季節は秋。  
 うだるような熱さからようやく解放されつつある、そんなとき。  
 しかしそれでも陽が沈んでしまえば、2月の夜気は身にしみる。  
 十字架に貼り付けられた一糸まとわぬ全裸の美女が顔をしかめ、絶対に許さないと吐き捨てた。  
 そんなぬるい日だまりの中に、教会の鐘が鳴り響く。  
 クリスチーネ・剛田を傘下に迎えてからこの暗殺組織の評判はうなぎのぼりであり、今日も給食費をどうやって捻出するかの話し合いの真っ最中だった。  
 そこかしこで精液が乱れ飛び、老若男女関係なく快楽の呻きを上げる。  
 今年3人目の孫ができるトメさん(87歳・自宅警備員)は盆栽のドン末期郎(126歳・ひよこ鑑定士)の手入れに余念がなかった。  
 
 
ネリチャギ子さんの憂鬱  
 
  かいたひと:ことり  
 
 
「つーか変なモノローグはいいから、早くそっち持ってってば、ネリチャギ子」  
「……」  
 その声に振り向いた婦警は、しばし困惑の表情を浮かべ、仕方なしにスカートのホックを外した。  
 そうしなければこのサンフランシスコがどうなるかわかったものではない。  
 その肩にはいまや数億の人間の命がかかっているのだ。  
「いやここ千葉県だし。どこどう見たってうちの高校の体育倉庫でしょーが」  
 悪魔の誘惑に耐えつつ、彼女は最後の気力を振り絞って答える。  
 来月のお小遣いは半分だ、と。  
 しかしそれで事態が変わるはずもない。  
 凄腕の退魔士でもある彼女は身の内に秘めた生理的欲求に抗えず、屈辱の中でその白い太股を割り開いていく。  
 見るもおぞましい鈍色の触手が迫るのを見て、頬を一筋、涙が流れていった。  
「どこのファンタジーか知らないけど、あたし早くこの跳び箱片付けて帰りたいんですけど……」  
 そう呟いた彼女も、けして傍観者のままではいられなかった。  
 ぬるり、とした感覚に後ろを振り返ると、そこには夥しい数の肉触手が群れをなしていて。  
 苦い顔で下唇を噛もうとも、後悔など何の役にも立たない。  
 すでに四肢は絡め取られ、わずかな動きすらできなくなっているのだから。  
「いやちょっと待て、あたしまで出演さすな」  
 背中に粘液質の感触がする。  
 異形は二人を完全に包囲し、なおもその数を増やしていく。  
 日の光も届かぬその空間には、ただ絶望の二文字しかなかった。  
「ごめん、ごめんね……助けてあげられなかった……ごめんね……」  
 絞り出すようなその声は自責の念に溢れていた。  
 なぜこんな事になってしまったのか。  
 自分はもっと強いはずじゃなかったのか。  
 どうして目の前の少女一人すら救えないのか。  
 頼みの綱の呪府もすべて奪われてしまい、元の世界へ帰る手段も絶たれて。  
 自分と彼女、この後に待っている運命を思う。  
「えーと……今日用事があるんで早く帰りたいんですけど。これ以上続けるならほっとくよもう」  
 少女のあまりにか細い声を聞いて、自分の無力を心底呪う。  
 家に帰りたい。  
 ただそれだけの、ちっぽけな願い。  
 それすらもかなえてあげられない自分が、なによりも悔しくて、悲しくて。  
 したたる粘液にまみれながら、彼女へ迫る夥しい数の触手を睨み付けることぐらいしか、彼女にできることはなかった。  
「OKちょっとまて落ち着けネリチャギ子。まずはその手に持ってる縄跳びを捨てようか?」  
 肉の蔓は見た目にそぐわず俊敏で、するすると彼女の体へと巻き付いていく。  
 スカートの中へその身を躍らせ、念入りにその肌へと体液をすり込んでいく。  
「んぐげ、ぐほ!? ぎ、ギブギブ! 首しまっ……こら短パンの中にそんなもん入れんな!」  
 動けない少女へ、黙々と触手は刺激を送っていく。  
 この化け物の体液には催淫効果があったのだ。  
 それに気づいた時にはすでにおそく、哀れな獲物は内からわき出るような愉悦に耐えきれず、甘い声を漏らす。  
「ぶ、ぶひゃは、くくくくすぐったいくすぐったい! 脇に手入れんなこら!」  
 彼女の悲痛な哀願も触手には届かない。  
 
