夢を見た。白く眩い光が目の前に迫っていた。
その光の中から、錫杖を携え白い法衣に身を包んだ女性が現れた。
彼女はゆっくりと歩み寄り、疲れ切った身体を起こす。
熱を帯びた身体に触れる冷たい手が、とても気持ち良い。
夢うつつに薄っすらと目を開けると、美しい銀色の髪が頬をくすぐった。
「相当体力を消耗していますね」
……夢ではなかった。
その女性は回復魔法を唱え、見るからに衰弱しているディアナの疲れ切った身体を癒すと、静かに立ち上がった。
「あなたは……?」
「ハイプリースト。破魔を専門とする魔道士です。」
名を聞いたつもりが、職業を答えられる。
「あなたの救助要請を受けています。見つかる前に早くこちらへ。」
ディアナは手を引かれ、空間を裂いて輝く白い光の中へと導かれた。
すぐに視界が開け、鬱蒼と樹木が生い茂った森の中に降り立ち目にしたのは、片時も頭から離れず思い焦がれていた人物。
ハイプリーストと名乗った女性はすぐに、眩く光り続ける空間の裂け目を塞いだ。
「随分時間が掛かったな。」
「結界の先に強大な魔力を感じました。勝手ながら、その気配が消えるのを待たせて頂きました。」
「戦うのは俺だろうが……」
「最初に迎撃されるのは私です。シルヴィリアの人間と遣り合うなんて冗談ではありません。」
ディアナは自分の身に起きたことをいまいち理解できず、2人のやり取りをただ呆然と眺めていた。
わかったのは、ロイドの差し金で自分が助けられたのだということ。
いつも通りだった。彼はどれほど都合の悪い状況であろうと、最後は身を挺してでも助けて出してくれる。
「すまない。これは俺の失態だ。」
「…………」
向き直って詫びるロイドの顔をじっと見ていた。
再会できた嬉しさに今にも泣き出しそうな心持だったが、涙も声も出ず、ただ震えているだけだった。
生き地獄とも言えるほどの苦しみから解放されたという事実も、あまりに突然すぎて信じられなかった。
「ディアナ?……何かされたのか?」
ディアナははっとしたように首を振る。
ジークを庇ったわけではない。ロイドに他の男と関係を持ってしまったことを知られたくなかった。
その様子を見ていた銀髪の白い女性が、ふと何かに気付いたようにディアナを呼び寄せる。
「ディアナさん。ちょっといらっしゃい。」
まじまじと胸元を覗き、何かを理解した様子で半歩退くと、解呪の言霊を紡ぎ出す。
それに伴い、胸に刻まれていた魔封じの印は跡形もなく消え去った。
「サービスです」
彼女はそう一言残しロイドに顔を向ける。
「この場所にまだ空間の歪みが残っているはずです。感付かれる前にここを離れましょう。」
今になってようやく、助かったのだという実感が沸いて来た。
ディアナはうずうずした様子でロイドに視線を送り、小さくその名を呼んだ。
「ロイド」
「何だ」
「抱きついていい?」
「…………」
わざと媚びるような目つきで見つめ、期待通りの返答を要求する。
「行くぞ」
あっさりと一蹴され残念そうに肩を落とすディアナを余所に、白い法衣の女性が移動魔法を唱えた。
すぐに景色が変わり、全く知らない街の風景が目に入る。
そのまま酒場へ連れられると、また別の見知らぬ女性が帰りを待ち侘びていた。
細かく波掛かった褐色の髪を高い位置で結い、その身に羽織っている革のジャケットがとても似付かわしい。
加えて色っぽい雰囲気まで兼ね備え、ディアナは思わず見惚れてしまった。
「成功しました。私の役目はここまでです。では。」
「はい、お疲れ様。」
白い女性は振り返ることもなくそのまま消え去ってしまい、やっと我に返る。
「あ、お礼言ってない……」
「いいのよ、仕事なんだから。」
その女性はグラスを持ちながら屈託のない笑顔でディアナを迎えた。
「用は済んだ。帰れ。」
「…………」
その笑顔も、ロイドの一言で引き攣った表情に一変していた。
「ロイド……、あんたは礼の1つくらい言いなさい。」
「礼?金なら払っただろ。」
「あの……、誰?」
ディアナが仲裁するように口を挟むと、彼女が率先して話し掛けて来る。
「あたし、某情報結社のメンバーなの。さっきの白い子も。今回みたいな請負もたまにやってるのよ。あたしのこと、ここではクレアって呼んでね。」
