放課後 学校の屋上
もう嫌だ。
こんな風に考えたのは1度だけじゃない。
僕はこの世に生を受けてまだ15年しか経っていない。
だから大人は皆勝手なことばかり言う。
「たったの十数年しか生きていないくせに生意気言うな!」「まだこれからじゃない これからだってもっと苦しいことがあるのよ」
貴様らに何がわかる? 貴様らの経験論など聞き飽きたわ。
深く考えもせず「自分はこうだった」などと抜かしやがって。
「未来」のことなぞ知ったことか。 時が過ぎれば苦しみが癒えるとでもいうのか?
僕は「今」が苦しいんだ。 そんなこともわからないのか。 下衆どもが。
所詮「人間」なんて・・・自分のことしか考えられないんだ・・・
僕は・・・「人間」なのに・・・こいつらとは違う。
「人間」だったら・・・「他人」の苦しみなんてわかるはずもない。
なぜ僕だけが? どうして・・・
・・・・・もう、嫌だ・・・・・
? 「・・・苦しいのですね」
蒼人 「!?のわっ!?」
? 「?」
いつの間に!?さっきまで誰もいなかったのに・・・ってか浮いてるぅ!?
蒼人 「ななな誰だよっ!?あんたっ!!」
? 「私、ですか?私は死神アリスです。お見知りおきを」
蒼人 「しっ死神!? ・・・・・てことは・・・はは、そうか、そうだな」
アリス「?」
蒼人 「僕を殺しにきたんだろ?いいよ 覚悟はできてるから。さあ、殺せよ!」
アリス「ふぇ? ちょっとお待ちください。まだ貴方の寿命は先のことですよ?」
蒼人 「じゃ、なんで今僕の前にいるのさ?」
アリス「いえ、私は最初から貴方の傍に・・・ということは、貴方には私が"視えて"いるのですか?」
蒼人 「視えるもなにも、話してるだろ今」
アリス「ということは・・・今"死"が近づいているということ・・・?でも 啓示には無いのに・・・」
蒼人 「?どういうことだよ?僕は死ぬのか?死なないのか?どっちなんだよ!」
アリス「・・・そうか・・・貴方は・・・」
蒼人 「は?」
アリス「ええ、まだ死にません。"今"は」
蒼人 「そう・・・ま、いずれにせよ死ぬんだろ?今殺してくれたって構わないけど?」
アリス「それはできません」
蒼人 「なら何で僕の前にいるんだよ」
アリス「・・・説明しても構いませんが、誰かに話すことはくれぐれもしないように」
蒼人 「・・・僕に話し相手なんていないよ・・・」
アリス「知ってます。念の為、です。」
蒼人 「?」
死神・・・「アリス」・・・
てか死神なのに髑髏じゃないんだな・・・
黒髪で長めのツインテール、代名詞ともいえる大鎌(なんか目玉が埋め込まれてるけど・・・)に
黒衣のローブとぱっと見死神だけど、彼女(?)の「瞳」だけは蒼く透き通っていて見ていると吸い込まれそうだった。
アリス「・・・聞いてませんね・・・」
蒼人 「えっ!?いや 聞いてたよ!?」
アリス「いーえ、聞いてませんでした。というか、よく死神に対してそんな態度で・・・」
蒼人 「なっ、なんでわかんの!?」
アリス「・・・今さっき説明したなかに含まれているのですが・・・」
蒼人 「うっ・・・そ、その・・・」
アリス「ふぇっ・・・」
蒼人 「!?いいいやあのの・・・わ、悪かったよ、だからな、泣かないで・・・?」
アリス「死神が感情を持つ説明も、さっき・・・ぅえっ」
蒼人 「あ〜っ だからごめんって!もう一度お願いします!」
アリス「・・・今度こそちゃんと、へぅっ きいてくださいよぉ・・・? すんっすんっ」
蒼人 「はいっ! 耳ん穴かっぽじって聞いてますっ!」
な、何なんだ?死神ってもっと冷酷なイメージなんだが・・・
それはさておき、彼女曰く、「死神」は誰もが思うような存在ではなく、
皆一人(一応神様だけど)ずつついていて、本来なら死ぬ直前にしか視えないらしい。
男なら女、女なら男の死神で、その姿はアニマ(男性の心の中の女性的心理)とアニムス(女性の心の中の男性的心理)
から形作られる。つまりアリスは、僕の女性的心理ってことになるらしいけど・・・
アリス「・・・ということ すんっ なんです・・・」
蒼人 「(まだ泣いてた!?)」
アリス「あぅっ 蒼人さんがっ いけないんですよぉ・・・ふぇぐっ」
蒼人 「ご・ごめんて・・・な、ほら・・・よしよし」
なでなで
アリス「すんっ・・・」
このとおり、僕の心が読めるそうです・・・
・・・?・・・心が・・・読める?・・・
アリス「うぅ、しばらくなでなでしていてくださいっ!」
蒼人 「わわかったって!」
なんでいきなり甘えん坊になるんだ?これも僕の深層心理が思っていることなのか?
