9時2分前。  
 
 今朝は早起きした俺。  
 
 とっくに顔を洗って、おととい新調した部屋着に着替え、  
 一人暮らしを始めてから、おそらく最も綺麗に掃除してある室内を眺めている。  
 
「二日がかりで大掃除したからな。完璧だろ」  
 一人で満足する俺。  
 ちょっと女々しいが、今回に限りそんなことは言っていられない、なんとなれば。  
 
 今日から、俺の妹、麻耶が此処で暮らすのだ。  
 
◇ ◇ ◇   
 
「お兄ちゃん! 合格したよっ!」  
 携帯から、飛び出してきそうなくらい元気な声が跳ねたのはおよそ1ヶ月前。  
「えへへ、4月からそっちに引っ越すからねっ」  
「ああ、楽しみにしてる」  
「えー、楽しみー? 嬉しいなぁ。麻耶もすごい楽しみだよー」  
 
 そんなことを言ってくれた妹はこの春から高校生。大学2年になる俺とは4歳差。  
 俺が高校の時に親元を離れて以来、丸四年間も会っていない。  
 
「受験の時もすれ違いだったしなあ」  
 ここで声を大にして主張しておくが、俺と麻耶の仲が悪いわけではない。  
 
 むしろすこぶる良い。  
 
 どれくらい良いかと言えば俺の携帯のメール履歴は麻耶からのそれで埋め尽くされており、  
 電話もほぼ毎日。用事がなくとも「おやすみなさい」を言いにわざわざ掛けてくる、  
 客観的に評してもおそらくブラコンと呼ばれる類の妹なのだ。  
 
 ちなみに俺も全力でシスコンだ。  
 
 俺の方がどのくらいシスコンかというと、まあ、少なくとも、  
 二日に一度は写メで明るい笑顔を送信してよこす麻耶が、  
「今日はお父さんもお母さんも外泊なんだ」  
 なんて電話の向こうで寂しそうな声を漏らす度に、  
 隣にすっとんで行って話し相手でも添い寝でもしてあげたい衝動に駆られるくらい重症ではある。  
 
 それができなかったのは、ひとえに糞^2な両親のせい。  
 
 学歴は高いがおよそ家庭的責任というものを省みないうちの両親は、  
 歴史研究だとかなんとかいう自分達の仕事兼趣味の為に世界中を飛び回り、  
 義務教育中の麻耶はそれに付き合わされて俺の手が届かない諸外国を巡っていた。  
 
 いや、それでもきちんと面倒を見ていればいい。  
 だが、親父とお袋は何処に行っても自分達の事にばかり熱中して、  
 麻耶は次々と転校どころか転国を繰り返す生活の中で、  
 本来なら多感な時期に得られるであろう友人関係も、  
 外国での生活によって得られるであろう見聞体験も殆どないまま、  
 自宅というほど愛着が湧く間もなく変わる家に篭もりがちな生活を続けていた。と、俺は思う。  
 
 だいたい、  
「麻耶もようやく義務教育が終わったからな。これからは俺達も自由にさせてもらうよ」  
 
 これが俺の台詞じゃあない。  
 高校合格にあたっての親父の言葉なんだ。  
 
「これまでも散々好きにしてた癖にふざけんな。生活費は二人分送れよ」  
「口座に振り込む金額は増やしておく。麻耶の面倒は頼んだぞ」  
 こんな調子で、子供を育てる事は義務と面倒という認識の親を持った俺と麻耶は、  
 生活に不足はなく文句も言えないが愛情には不足する環境の中で互いへの依存を深めており、  
 それは離ればなれに居た四年間でも深まりこそすれ埋まることはなかった。と、自負している。  
 
◇ ◇ ◇   
 
 で、そんな妹が今日から俺と一緒に生活するわけで。  
 
「いや実際、ちょっとかなりヤバいかも」  
 独りごちる。  
 
 だって麻耶と二人暮らし。このアパートは1LDK。文字通り寝食を共にする。  
 
 小学生の頃から兄の贔屓目抜きですこぶる可愛らしい女の子だった麻耶は、  
 大量に送られてくる写メを見る限り、順調に外見的成長を遂げているように見受けられる。  
 
 高校一年生。幼いながらも女性である年頃。  
 狭いアパートで暮らしていれば、例え彼女がガードを固めていたとしても、  
 色々と刺激的な場面に遭遇するであろうことは想像に難くない。  
 
 だいたい、麻耶にしてからが、  
“今日あたらしいブラジャー買ったよー”  
 なんて脳天気なコメントと共に、  
 兄上様の脳天を直撃するような下着姿の写メを送りつけてきたり、つい先日の電話でも、  
「これからはお兄ちゃんが隣で寝てくれるから寂しくないね」  
 なんて屈託なくのたまってくれるくらいにして、  
 ガードどころか兄の俺には無警戒もいいところなのだ。  
 
「俺が家を出るまで、一緒に風呂入ってたんだよなあ」  
 中学3年生と小学5年生。  
 うーむ、よく我慢したな当時の俺。  
 そして、果たして我慢できるのか今の俺!?  
 
 いや、大丈夫。俺は麻耶を傷つけるようなことはしない。と、思う。  
 シスコンの名に賭けて、真実がいかに変態であろうとも、  
 麻耶の前では、優しく過保護なお兄ちゃんで居てあげるのだ!  
 
 まあ、一人になった時にちょっとオカズにするくらいは許してね、我が妹よ。  
 
◇ ◇ ◇   
 
 そして、9時。  
 
 ピンポーン。  
 き、来たっ!?  
 
