人には言えないような行為をする時には、密室が必要になる。出来れば外から中を覗かれる余地もなく、音も漏れない。
生活圏と距離が近ければなお理想的だ。理想は、誰も自分たちのことを知らないような場所で、二人きりで住める一軒家を持つことか。
市内のラブホテルはその条件に近かったが、出入りに人目を気にしなければならないのが問題になった。どの条件にも
当てはまる物件となると、今度は費用などが問題になってくる。
二人はそのハードルを、妥協によって下げた。
即ち、距離と頻度については諦めること。
隣の県にあるラブホテル街の駐車場で、冶佑は車を止めた。駐車場に入ってすぐ、統子は車を降りて中で部屋を決めている。
両親には、足を兼ねて統子の仕事を手伝いに行くと伝えた。実際に統子の仕事の帰りなので、嘘ではないが、まあ、
概ね嘘のようなものだ。冶佑はキーを抜いてドアのロックを確かめると、その小さな罪悪感と高揚とを抑えるように歩き始めた。
特にここを選んだ訳ではない。地理的に実家と離れてしまえば、家族は元より、地元に大勢いる知り合いに姉弟で
乳繰り合っているなどということも、知られずに済ませられる。要は、場所を知っていて使い慣れているかどうかだ。
装飾のついた重い扉を開けて入ると、中心地の活気の届ききらない地方都市というような古臭さをあまり感じさせない無人のフロントと、
そこに立つ女が視界に入った。髪は無造作に肩甲骨の辺りまで伸ばしており、スカートのひだからほっそりとした肢が、
少しくすんだリノリウムに向かって伸びて、あまり太さの合わないブーツに突き刺さっている。やや痩せ気味で大した肉感は
ないものの、それでも全体のスタイルはよく整っており、男の欲を掻き立てる。もっと素直に、その色かたちに本能を昂ぶらせて
いても良かったのだろうが。
液晶パネルの画面が切り替わり、出力されてきた部屋番号の書かれた紙を手にとると、女――統子が目配せと手つきで冶佑を呼ぶ。
「こっち」
「ああ」
歩を早めて統子に並ぶと、特に話しかけるでもなく、そのすぐ脇を歩く。横目で統子の表情を窺うと、心なしか笑っているような
気もした。自然と、口元が綻ぶ。冶佑はこういう時間も好きだった。無言であっても心地よい時間を共有し合えるのは、二人が
限りなく恋人同士に近い関係を維持できているということだ。
統子はドアを開けると、鍵と手荷物、持っていた上着を冶佑に突き出して一直線にベッドに向かっていき、突っ伏した。仕事明けの
統子を休ませ、本番はその後、という予定になっている。
「あたしちょっと寝るわ、ヤスたんあとよろしく」
「たんウゼえ。ちゃんと寝とけ」
女とはいえ人間をどけるのも面倒なので、クロゼットから大き目の毛布を取り出し、統子に掛けてやる。暖房もあるので、
これ一枚で足りるだろう。彼女の手が毛布の端を掴み、せわしなく動く足が、体とのポジションを調整した。
冶佑が統子と自分の上着をクロゼットのハンガーにかけ、手荷物やキーはコーヒーテーブルに置くと、毛布を被った統子が
跳ねるように上半身だけを起こして、おどけた声音で冶佑に告げた。
「あんたがヤスたんなら、あたしのことはとーこたんと呼んでもいいのよっ」
「今年で22だろお前……寝ろ」
「あぃ」
統子が頭を落とすと、冶佑はその顔の近くにベッドを派手に揺らないよう腰掛け、彼女の髪を丁寧に梳いた。
「ごめん、ホントに寝る」
統子が、こちらに遠慮するように呻いてくる。
「悪り」
体ごとベッドからどけると、早くも聞こえだした統子の寝息に、溜息めいたものを吐き出す。統子については嫌いな点などないつもりだったが、
ここまで即座に熟睡してしまうような働き方をしがちなことだけは、少し改めて欲しいものを感じていた。
(もうちょっとゆっくり生きろよな……)
