暗黒の中で智花(ともか)はじっと息をひそめていた。もう真夜中の3時過ぎであろうか。1日のあ
まりの出来事に目がさえてまんじりともできなかった。数十分前に懐中電灯を掲げた看護婦が巡回に
やってきたがその時は、目を閉じてスースーと寝息を真似て狸寝入りをしていた。
(逃げ出さなくちゃ……ぜ、絶対に逃げ出さなくちゃ!)
少女は小さな手の平を握り締めベッドの中で丸くなりながら、思いつめたように何度も繰り返した。
順健大学附属中学の奉仕特待生になってから、まだ24時間の時間は経過していなかった。
両親が運転する車がトラックと正面衝突をしてしまい。両親が他界したのは1週間前の出来事であ
る。両親は駆け落ち同然で家から飛び出し結婚しており、両家から勘当されていた。智花の唯一の肉
親は中学2年生になったばかりの優しく誰よりも心許せる双子の兄だけであった。しかし、その兄は
今だ集中治療室で昏睡状態である。
決して裕福でなかった家計で育った智花にとって、収入源の両親を失っており、兄の莫大な治療費
を払うことは困難であった。さらに、両親が起こした事故の過失は両親側にあり保険金などはスズメ
の涙程度であった。それも兄の治療費としてすぐに消えていくことが明白であった。
病院側が兄の治療を続けることの交換条件として提示した条件は、智花が医療発展のために奉仕特
待生として病院に奉仕し隷属することであった。
兄が助けられるのならと智花はその条件に二つ返事で了承した。
それが正確には昨日の午前の話であった。それから12時間とちょっとの時間に智花は今まで体験し
たどの恥ずかしさ微笑ましく思えるような強い羞恥と屈辱感にさいなまれた。
智花の担当医として紹介されたのは釜蛙のような醜く肥った中年男性医師であった。身体検査をす
るために全裸にされただけでなく、おしっこの穴にもウンチの穴にも恥ずかしい管を入れたり、病棟
内の患者の前を全裸で連れまわされ、たくさんの研修医や看護学生の手によって死にたくなるほど恥
ずかしい各種検査をされていた。
そして、現在の暗闇に覆われ視界が奪われたベッド内では、臀部を覆うカサカサとした無機質な感
触をいやがおうにも強く体感してしまっていた。屈辱感に先ほどまで枕を濡らしていた。
(お、オムツだなんて……絶対、絶対にいやぁ!……)
思春期を迎え自我の確立を目指し始めた少女にとって、基本的欲求でもある排泄が自立できていな
い象徴であるオムツは許容できるファッションではなかった。そして首には家畜の象徴である首輪が
施錠されていた。測ったように智花にピッタリな首輪は圧迫感を与えていた。それは首輪を締められ
て息苦しいとかの圧迫感ではなく、人間以外の下級な愛玩動物に身分を貶められた気分がしていた。
「中学2年生にしては大きすぎて生意気ね」と受け持ち看護学生に言われた自慢の胸が押し潰される
ような圧迫感であった。
智花は耳を澄ませて病棟内の気配を探った。看護婦たちの深夜の巡回は終わったのかシーンと静ま
り返っていることを確認すると、ベッドからそっと抜け出した。真っ暗な部屋は窓から差し込む満月
の蒼い光彩で仄暗く室内を観察することができた。
しかし、少女が探した普通の衣服はどこにもなかった。全てナースステーションに管理されている。
彼女に許されたのは山のように積まれている紙オムツと乳幼児を彷彿させる幼稚なデザインのオムツ
カバーだけであった。それも自分の意思で取り替えることは禁止されている。4時ごろに尿道カテーテ
ルをされた後は12時間近くも我慢しており、切迫した尿意に襲われていたが、智花が12年間培って
きた矜持が排尿欲にぎりぎり勝っていた。
(こ、このままで逃げるしかないのね……)
智花は意を決した。彼女は順健病院から逃げ出すつもりであった。どこへ行こうというあてはなかっ
たが、羞恥地獄のようなこの病院から脱出できるならどこでも良かった。彼女はゆっくりとドアノブに
手を掛けると細心の注意を払ってゆっくりと開けた。
廊下に出ると最小限の灯りでしか照らされおらず、夜の病院を不気味に演出していた。智花は音を立
てないように四つん這い姿で廊下を這った。支給された上着から捲れたお尻の頂点のオムツカバーから
は智花の名前をアップリケされている。四つん這いでゴム毬のように丸々としたお尻を揺らしながら歩
く姿は容易にあるものを連想できた……
(これじゃあ、まるで赤ちゃんのハイハイだわ……)
智花は自分の行った行動の恥ずかしさに一人で頬を染め上げながら、ゆっくりと立ち上がった。
裸足からは冷たい廊下の感覚が伝わってくる。足の裏の皮膚とリノリウムの床がペタペタという音を
鳴らしドキッとした。智花の心臓は奉仕特待生になってから早鐘のようになっており、心臓の音さえ聞
こえるのではないかと不安になっていた。
しかし、それでも幸運なことに智花は誰にも見つかることなく非常階段まで辿り付くことができた。
逸る気持ちを宥めながら智花は非常階段の扉を開け、非常階段を駆け下り芝生の優しい感触に触れる
ことができた。
(や、やったー!!)
