あの一夜の出来事のあとの話だ。  
 
 とりあえず、どん底の精神状態だったハル姉は完全復活したわけで。  
 初めての二人での朝食のあと、初デートに出かけていちゃいちゃしまくり、家に帰ってハル姉と  
俺が付き合うことになったという事実をお互いの家族に報告した。  
 まあ、元々勝手知ったる間柄というか、薄々そうなるであろうことは予想されていたようで、  
すんなりと両家公認の付き合いとなった。  
 
 一方で、無双モードのハル姉は、八つ当たりを兼ねた例のキザ男へのお仕置きも忘れていなかった。  
 社長子息の数々の悪事を、「被害」にあった女子社員たちからの詳細な聞き込みなどから  
全50Pにも上るレポートに纏め上げ、社長室に殴りこんで辞表と共にたたきつけたらしい。  
 
 ハル姉の言葉どおりに社長は常識人であった様で、その後間もなくして社長の馬鹿息子は  
別会社に出向という名の修行に出され、社長夫人は取締役を「一身上の都合」で辞職したそうだ。  
 ハル姉は慰留され、数年後には寿退社するという前提で会社に残る事にしたらしい。  
 
 その後、ハル姉の妊娠騒動〜実は生理が遅れただけだった〜とか、つい先日ハル姉の誕生日を  
祝おうとしたら一時的に5歳差になったことに拗ねられたとかの色々なイベントなどもあり、  
暦はもう6月中旬。季節は夏になろうとしていた。  
 
 
 
    〜 Sweet Omelette 〜 Epilogue  
 
 
 
 ハル姉のマンションで二人で朝食を食いながら見ていたTVで「もうすぐ海開き!」という  
ニュースが流れ、昔ハル姉の家族に連れられて行った旅行の事を思い出した。  
 
 世の中には自営業であるが故に自由に休めると言う業種と、早々休めない業種とが存在している。  
 休日は掻入時でかつ馴染みのお客も多い飲食店であるところの我が家は典型的な後者であって、  
特に暦の上での連休はまともに休みだった試しが無い。  
 
 そしてそういう自営業を営む家の子供の間では良く聞く話だが、俺は家族で旅行と言うものに  
行った事が殆どない。  
 そんな俺が旅行に行った数少ない思い出の1つが、小学生の頃ハル姉の家族に連れていって  
もらった海辺の温泉地への旅行だった。  
 
 つらつらとその事を話しているうちに、じゃあ二人で出かけようとハル姉が言い出し、最初  
日帰りドライブという話だったのが、ちょっと早いけど海水浴したいよねー、とか、温泉にも  
入りたいよねーとか話が膨らんで、最終的には二人で泊りがけの2泊3日の旅行と言う話に  
なったのだった。  
 
 車は、普段は仕入れに行く時ぐらいしか使わせてくれない親父のを借り出した。  
 なんでも、親父が若い頃にブイブイ言わしてた(本人談)時のものらしい。  
 
 朝早く荷物を積み込んでハル姉の家に向かい、案の定寝こけていたハル姉をたたき起こし……  
この分を見込んで家を出てるので、支度に時間がかかっても問題ナシ……荷物と半分寝たままの  
ハル姉を車に積んでいざ出発。  
 
 市街地を抜けて、俺にとって人生初の高速におっかなびっくり乗って南下。  
 最初のPAで二人で朝食をとった。  
 
 そこでハル姉が運転を代わろうというので交代したんだけど、これが失敗だった。  
 
「あっはっはっは〜! おじさんの車速い速い!」  
 
 おかしな脳汁が出まくってるらしいハル姉の高笑いを聞きながら、俺は助手席で固まっていた。  
 スピードメーターはとっくに100キロを超えていて、車体はビリビリ言っているし走行車線の  
車はあっという間に飛びすぎて行くしでもう恐ろしいことこの上ない。  
 
