かっこよくて優しくて世界でただ一人の旦那さま。  
これは旦那様のことが大好きな一人のお嫁さんのお話です。  
 
 
春。  
舞い散る桜が美しい季節。  
ある名士の屋敷の中庭に面した部屋で、  
少女が犯されていた。  
 
「あ、ぐぁ、や、やめて、くだ、さい」  
 
犯されているのは落ち着いた小豆色の和服に身を包む、  
年のころ18歳ほどの少女。  
上半身を畳に押し付けられ、服を裾から腰元まで捲り上げられ、  
ほっそりとした臀部や若々しい張りに満ちた太ももを晒されている。  
秘所からは鮮血が零れ落ちており、少女が乙女だったことが窺い知れる。  
そのためか少女の顔は苦痛に歪み、頭を振る度に二本の三つ編が乱れる。  
 
「ふっ、つぁああ」  
 
犯しているのは緑の和服に身を包む、年齢不詳の男と思われるもの。  
顔に肉殆どなく、目に瞳はない、それはしゃれこうべと同じ事。  
体には中途半端に肉がついているが、少女を逃すまいと  
言わんばかりに臀部にしっかりとかけられた手は骨そのもの。  
男と思われるもの、その見てくれは有体に言って死体だった。  
その腐れた肉棒を蜜湧かぬ泉へと沈める様は正に悪夢である。  
 
「お、おじょう、さ、ま、やめて……」  
 
傍観者は女、桜色の和服一枚を裸身にただ羽織り、二者の横に座している。  
年のころは20歳ほど。  
艶やかな髪は腰元まで伸び、畳に広がる。  
美しい顔に浮かぶのは狂想。  
情に狂った女の目で眼前の出来事にただ美しく微笑む。  
 
「ひぎっ、っ、っ、あぐっ」  
 
死体は生きてない。  
生きてないモノが果てることはない。  
生きていないから感情はない。  
感情がないから少女を気遣うこともない。  
前戯もされず処女を奪われた少女の、体が裂けるような、激痛は納まらない。  
打ちつけられる腰の感覚は一定。  
秘所が潤むこともなく、ただただ痛みのみ。  
 
「いやっ、いやっ、もう、壊れるっ」  
 
虚ろになりつつある思考で少女は考える。  
何でこんなことになったのか。  
10歳の頃、女手一つで育ててくれた母が死に、  
途方に暮れてた自分に訪れた好機。  
この地方の名士の屋敷に住み込みで女中になる。  
 
「……っ…っぁ……」  
 
衣食住の心配がなく、給金も申し分ない。  
これに仕えよと、紹介された女の子は心優しく、  
私的な所では親友にもなれた。  
 
「うぐっ、うあ、あっ、はぐぅっ、ぅあ、あっ 」  
 
それがどうしてこうなったのか。  
お嬢様と許婚が相思相愛だったからか。  
結婚して半年で旦那様が亡くなったからか。  
愛する人を失ったお嬢様が狂ったからか。  
 
「あ、ああ…止めてぇ、お願いです」  
 
狂気が外法で死体を動かしたときからか。  
嬉々として死体と交わるお嬢様を見たときからか。  
旦那様を動かすのにはもっと沢山の精気がいると、  
お嬢様が私を見て微笑んだときからか。  
 
「あああああああああああああ――――――っ!」  
 
虚ろな思考はそこまで考えて考えることを放棄した。  
プツンとテレビを切るように意識は落ち…  
その前に誰かが部屋に入ってくるのが見えた。  
 
少女は目を覚ます。  
目前には自分を拾ってくれた人。  
お嬢様のお母さん。  
大奥様がいた。  
彼女の話によると少女が気絶した瞬間に、  
呼んでおいた退魔士が旦那様を無に返したらしい。  
死体は死体に戻り、お嬢様は本当に正気を無くした。  
今は屋敷の座敷牢で目に見えぬ結婚相手と幸せに暮らしているらしい。  
 
少女は歩く。  
廊下ですれ違う人が頭を下げ挨拶をする。  
おはようございます、お嬢様。  
大奥様の話では、少女は大奥様が身ごもっていた時に、  
大旦那様が手を出した女中の娘らしい。  
大奥様付きの女中だった少女の母は、  
妊娠をしると人知れず屋敷を出奔したそうだ。  
それから月日は流れ、親友だった女中の娘が苦境にいることを知った  
大奥様はその娘、つまり少女を家に招いた。  
 
 
 
 
少女は思う。  
女中として仕えた相手は姉だった。  
子宮は壊され、子供は生めない体になった。  
それでも、女中として、親友として、妹として、  
姉がまたいつか幸せになれる日が来てほしいと。  
 

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