疾走も失速、取り敢えず神様の前に立った俺は完全に引いた。  
「・・あ、え、なに? 言葉次第では地獄に落とすぞ、おい」  
 年の頃なら少女と同じぐらいか、釣り目と黒髪、果たしてワックスの力なくしては有り得ない棘のようになっている髪の毛、それに髑髏がプリントされたTシャツとジーンズ、おいおい間違いなく阿呆丸出しの女子高生だろう、とか思うが神の間というプレートの掛けられたマンションの最上階の部屋の中にいるのだから、神様なのだろう。  
 神様、神様、神様、駄目だ三度唱えても信じ込めない。  
「・・・・あーっと・・その、ほんとに、神様?」  
「あん?」  
 低めの声は勘違いでなく俺を脅迫、ソファに踏ん反り返る神様を突っ立ったまま見つめる。  
「不届き者が、死ねよ馬鹿、ったく、頭でも吹き飛ばすか? くそ」  
 おいおい、口悪すぎだろう。ナチュラルに傷付いたぞ。とかいう問題は些細というか眼中にもないらしく、神様はわざとしか思えないほど捻くれている目で俺をためつすがめつ見ている。  
 普通のマンションの一室、窓の向こうに広がる景色は青空、何か現実感がひしひしあって死後の世界とは考えられんが、まあ悩んでも仕方がない。  
「・・んで? 何の用で来たんだ?」  
「・・・・・・いや、ちょっと野暮用で・・・・」  
 鋭い視線に言葉も濁る、何しろ神様は舌打ち連弾で苛々の募りを表すように肘掛を指で連打、もう俺の言葉なんて聞く気もねえよと言わんばかりだ。  
 しかし、しかし言わねばならない、俺は少女の悲壮な顔を思い出す。  
「・・・・ここ・・ってか、天国か、天国って、想像力だけで暮らしていけるんだよな?」  
「・・・・・・ああ。んで?」  
「あー、その、想像力に乏しいというか・・・・まあ、うまいこと想像できない子がいて、何か悩んでるんで、神様の力でどうにかできないものかと・・・・・・」  
 恐る恐るおっかなびっくり、まさか本当にいきなり頭が吹っ飛んだりしないよな、などと首の後ろに寒気を感じながら提案、神様は腕を組んで右腕の二の腕を指先で叩く。  
 
「・・生まれ変わりってことか?」  
 静かな言葉に否定反応で応える。  
「いや、そうじゃなく・・天国にいるのはいいんだが、想像力がないと厳しいとか・・だから簡単に想像できるようになりたい、と」  
 やはり本人でないと本人の悩みは鷹揚に語れないものだな、と全く不必要な納得をしながら発言、神様は比喩でも暗喩でもなくカーペットの敷かれている床に唾を吐いた。  
「馬鹿が、我侭だろ、そんなの。生きてる間に想像力を養わなかったそいつが悪い。死ね。地獄に落ちろ。くたばれ。帰れ」  
「・・・・・・あー、なるほど」  
 何か最後の言葉は俺に向けられている気がしないでもないが、誰にでも勘違いはある、俺にだってある。  
 さて、まさか神様を説得することが斯様に難関だとは想像もしていなかったが、さりとて背中を見せるわけにもいかない。帰ることで責任が生じるわけではないが、後味の悪さが発生してしまう。  
「・・・・その、無理、ですか?」  
「無理だよ。いや、あたしの気持ち的にも無理だが、力的にも無理だ。あたしの力は創造するだけ、それ以外は対象外。土瓶や世界や男や女や大地や雲や水溜りを作ることはできても、それらの辿る運命やら精神的なことには拘われん。無理」  
 きっぱりはっきり明快爽快気分は暗鬱、あっさり言われて気分が重たくなる。  
 はてさて、どうしたものか。  
「・・うー・・今まで、その、上手いこと想像できんって人がいたと思うんだが、そういう人らの末路は・・?」  
 神様はちらと天井を見てから俺の視線を貫く。  
「輪廻転生、生まれ変わりだな」  
「・・・・左様ですか」  
 なるほど、つまり生きてる間に想像力を磨かなかった人は、死んで天国に来たとしても生まれ変わるしか道がない、ということか。  
 そうなると、悲哀な顔をさせれば天下一品、護ってやるぜと叫びたくなる少女も、ここでは生活することすら難しい、というわけか。  
 
