「我ながらよく壊したものだね」  
完全に他人事の口調で、少年はシルスのカルテを眺める。  
もっとも、少年にとってシルスは完全な他人であるからあながち間違ってもいない。  
「あの、お嬢様この者は」  
突然やって来てカルテを引ったくった人間の少年に対し、当然ながら医師は眉を潜めた。  
「………この子がシルスを治してくれるわ」  
「―――お嬢様、お気持ちは分かりますが、いくら何でもこのような得体の知れない者に」  
やんわりとミリアをいさめようとした医師が言い終わる前に少年はカルテを放り投げた。  
「母なる大地の女神よ、我が前に在る哀れなる者の傷を、その優しき慈悲の一欠片を持って癒したまえ」  
少年の口からその言葉がこぼれ落ちた瞬間、シルスの周りの床が光り輝く。  
複雑怪奇な文字と紋様が浮かび上がり、その文字がシルスの体に吸い込まれる。  
次の瞬間、包帯の下でシルスの肉体が蠢いた。  
ゴキ、ミュキュ、、、、  
砕けた骨と肉が包帯を突き破り、生々しい音が響く。  
その音の中でシルスの肉体は確実に治療されていた。  
折れた骨は繋がり、引き千切られた肉は再生し、潰れた臓器は復元される。  
グチャグチャになった血肉が、体の中を蠢く様子はまるで包帯の下を何匹物の蛇が這い回っているようだった。  
「はい、治療完了」  
 
絶句している一同の中、少年が指を鳴らすと同時にシルスの肉体の動きは止まる。  
「後は一日寝かせておけば、目を覚ますはずだよ」  
「そんな馬鹿な!!」  
駆け寄って再び診察した医師は事実に目を剥いた。  
「し、信じられない。完治している」  
「どいて!!」  
医師を押しのけてミリアはベットに寝かされたシルスを覗き込む。  
包帯にまかれて姿は分からないが、その寝息は安らかだ。  
「シルス――良かった」  
安堵の吐息と共にそうすがりつく。  
「信じられない、一体どうやって?」  
医師の言葉に少年は肩をすくめた。  
「別に大したこと無いよ。上位世界から抽出した膨大なエネルギーを使って局地的に時間法則を逆転させて崩壊前の状態に戻しただけだから、もっとも僕だから出来る事だけどね」  
他愛のない幼児の児戯の相手を追えた賢者のようなその態度すら、少年には似合う。  
「さて、商品は確かに納品したよ。次はお支払いの時間だね」  
少年が芝居掛かった仕草で指を鳴らす。  
 
見慣れた机、埃の積もった本棚、毎朝寝起きするベット、  
気付いた時、ミリアと少年はミリアの自室にいた。  
少年は何の断りもなく、ミリアをベットに押し倒した。  
膝でミリアの腰を挟み込み、丁度馬乗りになる体勢だ。  
「ちょ、ちょっと」  
少年は構わず、その唇をミリアのと重ねる。  
ちゅく、ちゅう、、  
少年の舌はミリアの口の中を激しく、しかし巧みに蹂躙する。  
不慣れなため戸惑っているミリアに対し、少年はちゃんと快楽を感じれるように配慮して舌を動かす。  
そして、その舌が在る一点に達した瞬間、ミリアの目が見開かれ身体が硬直する。  
「へぇ、ここが感じるんだ」  
めざとくミリアの反応を見つけた少年は、口元を濡らす唾液を舐め取った。  
「か、感じてなんか―――」  
顔から首筋までを真っ赤にして弱々しく言われては、男にとって最高の賛辞である。  
「ふ〜ん、そうなんだ」  
ミリアの顎を掴みあげて、少年は不敵に笑う。  
「じゃあ、もう少し激しくしないとね」  
「――え、ちょ、」  
ミリアの言葉を遮るように少年は再び唇を重ねる。  
 
