メイドと恋人の間。
困る。
「千佐都」
ソファーで寛いでいらっしゃる朝顕さまが、空いてる隣を掌で軽く叩く。
お側にまで来たけれど、座るわけにはいかなくて私を見上げる朝顕さまに微笑んで誤魔化してみた。
「千佐都。ここ」
「あの、ご用がなければ済ませてしまいたいこ」
腕をとられてしまった。
「座って」
「…ハイ」
腕は放してくれそうもない。そのまま肩を抱かれ身体ごと寄り添う形でいるけれども、朝顕さまの体温とか、私の肩の指とか、いろいろと近しくて。
「千佐都」
「ハイッ」
びくりとしてしまう。しまった。
困惑そのままに朝顕さまを見れば、愉しそうに笑っていらっしゃる。
「千佐都は今、私のメイドの千佐都?私の恋人の千佐都のどっち?」
「…わかりません。出来れば今は残した仕事を」
顔になにかぶつかった。
身体を急いで退こうとしたのに動かない。
「そういう真面目なところ千佐都らしくてカワイイけど、可愛くない」
キス、された。
「だっ旦那さま!それはセクハラです。お雇いになってる人にそんなことなさいませんでしょう!?」
「私の場合は千佐都だけ」
固まったままの千佐都は可愛い。
「うん。口説きたい女の子をメイドにしたから」
真っ赤になったまま、目を合わせてくれないのが悔しいので更に追い詰める。
「やっと私の気持ちをこうして」
大切に大事にそっと抱きしめる。
囲いこみ閉じ込めて、誰にも見つからないように、私だけの可愛い千佐都を独り占めしたかったんだよ。
と庚朝顕(かのえともあき)は
「金をたくさん持っていて良かった。金持ちに生まれたことは幸運だった」
と真顔で
吹き出した。