「いいから帰れ。もう用はない。」
「こっちがまだあるの!」
クレアはロイドを怒鳴りつけると、再びディアナに向き合い満面の笑みで問い掛け始める。
「あたし、以前こいつに協力して散々な目に遭ったの。こいつの性悪さはよーく知ってるのよ。ねぇ、ディアナさん。あなた何でこんなのと一緒にいるの?」
彼女の持つ独特の空気に圧され、何も言えずにたじろいでいると、ロイドに頭を掴まれ彼女から引き離された。
「答えるな。こいつらに余計な情報を与えるな。」
「あんたがこんなか弱そうな女の子連れるなんて裏があるとしか思えないのよ。この子何かあるの?」
「何もねえよ。」
「じゃあ恋人?好きなの?」
「まさか。」
無意識のうちに表情が曇る。
クレアはそれを目に留めると、グラスの酒を飲み干し満足気に引き下がった。
「ふーん……、まぁいいわ。あとこれ、あたしらのボスからあんたに。」
ロイドに投げ渡されたのは、小さな無線通信機。
「あいつに直接繋がるわ。次からケルミスに直接依頼しなさい。間違ってもあたしに連絡しないでね。」
話の流れから察するに、ケルミスというのは『ボス』のことのようだった。
「……?随分と好待遇だな。」
「金づるだから。」
「…………」
ある意味納得したような面持ちで、ロイドは通信機に何も細工されていないことを確認し懐に納める。
「冗談。面倒な依頼ばっかりしてくるからよ。あの子だってあたしが直接頼んでも動かないんだから。」
「あの、クレアさん。助けて頂いてありがとうございます。」
ディアナは全く途切れる気配のない会話に何とか割り込み頭を下げると、クレアはその頭を撫でながらロイドに悪態をついた。
「あなたは可愛げがあるわね〜。爪の垢でも煎じてこいつに飲ませてやりたいわ。」
「もう用はないだろ。帰れ。」
「わかってるわよ!じゃあね、ロイド。もう二度と会わないことを祈ってるわ。」
しつこく退散を要求するロイドにひらひらと手を振ると、彼女は酒場の扉へと向かった。
「クレア。ちょっと待て。」
「……帰れって言っといて、今度は何。」
煩わしそうに振り向くクレアに構わず、彼が懐から取り出したのは一枚の小切手。
備え付けられていたペンを紙面に走らせると、指に挟んで彼女に突きつけた。
クレアはその額をちらりと見ると、すぐにロイドに視線を戻す。
「何?この額。謝礼?」
「なわけねえだろ。口止め料だ。ディアナの情報は掴んでも一切売るな。」
「……ケルミスに伝えておくわ。じゃあね。」
クレアは小切手を受け取ると踵を返し、酒場から出て行った。
人ごみに紛れ見えなくなるまで、ディアナは相変わらずその後ろ姿に見惚れていた。
ロイドはすぐに、動かないディアナの腕を引っ張り宿へと連れ出す。
知らない景色を眺めつつ、それなりに栄えた街だと思った。
取られていた宿も、それなりにしっかりとした部屋だった。
「アルベニアの一件もある。しばらくおとなしくしてるぞ。」
「うん……」
ディアナは扉を閉め、自分に背を向けている彼を見つめる。
街の喧騒から一転して静寂に包まれ、嫌でも頭が冷める。
先ほどまで自分の身に起きていたことを急に思い出し、居た堪れない気持ちになった。
「ロイド」
「何だ」
「抱きついていい?」
「…………」
またか、とでも言いたげな面持ちで振り返るロイドに、ディアナは返事も待たず飛び付いた。
背伸びをして首に腕を回すその姿は、抱きついていると言うよりもしがみ付いていると言う方が正しい。
すぐに引き剥がされるかと思ったが、意外にも黙って身を貸してくれている。
込み上げる感情を必死に抑え、しばらくの間彼に密着したまま離れずにいると、ぽつりと小さく呟く声が聞こえた。
「……疲れないか?」
「疲れる……」
ロイドはそれでも離れないディアナの背に仕方なさそうに手を回し、何気なく腰まで撫で下ろすと、何かに気付いたようにそこで手を止めた。
探るように、そのままゆっくりと手を下まで下ろされる。
「……!?」
ディアナはロイドが何を探ろうとしているのかに気付き慌てて離れようとするが、急に強く抱きすくめられそれは叶わなかった。
なぞる様に、スカートの中を直に撫でられる。
「……下着はどうした」
「……お、落とした……」