今度のは先程のと違い、貪るような貪欲な口付け、、、  
喉に届きそうな程奥まで愛撫し、相手の唾液を吸い上げ、自分の唾液を相手に送り込む。  
「むぐっ!! むぐうっ!!」  
その異常さに少年の薄い胸板を叩いて、突き飛ばそうとするが少年の体はビクともしない。  
舌を口から追い出そうと、自らの舌で応戦するが少年は全く意に介さずミリアの口の中を好き勝手に愛撫する。  
「んんん――んーんー」  
そして舌が先程ミリアが反応した地点に近付く。  
無論、それは偶然などではなく、少年が最後まで残していただけである。  
「んーくっ!! んく!!」  
少年の行動に気付いたミリアは、必死でそれを防ごうとするが――  
と、唐突に少年の舌が奥に引っ込む。  
一瞬戸惑ったミリアだったが、数秒して変化が無いのを見て取ると安堵と共に体の力を抜いた。  
その瞬間、引っ込んでいた少年の舌が一気にミリアの口内に攻め込んで反応した地点を一気に愛撫する。  
「んむ、んむぐぅぅぅいぅぅぅぅぅぅぅぅっっっ!?」  
悲鳴のような叫びと共にミリアの目が見開かれ体が一瞬硬直し、次の瞬間全ての力が抜ける。  
 
「初々しいね。キスだけでイっちゃうなんて」  
顔どころか、耳の中まで真っ赤にしてぐったりしたミリアに少年はしてやったりとばかに笑みを向ける。  
対する少年は、頬の一つも赤くなっていない。  
「い、イッてなんかいないわよ」  
「そう、それじゃあ今度は」  
少年の手がミリアの上着に掛かり、そのボタンを外していく。  
そして―――  
「――フウッ」  
失望の溜息と共に肩を落とした。  
「な、何!?」  
「この年になってこれじゃあ―――ねぇ?」  
哀れみを含めた少年の視線の先には、ミリアのお世辞にも豊かとは言えない二つの膨らみが純白の下着に包まれている。  
「着やせするかなって微妙に期待したんだけど、無駄な事はする物じゃないね。それにこれなら下に付ける必要もないと思うよ」  
「あ、あんたねぇ」  
非常に気にしている部分を指摘され、ミリアの頬が引きつる。  
「まあ、肝心なのは――」  
 
「ひゃあっ!?」  
まるで氷のように冷たい手の平が、ミリアの胸に押しつけられる。  
「感度なんだけどね」  
少女のようにほっそりとした少年の指先が、まるで蜘蛛のようにミリアの肌を這い回る。  
冷えた指先は火照ったミリアの体に強い刺激を与え、その快楽を引きだしていく。  
「あれ、何か先の方が固くなってきたね。どうしたの?」  
少年はその美貌に似つかわしくない、ニヒルな笑みを浮かべながらミリアの胸を弄ぶ。  
胸に手のひらを押しつけ円を描くように動かし、または揉みほぐす。  
ミリアの方は声を出さないように口を引き結んでいた。  
かぷ、、  
「やあっ!!」  
「ふ〜ん、貧乳だから感度は良好っと」  
胸を甘噛みしながら少年は唾液を塗り付けていく。  
顔だけだった赤みが、体全体を浸食し始めた。  
(本当、経験が無いんだな)  
愛撫をしながら少年は思う。  
もう少し慣れているならば、快楽に対抗する術も知っているだろうに、、、  
只、耐えているだけでは男の嗜虐心を煽るだけだと理解できないのだろうか?  
だから、、  
 
ジュルリ、、、  
「っ!?」  
赤い突起を口に含んで吸い上げた瞬間、ミリアの体は仰け反った。  
(こんなに簡単に達してしまう)  
少年は貧乳と言っているが、彼女の名誉のために言うならば一応膨らんではいる。  
あくまで一応であるが―――  
「さて、次はどうするかな」  
覚悟を決めて口を引き締めて、目を閉じる少女の様子を見ながら少年は苦笑した。  
つくづく自分の好みに合わせてくれる。  
「!?」  
少年の指がミリアの腹を滑り、足の付け根に達した。  
「脱がせるけど、もういい?」  
固くなるミリアの体に抱きつき、耳元で囁く。  
「…………」  
「沈黙は肯定と取るよ」  
グッショリと濡れた下着を脱がせ、指を這わす。  
クチュ、、、  
「こんなに濡れて、イヤらしいね」  
「濡れてなんか―――」  
「じゃあ、これは何かな?」  
愛液をミリアの眼前に突き付けて舌で舐め取る。  
「うん、甘い」  
 