 落ちつけよ俺、写真は綺麗に写ったのを送ってるんだろうし、  
 高一春なんてまだガキだし、性格も昔ほど無邪気じゃないだろうし、  
 そんなに期待しちゃあいかん。どんな子になっていても、俺は麻耶のお兄ちゃんだ。  
 
 ピン、ポーン。  
「ああ、はいっ!」  
 深呼吸している間に、さっきより遠慮がちな二度目のチャイム。  
 俺は慌てて玄関に駆け寄り、扉を開け。  
「ごめんごめん、よく来た……」  
 言葉の途中で絶句する。  
 
 そこには、真新しい高校の制服に身を包んで、ちょっと俯いて上目使いに俺を見る、天使のような少女が居た。  
 
「お、おはよう、ござい、ます。お、お兄ちゃ、ん」  
 少女が顔を上げる。  
 四年ぶりとはいえ、いつも写メで見慣れている筈の顔。  
 なのに、眩しい。よほど上手く化粧でもしてんのか。  
 
「今日から、よ、よろしく、お願い、しま、す」  
 電話で聞き慣れている筈の声。  
 なのに、どうしてこんなに美しい鈴の音のように響く。携帯電話の性能も、まだまだだな。  
 
「麻……耶……?」  
 いかんいかん。なんて惚けた声を出してるんだ俺は。  
「……」  
 気を取り直して中に招き入れようと口を開くが、言葉が出てこない。  
 1歩の距離にある少女の姿に、70cmほどの距離にある麻耶の顔に、視線が釘付けになる。  
「……」  
 麻耶の方も、動かずに俺を見ている。  
 というか、俺が動かないと動きようがないのだろう。  
 入れよ、と言ったつもりで声は出なかったが、一歩下がった、と。  
 
「お兄ちゃんっ!」  
 がばっ!  
 
 妹は、感極まった声を挙げて俺に飛びついて来た。  
 
 どん、と麻耶の身体が俺にぶつかる。  
 慌てて力を入れて抱き止めると、ふわりと柔らかい身体に驚く。  
 
 ぎゅうううううう。  
 摩耶の両手が俺の背中に回り、力一杯、―だろうな痛くないけど―、抱きしめられる。  
 俺の胸からお腹にかけてが、妹の感触で埋め尽くされる。  
 
「会いたかったよぉ……」  
 涙声が、胸元から聞こえる。視界には細やかな頭髪しか映らないが、おそらく泣いているのだろう。  
「ああ、おれもだよ、麻耶」  
 ぽんぽんと優しく、頭を叩いてやる。  
 普通の言葉は出せなかったくせに、そんな台詞は素直に口をついた。  
 
 ぎゅぎゅぎゅうううううっ。  
 少し緩んでいた腕にまた力が入った。  
 ちょうど心地よいくらいの束縛感に、俺は殆ど無意識に麻耶の背中に手を回して、  
 きゅっ、と少しだけ抱きしめる、  
 
 つもりが思わずぎゅっ、になった。  
「ふぁぅっ!」  
 妹の口から息が漏れた。俺は慌てて手を離す。  
「す、すまん、つい。痛かったか?」  
「あっ、違うの、もっと」  
 ぎゅっとして、そんな台詞に俺はくらくらする。  
 再び手を背中に、そして、今度はそうっと、しかし力を込めて抱きしめる。  
「んぁぁ……」  
 麻耶の溜息が艶っぽい。俺の鼓動が加速した。  
 
 10秒ほど抱きしめ合ってから、俺だけ腕の力を緩めた。  
「あぅ、まだぁ……」  
 物欲しそうな妹の抗議に理性を失いそうになりながら、俺はぽんと少女の頭を叩く。  
「玄関先だぜ。とりあえず中に入れよ」  
「うん……」  
 頷いてドアから部屋に入り、靴を脱いでダイニングにあがる間も、麻耶は俺に抱きついたままだった。  
 
「うわっ、ちょっと待て」  
 俺も靴を脱がないと。  
 
 だが摩耶は待たなかった。  
「ととっ」  
「きゃっ!?」  
 バランスを崩す二人。麻耶は離れない。俺は床に手を付きつつ、なんとか転倒を回避して尻餅。  
 麻耶はというと、その俺の、膝の上に座り込んで来た。  
 
「おいおい。甘えんぼすぎだろそれは」  
「えへへ……」  
 はにかむ頬には、やはり涙の跡がある。  
 そして、間近で見た麻耶の肌。明らかに化粧なんかしていない。けど。  
 
「……お、大きくなったな」  
 本当は、綺麗になったなと言いたかった。  
「153かな。もう殆ど止まっちゃったけど」  
 別れた小五の時は140cmあったかなあ。まあ小さいよな。でも、成長した。そして、綺麗になった。  
「お兄ちゃんは、えっと、……カッコ良くなったね」  
 な、なにが!?  
「あ、えっと、おっきくはなってないけど、その、前からカッコよかったけど、なんか、えっと、男の人っぽいっていうか」  
 いやいやいやいやいや。  
「おまえはなにを言ってるんだ」  
 俺も他人のこと言えないけどさ。  
「う、うん」  
 突っ込むと顔を赤くする麻耶。う、可愛い。  
 俯く少女の頬に残る涙が気になって、俺はつい手を伸ばす。  
 
 つつっ。  
「ひゃぅ?」  
 涙の跡をなぞるように指を這わせると、摩耶はか細い声を挙げて身をすくめる。  
「ご、ごめんつい」  
 慌てて、俺は手を引っ込めようと、  
 ぐい。  
 だが、摩耶は俺の右手に、自分の左手を重ねて頬に押しつけた。  
「ううん。ちょっとびっくりしただけ」  
 そのまま右手も添えて、俺の手のひらに頬を預ける。  
 
「お兄ちゃんの手、あったかい……」  
 心地よさそうに目を閉じる妹の表情を、俺はぼんやりと見つめた。  
 
 ぐに。  
 
「おおう!?」  
 ぼんやりしていた俺は、唐突に左頬を襲った感触に驚く。  
 いつのまにか摩耶が、戻した右手を伸ばして俺の頬を掴んでいた。  
 
「はにふん……」  
「あははっ」  
 文句は元から大きくなかったが、嬉しそうな摩耶の笑顔の前に立ち消える。  
 
 そして摩耶は、左手も俺の右頬に伸ばしてきた。  
「お兄ちゃんのほっぺ、伸びるねー」  
 むにむにと俺の両頬が摩耶の指に弄ばれる。  
「ほいふふぇ、ほうひへはる」  
 お返しとばかり、俺は摩耶の右頬に添えていた指の形を変えた。  
 
 ふにゅっ。  
「ふひゅっ?」  
 くすぐったそうに首をすくめた摩耶の、反対側の頬にも手を伸ばす。  
 
「ひひゃっ、ほひいひゃん、ひほ、ひひゃ、ひゃひゃひゃっ!」  
「何言ってんだかわかんへほへふははははっ!」  
 二人して馬鹿みたいに笑いながら、俺と摩耶は互いの両頬をつねり合う。  
 摩耶のほっぺたはマシュマロみたいに肌触りが良くて、餅みたいに柔らかかった。  
 
