おー、ここが天国かぁ、という感慨もなければ感激もない、あるのは目の前の壁、壁、壁。  
「・・・・・・壁?」  
 いやいや、天にも昇る気持ちで消えてみれば壁、そして俺は何か柔らかいものの上に寝かされている。何かと見ればベッドで、なるほどベッドに寝かされているのか、と動こうとすれば手足が動かない。  
「・・・・ん?」  
 手足が、動かない。  
 体を捩れば理由は判明、腕は背中に回され腰のところで手首拘束、足首も同じく拘束、細い何かのコードのような紐は頑丈で動くと肌に食い込んで痛みが走る。  
 ここはどこ? ああ、素晴らしき天国。  
「・・うあ、いやいや、えー・・・・?」  
 ここが天国? 身動きできないでベッドに寝かされて目の前にあるのはシンプルな白の壁紙、これが天国。  
 いやいや、やってられねー、と丸めていた背中を伸ばして窮屈さを解そうと思えば、後頭部に何かが当たる。  
「・・った・・・・」  
 それは俺の声ではない、もっと高い、性別で判断するならば明らかに女、ん? と苦しいながらも仰向けになって勢いつけて回転、視界一杯に広がったのは少女だった。  
 肩までの黒髪は俺と同じように寝ているせいで枕に広がっている。頬にかかった黒髪が何となく可愛らしい、見た目的に天使な彼女よりは年下だろうと思える、そんな少女が俺の目の前にいた。  
「・・・・・・あー、どうも」  
 何と言ったものか、出てきたのは間抜けな言葉、阿呆な物言い、しかし彼女は頷くように頭を下げて応えて、それから間近にある俺の顔を見て顔を真っ赤にする。  
 おおう、そんな反応されると俺まで照れる、と俯いて視線を泳がし、どうしたものか、と考えている時に、ばたん、そんな音が鳴り響いて少女の向こうの扉から現れたのは、お姉さんだった。  
「あ、起きたぁ? おはよぉう」  
 膝まで隠すスカートに、どこの侍だよと突っ込みたくなるような髪型、ポニーテール?  
「・・・・あー、どうも」  
 
 にこにこ笑っているお姉さんに挨拶、そんな俺を見て目の前の少女は必死に振り返ろうとするが、よく見れば少女も手足を拘束されている、更には俺のようなバネもないのか、振り向こうにも振り向けずもがいている。必死にもがく姿はちょっと面白い。  
 それはともかく、お姉さんはベッドに歩み寄って端に腰を落ち着け、はふうと溜息、俺ら二人を見下ろしてけらけら笑った。  
「やー、疲れたよー。あんた達を持って帰ってベッドに寝かせる、いやいや、もう若くないっての、あははは」  
 あははは、と俺も苦笑いをこぼして、お姉さんの笑い声が止まるのを見計らって言う。  
「で、えっと、今の状況の説明をしてほしいんだが・・・・」  
 まさか天使な彼女、間違って地獄に送ったのではないだろうな、という疑惑がひしひしと広がるが、お姉さんは一言でそれを否定した。  
「天国に来たんだよ、あんたら」  
「・・・・・・・・はぁ」  
 いや、普通なら、『え、天国? やったぜ!』とか喜ぶのだろうが、何しろ現状がこの状態、果たして喜べるのか、と思えば目の前の少女はさめざめ泣いている。  
「・・天国・・ああ、ここは天国なんですね・・ああ、やっと・・・・」  
「・・・・は、え? ・・いや、俺の感情回路がおかしいのか?」  
 違う、間違っているのは俺ではない、あからさまに少女、それに泣いている少女を見下ろして感慨深そうに頷きながら少女の頭を撫でているお姉さんの方がおかしい・・・・はずだ。  
「・・な、なあ、何で俺らは縛られてるんだ?」  
 この質問に目の前の少女まで怪訝な顔をしたらどうするか、と本気で心配したが心配無用、少女ははっとして赤くなっている目を見開き、振り向こうとするがもがくだけ、という行動に戻った。  
 その面白い光景に見とれるのも悪くないが、むしろ眺めていたいが、あっけらかんと何でも言ってくれそうなお姉さんに視線を向ける。  
「あー、理由? 一応、念のため、かな?」  
「・・・・・・・・」  
 何故だろう、答えが疑問系だと怒りよりも不安を覚える。  
 まあ、それは置いて納得、いや納得したふり、もがく少女を視界の端に入れたまま、唸る。  
「・・・・あーっと、意味が分からんのだが・・できれば、一から説明を・・・・・・」  
 