少年はベルトをゆるめると自分の物をミリアの秘所に擦り付けた。  
「うくっ」  
ゆっくりと焦らすように少年はミリアの中に種入する。  
「可愛いね。本当に」  
少年は腰を動かしてミリアの中を存分に堪能する。  
「ふふ、僕みたいな子供にこんなに濡れてこんなに感じて本当にエッチだね」  
そう微笑む少年の顔は面白がってはいる物の快楽の表情は欠片もない。  
処女を失ったばかりのミリアの中は、少年の物を激しく締め付け充分な快感を与えてくるがそんな物は少年にとってどうでも良かった。  
少年が欲しいのは乱れた少女の表情、戸惑いながらも快楽に溺れ、愛してもいない相手に感じ入る表情。  
それこそが少年の娯楽、、、  
「―――あんただって………感じてたじゃない」  
「―――え?」  
せめてもの抵抗にとミリアは少年を睨む。  
 
「あたしを犯した時、あんなに赤くなってあんなに可愛くてイヤらしかったじゃない」  
「っ!?」  
少年の表情が初めて歪んだ。  
白い顔が即座に真っ赤になる。  
しかし、羞恥の表情を浮かべたのは一瞬だけ、次の瞬間には即座に冷静さを取り戻す。  
その紅い瞳はとても冷ややかな光を宿して―――  
ギュム、  
「あぐっ!!」  
ささやかな双丘をまるで引き千切るかのように握り込み、少年はミリアを半ば無理矢理うつ伏せにした。  
「調子にのるなよ、小娘」  
幼い美声、しかしそれに込められた不快感と憤怒、そして殺気は並の物ではない。  
虎人と言われる種族は殺気や闘気といった物に特に敏感であり、熟練の武芸者などは一瞬で相手の強さを見抜く事が出来る。  
無論、ミリアはそれに当てはまらないが、叩き付けられた殺気は彼女にも気付く程の量と質を併せ持っていた。  
 
「ひっ」  
短い悲鳴と共に体中が震え出す―――  
絶対的な恐怖が身を包み、まるでヘビに睨まれた蛙のように指一本動かせなくなる。  
少年はミリアを抱え込んで自ら仰向けに倒れる。  
丁度、仰向けになった少年の腹の上にミリアが跨り少年の顔に尻尾を向ける事になった。  
「最高の快楽をあげるよ。狂うぐらいのね」  
途轍もなく冷ややかな声で少年はミリアの体を持ち上げる。  
一旦自分の物をミリアの中から抜いて、再び入口にあてがった。  
「え、な―――」  
違和感を感じたミリアが静止の声を上げようとするが、無論の事そんな物は無視された。  
腕をいきなり放され、そのまま体が落ちる。  
「きゃふっ」  
まるで内臓を抉るような衝撃に、ミリアは一瞬気が遠くなった。  
「どうしたの? そんなに良かった」  
心底愉快げに少年は唇を歪める。  
ミリアは返事をするどころではなかった。  
子供の腕ぐらいの太さと長さを兼ね揃えた物が彼女の膣に侵入して、彼女の中を圧迫していた。  
 
「う、く――」  
子宮口を突き上げられる痛みと圧迫感にミリアは冷や汗を流す。  
そして少年が動き出した。  
ミリアの中に入った物体が彼女の中を抉り、擦り、突き刺す。  
「い、いたいから動かないで!!」  
「やだね」  
冷徹にそう言いきると、少年はさらに動きを激しくした。  
少年の物はまるで鉄杭のように固く冷たく、ミリアの中を思う存分蹂躙する。  
それはある意味凄まじい苦痛だった。  
膣が突かれ、擦られ、抉られ圧迫する。  
それでいながら、それら全てが快感に繋がっていた。  
「あぐ、ぐふ、あふうっ」  
「苦しいよね。だけど気持ちいいんだよね」  
呻きと嬌声を混ぜ込むミリアを見ながら少年は優しく囁く。  
「イヤなら自分で抜きなよ」  
少年の言葉にミリアは両足を踏ん張って腰を浮かせる。  
それだけの事でも中の物がミリアに刺激を与えて腰が抜けそうになった。  
慎重にゆっくり、しかし確実にミリアは腰を浮かせていく。  
(も、もう少しで抜ける)  
あと一息で少年の物を抜く事が出来るまで腰を浮かせた瞬間、彼女の尻尾が引っ張られた。  
バランスを崩しそのまま腰が倒れ込む。  
「がふっ!!」  
子宮口を突かれ、痛みと快感で思考が白く染まる。  
 