「理解したか? なら、帰れ。あたしは忙しいんだ」  
 しっしと手を振られて俺はすごすごと背中を見せて歩き出す。例えば神様の傲慢さで無理と言われれば説得の道もあるが、根本的に無理と言われれば致し方ない、俺にできることはない。  
 せめて少女が悲しまぬよう慰めて、尚且つ生まれ変わりの素晴らしさを空々しさ満点で披露して、その空想物語でくすりと笑わせてあげよう。  
 俺にできるのはそれぐらいだ。  
 そう決意して帰宅、十二階建てのマンションの三階の八号室、エレベーターを降りて曲がって突き当たりの扉を開ければ、室内灯の黄色い光が俺を出迎えた。  
「えーっと、帰りましたー」  
 スリッパを履いてフローリングの床をぺたぺた、リビングに顔を出せば少女がテーブルに頬杖をついて溜息を吐いている。うあ。  
「・・あ、お帰りなさい、です」  
 上がった顔は憂鬱に悲壮、少女の顔を最大限に引き立てている。  
「・・・・えーっと、はは、うん、ただいま・・」  
 取り敢えず少女と向かい合うように椅子に座れば、流れるは沈黙、明らかに俺の言葉を待っているのか静寂が責め立ててくる。  
 覚悟を決めろ、こここそが俺の正念場、まずは考えをまとめるために目を閉じる。  
 暗闇の中で浮かぶは単語の数々、それら単語を繋ぎ合わせたところで辿り付くは少女の悲壮な顔、はあっと失望の溜息が俺を残念な気持ちにさせる。  
 いやいや、違う、そうじゃない。  
 俺は少女を楽しませるんだ。一緒に天国で暮らすんだ。  
 よし!  
「実は──」  
 勢いつけて疾走、どうにでもなれ、と話し始めようとして少女が顔を上げると同時に、インターフォンの間延びした音が鳴った。  
「──だぁっ!」  
 
 挫けた言葉に苛々、びくっと表情を歪めた少女にかろうじて笑みを見せて「ちょっと待ってて」と言って立ち上がる。  
 少女は小さく頷くが、表情にあるのは不安のみ、早くも俺のもたらす言葉から絶望を感じ取っているらしい。ああ、と思いながら玄関に向かい、うるさく鳴るインターフォンに舌打ちしながら扉を開ければ  
、神様が仏頂面で立っていた。  
「・・な、何用・・?」  
 自然と引き攣る顔は俺の正直さを表している、と無理やりに好意的な解釈をしてみるが、無理があったらしい、神様は舌打ちを放って顎で俺に『どけ』と指図する。  
 はいはいと脇に避ければ神様は土足のまま上がり込み、ずんずんと臆することなく遠慮もせずリビングに降臨した。  
「・・あ、あの・・・・」  
 見知らぬ誰かに呆然となっている少女と神様の対面、はわわっとなる俺の目の前で何が展開されるのか、知るは正に神様のみ。  
「今から審査するぞ」  
「・・・・・・・・は?」  
 見事なハーモニー、俺と少女の声が綺麗に被って何故か照れた少女が頬を染めて俯く中、神様は不敵に笑って先程まで俺が座っていた椅子に腰を落ち着ける。  
 審査・・・・・・それは恐らく俺ではなく少女に向けられたものだろうが、一体どのような内容なのか、気にする俺を焦らすように神様はテーブル上の蜜柑を手に取った。そして皮を剥いて半分に割って更に半分に割って更に半分に割って、八分割された一つを口に含んで不機嫌そのものの溜息を吐く。  
「・・・・蜜柑ってこんな味だったか? ・・何か苦いぞ」  
 それは舌がおかしいんですよ、という言葉を本当の寸前で呑み込んで息を吐く。  
 しかし蜜柑が苦いとは、なかなか聞かない感想、はてと思っていると少女の切迫した表情が目に入る。  
 
