翌日、客船が港に着くと二人は早々に人混みに紛れた。  
身元の確認などされては強制送還を食らい兼ねない。船員の目につかないようひっそりと、街へ出た。  
貿易都市ミランダ。ここは特に国が統治しているわけでもない、道を歩くと嫌でも様々な道具が目に入る、活気に溢れた商人の街。  
ディアナは辺りを見回し、何よりも人の多さに驚いていた。  
 
「こんなに人多くて大丈夫なの?そんな堂々と歩いてて大丈夫?」  
「姓がばれなければ問題ない」  
 
ロイドは知名度に反して顔はあまり知られていない。今まで普通に街の宿に泊まる事ができていたのはそのためだ。  
国の行事はほとんどさぼっていたし、戦時もよほどのことがなければ自ら出向かない。  
出向いたとしても、顔を見た者を生かしてはおかなかった。  
 
「ところで、報酬って何?」  
「武器の情報」  
「武器?剣?」  
「まぁ……」  
 
ロイドは歯切れの悪い返事をする。隠していても、行動を共にしている限りいずればれることに変わりはない。  
 
「二本持つの?今持ってる剣は?」  
「別に、どうだっていいだろ。行くぞ」  
 
不思議そうな顔をするディアナの問いを誤魔化すように流し、比較的人気のない場所でケルミスから剣の情報を聞き出した。  
聞き出した情報によると、今日の夕刻、とある場所で曰くつきの剣が競売に掛けられるという。名は、魔剣クラウ・ソラス。  
どんな隠れた事情があるのかと問い詰めると、実は既に三回ほど市場に出回り、落札者全員がその日のうちに死亡しているという話だった。  
そしてその剣は、必ず持ち主の元へと戻るのだ。  
思うところがあったが、ひとまず目にしてみなければ話にならない。様々な品を興味深そうに見て回るディアナに付き添い、  
夕刻まで時間を潰すと、指定された会場へと足を運んだ。  
 
「ここで競売するの……?」  
 
赴いた先は至って普通の酒場。ディアナが訝しがるのも無理はない。  
ロイドはカウンターへ近付くと、ケルミスに指示された通りの注文と、指示通りの雑談をする。  
すると、酒場のマスターは自然を装い別室に二人を案内した。別室内の施錠された扉が開けられると、そこに見えるのは  
地下へと続く階段。  
マスターに見送られ、二人は暗闇に包まれた階段を下り競売会場へと出た。  
 
「す、凄い人……」  
 
既に大勢の人間が席に着いていた。客層はおそらく、成金連中や裏社会に生きる者達。  
しかし驚くべきは、客層よりも主催者。魔剣クラウ・ソラスの出品者でもある彼(か)の主催者は、ミランダで最も大きな  
権力を持つ大富豪。有権者に公認された闇市場なのだから、発展するのも頷ける。  
ディアナを連れて空席に座ると、間も無くして競売が始まった。  
ロイドは如何にも怪しげな品が競り落とされていく様を、退屈そうに眺めていた。  
 
「ねえ……、競売ってこんなに殺伐としてるものなの?」  
「普通の競売じゃないからな」  
 
人が多いため競争率も高く、会場は常に殺気立っていた。  
この会場自体が闇取引現場であることをディアナに伝えていなかったが、何かと面倒なので黙っていた。  
程無くして、目当ての品が壇上の上へ運ばれてくる。  
 
「これより、本競売の主催者であるトマ・アドルフ氏の出品となります」  
 
司会の声と共に魔剣クラウ・ソラスの競売が開始された。  
一見、至って普通の剣。模造品である可能性も否めないが、落札者がことごとく死亡しているという事実が本物であることを  
裏付ける。  
 
「あれ?誰も入札しないの?」  
「落札者が皆死亡していることを知ってるんだろう」  
「ロイド、チャンスじゃない?」  
「俺に死ねと?」  
「あ、いや……」  
 
剣の正体を知らないのだからディアナの反応は至極真っ当。  
魔剣クラウ・ソラスがどういった剣なのか知らずに手を出すと、自分を死に至らしめることとなる。  
落札者が死亡したのは当然と言えば当然なのだ。  
 
「クラウ・ソラスは追尾の剣だ。持ち主の意志を刃に宿し、何かの拍子に敵と認識した者の命を奪う」  
「何かの拍子?」  
「落としてもいいし、投げてもいい。主催者が本当にあの剣を手放す意志を持たなければ、手にした者はいずれ死ぬことになる」  
 