冶佑は統子に寝そべると、毛布をその首元まで掛け直した。
7、8年ほど前から、親の目を盗んでこっそりと、悪戯をしあうような行為を続けていた。初めて唇を重ねたのは、確か小学校の頃だ。
普通の姉弟であれば、その頃にはどちらかが(もしくは互いに)相手を無根拠に忌避するようになっても決してありえない事では
なかったが、二人の場合、そうではなかった。冶佑の流儀でいえば、周囲のませたがりに影響されて悪人でもない家族相手に冷たく
当たるようになるなどとは、愚の骨頂というものだ。それと姉弟で体を重ねることとはまた別だというのは頭では理解していたが……
そして冶佑が18歳になると、二人は早速一線を越えた。ぎこちないながらも、互いに純潔を捧げ合い、心の中で両親に謝罪した。
それから二年ほど、互いのスケジュールの合間を縫って逢瀬を重ねる、今の関係を続けていた。自分たちが世に受け入れられないことを
しているという自覚も既に多少は持ちつつも、慎重に行動することで知人や親類には一切関係を知られることなく、今まで上手くやってきたものだ。
統子が目を擦りながら仏頂面で上体を起こすと、冶佑は彼女にミネラルウォーターのペットボトルを開けて差し出しつつ、尋ねた。
「もうちょっと休み増やせないか? 俺……もっと会いたいよ」
「弟とセックスするから休み増やせー、って?」
喉を潤しボトルから口を離すと、悪女のような笑みを浮かべて統子がふざける。
「……そういう意地の悪い言い方は母ちゃんそっくりだな」
「連休以外は休むのに集中したいだけだってば。あんたはまだ学生だから、分かんないかも知れないけど。楽しいことだって、すれば体力使うの」
(そりゃそんなモヤシじゃなぁ……)
彼女の細い肢体を見やりつつ、胸中で呻く。
冶佑の指摘に反論を終えたか、のろのろとタオルケットをどけると、統子はこちらに這い出し、冶佑ににじり寄った。
「……それに、あんまり頻繁に遭ってると遭えない時辛いし。セクロスも結構体力使うし」
「セクロスとかやめろ」
「じゃあ、えっち」
悪ふざけを言うように呟くと、統子は上体を落として冶佑の腰に取り付き、着衣を脱がそうとベルトに手をつけた。
「自分で脱ぐよ」
「前はあたしが一方的に剥かれたんだから、今度は逆でもいいっしょ?」
「えー……」
冶佑が小さく難渋している内に、彼女は手際のよい手つきで(慣れている訳はない筈なのだが)その陰茎を空気に触れさせると、
口に運んで舌を這わせた。突き出したままの尻から、スカートが捲れ落ちそうでそうならない位置を保っている。
「っ、全部脱いでからの方が良いだろ?」
「今日は着たまましたい気分」
統子が頭を動かすごとに、髪が揺れ、唇と陰茎の隙間から空気が僅かに漏れる。
他の女と比べたことなどないため、統子がどのくらい上手いのかは分からなかったが、度々歯を立られて閉口していた最初の頃と
比べれば隔たって上達しているように思える。
しばらく、無言で統子の吸茎を見つめていたが、統子が四つん這いになって上体を下ろして陰茎を責め立てている今の姿勢だと、
冶佑の視界には統子の小さな肩やなだらかなウエスト、細い腰の方が大きな割合を占めていた。
(こんなに尻を上げた姿勢は初めてだよな……)
悪戯心が鎌首をもたげ、自然と統子の腰に手が伸びる。
疑問に感じたか一瞬だけ統子の動きが止まるが、行為に専念することにしたようで、すぐにストロークを再開する。
そして、彼女のスカートを捲り降ろして無防備な尻を露出させ、すぐさま指を差し込んで下着を腿の中ほどまで引き摺り下ろした。
「ふー!?」
陰茎を口に含んだまま悲鳴を上げた統子が、すぐに口を離して抗議を始める。
「ちょっと、何してんの!」
「いいじゃん、してもらってばっかりも悪いし」
「だからっていきなりパンツ下ろす奴がっ、やぁ、あっ……!」