「・・? あ、と、どうかした?」  
「え・・あ・・・・」  
 少女はびくりと体を震わせ驚愕、額に汗を浮かべて空気を飲み込む。  
「ん?」  
 さしもの神様も異変に気付いたのか、本人は怪訝なつもりなのかもしれないが傍から見れば脅迫としか思えない目を向ける。  
 いやはや、純粋に恐いから、と思いながらも言えないもどかしさ、それはともかく少女は俯き、目を閉じた。  
「・・・・? ・・どうした? あたしは見た目は恐いかもしれんが、これは世話係の趣味で、本当は滅茶苦茶優しい上に笑顔が素敵だぞ」  
「・・・・・・・・・・」  
 ああ、ああ、嘘ばっか! と叫びたいが、言ってしまったが最後、どうなるか分かったものじゃない。ああ、ああ!  
 心が七転八倒を繰り返す最中、唐突に不自然に、神様がテーブルに頭突きを食らわせた。  
「おぉっ」  
 少女の緊張を解すための捨て身の一撃か、と感動する俺を置いて少女が露骨に申し訳なさそうな顔を見せる。  
 ん? 何かがおかしい。神様の顔を覗いてみれば、表情は悔しそうに歪み、今にも怒声を発しそうな雰囲気をあらん限りにしている。  
「・・・・・・あーっと・・え・・?」  
 何かしら作為的なものを感じて少女を見れば、少女の目には涙が溜まっており、その目が俺を捉える。  
「・・・・あー・・え、何かしら理解を超越した展開になってるが、もしや、君が・・?」  
「・・・・・・・・はい」  
 少女は深く頷いて、転がる蜜柑の実を手に取る。  
 
「・・・・・・これに、麻酔薬を・・」  
「・・・・・・・・え、麻酔薬?」  
 絶句という選択肢を初めて体感したのも束の間、俺の言葉に少女は重々しく頷き、ひしと熱意に満ちた視線を見せた。  
「・・・・だって・・一緒に住んでるのに・・それなのに、想像ばっかりで・・・・私なんて、いてもいなくても同じで・・だから・・・・!」  
「・・・・・・だから?」  
「・・だから、動けなくして・・・・・・既成事実を・・」  
 瞬間、少女の顔がぼあっと赤くなって、言葉も語尾を濁す。  
 なるほど、つまり・・・・・・少女は俺とやりたかったわけか! というのは勝手な勘違いで、少女は単に、必要とされないことに不満を感じたのだろう。それで麻酔薬を仕入れて俺を拘束、その俺と無理やりに強烈な接触を持つことで、想像と戯れる俺の根底を壊したかったのだ。  
 違うか? いくら想像を体験できるといっても、やはり心まで掴むことはできない。なので俺に少女の詳しい気持ちは分からない。  
 だが、考えることはできる。考えて解答を模索することはできる。更には模索をぶつけることで反応を窺うことだってできる。  
「・・・・・・悪い・・あー、鈍いってか、馬鹿で・・・・でも、俺は、君のことを蔑ろにとか、そういうんじゃなくて・・・・そうじゃなくて、好きだから・・・・・・」  
 そう言うと少女は顔を真っ赤に染めて目をまん丸にする。それでも俺の言葉は止まらない。  
「・・ほんとに、なんていうか・・うん、まあ、死んだ仲っていうか・・・・変な仲かもしんないが、それでも・・・・・・」  
 それでも俺は、少女のことを大切に思っている。それは詭弁や慰めの言葉ではなく真実で、だからこそ言えるのであって、だからこそ本当なのだ。  
 潔癖なる真実の思いを告げ終えると、少女は目の端に溜めていた涙をこぼし、それから薄弱としている笑みを浮かべた。  
「・・・・・・うん、ありがとう・・・・」  
 一体、何に対する礼なのか。  
 それは定かでないが、明らかにする必要もない。果たして不明の魅力、未定のまま保管されるのが最も幸福、そうして頷く俺と少女の間に確かなる絆が生まれかけた時、神様が呻き声を発した。  
 