 スピード狂の暴走は予定の降り口まで続き、運転を心行くまで漫喫したらしいハル姉は高速を  
降りたところで俺と交代して助手席に収まった。  
 そして……俺はもう二度とハル姉にハンドルは握らせまいと心に誓ったのだった。  
 
 そして現在は俺の運転で車はくねくねの田舎道を走っていた。  
 暫く走ってやっと街らしきものに差し掛かり、赤信号で止まる。  
 
「ハル姉、ここからの道順は?」  
「ん?」  
 
 隣の席で文庫本を読みふけっていたハル姉に声を掛けると、ハル姉はちらっと周りを見まわし、  
そして最後に信号機にぶら下がっている住所を見て、視線を文庫本へと戻しながら答えた。  
 
「んーと……↑←↑↑→↑↑↑←↑→」  
「いや、まてまて、何そのゲームの裏コマンドみたいなの。」  
「道順。交差点ごとにその順番で進めばイイから。」  
 
 文庫本に視線を貼りつけたまま答えた。  
 出掛けにマップルをじっくり眺めていたと思ったら、道順を暗記していたらしい。  
 毎度のことながら、ハル姉の一度読んだ本の内容の暗記力にはいつも驚かされる。  
 ……って、いやいや、感心してちゃダメだって。  
 
「憶え切れないから。真面目にナビしてくれよ。」  
「えー、もー、しょうがないなぁ。」  
 
 ハル姉のナビで運転して行くと、車はやがて海沿いへと出た。  
 久しぶりに嗅ぐ潮の香りに誘われて、俺たちは途中の駐車スペースで車を停めた。  
 
「んー、気持ちイイね。磯臭いけど。」  
「こんな風景だったっけ? 昔来たときは見渡す限り砂浜だった気がするんだけど。」  
 
 防波堤の下を見下ろすと岩だらけの磯になっていて、潮だまりで魚を捕まえようとする  
家族連れやら、先の方で釣り糸を垂れてる釣り人やらが見える。  
 
「それはもっと先のほう。昔通った道はもっと内陸だと思う。」  
「なるほど。」  
「ま、前に来たのは15年も前だから、色々変わってても仕方ないでしょ。そろそろいこ。」  
「うん。ところでさ。」  
「何?」  
「今日はちょっと露出度高すぎじゃない?」  
「そっかな? でもあとで水着だって着るつもりだし。」  
 
 今日のハル姉はチューブトップに薄手のパーカーを羽織って下はデニムのホットパンツ、  
髪もポニーテールにして日除けの野球帽をかぶった夏らしい格好だった。  
 でも、そのホットパンツは丈がパツパツで、ハル姉の綺麗な素足が太ももの付け根近くまで  
露出していてハイソックスとスニーカー以外に何も隠すものが無い。  
 
 途中のサービスエリアで食事した時も男どもの目を引いていたのだ。  
 
「あ、解った。心配しなくても、こ・れ・は・アキ君専用だから。」  
 
 そう言いながら嫌らしい笑みを浮かべてハル姉が太ももをペチペチと叩いてみせた。  
 
「そ、そういう事じゃ……」  
「エッチな目で見てたけど違うの? アキ君あたしの足好きだよね〜 エッチするときも  
 スリスリしてるし。」  
 
 う、た、たしかにそうだけど……ハル姉の太ももは色っぽくてすべすべで気持ちいいんだから  
仕方がない。  
 
「そういえば、お尻も結構好きだよね。バックの時結構激しいし。」  
「いっ、良いだろ。ハル姉のお尻はなんて言うか……すごく色っぽいんだよ。」  
 
 色っぽい滑らかな肌の背中と、きゅっとくびれたウエストと豊かな肉付きのお尻の対比が  
たまらなくそそるのだ。  
 
「ふーん。でも普通若い男の子って胸の方が好きだって言うよね。アキ君って趣味が  
 おっさん臭い?」  
 
 そう言いながら胸元を寄せてあげて見せた。  
 俺が揉んでいる成果なのか、ギリギリDカップだった胸が最近Eカップになったらしい。  
 
「でも……そうすると、色々覚悟しといたほうが良いのかな?」  
「何が?」  
「……足コキとかアナル?」  
「お願いだから人を変態みたく言わないで……」  
「うん、アキ君が変態でも、なるべく期待に答えられる様にがんばるから。」  
「いや、そう言うことじゃないから。」  
 