持ち前の剣の知識を披露してやると、ディアナは呆気に取られた表情を見せた。  
 
「……ねえ、ロイド。あれ、初めて見るんでしょ?」  
「どうした?」  
「詳しいなと思って……」  
「……、ケルミスに聞いたんだ」  
 
その場凌ぎの言い訳でディアナの疑問を解消すると、間も無くして入札者なしという結果でクラウ・ソラスの競売は終えられた。  
もうここには用はない。ちょうど次の出品物が運ばれて来た頃、席を立とうと肘掛けに手を付くと、ディアナに腕を掴まれ  
引き止められた。  
 
「ちょっと待って……あれ」  
 
晴れない表情で彼女が見つめているのは次の出品物。目を向けると、ぼろぼろの服を着た少女が競売に掛けられていた。  
ここでは人身売買など特に珍しいことではない。  
司会が少女の解説を進めていく。身寄りのない、比較的安全な商品だと謳っている。更には、主催者自ら『在庫』が  
あると宣伝までしている。  
 
「ねえ、あの子何?どういうこと?」  
「これは闇競売だ。別に不思議な光景じゃない」  
「闇競売?じゃあ、これ悪いことじゃないの?」  
 
壇上に向かおうとするディアナを無理やり引き止め席に座らせると、ロイドは彼女を諭すような口調で話し掛ける。  
 
「ディアナ、覚えておけ。確定的な善や悪など存在しない。存在するのは個々の観念だ。その観念から大きく外れた  
信念こそがその者にとっての悪となる」  
「そんなの、違う……」  
「今ここに存在する『善』は定められたルールで出品物を競り落とすことだ。今面倒ごとを起こしてみろ、袋叩きに遭うぞ」  
「でも……」  
 
彼女は納得がいかない様子で少女を見つめている。その様子を窺いつつ、ロイドは尚も説得を続けた。  
 
「おまえは間違っていない。外に出れば大多数が同じ意見を持つ。そこで初めて、今ここで行われていることが悪となる」  
「…………」  
「……ディアナ。おまえは何故俺と行動を共にしている?」  
 
ディアナははっとした様子でロイドを見つめた。彼女自身、ロイドを善とは認めていないのだ。  
自分の良しと思う行動が、全て善行であるとは限らない。それでも彼女はすぐに、虚ろな瞳を地に落とす少女に目を移す。  
身寄りのない少女。自分の境遇と通ずるところがある彼女を放っておけないのだろう。  
 
「……ルールに則ればいいのね」  
「ディアナ……?おい、何を……」  
 
制止の声を振り切り、ディアナは壇上へと向かった。  
黒い髪を垂らし俯く少女と目を合わせ小さく微笑むと、彼女は強気な表情で主催者に顔を向けた。  
 
「どうしました?お嬢さん」  
「この子を解放して。私が代わりに貴方の奴隷になる」  
「ディアナ!?」  
 
会場からどよめきが沸き起こった。おそらくこれは、前代未聞の出来事。  
主催者であるトマ・アドルフはディアナを品定めするような目でその身なりを観察し、満足そうに頷いた。  
 
「いいでしょう。貴女の方が質が良い。会場の皆様、勝手な都合で申し訳ございませんが、こちらの商談は破談とさせて  
頂きます」  
 
少女とディアナの交換条件を呑み、彼は声高らかに交渉の成立を宣言した。  
ロイドは慌ててディアナの元へ駆け寄り、彼女を一喝する。  
 
「ディアナ、何を考えている!」  
「ロイド、この子お願い。捕まってる他の人達も助けてあげたいの」  
「一人でできると思っているのか?」  
「いざとなったら強行突破すればいい。お願い、私が出てくるまで待ってて」  
 
ディアナは小声でロイドに身勝手な行動の許しを乞う。しかし許すも許すまいも、もう既に交渉は成立してしまっている。  
この場で騒ぎを起こすとそれもそれで面倒な事態を引き起こし兼ねない。  
 
