小鳥のさえずりがこだましていた。  
窓から差込む柔らかな太陽の光の中、ディアナは薄っすらと目を開ける。  
 
無意識のうちに、隣に座っているはずの人物を探していた。  
が、その姿を捉えることができないことに気付くと、慌てて飛び起き辺りを見回した。  
 
「ロイ……ド……?」  
 
昨日の、要らぬ想像をした矢先のこと。全身から血の気が引いた気がした。  
着替えもせずに探しに出ようと部屋の扉に近付いた瞬間、勢い良く開いたその扉がディアナを直撃した。  
 
「痛っ!!」  
「……。何やってんだ……?」  
 
探していた人物が、扉に突き飛ばされ尻餅をついているその姿を呆れ顔で見下ろしていた。  
起こさないよう配慮したのか、別の空き部屋でシャワーを浴びてきたようだった。  
 
「な……、何でもない……」  
 
鼻の頭をさすりながら、満ち行く安堵感を覚えていた。  
それと同時に、昨日の未だ信じられない出来事が脳裏をよぎる。少しだけ、顔が熱くなった。  
 
「あの……、昨日……」  
「身体は軽くなったか?」  
 
言い掛けた言葉を遮るように質問される。  
 
「え?」  
「回復したかって聞いてんだよ」  
 
言われてみると、身体は軽かった。そして同時に生じる疑問。あれほど長時間に渡り手込めにされ続けた身体が、何故重くないのか?  
 
「…………?」  
 
これほど鮮明に覚えている夢などあるはずがない。  
しかし、ロイドはまるで何事も無かったかのように振舞っている。  
 
いまいち事態を飲み込めなかったものの、1つだけはっきりしたことがあった。  
夢でなかったとしても、彼がそのことに極力触れないようにしているという事実。  
 
憤りよりも淋しさが込み上げていた。  
ディアナはその気持ちを胸に仕舞い込むと、彼の意を汲み何も言わずに旅の支度を済ませた。  
 
その様子を黙って見ていたロイドは、窓を開け放つとディアナを部屋から出るよう促す。  
部屋に漂っていたほのかな薬草の香りが、風に流され消えようとしていた。  
 
 
──その後、2人が辿り着いたのはアルベニアという小さな国。  
目的地というわけではない。遅い昼食を適当に済ませ、宿か野宿かの討論がなされていた。  
ディアナは先日までとは違いロイドが普通に接してくれることが嬉しいのか、すっかり元気になっていた。  
そこへ現れた数名のアルベニア兵。  
かしこまった様子で休憩していた2人の前に立ち、周囲に聞こえない程度の声でロイドに話し掛ける。  
 
「失礼ですが、ロイド様ですね?」  
「人違いだろ」  
「只今我が国では、各地より猛者を募っております。急な申し出で恐縮ですが、アルベニア城まで御同行をお願いしたいのですが。」  
問答無用に並べ立てられるマニュアル通りの言葉。  
 
「話を聞いて下さるだけでも構いません。応じて下さった方には、無償で宿を提供させて頂いております。」  
「本当ですか?」  
 
用意されていた「餌」に食い付いたのはディアナだった。  
 
「おい……」  
「併せて食事も提供致します。御同行お願いできますか?」  
「ね、行くだけ行ってみてもいいんじゃない?」  
 
子供のような目で「行きたい」と訴えている。おそらく、城という建物に入ってみたいのだろう。  
加えて、宿にまで有り付けるのだから彼女にとっては一石二鳥。  
面倒ごとになり兼ねないため今まで国を訪れても城内に入るのは避けていたが、昨日の件でディアナに多少の負い目を感じていたロイドは仕方なく応じてやることにした。  
 
 
兵に連れられ辿り着いたその城は、小さいながらも厳かな雰囲気を醸し出していた。  
門をくぐり促されるままに広間に入ると、それなりの人数が既に集っているのが目に入る。  
姿こそアルベニア兵そのものだったが、新参であることがその空気からすぐに読み取れた。  
 