ただ、一番の問題点である「視える」ということに関しては、何一つ教えてはくれなかった。
アリス曰く、「視える」ことで触れたり話したりすることが可能になるらしい。
アリス「むぅ・・・」
蒼人 「?今度はどうした?」
アリス「今日から・・・無視しないでくださいね・・・もう・・・貴方は私が"視える"のですから」
蒼人 「ああ・・・わかったよ」
アリス「ボソ(ずっと・・・りだったんですから・・・)」
蒼人 「ん?何か言ったか?」
アリス「そろそろ家にかえりましょう・・・?」
蒼人 「そうだな・・・ってまさか」
アリス「もちろん。あ、因みに私の姿は他の人に視えませんからね?」
蒼人 「・・・・・」
そんなわけで、僕と死神「アリス」との交流が始まった。
アリスと出逢ってから三ヶ月、気づけば僕は普段アリスとずっと一緒だった。
学校では話さないようにして、放課後には他人に気づかれないよう、二人だけになれる場所を探して
何気ない話をして過ごしていた。
アリスはやはり僕自身であるからだろうか、意見がかみ合わないことなど一切無かった。
家に親がいない時には、たまに僕の為に料理を振舞ってくれたりもした。
僕もアリスの為に料理を作ったときがあるのだが、食べ物は摂取しなくても存在を維持できるとのこと。
維持するのに必要なのは「僕」自身の存在であると言っていた。
それでも食べてみてと勧め、料理を口にした時のあの笑顔は、今も忘れられない。
自分でもわかっていた。「彼女」に惹かれていることを。
しかし彼女は僕の心が読めるはずなのに、この感情に気づいている様子は一つも無かった。
自分の中で、「許されない」ことのように思っていた。
でも、彼女は確かにここに 目の前に「存在している」。
それだけは確かなのに、二つの感情がぶつかっていた。
僕は・・・彼女と・・・どうあるべきなんだ・・・?
アリス「蒼人さん?」
蒼人 「!なっなんでもないなんでもない!」
アリス「・・・・・」
蒼人 「てってーか、僕の心、わかるんだよね・・・」
アリス「はい・・・全てでは、ないですけど、」
蒼人 「へ?いまなんて・・・?」
アリス「私はあくまで貴方から生まれた存在です。おおよその考えはわかりますが・・・」
蒼人 「?」
アリス「いえ、"感じ取れる"・・・もしくは"察する"ことが出来る、という感じですね」
蒼人 「あ、そ、そうなんだ・・・(ホッ)」
アリス「でも他の人よりは貴方のこと、知っていますよ」
蒼人 「のわっ!?」
アリスは顔を近づけて僕の顔をじっと見つめてきた。
アリス「・・・・・」
蒼人 「・・・・・ゴクリ」
にこっと笑って一言
アリス「ベッドの下の」
蒼人 「ノオオォォーーー!」
な・・・何言い出すかと思いきや・・・でっでもアリスと会ってからは触れてないし、多分適当言っただけで
アリス「ああいうのがお好みなんですね。でも私も負けてませんよ。多分蒼人さんのアニマに比例して私は」
蒼人 「だーーーーーー!!もういい!もういいからっ!女の子はそんなこと言っちゃいけません!」
アリス「はいっ」
蒼人 「(確かに・・・確かにアリスは・・・僕の理想ぴったりだけどさっ・・・変な目で見たことなんて一度もっ)」
アリス「(ぎゅっ)」
蒼人 「ぉわぁっ!」
後ろから不意に抱きつかれる始末。こっこれ以上は・・・
蒼人 「ややややめっ」
アリス「たまにはこういうのも♪」
蒼人 「ふっふふ風呂っいってくるっ」
とっさにアリスから解放され、急いで風呂場へ駆け込んだ。
アリス「あっ・・・・・ふふっ♪」
彼女は「死神」という存在なのに、それを忘れさせるくらい「人間」らしかった。
基本はこんな感じで平凡だった・・・「大体は」。
しかし現実は僕を絶望へと誘い続けた・・・
「……!……!!」
なんで……?