「……長くは待たないからな」  
 
ロイドがおとなしく引き下がると、ディアナは申し訳なさそうに微笑んだ。  
 
「別れは済みましたかな?ではお嬢さん、こちらへ」  
 
少女が壇上から降ろされ、代わりにディアナが壇上の奥へと消えていく。  
ロイドは小さく舌打ちし、少女を連れてすぐに会場から抜け出した。  
 
「おまえ、名前は」  
「……ヘレナ」  
 
年は十五前後といったところ。よほど酷い目遭わされたのか、常に周囲に怯えている。  
ディアナに世話を頼まれてしまったのだから、彼女が出てくるまでヘレナの身を守ってやらなければならない。  
 
「身の安全は保障してやる。……あいつに感謝しろよ」  
 
ヘレナは畏縮しながらも小さく頷き、如何にも不機嫌そうなロイドの傍へ近付いた。  
幸いなのは、彼女がトマの居場所を知っているということ。ロイドは彼女を連れ、緊張を少しでも解してやるために  
街の中を歩き回った。  
ヘレナは初めはおどおどしていたが、道端に広げられている商品に目を留めるようになると、すぐにその歩みは軽快なものに  
変わった。その様子を確認し、周囲が寝静まった頃にロイドは行動を起こした。  
 
「ヘレナ。奴の屋敷へ案内しろ」  
「えっ……」  
 
すぐに彼女の表情が曇る。戻りたくないのは当然だろう。  
 
「行きたくない……」  
「身の安全は俺が保障すると言ったはずだ。案内できないのならここに置いていく」  
「…………」  
 
ヘレナは怖気づきながらも小さく頷き、おぼつかない足取りでロイドをアドルフ邸へと導いた。  
 
屋敷は視界に収まらないほど大きく、警備員の姿も見られる。ロイドはヘレナを連れたまま、正面から堂々と入り口へと向かった。  
すぐに数名の警備員に引き止められるが、剣が収められた鞘で彼らを殴り倒し、歩を進める。  
 
「こ、こんなことしていいの……?」  
「どう侵入しようと、遅かれ早かれ騒ぎになる。それより奴の部屋へ案内しろ」  
 
彼女にとっても後には引けない状態となっている。怖くとも、ロイドの言われるがままに行動するしかない。  
警備員を片っ端から気絶させ、ヘレナの後につく。そして連れられたのは、二階の奥の大きな扉の前。  
施錠はされておらず、ドアノブを回すと扉はあっさりと開いた。様子を窺うと、彼(か)の競売主催者がベッドの上で大きな  
寝息を立てていた。  
ロイドは音を立てずに扉を閉め、静かに剣を抜く。ヘレナが小さな声を漏らしロイドから離れるが、構わない。  
 
「トマ・アドルフ。目を覚ませ」  
 
殺気立った声色で目の前の男を夢から現実へと引き戻す。  
彼は寝ぼけた顔で声の主に目を向けると、途端に顔色を一変させた。  
 
「な、何だ貴様!?一体どこから……」  
 
喉元に剣を突きつけられていることに気付き、彼はすぐに威勢を失った。  
 
「競売会場で金髪の女を手に入れただろう。今どこにいる?」  
「そ、そんなこと、私が言うとでも……」  
 
言い切らせるよりも早く、ロイドは剣の先を彼の肩へとずらし、何の迷いもなく突き刺した。  
シーツに血が滲み、目の前の男の口から苦痛の叫びが発せられる。  
 
「今、どこにいる?」  
「わ、わかった!案内する!案内するからやめてくれ!」  
 
剣を引くと、彼は慌てて窓際へと躍り出る。暗くて気付かなかったが、そこには一本の剣が立て掛けられていた。  
トマはその剣を手にすると、ロイドへと切っ先を向けた。  
 
「……クラウ・ソラスか」  
「ああそうだ!貴様を殺すなどこの剣があれば容易いこと!」  
 
ロイドは顔色一つ変えずに一歩前へ出る。彼は取り乱したように驚き、咄嗟に剣をロイドに向かって投げつけた。  
無論、そのような行動は予測済み。ロイドは自らの刃でいとも簡単にその剣を弾き飛ばすと、彼の腹を踏みつけ再び肩へと  
剣を突き刺す。  
 
「案内しろ。五体満足でいたいならな」  
「ま、待て!知らないんだ!女の管理は別の人間がしているんだ!私じゃない!」  
 
「別の人間?」  
「カロンという男だ!姿を現さないから私は何も知らないんだ!」  
 
影の権力者と言ったところだろう。悲痛な表情で解放を訴えているが、男の性格からして嘘である可能性もある。  
切っ先に力を込め、肩を抉るように剣を捻ってやると、一際大きな苦痛の声が響き渡った。  
 