やがて、長身の隊長格らしき人物が2人の前に現れた。  
頭上から注がれるその視線は、お世辞にも良いものとは言えない。  
 
「ラストニア国王の御子息ですね。」  
「…………」  
 
ロイドは一瞬、眉をひそめる。  
 
「呼び方がお気に召しませんでしたか?ロイド・リト・ラストニアス様。こうお呼びした方がよろしいですか?」  
 
言い直されたその言葉に込められていたのは、明らかな皮肉。  
はっきりと、周囲に知らしめるようにその名が呼ばれると、憎しみや恐れといった様々な感情の篭った視線がこの空間を錯綜した。  
それはディアナにもはっきりと感じ取れたようで、驚いてロイドの背に寄っていた。  
 
「貴方のような方がこのような僻地へ訪れるとは……それほど宿にお困りで?」  
「さっさと用件を言え。」  
「これは失礼。それではこちらへどうぞ。」  
 
殺伐とした空気の中、ロイドの痺れを切らしたような催促でようやく事が進む。  
少なくともこの城の人間には歓迎されていないようだった。招待した兵は、おそらく手当たり次第当たっていただけなのだろう。  
ディアナは周囲を警戒しながらその背中を追い、国王の間へと足を踏み入れた。  
 
 
日が暮れた頃、宿として案内されたのはそこそこ豪華な客室だった。  
立場を配慮されたのか、明らかに他の連中とは扱いが異なっていた。  
部屋に入り扉を閉めると、ディアナがおもむろに振り向き小さくなって頭を下げる。  
 
「ごめんなさい……」  
 
自分の我侭のせいで不快な思いをさせてしまった、と思っているのだろう。  
 
「日常茶飯事だろうが。気にするな。」  
「はい……」  
 
ディアナは申し訳なさそうにベッドに腰掛け、話題を切り替えた。  
 
「そういえば、王様は結局何言ってたの?お互いに遠回し過ぎて何を話してるのかさっぱり……。」  
「要は近々他国に手を出したいから手を貸すか、貸さないのならおとなしくしてろと。」  
「それだけ?」  
「…………」  
 
 
アルベニア王はある魔道士を探している、とも言っていた。  
誰なのかと聞いてもその名を口にすることはなかったが、その素振りから口を割らないというより知らずにいる印象を受けていた。  
他国を制圧して魔道士を掻き集め、名も知らぬ人物を探すつもりなのか?  
それとも誰かにそうするよう指図されているのか?  
 
あり得るとすれば、後者。  
どことなく、裏で何者かの意志が働いているような気がした。  
そして、陰で捜索されるような魔道士といえば……  
 
 
ディアナはロイドにじっと見られていることに気付く。  
 
「……?どうしたの?」  
「いや……」  
 
断定するには不確定要素が多過ぎた。  
取り立てて気にする必要はないのかもしれないが、ロイドはその経歴上、策謀の匂いには殊更敏感だった。  
 
「食料を調達して来てやる。こんな国の出す料理じゃ何を入れられるかわかったもんじゃない。」  
「じゃあ、一緒に……」  
「おまえはここにいろ。絶対に部屋から出るな。誰が来ても返事をするな。」  
「……はい」  
 
唐突にまくし立てられ、たじろぎながら返事をするディアナを部屋に残し、あるかどうかもわからない手掛かりを探しに出る。  
何もないならそれはそれで良いのだ。  
周囲から向けられる視線は完全に無視し、散歩を装って城内をよく観察した。見張りは姿を見られる前に気絶させた。  
 
やはりただの考えすぎかもしれない。  
そう思い始めた頃、地下で偶然目にしたのは鎖で封鎖されている扉。人が訪れた痕跡はなかった。  
 
ロイドは静かに剣を抜きその鎖を断ち切ると、重い硬質の扉を蹴破り中を調べた。  
書斎のようなその室内で感じたのは、何者かがこの空間を使用していたという漠然とした空気。  
そしてその部屋で、抱いていた疑念は確信に変わった。  
 
裏で糸引く人物を炙り出す方法を考えながら、部屋へ戻る途中。  
背後からはっきりと視線を感じていた。  
しばらく他人の目など気にも留めていなかったため、いつから跡をつけられていたのかはわからない。  
 
