--六---------------------------------------------------------------------  
 反り返ってる。なんというか、拓海君の隠れた男らしさが全部そこにつまってるみたい。  
「すごい…大きいね」  
「あ、いや、その、別にそんな大きいってわけでも」  
「男らしいよ。私、男の子のソレなんて見たことないはずだけど、拓海君のはすごいと思うよ」  
 
 拓海君の裸は意外に筋肉質で、逞しくて、ドキドキした。  
 そして、その股間にそそり立ってるアレ。  
 息が荒くなる。  
 どうしてなんだろう。こんなの、見たことないはずなのに。  
 
「うわあ…すごいね」  
 ぴく、ぴく、と小さく脈動してる拓海君のアレ。  
 ほのかにピンク色のかかった赤い肉の塊。  
 
 顔を近づけてみると、ビクン、というようにさらに激しくそそり立ってる。  
 
 
 私はその硬い(たぶん)肉の棒に指を触れさせる。触れないけど。  
「ね、拓海君。触ってみて」  
と言うと、拓海君は  
「え?!」  
驚いた顔。  
 
「一緒に、触ろうよ」  
 私の言葉に真っ赤な顔のまま、頷く拓海君。  
 
 
 私は拓海君のそれに触る。ゆっくりと、手を上下に動かす。  
 拓海君の手が私の手に重なってる。  
「…きもちいい?」  
「きもち、いいです…夕子さんがしてくれてるみたいで」  
 拓海君が切なそうな顔をしてる。  
 どうしよう。  
 
 胸の中が熱くなる。  
 息一つするのだけでもおかしくなってしまいそうだ。  
 
 拓海君の裸の胸が上下してる。  
 触りたい。一つになりたい。  
 胸がドキドキして止まらない。  
 
「ねえ拓海君、えっちしてみようか?」  
 気がついたら、そう言ってしまっていた。  
「え?!」  
 もう止まらない。とめられない。  
「私、拓海君と一つになりたい」  
 その言葉は私の喉から勝手に出てきてしまっていた。  
 
 
 慌てふためいてる拓海君。  
「そ、その、僕、したことないからわかんないですけど…」  
「大丈夫、私もしたことないから。たぶん。……初めて同士だね」  
 なぜだかえへへと笑ってしまう。すると、拓海君もなぜだか照れくさそうに笑ってくれる。  
 拓海君が笑ってくれると嬉しい。  
 
「触れないから、ダメだけど、拓海君がいつもするみたいにやってみればいいから」  
 私は拓海君の身体を跨ごうとする。  
 そんな私に拓海君の声。  
「あ、あの、夕子さん」  
「…ん?」  
 恥ずかしそうに拓海君が言う。  
「あ、あの、キス、しちゃダメですか?」  
 耳まで真っ赤にしながら、そう言ってくる拓海君。かわいい。ものすごくかわいい。キュンと来た。  
「あ、あはははは。そう、だよね。えっちのまえに普通はキスだよね」  
 えっちなコだって思わないでほしいな。  
 
 私はその場にストンと腰を下ろすと、拓海君に囁く。  
「おねがい」  
 目を閉じる。  
 床に着いた手に、熱を感じる。  
 きっと拓海君が握ってくれてるんだ。  
 その暖かさだけで腰の内側がとろとろに蕩けてしまう。  
 そして唇に熱い熱い感覚。  
 触れられないけど、でも、拓海君の唇が今、私の唇と重なってるんだってことはわかる。  
 薄目を開けても、拓海君の肌しか見えない。  
 
 背筋からうなじへと、嬉しい電流がビリビリと流れていく。  
 キスが何分続いたかわからない。  
 幸せすぎて、時間の感覚がなくなってくる。  
 
「夕子さん」  
 上気した頬の拓海君が私に声をかける。  
「…うん」  
 
 拓海君の激しく興奮してるアレをまたぐと、ゆっくりと腰を下ろしていく。  
 触れないはずなのに、その熱さを感じてしまう。  
 
 そして、私の裸のあそこが、拓海君の肉の棒と触れる。  
 いや、ホントは触れ合えないんだけど、そこが重なり合った瞬間、キスの時よりももっと激しい喜びの電流が私の芯を溶かしていく。  
 思わず、足から力が抜けて、一番奥まで拓海君を受け入れてしまう。  
 
 なぜだろう。涙がでちゃう。  
 涙がでちゃうくらい、嬉しい。  
 
 動悸と荒い息を無理やり収めて、拓海君の身体の上でゆっくりと上下動を始める。  
 その動きにあわせて、拓海君も自分の固くなったアレを掴んだ手を動かしてる。  
 
 私はまるで拓海君に膣を掴まれてるみたいな感じになってくる。  
 私は自分で胸を掴んで揉む。この手は拓海君の手。この指は拓海君の指。  
 そう思いながら、拓海君の堅くなったところに、私の一番中心を押し当てる。  
 触れないはずなのに、熱くて堅い感触が伝わってくるみたい。  
 幻なのかもしれない。でも、今確かに感じられるその熱さはホンモノ。  
 拓海君が、私で気持ちよくなってくれてるってことだけはホントのこと。  
 
 拓海君の手の動きに合わせて、私は腰を動かす。  
 それがまるで、私の中で拓海君の堅いソレを愛撫してるみたいな感じがして。  
 拓海君が、私の中で気持ちよくなってくれてるみたいで。  
 
