『甘々で不定型な彼女』
ある休日の午後、なんか口が寂しかったオレはつまみを置いた棚を漁っていた。
しかし、そこにあるのは菓子がわりにするには重いものばかり。
柿ピーとかベビースターとか、あると思ったんだけど。
「どれも微妙だな……」
「なにしてるの?」
顔を上げると、そこには同棲中の彼女がいる。
つやつやとした茶色の肌とストレートの黒髪からはいつもの甘い香りが……
先に言っておくが、断じて性的な意味ではないぞ。
「ああ、なんか軽くつまめるもんないかと思って」
「チョコでも食べる?」
「お、いいな」
すると、彼女は自らのほっぺたを抓り、そのまま引っ張った。
むにゅ〜……プチッ。
「はい、どーぞ」
そう言って差し出す手の上には、彼女の肌と同じ色の物体。
プルプルと揺れるそれは、チョコムースのようなチョコプリンのような。
「なんでわざわざ顔から取るかな……お前は〇ンパ〇マンか」
「チョコスライムだよ」
そう、彼女の正体はRPGその他もろもろでお馴染みのあのゲル状生物だ。
それも、目の前のコイツはチョコレートでできた特殊な個体。
「いや、それは知ってるけどさ……」
とりあえず、その欠片を受け取って口にほうり込む。
食感はプリンみたいな感じで、味はチョコ(当然だ)。
ちなみに、茶色い肌の部分はミルク、黒い髪の部分はビターらしい。
最初こそ体内でこの欠片がどーにかなるんじゃないかとビビったもんだが、
今ではなんの抵抗もなく飲み込める。これ食って腹下したこともないし。
「ん、甘い。ありがとな」
「お礼なら、ぎゅーってしてくれる方がいいな」
毎度のことながら、思わず苦笑い。
コイツはなにかと理由をつけては、オレにくっつきたがる。
なぜだか服がチョコで汚れることはないが、やっぱ恥ずかしくはあるわけで。
「……わかったよ。ほれ」
両手を広げて、さあどうぞ。
まあオレだって嫌じゃないさ、好きな女とくっつくのは。
「えへへ」
ぎゅ。
「あったかい……わたし、溶けちゃいそう」
頬を朱く染め、満面の笑みでそう呟く。
いわゆるテンプレってやつなわけだが、コイツの場合はマジだ。
「つーか、もう足が崩れ始めてるぞ」
その下半身はヒトの足の形を失い、二本の棒になりつつある。
このまま放っておくと、いずれ両足がくっついて一本になるだろう。
「え!? あ、ホントだ。すぐ直し――」
ペロッ。
「ひゃうん!?」
うなじの辺りに舌を這わせると、ビクリと震えて声をあげた。
コイツの体は全部チョコなので、うなじもやっぱり甘い。声色も甘い。
「な、何?」
「ん、ちょっと食べたくなった」
「なら、そう言ってくれればいいのに……」
そう言うとまた自分の頬を抓り、引っ張る。
むにゅ〜……
「いや、そうじゃなくて」
「へ?」
ちぎれる前に、その行為をやめさせた。
引っ張るのをやめると、伸びた頬がにゅるにゅると元に戻っていく。
彼女の目が、じゃあどういう意味? と問い掛けてくる。
――オレは答えを言わずに、彼女をそばにあった座布団の上に押し倒した。
「ちょ、これって……」
「いただきます」
「もう……バカぁ (////)」
< 完 >