「・・・・・・・・おい、馬鹿馬鹿しい展開はいいから、早く解毒剤を用意しろ・・さすがに、万能の解毒剤なんてものは想像もできなければ創造もできん・・・・」  
 顔も上げずに薄弱と強気に呻く神様に視線を向けて困った顔を少女に見せる。少女は同じく困った顔、はにかんだ面持ちで途方に暮れる。  
 どうやら解毒剤なる万能薬は存在しないらしい。  
「・・・・・・さて」  
 どうしたものか、懊悩も束の間、ともあれ神様がテーブルに頭突きした格好では忍びない、腰を掴んで両脚の膝裏に腕を入れて持ち上げる。  
「・・・・おい、触るな、殺すぞ・・」  
 などと言われたところで神様の力は全く皆無、だらりと垂れ下がった腕や脚は重たくてソファーに運ぶだけでくたびれた。  
 そんな感じで神様を真っ赤なソファーに寝かせると同時、少女が立ち上がる。何かと思いきや少女はソファーの側に立ち、真摯な目で俺を見上げている。  
「・・・・・・あの」  
「・・はあ」  
 何を言うのやら、何故か本能が警戒を促す不思議に耐えつつ怪訝、少女はちらと神様を見下ろす。  
「・・・・ストレス、だと思うんです・・・・」  
「・・・・・・はあ」  
「・・発散、させればいいと思うんです・・」  
「・・・・はあ?」  
 
 つられて神様を見下ろせば、釣り目の凶悪、少女の視線から何かを察したのか殺すぞと言わんばかりの顔をしている。  
 ああ、この場で彼女は神様なのですよと告げてあげるべきなのだろうか、しかし今更、尚且つ奮い立った少女の腰を折るような真似は、ああ、と悩む間に少女は神様の頬に指先を当て、頬の柔らかさを試すように突付いている。  
「・・・・・・おい、この馬鹿女を止めろ・・」  
「・・・・・・えっ? あー・・んー・・」  
 そこで話を振るなよ! という感じだが、さて、どうするか。  
「・・・・・・・・・・」  
 力の入らない神様は仰向け、横向けた顔も動かせず目だけを俺に向けている。その顔はやはり筋肉の弛緩から来る影響か、本来の面立ちそのまま、素の顔なのだが、その素の顔が釣り目で細い目という恐いものなので見ているだけで低頭しかねない。  
 一方、少女は不安と不満と解放への希望と俺への期待で複雑な色を見せている。ここで止めれば、間違いなく関係性が破綻しそうな、危うい気配と緊迫した雰囲気がひしひしと感じられる。  
 そんな沈黙が静寂を彩る空間、そこに俺の一言が求められれば、言うべきことは一つしかない。  
 俺は誠意の込められた視線で神様を見つめ、口を開く。  
「・・・・まあ、うん、はは・・」  
 言葉は出なかったが、少女の肩を優しく叩いてあげれば、後はもう野となれ山となれ、少女は複雑な面持ちのまま頷いて行動を開始した。  
「・・・・・・殺す」  
 はは、何も聞こえない、うん大丈夫、と心を落ち着けることに必死で何も言えない。  
 しかし少女は強い、本当に爆発しそうな空気の中、恥ずかしそうに頬を染めてスカートを下ろす。露になった水色の下着は当然とばかりに膨れていて、少女が下着を下ろせば、俺のものよりは細さのあるものが姿を現した。  
「・・・・・・・・・・」  
 沈黙は強がりか、神様の顔が一瞬だけ恐怖に歪んだ気がするが、少女はそれに気付いた様子もない。  
 少女は震わせているそれを神様の顔に近付け、躊躇もなく、薄紅色の唇に押し付けた。  
「・・・・・・く・・」  
 
 無抵抗の唇に押し付けられたそれの感触に神様の表情が変わる。変わるといっても、より目付きが厳しくなり、全ての力を振り絞るような懸命さで唇を閉じるぐらいだったが、いや俺にしてみればそれだけで物理的な破壊力すら生まれそうだったのだが、変に鈍い少女は気付いていないのか、それとも先端に触れる柔らかみに恍惚となっているのか、頬を朱に染めて熱に浮かされたような顔をしている。  
 まあ・・・・・・さもありなん、実際問題、俺も少女の唇にあれを触れさせた時、確かに強制ではあったが腰が砕けるような心地を受けた。  
 それは抵抗している相手に行っているという背徳感、そこに負荷される屈服感など、負っぽい感情のない交ぜが生み出す一種のトリップ、我を忘れる衝動でしかないのだが、初体験の少女にそこまで悟ることは難しいだろう。  
 現に少女は、棒の根元を小さな手で操り、神様の唇、上唇に下唇、その隙間など、ありとあらゆる箇所を犯している。  
「・・ぅ・・く・・・・」  
 神様はといえば、抵抗ははかどらない、かといって受容するには屈辱的、その狭間で思い悩んでいるのか表情は渋面、それでも隙間から一気に押し込まれないように小さく首を振って耐えている。しかし、その首を振る動きで、少女の先端が唇になぶられ頬を赤く染め上げていっているのだが、恐らく両者ともに気付いていない。  
 少女は中腰だったのだが、その姿勢を維持することに限界を感じたのか、不意にソファに上がりこみ、神様の胸を跨ぐ格好で安定、両手で神様の頭を上向け、唇に先端を押し当てる。  
「・・・・くっ・・」  
 漏れるは神様の悔しさ、その気持ちも男ながらに分からないではない。  
 もはや立場的に一目瞭然、それほど少女は神様を犯す立場にいた。  
 少女は先程からやや息を荒くしている。あたかも長距離疾走の後の気だるい溜息の連続のような吐息の音が響く中、少女は神様の唇に先端を押し付け、神様が拒むものだから狙いが逸れて先端で頬を擦ったりしている。少女のものは僅かながら神様の唾液に濡れていて、そのため、逸れれば神様の頬に微かな唾液の跡が残った。  
 
