拓海君は毎日来てくれる。  
 嬉しいな。  
 でもその日の拓海君は、ちょっとヘンだった。  
「大丈夫? 拓海君顔色悪いよ?」  
「あ、いえ、その、大丈夫です。ちょっと試験勉強頑張りすぎちゃって」  
 
 そう言う拓海君の表情が、苦しそうだった。  
 その表情を見てしまった瞬間、私は胸の中がいっぱいになってしまった。  
 キュンキュンと胸の奥が疼く。  
 ズキズキという甘い痛みが体中にひろがっていく。  
 
 だから。  
 だから私は、拓海君の唇に近いほっぺたにキスをしてあげた。  
 触れあえないから、フリだけだけど。  
 触れた気がした唇が熱くなる。その熱が顔に伝わり、私の頬は真っ赤になっていく。  
 
「拓海君は頑張ってるよ! だから、たまには息抜きしなきゃね」  
 ドキドキしながら拓海君にそう言うと、拓海君も真っ赤な頬のまま、呆けたように座ってる。  
「…」  
「ね、拓海君。何か悩みがあるなら聞いてあげるよ」  
 
 拓海君は、まるでのどに何かが詰まったみたいな苦しそうな顔をした。  
「…」  
「……」  
「……ぼ、僕は最低なんです」  
 そう言うのは、血を吐くような表情の拓海君。こんな拓海君見たのは初めて。  
 
「どうしたの?」  
「…最低なんです。汚いんです。汚れてるんです」  
 拓海君のきれいな丸い瞳のふちに、涙が盛り上がってる。  
「どうして泣くの? 拓海君は汚くなんかないよ?」  
 
 拓海君はぽつりぽつりと言葉を吐くように言った。  
「僕、夕子さんの夢を見るんです」  
 うわあ。…嬉しい。拓海君が、私の夢を。  
 拓海くんの夢の中に、私が出られるなんて。  
 足の裏から嬉しさが湧き上がってくる。  
 腰がしびれて、立ち上がれないくらい幸せな気分になれる。  
 
「その…夢の中で夕子さんを抱きしめて、夢の中で夕子さんにキスして、そしたら、なんか温かくなって、  
……熱くなって、目が覚めたら、その…出しちゃってたんです」  
 拓海君は顔が真っ赤になってる。耳まで真っ赤なのがかわいい。  
 抱きしめてあげたくなる。私の全部を捧げてしまいたくなるくらい嬉しい。  
「ごめんなさいッ!!」  
 拓海君はそう言って私に土下座してる。  
 コンクリートの床に両手をついて、赤くなった耳を髪の間から覗かせながら額も床につけてる。  
 
 何を出したのかは、よくわからないけど。  
 でも拓海君が、私で気持ちよくなってくれたってことはわかった。  
 
 胸の中が苦しくなる。ズキン、ズキン、という身体が融けそうな甘さが心臓から全身に広がっていく。私もう心臓ないのに。  
 息をするたびに、燃えるような熱さと、痺れるような切なさがぐるぐると充満してしまう。息してないのに。  
 
 私はそんな拓海君に問いかける。  
「ねえ、拓海君。夢の中の私は、どんなだったの?」  
「そ、そんなの、言えませんっ!」  
 
「…私にも言えないような姿だったの?」  
「ち、違うんです。あの、いつもと同じ、○女のセーラー服でしたけど、そ、その、その、すごく温かくて、  
いいにおいがして、柔らかくて」  
「それで拓海君はどうしたの?」  
「その、ぎゅって抱きしめられて、そしたら、気がついたらそ、その、僕も、夕子さんも裸になってて」  
 私の裸を想像してくれたんだ。  
 足元がふわふわしてくるだけじゃなくて、身体の中心がジンジンしてきてしまう。  
 なんだか腰の奥が熱くなってくる。  
 
「僕、夕子さんのこと好きなのに、あんな最低の妄想しちゃうようなダメな奴なんです」  
 好きって言われた瞬間。  
 体の中心に火がついたみたいに熱くなった。  
 身体から体重がなくなったみたいに、ふわふわとするような浮遊感に包まれてしまう。  
 
「拓海君」  
 そう言う私の声はどこか上ずってたかもしれない。  
「夢の中で、私の裸を見たとき、どう思った?」  
「ど、どうって、そ、そんなの」  
「醜くて見たくないと思ったの?」  
「そんなことないです! 夕子さんは、綺麗です!」  
 土下座から顔をあげて、涙であふれてる、とてもきれいな目で私を見ながら、拓海君はそう言った。  
 
 その言葉が私の脳裏に響いた。  
 身体の中心が焼けるように熱くなる。  
 きれいです、という言葉が耳から離れない。  
 体中の骨を甘く溶かしてしまうような響き。  
 
 だから私は、気づいたら、手が勝手に動いてた。  
「夢の中の私と、ホントの私、どっちがキレイか確かめてみる?」  
 ちー。  
 ファスナーを開ける音。  
 ち。  
 スカートのホックが外れる音。  
 気がついたら、私は制服を脱ごうとしてる。  
 