ロイドは不自然に足を止め、既に気付いているということを暗に伝える。  
すると、顔を出したのは美しい容姿の1人の女性。碧く真っ直ぐな長い髪をなびかせ、おずおずと歩み寄る。  
どこかで見た顔だった。  
 
「あの……、私を覚えていらっしゃいますか?」  
 
巫女のような清楚な身なり。そしてその胸に光るのは、アルベニアの国章。  
 
「マリシア王女……?」  
「覚えていて下さったのですね!」  
 
会ったのは10年以上前。会合に連れられて来た時に話しただけだったが、国の主要人物となり得る人間の顔は忘れないようにしていた。  
 
「も、もしよろしければ……、私の部屋にお立ち寄りしては、如何でしょうか?」  
 
マリシアは頬を赤らめ、緊張した面持ちで声を振り絞っている。  
 
「…………」  
 
この城に永くいる人間。何か知っているかもしれない。  
ロイドがその申し出を受け入れると、王女は嬉しそうに自室へ案内した。  
 
 
彼女の部屋は別段華々しいわけではなく、白を基調とした綺麗な部屋だった。  
言われるがままにソファに腰掛けると、他愛の無い会話が始まった。  
マリシアは相変わらず緊張している様子を見せたが、すぐにその緊張も解け始めた。  
ロイドはその様子を観察しつつ、頃合を見計らい何食わぬ顔で本題に入る。  
 
「マリシア王女」  
「マリシアで構いません。」  
 
静かな物腰で呼び捨てを強要される。  
 
「……マリシア。地下の鎖で封鎖された部屋を知っているか?」  
「封鎖された部屋……?」  
 
マリシアは眉をひそめ考え込む素振りを見せるが、その答えは予想外のものだった。  
 
「そのような部屋はありません。」  
「…………は?」  
「地下には開放された軍事施設しかないはずです。」  
 
嘘をついている様子は無いし、つく理由も無い。ロイドは耳を疑った。  
その手で斬った鎖は、確かにあの場所に存在するものだった。  
 
「どうかされましたか?」  
 
一つの可能性が浮かんでいた。  
もしそれが正しければ、彼女が知らないのも無理は無い。  
 
「いや……、何でもない。邪魔したな。」  
「え?…ま、待って下さい!」  
 
早々に用件を済ませ立ち去ろうと扉へ向かうと、彼女は慌ててロイドの腕を掴みその場に留めた。  
 
「できればもう少し……」  
「……マリシア」  
「ずっと、お会いしたかったんです!」  
 
何か言いたげなロイドを遮り、マリシアは強い口調で胸の内を訴える。  
腕を掴むその手に僅かに力がこもった。  
 
「母は他界し、父はもう子供を作れぬ身で……、早く後継者を作ろうと縁談が絶えませんでした。私はそれを……断り続けました……」  
「…………」  
「せめて、貴方にもう一度会うまではと……」  
 
ロイドは目を合わせずに、紡がれるその言葉を黙って聞いていた。  
 
「ロイド様……。初めて話したあの日から、見初めておりました……」  
 
切なげに思いを明かし、俯いたまま掴んでいた腕に寄り添う。  
そんな彼女を待っていたのは、不自然に長い沈黙。マリシアは、ただ静かに愛しき人の答えを待った。  
 
やがてロイドはゆっくりと振り向き、何の表情も浮かべずに彼女に視線を注ぐ。  
それに気付いたマリシアは、そっと顔を上げその目を見つめた。  
 
彼女を見つめるその瞳に宿る、黒い謀略の光。マリシアはそれに気付いていなかった。  
 
 
ロイドは彼女の細い腰を抱き寄せ、静かに唇を重ねると、マリシアは目を閉じながらそれに応じた。  
すぐに唇を離し、その華奢な身体を抱き上げベッドに横たえる。  
時間をかけ、胸に触れないよう服の上からその肢体をゆっくりと撫でると、マリシアはくすぐったそうに身動いだ。  
 