体勢はそのまま、既に僅かに湿り気を帯びていた陰部に指を突き立てて、音が立つようにかき回す。
小さな嬌声を漏らして震える彼女に、要望する。
「俺はこのままさせてもらうからさ、姉貴も続きしてよ」
「バ……カっ、こんな体勢で、や、やだ、ってば、やぁん……!」
何も言わずに愛撫を続けると、統子は諦めたのか、そのまま舌使いを再開した。
愛しさに僅かな荷虐心を交えて多少強めに苛め立てると、くぐもった声と共にスカートから突き出た尻がいじらしい動きで震えた。
ついでに片手を離し、そちらで袖の中から乳房を弄ぶ。
「ん、ふも、ん〜! んぅ、ん、ん〜……!」
「がんばれ」
無責任に聞こえるように応援するが、実際、統子の頭と舌の動きは激しくなっていった。少しでも集中して下腹への刺激を
忘れようということなのかも知れない。しかし、動きの激しさに比例して段々と舌の動きが雑になる。統子には悪いが、
愛撫に合わせて左右に揺れる彼女の尻の動きの方により強い刺激を受け、吐精する。
「んふぇっ!?」
「姉貴、ごめんっ……!」
「ん〜!!?」
予告なしで射精されたことに慌てる統子に謝りつつ、彼女の頭を押さえつけ、全てその口の中に吐き出そうとする。
同年代の女と比べても少々弱い統子の筋力では、今年で成人した弟のそれには全く対抗できない。
反射的に彼女の脚が力を込めて踏ん張り、腰が突き上がる。かなりの罪悪感を覚えつつも、 20秒ほどかけて、全て吐き出しおえた冶佑は統子を開放した。
「ぷへぇっ! えふ、けふっ、けほっ……」
「あ、姉貴……ホントごめん」
少し深刻な様子で嚥下する統子の背を擦ってやりつつ再び謝ると、統子は無言で近くに転がっていた枕を引っつかみ、一回転して彼の側頭に恐ろしい勢いで叩きつけてきた。
この細腕でどうして、体重で10kg以上勝る冶佑が思わず転倒しそうになるほどの衝撃が、軽く脳を揺らす。枕の素材のせいもあり、軽く引っ叩かれたような衝撃が左の頬に残った。
「痛ってぇ!」
「このサドヤスっ! 人の好意をこんな乱暴な方法で返すとか、信じらんない!!」
「わ、悪かったって言ってるじゃんか!?」
「あたしの怒りはぶつけ終わってないッ!! 何、予告もなしに全力昇天!? あたしが苦しそうにしてるのも無視して
気持ち良さそうにビュービュー出しちゃって、ちょっとあんたはいたわりとか優しさとかそういうのを――――」
統子の罵声の雨が止むと、冶佑は悄然としてベッドに座り込んでいた。やはり口では論理はともかく、手数で勝てない。
統子はといえば、言いたいことは言って怒りも収まったのか、洗面台で口をすすいでいる。
「げーっ。あー、まっず」
「確かに、最初に舐めてもらった時はそんなもん無理して飲もうとするなとはいったけどな……」
聞こえよがしに吐き戻す真似をしてみせるその態度に思わずぼやくと、彼女は当然といった調子で言い返してきた。
「ならいいじゃん」
「だからってそこまで遠慮なくぺっぺかすんなよ……」
「やだ。ぺっぺっ」
「まだやるか」
「あんたこれがどんだけ不味いか知らないでしょ。ついにあたしの頭を押さえつけまでして飲ませようとしたくらいだし」
「飲ませようとして頭抑えた訳じゃないが、それはごめんっての。……でも俺、自分から舐めろなんて一度も頼んだことないぞ」
「え、そうだっけ」
「そうだよ!」
「Sの心に目覚めたヤスたんはある日姉の髪の毛を引っつかんで強引におフェラチオを……」
「悪かったよホントに!」
「くけけけ……でも、舐めてあげるのってホントに『してる』って感じするでしょ」
「そういうもんか……?」
「あたしはそうだよ。……今日はすっごく苦しかったけどな〜」
「しつこいっ」
統子はベッドに乗り上げると、崩した正座を取って手の平を前につき、聞いてくる。俗に言う女座りという奴だが、統子はよくこの座り方をした。