苦し紛れの言い訳に、訝しげな表情で顔を覗かれていた。
気まずい沈黙を誤魔化すように軽く笑ってみせると、急に身体を抱きかかえられ無造作にベッドに下ろされた。
膝を挟まれ足を閉じることができずにいると、すぐに指を奥まで差し入れられる。
「えっ……!?あっ……」
「何故こんなに濡れている?」
気が動転し、うまく答えることができない。
「おまえ、何もされてないって言ったよな。」
「う……、うん……」
「じゃあこれは何だ。」
わざとらしく音を立てて中を掻き回され、折角収まっていた熱が再び込み上げて来る。
「う、あっ……、あ、あのっ……!ひ、独りで……」
「……独りで?」
うろたえる余りとんでもないことを口走りそうになっていることに気付き、ディアナは慌てて首を振った。
「してないっ!」
「……で?これは?」
耳を付く卑猥な音が更に大きくなり、ディアナは恥辱心と急激に膨れ上がる快感から何も言えずにいた。
既に十分過ぎるほどに熱を溜め込まれているその身体は、すぐに火照り薄桃色に染まる。
ロイドはなかなか口を割らないディアナに業を煮やし、腰のベルトを緩めに掛かった。
「や……、待って!今は駄目!」
「今は?」
指だけでも達しかけたその身体に強いられる、彼の無遠慮で強引なその行為は想像するだけでも耐え難い。
まだ身体の自由が利くうちに、ディアナは何とか今の状況を脱しようと起き上がりベッドから這い出ようとする。
が、難無く捕まり乱暴にベッドに突き飛ばされ、両腕を捻り上げられた。
「……縛られたいか?」
いつもと異なり静かな物言いをする彼に、ディアナは思わず畏縮した。
何も言えずにいると首元に手を添えられ、なだめるように親指で頬を擦られる。
その行為に怯え目を逸らすと、思い切り腰を打ち付けられた。
「ああっ!!」
息をつく間もなく何度も突き上げられ、程なくしてその速度が急激に上がる。
溜まりに溜まった熱が次々と解放されるかのように、ディアナは立て続けに何度も達した。
ロイドはすぐに動きを止め、苦しげに息を切らすディアナを見咎める。
「何もされていない割りにやけに早いな。」
意図が分からなかった。
勘の鋭い彼のこと。一体何をされたのか、どれほど酷い目に遭わされたのか、今までの行動から既に察しているはずなのに、何故わざわざ吐かせようとするのか理解できなかった。
「ディアナ。いい加減白状しろ。」
涙ぐみながらも首を振る。どうしても言いたくなかった。
他の男の手が付いた女だと認めてしまったら、もう旅路を共にできなくなるかもしれないと思っていた。
そして何よりも、全てを奪われかけたあの恐怖を思い出したくなかった。
「目を背けるな。全て吐き出せ。」
「…………」
「原因を作ったのは俺だ。別に責めるわけじゃない。」
「だって……」
辛そうに言い淀むディアナを後押しするように、ロイドは現実を突き付け続ける。
何となく、彼なりにトラウマを払拭させようとしているのだと感じた。
手馴れた感じがするところを見ると、ラストニアでも似たようなことをして来たのだろう。
「認めるか?」
「…………」
ディアナは震えながらしばらく黙っていたが、観念したように小さく頷く。
すると、途端に抑えていたはずの涙が溢れた。
慌てて拭おうとすると、その手は静かに押さえられた。
「それでいい」
「っ……!」
声を殺して涙を流すディアナに、ロイドは優しく口付ける。慰めるように頭を撫でられた。
全てを受け入れられたような心地に、僅かながら気持ちが軽くなった気がした。
しかし、それも束の間。落ち着いて来たところで唐突に腰が動く。
勢いの伴わないその動きに、泣き叫びながらも犯され続けた苦い記憶が蘇った。
「やっ……!?やだっ!いやぁ!!」
「……今度はこっちか。世話が焼けるな。」
固く目を閉じながら暴れるディアナを気遣うように、ロイドは力を入れずに突き始める。
それは正しく、先ほどまで受けていた精神を食らい尽くすような陵辱に似たものだった。
ディアナは一層錯乱し涙を零して彼を拒むが、一向にやめる気配を見せてくれない。
「ディアナ。目を開けろ。相手は俺だぞ。」
薄っすらと目を開けても、涙で視界がぼやけていた。