 どうも一線を越えてから、エロ方面の会話もどんどんぶっちゃけてきてる気がする。  
 
「とにかく、宿はもう少し先なんだろ。早く行こうよ。」  
「そうね。早く行って海で遊びたいし。」  
 
 俺たちは再び車に乗り込み、先を急いだ。  
 
 しばらく海岸線を見ながら進んでいくと、やがて白く続く砂浜が見えてくる。  
 俺の記憶にあった、ハル姉と遊んだ砂浜の光景だ。  
 
「あ、そこ入って左の建物だから。」  
「了解……って、あれ?」  
 
 ハル姉に指示されて曲がった先にあったのは、記憶の中とは違う真新しい旅館だった。  
 
「こんなんだったっけ?」  
「何年か前にリニューアルしたみたい。」  
 
 俺の記憶の中では結構くたびれた感じの木造旅館だったはずだが、今や3階建ての洒落た  
デザインの鉄筋ビルに変わっていて昔の面影など全く残っていない。  
 車を駐車場に入れて荷物を手に玄関へと入るとうちの親父よりもやや年配の和装の女将が  
出迎えてくれた。  
 
「あ、言っとくけど、今日のあたし達は「赤塚夫妻」だから。」  
「は?」  
「だから、あたしの事も「ハル姉」じゃなくて、「春香」とか「お前」ね。」  
「ちょ、」  
「あ、すいません、お世話になります赤塚です。」  
「遠いところからいらっしゃいませ。早速お部屋にご案内いたしますので。」  
 
 女将は慣れた身のこなしで俺たちの荷物をひょいと持ち上げるとさっさと奥へと歩き出した。  
 ハル姉もそのあとに続き、呆然としていて出遅れた俺はあわてて追いかけた。  
 
「ちょ、ちょっと、ハル」  
「は・る・か。」  
「えっと……ハルカサン。夫婦ってどう言う事?」  
「そのまんまよ。いいじゃん予行演習だと思えば。」  
「いや、それにしたってさぁ、俺にだって心の準備って物が。」  
「秋生ったら男の癖に往生際悪いわねぇ。」  
「あっ、秋生って。」  
「秋生はいや? じゃああなた、とかダーリンとか。」  
「いや、秋生でいいです。」  
 
 そう言っている間に、女将は旅館の中を通り抜けてしまい、裏庭の中を伸びる渡り廊下を  
進んでいく。  
 
「……何処いくの?」  
「ふっふーん。今回はちょーっと奮発しちゃった。」  
「何が?」  
「ほらあれ。」  
 
 ハル姉が指差す先を見ると、渡り廊下の向こう側、庭園の奥に小さな離れが建っていた。  
 女将は持っていた鍵で離れの玄関を開けると中へと荷物を運び込む。  
 
「……わ、すげ……」  
「さっすが特別室。」  
 
 俺とハル姉は中に入ってそれぞれに声を上げた。  
 木造の離れの中は床の間もある十畳ほどの広さの立派な和室で、奥は海側に面した広縁があり、  
その外はオーシャンビューの露天風呂になっていた。  
 
「お風呂は源泉かけ流しで24時間何時でもお入りになれますのでご自由にどうぞ。お布団は  
 お夕食後に係のものが食器を片付けに参りましたときにご用意いたします。  
 ご夕食は何時頃がおよろしいでしょうか?」  
「うーん、6時ぐらいでお願いします。」  
「かしこまりました。ではそれまでごゆっくり。」  
 
 そう言って女将は一礼して去ろうとして、そして思い出したようにもう一度振り返った。  
 
「あ、そうそう。」  
「はい?」  
「ここは本館と離れておりますので……夜も少々声が大きくても大丈夫でございますよ。」  
「やーだ女将さんったら〜」  
「おほほほほ。ではごゆっくり〜」  
 