智花は胸をドキドキさせながら周囲を見回した。兄の居る病棟の方に視線が止まったが、きっと助け
に来ることを誓った。警察に駆け込んで保護を願ったら自分も含めて兄も助けられるかもしれないと思
った。何はともあれ脱出の第一段階は成功したのである。後は病院の敷地の門からこっそり抜け出すつ
もりであった。恥ずかしいがまたハイハイを守衛の目を誤魔化せると考えていた。
手入れの行き届いた病院の西洋庭園の木々に隠れながら門を塀伝いに移動した。門の高さは5メート
ルはゆうにあり飛び越えることは初めから考えていなかった。門の入り口に守衛室が設けられているの
を何度も兄のお見舞いで確認していた。そこを身を屈めて抜けるだけだと智花は思っていた。
智花は外に抜け出せば、交番に逃げ込めばきっと助けられると盲目的に考えていた。しかし、実際は
病院を利用する患者の中には警察関係者もいる。彼らはこの病院の奉仕特待生システムを理解して社会
的に容認されていることを少女は考えていなかった。それでも、彼女にとって今は門を潜り抜け病院敷
地内から逃げることに頭を支配されていた。
「きゃあ!?……」
門に二メートルほど近づいた途端、智花は首に強烈な衝撃を感じて思わず尻餅をついた。智花に嵌め
られている首輪には特殊な器具が取り込まれ、私立順健病院や学校の敷地内から抜け出そうとすると電
流が流れる仕組みになっていた。少女は感電してしまったのだ。
――ジリジリジリーーーン!!
尻餅をついた少女の首輪から耳を押さえたくなるほどのけたたましい警報音が鳴り響いた。すぐさま
に門の守衛室に詰めていた3人の守衛が飛び出してきて小柄な智花を取り押さえた。
「ひぃ、やあぁっ!……」
「こいつめ、逃げようとはイイ神経してるぜ」
初老の男が智花を取り押さえるどさくさにまぎれてノーブラの乳房を揉み扱く。散々昼間に乳房を
検査の名のもとに性的虐待を受けてきた記憶が甦ってきた。第二次性徴から性に興味を抱く時期は智花
は他の級友より早かったが、それだけに思い描いていた甘い恋愛の性とは、無縁の治療の事務的な中に
医師を筆頭に大人たちの不純な瞳の輝きに彼女は性に対して恐怖感を植え付けられていた。
「いやあああ、触らないでぇ!!」
「いったい何時だと思ってんだ」
――パシーン!