「残念、あと一息だったのに」  
尻尾の端を握りながら少年は罪のない笑顔を浮かべる。  
「な、なにするひょ」  
「何、面白そうな物付けてるからちょっと観察を」  
呂律の回らないミリアに、少年はそう言って尻尾をもてあそぶ。  
「それより、抜きたいんじゃないの? 遠慮は要らないよ。好きにすればいい」  
そう言いながら腰を叩き付ける。  
「あひゃ、うひゃう」  
「うん、とっても面白い」  
それからミリアの苦痛の時間が始まった。  
少年は腰を叩き付けてミリアを嬲り、ミリアが抜こうと腰を浮かせれば抜ける寸前で尻尾を引っ張り、足を引っ掛け払って倒す。  
その度に自分の体重で中が叩き付けられ、凄まじい苦痛と快感が彼女の体を駆け抜けた。  
「ひゃぐっ、あぐっ、ひぐっ」  
「ほらほら、もうすぐいっちゃうんでしょう。我慢しなくて良いよ」  
少年はミリアの腰を抱え込み、そのまま固定した。  
「ひぐ、ひぐうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっっ!!」  
どく、どぴゅう、  
少年の言葉とほぼ同時にミリアは背を仰け反らし尻尾を立てて達した。  
しかし、それだけでは済まない。  
少年の物が一瞬脈動し、さらには大量の熱い物を吐き出す。  
しかも少年の物によって出口がぴっちり栓をされているため、吐き出された物は排出されずにミリアの子宮の中に溜まり続けた。  
「あぐ、熱いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!! 痛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!!」  
熱さと圧迫感がごちゃ混ぜになった感覚にミリアは強制的に快楽を叩き上げられ、そのまま白目を剥いて気絶する。  
 
「あらら、気絶しちゃったよ。この娘――でもね」  
少年はミリアの突起を爪で摘み上げた。  
「ひぐっ」  
痛みと快楽でミリアが強制的に目覚めさせられる。  
「駄目だよ。気絶なんかしちゃあ。相方に失礼なんだから」  
「も、もう充分でしょう。抜いてよ」  
「何を言ってるの、夜はこれからじゃないかまだまだ愉しもうよ」  
目の端に涙を浮かべてそう懇願するミリアに少年は残酷なまでに優しく微笑んだ。  
 
 
「あーあ、ちょっとやりすぎたかな」  
ささやかなテラスの端に腰を預けながら、少年は空を見上げた。  
天空には見事な満月が輝いている。  
そして部屋の中のベットでは気を失ったミリアがベットに倒れ込んでいた。  
彼女の秘所から溢れ出る大量の物は少年の陵辱の名残である。  
これだけの事をやったのなら、心と身体両方に障害を持ってもおかしくないだろう。  
ひょっとしたら、一生を男性恐怖症か何かで台無しにするかも知れない。  
「ま、いっか―――」  
僅か三秒で少年は思考を切り替える。  
単なる遊び道具として使った小娘の末路など知った事ではない。  
少年はテラスから腰を離すと少女に近付いた。  
苦しげに呻いている少女の紅い髪に少年は指を這わせた。  
(―――綺麗だな)  
少年は純粋にそう思う。  
彼にとって紅は特に執着する特別な色だった。  
今回の遊びもこの紅の髪が気になったから行ったのだ。  
もし彼女の髪の色が違ったならば、死に損ないの獣人などほっぽってさっさとこの街を去っていただろう。  
もっとも、そのせいで本人はこんな目に遭っているのでそれが幸いかどうかわ知らないが  
 