 女将は恐るべき速さのすり足で渡り廊下を去っていった。  
 
「な、何言ってんだあの女将さん。」  
「あら、若い新婚夫婦が大きな声でよがってもオッケーって事じゃん。」  
「いや、そう言うことじゃ……」  
「さ、ほら、温泉もいいけど、まず水着に着替えて海に遊びにいこ? 夕食まで時間あるし。」  
 
                   ◇  
 
 水着に着替えた俺たちは、旅館の前の短い坂道を下って海へと向かった。  
 手には敷物とタオルの入ったバッグを持って、おそろいのパーカー姿でビーサンをぺたぺた  
言わせながら二人で並んで歩く。  
 
「ここは昔の記憶とそんなに変わって無い気がするな。昔もハル姉と二人で海に向かって  
 走ってった様な気がする。」  
「そうそう。二人でバスタオルをマントにして海まで走ってったよね〜」  
 
 さほどの距離でも無いのであっという間に浜に着く。  
 防波堤の階段を下りると延々と白い砂浜が続いていて、海開き前にもかかわらず数組の  
家族連れとカップルらしき男女、それに波さえあれば季節お構い無しのサーファーの人影が  
ちらほらと見えた。  
 
「さすがにあんまり人はいないね。」  
「まあ、海開き前だしね。気温は高いけど、水はまだ結構冷たいのかな。」  
 
 海開きに向けて準備中らしい海の家の横を抜けて適当に砂地にレジャーシートを敷いて陣地を確保。  
 波打ち際まで降りてそのまま少し水の中に足を浸した。  
 
「やっぱりちょっと冷たいかな。」  
「そう? あたしはこのくらいのほうが良いかな。」  
 
 足で水温を確かめると、ハル姉はシートまで戻ってパーカーを脱ぎ捨てた。  
 パーカーの下はいささか面積の心配な白いビキニだった。ハル姉のボリュームのある  
プロポーションと相まって、健康的だけどかなり刺激的だ。  
 ハル姉の水着姿に見とれていると、ハル姉は膝上の深さまで水に入ったところで振り返った。  
 
「アキ君鼻の下伸びてるよ。」  
「えっ。」  
「隙ありっ!」  
 
 ハル姉が足を振り上げるとばしゃぁっ! 海の水が舞い上がり俺を直撃した。  
 
「わぷっ、しょっぺ。」  
「やらしー目で見てるからだよ。頭冷えた?」  
「……」  
 
 俺は無言でパーカーを脱ぎ捨て、海パン一丁で腰の深さまで海にざぶざぶと分け入ると、  
右腕を大きく振りかぶった。腕は浅く水面を叩き、ハル姉が足で蹴ったときよりも大量の  
水を巻き上げる。  
 そしてその海水はニヤニヤ笑っていたハル姉の頭の上に降り注いだ。  
 
 ざっぱーん。  
 
 ハル姉は頭の天辺からずぶ濡れになった。  
 
「おかえし。」  
「……アキ君の癖に生意気。」  
「先にやったのはハル姉だろ。」  
「……上等。」  
 
 かーん。  
 
 二人の間でゴングがなった。  
 
「とりゃー!」  
「なんの!」  
「うりゃうりゃ!」  
「こなくそー!」  
「これでも食らえ!」  
「なんのこれしき!」  
  :  
  :  
  :  
 
 そして数分後。  
 
「はぁ、はぁ、ふっ、なかなか、やるじゃない。」  
「ふう、ふう、はぁ、ハル姉、こそっ。」  
 
 お互い、両腕を闇雲に動かし、水を巻き上げて相手に浴びせるという力任せかつなんのひねりも  
無い方法でぶつかり合った結果、お互い腕の筋肉が馬鹿になりかけたところでドローと相成った。  
 当然二人とも頭からずぶ濡れ。  
 
