私が自らの能力に気付いたのは25になってからでした。  
大学を卒業してホテルのベルマンとなり、ようやく板についた頃です。  
当時、私は同僚のベルガールと恋仲にありました。  
私が当初から惚れていたところを、かつてのフロント係の先輩が取り成して下さったのです。  
 
彼女――結衣はサバサバしており、いつだって元気の塊のような娘です。  
釣り合わない相手に思えましたが、私の性格は意外にも彼女に気に入られたようでした。  
私達は惹かれあい、ついに初デートの夜を迎えます。場所は夜景を見下ろすホテルのレストランです。  
結衣は上品な出で立ちで現れました。  
黒いショートヘアが頭頂から首筋にかけてウェーブを描き、  
ドレスは肩口の開いたふわりとしたもので、乳房の下でリボンによって留められていました。  
シフォンドレスと呼ばれるものでしょう。  
 
私は彼女を見て2つのイメージを抱きました。  
まず、優雅であると。ウェーブをあてた髪も薄緑のドレスも気品に溢れています。  
しかしそれと同時に、私は彼女の官能美に見入ってもいました。  
理由は彼女の胸です。  
リボンが乳房の下で締められている事により、結衣の胸の膨らみは零れんばかりに強調されていました。  
ドレスから覗く腰と比べると一層それが際立ちます。  
 
私達は軽く会釈し、黙ったまま席につきました。  
しばらくの後、沈黙に耐え切れずに会話が始まります。  
「…何だか、緊張しちゃうね」  
結衣は照れたように笑い、メニュー表に手を伸ばしました。  
「本当。普段自分達が働いてるホテルなのに。」  
私も同じく笑い、メニューを取ろうとしました。  
「「あっ」」  
寄しくも同じ動きをした私達の手はメニューの前で重なります。  
「ご、ごめんね!」  
結衣が驚いて手を引くと、乳房が大きく揺れました。  
ドレスから覗く肩は雪のように白く綺麗です。乳房も似た色をしていることが窺えました。  
 
それからというもの、私は結衣の胸ばかりを意識してしまいました。  
にこやかに話しながらも、頭の中はおっぱい、おっぱい。そればかりです。  
その妄執に近い想いが実ったのでしょうか。しばらくの後、結衣に変化が訪れました。  
 
「ん……」  
ワインを口にした後、結衣はふと胸を庇うような仕草をします。  
気分が悪い……のとは違う、明らかに恥じらう表情でした。  
胸ばかり見ているのを勘付かれてしまったか。私は内心で焦りながら結衣に問いました。  
「どうかしたの?」  
「………ん?な、なんでもないよ? 」  
結衣も笑いながら首を振りました。ですがその答え方なら何かあるのです。  
普段なら「なんでもない」の6文字で答えるのを「なんでもない“よ”」と余分に強調する時、  
彼女は必ず動揺しているのです。  
私は結衣の傍に移りました。  
「気分でも悪くなったの?無理はよくないよ」  
そう肩に手をかけたとき、結衣はびくっと震えてまた胸を押さえます。  
「結衣……?」  
私が訝しがると、彼女は目を潤ませながら私を見上げました。  
「ご……ごめん、なさい、何だか身体が変なの。この近くに休める場所、あったかな…?」  
 
私はそんな結衣を最寄のホテルへ運びました。  
生憎とラブホテルですが、どのみちデートの最後に入るつもりでしたし、男としての勘もありました。  
彼女のこの様子は、悪酔いではなく欲情だと。  
その勘の正しさはすぐに証明されることになります。  
結衣はベッドに倒れこむと、私の手を掴んで横に寝かせました。  
「何だ、積極的なんだな」  
私が笑うと、結衣は大きく首を振ります。  
「ち、違うよ!私普段はこんなじゃないの!でも、でも今日は……!!」  
結衣はドレスの胸元を押し下げ、ストラップレスのブラジャーを剥ぎ取って乳房を露わにしました。  
 
