俺の幼馴染Aは昔っから負けず嫌いというか、俺から物を頼まないと何かをしてくれない奴だった。
で宿題とか遊びくらいならこっちから切り出せるが、バレンタインとなると別じゃないか。
クラスの奴がいる前で「ギブミーチョコ!」なんて戦後のガキみたいな事言えないし。
だから小学校の頃から都合6年になるかな、ずっと言った事がなかった。
でも大学生んなって、そん年のバレンタインは俺、酒が入ってたんだ。
だから街でたまたま見つけた(友達と喫茶店にいた)Aに「チョコくれよ」とかほざいた。
そしたらA、少し固まった後、渋々という感じで鞄からチョコを取り出したんだ。
Aからの初チョコになるそれは、すげえ可愛いやつだった。
陶器に入ってて、蓋の部分に犬が彫られてるの。
Aはそれ放るようにしてこっちに渡して、ミルクティーを啜る事に没頭し始めた。
隣でAの友人がクスクス笑ってた。
チョコはさっさと食っちまったが、その陶器犬は今でもウチのピアノの上にある。
で、それを渡したAは今台所でブリ大根煮てる。
今年もバレンタインの季節が来たので、俺は毎年の如くからかってみる。
「ねぇあれ渡した時どんな気持ち?ねぇどんな気持ち?」
ハッハッ言いながら嫁の背後で揺れると、嫁は心底うざそうな顔で毎年の如く答える。
曰く自分はもてたから、俺意外に渡した奴は何人もいただの、
そういう人気者の女子は予備のチョコを買っておくもので、あの時のはその予備だの。
そうだね、予備だね。俺はそんな事を答えながら、こいつ本当にバカだなーと思う。
毎年毎年こんなやりとりをして、いい加減気付いても良さそうなものだ。
俺は真実を知っている。Aの友人が暴露している。
Aはたかが予備の犬チョコを買う為に、百貨店で小一時間以上もうんうん唸っていたそうだ。