「きゃあ!」
「煩くするなら、静かになるまで叩くぞ」
「や、やめてください……」
「静かにするか?」
「……は、はい……」
リーダー格の守衛が智花の胸を触っていた初老の男を横にどかせると頬に平手打ちを行った。智花は
逃げたかったが逃げ出すことができなかった。脚はワナワナと震えて立ち上がることができなかったの
だ。生まれて初めて体験するビンタと言う暴力に屈してしまい男の命令に従い震える唇を噛み締めた。
リーダー格の守衛は鳴り響く首輪に小さな機械を押し与えるとピタリと音を停めた。そして、再度、
立ち上がると残った二人の守衛で智花を囲むように立ちはだかった。取り押さえられた時に、オムツカ
バーの結び目が解け、紙オムツが露出していた。
男たちが持つ懐中電灯で照らす光が集中している場所を悟って、少女は脱走に失敗しただけでなく、
もう一つ、取り返しのつかない失態を犯したことに気がついた。
「はははは……こいつションベンを漏らしているじゃないか」
「奉仕特待生はほとんど夜尿症になるって話ですよ。夕食後から朝までオムツ交換なしですからね」
「しかし、逃亡が奉仕特待生でどれくらいの懲罰が与えられるか知らないわけでもないだろうに」
「この顔は新顔ですよ。一月前の入学式で奉仕特待生になった中には居ませんでしたよ。今年の奉仕特
待生の中では、高校生にはまったく見えなかったすずなんとかと言った名前の小さな娘が一番ロリっぽ
くて可愛かったですからね。こんな可愛い子が居たのなら覚えてますよ」
「確かにこの脱走者もお人形のように愛らしい顔をしているな。年齢は小中学生っぽいが少し大人びた
生意気そうなところが表情に良く滲んでいる」
大人たちの見下すような視線と雑談に智花は、オムツの無機質な生地から感じるジメジメした気持ち
悪い感覚と言いようのない敗北感を味わっていた。少女は感電した瞬間に耐えていた排尿を尿道から溢
れさせてしまっていた。高まりに高まっていた排尿感は彼女の心に体験したことのない爽快感を与えて
いた。智花が尻餅をついた後にすぐに逃げ出せなかったのはそのためである。
だが、今では我慢していた放尿は全部排泄され、残ったのはオムツの気持ち悪い感触とお漏らしをし
てしまった痕跡を残した紙オムツだけであった。そして、物心がついて初めての失禁という彼女が育ん
できた人間性を瓦解させるような事実だけであった。
「ほら、起きろ! さっさと病院に入るんだ」
起き上がらされ左右を守衛に囲まれ、病院の内部に連れ戻された智花が見たのは担当医である蛭間医
師であった。深夜も担当だったのか昼間以上に脂ぎった赤ら顔と薄い髪がだらしなく乱れていた。そし
て、その周りには白衣を着た2人の若い医師が興味深そうな視線を送っていた。
「逃げ出そうとはイイ度胸だな」
「……」
「返事もなしか、まぁ、お前と双子の兄の治療はこれで終わりだな」
蛭間の口を歪めて残忍さと皮肉の混じった口調に、智花は慌てて言葉を発した。
「に、逃げません……も、もう逃げませんから……治療をやめないでください……」
「お前と儂の人間関係は築く前に壊されたわけだ。逃げないと言っても信じられんな。奉仕特待生の件
はなかったことにして、双子揃って病院から出て行くんだな」
蛭間は罪人の哀願に耳を貸そうともせずに非情な宣告を行った。智花はもちろん行く所はないが、意
識不明で集中治療を行っている兄を病院から連れ出すことは死を宣告するのと同じように考えられた。
少女は改めて自分の浅はかな行為を心から呪い、目の前の醜悪な男に駆け寄り縋りつくように哀願を行
った。
「先生、もう絶対に逃げません……で、ですから、兄弟ともに病院に置いておいてください……」
でっぷりとした腹に縋りつき、清純な瞳を潤ませている少女には愛らしさを感じた。しかし、それを
微塵でも智花に感じさせることなく、中年男は威圧的な態度を取り続けた。
「1回失った信頼は回復するのに時間がかかるんだ。医師と患者間に信頼関係が築けないと良い医療が
提供できないのはわかるな?」
「わ、わかります……」
智花は男が何を言いたいのか意図は汲めなかったが、質問の内容は理解できたので返答した。
「だから、奉仕特待生と医師との信頼関係が今回の逃亡未遂のように途切れた時は、修復期間として
奉仕特待生を5年間延長させる懲罰を行うことができるんだ」
「そ、そんな……」
「5年間の延長が嫌なら、今ここで奉仕特待生を辞めるんだな。まぁ、智花は編入したばかりで制度を
