肌に刺すような空気を感じながら、静まり返った住宅街を歩く。
私のはいているブーツの音だけがカツカツと響き、街灯が私と彼を仄かに照らしている。
「あ…雪だ」
「……本当」
彼の声に見上げると、白く綿毛のような雪が黒く染まった空を舞っていた。
毛糸で包まれた右手を宙へと伸ばすと、雪はそこへ静かに着陸し小さな水溜まりとなり、やがて消えた。
何度かそんな事を繰り返していると、しばらく黙っていた彼に
「寒いし、そろそろ帰ろ。な?」
と言われて、そのまま自宅まで連行されてしまった。
途中、あまりに強引な気がして一言物申そうと彼の横顔をちらりと見ると、
無言ながら話かけるなオーラを放っていたので、恐くて何も言えなかった。
先程まで着ていた上着を脱ぎこたつに入ると、その心地好い温もりに急に睡魔が襲ってきた。
「なぁ…まだ怒ってんの?」
彼が私の両肩に手を乗せてきた。私が下を向いたまま黙っているので、機嫌を損ねていると思っているようだ。
ふと彼の手の重みが両肩から消えたと思った次の瞬間、私は首にとても細く少しひやりとした何かを感じた。
「え?」
咄嗟に両手で掴み、目の高さまで持ち上げた。それは繊細にデザインされたネックレスだった。
部屋の明かりに照らされ、小指の先サイズの雪の結晶がキラキラと光る。
訳が分からず彼の方を向くと、そこには満面の笑みを浮かべる彼がいた。
「誕生日おめでとう、ミホ。どうしても一番先に渡したくってさ…本当に悪かったよ」
彼の言葉に視線を壁にかけた時計へと移す。ちょうど夜の十二時を数秒過ぎたところだ。
「あ…ありがとう、アキト。私こそ、ごめんね」
サプライズに嬉しくなり、思わず彼に抱きついた。
服越しでも彼の心臓が私のと同じようにと、はやく脈を打っているのが分かった。
彼がさらに強く抱き締めてきた。
「これ、ずっと大事にするから…」
「そうしてくれると嬉しい。次は何がいい?」
「もう〜気が早すぎるよ…」
そう言いながら、次は指輪がいいなと思ったのは、彼には内緒だ。
End.