◇ ◇ ◇   
 
 30秒後。  
 
「あ痛たたたたた」  
「……ひたひ」  
 調子に乗り過ぎた俺と摩耶は、今度は互いに自分の頬を押さえて呻いていた。  
 
「ば、馬鹿なことをしたぜ我ながら。ごめんな、痛かったろ」  
「ちょっとね。でも、うん、えへへ」  
 妹の頬が赤くなっているのを見て俺は謝罪する。  
 摩耶はひとつ頷いてから、はにかむように笑い出す。  
 
「なんだよ」  
「なんでもない。なんでもないけど、あは、へへっ」  
 摩耶は、緩みきった頬を隠すように若干うつむいて、  
 それから、上体を前のめりにして俺の胸に顔を預けてきた。  
 
「お、おい」  
「……ちょっとだけ」  
 くっと顔を傾けて、俺の鎖骨の下あたりに押しつける。  
 少し色の薄い髪からは、ほのかにシャンプーの匂いがした。  
「よしよし」  
 頭を撫でる。摩耶の髪に触りたいという下心があったことは否定できない。  
「あ……」  
 摩耶は摩耶で、俺の手を受け入れるように頭を動かす。  
 指が細い髪のあいだに入り込んで、撫でるというより髪を梳くようになった。  
 
「本物の、お兄ちゃんだ……」  
 うっとりした声に俺の心臓が跳ねた事を、彼女は気づいているのだろうか。  
「当たり前だろ」  
 動揺を押し隠して、わざと馬鹿にしたように呟く。  
「うー、そうだけどぉ……」  
 声色がちょっと拗ねて、ぐりぐりと頬を擦りつけてくる摩耶。  
「……夢を見たんだもん」  
「夢?」  
 夢なら俺も見た。摩耶と一緒に暮らす夢を、何度も。  
 
「お兄ちゃんと一緒に暮らす夢。何回も」  
 摩耶は少し顔を下に向ける。  
 
 可愛いおつむの向こう、白いうなじがちらと俺の視界に入った。  
 
「でもね、いっつもいい所で目が覚めるんだ」  
 胸の下から聞こえる呟き。  
「いい所ってなんだよ?」  
「えっ? あっ」  
 恥ずかそうな声を出して、摩耶はさらに顔を下げ、  
「それは……」  
 俺の胸に押しつけられているのは摩耶の顔から頭になった。  
 頭蓋骨が当たって少し痛いが、今はそれもまた嬉しい。  
 
「……内緒っ」  
 そして摩耶は、一転してぱっと顔を上げて、お茶目に笑ってそう言って、  
 ぴょいっと膝で身体を浮かせて前に出ると、今度は俺の首っ玉にかじりついてきた。  
「うぉっと」  
 俺の両肩の上に腕を預け、うなじのあたりに頬を擦りつける少女。  
 体重のかかり方が大きくなって、慌てて抱き留める俺。  
「ふふっ、へへへっ」  
 笑いながら摩耶は、鼻っ面で俺の首筋をなぞる。  
「お、おい、くすぐったいって」  
「くすぐってるんだもん」  
 摩耶の悪戯はエスカレートして、水族館のアシカショーみたいに首を伸ばすと、  
 ふっ。と俺の耳に息を吹きかける。  
 
「ぬぉぁうっ?!」  
「きゃひゃっ。鳥肌立ってるよお兄ちゃん?」  
 当たり前だ。  
 こいつめ、こうしてやる。俺はお返しに摩耶の耳に口を近づける。  
 
 ふーっ。  
 
「ひゃあんっ!」  
 可愛い声を挙げても許さん。両手で妹の顔を挟んで、さらに息を吹き込む。  
「あっ、あんっ、あははっ、ふへ、ごめ、ごめんなさい、許してお兄ちゃん、はややひゃひゃひゃ」  
 どうにも楽しそうな悲鳴を挙げる摩耶。  
 俺も楽しくて、ついつい笑いがこみ上げる。  
 やべ、唾出てきた。摩耶の耳に落ちる……  
 
 ぺろっ。  
 つい、舌を出したら、摩耶の耳介に当たって、そのまま舐めてしまった。  
「ああああんんっ!」  
 
 どきりとして手を離した。  
 
 なんっつー声を出すんだ摩耶。  
 これじゃまるで、なんだ、エッチな事でもしてるみたいな。  
「あぅ……お兄ちゃん?」  
 自由を得た摩耶の頭が俺の方に向き直る。解放された事が寂しいような顔。  
「お兄ちゃぁん」  
 またすーっと首を伸ばして、  
「お返しー」  
 妙にのんびりした声で、俺の耳に、もしくは頬に唇を寄せてくる……  
 
 だめ、もう限界。  
 
「ほ、ほらっ、立ってうがいしろっ!」  
 もっともだが無理矢理な理由をつけて、俺は摩耶の肩を押し返した。  
「えー、もうちょっとー」  
 まだぼーっとした口調を続けて、摩耶はすがりついてくる。  
 
 俺はあぐらをかいた状態から後ろに手を付き、左膝を片膝立てて立ち上がろうと、  
 摩耶は俺の上に女の子座りした態勢から、膝立ちになって追いすがろうと、  
 
 それぞれの動きがシンクロして、丁度俺の右の太股を、摩耶の両脚が挟む格好になった。  
   
 制服のスカートは、かなり短い。  
 ズボンの上から伝わる、少女の下半身の体温。  
「っ!」  
 動揺した俺は、慌てて立ち上がった。  
「きゃ……」  
 俺によりかかりかけていた摩耶は、バランスを崩してつんのめる。  
 
 ずりゅっずりゅっと、  
 摩耶は俺の太股に跨った状態で、傾斜のついた右脚の上を滑り落ちた。  
 
 ぞくぞくっと、俺の背筋に電流が走る。  
 少女の柔らかいふとももと、ぴったりと押しつけられたその両脚の間の感触は、  
 ズボン越しでも俺に強烈な衝撃を与えるに十分だったが。  
 