知らなかったことを考慮して、今回は3年間の延長で許してやってもいいぞ」
「さ、3年の延長で許しくてください……」
智花は縋る気持ちで緩和された条件に飛びついた。それを見た蛭間はいっそう口の端を意地悪く歪め
て冷笑を浮かべた。少女は肌で中年男が陰湿な性格の持ち主で虐めていることを感じていた。彼女は男
の笑みに蛭間が智花に勝利した征服感から来る笑みだと感じていたが、違っていることがこの後の会話
によって知ることができた。
「それなら、3年の延長で許してやろう。しかし、どこで3年を延長したら良いと思う?」
「わ、わかりません……」
智花は素直な感想を口に出した。
「奉仕特待生の生の字は、生徒、学生、院生など学習期間に属している時間の総称だ。智花はこれから
中学校を卒業した後は、高校、大学、場合によっては大学院まで通って貰うことになるが、どこで3年
も就学時間を延長する期間があるんだ?」
「あ、ありません……」
「それならどこで3年間を延ばしたら良いか教えて欲しいか?」
「……は、はい」
蛭間に矢継ぎ早に質問され智花は男が考えている袋小路に追いやられていった。少女も心のどこかに
言い知れない不安を感じ始めていたが、どうにも対処方法を持っていなかった。
「フフフ、3年間伸ばせないんだったら、今の学年から3年分を引いたら良いんだよ」
「……え!?」
(3年間引くって、まさか、中学2年生から3学年引くってこと……)
智花は男の答えに小さな悲鳴をあげた。蛭間はそのアニメチックな幼い声音を聞きながら彼女が予想
した答えを具体的に言葉にした。
「今が中学2年生のはじまったばかりだから、中学1年生の課程を修了したところから、3学年引くと
小学5年生になるということだな」
「そ、そんな!?……」
智花は顔面蒼白になって蛭間の宣告に悲鳴をあげた。3学年どころか4学年下げるように細工されて
いることにまでパニック状態の彼女には気がつくことができなかった。
(も、もう一度……しょ、小学5年生からやるなんてできないわ……)
少女が不平を言うために口を開くより早く、蛭間が奉仕特待生の弱みを的確に突いて来た。
「小学5年生が嫌なら、何度も言わなくてもわかっているな?」
「…………」
「黙ってないで、答えるんだ」
「……は、はい。わ、わかっています」
「何がどのようにわかっているんだ?」
「きょ、拒否したら、病院に兄弟ともに置いて貰えないこと……です」
「置いて貰うためにはどうすればいいんだ?」
「ゆ、許してください……も、もう逃げませんから……」
「駄目だ。校則で脱走未遂者には5年まで在学年数を延ばすことができるようになっているんだ。泣い
ていないで答えるんだ」
智花は肩を震わせて啜り泣きながら、花びらのような唇を何度もパクパクさせていた。声が続かない
のはなかなか意志が決定しないからであろう。大人の庇護のもと大切に育てられ思春期の少女の高くは
ぐくんできた鼻っ柱をへし折るのは、天使の羽を毟り取るような禁忌的な黒い快感を沸き起こす。
ヒックヒックと華奢な身体全体を揺らしながら、前にばかり目を向けて大人になろうとする思春期の
少女は瑞々しい唇から、綺麗な言葉ばかりを紡いできた言の葉の螺旋を高く儚い声で奏でた。
「あ、ああ……わ、私をしょ、小学校……小学校5年生にしてください……小学5年生になって、も、
もう二度と逃亡なんてしませんから……びょ、病院に置いてください……」
守衛を仕事に戻らせた蛭間は当直の診察室に若い医師二人を従えて智花と戻ってきて、逃亡動機につい
て詰問されていた。当直勤務だった彼らは暇があったのだ。
「それじゃあ、智花ちゃんはオムツが嫌だったんだね」
「……」
若い医師の確認に智花は涙を両手で拭きながら何度も頷いた。
「ふー、それでは智花にはとうぶんパンティを穿かせてやろうか、本人が穿きたくない物を穿かせるのも
いくら奉仕特待生とは言え酷な話だ。なーに、智花の担当医は儂だから少々の融通は利くんだ」
蛭間や若い医師は診察室に帰ってくると優しかった。智花は自分の気持ちを察してくれていると感じて
よりいっそうに涙が目頭から溢れてきていた。
「それなら、君、小児科のナースステーションに行って小児用のパンティを貰ってきてくれ」
「え? 僕がですか?」
「そうだ。研修医の君だよ」
明らかに蛭間に指示された若い医師は、名残惜しそうに診療室から出て行った。