「…からお前は……なんだ!」
どうして…怒られるの…?
「…ハハハッ お前ってほんとに…だな?あっはっはっ」
違う…僕は…僕なりに…
「オマエナンカヒツヨウナイ」
「うわあああぁぁあぁあぁぁっ!!!」
「蒼人さんっ!?」
「はぁっ、はあっ、僕は、違う、僕はぁ、う、うぅっぅううぅぅっ」
ぎゅうっ
「はっ、はぁ、はあ、はあっ」
「大丈夫です……私が、いつも傍に居ます。」
「はあ、はあ、うぅ、ご、ごめん…アリス…」
ほぼ毎朝、僕はうなされて目が覚める。
今日のは特別ひどいようで、現実に戻ってもしばらく恐怖が消えなかった。
そんな僕をアリスは、優しく包んでくれた。普通なら、「どうしたの!?」とか言って驚くことが当たり前だが、
彼女は違った。 何も聞かず、ただ何も心配ないと抱きしめてくれる。全て解っているように。
「もう…大丈夫だから……ありがとう、アリス。」
「はい……おはようございます。蒼人さん」
「おはよう…アリス」
そして、一日が始まる。
「…そういえば気になったんだけど」
午後の昼下がり、屋上で過ごしていた時のこと。朝のことでアリスに聞きたいことがあった。
「なんでしょう?」
「僕がまだ君のことが"視えてなかった"ときも、抱きしめてくれたの?」
途端にアリスは顔を赤くした。
「あ、えと、その…えへへ…」
「そっか…ありがとな」
「あっいえ…私はそんな…」
更に顔を赤くして、とうとう俯いてしまった。
今まで実感していなかったが、改めて考えてみると、こっちまで恥ずかしくなった。
キーンコーンカーーンコーーン
「あっ、そろそろ教室に戻りましょう?」
「ああ、そうだな。」
そして僕らは屋上を後にした。
教室に入ると、皆が僕を白い目で見てきた。いつものことだが。
「ヒソヒソ…(おい…屑がきたぞ…)(ほんとだ まだ生きてたんだなw)
(最近アイツ屋上行ってるらしいぜ…)(まじで? そのうち自殺しちゃったりしてw)」
これもいつものこと。僕は何故かこそこそ話している声が聞こえてしまい、聞き流せず苦しんでいたが、
少し前に聞き流せるようになっていた。慣れは怖いな。
「(え〜っと 次の授業はっと)」
次の授業の準備をしようとして、何気なくアリスを見た瞬間、衝撃を受けた。
アリスは僕の噂をしている生徒をおぞましい形相で睨みつけていた。
「……この下衆共が……」
更に僕は驚いた。手にしている大鎌からもどす黒いオーラが滲み出ていた。
普段いつも優しい彼女が、そんな風になるのを初めて知った。
今まで学校などで噂をしている人を見る度にその顔をしていたと考えると、背筋が凍った。
このとき、僕は改めてアリスが「死神」であると実感した。
「……あっ……」
アリスは僕が少し怯えていることに気づき、僕を見てにこっと微笑んだ。
僕も笑みを返すと、彼女は申し訳なさそうな顔をした。
それが僕に気を使っているように感じて、後で話をしようと決めた。
放課後 屋上で最初に口を開いたのはアリスだった。
「あ、あの…先ほど怖がらせてしまったようで…」
「ああ、いや、確かに少しびっくりしたけど、」
「わっ、私のこと、嫌わないでください!」
彼女は今にも涙が溢れそうな目で僕を見つめた。
「もう、蒼人さんの前で、あっあんな顔、しませんからっ…」
声が震えている。彼女は僕に嫌って欲しくないことが十二分に伝わってきた。
「すんっ…ごっごめんなさい…ふぇっうぅぅっ」
ぎゅうっ…
「嫌わない…嫌うもんか…だって、僕のことを思ってあいつらを憎んだんだから…」
「ふっうぅぅっ、ふぇっぇぇえんっ」
「絶対に、嫌わないから…」
「わああぁぁあぁぁんっ!!」