ロイドは仕方なさそうに動きを止め、ディアナの首を持ち上げ上を向かせると、再び唇を合わせた。
それは優しく労わるようなものではなく、情欲をそそるような煽情的なものだった。
「ぅ……んんっ……!」
脳が蕩けるような感覚に堪らず身動ぎすると、唇を強く押し付けられ更に深くまで湿り気を求められる。
逃げても行く先を追われ、すぐに舌を絡み取られてしまう。
やがてディアナがぼんやりと熱に浮かされたような表情を見せると、ロイドは唇を離しもう一度腰を打った。
「んっ……」
同時に口から出たその声は、自分でも信じられないほどに甘いものだった。
その後も突かれる度に、顔を覆いたくなるほど聞くに耐えない声が漏れ、ディアナは赤面する。
「ロ、ロイド……」
「何だ」
「やめて……」
あまりの恥ずかしさに耐えられず、口を押さえ顔を背けていると、それを見たロイドが僅かに笑ったような気がした。
彼の笑みからは嫌な予感しかしない。そしてこの状況下において、その予感が的中しないはずがない。
息を呑むと、すぐに全身を痛烈な快感が襲った。
嫌という程経験させられた、絶頂の連続。それを覚悟しなければならなかった。
「っ……、や、あ!ああぁっ!!」
突然始められた激しい抽送に、先ほど果てたばかりにも関わらずディアナはすぐに絶頂を迎えさせられた。
無論それだけでは収まらず、何度か突き上げられる度に簡単に果てる。
「いっ……!あ、あぁっ!!いやぁっ!!」
「……随分溜まってんだな」
泣こうと叫ぼうと、その身体に溜まった熱を全て出し切るまで休息は与えられなかった。
ディアナは彼が動きを止めるまで、苦しいほどの快楽に喘がせられ続けた。もう頭が真っ白になっていた。
「いい、もう、いいっ!!やめっ……!!」
「まだだ」
「いやっ、だめ……!あ、あああぁぁ!!」
大きく身を反らせ、長い痙攣を経る。
今となっては、彼との情事の方がよほどトラウマものだと思った。
「楽になったか?」
「…………」
楽になるどころか、あまりの脱力感に身体が動かない。
乱れた呼吸が整うまで、ロイドは何もせずに黙ってディアナを見つめていた。
身を案じるような人ではない。彼が身動き一つせずに黙り込む時は、大体何かを良からぬことを企んでいる時だ。
今この時も例外ではないと思ったが、身体のほとぼりがなかなか収まらず、そこまで気を回すことはできなかった。
「まだ辛いか」
恐怖心は和らいでいたが、ディアナは小さく頷いた。
そうしておかなければ、また酷く身体を求められてしまうと思ったからだ。
「手っ取り早く忘れさせてやろうか。」
「……?」
「受けた屈辱を遥かに超えるような精神的重圧を与えてやる。」
とんでもないことを軽々と言って退ける。
所謂ショック療法。荒療治にもほどがある。
ロイドはディアナの両足を腕で抱え、身体を二つ折りにするように覆い被さると、暴れさせないよう体重を掛け両手を掴んだ。
「え、やだ……!こんな格好……」
ディアナは再び顔を赤くして抗議するが、それを黙らせるかのように強く突き込まれ、不本意ながら口をつぐむ。
体勢のせいか、先ほどよりも深くまで至っている気がした。
「死ぬほど辛くなったら言え」
ロイドはそう言うと、いきなり中を抉るように掻き回す。
「ああぁぁっ!!」
上擦った声が上がった。口をつぐもうにも両手の自由は利かず、抑え込む余裕もない。
溜め込まれた熱を出し切り、多少の休憩が与えられているその身体は簡単には達せられず、改めて与えられ始めた快楽を甘受することとなる。
どうしても慣れることができないその行為に、ディアナは身動き一つできず悶え続けた。
「う、ぁあ……っ!ロイド、辛い……」
「見え透いた嘘をつくな」
掴まれている手に力がこもると同時に、突然最奥をぐりぐりと押し込まれる。
感覚が無くなりそうな程に過ぎる快楽が、全身を襲う。
「っ!!ぁああぁっ!!」
反射的に両手を振り解こうとするが、掴まれる力の方が圧倒的に強く微動だにしない。
一際高い声を上げるディアナを見受け、ロイドは一層勢いを強めた。
「やああぁっ!いや、だめ、つら……ぁぁあああっっ!!!」
辛い、と言い掛けると、殊更動きを激しくされる。何度お願いしてもそれは変わらなかった。
