「淫明寺に魔物・・。」
世は幕末。人心は浮つき世は騒乱のときを向かえようとしていた時代。夕暮れ時の人少なき通りに女だてらに腰に刀を備えた袴姿の女の姿があった。
女の名は天空院三咲。魔物狩りの奥義を継承する霊能者であった。
ことの発端は、淫明寺の付近で女人の神隠しが多発しているという町の噂であった。薄気味悪い噂に嫌気がさした町の若者数人が、
淫明寺に向かったきり行方知れずとなりいよいよただ事ではないと大騒ぎになったのである。
三咲も噂を聞きつけ、小遣い稼ぎに賊狩りに伺おうとしていたときだった。三咲の屋敷に女がたずねてきた。
「私はあの寺で化け物に出遭いました・・それが・・それで・・おんなの私には言えない・・」
女はそこまでいうのが精一杯でわあっと泣き出してしまった。
三咲は号泣しはじめた女の背中に手をおいたとき、研ぎ澄まされた霊感が魔物のナニかを感じ取った。
三咲は泣き続ける女(名をおりんという)を、屋敷に招いて介抱することにした。
「母上、この方の話しをきいてくださいませんか。母上!」
三咲が大声で呼ぶと、屋敷の奥から三咲の母、千晶があらわれた。母といっても三咲の姉にしか思えないくらいまだ若い。
「三咲、男のような大声をだして何事ですか。」
「母上、このおりんさんを結界の間にご案内してください。自分は鬼払いの準備をします。」
三咲はおりんを母に預け、屋敷の奥に消えていった。