僕は"解った"。彼女は、間違いなく僕だ。僕の本当の気持ちを、彼女は体現しているのだ。
泣きじゃくるアリスを、僕は落ち着くまで抱きしめ続けた。
帰り道も彼女が不安にならないように、ずっと手をつないだ。
「それじゃ、おやすみ アリス。」
「おやすみなさい。」
それから数分後
「スゥー…zzz…」
「蒼人さん……ありがとう……えと、ほんとは起きてるときにしようと思ったんですけど…
まだ少し恥ずかしいので、今させていただきますね…」
アリスはそう言うと、唇を重ねた。
「ん…………えへへ、
ちょっと、ドキドキしちゃいました。今度は…起きてる、ときに……すぅ…すぅ」
翌朝
「あ、あれ夢だったのかな?ぼ僕とアリスが…いや、忘れよう…」
職員室
「…お前、屋上に行ってるんだって?」
「はい…それが、何か?」
担任に呼ばれて僕は放課後職員室に来た。誰かが屋上に行ってることを告げ口したらしい。
別に屋上に行くくらい良いだろうと思ったとき、予想もしないことを言われた。
「お前まさか、隠れてタバコ吸ってんじゃねえだろうな?」
「へ?」
驚きを通り越して呆れてしまった。こいつ馬鹿か?
「屋上に行ってると教えてくれた奴がそんなことを言っていたんだがな…どうなんだ?」
「吸ってるわけないじゃないですか。それに吸っていたら口臭ですぐわかるでしょう。」
「…じゃあ、屋上で何してたんだ。」
「何って…昼は飯食ったり、本読んだり、空見てたりしてるだけですよ」
まだ疑ってる。なんで告げ口した奴のことを信じて、僕の言うことは信じないんだよ?
「ふん。そういえば最近、お前成績が下がってるぞ。空なんて見てる暇あったら勉強したらどうだ?」
「僕が何しようと勝手じゃないですか。普段見て見ぬふりしてる人に関係ないですよ。」
「なんだ、その態度は!それが教師に対する礼儀か!?」
「先に人のこと疑ってきた癖に何言ってんですか!」
教師はすぐこれだ。自分に気に入らないことがあると話をそらす。卑怯者が。
「…ふん。まあいい。あとで親御さんに電話しておくからな。」
「!?だから吸ってないってさっきから」
「それとこれとは関係ない!」
このクソ教師…って!?アリス!?
「さっきから黙っていれば……」
大鎌が低い呻きを上げている。ここは退くしかないか…
「…分かりました。それじゃもう今日は帰ります。さようなら。」
そう言い捨て、職員室を出た。
「蒼人さんっ!?…このクソ教師ッ!!」
アリスも急いで後を追った。
帰り道はずっと無言だった。
家に帰ると両親に座れと言われ、椅子に座った。
「お前…タバコ吸ってたのか?」
「吸ってないよ…吸ってたら臭いで分かるでしょ?」
その途端父親に胸ぐらを掴まれた。
「本当に吸ってないんだろうな?もうこれ以上問題を起こすなよ?」
「問題って…周りが勝手にほざいてるだけなのに何で僕が」
「近所からも嫌味を言われて困ってるのよ。何であんたみたいな子を生んじまったのかねえ」
「まったくだ。こんな親不孝者聞いたこともない。もういい。ただしこれからどうするかじっくり考えて行動しろよ?」
「それじゃ、あたし達はしばらく旅行に行って来るから。こんなことのないようにね」
バタンッ
「…………」
「蒼人さん……」
「僕…は……」
もう……死にた…っ!?
「んっ……」
「んんっ……って、ア、アリス!?」
いきなりすぎてなんだか混乱してしまったが、アリスに、キ、キスされてしまった…?
「死にたいなんて、思わないでください……」
「あっ…」
「私は、貴方に死んで欲しくありません。」
!?死神なのに……どうして…?
