「なぁお前ってこれからどうすんの?」
「これから?とりあえずこの物件にサインしてワンブロック買い占めかな」
「おい、既に総合トップはお前で決定だろ?次にそこを通過する俺にちょっと優しくしてあげようとか思わないわけ?」
「思わないかな。ほいっとな」
「マジでやりやがった!」
結局最後にCPUにも抜かれ三位という無様な結果に終わってしまった。
「いや、つーかそういうことじゃなくてさ、今後の人生みたいな意味でだよ」
「んー、いきなりそういうこと言われてもねー」
「いきなりってほどでもないだろ。こうやってお前と過ごせるのもあとちょっとだろうしさ」
今は実家にいるがこの春からは東京勤めだ。今までみたく互いの部屋に入り浸ってはだらだらとはいかないだろう
「東京かぁ。飛行機使えば会えないこともないよね」
「お前はどれだけブルジョワなんだよ」
「えっ?そっちが会いにくるんでしょ?」
「お前って本当にいい性格してるよな」
「性格がいいとか急に誉めないでよ。真実とはいえ照れちゃうじゃん」
このままじゃ埒があかんと思った俺は少し真面目なトーンで話し掛けてみることにした
「来年にはお前も卒業だろ?というかもう就活始めるなり進路決めないと普通にヤバいだろ」
大学三年のこの時期にも関わらず俺はこいつが就活や試験勉強をしてる所を見た記憶がない。正直不安である。
「だって進路はとっくに決まってるし」
なのでこいつの口からこんな言葉が出た時俺は鳩が豆鉄砲喰らったような顔をしてたんじゃないかと思う。「……うぇ、もう決まったってお前そんなこと一言も言わなかったじゃねーか」
「だって今初めて口にしたもん。聞かれたから答えただけ」
いや、確かにその通りである。いくら家が隣で物心ついた頃から一緒にいたとはいえ別に報告する義務なんてないのだ。
理性ではそれくらい分かってるのだがこいつの口から直接言われると意外とくるモノがあった。
俺はこいつの一番の理解者でこいつは俺の一番の理解者だと思っていたから。言葉にしなくとも分かり合えてると思っていたから。
軽いショックを受けながらも俺は平静を装い質問をする。
「この時期でもう決まったとなるとかなりの大手じゃないのか?まさか外資とかか?」
「別にそんな大層なものじゃないよ。昔からの夢ではあったけど」
昔からの夢?ますます分からない。なんだか急に遠くに行ってしまった気がする。こんなことになるのならあんな事聞くべきじゃなかった。
そうしたら物理的な距離は離れても今までのような距離感でいられたかもしれなかったのに。
俺がそんな風にネガティブな思考に陥り始めていると「んー一番上の引き出し開けてみて」
と気が抜けたようないつもの声が聞こえた。
「書類が入ってるからさ」
「書類?それって」
「そう。私の進路先」
俺は言われるがままに引き出しを開ける。そこに入ってたのはこいつの名前が書かれた一枚の書類。
そしてこいつの名前の横には俺の名前。
「……ダメかな?」
そう呟いた声は今までで一番可愛かった。