「あぁっ、んんんんっっ、んっ!」   
 堪えきれないような摩耶の声はそれにも増して、俺の耳に糸を引いて残った。  
 
 摩耶は、よろめくように尻餅をつく。  
 
 立ち上がりかけた俺は、摩耶を気遣ってまたしゃがむ。  
「だ、だいじょ……!!!」  
 言いかけた口が途中で止まる。  
 
 裾の短い制服のスカート姿で尻餅をついた摩耶は、足を閉じていなかった。  
 折しも午前中の太陽が窓から差し込んで、少女の普段は隠されている部分を照らす。  
 短めのソックスから覗く、形のよいふくらはぎ、可愛い膝小僧、  
 そして白く映える一対の内股と、その間でなお白い一枚の特別な布地まで、俺の視界に飛び込んで。  
 
 その、小さな布地の中心に、小さからぬ染みがくっきり浮き出ていた。  
 
◇ ◇ ◇   
 
 数秒間、俺は視線を離せない。ごくりと喉が鳴る。  
「っ、っく、ひぐっ」  
 泣き声で、我に返った。  
 
「ま、摩……」  
「ちがうのっ!」  
 飛び出すような声が一声、だが、目を向けた摩耶の顔は両手に覆われていた。  
「っく、その、ちがっ、そうじゃなくて、あのね、ちがわないけど、ちがうの……」  
 首を振って身を縮め、しゃくりあげる涙を手のひらで隠す。  
 
「久しぶりにお兄ちゃんに会って、その」  
 両膝は閉じて体育座りになっても、未だ開いた足の間を俺の視線に晒している摩耶。  
「変だよね、お兄ちゃんとくっついてて、ひっく、コーフンしちゃうなんて」  
 妹の口から興奮なんて言葉を聞くと、心臓が跳ね上がる。  
「恥ずかしい……」  
 俯いて膝を抱える仕草なんて、もう衝撃的過ぎて形容し難い。  
 
「えぐ、ごめんなさぁい、嫌いにならないでぇ……」  
 また泣き出した摩耶の声に、俺はハッと我に返った。  
 
 い、いかん。妹に恥ずかしい思いをさせて泣かせるなんて、兄失格である。なんとかせねば!  
 おし。  
 
「ふはははははははは!」  
 突如として俺が挙げたバカ笑いに、泣いていた摩耶がきょとんと顔を上げる。  
 
「安心しろ摩耶」  
 俺は一歩前に出ると、無意味に胸を張って腰に手を当てる。  
「お兄ちゃんなんかなあ、さっき摩耶に抱きつかれてからこっち、ずっーとこんな状態だ」  
 妹の眼前に突き出した俺の股間は、もちろん元気にピラミッドを築いていた。  
 
 ぽかんとして、俺の股間に眼をやる摩耶。  
 
 ・  
 ・  
 ・  
 しーん。  
 
 う、い、いかん、これはやりすぎたか!  
「あ、あはははは、はぁ……」  
 涙を引っ込めたのは成果だが、さすがにいたたまれない。  
 乾いた笑いも長続きせず、俺はすごすごと腰を引っ込めようと、  
 
 する前に。  
 
 さわっ。  
「おおうっ!?」  
 摩耶はその細い指を、眼前の膨らみに這わせた。  
 
「お兄ちゃんの、おっきくなってる?」  
「い、いや、なってるけど」  
 さわさわ。くにくに。  
 大きな目を更にまん丸にして、俺の股間を弄ぶ我が妹。  
 棒をつかんでぐるっと上を向かせると、テントの形状が正三角形から船首型に変わる。  
「これって、コーフンしてるってこと?」  
 くりっ。  
 おおうっ、摩耶さん、あのですね、そこは裏スジと言いましてですね、  
 男性にとっては敏感な場所なので、そんな風に指でなぞられますと、  
「わ、びくんってなった」  
 あああああああ。  
 
「うわあ……」  
 なんですかそのワクワクしたような声は。  
 
 声だけでなく、摩耶は次第に指先も大胆になってきた。  
 むにむに。こしこし。  
 ズボン越しなのに、やけに刺激が強いのは物理的なものだけでなく、  
 俺の腰に抱きつくような姿勢で俺の一物を弄る俺の妹という文章すら重複気味な視覚的刺激が重なるから。  
 
「あ、あのな、そ、そろそろ……」  
 やめてくれ、と言うのが、少し遅すぎた。  
「お兄ちゃん」  
 すりっ。  
 摩耶は、俺に顔をすり寄せた。  
 俺にというか、俺の股間に。  
 それが、トドメになって、  
 
 びくっ。  
「うぞっ!?」  
 びくびくびくっ、びゅくっ。  
 
 世にも情けない声を出しながら、俺はトランクスの中に射精してしまった。  
 摩耶の目の前で。  
 
◇ ◇ ◇   
 
 ……立ち直れない。  
 
 がっくりと膝をつき、俺は頭を抱える。  
 
「すご、い、いますごいびくびくってなったよ! お兄ちゃんっ!」  
 妹の無邪気な声が耳に痛い。  
「えっと、いまの、しゃせー、したの?」  
 ああああ言わないで。  
 
「……すまん」  
 最低だ。妹の顔に擦りつけて射精する兄なんて。  
 しかもやけに早かったし。普段はもうちょっと保つのに、ってそういう問題じゃないいっ。  
「ふえー、ああいうふうになるんだ」  
 なおも興味津々な様子で、俺の側にかがみこんでくる摩耶。  
「も、もうちょっと見せ……」  
「やめてくれよ!」  
 
 思わず声が大きくなった。  
 
 びくっと退いた摩耶の顔を見て、さらなる罪悪感。  
「いや、ご、ごめん。なんだ、その、俺って……情けねえ……」  
 泣きそうになって床を向く。  
 ああ、会って早々、なんというていたらく。  
 
「お兄ちゃん……」  
 摩耶が、俺の隣を通り過ぎる。  
 ぽふっと、ソファに座る音がした。  
 き、嫌われちゃったかな。それとも軽蔑か。  
 
「お兄ちゃん、こっち、見て」  
「はい」  
 ぼんやりと返事をして、のろのろと顔をあげて、俺はソファの方を……  
 
 ぶっ!?  
 