 さすがに淫猥、とまではいかないが傍観者として背徳の念を感じるものは多々ある。それは自然の摂理、忘却もできない浮世無常、さながら避けられぬ衝突、淡白に言えば色気か色香に中てられて立ってしまったわけだが、この場合はどうすべきか。  
 一人で想像の世界にでも逃げ込むか、と思案する俺の袖を引っ張る感触があって、ん、と顔を向ければ少女が伏し目がちに俺の膨れているズボンを見ていた。  
「・・・・・・一緒に、します・・?」  
 素晴らしい提案ですね! と食い付けば恐らく確実、神様の突き刺す視線が向けられるのは目に見えている、いやいやと苦笑しながら欲望を飲み込んで回避。  
 ただ、その回避も、いつの間にやら神様の口を無理やりに広げて奥まで入れられている少女のもの、更には神様の悔しそうな顔を見た瞬間、回り込まれて逃げ道封鎖、行き場を失って立ち尽くした。  
「・・・・・・あー・・と」  
 引っ張られるように足を踏み出せば腰のすぐ前に神様の顔がある。  
 有耶無耶の迷いも閃き、少女が腰を引くと神様の口から細めのそれが出てきて、伸びた唾液の糸は神様が咳き込むと揺れて千切れた。  
「・・・・は、ぁ・・殺す、絶対殺すぞ・・」  
 恨みがましい神様の目は、気付けばチャックを開けて取り出していた俺のものを睨んでいる。  
「・・あ、いや・・その・・・・まあ、うん、ごめん」  
 素直に謝ることが大事と誰かが言った、そうして腰を前に出せば、膨れている先端が神様の唇に触れる。  
 唇に塗られた口紅が口周りを仄赤く汚していたが、気にせず腰を前後に揺すれば、棒状のものが唇を滑って生温い刺激が走る。抵抗から唇を閉じようとすれば棒の部分を挟まれる感触に襲われ、背筋が粟立った。  
「・・あ、私も・・・・」  
 