 二人とも海から上がってレジャーシートの上にばたりと倒れこむ。  
 
「つーかーれーたー」  
「同じく。」  
「やっぱりまだちょっと水冷たいねー」  
 
 陽の光の暖かさが冷えて疲れた身体に染みた。  
 ハル姉はというとバッグを弄ってサンオイルを取り出し、手にとって身体にぺたぺたと  
塗りつけている。  
 
「アキ君も塗っとかないと、あとで痛いよ。」  
「ハル姉が終わってから塗るよ。」  
 
 日向ぼっこしながらハル姉がサンオイルを塗るのを眺める。  
 ハル姉はまず両腕、そして両足に塗ってから首筋、そして鎖骨の辺り、ブラの中に指先を  
入れながら胸の辺り、そしておなかに塗りつけていた。オイルでテカっている身体が妙にエロい。  
 ハル姉は身体に塗り終わってうつぶせに寝そべると俺に向かってサンオイルを差し出した。  
 
「背中塗って。」  
「はいはい。」  
 
 ハル姉は寝そべったまま髪を横によけてうなじを露出させた。  
 俺はサンオイルを手にとって伸ばすと、うなじの辺りに塗りつける。  
 
「……うん。」  
 
 そしてブラの紐を解くと肩甲骨、背中からウエストにかけて手を滑らせる。  
 
「ひゃうっ。」  
 
 背中にオイルを擦り込み終わると、ウエストからお尻の上部、水着の際まで丹念にオイルを  
塗りつけた。  
 
「ひゃ……アキ君手つきがやらしい。」  
「ハル姉が勝手にそう思ってるだけだろ。」  
 
 まあ、ハル姉の背中の肌の感触と反応を楽しんでは居たんだけど……  
 
「そっかな? じゃあ、今度はあたしが塗ったげる。」  
「お願い。」  
 
 俺がうつぶせに寝そべると、ハル姉が俺の腰の上に跨ったのを感じた。  
 そしてぬるぬると背中の上を手が滑っていく……結構くすぐったいなこれ。  
 
「ふふーん……覚悟!」  
 
 いきなりハル姉の指先が俺の脇の辺りに伸びてくすぐり始めた。  
 
「ぶぶっ、は、や、やめろって、は、ハル姉。」  
「うりうりうり、どうだ、参ったか。」  
「ま、まいった、参ったからやめてwwww」  
「じゃぁ、さっきのはセクハラだったと素直に告白しちゃいなさいっ!」  
「ち、ちがっ、ちがうって、そんなやましい気分じゃ、」  
「まだシラを切るか、うりうりうり!」  
「ぶわっはっはっ! わ、わかりましたっ! ちょっとエッチな気持ちでしたっ!」  
「うん、よろしぃ。」  
「ぐはっ、はっし、死ぬかと思った……」  
 
 ハル姉が腰の上からどいてやっとくすぐりの脅威から解放された。  
 俺はしばらく呼吸を整えてから体の前半分にオイルを塗って、それから二人でしばらく  
甲羅干しにいそしんだ。  
 
 白い砂浜に広げられたレジャーシートの上に油でテカった干物が二つ。  
 ざざーん、ざざーんという波の音と遠くからかすかに聞こえる子供のはしゃぐ声だけが  
BGMで、夏本番に向けて本気出しつつある日の光がじりじりと肌を焦がす。  
 