 目もない鼻もないその先端は、不気味に蠢くと、淡いピンクのパジャマのボタンとボタンの隙間からその身を差し入れる。  
 べとべとと素肌に粘液を振りまいて。  
 彼女のささやかなふくらみを暴き、思うさまに形を歪め、弄んでいく。  
「この体操服のどこがパジャマに見えんのよ! あとささやかっていったか。ささやかっていったかゴルァ!」  
 ぐ、と触手がのけぞる。  
 見る間にボタンがはじけ飛び、下着は千切れ、あっという間に彼女は生まれたままの姿にされてしまう。  
 若い肌はうっすらと赤く咲き誇り、まるで見る者全てを誘惑しているような、そんな錯覚すら覚える。  
「ささささ寒い寒い寒いいいい! こらアンタどっからハサミなんか出した!? 待て切んな! 切んなあああああ!?」  
 この後のことなど軽く予想がつく。  
 せめてその最悪の事態を何とか回避しようと全力を持って暴れる。  
 けれどそんな思いすらあざ笑うかの如く、がっちりと手足を固めた触手は微動だにすることはなかった。  
 悲観と絶望のあまり頬を涙が一筋伝う。  
 そのぼやけた視界に、ひときわ大きな触手が一本、ゆらゆらと揺れながら、鎌首をもたげ、近づいてきた。  
 ゆっくりゆっくりと。  
 まるで恐怖心をあおるように、時間をかけて彼女の股座へと狙いを定める。  
 先端からは時折粘性の濃い液体がしたたり落ちる。  
 先ほどの媚薬と同じ成分なのか、それとも種付けのための精液なのか。  
 いずれにせよ体にいいものとは思えない。そんな醜悪な風体で、とうとう触手は彼女の秘裂へと辿り着いた。  
「待て待て待て待て!? バトンはやばいバトンは! そんなの入るわけないから!」  
 その口から漏れた吐息は、あきらめから出たものか、それとも期待からか。  
 せめて祈るのは、少しでも苦痛を感じないように。  
 いくらあらがおうとも、もはや運命は変えられないのだから。  
 この瞬間の自分は、わずか数分後には違うものになってしまうのだ。  
「っんぎゃああああああ!? 痛い痛い痛い! 濡れてもないのにそんなん入れるなああああっ!」  
 無慈悲に極太の触手が彼女のまだ幼い膣穴へとその体を滑らせる。  
 大きく開かれた口からは絶叫が迸る。  
 つ、と一筋、純血の証が流れ落ちた。  
「ぐああああ!? 裂ける裂ける、てか裂けてる!? 血とか出てるし!」  
 泣き叫ぶ少女へも触手は容赦というものを知らない。  
 そもそも知能があるかどうかも疑わしいのだから。  
 その原始的な体に宿るのはただ本能。  
 子を作り種を増やすという、生物の持つ単純な欲望。  
 暖かな体温の中、その種を吐き出すために。  
 獲物の事など眼中にもない。  
 ただただ、目的を果たすため、抜いては突き、えぐりながら奥を叩く。  
 いつのまにか破瓜の血は止まっていた。  
 結合部からはじゅぷじゅぷと水音がする。  
 それは触手の体液なのか、少女の喜びの証か、もはや判別などできなかった。  
「この状況で濡れる変態がどこの世界に……ってちょっと待て、足音!?」  
 突如、空間にぴし、と亀裂が走る。  
 何もない虚空に入ったヒビは見る間に大きくなり、その向こう側から光が漏れる。  
 やがてそこから姿を現したのは、体中を薄く濡れた鱗に覆われ、背中から幾本もの触手を生やした……何体もの妖魔達だった。  
「お、いたいた……うわー佐和田さんすげーかっこ」  
「冗談かと思ったらマジかよネリチャギ子」  
 現れた妖魔は口々に敗れた退魔士を罵る。  
 自分が弱いから彼女を助けられず、自分もこうして惨めな姿をさらしている。  
 何も言い返せるはずもない。  
 悔しさに歯がみし、惨状から顔を背ける。  
 犠牲は自分だけでいいのに、ろくな知能もあるかわからない触手には何を言っても理解するはずもない。  
 裂け目からは3体の妖魔が歩み出る。  
 妖魔の体がこの空間に出ると、ぴしぴしと音がして、空間の裂け目は再び閉じていった。  
「いや扉閉じただけだって。しかも妖魔ってなんだ妖魔って。なんか目怖いぞお前」  
「あー……もうネリチャギ子に何言っても戻ってこないと思う。それよりちょっとこれほどいてよ中田君」  
 近づく妖魔に、忘れかけていた恐怖がよみがえる。  
 しかしそれで裸の身体をいくらよじろうとも、きつく絡みついた触手は離れようともせず、むしろ締め付ける一方だった。  
 醜悪な外見の妖魔はだらだらと唾液を垂れ流し、飢えた獣の目をして少女へと近づく。  
 絶望を体現したようなその姿は、少女の心を折るに十分すぎるほどだった。  
 