「さて、パンティが来る前にお漏らしをしたオムツを脱がしてあげよう。そこの診察台に横になるんだ」
智花は蛭間の指示を受け、残ったもう1人の研修医に促されるように診察台に横たわった。
診察台に横になると大人たちから覗き込まれるように見下ろされ恐怖心を感じてしまう。オムツに蛭間
の手が伸びると、ビクッと身体が震えてしまうが智花は拒絶しなかった。絶対に逃げられない自分の立場
と言う物が、逃げ出したい拒否したいと言う心を無理やり押さえ込んでいた。
「いっぱい出ているようだな」
「そ、そんなこと言わないでください……」
紙オムツを開かれた智花は両手で顔を覆い隠した。きっと、紙オムツは黄色の染みができているはずで
ある。半日ほど我慢していた小水はオムツをずっしりとお尻に垂れ下がっていた。それでもギャザーなど
の横漏れ対策はしっかりしていたため、余すことなく紙オムツの中に排泄物は収納されたことになる。
それを証拠に彼女の鼻腔には手で覆った防壁を越えて、アンモニア臭が漂ってくる。
「智花は小学生になるんだよな」
「…………」
「質問には確りと答えられるようにならないと小学生でも進級させないぞ。そうなったら、また奉仕特待
生でいる時間が長くなるだけだぞ」
蛭間は強めな口調で少女が羞恥から覆い隠していた両手を払いのけた。曝け出された智花の顔は息を呑む
ほど儚くて愛くるしい。二重でキラキラと潤んだ黒目がちな瞳は子猫を思わせるが、子猫らしい好奇心など
は翳を潜め変わりに羞恥と恐怖の色を色濃く宿している。ややほっそりとした頬にもっと子供らしい肉がつ
いていたら幼児性を強調できると中年男は思った。しかし、小顔をシャープな輪郭がロリータの中にほんの
りと年不相応な色香を漂わしていた。大人っぽくも見えるし子供っぽくも見える少女に蛭間は確認を取るよ
うに再度質問をした。
「智花は小学生なんだな?」
「は、はい」
智花は口惜しそうに表情を曇らせる。瞳は注目される恥ずかしさから逃れるように長い睫毛を閉じ合わせ
た。目を閉じることで智花はオムツを取られた不快感が強調され、秘部を大人たちに晒したままの姿である
を強く意識した。
「小学生にとって、本来はないはずのいらないものが生えているな」
「そうですね。小学生の智花ちゃんにはツルツルの方が似合っていると思います」
「と、こちらの研修医の先生も言っているが、智花はどう思う? 小学生で陰毛が生えていたら小学校でも
虐めにあったら可哀想だから剃毛をしてやろう」
「い、いいです……や、やめてください……」
「駄目だ。中学生の少女が小学生の児童になるんだから、小学生の身体になっておく必要があるだろう。智
花の場合は、ただの小学生よりも小学生らしくなる必要があるんだ。5年生の児童たちが中学生と感づかな
いように4年生や3年生、いや、幼稚園児と思わせるような奉仕特待生になる必要があるな」
「そ、そんな……」
「まあ、儂は若返りの研究をしてるからちょうど良い研究材料になってくれたわけだ」
「蛭間先生、剃毛の用意をしてきました」
いつのまにか若い医師がトレイに物品を持って帰ってきた。
「君はそういうところが良く気が利くから残したんだよ」
「ありがとうございます」
若い医師は礼儀正しく腰を曲げると、用意してきたトレイを中年男に渡した。
「や、やだぁ……」
診察台から起き上がろうとした智花は、その若い気の利く医師に上半身と大腿を抑えられた。智花は
突然股間に襲ってきた生暖かいザラつきに悲鳴をあげた。
「ひゃあ!……」
「恥ずかしい声を出しおって」
「ち、違う……くふぅ……」
蛭間の指摘に智花は頬を染めながら首を左右に振り乱した。長く艶やかな髪の毛が診察台に広がり、
床に向かって幾筋もの束となって流れていった。診察室のライトを反射して光沢のある美しい黒髪であ
る。それは、蛭間がシェイピングクリームを塗り残した恥丘にも同じことで、少女の陰毛は風になびき
そうな柔らかい繊毛の草原があった。
中年男は完全に陰毛全体を泡で覆い隠した。その際、繊細な泡のついた毛羽でクリトリスや陰裂の割
れ目をなぞり、少女に淫靡な刺激を与えていた。
「これからは動くなよ。動くと違うところも切れてしまうぞ」
「智花ちゃんも剃毛されるところを確りと見るんだよ。きっと、永久脱毛されちゃうから、見納めだよ」
「え、永久脱毛?……」
嘘っというように智花は目を見開いた。股間にゾーリゲンの大きい剃刀が近づく、若い医師は大腿を