「夢のようです……ロイド様」  
 
マリシアは恍惚とした表情で目の前の男性を求めた。  
この先は必要ない。ロイドは微かに昂りを覚えながらもそう判断すると、再び彼女に優しく口付け、髪を撫でる。  
 
「今日はもう眠れ。」  
「また明日、来て下さいますか?」  
「約束する。」  
 
 
マリシアは幸せそうに微笑み、ロイドを部屋から送り出した。  
空高く昇った月が窓に臨み、蒼白く光っていた。  
 
 
部屋に戻ると、明かりがついていなかった。  
 
「ディアナ?」  
 
よく見渡すと、小さく盛り上がった布団が目に入る。中にこもっているようだった。  
ロイドはベッドに近付き、もう寝たのかと思い手を掛けると、侵入を防ぐように布団を引っ張られる。  
 
「……何してたの?」  
 
少しの間を置き、中から拗ねたような声がした。  
遅れるのは今までも良くあったが、調達すると告げた肝心の食料が手元に無い。  
 
枕元の照明をつけどうしたものかと言い訳を考えているうちに、ふと全開の窓がロイドの目に留まった。  
アルベニア城は広場を囲う構造になっているため、他の部屋がよく見える。  
 
何気なく覗くと、そこから見えたのは白を基調とした部屋。マリシアの部屋だった。  
 
「…………」  
 
幸い入り口付近しか見えないものの、まずいと思いディアナの様子を窺う。  
ディアナは布団から少しだけ顔を出し、非難するような目でロイドを凝視していた。  
静かに窓を閉め、カーテンを閉じる。見られていたとしか思えなかった。  
 
「見たのか?」  
「…………」  
「……はっきり言え。」  
 
やはり見られたのだと確信するも、ロイドは飽くまで強気の態度で応じる。  
 
「もう寝る……」  
 
ディアナが逃げるように布団を被ると、ロイドはそれを遠慮なく剥ぎ取り再び強い口調で命じた。  
 
「何度も言わせるなよ。溜め込むな。はっきり言え。」  
 
突然隠れ蓑を失い、ディアナは慌てて俯けになって枕に口元を埋めた。  
最初から不貞寝するつもりだったのか、既に着替えられていた。  
ディアナはしばらく困惑したような表情でロイドの顔色を窺っていたが、やがて意を決したように口を開く。  
 
「私にあんな酷いことしておいて、すぐに他の人に手出すのね。」  
「何だ、覚えてたのか」  
「………なっ!」  
 
ロイドの白々しい物言いに、ディアナは勢い良く顔を上げ食って掛かろうとする。  
 
「先に言っておくが、俺は何もしてない。」  
「嘘!キスまでしてロイドが何もしないはずない!」  
 
やはりただの嫉妬だった。それにしても酷い言われようである。  
 
「してねえよ……しつこいと襲われるぞ。」  
「襲えるの?男の人ってそう何度もできないんでしょ?」  
 
からかう目的で言ったつもりが、挑発的な返しを食らう。  
いつもはすぐに折れるディアナだが、今日は珍しく反抗的だった。よほどショックだったと見える。  
 
「……誘ってんのか?」  
「誘ってないっ!」  
「襲えば身の潔白を証明できるんだろ?」  
「な、なんでそうな……いや、ちょっと待っ……」  
 
ロイドはディアナの口元を手で塞ぎ、勢い良く枕に押し込む。  
好都合だった。どうせ覚えているのなら、先ほど抑えこんだ情欲をぶつけてやろうと思っていた。  
相手がディアナならば抵抗はない。むしろ望むところだった。  
 
ディアナは手を退かそうともがくが、非力な魔道士の力で敵うはずがない。  
ロイドは口元に笑みを浮かべ、ゆっくりと彼女を組み伏せた。  
 
「でかい声は出すなよ。ここは敵地だと思え。」  
「…………」  
 
ディアナはロイドが既にその気になっているのを感じ取り、どうあっても逃げられないのだと悟ると諦めたように目を伏せた。  
口元を押さえていた手を外してもディアナはおとなしくしていたが、衣服に手を掛けると恥ずかしそうに小さく呟いた。  
 
「せめて明かり……消して」  
 
ロイドは言われた通りに照明を消し、作業を続ける。露わになった彼女の白い肢体が、月明かりではっきりと目に映る。  
身体を隠しかける手を退け胸の先を擦るように手を添えると、ディアナは小さく震えた。  
昨日の件で無駄だと学習したのか、全くと言って良いほどに抵抗がない。  
張り合いがないと内心思いつつ、ロイドは早々に下半身に手を滑らせ昨日と同じ要領で中を蹂躙した。  
 