「私にもっと甘えてください!私がせっかく"視える"のに、こうして触れることもできるのに、私のことを忘れて置いて逝かないでください!」
「アリス…」
「たとえ貴方が世界から見捨てられようと、私だけは貴方の傍に居ます!ずっと、永遠に!」
僕は思った。なぜもっと早く彼女に会えなかったのだろうと。もっと早くに会えたら、もっと幸せだったろうと。
でも、今だからこそ、そんな風に考えられるのだと思った。だからこそ、伝えよう。この"想い"を。
「アリス……」
「すん…すんっ…」
「傍に、いてくれ…」
「蒼人さん……んっ」
さっきまでの絶望が失われていく。いや、絶望しきったから、「希望」を手に入れられたんだと思う。
「ん………!?んんっ!?」
ア、アリス!?そそれはっ!!
「んんぅ……ちゅぱっ……んっ…」
アリスの舌が、深く、濃厚に絡んでくる。
「ん…はぁ…蒼人、さん…」
まさか、アリスにそこまで想われていたとは…自分でもびっくりだった。
「その、えと…蒼人さんがよろしければ……し、しませんか?」
へ?
い、今なんと・・・?
「私の、全てを貴方に…捧げさせてください……」
どっかーん。
つつまり、その、あれだ、もしかして、
「貴方と、一つになりたいんです…」
ア イ タ ク チ ガ フ サ ガ ラ ナ イ
「だめ、でしょうか……?」
「ほっ、本当に…?」
「あ、あまり何度も言わせないでくださいよぅ…」
その澄んだ瞳があまりにも美しすぎて、僕はどうかしそうだった。
しかし、僕も男だ。ここで出来なきゃいつやるって話だ。アリスもかなり勇気を振り絞ったに違いないのだから。
「も、もちろん…アリスが、望むなら…」
そして僕らは、部屋のベッドへと移動した。
生涯、僕は独身で、経験せずにくたばるものだとばかり思っていた。しかし、まさかこんな形で経験できるとは…
「あ、あの」
「ふぁっ、ひゃいっ!?」
「その…多少激しくしても、構いませんので……お、お手柔らかに…」
「あ、ああ…(ゴクリ」
アリスはそのままベッドに横になり、月光に照らされたその姿は、まるで"月下美人"のごとき美しさだった。
そのまま僕は、羽織っている黒衣のローブをまくったのだが、そこで重大なことに気がついた。
「な、何も…着てなかったの!?」
「は、はい…あ、でも私寒いのは慣れてるので心配しなくても」
「そっそういう問題なの…?」
今まで気にしていなかったが、まあローブも大分ぶかぶかのだし…っと、いかんいかん、
「…今度服買ってやるから…」
「あ、ありがとうございます…」
気を取り直して。
そのままローブを脱がして、唇をそっと重ねた。
「んっ…ちゅるっ…んふ…」
お互いの舌が求め合うように絡みつき、部屋には"水"の滴る音が響いた。
「ぴちゃっ…んぅ…ちゅぱっ……ぅん…」
そして両手を二つの"果実"へと伸ばし、ゆっくりとその柔らかさを確かめていった…
「んん…はぁっ……あ…ぁ…」
舌をそのまま首筋へと這わせ、果実の"柱頭"に口を運ぶ。
ぴちゃ……ぴちゃっ……
少しずつ柱頭から"果汁"が滲みだす。その甘い香りが、手と舌に豊満な果実をむさぼらせた。
「あぅ……あっ…んんぅっ…ぁん……はあ、ぁっ…ああっあっ…」
アリスは身をよじらせ、蒼人の頭を抱きしめる。
じゅるっぴちゅぴちゅ…じゅるる…じゅるっ
「はぅっ、やっ、い、イっちゃいそぅ…ですぅ…ゃん…」
手で揉みしだき、舌でその汁を吸えば更に溢れ出す。蒼人はそのとろける香りと味に理性を奪われていた。
「やっ、イクぅ…ぁっそんな…すすられたらぁ……あぁ…」
じゅぱぁ…じゅるるっ…
「あっ、ぁあぁぁあんっ!!!」
アリスは体を震わせ、二、三度ケイレンを起こした。
「はぁっ、はぁっ……蒼人さん…すごく、イイですっ……」
「アリスって意外と淫らなんだね」