 少女が神様の頭を持ち上げると同時に腰を引き、一息つく。しかし神様に息を吐く余裕はなく、仕方なくだらしなく開いた口に少女のものが入り込み、目元を苦しさに歪ませた。  
 う、と心が痛むが何のその、少女は銜えさせたまま腰を止めて俺を見る。  
「・・・・・・一緒に・・・・」  
「は?」  
 素直に疑問、疑惑の反論、?の乱舞、どうしたものかと怪訝にする俺を鼓舞するごとく、少女は神様の唇、端っこの隙間に指を入れて、ぐにぃと口を開かせて大きな隙間を作った。  
 いやはや俺のものも入りそうな隙間、しかし神様の口は無限大ではない、有限の美的、ただでさえしかめっ面なのに口を引っ張って開かせれば、かなり阿呆、否、間抜け面、違う、素っ頓狂、否定、変な顔、妥協点? な顔になってしまっている。  
「・・・・・・・・」  
 ごくりと唾を飲んで決心決意、腰を前に出せば神様の口を広げている少女の手になぞられ、むず痒い快楽も隙間に押し込んでしまえば強烈な刺激に劇的な変化を遂げた。  
「・・・・・・ぁ・・」  
 思わず漏れた声は俺ではなく少女のものだ。  
 なるほど、と頷くほど少女の喘ぎは分かる。狭い口内、そんなところに二本を差し込めばどうなるか、窮屈間に満たされる。  
 俺のものは神様の唇と口内と少女のものに触れて圧迫されている。中でも先端に触れる神様の熱い息、更に滴る唾液がかかり、そんな状態のものの先端に少女のものの先端が触れる。擦れる感覚は半端ではなく、ともすれば今にでも出してしまいそうだった。  
「・・ぁ、ぁ、ぁ・・」  
 深く息を吐く俺の目の前で少女が軽く腰を前後に動かし、前のめりになっていく。  
 そこに予兆を感じ取った神様が二本も口に突っ込んだ状態で首を振ろうとするが、その動きで口内の俺のものと少女のもの、その先端同士が激しく擦られて、少女は呆気なく果ててしまった。  
「・・ぁ、は・・・・!」  
 背中を丸めて荒く息を吐く中、先端から粘ったものを大量に吐き出している。それが何故に分かるのか、それはもう、俺のものの先端にかかり、神様の口内を満たして唇から垂れ落ちる精液の流れが棒に触れる感触で把握できる。  
「・・・・は、ぁ・・はぁ・・」  
 
 少女が抜けば、生じた隙間から精液が溢れて、唇の端からこぼれていく。  
 それを見た俺は突然に暴走、乱雑に神様の頭を抱えて横向け、その際に精液が更にこぼれてくるが、無視して無理やりに腰を前後に動かす。乱暴な動きに神様の呻き声が上がったが、今の俺を止めるには足りない。腰を押せば神様の口の中で少女の精液が掻き乱される感触があり、引けば濡れた唇がじゅぱと卑猥な音を鳴らす。  
 その音の連続が錯綜、今を夢幻のように思わせて、ふと気を戻せば射精の感触、あれの根元から塊がせり上がって先端の狭き割れ目から吐き出されていく、落ち着く頃には既に全ての精液を吐き出していた。  
「・・・・・・あ」  
 俺の射精を見て取った少女が、未だ神様の口内に入れたままの俺のものの根元を握り、扱く。扱かれると無防備な部分に直接刺激が与えられるような感じがして、慌てて腰を引いた。  
 またも生々しい音がして、横向きの神様の口から大量の精液、俺のものと少女のものが混じった精液が溢れ出してくる。  
「・・・・・・・・はー」  
 あるのは、背徳的な満足感。  
 神様の虚ろな顔、しかし素の状態が強気なため蹂躙を易々と思い浮かばさせる、その顔を見ているだけで、俺は──と、ぱん、と小気味いい音が響いて頬に痛みが走り、はっとなって目を開ければテーブルを挟んで少女が涙を流している。  
 え、あ、何で、ソファに神様はいない、俺は椅子に座って少女と向き合っている。  
「・・・・・・もう、いいです・・!」  
 それは決別の言葉で、そこで理解できて、しまった容易に想像の世界に行けるせいで気付かなかったが全ていつの間にか想像していたのか、と理解した時には少女は既に部屋から消えていた。  
「・・・・・・・・だぁ・・!」  
 やっちまったー、と頭を抱える。阿呆だ。  
 少女に神様の言葉を伝えるため考えをまとめようと目を閉じた瞬間、色んな単語が浮かんで、その単語から想像を想像してしまっていたのか・・・・間抜けだ、救いようがない。  
 激しい後悔の念の連続に訪れるは溜息の連弾、その全てが重たくて気分を滅入らせる、否、少女の方がよほど傷付いているはずだ。何しろ想像力の問題を抱える最中、相談相手の俺が想像の世界に入り浸っていたのだから。  
「・・・・・・うあー・・・・」  
 もう後悔しかない。  
 