「えー」  
 いや、そんな面倒そうな声を上げられても、縛られて転がされている俺らにしてみれば困るどころじゃない。  
 何だか視界の端に入っているもがく少女が鬱陶しくなってきたが、冷静、そう、いつだって冷静さが物を言う、落ち着いて天使な彼女の物真似よろしく溜息を吐く。  
「いやいや、状況が把握できないと、俺らもどう対応すればいいのやら・・・・と、そういうわけなんで、是非」  
「・・うーん・・しょうがないなー」  
 悩んで迷って結論、仕様がないと呟いたお姉さんは、もがき続ける少女の髪を撫でながら言う。  
「あっとねー、ここは天国なんだけど・・・・あー、ほら、二人とも切符で来たでしょ? そういう人たちって、生きてる間は積極的に善行を積まなかったわけじゃん? だからさ、天国でうまくやれるのか、もしかして危険な存在になるんじゃないか、とかさ、色々とあるわけよ。だからね、切符で来た人たちは、先住民、今の状況だとあたしね、そういう人らに判定してもらうんだよ。果たして天国でやっていけるような人なのかって。んで、君ら二人は、正に今、あたしによって判定されてる最中ってわけだよ。んー、おっけー?」  
 大人っぽい顔の割りに砕けた話し方をする人だなー、などと考えていたことは表に出さず、なるほどと納得至極、うんうん頷く。  
「・・なるほど」  
 まあ、要するに、危険人物かどうかを調べてると、ただそれだけのことを長ったらしく言ったわけか。なるほど。はは。  
「・・え、あの、でも・・・・」  
 不意に上がった声はもがいている少女のもので、少女は漸く諦めたのか、何故か俺を見て抗議を始める。  
「わ、わたし・・あの、三百年ぐらい、良いことをして来たんですけど・・・・」  
「・・・・・・・・・・」  
 にべもない、言葉もない、ははははは、乾いた笑い声が心に木霊する。  
「あ、らしいねー。でもねぇ、一応、切符組ってことは変わらないのよ。ごめんねー」  
「・・・・そ、そうなんですか・・」  
 あ、泣きそう。  
 
 いやいや、そうでなく、そうではなく、しかし目の前の少女は服装も普通、顔立ちも三百年前の人には見えんが、これ如何に?  
「狭間だと時間の感覚は個人に優先されるからねー。あ、今、何で俺の考えが、とか思った? うふ、もう何回もこういうのやってるからねー、分かるってば。きゃはは」  
「・・・・・・あー、そう・・・・」  
 このお姉さん、何か生理的に苦手だ、できれば逃げたい、というか逃げたい、しかし今の体勢で逃げ出すには無理がある、というか無理に動けば背骨が折れる。ここは一つ、我慢で。  
「・・・・それで、判定ってのはどうやって・・?」  
「・・・・・・んー・・あは、まだ考えてない」  
「・・あ、そう」  
 この人から勢いを取り除けば骨しか残るまい、と馬鹿なことを思考、その目の前で少女が赤く腫らした目を引き立てるように眉を八の字にする。  
「・・・・あ、あの・・ここ、ほんとに、天国なんですか・・?」  
「え? いや、俺に聞かれても・・・・・・」  
 咄嗟に答えるがそうではない、少女が聞いているのはお姉さんで、少女は単に視線を自由にできないという不自由に囚われているが故に俺を見ているに過ぎない。  
 現に俺の言葉に少女は首を振る仕草をかろうじて見せる。  
「あ、言ってなかったっけ」  
 一人呑気なお姉さんは少女の頬を撫で、俺に笑顔を見せる。その笑顔に一切の信頼、期待、羨望といった素晴らしいものを感じないところがお姉さんのアイデンティティーに違いない。  
「そうだねー・・・・じゃあ、はい、目を閉じる」  
 その言葉にあっさり従って少女は目を閉じた。それを見て俺も何となく閉じなければならないような気がして目を閉じる。広がるは暗闇、その暗闇の中を泳ぐようにお姉さんの声が聞こえてくる。  
「はい、想像する。君らは今、空に浮かんでいます」  
 また陳腐な、とか呆れつつ想像、空、青空、雲の漂う青空の中に俺は浮いて──いる。  
 目の前に広がる真っ青、霞のような白が散らばる中、薄い酸素のせいで呼吸が困難、やけに冷たい風が肌を突き抜けていく。  
「おあっ!」  
 