「本当だ!信じてくれ!そ、そうだ、その剣もおまえにやる!だから助けてくれ!」  
「…………」  
 
しばらく拷問を続けてみるも、一向に口を割らない。本当に知らない可能性が高くなりつつあった。  
ロイドは先程弾き飛ばしたクラウ・ソラスをちらりと見遣ると、ヘレナに声を掛けた。  
 
「ヘレナ。その剣を取れ。ここへ持って来い」  
「ひ……、あ……」  
 
彼女は目の前の凄惨な光景にがくがくと震えている。  
 
「……早くしろ!」  
 
怒気を孕んだ声を発してやると、ヘレナは震えながら剣の柄を掴み、慎重にロイドへと手渡した。  
ロイドはクラウ・ソラスを片手に、再び足元で震えている男に目を向ける。  
 
「この剣をやる、と言ったな。本当か?」  
「本当だ……!た、助けてくれ……」  
「……そうか」  
 
おもむろに、クラウ・ソラスを真上へと放り投げてみせる。そこはロイドの首を飛ばすことも、トマの心臓を  
貫くことも可能な範囲。彼の目が恐怖に染まった。  
持ち主の意志を反映するその剣は、ゆっくりと孤を描きながら地に近付く。  
目の前を、剣が素通りした。そのまま切っ先をトマへと向けて落下し、クラウ・ソラスは彼の心臓を深々と貫いた。  
 
「信用してやる」  
 
ロイドは一言だけ言い残し、クラウ・ソラスをその手中に収めると、怯え切ったヘレナを連れて部屋を出る。  
屋敷の主が知らないのだから、誰に聞いてもカロンという男の居場所は知らないだろう。  
 
「あ、あの……、多分、地下だと思います……」  
 
ヘレナがおずおずとロイドに話し掛ける。  
 
「知ってるのか?」  
「カロンという人も入り口も知らないです……。でもここ、地下に埋まった収容所の上に建てられているんです」  
 
それが本当ならば彼女の言うことも一理ある。おそらく隠し通路でもあるのだろう。  
 
「何故それを知っている?」  
「私、最初清掃や雑用をさせられていたんですけど……、偶然ある部屋で設計図を見つけました」  
「それはどこだ」  
 
設計図があるのなら、出入り口とその方角と照らし合わせおおよその位置を掴むことができる。  
ロイドはヘレナを急かし、足早にその部屋へと向かった。  
 
一方、時は数時間前。ディアナはある一室へ連れられ、監禁されていた。辺りに置かれている様々な拷問器具から、この場所が  
監獄か何かであることを窺わせる。  
目の前には一人の男が立っていた。中年というにはまだ早い、一見紳士的な男だった。  
 
「あなた、誰?」  
「私はカロンという者だ。この場所の管理を一任されている。トマに聞いたよ。自らこんな場所へ来るとはどういうつもりだ?  
お嬢さん。」  
「……あなたが捕らえている人達を解放しに来たの」  
「まぁ、そんなところだろうね。君は身なりもいい。ここには不釣合いだ」  
 
カロンは全てを見抜いているような視線をディアナに向ける。ディアナはそれが不愉快だった。  
 
「どうしてこんなことを……人を何だと思ってるの?」  
「愚問だな。トマが何を言ったか知らないが、私は彼女らを助けるためにここに置いている」  
「助ける……?」  
「百聞は一見に如かずとは良く言ったものだ。一度彼女達に会ってみるといい」  
ディアナは彼に引き連れられ、別室へと移動した。そこには通路に面して無数の牢が存在し、獄中からは女性の姿が見られる。  
見かけはどう見ても監禁。しかし、中の様子を窺うとそれとは違う雰囲気が漂っているのがわかる。  
処遇が非常に良いのだ。床には絨毯が敷かれ、質素ではあるがベッドや机など、生活に必要なものは大体揃っている。  
数名の女性と目が合うも、さも興味がなさそうに目を逸らされる。  
 
「話を聞いてみるといい。私が如何に正しいことをしているかが理解できるはずだ」  
 
カロンが牢獄から出て行くと、ディアナは戸惑いながらも数名の女性に話し掛けた。  
 
「あの……、あなた達、ここで何を……?」  
「仕事。あなた、何も聞いてないの?何しに来たの?」  
 
粗末ではあるがしっかりとした布の服を身に纏い、一人の女性がディアナの問いに答える。  
何やら作業中のようで、手元を覗いてみると白い粉末を小分けにして透明の小さな袋に包んでいる。  
それはどう見ても、違法ドラッグ。  
 