「ま、まま摩耶、ななな何を?」  
 台詞が思い切り上擦る。  
 だって、俺の視線の先で、摩耶はソファの、  
 背もたれによりかかって座り、両足を上に上げて、いわゆるM字開脚の姿勢。  
「摩耶、お兄ちゃんが、しゃ、射精するとこ、見ちゃったから」  
 スカートが腰のあたりまでめくれあがって、  
 さっきより広い面積が露わになった下着の中心に、摩耶は自分の手を添える。  
 
「こ、今度は、お、お兄ちゃんに、摩耶がするトコ、を、見せてあげる」  
 めちゃくちゃ噛みながら、真っ赤な顔で。  
「い、いや、あ、ああああのな、そんな気は遣わなくても」  
「だめ」  
 声はか細かったが、口調は強かった。  
 
「摩耶は、お兄ちゃんに見て欲しいの」  
 
◇ ◇ ◇   
 
「んっ、ぁっ、んっ、くぅんっ」  
 俺の目の前で、摩耶がいやらしい声をあげている。  
 
<お兄ちゃん、くりとりすってなぁに?>   
 唐突にそんなメールが来て悩んだ記憶があるから、  
 妹が性に興味を持ちだしたのは俺と離れた後だと思う。  
 
 教育に差はあれど、どこの国でも年頃の男子女子は似たようなもの。  
 インターネットよりも俺を知識源として頼る摩耶は、  
 学校で漏れ聞こえる単語を無邪気に質問して来たりして、  
 俺は頭を抱えつつあらぬ妄想などもしつつ、少女に保健体育の通信教育を施していた。  
 だので、摩耶も何も知らない子供でない事は認識していたつもりだったが。  
 
「ぅ、ぁ、ぉにぃちゃぁん……」  
 俺を呼びながら自らの肢体を弄る妹の姿はあまりにも刺激的。  
 右手を股間に伸ばし、細い指が、薄い布地の上に出来た一本の線をなぞりあげる。  
 左手は胸の小さな膨らみに添えられ、人差し指が小刻みに弄っている部分が先端か。  
「はぁっ、ぁあっ、っ」  
 鈴の音のような声が、いっそう細く高くなる。  
「あ、んっ、おにいちゃ、もう、ちょっと……」  
 潤んだ瞳が俺を見て、しかし、  
「ぅう……、ん……、はぁっ、はぁっ」  
 絶頂までは達し切れないのか、息を荒くした摩耶は切なげに腰をよじる。  
「だ、大丈夫か?」  
「へ、へーき、っ、ちょっと、きんちょーして……ごめん……っ」  
 気遣いは、余計な気を遣わせただけだったようだ。  
 それでも快感を得ている筈なのに辛そうな妹の様子に、何かできないかと俺は寄り添った。  
「あっ」  
 恥ずかしそうな仕草を見せる摩耶。かえって悪かったか。そう思う間もなく。  
「もっと、こっちに……来て、おにいちゃん」  
 囁く声。頭がくらくらする。  
 俺は摩耶に添い寝するようにソファに横たわる。  
 少女の横顔から、なだらかな胸の膨らみに突起を見つけ、そして淫らに着乱れた下半身に、  
 殆ど惚けて、誘われるように俺は手を妹の右手が蠢く秘所に伸ばし、  
 
 そっと布地をなぞった。  
 
「ふあぁああああんんっ?!」  
 いきなり、摩耶の声が1オクターブも跳ね上がって、  
 俺は慌てて手を引っ込め、  
 
 ぎゅっ。  
 
 ようとして、妹の細い手に押さえ込まれた。  
 そのまま、摩耶は俺の手を自分の敏感な部分に押しつける。熱い。  
「摩耶……」  
「はぁっ、はぁっ、あっ、ぁっ、はぁ……」  
 俺の顔のすぐ隣で、荒い息を吐き出す摩耶。  
 ことん、と頭を俺の胸に預けてきた。  
 その体温が愛おしくて、左手を後頭部に回し抱き寄せる。  
「んんーっ」  
 ぐいと摩耶が俺に体重を乗せてくる。  
 仰向けに組み敷かれそうになり、俺は反射的に右手で押し返した。  
 
 少女の両脚の間に挟まれたままの右手で。  
「んぁあん!」  
 強く両の太股に挟まれる。  
「す、すまん、痛かった?」  
 そんな筈もないが、思わず聞いてしまう。  
 果たしてかぶりを振る摩耶。  
「ううん……きもち……いいの……」  
 溶けそうな声が、俺の耳朶に触れる。  
   
 俺は、唾をひとつ飲み込んで、改めて右手で妹の股を押した。  
 摩耶は俺の力に従ってソファの上に仰向けになる。  
「あっ、んっっ、ふあんっ」  
 手のひらで三角形の布地を延ばすように揺さぶると、  
 俺の手の動きに面白いように追随する妹の嬌声。  
 
「摩耶、手、どけて」  
 俺の右手の上に、今は押さえるというより添えられていた少女の手が離れる。  
 内股に手をかけると、抵抗もなく足が開く。  
 くっきりと染みが広がった布の下を見たい欲望が沸き上がる。  
 
 俺は妹に、自分の欲求を伝えた。  
「うん……お兄ちゃんのも……見せてくれるなら」  
 それが摩耶の返事だった。  
 
◇ ◇ ◇   
 
 ついさっき射精したにも関わらず、俺の息子はすっかり元気。  
「うわあ……」  
 や、そんなに感嘆するほど大層なものでもないぞ妹よ。  
「くんくん」  
 ソファに膝立ちした俺の、股間に顔を寄せた摩耶が鼻をひくつかせた。  
 さっきパンツに溢れた精液が、当然ながら一物にもへばりついている。  
「ちょっと待ていま拭くから……のわっ!?」  
 ぺろっ。  
「ま、摩耶?」  
 かぽっ。  
 肉棒に少女の舌が這う感触が走った次の瞬間には、  
 それは摩耶の咥内に吸い込まれていた。  
 
 ぺちゃ、じゅぼっ、くちゅっ。  
 摩耶のフェラチオは、はっきりいえば不器用だった。  
 が、少女の口腔の熱さと柔らかさ、  
 そして一心不乱に俺の股に顔を埋める妹の姿が、強烈な感覚として襲う。  
 
 やばい、このままでは一方的に負けそうだ。  
 
「摩耶、ちょっと、こう……」  
「ふご?」  
 俺は摩耶を、いったん足下に押し倒すようにソファに仰向かせ、  
 身体を捻って上下逆に少女の身体に覆い被さった。  
 体位を変える間も止まらない摩耶のおしゃぶりに耐えつつ、  
 己の目的である妹の下穿きに手を掛け、不器用に引き抜く。  
 