「んっ……!」  
 
言いつけを守るように、辛そうな表情でディアナは声を押し殺す。  
指の動きを速めると、それに釣られ彼女の息遣いも荒々しいものとなった。  
 
指が引き抜かれるとディアナは脱力したようにぐったりとしていたが、下半身に突然与えられた圧迫感に思わず声を上げた。  
 
「あぁっ!」  
 
はっとしたように両手で口を塞ぎロイドの顔色を窺っている。  
 
ロイドはその様子を一瞥すると、何事もなかったかのように抽送を開始した。  
 
「ぅ、んっ……!」  
 
ディアナは小さな声を漏らしながらも、襲い来る熱い衝撃に必死に耐えている。  
徐々に速度を上げると、シーツを強く握り締め辛そうに息を荒げながら身を捩り出す。  
その姿は、小さかったはずの色欲を大きく膨れ上がらせるには十分だった。  
 
端から理性を抑えるつもりなど微塵もなかった。ロイドは堰を切ったようにディアナを激しく突き立てる。  
 
「やっ…あ、あっ……!っ……!!」  
 
こらえ切れず、悩ましい声がその口を衝いて出る。ディアナは慌てて口を押さえるが、それはすぐに自分を追い詰める行為となる。  
ロイドは彼女が懸命に命令を守ろうとしていると見て取ると、それに付け入り更に深くを突き回した。同時に、辛そうなか細い声が長く漏れる。  
昨日はディアナを追い込むことを目的としていたが、今日は違う。遠慮の色など一切見せず、彼女が必死に声を抑えているのをいいことに、貪欲にその身体を貪り続けた。  
 
やがてディアナが大きく震え上がり、ロイドもそれと同時に果てる。が、間髪容れずに再び自身を捻じ込むと、ディアナは息を切らしながら慌てて口を開いた。  
 
「わ、わかったからもう……!」  
「何度もできないと駄目なんだろ」  
 
最早当て付けでしかないが、ディアナを黙らせるには十分だった。  
再び開始された猛攻に、ディアナは小さな声を漏らしながらも決して声を上げるまいと耐え忍んでいる。  
昨日の件からも、命令に反すれば理不尽な「お仕置き」が待っているのは明白だった。  
 
無論ロイドはそれを見越した上で、ディアナに無駄な努力を強いる。  
声を出さないならば絞り出すために、声を上げたならば「罰」を与えるためにより激しく攻め立てるだけなのだ。  
際限なく自分を追い込み続ける陵辱に、ディアナはついに耐え切れず声を上げた。  
 
「っ……、やっ……、あ、ああぁっ!!」  
 
瞬間、ロイドの手によりその口を塞がれ、奥深くを思い切り抉じられる。  
たちまち強烈な痺れがディアナの全身を突き抜ける。  
 
「ぅんっ……!んんーっ!!」  
 
鈍くも十分に官能的な声が止め処なく上がる中、その「罰」はお互いが達するまで続いた。  
ディアナはまだ解放される気配がないことを感じ取ると、切なそうに音を上げた。  
 
「お、お願い……、もう、やめて……、わかったから……」  
「……本当か?」  
 
ロイドが聞く耳を持ったことに違和感を感じたのか、不思議そうな表情を浮かべながらも何度も頷く。  
無論、応じる気など欠片も無い。  
 
「じゃあ次は体罰だな。」  
「……え?」  
 
ロイドは透かさずディアナの身体を無理やり捩じ伏せ、右腕を掴み後ろ手に固定する。  
続いて左肩を押さえつけると、ディアナは血相を変えて抵抗を始めた。  
 
「なっ…何!?離して!」  
「俺を疑った報いだ。拘束されたくなかったらおとなしくしてろ。」  
 
ロイドの声から感じ取れるのは、怒りではなく優越感。それ故ディアナに怖がる様子はなかった。  
しかしこの状況はまずいと思ったのか、ディアナは珍しく媚びた声でせがみ出す。  
 