 拓海君の大きな手が、私の胸を掴む。  
 正確に言うと、私が自分で揉んでいる掌に、拓海君が手を重ねてくれてるんだ。  
 それだけで、胸から生まれたジンジンという熱い感覚が身体いっぱいに広がっていく。  
 
「拓海君」「夕子さん」  
 お互いに名前を呼び合うだけで気持ちいい。  
 拓海君の声が。  
 苦しそうに、キモチよさそうに私の名前を呼ぶ声が愛しい。  
 胸の中にグルグルと熱い塊が生まれたみたい。  
 
 拓海君のを受け入れてる私の入り口に指を這わせる。  
 この中で、拓海君が気持ちよくなってくれてるんだ。  
 そう思って、その縁を指でなぞる。  
 これは拓海君の指。これは拓海君のアレ。  
 私の指はとても比べられないほど細いけど、でも、拓海君のあげる鼻にこもったうめき声とか、  
拓海君の筋肉質な胸板に走る汗の粒とかを見てるうちに、ホントに拓海君と繋がってるような気持ちになってくる。  
 
 身体を押す。引く。  
 持ち上げる。下ろす。  
 拓海君のアレが私の中で暴れてる。  
 熱い。身体が溶けそう。身体が燃えちゃいそう。  
 
 拓海君の名前を呼びながら、私は気が遠くなるほどの幸福を感じていた。  
 
 
 そして。  
 
 
 熱いほとばしりが私の中を貫いた。  
 私の背後で、ぴたぴたっ、と液体が滴る音がする。  
 空中に放った精液がコンクリートに落ちる音。  
 でも、私にとっては中に出してもらったのと同じこと。  
 中に出してもらって、嬉しい。  
 拓海君が私のことを好きだといってくれて、嬉しい。  
 
 拓海君の精が私の中を貫いた。  
 それは電撃みたいに、私を痺れさせる。  
 息も出来ないくらい、激しい情動を引き起こす。  
 身体の芯を焼き尽くすみたいな熱さ。  
 
 
 
 
 
 
 
 
 そして、その熱が私に教える。  
 ほんとうのことを。  
 
 私は判った。  
 判ってしまった。  
 
 
 
 私が、拓海君に相応しくないということが。  
 拓海君に必要な女の子は、幽霊なんかじゃなくてホントの女の子なんだってことが。  
 ハッキリと判ってしまった。  
 
「夕子さん?」  
「拓海君…」  
 
 悔しい。悲しいな。どうしてなんだろう。  
 どうして私じゃダメなんだろう。  
 
 
 泣きながら拓海君の胸に飛び込む。  
 拓海君は優しいから、あたかも私の身体があるみたいに、緩く腕で輪を作って抱きしめるようなフリをしてくれる。  
「夕子さん…大好きです」  
 
 拓海君は私の耳に囁きかける。  
「一目見たときから好きになったんです。だから、夕子さんが幽霊だって言ったときにも  
そんなことは全然気にならなくて」  
「夕子さんに会えると思って毎日が楽しかったです。僕、今まで生きてきた中で今が一番幸せなんです」  
 
 
 嬉しいなあ。  
 嬉しい。  
 私幽霊になってこんなに嬉しい目にあったことはない。たぶん。  
 
 
「拓海君」  
「はい」  
「大好き」  
「…はい」  
 
 
 こんなに可愛くてステキで、カッコよくて優しくて大好きな拓海君にこんなことを言うのは辛い。でも、言わなきゃ。  
「ごめんね。私、拓海君ともう会えないよ」  
「――っ!?」  
「私も拓海君の事大好きだよ。でも、拓海君は生きてるんだから。  
 ちゃんと生きてる女の子のこと好きにならなきゃダメなんだよ」  
「――夕子さん!?」  
 
「ごめんね。私、やっとわかったんだ。生きてるってことがどんなことか。  
 生きなきゃいけないってことがどんなことか。  
 だから、私、成仏?っていうのかな?こんなカタチで居るのはもう終わりになると思うんだ」  
「え? え?? 夕子さん??」  
「…成仏なのかな。よくわかんないけど、まもなく私は消えちゃうと思う」  
 そう言って拓海君に手を見せる。  
 ちょっとだけ透けている。  
 その指の透明度はほんのすこしづつ増えていってる。  
 
「泣かないで。ゴメンね。」  
 
「でも、きっとこれでいいんだよ。私幽霊だから。こんなことしてたら、拓海君のこと、きっとそのうち  
取り殺しちゃうと思うんだ」  
「そんなの全然――」  
「構わなくないよ。私、拓海君のことが好きだから。好きだから、拓海くんには生きてて欲しいんだ」  
「夕子さん?」  
 
「さよなら。拓海君。好きだよ。大好きだよ」  
 
 体が軽くなるのを感じる。  
 なんだか体が透明になっていく感じ。  
 意識がだんだん薄れて、頭上にすーっとひっぱられてくような。  
 消えちゃうんだ。私。  
 そっか。寂しいな。でも、最後に拓海君と会えてよかったな。拓海君。大好き。  
 大好き。すごく大好き。泣かないでほしいな。私拓海君のこと大好きだから。  
 
 生まれ変わっても、拓海君のことは覚えていたいな。  
 もし生まれ変われたら、できれば拓海君の子供とかになりたいな。  
 そしたら、ずっと一緒にいられるから。  
 身体があって、拓海君に抱きつけるから。  
 
 
 大好き。  
 
 
 だいすき  
 
 
 
 だ い す き だ よ  
 
 
 た   く   み   く   ん  
 
 
 

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