 ふわっと篭もっていた体温が開放され、女の匂いが広がった。  
 
 子供の頃にふざけて見た事があったろうか。  
 
 少女の下腹部は、きめ細やかな肌がなだらかな丘を作り、  
 斜面にはごく薄く草原のような恥毛の茂み。  
 そして、摩耶の身体の中心、まだ閉じた一の秘裂。  
 俺は両手で其処を開いた。  
 
 これまで見た、―まあ映像が殆どだけど―、どんな女性のものよりも、  
 摩耶のそこは、綺麗で、柔らかくて、そして蠱惑的だった。  
「ぅあ……」  
 俺が吐いた息が、少女の草原を揺らす。  
「ふおぁ?」  
 びくんと摩耶が反応して、同時に彼女の身体の奥から透明な液体が滲み出る。  
 それを見た瞬間、俺の、殆ど残っていなかった理性はふっとんで、  
 俺は無我夢中で、妹の股間にむしゃぶりついていく。  
 
「ひゃぅうっ?!」  
 摩耶が素っ頓狂な声を挙げ、すぽんと俺の息子が妹の吸引から解放された。  
「や、おにいちゃ、ふぁ、そんなの、んあっ、なめちゃ、んんんっ!」  
 自分の事を棚に上げた抗議なと聞く耳もたぬ。  
 というか、正直そんなの気にしてる余裕もなかった。  
「あ、ああんっ!」  
 妹の口から漏れる喘ぎに負けないくらい、  
 ぺちゃぺちゃといやらしい音を立てて、妹のもう一つの口を舐め立てる。  
 
「はあうぅ、まっ、まけなっ、いもんっ、んっ」  
 いっぽう摩耶は、どんな対抗意識を燃やしたのか、息も絶え絶えに宣言すると、  
「はむっ」  
 さっき自分の口から飛び出た物体を再び捕らえて責め始めた。  
 
 ぺちゃ、ぴちゃ、くちゅ、くにゅっ。  
 二人がお互いの急所を攻め合う時間は、そう長くは続かなかった。  
「あっ、くっ、摩耶っ、俺……もうっ」  
「ふああ、おひいひゃ、あはひ、ひゃぇ……」  
 妹の声が切羽詰まるのと俺の射精感がシンクロして、  
 俺は摩耶の口内に欲望を放出し、ほぼ同時に摩耶が身体を震わせた。  
 
◇ ◇ ◇   
 
「んくっ、こくっ、っ、けほっ、けほけほっ」  
「あああ無理すんな吐け吐け」  
 精液を飲み込もうとしてむせ返る摩耶の背中をさする俺。  
 ふらつく足取りの少女を支えて、流しに連れて行きうがいをさせた。  
 
「ふへぇ……ご、ごめんねお兄ちゃん、全部飲めなくて」  
「な、なにいってんだ摩耶。謝るのはどう考えても俺だろ」  
 場に流されて、確認もなしに咥えさせたまま出してしまった。兄妹抜きにして男女としてもルール違反。  
「ううん」  
 が、摩耶は首を振る。  
「嬉しかった。お兄ちゃんが、摩耶で、摩耶に、こんな……」  
 頬を染めて俯く。  
「あ、あのさ、お兄ちゃんっ」  
 緊張し直して少女が申し出る内容は、容易に想像はついた。  
「ま、摩耶と、もっと、続き、その、最後、まで、」  
 それでも、少女の声は幻の如く響く。  
 
「して……摩耶の……はじめて……」  
 
「お、俺でいいのか?」  
 我ながら馬鹿なことを聞く。  
「お兄ちゃんじゃなきゃ、やだよぅ」  
 拗ねた声色に、その場で床に押し倒したくなる衝動。  
 
 が、尖った唇を見て思い直した。  
「ソファで……」  
「ああ、けど、その前に」  
「?」  
 俺は摩耶の顔を両手で挟む。きょとんとした少女。  
 
 その唇に、唇を重ねる。  
 
 そっと触れ合ったのは10秒足らず。  
「ごめんな。ちょっと、順番が逆だったよな」  
 柔らかな感触の名残を惜しみながら身体を離す。  
 
 摩耶からの返答はない。  
「摩耶?」  
「ほあ」  
 間の抜けた声で、ぽーっと俺を見つめる妹。  
 
 ぼわっ!  
 そんな擬態語が似合いそうな勢いで、その顔が茹で上がった。  
「わ、わわわわ」  
「お、おいおい」  
「ままま、摩耶っ、キス、キス、お兄ちゃ、キ、お兄ちゃんと、キスしちゃったよぉ!」  
 さっきろくきゅーしておいてそれはいまさらだとおもいます。  
 
 なんて思わず感想がひらがなになるような台詞を言い終えるか終えないか、  
 摩耶はへろへろとその場に崩れかけ、大慌てで俺は細い身体を抱き止める。  
「ま、摩耶っ」  
「えへへ、ちょっと頭に血が上って」  
 よろっと立ち直ったので、背中に回した手を離そうとしたら、きゅっと掴まれた。  
「な、なんかよくわかんなかったから、もういっかい……」  
 否応もない。  
 俺は添えられた手ごと摩耶の肩を抱き寄せて、再びくちづけた。  
 
「んっ、はむっ」  
 ぎこちなく応えてくれる少女の口唇に舌先を滑り込ませる。  
 前歯の根っこをなぞるようにすると、かすかに身じろぎしながら通路が開いた。  
「あっ、んふんっ」  
 ちゅぷっ、ぴちゃ。  
 舌と舌が絡み合う。上顎の裏をなぞると、ぴくんと跳ねて首が反る。  
 右手を摩耶の後頭部に回して逃れられないようにして、俺は少女の口腔をねぶった。  
 
 こんどはたっぷりと時間をかけて、  
 俺と摩耶は唇を押し付け合い、舌を絡め、粘膜を擦り合わせ、  
 
「ぷはあっ」  
「ふぅっ、はぁっ、あっ、はぁっ、はあっ」  
 口を離した直後、くらくらするのは、半分は酸欠のせいもあるかも知れない。  
   
「お、お兄ちゃぁん……」  
 だが切なく蕩けた表情で、俺を見上げる摩耶の顔。  
 俺も頭に血が上る。  
 もっとキスしたい欲求も強かったが、妹を自分のものにしたい欲望が、もはや押さえきれない。  
「ソファーでいいか?」  
「うん……」  
 こくりとやや機械的に頷いて、歩きだそうとしてよろける摩耶。  
 おぼつかない足元に、さっき脱がせた下穿きが引っかかっている。  
 俺はパンツ履きなおしたけど、摩耶にはそんな余裕もなかったんだ。  
 ……。  
「摩耶、力抜いて」  
「えっ? きゃっ!?」  
 よっ。  
 ぐいっと右手を背中、左手を膝の裏に差し入れて、俺は摩耶を持ち上げた。  
 