 驚いて目を開ければ、俺の声に驚いたのか少女が目をぱちくりさせていて、それはなかなか愛らしい仕草だったが今は無視、にへらと笑っているお姉さんを見やる。  
「お、おい、あ、いや、あの、今、空、雲、じゃなく・・・・あー、あっと、ん? あれ?」  
 そういえば俺は、普通に話しているし、転がされているのはベッドの上、目の前には不思議そうな表情で俺を見る少女がいる。  
 ん? つい一瞬前まで、俺は確かに空にいたはずだが・・・・・・と混乱の波状効果、困惑の波にやられて言葉のなくなった俺を見て、お姉さんは息を詰まらせるようにして笑っている。  
 殴りたい、いやいや、女性を殴る男は最低だ、せめて投げる、いや転がす、その程度ならば許容されるだろうか?  
「君は良かったけど、あなたは駄目だったみたいねぇ」  
 お姉さんは俺の計画など知らず、少女の耳たぶを撫でている。お姉さんの細く長い指が耳たぶを行き来するたびに少女はくすぐったそうに目を閉じたり唇を震わせたりしているのだが、まあ方向の問題、お姉さんは全く気付いていない。  
「ま、今のが天国の証明だよ。想像力がものを言う。想像してるだけで生きていける。でも、ねぇ」  
「・・・・ぁ、あの・・」  
 お姉さんの手が首筋を滑って、少女は小さな抵抗を見せる。  
 まあ、そんな抵抗なんて無意味、それは瞬時に判明したけどその通りで、お姉さんには止める気配どころか少女の声を聞いている気配すらない。  
「生まれ変わりってのは、神様に頼めばいいんだけどさ、想像の世界で楽しめるんだから、わざわざ生まれ変わろうなんて思う人は少ないんだよ。でも、ねー・・あなたみたいに、いまいち想像力が働かない子には、ここも退屈な場所なんだよねー。何しろ皆が皆、想像に集中するために目を閉じてベッドの中だからねぇ。あは、どう? 信じた?」  
「・・・・・・・・・・」  
 いや、むしろ三百年もかけて漸く訪れた天国が自分に不向きと告げられて絶望している感すらあるが、そこはそれ、ともあれ俺は自由にならなければならない。  
 想像で現実感を味わえるなんて生活、その素晴らしさはまだ判然としないが、そういうことでなく純粋に今の態勢がきつい。何で天国でこんな態勢なんだよ、というか今の態勢を忘れることも想像力で可能なのか?  
 
 例えば優雅にお茶を──座布団の座り心地、香るブラックコーヒーの苦み、舌にざらつく安物の味わい。  
「うあっ!」  
「・・っ!」  
 あまりに鮮明な感触に驚き悲鳴、またも少女がびっくり、いやいや、こんなこと試してる場合じゃないから。  
「・・その、手早く解放してくれ」  
「あはは、めちゃ楽しそうじゃん」  
 ぐうの音も出ない。  
「ま、確かにきつい格好だもんね。ちゃちゃっと判定しようかな」  
「よろしくお願いします」  
 ああ、頭を下げられないのが残念だ、と思ってさめざめ、溜息でも吐いて気分転換でもしようとしたら目の前にお姉さんの顔、うお、と息を呑んだ時には唇と唇が重なっていた。  
 柔らかい感触、何事かと狼狽するべきかと迷ったが却下、何故ならお姉さんの頭の向こうの少女の切羽詰った真っ赤な顔を見た瞬間に醒めたから。むー。  
 顔を離したお姉さんはにっこり笑顔、いやはや意味不明、はてさてどうしたものか。  
「・・あーっと」  
 胡乱げな俺に対してお姉さんは一つ頷く。  
「誰かがいいこと言ったね、体を重ねれば全てが分かる」  
 聞いたことねー、とか言っても無駄だということは分かっているので黙って首肯、もう解放されるんなら何でもいい。まじで。  
「はい、あなたも、ちゅー」  
 んー、と唇を突き出すお姉さんの顔が接近、少女は枕に頭を沈めて必死に回避しようとしている。  
 おお、どこまで少女の頭は枕にめり込むのか、という緊迫感の欠片もない興味も湧かない光景を見ていると、不意にお姉さんは頭を止めた。  
 