「う、うん――」  
ミリアの目蓋が震える。  
少年は顎を掴んで少女の顔を自分の正面に向けた。  
果たしてこの少女は目覚めて自分を見た時どんな表情をするだろうか?  
怯えるだろうか? 恐怖するだろうか? 発狂するだろうか? 錯乱するだろうか?  
それとももはや壊れているだろうか?  
どれにしても面白そうだ。  
ミリアの目蓋が開かれ瞳が焦点を結ぶ。  
「おはよう。お姫様」  
皮肉げにそう呟いた瞬間、少年は頬に衝撃を受けていた。  
「これは最初の分」  
手首を返し反対の頬を打つ。  
「これはシルスの分」  
さらに手首を翻し、今までの最大威力で少年の頬を叩いた。  
渇いた痛々しい音が部屋の中に響く。  
「そしてこれが今の分よ!!」  
半ば呆然と少年は頬を打たれるのに任せていた。  
予想外の出来事に体が反応できないでいる。  
「これですっきりしたわ!!」  
ふん、と鼻息をならして少女は息を吐く。  
 
「えと、あの―――何でこんな事をするの?」  
「何でですって!?」  
戸惑ったような少年の声にミリアは何を言うとばかりに叫んだ。  
「あんた人の初めて無理矢理奪っておいて何言うのよ!? シルスも大けがさせたし、しかもさっきはあんな事して!? 子供だからって何でも許されるって思うんじゃないわよ!!」  
顔を真っ赤にしながら、そう言って指を突き付けてくる。  
「―――僕の事怖くないの?」  
少なくとも自分は凄まじい殺気を叩き付けたはずである。  
少年にとってそれは大した物ではないが、獣人ごときの心を屈服させるには充分な量と質のはずである。  
「確かに怖かったけど―――」  
「怖かったけど?」  
「それ以上に無茶苦茶腹立たしいのよ!!」  
拳を握ってミリアは堂々とそう宣言した。  
「………………………………………………………………………………お姉ちゃんさあ。友達とかに無謀とか、計画性がないとか、行き当たりばったりとか言われるでしょう?」  
「うくっ、そ、そんな事無いわよ」  
その言葉全てが幼馴染みに何度も言われた事など忘却の彼方に追いやり、ミリア目を逸らす。  
「……………ふふ、ふははははははは、あはははははははっっ!!」  
じとーとした視線を向けていた少年が唐突に笑い出した。  
「な、何?」  
「そうか、そうなんだ。むかつくんだね。僕の事が―――はははははそうか、むかつくんだね」  
何がそんなに面白いのか少年は腹を抱えて笑い続ける。  
「とても滑稽だね。そして愉快だなあ」  
そう言いながらひとしきり笑い終わると、ミリアの方に向き直った。  
「ねえ、お姉ちゃん。しばらく僕を奴隷にする気はある?」  
 
「…………………へ?」  
「だ・か・ら僕を奴隷にするかって聞いてるの。この僕をね。何、損はさせないよ。僕のご主人様になれば、存分に良い思いさせてあげるから」  
「…………何でよ?」  
まるで契約を迫る悪魔のような笑顔にミリアは警戒の色を浮かべた。  
「そんなあらか様に警戒しないでよ。それとも何、お姉ちゃんは奴隷一人ももてないぐらい器が小さいの? やっぱり、胸が小さい人は心も小さいってのは本当なんだね」  
「な、何よ!! 小さくなんか無いわよ。小さくなんか!!」  
「知ってる? 本当に胸が大きい人は、小さいなんて言われても悠然と構えてるんだよ。それなのにムキになって否定するなんて、自覚してる証拠だね」  
「こ、この――分かったわよ!! あんたをあたしの奴隷にしてやるわ。こき使ってやるから覚悟しなさい」  
結局、長年の幼馴染みの忠告は全く生かされる事がなく、少女は無計画な約束をしてしまう。  
「ありがとう。あ、そう言えば名乗っていなかったね。僕の名前――」  
少年は気付いたように慇懃に胸に手を置く。  
「我が名は魔王セシリス・リュカルテット・マグナレスカ、数多の星々に在る魔族を統べる存在なり」  
「……………………………………………………………………………………………へ?」  
あまりに予想外な話しにミリアの意識は強制停止する。  
「と言う訳でよろしくね、ご主人様。名前の方は短くセリスで良いよ」  
少年、魔王セリスはそう言いながらぺこりとお辞儀した。  
 