 まさか自分がここまで愚かだったとは、と自己嫌悪も最高潮、本気で落ち込んでテーブルに突っ伏し、溜息ばかり吐き続ける。  
 だけど駄目だ、だけど駄目だ、そう思い始めたのはしばらく経って溜息の吐き過ぎで喉が痛み始めた頃だった。  
 後悔しているだけでは何も解決しない、少女を追い掛けなければ、そうだ、想像を捨てて少女とともに、と立ち上がった瞬間、リビングのテーブルとソファの間に、あたかも部屋の区切りであるかのような扉が現出する。  
「え」  
 呆然となる他ない。  
 え、何これ、と立ち上がったことも忘れて口を開け閉め、唐突に扉は開き、そこから神様が現れた。  
 黒髪ワックスの尖がり頭、小柄な体を悪辣な表情でカバーする、どこからどう見ても神様には見えない姿。それは紛れもない神様だ。  
「・・おう、久々」  
「・・・・はあ、どうも」  
 久々も何も、という感じだが一先ず挨拶、神様は扉を閉めると流れ動作で床に手をつける。  
「・・・・・・えーっと、何を・・? ・・いや、そもそも、どうやって・・・・?」  
 問うた瞬間、床に扉が現れた。  
「・・・・ん? お前の家に繋がる扉を想像したんだ。ちなみにその扉はもう消せんぞ、神は創造するだけだからな。そんで今、地獄へと通じる扉を創造した。ちなみに何で床に作ったかというと、やっぱ地獄なら落ちる方がそれっぽいからだ」  
「・・・・・・・・へえ」  
 ん? いや、何か凄まじく嫌な予感がするが錯覚か?  
 疑る俺の前に神様が立ち、腕を組み、相変わらずきつい目を向けてくる。  
「お前、地獄に落とすから」  
「・・・・・・・・・・は?」  
 頭が破裂するような衝撃、さっぱり意味不明で混乱の極地、言葉もままならない。  
 
「いや、さっき少女が転生を願いに来たんだよ。理由を聞けば、お前のせいだと答えた。それで詳しく聞いて、尚且つその言葉の全てが嘘でないことを確かめたんだが・・・・・・」  
 だらだらと冷や汗の流れる俺を知らず、神様は面倒そうな口調でちゃっちゃと終わらせようという速度で説明してくれる。  
「・・・・この世界、拘わり合いなんぞなくても生きていける。それなのに他人を傷付けるってのは、あたしの世界では許されない。そんな奴は地獄に落とす。だから落ちろ」  
「・・・・・・え、いやいやいやいや・・」  
 混乱が膨れ上がってやばいことになっている、考えが追いつかない、それでも否定が正しいと首を振るが、無駄だった。  
 神様に脛を蹴られ「ぐあっ」と片膝付けば、目の前には扉のノブがある。  
「その扉は真実を見極める。見極める問題は、以下の通りだ。『お前は少女を傷付けたか?』」  
「・・・・・・・・・・」  
「さあ、開けろ」  
「・・・・・・・・・・」  
 見上げれば神様の冷徹な顔、それは恐いので俯き、少女の顔を思い出す。  
 柔和な面立ち、白い肌、はにかむ顔、泣き顔、そして扉を開ければ──落ちた。  
 
 風が下から上に、ごおっという耳鳴り、圧倒的な浮遊感、見上げれば遥か高みに長方形の光があり、その光は凄まじい速度で小さくなっていく。  
「・・・・・・・・!」  
 苦しくて喋ることもできないが、なるほど、と俺は思った。  
 確かに俺は少女を傷付けた。それは間違いない。悪いのは全て俺だ。  
 ならば地獄へと落ちる?  
「・・・・・・・・・・・・」  
 まあ、仕方ないのかもしれない。  
 どうせ訳の分からない展開の連続、もう慣れてしまった。  
 もともと地獄行き、例外で天国を体験できただけでもハッピー、そう思えば苦しくもなかろう。  
 地獄も意外といいとこかもしれないし・・・・何しろ神があれなのだから、地獄の神、閻魔? 誰かは知らないが、そいつが凄くいい人かもしれないではないか。  
 そうして落下を許容する心構えができると、心に余裕ができる。  
 思い浮かぶは・・・・・・何故か天使な彼女の溜息を吐く時の顔。  
 はは、まあ俺はしぶとい、どこでだって何とかやっていけるって。  
 そう思いながら俺は、ひたすら落下、落下の継続は俺の神経のどこかを壊して、目の前にちらつく天使な彼女の溜息を吐く仕草に笑いが吹き出そうになって、それでも風の圧迫のせいで笑えなくて、  
落ち切るまで何か場違いな苦しみを味わい続けた。ははは、腹が痛い、顔面も痛い。  
 
 終わり。  

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