「あっ蒼人さんの前でだけ…ですよぅ…」
くちゅっ
「っ!いっいきなり不意打ちはひどいですよぉっ」
「そろそろ下の方も欲しがってたかなと思って」
くちゅくちゅ
「…!蒼人さんの方がっ……よっぽど卑猥ですっ」
「僕が卑猥ならアリスもだよ」
くちゅくちゅくちゅくちゅっ
「ぁあっ…そっそれはぁそうですけどっ…ゃあっ」
「アリスがこんなに積極的だったなんて……おしおきが必要だな」
「…蒼人さん性格変わってますよ…?」
「アリスのおかげで目覚めちゃった」
手でアリスの"雌しべ"の中を弄りまわしながら、溢れ出た"蜜"をゆっくりと堪能し始める。
「あっ…そんな…じらさないでぇ……ぁあ…感じちゃうぅ…」
ちゅるちゅる…くちゅくちゅ……
「もぅ…っひとおもいに…イかせてください…あぁっ」
「らめだよアリス。ほういうのはゆっふりじあじあほやらないほ」
(だめだよアリス。こういうのはゆっくりじわじわとやらないと)
「ゃっ!だめぇ!そんなふうに舐められたらっ私っあっぁぁっ」
ちゅぷちゅぷ…ちゅるるる…
「ゃあっ!イク!イクうぅぅっ!」
しゃ―――――。
「ビクン あぅっ ごめんなさい……(ビクビクッ」
気持ちよくなりすぎたアリスは失禁してしまい、またケイレンを起こしていた。
「…かわいいなぁアリス。すごく感じやすいんだ?」
「い、イジワルしないでください……って、あぅっ!」
じゅぷ…じゅぷ……
「そろそろ…僕にもイかせておくれよ…」
ずぷずぷ…じゅぷぅ…
「あっぁあぁああっ……は、入ってくるっ…すごくっおおきいぃ……」
ぐちゅぐちゅ……ぬぷぅっ…
蒼人はそのまま"雄しべ"をアリスの秘奥へと入れては抜いてと繰り返す。
「ゃっ…ぁあぅっ……頭の中がっ…まっ白になっちゃうぅ…」
ぐちゅぅぬぷっぐちゅっぐちゅっ
「ぁっあっぁん、あっあっ……あぅっあっふぁっ…ふぇっえっ」
そのとき、蒼人は血が滴っていることに気づいた。
「大丈夫?処女膜破れて痛いんじゃ…」
「はぁっ、だ、大丈夫です…こんな痛み、蒼人さんの苦しみに比べたらっ」
「無理しなくていいよ?とりあえず血拭いとくけど…」
「はい…でも、大丈夫です。続けて、ください…」
「わかった。辛いときは遠慮せずいってね?」
「はいっ」
血を拭き終わった後、再開した。
ぐちゅっぐちゅっじゅぷっじゅぷっ
「ふぁんっぁんっあっ、ぁのっ、蒼人さんっ、あっ」
「どうしたの?」
「中に、出して構いませんから。死神は、妊娠することが無いので」
「そうなの?…じゃあ、遠慮なく」
それを聞いて安心したのか、一気にペースを速める。
「っはぁっあっは、激しいですぅっあっぁっあぁっ」
じゅぷじゅぷじゅぷじゅぷ
「だめぇ、またっイっちゃいますぅぅっああんあんっ」
「アリスっ、出るよっ」
「だっ出してぇ、わたしにったくさんんっ」
「っ」
どぴゅうっどぷどぷっ
「あぁあぁああぁぁんっ!!」
「はあ、はあ、はぁはあ」
「アリス…好きだ…大好きだっ…」
「蒼人さん…私もっ、貴方のことが、大好きです…」
二人は深い口づけを交わし、眠りについた。
翌朝
僕は予想もしない出来事を目の当たりにして愕然とするだけであった。
アリスの体が半透明になっていたのである。
アリスは最初説明することをためらっていたが、やがて重たい口を開き、僕は全てを知った。
アリスの正体は蒼人の深層心理体それと兼ねての死神。その一部としてアニマであり、「タナトス」(死の本能、自己破壊衝動)でもあった。
「タナトス」…ギリシャ神話の「死」の概念から生まれた「死神」。
心理学者フロイトによれば、タナトスが大きくなりすぎると、タナトスを中和する「エロス」(生の本能)が働き、タナトスを打ち消そうとする。
つまり、それらの一部をもつ深層心理体として存在するアリスと交われば、アリスは消えることになる。