 
「そうよ、全てあれが原因なのよ!!」  
過去の邂逅に浸っていた公爵ミリアは唐突に机を叩いた。  
その衝撃で山と積まれた書類が机の上から滑り落ちるがミリアは構わず続ける。  
「あいつは、いつもいつもあたしを騙して引っ掛けて、言質を取って、詐欺師でペテン師で」  
「――――へぇ、それで?」  
「むっつりスケベで外道で女の、いえ人類のてき…………」  
ミリアは言葉を止めると、油の切れたブリキのおもちゃのような動作で背後を振り向いた。  
そこには召使い兼魔王のセリスが、何かが吹っ切れたような清々しい笑顔で立っている。  
「……………………………………………な、何でここに?」  
「夜食に紅茶とケーキを持ってきたんだよ」  
ニコニコ笑顔のまま手に持ったお盆を突き出す。  
「ヘェ、ソウナノ。アリガトウ、セリス」  
棒読みのまま、静かに後退る。  
ニコニコ笑顔の時のこの召使いは、ハッキリ言ってダンジョンの奥深くに住む伝説のドラゴンなんぞよりよっぽど恐ろしいのだ。  
「あれ、何で下がるの? 食べようよ。このケーキ、自信作なんだから」  
ミリアを追うようにセリスが前に出る。  
 
「い、今お腹すいてないし」  
「そうなんだ」  
背中が机に当たり追いつめられる。  
「だけどさあ、僕はお腹すいてるんだよね」  
そのまま机にミリアを押し倒す。  
「ちょ、セリス」  
「酷いな。今の言葉凄く傷付いたよ」  
全然平気そうな笑顔でセリスはミリアを組み伏せる。  
「ほ、本当の事じゃない」  
「そう言えばそうだね。僕はペテン師で詐欺師でいつもご主人様を騙して――それにむっつりスケベだしね」  
セリスは腕を押さえたまま首筋に顔を埋める。  
「………ご主人様、ちゃんとお風呂に入った? 少し汗くさいよ」  
「あ、あんたがあんなに仕事を回すからそんな暇無いわよっ!!」  
首筋まで真っ赤にするミリアにセリスは苦笑した。  
「じゃあ、綺麗にしないとね」  
「な、何する気!?」  
「分かってるくせに♪」  
「ちょ、待ってあたし本当にきたな――」  
ミリアの唇をセリスは自分の唇で塞いだ。  
 
 
翌朝、ミリアはベットで目覚めた。  
「おはよう。ご主人様」  
横を向くとセリスが立っていた。  
ほぼ早朝まで運動していたというのに全く疲れが見えない。  
「う〜〜あんたねー」  
「何? それって新種の生物の鳴き真似か何かなの」  
恨みがましい主の視線を全く相手にせず、セリスは穏やかな笑顔を浮かべる。  
「昨日あんな事をして、乙女をなんだと思っているのよ?」  
「え、乙女なんかいたの?」  
非常に真面目な顔で首を傾げるセリスにミリアは枕を叩き付ける。  
「やれやれ、あんな乱れておいてよくもそんなことが言えるね。何なら昨日のご主人様のセリフ一語一句再現してみようか」  
「こ、この性格破綻者」  
「何せ魔王だからね。お褒めにあずかり光栄ですよ。我が主」  
負け惜しみ気味にの呟きにすら、セリスは平気で切り返してくる。  
ふと、ある事に気付いてミリアの顔から血の気が引いた。  
「そう言えば、昨日の仕事、あれって今日でも大丈夫なの?」  
「いや、今朝の内に採決しないといけないのが幾つかあるからね。昨日の内にやっとかないと駄目だったよ。死刑判決同意の署名もあったけど、あれってハッキリ署名拒否しない限りそのまま賛成で通っちゃうんだよね。ちなみに僕が見た限り、あれは十中八九、冤罪みたいだよ」  
まるで朝食のメニューを知らせるよう気安さでセリスは呟く。  
 