 少女との距離、およそ紙一枚分。  
「・・・・あなた、キス、したことある・・?」  
 息のかかる距離、お姉さんの声は少女の震える唇の隙間から入って口の中へ、じゃなくて耳の中へ、少女は涙目で「・・・・・・ない、です」と小さな声。  
「・・・・・・ふーん」  
「・・あ、何か思いついた」  
 って、いつの間にかお姉さんの表情から何かを読み取れるようになってしまっている。  
 何故か凄い落ち込むがお姉さんは無視、少女から顔を離して俺を見て微笑、うわ間違いなく巻き込まれる、という俺の考えは正しくて、お姉さんは少女を抱き起こして微笑、微笑。  
「なかなかねー、想像にも限度があるのよ。たまには体験しないとね」  
「・・・・はぁ」  
 異論は議論に発展する前に笑顔で黙殺されるだろうから適当な相槌で場を流す。  
 そして流れた場というものは極地だった。お姉さんはおもむろに簡単に俺のズボンを脱がして微笑、一瞬で顔を真っ赤にして目を見開く少女を無視してトランクスも脱がせた。露になるは俺のだらしな  
いもので、お姉さんの笑みが濃くなる。  
「・・えーっと、何故に?」  
「判定よ、判定」  
 それって嘘ですよね、と訝る俺のまだ柔らかいものを指先で突付く。顔は隣の少女に向けられている。  
「ねえ、これ、見たことある? ないでしょぉ」  
 しかし残念無念、少女は目をぎゅっと閉じて顔を逸らしているので硬くなる俺のものを見ていない。  
「あ、ほらほら、おっきくなってきた。見ないの?」  
「・・・・・・・・!」  
 少女は頑な、一向に俺のものを見る様子などなくて、そうする間に俺のものは膨れ上がって最高潮の硬さへと発展した。  
「んふふー」  
 脳内変換に誤差が生じそうな笑い声、それを発しながらお姉さんは少女の肩を掴み、どうするのかと思いきや俺の腹へと倒れ込ませた。  
「きゃっ」  
 短い悲鳴、驚いた少女が目を開けば目の前にあるのは俺の反り返ったもの、再び悲鳴。  
 
「きゃぁっ!」  
「・・・・・・・・・・」  
 うん、まあ、後者の方が驚くのは分かるが複雑な気分、それを知らずお姉さんは悪戯に笑っている。ああ、夢も希望もない。  
「初めて見たぁ? ほら、目、開けて」  
 お姉さんは少女の頭を持ち上げて俺のものに接近させる、うわこのままだと、とか思うがお姉さんに躊躇なし、頭をぐいぐい寄せてくる。  
「や、やぁっ」  
 さすがに異変と立ち向かうためには視界が必要、しかし目を開けた少女の目の前に迫る俺のものを回避する方法は俺にも分からない。  
 少女の唇が側まで寄って息がかかる。それだけで背筋がぞくっとなるが、お姉さんは当然、それだけでは許さない。  
「はぁい、もうちょっとだよ。ほらほら、唇、突き出してー」  
 迫る唇、少女は頬を強張らせて拒絶反応、お姉さんノリノリ、俺はどうにも複雑な心境、いや気持ちいいのは好ましい上に判定も済むなら願ったりだが嫌がっている人を無理やりに、というのは気持ち的に昂らないものがある。  
 はっと天使な彼女の舌打ちする顔が思い浮かぶ。ああ、彼女はどうしていることか。  
 そんな回想も打ち消す刺激、うわっとなれば少女の桜色の唇は俺の先端に押し付けられていた。  
「はい、初きっすー」  
「・・・・・・っ!」  
 ぐに、と柔らかな唇が形を変える。うわあ、やっちったー、と非難がましい顔をお姉さんに向けるが無視、もう無視こそお姉さんの基底概念なのではと疑るというか確信、俺は溜息を吐く。  
 なるほど、天使な彼女の溜息の物真似もいいかもしれない、いい具合に色々なものが吹っ飛んで妥協を容認できる・・・・いやいや、駄目じゃん。  
「ほらぁ、どう? ほらほら」  
 お姉さんは少女の頭を掴んでゆさゆさ揺さぶる。少女の唇が先端を擦って至極、しかし少女の嫌がる顔が罪悪感。  
 ああ、いかなるものか、遺憾なるものか。俺にはどうしようもないんだ、許してくれ。そんな軽薄な謝罪を繰り返しながらも視線を逸らせないのは男の業に違いない、と自分の悪趣味を全ての男に当てはめて一安心。  
「ほらほら、あーんして、あーん」  
 もはや少女に同情してしまいそうだ、お姉さんは頑として口を開こうとしない少女の太腿に手を這わせて無造作にスカートの奥に手を入れる。  
「・・ぁっ!」  
 