「んー、たまにこうやって外でのんびりするのもいーね。」  
「……インドアでいつもだらだらしてるからね。」  
 
 ぎゅー  
 ハル姉の細い指先がラジオペンチと化して俺のわき腹をつねり上げた。  
 
「いでででで!」  
「引きこもり言うな。」  
「だって……休みの日は俺が叩き起こさないとずっと寝てるじゃん。」  
「……ぐう。」  
「寝たふりすんな。」  
 
 メリハリの無いだらだらとした会話。でもそれがいい。  
 ハル姉とは今までもこうだったし、関係が進んだこれからもこうでありたいと思う。  
 
                   ◇  
 
 宿の夕食は期待に違わず地物の新鮮な海の幸を使ったものでとても旨かった。  
 ハル姉もお櫃が空になるまでがっついていたくらいだ。  
 
 で、先ほど仲居さんが後片付けと布団の用意をしてくれたので、これから朝までははハル姉と  
二人きりの時間。  
 
 俺は露天風呂に浸かっていた。  
 せいぜい大人が3〜4人程度浸かれるほどの小さな檜の湯船だが、個室の露天風呂としては  
贅沢な広さだし、何よりロケーションがそれを補って余りある。  
 離れは旅館のある高台の海側の崖っぷち近くに建っていて、露天風呂の柵の向こうは  
見渡す限りの海なのだから、眺めに関しては文句のつけようがない。  
 月明かりに浮かび上がった海と夜空にぽっかりと満月が浮かんで、なんとも言えない風情を  
醸し出していた。  
 
「アキ君お待たせ。」  
 
 振り向くと、髪を上げてまとめたハル姉が部屋から姿を現したところだった。  
 広縁で浴衣を脱いで椅子にかけると、湯船へと入ってきた。  
 俺の後ろから右側に入ってきてうーんと伸びをする。  
 
「いいお湯〜」  
「うん。眺めもいいし。明日は部屋と温泉で過ごすのも悪く無いかもな。」  
 
 今回は2泊の予定なので、明日は丸々遊べる予定なのだ。  
 
「海で遊ぶのは?」  
「そっちも捨てがたいな。近所のお土産屋さん見に行ったりとか。」  
「ん〜、でも温泉入りながら二人でいちゃいちゃでもいいかな。」  
 
 そう言いながら、ハル姉は俺の肩に頭を預けてきた。  
 
「別にいちゃつくのはハル姉のマンションでも出来るじゃん。」  
「ロケーションが大事なのよぅ。いつもと違う場所だと新鮮でしょ?」  
「そう言うもんかねぇ。」  
「そう言うものよ。だからさぁ……ここでしちゃおうか。」  
 
 いつの間にかハル姉の手が俺の股間に伸びていた。  
 
「いや、それはあとで布団の上でいいじゃん。」  
「だから、ロケーションが大事なの。もうスイッチ入っちゃったし。」  
 
 ハル姉は立ち上がるとざぶざぶと湯船の中を移動して俺の目の前に立った。  
 ハル姉の「女の子の部分」が目の前にある……  
 
「ええと、春香サン。」  
「なに?」  
「その……おけけはどうしたんでしょうか?」  
 
 元々ハル姉は濃いほうではなかったけど、今目の前にあるそれはつるんつるんだった。  
 
「ああ、剃っちゃった。」  
「剃ったぁ?」  
「だって、あの水着結構ラインがきわどいしはみ出したら恥ずかしいから、昨日の夜剃っちゃったの。  
 それにつるんつるんの方がアキ君が興奮しそうだしさ。」  
「いや、勝手に人の性癖を捏造しないで。」  
「じゃぁ嫌い?」  
「いや、まあ、これはこれで……悪く無い気もする……かな?」  
「じゃあ問題なし。ふふーん。」  
 
 ハル姉は湯船に浸かったままの俺の足をまたいで腰を下ろした。  
 俺の肩に手をかけて顔を寄せると唇を重ね、舌を絡めてくる。  
 その間、ハル姉は腰を使ってお尻で俺のモノに刺激を加えてきた。それに反応してすぐに  
硬く大きく膨らんで、先端がハル姉の入り口のあたりを擦る。  
 
「ゴムつけて無いんだけど。」  
「この間からピル飲んでるから、生で中出しでも全然大丈夫。ゴム付けてると気持ちよくないし。  
 だから気にせずいっぱいどばどば出しちゃってね。」  
 
