「ねえ、本当にしちゃうんだね。」
彼にいささかきつく、荒々しい感じで抱き締められながら、私は呟く。
「えっ」
呼吸の乱れた彼は、何を言い出すのか、まさかここで拒むのかと私を見る。
「やっぱり、いつかはこんな風になるのかなと思っていたよ。少し遠かったね」
私からも腕を伸ばし、彼の体を抱き締め返す。
「もう…何を言い出すのかと思ったよ」
ほっと安堵したように私の耳元で言う。
その温かくて、柔らかい声に私はぼうっと熱くなる。
「遠かったって、会ってから随分経ったねってこと?」
「うん…」
余り喋ることができない。
耳元でそんなに優しく囁かないで。
「そうだね…7年経つもんね」
「ななねん」
鸚鵡返し。
「僕はこうなるとは思っていなかったなあ」
「そうなの?」
一度体を離して、私は聞き返してみる。
気持ちよくて頭が働かない。
「ただの言葉遊びをたまにするだけだと、思った?」
私たちは花占いのように「スキ」「キライ」を交互に言い合って遊ぶことがあった。
「何だろう…そうじゃない、けど、実際にこうして」
彼は私を抱き締める。
「こんなことできると思わなかった」
「私から始めなければ」
「ずっとそのままだったかも」
なんだか少し悲しくなったかも。
痴女か私は。
「う、ごめん。」
据え膳食わぬは男の恥、を実践してくれただけなのだ。
本当にごめんなさい。
手を離してその場にうずくまる。
一人勘違いしていた恥ずかしさ、悲しさが相まってこのままお湯に溶けてしまいたい。
頭を抱えていた私の前に彼もしゃがむ。
「欲しがっているのは君だけじゃないよ」
「僕も君が欲しいんだ」
ふわりと掛けられた言葉に心が痺れる。
本当の事を言っているのかな?と少し思ったけれど、その言葉の甘さに肩を寄せてしまおう。
狡いんだ、2人とも。
掛かる髪ごと両頬を捉えられ、近くなる肌色をぼやけたまま見つめた。
触れる唇が柔らかく、ああこの人慣れている、などとつまらないことを考えた。
今は昔の時間に捕らわれるべきじゃない。
ゆっくりと、互いの唇が馴染むように。
伝わる体温は暖かい、ずうっとキスだけしていたい。
キスは気持ちが良くて、満たされるから大好き。
「唇、柔らかいね」と彼に言われた。
「どこも柔らかくて大好き。」
こなれた言葉が狡いよ。
そして単純な私。
お湯とあなたの肌、同じ温度で私に馴染むんだもの。