 驚いた少女の口から声が漏れて、そうなれば口が開いて押し付けられていた先端が入り込み、そこをお姉さんが後押し、というか頭を押して一気に半ばまで銜え込ませた。  
 生温かい感触が皮に触れて快楽物質が脳内で分泌、だが少女が不憫でならん、まじで。  
「・・・・ぅ、ん・・!」  
 苦しいのか唇を窄めている少女は眉を顰めて呻き声、喉の震える感じや口内の粘膜が張り付く感じは快楽物質多量分泌、うああ、とか思いながらも目を離せない。  
「んふふ、ほら、舌を動かして・・ねぇ」  
 お姉さんは一人暴走、というか独りよがり、独断専攻、少女の後頭部を押して根元まで含ませ、抵抗して少女が頭を上げれば再び後頭部を押す、その繰り返しは少女の唇が皮を扱く行為と同じで、更には口内を熱い息が行き交っていて、俺のあれは刺激に震えてしまう。  
 そこにお姉さんの手、指の長い手があれの根元についている袋を揉んでいよいよ降参、いやいや我慢。  
「・・もっと、ほら、唾を溜めて・・」  
 お姉さんは少女の苦しそうな顔、その頬に舌を這わせながら囁いている。  
「・・ぐっ、ん・・! ・・ぅ!」  
 少女はといえば喉の奥から声を漏らすだけで、時たま苦しさのあまり歯が当たる。それが刺激になって快感、俺は変態かよ、いやいや違う違う。  
 ぐっと堪えて深く息を吐いて落ち着きを取り戻す、それもお姉さんの舌が彼女の唇を舐めると同時に棒に触れたところで決壊する。うああ。お姉さんの舌は根元と袋の境目を這いずって快楽、少女の唇が上下に動いて扱かれて悦楽。  
「・・・・・・ああっと、出す時は、ちなみにどこに?」  
 まさか床に出せとは言われないだろうと思いながら質問、お姉さんは袋を揉みながら明るい笑みを見せる。  
「彼女の口の中ぁ」  
「・・・・そうですか」  
 今、あからさまに少女の口が強く窄められて窪みの部分に歯が当たったのだが、なるほど、どうやら俺に選ぶ権利はないらしい。  
「・・・・・・あー、ごめん」  
 それしか言えない、ほんと申し訳ない、しかし俺が悪いんじゃない、お姉さんが悪いんだ。  
 そのお姉さんの口が袋を銜えて内部で蠢く玉を舌で突付いて、俺のあれが大きく震える。それに驚いた少女の頭が引かれて、窄められた唇が先端の丸みを帯びた部分を擦った。  
「・・だぁ、ごめん・・・・!」  
 