驚いた事に、結衣の胸は明らかに性的な乱れを見せていました。  
掌に収まりきらないような大きさの乳房は朱を帯び、しっとりと汗ばんでいます。  
丘の先端にある乳輪には鳥肌が立ち、その中心では乳首が吸引されたように硬く尖っていました。  
凄いな。私はそれすら言えずに乱れた乳房を見つめます。  
「おねがい…吸って!」  
結衣の声がしました。私はその許可を受けるや桃色の乳首に吸い付きます。  
「っくうぅ!!」  
結衣は指を噛んで唸りました。絶頂を堪えるかのようです。  
私は胸の尖りを口に含んだまま、舌先で左右に弾きます。  
「あ、あ、あ、あ!」  
結衣の声が低くくぐもっていきます。  
さらに幾度か左右に転がした後、唇で扱くように乳首を抜き放ちます。  
「ううっ…!」  
結衣は目を見開きました。口を押さえていた腕が、シーツにぽす、と音を立てます。  
「気持ちいい?」  
そう聞くと、結衣はゆっくりと答えました。  
「……い……いっちゃっ…た……。わたし、乳首で………いっちゃった………!」  
 
私は結衣のやわらかい身体を組み敷きながら、その豊かな乳房を弄びました。  
乳房は熱湯をつめた水風船のようで、持ち上げるたびに手の平を汗が流れていきます。  
先端は硬く尖っていて、それへ触れると必ず結衣が声を上げます。  
まるで総身の神経が乳首に集まっているかのように。  
感度としてはクリトリス……否、それ以上のように思えました。  
 
肌触りと嬌声に浸りながら、私は首を傾げます。  
何が起こったのか。  
レストランに現れたとき、結衣は普段の小奇麗なままでした。  
気持ちが表に出やすい彼女です、その時の心理はデートの緊張こそあれ、静かだったに違いありません。  
少なくとも、これほど乱れる風にはなっていなかったはずです。  
では酔いでしょうか? ――それもおそらく違います。  
酔って乱れる女性は何度も目にしましたが、酔った女性はみな目が蕩けていました。  
しかし結衣は違います。瞳はいつものように澄んだまま、身体だけが、胸だけが火照りきっているのです。  
レストランで何が起こった?  
メニューを取ろうとして指が触れた、変わったことはそれだけ…  
 ……いや。  
もう一つ起こっていた事があります。  
『私が彼女の胸を強く意識していた』、という事です。  
まさかと思いました。たかが指を触れ合って胸を思い描いたぐらいで、こうなる筈がない。  
しかし、私はどうしても確かめたくなったのです。  
 
私は結衣を抱き起こしてベッドに這うようにさせ、背後から胸のしこりを摘みました。  
結衣はそれだけで辛そうに呻きます。  
親指・人差し指でこりこりと乳首を扱くと、結衣の身体がベッドを軋ませます。  
「ああああ!あああぁあ!!でっ出る、でちゃうぅ!!」  
結衣は愛らしい声で叫びました。まるで男が射精を訴える時のように。  
さらに揉みしだくと、一刻の後に結衣の背が震え、乳房の先から細かな飛沫が撒き散らされます。  
指についたものを眺めると母乳のようでした。  
「一応聞くが、子育ての経験なんて…無いよね?」  
「……はぁ、はぁ……あ、当たり前、よ。 私にもわかんないの、どうして?  
 出るハズなんてないのに、どうして何か出そうになっちゃうの!?」  
結衣自身も驚愕しているようです。  
 
胸のほうは本来ありえない反応まで示すほど昂ぶっているのがわかりました。  
では肝心の女の部分は?  
私は結衣に覆い被さったまま脚を開かせ、ドレスをたくし上げてショーツに手を滑らせます。  
若草の感触の先に肉襞があり、そこへ指を割り入れます。  
結衣が小さく息を吐きました。  
やはり妙です。指を潜らせた肉のあわいは、確かに少し湿ってはいます。  
しかし乳房の乱れに比べれば無反応にも等しい変化です。  
乳房であれほどに感じるならば、秘部には愛液が溢れていて然りですから。  
私は秘部を弄りながら確認します。  
「ねぇ結衣、恥ずかしがらずに答えて。ココとおっぱいと、どっちが気持ちいい?」  
すると結衣は物欲しげに肩を揺らしました。  
「お、おっぱい……。あそこより、おっぱいの方が……たまんない」  
予想通り秘部ではほとんど感じていません。  
 