「ちょ、それって大変じゃない」  
「うん、罪もない一般人の尊い命が天に召されるね」  
慌て始めるミリアに対し、セリスはどこまでも冷静である。  
「て、あれ? ご主人様、何で着替えてるの」  
半裸状態だった寝間着を投げ捨て、およそ貴婦人には似つかわしくない速度でミリアは服を着替える。  
「議会に行って止めさせるのよ!!」  
議会専用の貴族服を体に引っ掛けると、ミリアはそのまま出口に走る。  
「まあ、待ちなよ」  
「うにゃっう!!」  
扉に突進しようとするミリアの尻尾を引っ張って、引き留める。  
「尻尾は引っ張らないでって言ってるでしょう!! 千切れたらどうするのよ?!」  
「そんな事より、書類の方なら僕がちゃんと処理しておいたから安心して良いよ」  
尻尾の付け根を押さえて抗議するミリアにセリスは嘆息する。  
「え、じゃあ他の書類は?」  
「全部片づけておいたよ。ご主人様が寝てる内に」  
何の事なしにセリスは言うが、机の上に山と積まれた書類を僅かな時間で片づけるなど常人には不可能だ。  
それを容易くやってのけるセリスの手腕は文字通り奇蹟としか言いようがない。  
 
「それにしても、そんな格好で出て行くつもりなの?」  
セリスの言葉にミリアは自分の姿を見下ろした。  
薄い灰色のスーツ型をした貴族服は所々に皺が寄り、シャツのボタンは掛け間違え、ズボンのベルトを通す穴は二つ程飛ばして、髪は寝癖が付き、顔も洗わず、歯も磨いていない。  
「全く、相変わらず前しか見ないんだもん。こんなご主人を持つと奴隷は苦労するね」  
「何よ!! 元はと言えばあんたがちゃんと報告しないせいじゃない!!」  
肩をすくめるセリスに、自覚があるらしくミリアは顔を赤くする。  
「言う前に走ってたんじゃないか、言い掛かりもいい所だよ」  
主人の叱責も何のそのセリスは心外だとばかりに主の服を直す。  
「一度湯浴みをした方が良いね。一応、仮にも生物学的にはご主人様も女だもの」  
「どういう意味よ?」  
半眼で睨む主にセリスはにっこりと微笑む。  
「何、そんなに僕の渇いた物を付けていきたいんだったら、別だけどと言う意味だよ」  
「〜〜〜っ!!」  
言葉の意味を瞬時に悟り、ミリアは服を脱ぎ捨てた。  
「やれやれ、はしたない」  
「原因はあんたでしょう!!」  
「それは何かい? 三日以上放っておくと途端に不機嫌になるどこかの誰か責任は全く考慮する必要はないって事なの」  
「だ、誰の事よ!!」  
「別にご主人様なんて一言も言ってないよ」  
「うくっ――」  
出会ってから今日に至るまで、ミリアはこの奴隷と何度となく言い合いをしていたが、数える程しか白星を上げられていない。  
 
「さて早く湯浴みに言った方が良い。直に朝食だろうから」  
テキパキと着替えを用意してそれをミリアに差し出す。  
「あんたは入らないの?」  
「一緒に入って欲しいの?」  
ほぼ即座に少年は切り返す。  
「………………」  
「安心してよ。前みたいに湯船の中に潜んだりしないから」  
非常に疑わしそうな視線を向ける主に、セリスは罪のない表情で言い添える。  
「丁度、新しく売り出す武器の見本品が完成したらしくてね。それのテストに付き合わないといけないんだ」  
「………エリスの所なの?」  
「うん」  
「ふ〜ん、本当にテストだけ?」  
「それはまあ、色々とあるだろうね」  
さっきとは別の意味で非常に疑わしい視線を向けるミリアに、召使いは苦笑する。  
そして――  
チュウッ、、、  
 
「っ!?」  
「じゃ、行ってきまーす」  
キスされた頬を押さえてミリアが振り向いた時には、セリスは窓辺を蹴って外に飛び出ている。  
「……………」  
ミリアは無言のまま不機嫌そうに部屋の出口に向かったが、その尻尾はパタパタとご機嫌に上下している。  
そして扉を開けて部屋を出ようとした瞬間、崩れてきた紙山に飲み込まれた。  
「な、何っ!?」  
のし掛かってきた大量の紙を押しのけて、事態を把握しようと頭に乗った一枚に目を向ける。  
 
『ご主人様へ  
 
     昨日の書類は僕が処理しといたけど今日の分は自分でやってね。  
      ちなみに量は昨日の倍以上だから、死ぬ程頑張らないと終わらないよ♪  
 
                          忠実なる召使い セリスより』  
 
「あんのクソ餓鬼いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!!」  
ミリアの絶叫が早朝の屋敷に響いた。  
 
【了】  
 
 

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