わざわざ逃げ道を提供し、それに縋り付くと徹底的に叩く。実に彼らしいやり方だった。
再び強制的に果てさせられたその身体は、尋常でない快楽に悲鳴を上げるかのように、途絶えることなく震え続けていた。
ロイドは狂ったように喘ぎ続けるディアナから、余力を奪うようにゆっくりと速度を上げ、更に大きく喘がせる。
身を強張らせ息を止めて耐えていると、押し込まれたままいきなり荒々しく掻き回された。
「いやああぁっ!お願……!っ……────っ!!」
仰け反り、最早声も出ない状態で果てるディアナの様子を窺い、ロイドはようやく動きを止める。
これ以上続けられると間違いなく失神していた。
それでも休む暇すら与えられず、ロイドはすぐに肩で息をするディアナを弱く、ゆっくりと突き始める。
気を失わないように細心の注意を払いながら、ディアナの体力がある程度戻るまで続けられた。
「やだ……、もう、やめて……」
ディアナが消え入りそうな声で解放を訴えると、ロイドは表情一つ変えず速度を上げた。
「い、いやぁ……、お願い……、無理、もう無理……」
「我慢しろ」
「だめ……、もう……!ぁ、あっ……、あああぁぁっ!!」
即座に奥深くを闇雲に突き立てられ、弱々しい声しか出なかったディアナの口から大きな嬌声が上がった。
時折弱まる勢いに気を抜かされると、何の前触れもなく突然激しく突き上げられる。
その度に身体が跳ねそうになるが、身体をベッドに押し付けられているためそれもできない。
両手は一切の動きを許されず、身を捩ろうとすると必要以上に激しく犯され、妨害される。
身体が自然に発する反応を全て封じられているのがとても辛かった。
「はぁ……、あぁっ……!は、早く……、終わらせ……」
言い掛けた途端揺さぶるように荒々しく突き立てられ、もう何度目かもわからない絶頂に達した。
そしてその動きも、そう簡単には止めてくれない。
「いやあっ!!お願いっ!!もうだめ、辛いの!!」
「……本当か?」
彼が他人の言葉に耳を傾ける時も、ろくなことがない。
頭ではわかっていても、耐え難い絶頂の連続で思考が停止し、ただ頷くことしかできなかった。
「じゃあ我慢しなくていい。楽にしてやる。」
「え……ぁ、ああっ!!や、あぁあああっ!!」
最奥を徹底的に突かれ、果てれば果てるほどその速度は増す。
いくら泣きついても情けの一つさえかけて貰えない。
再び失神寸前まで追い込まれるが、今度は止まってくれなかった。
「っ……ぁっ……い、やっ……!!」
目の前が真っ白になったかと思うと、突如視界が暗転した。
が、すぐに瞬間的な痛みを感じ目を開けさせられる。
「大丈夫か?」
両手で頬を挟まれていた。思い切り叩かれたようだった。
「大丈夫なわけ……」
「大丈夫そうだな」
一度達したのか、抜かれていたそれを再びこじ入れられ、またもや抽送を開始される。
「う、あ……、もう、やだ……」
力無くロイドの肩を押し返そうとすると、再びその手を掴まれベッドに押し付けられた。
限界などとうに超えている。一方的に与えられ続ける快楽が、苦しくて仕方が無かった。
「いや、もう……、どうして……、こんなに……、っ!」
懸命に身動ぎしようとするディアナに見向きもせず、ロイドはしばらく黙っていたが、不意にほとんど聞き取れないほど小さな声で呟いた。
「……どうせこの程度じゃ済まなかったんだろ。」
耳元で小さく聞こえた本音とも取れる言葉。それきり、彼は口を閉ざした。
今までの言動は全て、ただの口実なのではないかとさえ思った。
「どういう……んっ、あっ、あ、ああぁあっ!!!」
その先を言わせまいとするように、ロイドはディアナが最も声を上げるその場所を突く。
まるで吹っ切れたように、力任せに腰を打ち込まれ、ディアナは狂おしいほどの快楽に溺れた。
「いやぁっ!!わ、私、何も、してな……ああぁぁっ!!」
「……少し黙ってろ」
強引に唇を奪われ、執拗に同じ場所を突かれる。
初めて身体を重ねられた夜のように、小刻みに、しかしながら重い一突きを何度も見舞われる。
あの時もこれだけは耐えられなかった。そして今も、正気を保つだけで精一杯だった。
「んっ……、っ……!!」
声が出ない。口封じのせいではない。