抑制していた手をどけて、少女の両手を万歳させるように掴みあげていた。そのため、彼女には少し上
半身を挙げるだけで眼下に自分の曝け出された秘密の場所を見ることができた。
「小学5年生なら陰毛の発毛は早いだろうから、永久脱毛をするぞ。なーに、二度と生えてこないから
手入れをしなくても住むんだぞ。それに50人に1人くらいで恥丘が無毛症な女の子はいるんだ。恥ず
かしがることはないぞ」
「や、やだぁ……や、やめてぇ……」
智花は弱々しく哀切することが唯一の抵抗であった。ライトに照らされて妖しく煌めく剃刀の刃に恐
怖心を抱いた少女は身体を硬直させてされるがままであった。もともと薄かった陰毛が全て姿を消すま
で然したる時間はかからなかった。大陰唇と鼠蹊部の間などに生えた産毛まで見事に刈り取られた。
「明日に電気レーザーで首以下の毛はすべて永久脱毛をしてやるからな」
「あ、あうぅ……ひ、ひどいわ……」
智花は泡と陰毛を洗い流され、童女のように翳りがまったくないツルツルの陰部を悲しそうに見詰め
た。陰毛は生え初めこそ恥ずかしかったが、今では彼女になくてはならないパーツの一部であった。陰
毛が生え揃うことで大人の女性になれる気さえしていた智花にとって、剃毛によって左右の大陰唇の肉
饅頭の割れ目だけでなく、小陰唇の鮮やかなピンク色まで容易に観察できるようになった女性器は屈辱
以外に何物でもなかった。
「さて、次はオムツを穿きたくないと智花は言っているようだが、パンティを穿くには一つ条件を出す
ぞ。嫌なら、オムツをこれからも奉仕特待生の間はずっと穿いて生活して貰うだけだ」
「……わ、わかったわ。何でも言うこと聞くから……」
智花は少し投げやりな気持ちになっていた。返答もおざなりになってしまった。それでも、医師たち
はそのことには咎めなかった。
少女にとって剃毛されたショックは強かった。小学生になることを誓わされ、剃毛され、永久脱毛も
きっとされるであろう。さらにオムツの生活は多感な大人に幻想を抱く少女にとって受け入れがたかっ
た。どんな交換条件でも飲むつもりであった。
「そうか、それなら、1本の注射をさせて貰うぞ。ちょっと痛い注射だが、これをすれば数年間は注射
の効果が持続されるから、オムツは智花から『オムツを穿かせてください』とお願いできるまではパン
ティを穿くことを許可しよう」
「そ、そんな恥ずかしいことは絶対に言いませんから、注射をしてください……」
智花は蛭間の物言いにちょっとムッとして表情を強張らせながら言い返した。さっき投げやりになっ
た気持ちは治まったのか、言葉使いがもとに戻っていた。
その言葉を聞いて蛭間は背筋まで冷たくなりそうな冷笑を浮かべて、注射器の用意をした。小さなア
ンプルから薬液を使い捨ての注射器に取り上げると少女の元に戻ってきた。
「抑えておいてくれ」
「はい。わかりました」
「きゃあっ!」
診察台から起き上がって腕を差し出そうとした智花は再び診察台に横倒しにされた。しかも、今回は
若い医師が智花のちょっと幼児体系を残したお腹の上に馬乗りとなり、大腿を大きくM字に開き、その
上に両手で体重をかけた。
非力な少女は大の大人に本気で抑制され、身動きが取れなかった。
「ど、どこに注射をするんですか?」
「尿道の括約筋だ。排尿感系で随意筋肉はここだけだからな」
「や、やめてぇ!……」
「やめてもいいが、オムツ生活で良いのか?」
「や、やだぁ!……」
「じゃあ、少し我慢するんだ」
「ひぃ!……く、くう……せ、先生……は、はやくぅ……」
智花は小陰唇ごと開かれると陰裂の真ん中に鋭い疼痛を感じた。刺された場所が場所だけに普段より
も痛く感じた。蛭間が刺した場所は尿道から1センチ未満ほど離れた場所であった。
「よし、終わったぞ」
すぐさま馬乗りになっていた抑制を解かれた智花は診察台の上でぐったりと横たわっていた。
程なくして、深夜の廊下を走る音が聞こえ、追い出されていた研修医が真っ白いパンティを手に握り
締めて帰ってきた。
智花のお尻の下にはすっかりと冷えた紙オムツが解かれたままで置かれていた。もう、これを穿く思
いをしなてくも良いのかと思うと少しだけ嬉しかった。
これから本当の羞恥に満ち溢れた奉仕特待生生活が始まったばかりだと言うことに智花は朧げに思う
だけで、心の底から認知するまでには至っていなかった。
病院の外では満月が恥ずかしそうに雲に隠れていき、闇夜をいっそう深いものと染め上げていった。
……続く。