 もう、それしか言えない。  
 俺のあれは過剰なほど震えを起こして射精、精液が袋を駆け巡って棒状の下から上に駆け上り、一気に先端から吐き出されていく。  
「っ! ・・んん、ぅぐ・・!」  
 ああ、申し訳ない謝罪の連弾、精液は大量に吐き出されて少女の唇の端から白く濁った液体がこぼれ出た。  
「口の中、一杯になった?」  
 そう言いながら、お姉さんは少女の口から溢れている精液を舌先で舐め取る。  
 刺激、その一言で全て解決できるような、全身の産毛が立つ感覚に襲われて俺は深く息を吐く。まるで快楽の全てを吐き出すような快感、俺はひたすら、少女の口内の感触とお姉さんの舌先の感触を感じて体を震わせる。  
 うあ、最高に気持ちいい。  
 全身の力が奪われていく錯覚はやがて途切れた。それと同時にお姉さんの手の押しがなくなって、少女が頭を上げる。唇が俺のあれから離れる際、精液が糸を引いた。苦しそうな表情と精液の淫猥さを思い知りながら嘆息、お姉さんが未だ精液に濡れている先端を舐めて体が震える。ああ。  
「飲まない方がいいよ。喉に引っ掛かるから」  
 そう言ってお姉さんは少女と口付け、ぼうっとしている少女の顔は幼いながらも性的な魅力を見せた。お姉さんの喉は蠢いて俺の精液を飲み込んでいるらしい、喉を何度も動かしてうっとり、唇を離せば深く深く息を吐いた。その息で少女とお姉さんの唇を繋いでいた唾液か精液の糸が途切れて消える。  
「はー・・あはは、何か久しぶりに生っぽくて楽しかったぁ」  
 そうですか、少女は目から涙をこぼしてしゃくり上げていますが、そうですか、と射精の余韻の消失とともに広がる罪悪感を覚えながら溜息、溜息、なるほど使い心地がいい。  
 しかし俺の気持ちも少女の心情も顧みることなく考えることなく、突っ走るお姉さんは笑顔を絶やさずティッシュで俺のものを拭き、そして少女の口からこぼれている精液と唾液を拭う。  
 行為の終了、残ったのは俺の罪悪感と少女の涙とお姉さんの笑顔。どうにも比重に差があるような気がしないでもないが、それはともかく俺には聞くことがある。  
「・・んで、自由にしてもらえるのか・・?」  
 これで駄目ならかつてない力を発揮できそうだ、と危ぶむ中、お姉さんはにっこり笑顔で大きく頷く。  
 
「そだね、面白かったし、うん、いいよ。二人とも、合格ー」  
「・・・・・・そう、ですか」  
 何故だろう、合格したのに殴りたい、いやいや女性を殴るのは最低最悪、でこぴん、又は頭突き、それら選択肢を思い描きながらも拘束が解かれて俺の口から漏れるのは安堵の息、少女も取り敢えずは涙を涸らした。  
「・・・・あっと、ごめん、本当に・・」  
「・・・・・・・・いえ」  
 そう言う少女の声は小さくて凹んでて、うあ、俺が凹むよ。  
「あははは、楽しかったー。あ、そだ、家は空いてるとこを探して勝手に住み着いていいよぉ。食べ物とか、そういうのはないから。なくても平気だから。精々、想像に励んで充実した毎日を送ってね」  
 うふ、と片方の目を閉じて魅力的態度、しかし俺から漏れるのは溜息ばかり、なるほど天使な彼女の心意気というか心情が分かったような分からないような、ともあれ俺は晴れて自由の身、扉に向かう。  
「・・んじゃ、俺は失礼します」  
「・・あ、私も・・・・」  
 俺の後に少女が続いて、お姉さんのひらひら振られる手を背中に受けて家から脱出、拘束から自由へ、外は普通の町並みで面食らった。  
「・・・・・・はぁ」  
 まだ顔の赤い少女の口から漏れる溜息、なるほど理由も分かる、普通の格好した人らが歩いている道路、見慣れたマンションの壁、家、それらは俺の倫理や常識から何ら外れることがない。  
「・・・・・・・・取り敢えず、家を探すか」  
 呟いた俺の手に温もり、怪訝になって隣を見れば少女が真っ赤な顔を俯かせて俺の手を握っている。  
「・・・・・・不安、なので・・・・」  
「・・・・なるほど」  
「・・・・・・しばらく、一緒に暮らしませんか・・?」  
「・・・・・・あー・・・・」  
 なるほど、とは言えない。  
 いやはや人の気持ちは分からない、感情は意味不明の連続、俺は少女の頬を見ながら空いた手で後頭部を掻く仕草を見せる。  
「・・仲良くしますか」  
「・・・・・・はい」  
 よし、取り敢えずは家を探そう。  
 俺は溜息を吐いて周囲をぐるりと見渡した。  
 
 終わり。  
 

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