 そして、ぱさ、という音がしてスカートがストンと床に落ちる。  
 制服の胸のスカーフを解く。  
「ちょっ、そ、そんな、夕子さん」  
「見たくないの?」  
「ち、違うんです夕子さん」  
「ショックだな――拓海君にそんなこと言われるなんて。そうだよね。幽霊の裸なんか気味悪くて見たくなんかないよね」  
 私はずるい。こう言ったら拓海君がなんと答えるか判っててこんなこと言ってる。  
 
「そ、そんなことないです夕子さん! 僕見たいです!」  
「見たい?」  
 胸がドキドキしている。心臓なんてないのに。  
「…はい」  
 真っ赤な顔で見上げてくる拓海君が可愛い。  
「私のハダカ、見たいのね?」  
「はい」  
 
 黒ストッキングを脱ぐと、拓海君の口がぽかんと開いてるのに気づいた。  
 どうしよう。  
 すごく可愛い。可愛すぎる。  
「キレイです…」  
 拓海君の崇めているような視線が私の肌を刺す。  
 私の生足を拓海君が見つめてる。その視線が肌の内側まで刺さってなんだかピリピリする。  
「あ、あの、夕子さん、脚長くて、その、すごくキレイです」  
 その言葉だけで腰の中が熱くなってしまう。脚の間がなんだか湿ってきてしまう。  
 
「私、白い下着つけてたんだ。拓海君、白い下着好き?」  
 黙ってこくこくと頷く拓海君。すごくかわいい。  
 
 セーラー服の上衣を脱ぐと、その下から白い可愛いブラが現れた。  
 私こんなのつけてたんだ。そんなことも知らなかった。  
「どう?」  
 私はそう言うと、下着姿のまま、くるりとその場で回ってみせる。  
 胸の下で腕を組んでるから、胸が強調されてるはず。  
 
 拓海君は魅入られたみたいに私の胸から視線を外せないでいる。  
 なんだか嬉しかった。  
 拓海君が私のことを見てくれてるだけで。  
 私のことを女の子だと思って見てくれてるだけで。  
 嬉しくてたまらない。  
 拓海君にオンナノコ扱いされてると思っただけで、ゾクゾクとした快感が身体の底から湧きあがってくる。  
「あ……そ、その、すごく、キレイです」  
「それだけ?」  
「あ。あの、と、とても、あの、色っぽいとお、思います」  
 拓海君は震える声でそう言ってくれる。  
 
 そんな拓海君に問いかける。  
「ね、もっと見たい?」  
「み、見たいですけどでも、その」  
「私も拓海君好きだから。だから、私のこと見て欲しいな」  
 
 私の言葉で、息を呑む拓海君。  
「…って……」  
「うん。さっきね、拓海君が私のこと好きだって言ってくれて、初めて判ったの」  
 ドキドキが止まらない。どうしよう。  
「私も拓海君のことが好き。好きだから、全部見て欲しいんだ。いい?」  
 言葉が勝手に出てくる。ホントの気持ちを止められない。  
「…」  
 無言のまま何度も頷く拓海君。  
 
 
 背中に手を回して、前かがみのままブラジャーのホックを外す。  
 胸元に視線を感じる。ふと顔を上げると、拓海君の目は私の胸の谷間に釘付け。  
 嬉しいな。拓海君が。私の身体を見てくれてる。  
 嬉しそうに、興奮した目で私のことを見てくれてる。  
 それだけで、腰の中が甘い蜜で満たされたみたいに震えが来てしまう。  
 そんな拓海君にウインクをしてあげると、拓海君は慌てて顔をそらしてしまう。  
 
 ブラジャーを床に落とすと、私は顔を背けたままの拓海君の傍に行く。  
 そしてその耳に囁いた。  
「拓海君、見て」  
 
「今まで誰にも見せたことないんだよ」  
 拓海君が顔を上げる気配。  
 見られてる、と思うだけで身体の奥がざわざわする。  
 胸が破裂しそうなくらい、心臓がドキドキしてる。  
 胸の肌が焼けそうなくらい、熱い視線を感じている。  
 拓海君が、今、私の裸の胸を見てくれてる。  
 
「触って」  
「え?」  
「フリだけでいいから」  
 拓海君が私の胸に手を伸ばす。  
 その手のひらに、私は自分の手を重ねる。  
 
 その手のひらに、私は自分の手を重ねる。  
 
 拓海君の手のひらが、私の胸を掴む。  
 この手は拓海君の手。この指は拓海の指。  
 
 胸の先から、心臓を通って、体中に甘くて熱い電流が流れる。  
 
 その電流が気持ちよすぎて。  
 ゾクゾクと体中に溢れる魔法みたいな幸せな波に酔ってしまって。  
 私は気づいたら、下穿きまで脱いでしまっていた。  
 
 ホントに、生まれたままの格好で。  
 胸も。下半身も。みんな、拓海君の目に晒してしまっていた。  
 
 胸の下で腕を組んで、おっぱいも。下半身も。  
 全部拓海君の視線に晒してしまってる。  
 
 自分の吐息ひとつで肌がヒリヒリしてしまう。  
 そして拓海君の荒い息。  
 その真っ直ぐな視線。  
 それら全てが、  
 
「じゃあ、拓海君のも見せて」  
「えっ?!」  
「拓海君が私のハダカを見たいように、私も拓海君のハダカが見たいの」  
 
「…」  
 息を呑んでる拓海君。  
「だめ?」  
 そう言うと、拓海君は私を真っ直ぐに見て、小さく頷いた。  
 
 

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