それをアリスは知っていながら何故昨夜の行為に至ったのか。そのとき僕は悟った。
…僕が「死にたい」と願ったからだ。僕の寿命はまだ先のことであり、自殺をすれば「啓示」に無い死とみなされ、魂が「消失」する。
魂が消失するということは、アニマ・アニムスの存在も消失する。
しかしアリスは決して自分の存在が消失することを恐れたのではなく、僕自身の消失を恐れたのだ。
昨日僕が「死にたい」と願うことで僕の中で「タナトス」が生まれた。
そのまま何もしなければ、あの時間違いなく死んでいたという。
今までも死にたいと願ったことはあったが、昨日の場合、積み重なったものが溢れてピークに達し、一番危険な状態であった。
危機感を感じたアリスは、同時にアリスの中で「エロス」が生まれ、僕の中の「タナトス」と結合・中和しようとし、結果こうなった。
因みに、アリスはこれまで蒼人の「タナトス」を体現していたが、それはあくまで他者に対する「死を望む本能」であり、
また蒼人自身が意識的に「エロス」を抑えていたため、中和しようとしなかった。
この場合アリスの中でタナトスが大きくなってしまい、やがて死のうと考えてしまうのだが、
アリスは蒼人の存在によって「存在」しているので、自殺することは出来ない。
また、同じく蒼人の存在自体がアリスにとっては「エロス」であり、アリスの中で消化できるからである。
更に、蒼人が意識的に抑えたため、深層心理に「エロス」が生じて中和したとも考えられる。
しかし蒼人はあの時自分の中で消化できなかった。故にアリスがそれを補おうと「エロス」を体現した。
そして蒼人の中の「タナトス」と交わることで中和されるのだが、先ほど述べたようにアリスは深層心理体であるためにその存在自体が消えてしまうのである。
そこで疑問が残る。蒼人が存在する限り、アリスはまた生まれるのではないか?と。
しかし、アリスはこう告げた。
「その可能性も考えられますが、また同じ「私」が生まれるかは不確定要素なのです。そして「生まれる」のが…いつになるのかも…」
「分からない…?」
「…………」
「僕の…せいだ。僕の存在自体が、アリスを苦しめてしまったんだ。」
「それは…違います。確かに、もう逢えないと思うと悲しいですけど、それでも、私は幸せでした。蒼人さんと過ごせた日々、昨日、一つになれたこと…」
「………」
「今一番苦しいのは、蒼人さんですよ?…それを思うと、私も苦しいですけど…」
ほら、結局、僕のせいじゃないか。
「私が苦しいのは私が「あなた」だからです。同時に、あなたも「私」なんです。だから、お互い辛い…。」
……そうか。
「でも、私はもう消えてしまう。だから残された貴方が一番辛いんです。」
ア、リス…
「ごめんなさい…」
「嫌だ…消えるなよ…」
「…蒼人さん」
「頼むよ!お願いだ!どんな酷い仕打ちを受けてもいい!だか、ら、…」
ぎゅうぅ
「消えないで、くれよぉ…」
「蒼人、さんっ…」
「うあぁあぁああっ…」
「蒼人さん…これを。」
そう言うと、アリスは髪を結んでいるリボンをはずし、蒼人に渡した。
「あっ…」
蒼人の手にリボンが触れると、半透明から実体化した。
「何も無いより、ずっと、いいですよね…?」
「ああ……」
そして段々と、しかしゆっくりと、アリスは透明になっていく…
「アリス、嫌だ、消えないで…」
「蒼人さん、駄目ですよ、私、最後くらい泣かないって決めてるんですからっ」
そうはいうものの、アリスの声は震えていた。
「蒼人さん…」
そして、最後のキスを、交わした。
「…私は、貴方の傍に、ずっとっいますからっ…」
「うぅっくっ」
「また、逢えますから…いつか、きっと。」
そして、とうとう…
アリスは、視えなくなった。
「アァリスゥゥーーーーーッ!!!」
蒼人の手には、アリスのリボンだけが残っていた。
了