ち上がったのを感じて口を放すと、そのまま胸の谷間に顔をうずめた。  
 ハル姉の体臭の甘い香りを吸い込みながら舌と唇で肌を味わい、そのままお腹の中心を下がって  
形のいいお臍を舌先で刺激する。ピクンとハル姉の体が跳ねた。  
 
「や、そこっ、だめっ、」  
 
 彼女の訴える声などお構いなしに俺は執拗に臍を犯す。  
 その度に腹筋がブルブルと緊張して、ハル姉の口からは甘い嬌声が漏れた。  
 たっぷりと舐ったあと、舌先が離れたときにはハル姉はぐったりとなっていた。  
 
「はぁ、はぁ、あ、や、そこ、」  
 
 俺は脱力して荒い息を吐いていたハル姉の股間に手を伸ばして触れた。  
 人差し指でふにふにと、ストッキングのクロッチ部分を刺激する。  
 
「や、はっアキ君、だめっ」  
 
 先程よりも大きく身をよじるハル姉の姿にますます俺の興奮度がアップする。  
 その姿だけで、俺の股間は爆発寸前なまでに硬くふくれあがっていた。  
 
「や、はああんっ、くうっ、」  
 
 指先の動きに合わせて、クチクチと言う湿った音が混じり始める。  
 わずかに指先にぬめりを感じたところで、俺はパンストに手をかけると、下着ごと引き下ろした。  
 
「あぅっ、やっ、恥ずかしい……」  
 
 ハル姉が羞恥心で顔を背けた。  
 
 俺の眼前にハル姉の胸元から下半身まで顕になった裸身があった。  
 下腹部に目を落とすと、薄く申し訳程度に覆う陰毛の下に、濡れて月明かりの下で光る  
ショッキングピンクの性器が覗いていた。  
 俺は少しの躊躇もなくハル姉の腰を抱え込んで両脚を開き、その付け根に顔をうずめた。  
 間髪を入れずにハル姉のぷっくりとした秘裂にべろりと舌を這わせる。  
 
「ひゃぁっ!」  
 
 今までで一番の悲鳴がハル姉の口から漏れた。  
 舌を這わせる度に腰がガクガクと波打って俺の口の周りをハル姉から溢れでた愛液が汚していく。  
 
 俺はヌメる唇を柔らかくて白い内腿に這わせ、キスの雨をふらし、そのすべすべとした肌を  
舌で存分に味わった。  
 そして再び秘裂の粘膜に舌を割り込ませる。  
 ハル姉の口からは止めどなく喘ぎ声がこぼれ、秘裂は充血して少しづつ綻び始める。  
 
「いやっ、はっ、あっ、あ……あああんっ!」  
 
 ハル姉の体がひときわ大きく弓なりに反ったかと思うと、ぐったりと崩れ落ちた。  
 ハル姉の秘裂は充血しきってぴくぴくと痙攣し、メスの匂いを放って俺を誘っている。  
 体を紅潮させてぐったりしているハル姉を見下ろしながら、俺はジーンズとトランクスを  
脱ぎ捨てた。  
 
 中に突っ込んでかき回したい、突き上げたい……めちゃくちゃに犯したい。  
 もうそれしか考えられないほどにオスの本能が頭を支配して、俺の股間の物はガチガチに  
反り返って爆発しそうになっていた。  
 
 力なく投げ出されたハル姉の脚を抱え上げ、秘裂に俺の先端を押しあてる。  
 
 荒い息で獣のような唸りをあげながら腰を突き出すと、尖端は粘液でスリットをつるりと滑って  
上へとそれてしまった。だがそれだけでも異常な快感が背筋を駆け上る。  
 もう一度尖端の位置を手で修正して、ハル姉の秘裂に押し当てる。  
 だが反り返るほどに硬くなった俺のペニスは再び狙いを外してつるりとスリットの上を滑った。  
 
「ううっ!」  
 
 好きな女の性器にこすりつけている、たったそれだけの事実と粘膜をこすりあげる刺激で  
俺のペニスは爆発した。精子が恐ろしい勢いで噴出して飛び散り、ハル姉の躰を白く汚していく。  
 
 信じられないほどの長さの強烈な射精のあと、強烈な脱力感に襲われて俺はベッドに転がった。  
 
「んく……はぁっ、はっ、はっ、はぁ……はぁ。」  
 
 快感の波が引いて頭が冷えてくると、さっきまでの強姦にも近い自分の行為が思い出されてきた。  
 誘ったのはハル姉だとはいえ、ただ欲情に任せてひたすら一方的に犯すかのような行為は、  
今まで大切にしてきた関係を壊すのに十分な物だったと俺は後悔した。  
 
 体を起こしてハル姉を見る。先ほどイってしまったときに気を失ったのか、ハル姉は寝息を  
立てて眠っていた。  
 そして体は粘液にまみれ、俺のペニスから放出されて飛び散った大量の精子はお腹の上全体を  
汚していた。  
 
「くそ……」  
 
 自分の行為に後悔し、そして次に目を覚ました時にハル姉にどんな顔をして何といえば良いのか、  
俺にはわからなかった。  
 

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