「そろそろ復活しそう?」
「……そうだな」
問いに答えると、元に戻すのも面倒なので全部を脱いだ下半身が勃起してくるのが分かる。
統子も、濡れてしまうので腰から下は何も履いていない。
「それじゃ……」
ベッドに尻をついた統子はそのまま冶佑の方まで手と腰で移動し、背中で持たれかかって来た。
「第二ラウンド?」
冶佑は答えずに統子の服の中に手を伸ばし、欲望に身を任せた。
「ん…………冶佑……」
「姉貴…………」
姉と弟が男女の目つきで、夢見の最中のように互いを呼び、肉欲を確かめ合う。
冶佑は姉の肢体に愛撫を加えつつも服のボタンを外し、下着をずらした。唇に己のそれを重ね、音を立てる。
小さく音を立てて、統子の下着を肌着の上に落とすと、冶佑の腕の中には姉の裸身だけが残っていた。
統子の方は瞼を半ば落として、ゆっくりとしたペースで彼の指や乳頭に吸いついている。
髪を撫でつつその姿を観察するように舐めまわし、陰茎への血流が強まるのを感じる。既に先端もじわじわと先走りが滲み始めていた。
忌憚なくいえば、統子の肢体は体の肉付きに比例し、年齢の割りに起伏に乏しい。
冶佑は統子の両肩を掴むと上体をこちらに向けさせ、自分は姿勢を下げるとその腰に抱きついた。統子も特に何を言うでもなく、
彼の背中を抱き返してくる。
起伏の少ない胸郭の低地部分に耳を寄せると、拍動が耳を打った。陰茎を張りのある太腿に擦り付けつつ、膨らんだ乳頭を口に含む。
舌で強く擦り、甘く噛み続けると、強まった統子の息遣いが顔に当たりだした。彼女もろともベッドに倒れこみ、うなじと腰を押さえて
抱きしめた。今度は陰部をそれに密着させる。
風呂上りの女の柔らかな香りが、更に強く嗅覚を刺激してきた。実の姉の体臭に欲情できるという、自分の異常性を脳の片隅で痛感する。
「ん…………」
肩口に当たった喉から、小さな声や細かな息遣いまでもが伝わってくる。
もっとも、その異常性を分かち合うことの出来る女が、そんなものは何でもないのだと思うことが出来る根拠が、同時にこの世に
存在していてくれた。両親や神様といったものとはもっと違う何かに感謝するような気持ちで、統子の体に己の指を這わせる。
統子も、ひんやりとした指で冶佑の体を撫で、下腹を刺激してきた。
「姉貴……」
「んー……?」
冶佑は少し上半身を離して、けだる気を含んだ声で呟き返してくる統子の瞳を見つめ、告げた。
「やっぱ俺姉貴と結婚するわ」
「無理だから」
目をそらして即答されるが、構わず続ける。
「親に紹介する」
「殺されるでしょ」
「お産の時はずっとそばに居る」
「孕ます気だし」
「ホントは妊娠させたい」
「やばいっつの」
「……そんなのは、分かってるんだけどな」
的確な口答えに呻くと、再び華奢な統子の体を抱き寄せ、しっかりと抱きしめる。互いに唇を奪い合い、唾液を混ぜ合わせた。
「愛し合ってるだけじゃ、足りない? あたしはヤスのこと、愛してるよ。一番」
「そういうことあんまりいうなよ、増長するから……」
ストレートな台詞に戸惑いながらも、統子の下腹に自分の先端を擦り合わせる。会話の内容とは無関係に、どちらのそれも液に塗れ、
濡れた肉同士が淫靡に擦れ合う音を立てた。
「ちんちんなら幾らでも増長していいよ?」
「バカ」
「んっ……!」
呟いて入り込むと、勢いを違えて一気に根元までをねじ込んでしまう。統子の上体が軽く跳ねた。
「ぁ、やっ……ばかっ……」
「……ごめん」
「ん……」
「てか、あんまでかいと裂けるだろ……」
「その場のノリに決まってるでしょ……ぅ……」
「はいはい……」
軽口を受け流し、無言で体を前後に動かす。
「っ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ……!」