意に反して涙が零れた。身体が悲鳴を上げているのだと思った。
それでもロイドはディアナの様子を気にする素振りなど全く見せず、黙々と突き続ける。
固く目を閉じ手を強く握りながら、全く終わる気配を見せないその行為が終わるまで我慢し続けるしかなかった。
「──っ!!ぅ、んっ……」
徹底して突き続ける彼に、苦しさを主張するように声を絞り出す。
すると途端に腰の動きが変わった。最も辛いその場所を常に巻き込むように、滅茶苦茶に中を掻き回された。
「っ!!!んんっ!!!」
達する度に動きもしない身体を精一杯動かし、如何にその行為が苦しいかを伝えているのに全く汲み取って貰えない。
しばらく苦しまされた後、早く終わって欲しいという願いも空しく再び黙々と突き始める。
とても耐えられなかったが、抗う術も無かった。
存分に時間をかけ、ロイドはディアナを心行くまで悶えさせると、唇を離した。
「苦しいか」
ディアナは辛そうに息を吐き、縋るような瞳でロイドを見つめながら弱々しく頷いた。
彼は満足気に目を細め、またしても執拗に腰を打つ。唇はすぐに塞がれた。
「や……んっ……」
ジークの言葉が思い出された。自分などロイドの足元にも及ばないと。
彼がどうかは別として、ロイドは間違いなく度が過ぎると思った。
このままではいけないと思い、振り払うように顔を逸らすが、唇を追われ再び塞がれる。
振り払えないよう、力を込められていた。それと同時に送り込まれる快楽も強まり、ディアナは心ならずも昇り詰めさせられた。
「んっ……!!ぅっっ!!」
苦しげな声を漏らすと、僅かに唇を外し労いの言葉を掛けられる。
「疲れたか?」
表情を見せて貰えず、一見優しいその言葉が怖かった。
怯えながら頷くと、震えを止めるように手を強く握られた。
「……後でゆっくり休ませてやる。」
直後、不意に始められたのは、激情をぶつけるかのような激しい凌辱。
ロイドは上体がずれないようディアナの肩をしっかりと抱くと、力任せに、自分を刻み込むように何度もその方向へと突き上げる。
痛みを訴えても止めてもらえず、ただエスカレートするだけだった。
自分を知らしめるように強く嬲り続けられ、ディアナは身を焼くような快楽に何度も震え上がった。
名を呼んでも返事さえしない。完全に抗う意志を喪失させられ、ディアナは彼の陵辱に甘んじた。
何度果てても一向に終わる気配を見せないその行為は、まだ辺りが暗いうちに終えられた。
ロイドは珍しく息を切らし、暗緑に艶めく前髪を垂らして俯いている。
身も心も余すところなく支配され、ディアナは泣いていた。
クレアとの会話で、自分への気持ちをはっきりと否定した彼の言葉が、ずっと胸に突き刺さっていた。
わかっていたはずなのに、悲しくて仕方が無かった。
「酷い……こんなの、嫌……」
堪え切れずに嗚咽するディアナに気付き、ロイドは僅かに顔を上げると、何も言わず抱き締める。
しかしそれも、ただの一時的な慰めにしか感じられない。
自分に限らず、彼にとって女を抱くなど造作も無いことなのだ。
それでも、その思考とは相反してディアナは抱擁に応じた。
離れたくない一心で、しっかりと背に手を回した。
まどろみ行く意識の中、数年間のように再び絶望から救ってくれた彼への思慕の念からか、あるいは文字通り初めて寝床を共にできる嬉しさからか、
不思議と心が満たされつつあるのを感じていた。
どれほど酷い扱いを受けようと、ディアナにとってロイドは絶対的な存在なのだ。
だからせめて、彼の暴挙は自分が止めようと心に誓っていた。
ディアナが泣き疲れて眠るまで、ロイドは一度も口を開かずに抱き締め続けていた。
小さな寝息が聞こえて来た頃、そっと腕を外しベッドから離れようとするが、どうしても背に回された腕が離れない。
無理に引き離して起こしてしまうのも悪く思い、仕方なく隣に身を落ち着かせる。
ディアナが恐怖を忘れ、安心して目覚められるよう、今日だけは抱いておくことにした。
ロイドはディアナの髪に指を絡めそれをじっと眺めながら、一時でも激情に駆られた自分を戒める。
もう当分訪れないであろう今の状況を惜しく思いつつ、ディアナの華奢な身体を引き寄せ静かに目を閉じた。
その心の裏には、愛憎の念が着実に募り始めていた。