そこで私は、あの状況を再現しようと試みました。  
結衣の中に指を沈ませながら、膣、膣、と頭の中で念じたのです。  
するとどうでしょう、結衣の腰が急に跳ね上がりました。  
「ふあぁっ!?な、何?一体なにしたの!?」  
彼女の慌てた声と共に、膣の深くからじんわり熱いものが溢れてきます。  
指先に触れる膣壁が潤み、それどころか襞そのものが膨らんで指を強烈に締めつけます。  
今の今まで緩い空洞だったものが、瞬く間に熱い狭洞へと変貌したのです。  
「熱い、熱いよ……!!」  
結衣は艶かしく腰を振って呻きました。乳房の時と同じくです。  
割れ目を探ると、やや浅い所にふくらみがあり、表面がざらざらとしています。  
形状がいやに鮮明すぎますが、Gスポットと呼ばれるものでしょう。  
そこを擦ると結衣はベッドに顔を埋めます。  
安定感のあるその姿勢は、まるで多大な快感を逃すまいとするようでした。  
 
私は結衣の快感を引き出し続けました。  
背後から胸を弄ると、結衣は腹を引っ込めて「うう」と呻きます。  
秘部を弄くりまわすと、今度は腰を落として「ああ」と喘ぎます。  
私は結衣のショートヘアに鼻を埋めながら、それを何度も何度も繰り返しました。  
結衣の髪からは結衣らしいすっきりとしたレモンの香りがします。  
そこから鼻をよけると、部屋は乳臭い匂いと女の匂いで満ち満ちており、  
ベッドには母乳の水溜まりと愛液の地図ができていました。  
「気持ちいい、結衣?」  
私はそれを前に意地悪く問いかけます。  
「き、きひもち、いひ?……あ、あう、頭が、ぼんやりて、かんがえらあい……」  
結衣は床のカーペットを眺めながら答えます。  
その姿は実に嗜虐心をそそるもので、私はその夜、彼女を使って自らの能力を研究し続けました。  
 
私に備わった能力は、『対象に触れながら身体の部位を思い浮かべる』事で発揮されるようです。  
その効果は前述の通りですが、必ず身体に触れた状態でなければなりません。  
例えば目の前に、ドレスを脱がされた結衣が座っています。  
その細い腰の中心に縦一本筋の慎ましい臍があります。  
今私がこの臍を見つめて念じても、それだけでは結衣は反応しません。  
ただこちらを不満げに見つめ、自ら乳房を刺激し始めるだけです。  
しかし私がその臍に指をかけて念じると、途端に彼女の腰が震え上がるのです。  
そのまま臍へ指を入れると、結衣は普通の女性が膣で性交する以上の反応を示します。  
手を後ろに投げ出して支えにし、ほっそりとした腹部を突き出して抜き差しの快感に酔いしれます。  
 
それは器官に限った事ではありません。  
耳でも、うなじでも、背中の筋でも。私が触れて思い描けば、そこが結衣の局所となりました。  
うなじだけを吸い続けても脚を突っ張らせて達してしまうのです。  
そのように実験を続けた末、結衣は全身くまなく性感帯になってしまいました。  
正座をすれば膝で感じ、たまらず転がれば脇腹で悦び、ベッドにすがり付けば腹筋で達する。  
結衣は苦しんだ末、シーツで身体をぐるぐる巻きにしてしまいました。  
全身がクリトリスのような今、そうでもしないと正気が保てないのだそうです。  
しかし、正気が保てないのはこちらも同じでした。  
シーツにくるまり、体中を桜のようなピンクに上気させ、濡れた瞳で見上げられては堪りません。  
私は結衣の歯茎を撫でて開かせ、逸物をその口に咥えさせます。  
一つだけ、まだ性感帯でない場所を思い出しました。  
喉奥です。  
私は逸物を咥えさせたまま、喉奥、喉奥、と念じます。  
こちらを見上げる結衣の瞳がたちまち潤み、喉の奥でこぷっと音がします。  
私はそんな喉奥に逸物をねじ入れました。  
「ん、んもぅおうぅ!!!!」  
結衣は呻きながら目を蕩けさせ、苦しみながらも私の腰を掴んで自ら喉奥に叩き込みます。  
亀頭に喉奥のゴリゴリという感触が心地よく擦れ、私は背に電流を浴びたような快感に浸りました。  
結衣は唾液まみれの逸物を何度も何度も飲み込み、えづきながら絶頂を迎えます。  
喉奥が締まり、私も陰嚢を痺れさせながら最奥に熱い奔流を流し込みます。  
狭くぬるく、それはまるで膣内射精さながらの心地よさでした。  
 