「わ、私……、あなた達を助けに……」  
「助けに?」  
 
辺りから小さな笑い声が聞こえる。ディアナはその光景が信じられなかった。  
 
「教えてあげる。身寄りのない私達をカロン様が保護して下さったの。こうしてあの人の言われた通りの仕事をすれば、  
衣食住全てを与えて下さるのよ。私達が望めばそれ以上のこともね……」  
 
つまり、彼は彼女達の弱みに付け込み違法行為を手伝わせているのだ。このようなことは、断じて正しいとは認められない。  
 
「こんなの駄目……目を覚まして!皆、利用されているだけ!ここを出ましょう!」  
「ここを出る?」  
 
声を張り上げるディアナに、彼女達は鋭い視線を送る。明らかに敵視されている。  
 
「私達皆孤児でね、ここに来る前は奴隷以下の扱いをされていたの。だから今の生活が幸せなの。あなた、ここを出た後で  
私達の生活を保障できるの?」  
「それは……」  
「昔の生活に戻るのは嫌。脱走者扱いされて追われるのも嫌。あなたは恵まれているからそんな無責任なことを言えるのよ。  
わかったら出て行きなさい」  
 
想像もしなかった現実が目前にあった。それと同時に、ロイドに言われた言葉を思い出した。  
今の彼女達にとってはカロンこそが正義であり、ここから出そうとするディアナこそが悪なのだ。  
仮に牢を破壊したとしても、彼女達は自らの意志でこの収容所を出ないだろう。  
間違っていると頭ではわかっていても、彼女達を説得するにはディアナはあまりに無力だった。  
 
「理解したかね?」  
 
不意に、背後から声がした。タイミングを計ったかのように、カロンが部屋へ現れる。  
 
「あなたが皆を洗脳するからこんなことに……!」  
「カロン様の悪口を言わないで!」  
 
途端に、獄中の女性達から激しい叱責が飛ぶ。  
自分だけの力ではもうどうしようもない。それを痛感させる声だった。  
ディアナは膝をつき、ただ呆然と目の前の過酷な現実を見つめていた。  
 