「あの……、私、静かにしてるから、もう少し楽に……」  
 
これから行われる行為を受け、静かにできるわけがない。  
ロイドは彼女の哀願を鼻先で笑い飛ばしてやると、肩を掴む手に力を込め一気に奥まで貫いた。  
 
「んっ!!」  
 
口元が枕に埋まり、辛そうな声が上がる。流石に苦しげな様子を見せたため、肩に置いていた手を退けるとすぐに抽送を開始した。  
しばらくの間は比較的軽く、弱い快楽でディアナを慣らす。  
 
「あ、あっ……!……っ!!」  
 
軽くといっても基準が違う。ディアナにとっては十分に耐え難く、ひたすら身を固くしてその行為が終わるのを待っていた。  
 
「そんなに固まってたら疲れるぞ。力を抜け。」  
「無、理……っ」  
「……ディアナ」  
 
咎めるような声色で名を呼ばれ、ディアナは戸惑いながらも少しずつ身体の緊張を解し始める。  
その緊張がある程度まで解れた頃、ロイドが急に突く力を強めると、その身体は彼女の意志に反し再び強張り始めた。  
 
「力抜けって言ってんだろ」  
「で、でも……ぁあっ!」  
 
より強く、より速く突き上げ、彼女の命令遵守の行為の邪魔をする。  
一向に従う様子が見られないことを確認すると、勢い良く奥まで貫きその動きを止め、意地の悪い台詞を吐いた。  
 
「守れないならどうなるか、わかってるな」  
 
言うと同時に、腰を引かずに彼女の中を激しく掻き回す。  
 
「いっ……!やあああぁっ……んぅっ…!!」  
 
瞬く間にディアナの全身を強烈な快楽が支配する。  
無理やり絞り出された嬌声は、瞬時にロイドの手によって抑え込まれた。  
 
「でかい声を出すなと言っただろう。そんなに言うことが聞けないのか?」  
 
ロイドはディアナの口を後ろからしっかりと塞ぎ、中を執拗に掻き回しながら耳元で如何にも愉しげに囁く。  
ディアナは切なそうに悶え、懸命に首を振っていた。  
 
 
そろそろ絶頂に溺れさせてやろうと思っていた。状況的にもちょうど良い。  
口を塞いだまま解放していた左手も後ろ手に固定すると、今まで意図的に避けていた彼女の性感帯を徹底して突いた。  
 
「っっ!!ん───っ!!!」  
 
反射的に身を反らし、快楽から逃げようと必死でもがくディアナを力で押さえ込み、一層激しく突き立てる。  
立ち所にその速度は増し、ディアナはすぐさま限界に追いやられた。  
無論ロイドがそれだけで満足するはずもなく、ディアナがどれほど苦しげに喘ごうとも、情け容赦なくその位置だけを一心に突き尽くした。  
 
数え切れぬほど強制的に絶頂を迎えさせられ、精神的にも追い詰められた頃、ディアナはようやく解放された。  
ディアナはあまりに理不尽な仕打ちに非難の声を上げる。  
 
「ひ、酷い……」  
「酷くないと罰にならねえだろ。」  
 
今にも泣き出しそうなディアナの顔を自分の方へ向かせると、ロイドは無理やり唇を奪う。  
そのまま寝返りを打たせるように仰向けに倒し、彼女が落ち着くまでは決してその唇を離さなかった。  
 
 
 
「ロイド、お願い」  
 
ベッドから離れ着衣を整えていると、横から小さな甘えたような声が聞こえた。  
声の主に顔を向けると、ディアナがその碧い瞳で真っ直ぐにロイドを見つめていた。  
 
「好きって、言って欲しい……」  
「…………」  
「嘘でいいの」  
 
ロイドは思わず目を逸らす。  
偽りの愛情表現など過去にいくらでもしてきたが、彼女にだけはできなかった。  
彼女に対するそれは、その実を失ってしまうからだ。  
 
「……もう寝ろ」  
 
ディアナは悲しげに視線を落とすと、何も言わずに小さく頷いた。  
 
 
既に日は変わっていた。アルベニア軍の出陣まで、あと3日。  
ロイドはただ静かに、来たるべき時を待った。  
 

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