 いわゆるお姫様だっこ。  
 
「はわわっ、お、お兄ちゃんーっ?!」  
「暴れるな暴れるな」  
 落とすわけにはいかん。ぐぐっと力をいれて踏ん張る。  
 摩耶はすぐに大人しくなった。  
 
「……お、重い、でしょ?」  
 おそるおそる首っ玉にかじりついてくる。  
「柔らかいな」  
 体重40キロにもかなり満たないだろう摩耶でも、  
 そりゃあ重くないと言えば嘘になるから、俺はそう答える。  
 
 リビングまで小さく11歩。気合と見栄で運びきったぜ。  
 
◇ ◇ ◇   
 
 極力そうっとソファに下ろすと、赤ん坊のように手を縮こめる少女。  
 髪を撫で、軽く口づけして緊張を解く。  
 
 手足がほどけ、乱れた胸元と、  
 スカートの捲れた太股を目の前にすると、  
 すぐにでも摩耶の身体の中に押し入りたい衝動に駆られる。  
 
 いや、急いてはいかんいかん。ここは順番に。  
 俺はまず、摩耶の肩を抱いて、次に乳房を……  
「お、お兄ちゃぁん」  
 な、なんだい?  
 
「あのっ、摩耶ね、その……もう」  
 膝を擦り合わせて小さく首を振る俺の妹。  
 う、その膝を広げてぇ。  
 けど、我慢して頭を撫で撫で……  
「ダメぇ」  
 摩耶の首振りが強くなる。  
「これ以上優しくされたら、摩耶、おかしくなっちゃうよぉ、だから」  
 
「だから、摩耶、はやく、お兄ちゃんのものになりたい……」  
 うっ。  
 
「わ、悪かった」  
 上擦った声で反省の弁を述べる俺。  
「俺も、本当は、はやく、摩耶を……」  
 喉が詰まってみなまで言えず、妹の内股に手を掛ける。  
 
 さっき一度開帳したというのに、  
 両脚を広げても殆ど一本の線のままの摩耶の中心、  
 左手を添えてそっと左右に開くと、とろりと愛液が滴った。  
 
◇ ◇ ◇   
 
「最初に指、入れてみるから。痛かったら言えよ」  
「うん……」  
 摩耶がこくんと唾を飲み込む喉の動きが見えた。  
 
 俺は大福餅でも触るみたいにそうっと、少女の秘所に触れる。  
「ひゃうっ」  
 びくんと身体が動いたのは、痛かったからではなさそう。  
 ふにっ、くにっ、くちゅ。  
「んっ、ぁっ、ああんっ!」  
 俺の愛撫には、過敏なほどの反応を見せる摩耶。  
 閉じていた時の無邪気さから考えられないほど、  
 少女の秘裂の内部はいやらしく蠢く肉壺と化していた。  
 
 俺の指は、摩耶の肉体に誘い込まれるように彼女の中心に向かう。  
 ぬ、ぷっ。  
「んんあっ!」  
 思ったよりも簡単に入った、という感想は、すぐに指を締め付けられる感触に消える。  
 ぐにっ。  
「はっ、あうんっ、あ、入って、摩耶の中に、おにいちゃ、ゆび」  
 妹の様子を見ながら、徐々に奥に進ませる。  
 摩耶の中はじっとりと柔らかく、指を動かす度に熱い液体がまとわりつく。  
「あっ、んっ、んんっ、ゃあん」  
 嬌声に浮かされるように、俺は摩耶の体内―ごく浅い場所だけど―を掻き回す。  
 同時に割れ目を押し広げていた左手で、ぷっくりと膨れたクリトリスを押さえた。  
「きゃうっ! あんっ、ああああんんんっっ!!」  
 ぎゅっと右の人差し指が締め付けられた。  
「あ……んくぅ……」  
 摩耶は身を震わせて顔を両手で覆う。イッたみたい。  
 
 よし、これくらいこなれるなら、なんとかなるかも。  
「じゃ、じゃあ摩耶」  
「あ……うん……お兄ちゃん……お願い……」  
 俺は再びトランクスを脱ぎ、そそり立った息子を登場させた。  
 
 摩耶はちょっとだけ怯えた表情で、それでも男の部分から目を離さない。  
 俺は少女の膝を曲げて開かせ、摩耶が見えるように膣口に怒張を押し当てた。  
 
 みりっ。  
「!!!!っ!!」  
 潤いは十分で、ぬるっと先端の入りが順調だったのは束の間、  
 かさぶたをはがすような手応えと同時に摩耶の顔が歪む。  
 
「摩耶っ」  
 俺は動きを止める。中腰できついとか、そんなことは気にしない。  
「痛いか?」  
「ううん、ちょっとびっくり、つっ!」  
 やっぱり痛いみたいだ。  
「無理すんな、また今度でも……」  
 ここから止めるのもつらいが、優先すべきは摩耶。  
「やだぁ」  
 だが、妹は涙声になりながら首を振る。  
「ふぐっ」  
 肩から外した自分のブラウスの袖をまるめて、口にくわえる。  
「ひぃよおひぃひゃん。ひへ」  
 じっと見つめる瞳に、俺は心を決める。  
「わかった、力ぬいて。俺に任せてくれ」  
 こくん。  
 小さな笑顔で摩耶が頷いたのを確認して、俺は一気に腰を落とす。  
 
 びちっ。音はしなかったが、擬態語にすればそんな感触があった。  
 
「んんんぐんんっ!」  
 摩耶は強く目をつぶる。見るからに痛々しい。  
「摩耶……」  
「おにい……ちゃん」  
 少女が瞼をあげると、潤んだ瞳が姿を現す。  
 
 妹の言葉と表情に、俺の心は色々な意味で罪悪感を覚える。  
 だが一方、その元凶だる俺の男性は、侵略地の快感に勃ちきってもいる。  
 
「も、だいじょ、うぶ……おにいちゃ……動いて」  
「でも……」  
「だめ。最後まで、んっ、してくれなきゃ、やだもん」  
 そんなやりとりで、俺は動き始める。  
 