「やー、ネリチャギ子にいいもの用意して待ってる、って呼ばれたんだけどさ」  
「この状況はちょっと……なぁ?」  
 悲鳴と呼ぶにはあまりにか細い、かすれた声。  
 これから自分は一体どうなってしまうのか。  
 ぐるぐると回る頭にはありありとその様子が想像できてしまう。  
「俺佐和田さんちょっと気になっててさ。それでこれじゃ、我慢できねーよ」  
「へ? いやちょっと何言って――んぷっ!?」  
 身動きのとれない彼女の口内を、妖魔の伸ばした舌が蹂躙する。  
 まるで腐った果実のような、甘い匂いと味。  
 本来は嫌悪するような行為を、彼女は夢中になって貪った。  
「っあ……だ、だめぇ、だめだよ中田くん」  
「佐和田さんキス弱いの? 目がとろんとしてる」  
 反応に気をよくした妖魔は少女をいいように弄ぶ。  
 手を使い舌を使い、時には触手も使って。  
「佐和田さん意外に胸あるよね。夏服とかのとき結構目立ってたよ」  
「こ、こんな状況で言われたって嬉しくない! や、やだ、さわんなこらぁ!」  
 妖魔の動きは容赦ない。何よりも彼らは本能に従って生きている。  
 その本質が求めるものは――陵辱。  
 子を産むと言うことにこだわらず、彼らは人の絶望を食らう。  
 顔を悲痛に歪ませる事こそを快楽に感じる彼らが、手を緩めることなど決してないのだ。  
「なんか人のことひどい言い様だけど……お前もここでじっとしているだけってこたぁないんだろ?」  
 ひ、と短い悲鳴が漏れた。  
 彼らにとっては目に映った女性は全て嗜虐の対象でしかない。  
 見ているだけだった自分もまた、すっかりと媚薬につけ込まれ、体の芯が熱く疼いている。  
 現に今、触れられただけで頭の芯までに電撃が走り抜けた。  
 耳にぬるぬるとした感触が蠢く。  
 視界にもやがかかって、まるで魅入られたように。  
 へなへなとその場に崩れ落ち、眼前の捕食者をただ呆然と眺める。  
 戦う力も意志も、もうとっくに失って。  
 罪悪感と無力感に苛まれながら、ほろほろと涙を流した。  
「や、やあぁ、らめ、らめなの、いれちゃらめなのぉ」  
 目をやればそこにはあまりに小さな少女の身体。  
 まるで神殿の支柱のように大きな生殖器を下腹部に押しつけ、妖魔は不敵に笑うのだった。  
「だーめ。もらっちゃうね〜、こんなぐちょぐちょなんだもん、すぐに気持ちよくなってくるから……さっ!」  
 距離を隔てたここにまで聞こえてくるほどに。  
 ぐ、突き出した妖魔の腰。  
 あれほどの大きなものを、一息に慈悲もなく。  
「あ、あ、うわあああっ、ひ、ひどい、ひろい……よぉっ……!」  
 ずん、ずんと力強く奥を叩かれる。  
 すでに蕩けきっていた身体はあっけなくそれに反応して。  
 もはや少女の声は悲鳴とも、嬌声ともつかなかった。  
「……てかお前抵抗しないの? まぁ楽でいいけど」  
 じゅる、と妖魔の長い長い舌が左右に揺れる。  
 すでに全身をなめ回され、さきほどの触手など比較にもならない強力な媚薬を大量に摂取してしまった。  
 抵抗しようにももう遅い。  
 空気に触れているだけでも発狂しそうな、すさまじい快楽が体の隅々まで支配してしまっているのだから。  
「どーゆー設定だそりゃ。まぁいいけど……なんか張り合いねーな……」  
「ぶつくさいってんじゃねーよ。それでもヤることはしっかりヤるんだろ」  
 腰を突き込みつつ、妖魔が仲間に声をかける。  
 そうだ。この後どうなるかなんて、わかりきっているじゃないか。  
 自分にここから助かる術なんて一つも残されていない。  
 ただ快楽に溺れ、孕み、産み、また孕まされる――そんな原始的な生活。  
 まるで獣のように。  
 いや、そこには愛などというものは全く存在せず、ただ道具のように扱われ、壊れるまで酷使される。  
 奴隷ですらない。死ぬ権利すら奪われるというのは、生物として認められるのだろうか?  
「なにげにこいつも結構胸でけーよな……うっわ柔らけー……」  
「お前よくそんなぶつくさ呟いてる怖いの相手にできるな。俺無理だわマジで」  
「いいんだよこういうのはこういうので。ほら、しゃぶれよ」  
 そして眼前にはあまりに凶悪な妖魔の男根。  
 ただよう悪臭すらもすでに身体を疼かせるソースでしかなく、頭を押さえられた自分にはどうすることもできず、涙を浮かべながらあまりに大きなそれを口内へと納めていった。  
 