ストロークに合わせてリズミカルに上がる擦れそうな統子の声に、自然と腰の力が強まった。
「っ……やすけぇ……んぅっ…………!」
出来るだけ彼女の声だけを聞いていたくて、冶佑は何も言わず、乱れる統子をひたすら抱き潰し、犯し続けた。
鋭くも鈍い、麻痺のような痛みが先端から染みるように脳まで伝播し、それに狂った本能が、実の姉に対してオスの業を完遂するように命じる。
「ふぁ、ぁ、ぁっ……や、すけっ……! ん、ゃぁっ……」
統子の秘裂を押し広げるたびに、髪が揺れ、酸素を求めて上下する胸郭に薄く張り付いた乳房が僅かに揺れる。
掌を強く握り締められるのを感じて、負けじと握り返した所で、限界が近づいているのが分かった。
「ごめん……っ、そろそろ……」
「んっ……いいよ、まだ……溜まってるでしょっ……全部出しちゃえっ……ぁっ」
「く……姉貴っ……好きだ……っ!」
「……っ!」
何のきっかけか先ほどまでよりも強く急激に締め付けられ、冶佑は限界を迎えた。
軽い無重量感の勢いも伴って、統子の体をかき抱いてベッドに沈める。その背を力を込めて抱きしめ、舌と唇で彼女のそれを求める侭に踏み荒らした。
そして遂に堪えていたものが破裂し、迸った液を統子の体内に流し込む。心地よい痺れに全身を襲われ力尽きそうになりつつも、姉の耳元で囁く。
「姉貴っ……統子……っ」
「冶佑……っ」
欲望をあらかた撒き散らしてふらふらと起き上がると、統子からゆっくりと体を引き抜き、そのすぐそばに倒れこんだ。
上気したままの統子がこちらの手を握り、体を寄せつつ指を絡めてくるのが分かる。
二人はしばらく、黙ったまま互いの体を抱きしめあっていた。
しばらくそうして、先に言葉を発したのは統子だった。
「前も言おうと思ってたんだけどさ」
「へ」
「いく時に『好きだー』とか、何度も言わなくても分かるから」
「あー……それは勢いっていうか、思わず本音が漏れるっていうか」
前言を置きつつも答えにくいことを指摘してくる統子に、言葉を濁しつつも答える。
「最近するたんび、毎回言うでしょ。嫌じゃないけど」
「だって……言うたびに締まるんだもん」
「マジでか」
「もう一回やって確かめてみるか? 下の口は正直みたいだし」
「オッサンみたいなこと言うな恥ずかしい」
「いいからいいから」
冶佑は起き上がると、指を横になったままの統子の秘裂に差し込んだ。
「へ? っ、あっ」
「統子、好きだ。愛してる」
「っ!」
出来るだけ甘く真剣そうな声色を作ってその耳元で囁くと、力んだ柔肉に指が強く締め付けられるのが分かった。
指を抜くと、軽い満足を覚えて告げる。
「ほーら、ちょっとキュンてしたぞ今。やっぱ体は正直だよなー」
「……そんなことばっか言ってるとピル飲むのサボるからね。そしたら産むから」
「さっき自分で無理とか言ってたろ! ってかそん時は素直にゴムつけるわ」
「こっそり穴あける」
「本気でやめれ」
ひとしきり他愛のない無駄話を楽しんだ後、シャワーを浴び――後ろを開発しないかと提案して本気で殴られたが――、部屋を引き払い、
互いに少し奮発して雰囲気のいい店で食事を取り――職場の男の同僚に聞いた店だと知り、少し複雑な気分になったが――、
統子を寮まで送り届け――「おやすみのキス」と称していちゃつくのはもう慣れた――、実家に帰る。
次に会うのは早くてまた2ヶ月ほど先になる……
今年から統子が会社の寮で暮らすことになり、やたらと広くなった自室でため息を吐き出すと、冶佑はPCでの作業を再開した。
もう少し会える頻度を増やす手立ても、あるはずだ。何なら ――両親がどう思うかは別として――統子の暮らす会社の寮のすぐ近くに
住んでもいい。住居に関する提案をするなら、統子の意見も必要だろうか。
冶佑は時間を確かめると、まだ起きている筈の統子の携帯に通話をかけた。
-了-