結局結衣はシーツにくるまったまま、まんじりともせずに夜を過ごしました。  
私も流石に悪いと感じたので起きていたのですが、何しろ結衣は息を吹きかけただけで叫ぶような状態なのです。  
そのためろくに水も与えられず、ただ彼女の火照りが治まるのを待つしかありませんでした。  
全身がクリトリスのようではそれも中々難しいようでしたが。  
「……ちゃんとえっち…したかったな…。」  
結衣は体育座りのまま私に冷ややかな視線を浴びせます。  
口を動かすだけで大変らしく、言葉は東北訛りのように不明瞭ですが。  
「ごめんね」  
私が謝ると、結衣はにやりと笑って、そのせいで身悶えました。  
それからしばし私は睡魔に抗ったのですが、射精の疲労からか、いつの間にかまどろんでいたようです。  
 
朝日に顔を照らされて目が覚めると、背中に毛布が掛かっていました。  
結衣が掛けてくれたに違いありません。  
結衣を探すと、彼女はシーツを巻いたまま窓を開けている所でした。  
「身体はもういいの?」  
私が問うと、結衣はこちらを振り向いて笑顔を見せます。  
そして羽織っていたシーツを勢いよく取り去りました。  
「ふふん、もう万全でしょう“よ”!!」  
無理のある笑顔と同じく、大丈夫ではない言葉が発せられます。  
そもそも問題はそれだけではありません。  
「…………窓、全開だよ?」  
窓の外では、登校途中と思しき高校生がこちらを見上げて固まっています。  
「う、うきゃあ!」  
結衣は叫び声を上げてまたシーツに包まりました。  
朝から結衣ほどのいい裸を見られるなど、あの高校生は運がいいものです。  
恐らく今日の自慢の種になることでしょう。  
しかしともかく、結衣は一晩で普通の動きができるほどには回復したのでした。  
 
それからの結衣は、一見すると元の明るい彼女に戻っていました。  
しかし私にはわかります。  
よく見れば、彼女は人の目の無いところで耳といい胸元といい、色々な箇所を擦っているのです。  
彼女曰く、実際に痒いわけではないが、あんな体験をするともう戻れないのだそうで、  
特に嫌な事があった日などは私のところへつかつかと歩み寄り、  
「今日もよろしくね。」  
と囁くのです。  
体中を性感帯にされ、頭を真っ白にするのがストレス解消にいいんだとか。  
 
ベッドで目を白黒させながら、ある日結衣は私に言いました。  
「こうして体中クリちゃんみたいになってるけどさ、私が一番敏感にされたの、どこかわかる?」  
私はさっぱり解らず、おっぱいと答えて蹴りを喰らいます。  
結衣は飛び起きて私を見据えました。  
「ココロ、だよ。  
 キミに触られて、想われて、それで私の全てが変わる。  
 そう考えたら、絶対浮気なんかできないな、って。」  
結衣は私の頬を撫でて笑みを浮かべます。  
「ねぇ、もしこうやって私が触ってキミを想ったら、いつか反応するようになるのかな?」  
結衣はそう言いました。  
結衣には悪いが、それは到底無理な話です。  
 
何故か、ですって?  
 
なぜなら私は、ただ彼女と一緒にいるだけで、新鮮な気持ちになってしまうからです。  
 
                 
                    終わり  
 

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