「う、あああ、そんなおく突いちゃらめ、らめぇ……やめてよぉ」   
 耳に届く声は悲痛にまみれて。  
 運命を呪っているのだろうか。  
 守ってあげられなかった自分を憎んでいるのだろうか。  
 心の中で地べたに頭をこすりつけ、許しを請う。  
 彼女があんなに苦しんでいるというのに、どうして自分だけが気持ちいいのだろう。  
 乱暴に胸をもむ手が気持ちいい。  
 刺すようなさげすんだ視線が気持ちいい。  
 くわえさせられた口の中が燃えるように熱くて気持ちいい。  
 添える手にも動きをつけて、一生懸命に奉仕して。  
 道具として扱われる自分に、どこか陶酔していた。  
「っ、つーかお前なんで咥えながらそんな滑舌よく喋れるんだ、よっ……う、うわ、すげ……」  
 男性経験のない自分には、どうすればいいのかなんてわからない。  
 ただ夢中で舌を動かし、唇で締め付けて、何度も吸い付く。  
 まるで身体が勝手に動くように。  
「う、うそつけお前、処女がこんな舌使いできるわけ……うわ、わ、わ……ちょま、で……出る……っ!」  
 音と共に、びゅるびゅると粘っこい液体が飛び込んでくる。  
 長く長く、私の口の中を満たすように。  
 苦い味が広がって、涙が零れ落ちた。  
 頭を押さえつけられた私は、吐き出すこともできなくて。  
 はらはらと嘆きながら、ゆっくり――こくん、こくんと、飲み干していった。  
「ふぁ、ふああ、は、激し……激しい、のっ……こわれ、ちゃう、よぉっ……!」  
 床に垂れた残滓を嘗め取らされながら、そんな声をどこか遠くの出来事のように聞く。  
 よつんばいになった私には、彼女の姿は見ることができない。  
 後ろから腰を捕まれるのを感じて――ああ、そうなんだ、と。  
 わたしも、ああなっちゃうんだ、と。  
 胸にぽっかりと空いた穴を、そんな諦観が埋め尽くした。  
「んじゃま、お邪魔しますよー……っと」  
 瞬間、目の前が白に染まる。  
 ばちばちと稲妻が頭の中で走り回る。  
 強引に突き破られた痛みは指先にまで余す所無く走り抜け――あまりの衝撃に私は息をすることすら忘れていた。  
 痛い……痛い……突っ伏したまま太股を見ると、私の乙女だった証が流れ落ちていくのが見えた。  
 汚された。  
 その事実を突きつけられて、胸がじくじくと痛む。  
 もう溢れてくる涙を止めることすらできない。  
 波に弄ばれる小舟のように、ただがくんがくんと揺さぶられて。  
 内蔵を叩きつぶすその肉に、悲鳴を押さえるのがやっとだった。  
「うそつけお前、血なんか出てないし。どーみても非処女じゃん」  
「いや血ぃ出ない奴も結構いるぞ。お前処女膜の感触なんかわかんの?」  
「……いやわからん。プロだって判別つかないって言うしな……まぁ、穴は穴だからいーけどよ」  
 妖魔は嫌らしい笑みを唇の端に浮かべ、無遠慮に私の膣内を踏み荒らす。  
「ふ、ぁ……ああん、そこぉ、もっと、ぉ……」  
 はっとして口を押さえる。  
 その言葉が自分が発したものかと思ったから。  
 痛みはまるで陽炎のように引いていた。  
 きっと、大量に塗り込まれた媚薬が作用しているのだろう。  
 痛みすら快楽に変えてしまうような、悪魔の淫薬。  
 性への耐性など持たない私は、あらがう事なんてまるでできずに。  
 情けなくも息を荒げ、お腹から上ってくる熱に恐怖を感じていた。  
 ……同じだ。  
 凄腕の退魔士だなんて威張っておいて、結局は私も女だったのだ。  
 だからこんな突き込まれる剛直に快楽を感じ、甘い息を吐く。  
 何のことはない。ただ妖魔に組み敷かれて、精液を注ぎ込まれるだけの――弱い女でしかなかったのだ。  
「は、あ、だし、だし、てぇっ! せーえき、びゅびゅーって……おまんこの中に、出してぇっ!」  
 それは間違いなく私の上げた声。  
 こんな声を出せたんだ、私……  
 それはすごく幸せそうで、満ち足りた声に聞こえた。  
 このまま種を植え付けられて、一生妖魔に飼われるのも、悪くないかもしれない――  
 狂い始めた思考は、そんなことも考えてしまう。  
 何かがおかしくなっていた。  
 