 少しでも摩耶の負担を軽くしたい。  
 ゆっくりした方がいいのか、早く終わらせるべきか、  
 考えながらも俺は、いつしか少女の身体から得る快感に我を忘れた。  
 
「んっ、くっ、ぁっ、ああっ、んん!」  
「ぐっ、あっ、っ、はぁっ」  
 夢中で腰を振る俺。摩耶も、全身で応えようとしてくれている。  
 二人が一つになる感覚。  
 やがて、俺は限界を迎えて、  
「摩耶、俺、もうっ」  
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃんっ!」  
「摩耶っ!」  
 やべ、出るっ!  
 強烈な射精感が襲うと同時、慌てて引き抜く。  
   
 どくっ、どくっ、どくっ。  
 驚くような勢いで飛び出した精液は、少女の足の間で受け止められた。  
 凱旋した俺の肉棒には、一筋二筋と赤い血がついていた。  
 
◇ ◇ ◇   
 
「お兄ちゃん……」  
 まだ痛いだろうに、うっとりと呟いてくる俺の妹。  
「ごめんな、摩耶、乱暴にして」  
 謝っても嬉しくないだろうと分かっていても、やはりそんな言葉が出てしまう。  
「ううん」  
 案の定首を振られる。  
「気持ちよかったよ、摩耶は」  
 力を抜いて、という俺の指示を忠実に守った結果か、  
 確かに後半は苦痛の色は薄らいでいたが、少なくとも絶頂にはほど遠かった筈。  
 
 それでも摩耶は、こう言ってくれる。  
 なら、俺が言うべき言葉は。  
   
「そうか。でも、俺の方が気持ちよかったな絶対。ありがとう。摩耶」  
「え? えへっ? えへへっ」  
 謝罪を感謝に切り替えると、摩耶は心底嬉しそうに涙目ではにかんだ。  
 
◇ ◇ ◇   
 
 色々と後始末を省略。  
 
◇ ◇ ◇   
 
「お待たせっ! お兄ちゃんっ!」  
 
 買い物に出かける俺達。  
 摩耶は女の子の身支度とかなんとかで、  
 もう裸を見せ合った仲なのに俺は玄関先に追い出されていた。  
 
「おう、待った……ぞ……」  
 台詞が途中でとぎれる。  
 
「お兄ちゃん?」  
 別に突拍子もない格好で出てきたわけじゃない。  
「摩耶の顔に、何かついてる?」  
 古典的なボケが必要な状況でもない。  
 
 ただ、ピンクでミニのワンピースに身を包んだ摩耶が、  
 制服の時と甲乙つけ難いほど、つまり世界一、可愛く見えただけ。  
 
 だから、俺は素直にそう告げる。  
 
 そうしたら、妹は顔中を真っ赤にして、俺をぽかぽか叩きながら笑顔になる。  
 
 家を出てすぐ腕を組む。空は、綺麗に晴れている。  
 
「もうこんな時間か。買い物してから、外で昼飯かな」  
「うふふ、お兄ちゃんと摩耶の初デートだねえ」  
「っ、そ、そうだなっ」  
 にこにこな摩耶と、照れ照れな俺。  
 
「ねえねえお兄ちゃん」  
「なんだ、摩耶」  
 
「夜はぁ、一緒にお風呂入ろうねっ?」  
「ぶっ」  
 さっきは、少し迷ったけど別々にシャワーを浴びた。  
 一緒だと、ホントに出かけられなくなりそうだったから。  
 
「それと、お布団も一緒でいいよね?」  
「……ああ」  
 いいのか、なんて野暮な事はもう聞くまい。  
「やったあ」  
 腕にぶらさがる摩耶にどきり。くそ、反撃しちゃる。  
 
「じゃあ、買い物リストにひとつ追加だな」  
「何を?」  
「“明るい家族計画”」  
「きゃっ? もうっ! えっち!」  
 きゅっと手の甲をつねられた。  
「……もちろん、いっぱいしたいけど……ぁぅ」  
 そして自分で自分の台詞に赤面する摩耶。  
 
「でも、ふふっ、ふふふふふっ」  
「突然笑うなよ怖いから」  
 言いながら俺の顔もほころぶ。  
 
「ほんとに、摩耶はお兄ちゃんのものになっちゃんたんだよねえ」  
「……ああ」  
 しみじみとした呟きに、もはや俺は芸のない返答しかできない。  
 
「夢みたい……」  
「ああ、俺もだよ、摩耶」  
 うっとりとして身を寄せてくる妹に、左手を一度離して肩を抱く。  
 遊んだ摩耶の右手は、俺の右手に身体の正面で収まる。  
 
「ねえねえ、お兄ちゃんは、こうなったらいいなって、思ってた?」  
 
 直球な質問に、  
 間近で顔を覗き込まれて答えるのは恥ずかしかったが、俺は頷く。  
「こんなにすぐに、とは予想外だったけどな」  
 ちょっと安易すぎたかも、そんな思いが頭をよぎる。  
「うん……」  
 曖昧に肯定して摩耶は、しかし少し思案顔。  
「ううん。すぐに、じゃないよ」  
「え?」  
「だって、摩耶はずうっと、お兄ちゃんとこうなりたかったんだもん」  
 
 どきりとする。  
 
 ああ、そうか。ようやく、俺は真実に気が付いた。  
 
「俺も、ずっと摩耶とこうしたかったんだ」  
「えっ? お兄ちゃんも?」  
「ああ」  
 お互いが思い続けていたのなら、それは早すぎでも安直でもないのだろう。  
 
「お兄ちゃん」  
 ぎゅうっとくっついてくる小さな身体。  
「嬉しい……」  
 泣きそうな声。いや、本当に泣いてるのか?  
「ごしごし」  
「うわわ、俺の服で拭くな」  
「へへー」  
 終わらない甘い会話。   
 
 長い別離を経て、ようやく再会した俺と摩耶。  
 そして兄と妹から、本来なりたかった関係になった二人。  
 
「ずっと一緒だよ、お兄ちゃん」  
「ああ、離さないぞ、摩耶」  
 
 しつこいくらいに互いを確かめ合いながら、春の街を歩く。  
 
 ふと腕時計を見やった。時刻は、10時23分だった。  
 

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