「時にお嬢さん。ここを見られてしまったからには君を帰すことはできない」  
「え……?」  
「安心したまえ、乱暴などはしない。こちらへ来なさい」  
 
ディアナは強引に別の隔離された部屋へと連れられ、中へ放り込まれた。  
顔を上げると、純白の髪を首元で束ねた美しい女性が佇んでいた。  
 
「サラ。この子を君にあげよう。堕としてやりなさい」  
「あら……、可愛らしい子」  
 
サラと呼ばれた女性はディアナに近付き、吟味するような目で全身を見回す。  
扉はすぐに閉められ、外から鍵が掛けられた。  
 
「悪いようにはしないわ。こちらへいらっしゃい」  
「……?あの……」  
 
手を引かれベッドに座らせられると、サラはうっとりとした目でディアナを見つめた。  
ディアナは彼女が何をしようとしているのか、よくわからなかった。  
 
「あなた、本当に可愛い。本気で惚れちゃった。ねぇ、私のものになってくれる?」  
「……え?」  
 
有無を言わさず、サラはディアナをベッドに優しく押し倒す。ディアナは未だに事態を把握し切れていない。  
 
「あの?何を?」  
「私、性癖が特殊だから、皆気持ち悪がってこうして隔離されたの……。淋しかったのよ。お願い、ずっと一緒にいて?」  
 
サラの手がディアナの頬へと伸びたかと思うと、ゆっくりと唇を近づけられる。ディアナが驚いて顔を背けると、サラは残念そうに顔を離した。  
 
「あら、キスは駄目?仕方ないわね……。じゃあその分こっちを可愛がってあげる」  
 
彼女はすぐにディアナの胸を肌蹴させ、先端の突起に吸い付いた。巧みに舌を使い、ディアナに甘い刺激を送り込む。  
 
「な!?何を……」  
 
サラはもう片方の胸を撫で回し、先端を優しく摘む。指と指の間で転がしディアナから甘い声を引き出すと、彼女は  
満足そうに微笑んだ。  
 
「やめて、下さい……」  
「いや。私、あなたが欲しいの」  
 
彼女は妖艶な笑みを浮かべ、ディアナの下腹部に手を伸ばす。下着を下ろされ、中を弄られている。  
ディアナはこれから何をされるのか、ようやく理解した。  
 
「いや……!離して……!」  
「離さない。もっと感じさせてあげる」  
 
サラはディアナの秘所に指を滑り込ませ、小さな蕾を指の腹で撫でつける。そのまま優しく何度も往復し、ディアナから  
切なげな声を引き出し続けた。  
 
「んっ!や……っ、あ……!」  
「ふふ、いい声で鳴くのね」  
「お願い、こんな、こと……」  
「こんなこと?それって、こういうこと?」  
 
中に柔らかな指が入り込む感覚を覚えた。彼女は最初からどこを狙えば良いかわかっているかのように、正確に敏感な箇所を  
押し込む。  
 
「ここ、気持ちいいでしょ?」  
「あぁっ……、やだ!離して!」  
 
サラを引き離そうと手に力を篭めるも、彼女は意外に力が強かった。次第に淫らな水音が耳につき始めるが、ディアナは尚も  
抗い続けた。  
 
彼女はその姿でさえも愛しそうな目で見つめ、何度も丁寧に指を擦りつけディアナを絶頂へと導く。  
必死の抵抗も空しく、やがてディアナは限界に達した。  
 
「や、やめっ……!ぁああっ!」  
 
ディアナが声を上げて震えると、サラは妖しげな笑みを浮かべて指を引き抜いた。  
終わったのかと思いきや、彼女はディアナの内腿に顔を埋めた。  
生まれて初めて見るその行動を不思議に思っていると、不意に強い刺激が全身を襲った。  
サラはディアナの小さな花弁を口に含み、丹念に舌で愛撫する。ディアナが高い声を上げると、彼女は嬉しそうな顔で  
唇を離し、更に奥へと舌を忍ばせた。  
 
「あっ……!」  
 
未知なる感覚に、思わず声が上がる。サラが小さく舌を動かすと、それに釣られて更に甘い声が引き出された。  
粘膜が擦れ合う度に、猛烈な快楽が全身を駆け抜ける。ディアナは堪らずに声を上げながら身を捩った。  
 
「やめて!やだ!!」  
「暴れちゃ駄目。もっと良くしてあげるから。」  
 
サラはディアナの太腿を押さえ、更に深くまで舌を差し入れ中を舐め回す。  
自分の中で蠢くねっとりとした彼女の舌が、ディアナの意志に関係なく二度目の絶頂へと追い立てる。  
ディアナは喘ぎながらも引き離そうと彼女の頭に手を置くが、全く力が入らない。  
そうしているうちにも限界は近付き、ディアナはあっさりと果てた。  
 
「もうやめて、お願い……」  
「じゃあ、ずっとここに居てくれる?」  
「それは……」  
 
ディアナが答えを渋ると、彼女は哀しそうな顔で上げ再び指を忍び込ませた。  
触れられたくない箇所を執拗に擦り、ディアナに望む答えを強要する。  
 
「ねぇ、一緒にいて……。私が嫌いなの……?」  
「そ、そんな……、あぁっ!いやぁ!!」  
 
いくら責め立てても首を振る気配を見せないディアナに、彼女は更に哀しそうな表情を浮かべる。  
挿入される指が増え、その動きも激しさを増した。  
 
「これでも……?まだ足りないの……?」  
「あ、ぁ、だめっ!やっ……」  
 
ディアナがもう一度果てるまで指の動きは止まらず、その後も解放される気配は感じられなかった。  
相手は女性。最悪の場合、彼女の体力が続く限りこの行為は続けられる。  
 
魔法を使用して脱出することもできるが、唱えようにもあまりに快楽が邪魔で集中できない。  
 
「わ、わかったから……離して……」  
「私と一緒にいてくれるの?」  
「うん……」  
 
苦肉の策だった。一瞬でも解放されれば、すぐに外へ出るつもりだった。しかし、それも甘い考えであると思い知らされる。  
彼女は嬉しさに目を輝かせ、興奮のあまり再びディアナの胸に吸い付き指の動きを更に速めた。  
 