「あー……俺そろそろ出るかも。佐和田さんすげーよここ。我慢できね……」  
 まるで死刑宣告を受けたような、そんな顔。  
 避けられなかった最悪のシナリオは、今まさに少女の身に降りかかろうとしていた。  
 しかしその意味は、さっきと微妙に違っていて。  
「やあぁ、らめ、中に出しちゃらめぇ!」  
「なんでさ。ここに出したらきっとすごく気持ちいいよ?」  
「だ、だかららめらのぉ……! 今出されたら、あたし、耐えらんな……ふあんっ!」  
 その声はただ甘く、恐怖よりも歓喜を強く感じる。  
 私も……あんな声を出しているのだろうか。  
 串刺しにされたように身体の奥深くまでを蹂躙されている。  
 痛みなんてとうになく、ただ、ただ気持ちいい。  
 もっとかき回して欲しい。  
 もっと強く突いて欲しい。  
 もっと犯して欲しい。  
 出口のない暗闇の世界。  
 肉と欲望の支配する、そんな地獄で。  
 まるで天国のような、快楽にだけ従っていれば、きっと幸せになれるだろう。  
 だから何も、怖いことなんか無い。  
 ただ、求めるままでいればいい。  
「あ、あ、あ! やら、やらぁ! びゅくびゅくって震えて……あっあっ……れ、れてる……れてるのぉっ!」  
 妖魔が腰を強く押しつける。  
 自分のものだと、マーキングをするように。  
 奥深くに、所有物である証を刻みつける。  
 一生消えない印を。  
「ひ、ん、ぁ……熱、あちゅい、よぉ……! っく、イ……く、イっちゃ……! はああっ!」  
 とうとう耐えきれずに、甲高い悲鳴が聞こえてきた。  
 ――彼女はもう、戻れない。  
 妖魔に犯された人間はその快楽を忘れられず、虜になる。  
 魂ごと縛り付けられ、まるで飼い犬のように。  
 人としてのプライドも意志も何もかも捨てて――一生飼われるのだ。  
「佐和田さん、すっげエロい顔してるよ……こ、このままもう一回していいかな」  
「ばっかやろ早くどけよ。順番あんだからよ」  
 そうなのだ。  
 妖魔は一体ではない。  
 入れ替わり立ち替わり、ひょっとしたらまだ増えるかもしれない。  
 永遠に犯され続ける自分と彼女の姿を想像して――背中を走る電撃にぞくぞくと体を震わせる。  
「ふ、あ――ああん、またはいってきたぁ! いやぁぁ、もういやあぁ」  
 甘い声で拒絶を叫ぶ。  
 彼女は――本当はどちらを、望んでいるんだろう?  
 素直になればいいのに、と思う。  
 内蔵をかき回されるこの熱さがたまらなく愛おしい。  
 全てを投げ出してしまえば、もっと楽に――気持ちよく、なれる、のに。  
「はぁ、あん……お、おくぅ。子宮、もっと突いてぇ」  
 たまらない。  
 もう頭の中はとっくに馬鹿になっていて、それだけしか考えられない。  
 大切であるはずの場所に、汚い精子を注ぎ込まれる。  
 それが示す意味は、破滅以外にないだろう。だがそれでも、私は……  
「すっげ、ドロドロで、熱くって……で、出ンぞ」  
「は、あああ! 出して出して! わたしの子宮、精子でいっぱいにして! 孕ませ、てぇぇっ!」  
 目を見開いて叫ぶ。  
 欲しい。欲しくてたまらない。  
 命と引き替えにしてもいいから、精液が欲しい。  
 体の一番奥にどくどくと注ぎ込まれて、狂ったように泣き叫んで。  
 彼女のように、体内に熱を感じて堕ちてしまいたい。  
 だから私は、早く早くと、何度もせがんだ。  
 