 この間、付き合い始めて初めての生理が大幅に遅れて妊娠騒動に発展し、産婦人科で  
診察してもらって以来避妊ピルを処方してもらっている。  
 あの時は俺も一緒に病院に付き合わされたっけ……  
 だからまあ、避妊の心配は要らないんだけど、慎みとか恥じらいって大事だと思うんですよ  
春香サン。女性が自分で生で中出しどばどばとか言っちゃうのはどうかと思うんだ。  
 
 そんなことを頭の中でつらつら思っている間に、ハル姉は俺に抱きつきながら腰を動かして  
位置を微調整するとそのまま腰を落としてつるりと俺のを飲み込んだ。  
 
「あん……」  
「うわっ、もう中が動いてる……」  
「だからぁ、スイッチ入ってるって言ったでしょ……」  
 
 鼻に掛かった声でそう言って笑いながら、ハル姉は腰をくねらせて抽迭を開始した。  
 
                   ◇  
 
 ───10分後  
 
 部屋の中でだらしない浴衣姿のままで死体のように転がる男女……もとい、俺とハル姉の  
姿があった。  
 
「……危うく溺死するところだった。」  
 
 温泉に浸かったままでおっぱじめてしまった俺たちはいつの間にかのぼせてしまい、  
湯船の中で倒れかけてほうほうの体で這い出したのだった。  
 一歩間違えば合体したまま湯船で溺れ死んで二人仲良くあの世行きだったかもしれない。  
 
「温泉とか風呂に浸かったままやるのは止めよう。死ぬから。」  
「そだね……」  
 
 ばったり倒れたままハル姉が答えた。  
 
 BGMは波の音と虫の声。  
 寝転がったまま外を見ると、先ほどと変わらず満月が俺たちを見下ろしていた。  
 
「綺麗だね。」  
「うん。」  
 
 いつの間にか俺の横に俺と同じように仰向けのハル姉が並んでいて、俺と同じように逆さの  
夜空を見上げていた。  
 
「将来さぁ。」  
「うん」  
「結婚して、子供が出来たらまた来たいね。」  
「そうだな。」  
 
 広縁に置いたタオル掛けに干してあった水着をなんと無しに見た。  
 俺の海パンとハル姉のビキニが仲良く風に揺れている。  
 
「あたしさ、子供は二人欲しいのよね。」  
「二人?」  
「夏と冬にあわせて生んで、家族4人で春夏秋冬ってね。」  
「……洒落に身体張るのかよ。」  
「人生大事なとこだけマジなら良いの。あとは伊達と酔狂でおっけー」  
「いやいや。」  
「と、言うわけで〜」  
 
 仰向けの俺の身体の上にハル姉が覆い被さった。  
 
「れっつ子作り〜」  
「さっきピル飲んでるって言ってたじゃん。」  
「じゃあ、れっつ子作りの練習〜」  
「……」  
「だって、さっきイク前に中断しちゃったんだもん。アキ君だって寸止めでしょ。」  
「まあね……」  
「男の癖に淡白だぞ〜 可愛い彼女がおねだりしてるんだから、もっとケダモノさんになって  
 くれないと。」  
「りょーかい。」  
 
 今日の夜もまた長くなりそうだ。  
 でもまあ、今日は程ほどにして、明日はまた二人で遊びに行くためにぐっすり眠らないとな。  
 
                   ◇  
 
 その夜、俺は夢を見た。  
 
 真新しい麦藁帽子を被って今と変わらない笑顔で笑うハル姉とちょっと大人になった俺。  
 そして二人の間には小さな男の子と女の子。4人で手を繋いで海の見える坂道を下っていく後姿。  
 
 寝る前にあんな話を聞いたせいかなと思って、それをハル姉に話したら飛び切りの笑顔で俺に  
宣言した。  
 
「それは二人でがんばって絶対に実現させる未来なんだからね。さあ、覚悟はいい?」  
 
 何てハル姉らしい言葉だろう、と思った。  
 ……多分、これから先も俺はハル姉に振り回されることになるんだろう、と思う。  
 まあ、望むところだけどね。  
 
 
 

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