「い、いやっ……!ああぁぁっ!!」  
「ありがとう、私、嬉しい……!」  
「やだぁっ!離して!!」  
「駄目よ、この程度じゃお礼にもならないわ」  
 
彼女を欺くつもりが、逆に自分の身を苦しめる結果となってしまった。  
胸の突起を舐め回され、いくら果てても執拗に指で中を擦り回される。彼女の感謝の行為は終わりが見えなかった。  
夜が更けた頃、サラは体力を消耗し動かなくなったディアナに気付き、身体を離した。  
 
「ごめんね、疲れた?もう寝ましょうか……」  
 
ディアナは最後の力を振り絞りサラに抱きつくと、耳元で催眠の魔術を囁いた。途端に彼女の身体から力が抜け、ベッドに倒れこむ。ディアナは小さな声で彼女に謝り、乱れた着衣を整えると、風の刃を  
起こして扉を切断し急いで部屋を脱出した。  
連れて来られた道は覚えている。わき目も振らずに収容所の入り口へ向かうと、そこにはロイドが少女と共に佇んでいた。  
 
「あ……」  
「出てくるまで待てと言うから待っていたんだ。気は済んだか?」  
「…………」  
 
誰一人として助け出すことは出来なかった。それどころか、一人の女性を裏切るような行為までしてしまった。  
ディアナは悲しげな表情で俯き、無言で結果を伝える。  
 
「ロイド、ごめんなさい。こんな勝手なことを……」  
「ロイ……ド……?」  
 
ディアナが彼に侘びを入れると、隣で座り込んでいた少女が何かに気付いたように小さく呟く。  
疑いの眼差しを彼に向け、まるで恐れるように口を開いた。  
 
「もしかして……ロイド……総督……?」  
 
ロイドの表情が僅かに変わった。冷たい視線を少女に送り、試すように問い掛ける。  
 
「……だとしたら?」  
 
たちまち、少女の顔が怒りに染まる。  
 
「私の村……、ラストニアに潰されたの……!皆、ラストニアのロイド総督は血も涙もない悪魔だって……!さっきも、  
あんな惨いことを平然と……!」  
「え……?」  
 
一瞬、彼女が何を言っているのかわからなかった。  
何の反応もできずに呆然としているうちにも、少女は泣きながら怒りに任せて捲くし立てる。  
 
「返して!村の皆も……、私のお母さんもお父さんも!」  
 
ロイドは彼女に目を合わせたまま暫らく黙っていたが、やがて目を伏せ謝罪の言葉を口にした。  
 
「……悪かったな」  
「謝って済むとでも……」  
 
威勢のいい声は次第に小さくなり、途切れた。ロイドが剣を抜いたのだ。  
 
「おまえが今生きているのは、俺の詰めが甘かったからだ。両親が恋しいのなら後を追わせてやる」  
「ロイド……!?」  
 
ディアナは慌てて少女に駆け寄り、彼女を抱き締めた。  
彼女は怒りと恐怖に震え、涙を目に湛えながら怯えている。  
 
「ディアナ、邪魔だ。退け」  
「いや!」  
 
悲痛な叫びがこだました。誰一人助けられなかったのだ。せめて少女一人だけでも自由の身にしたかった。  
 
「……──して」  
 
そう思いを巡らせているうちに、胸の中から小さな声が聞こえた。  
 
「どうして……こんな人と一緒にいるの……」  
「…………!」  
「あなたも仲間なんでしょ!?離して!!」  
 
今離せば、間違いなくロイドに殺されてしまう。  
ディアナは小さな声で謝りながらも、強く彼女を抱き締めた。  
 
「そいつを野放しにすれば助けを呼ばれる。すぐに始末しなければならない類の人間だ」  
「それでも駄目!私がずっと見てるから、お願い!」  
「ディアナ……!」  
 
苛立った声で名を呼ばれても、決して少女を離さなかった。  
やがて、ロイドは諦めたように剣を収め、二人を置いて元来た道を戻り始めた。  
 
「勝手にしろ。ここを出るぞ」  
 
ディアナはやるせない気持ちで彼の背を見つめた。少女の話を聞きながら、気付いてしまったのだ。  
もし自分が彼女の立場だったならば、ロイドに当たる人間が一体誰なのか。  
彼を慕う自分に、親の仇を憎む資格が果たしてあるのか……  
 
ディアナは少女を立たせ、手を引いて彼の後についた。  
天と地を分かつように、重い扉が音を立てて閉じられた。  
 
 

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