「友達は中出しされたし、不公平は良くないもんな? っく、イ、く……ぞっ」  
「は、ふあ、せーし! せーしほしいの! んああ!? き、た、きたきたきたああ!」  
 お腹の奥からびくんびくんと鼓動が聞こえる。  
 震える度にそれは溶けてしまいそうな熱を叩きつけてきて。  
 頬がだらしなく緩んで、幸せに打ち震える。  
 いいのだ。私はもう――これだけを考えて生きていけばいいのだから。  
 
「やらぁ! そこやらぁ! おひりはゆるしてぇ!」  
「おーい交代交代。俺もそっち試してみるわ」  
「カズとトシオも呼ぶ? なんかこいつら全然オッケーそうだし」  
 
 
 
 悪夢はまだ――終わりそうになかった。  
 
 
 
 
 
 
 
 むせかえるような性のにおい。  
 そこかしこに響く荒い吐息。  
 その空間に嬌声が絶えることはなく、私たちは未だに犯され続けていた。  
 何度も中に出され、そのたびに快楽の悲鳴を上げて――幸せを感じさせられて。  
 気を失うことも許されず、私は……私たちは、妖魔に踏みにじられていった。  
 いつからか、子宮の奥深くからとくん、とくんと鼓動を感じることがあった。  
 それはさらなる絶望を私に与えて。  
 忘れるために、塗りつぶすために、余計に行為を求めるようになっていった。  
 でも、それでいいのだ。  
 だって私は、妖魔の所有物で――  
 
「盛り上がってる所悪いんだけどさ、お前なんでこんな事したわけ」  
「佐和田さんになんか恨みでもあんの? こんなことしてる俺たちが言えるこっちゃねーけどさ」  
 
「いや、ちょっと……次の本のネタにしようと思って」  
『死ねよお前』  
 
 
 その瞬間、その場の全員の声が見事にハモった。  
 
 
 
           fin.  
 

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