真っ暗な闇の中、僕は震える手でゆっくり彼女の裸体に触れていく。  
肌が触れあった瞬間は互いにぴくりと反応し、思わず固まってしまった。  
それでも今、僕らは自分の身体を許し合っているという事実が僕をその先に進ませた。  
手探りで彼女の身体を責めていくと一際柔らかい場所に指が触れる。  
 
「はぁ、んっ……」  
 
彼女が反応したのを頼りに、その場所をひたすら弄くる。とても柔らかな其処がいわゆる乳房だと気付いた時は僕はもう夢中で彼女の胸を揉みしだいていた。  
 
「んぁ、はぁぁ、あうぅん、ひぁ……あっ、くぅ、あぁぁぁ!?」  
 
闇の中、彼女の声だけが響き、僕の興奮は最高潮に高まっていく。  
 
 
凍り付くような静寂の中、彼の指が恐る恐る手探りで私の身体に触れてくる。  
煌々と明るい部屋で裸体を晒す私は恥ずかしさでいっぱいになる。心臓が痛いくらいバクバク鳴っていて、今すぐ逃げ出したくなるほどだった。  
彼の指が肌に触れた瞬間、私はびくりと震え彼もまた動きを止める。しかし彼は目を閉じたままの顔をきっと引き締めると再びその手を伸ばしてきた。  
目の見えない彼の手つきはぎこちなく、だからこそ優しかった。そのゆったりとした責めに私はじわじわ昂らされていく。  
やがてその手が私の胸に触れると、彼はそこを重点的に責めてきた。執拗に揉みしだかれる胸責めは今の私には強烈過ぎた。  
 
「〜〜っ!」  
 
口はだらしなく開き、喉が震えている。聞こえないけどきっと私はいっぱい感じた声を上げてしまってて、しかも彼にそれを聞かれてしまっているのだろう。  
恥ずかしさでいっぱいになりながら、私はちらっと彼の顔を盗み見た。  
目の前には真っ赤になって必死に私を愛嘸する彼の顔があった。それを見た途端、私はなんだかその顔がとても愛おしく思えて、そっと彼の胸に手を添えた。  
 
とんとんっ、と胸を軽く衝かれる。それぞれ目と耳が不自由な僕らは互いに言葉を交わす事が出来ない。だから僕らは身体に触れる事で二人だけに通じるサインを決めていた。  
三本指で軽く二回、それは「ちょっと待って」という合図だ。  
僕は慌てて夢中になっていた手を止めた。闇の中、ゴソゴソと彼女が動く気配がしたかと思うと、唐突に下半身に生暖かい感覚が生まれる。  
 
「あぅ、うあぁ?」  
「はむ、ちゅ、んぅ……ちゅば、ぺろ」  
 
水音を立てる生暖かい感覚は僕のペニスから湧いているらしい。不快なものでは無い。むしろ今まで味わった事の無い快感だった。  
時々固いものが当たるけど……。  
そこで僕ははたと気付いた。これは歯……か?じゃあ生暖かいものは……舌?  
 
「や、やめ……」  
 
驚いた僕は慌てて制止の声を上げるが、彼女の耳には届かない。彼女がどこにいるのか見えず、腰が抜けそうな快感に晒され動けない僕は、掴んで止める事もできずにされるがままになっていた。  
 
「うあ……で、出ちゃ……う……あぁっ!」  
「んぅっ!?」  
 
背筋が抜けるかのような射精感が通りすぎ、僕は彼女の口に思い切り出してしまっていた。彼女は驚愕の声と共に派手に咳き込む。  
 
「げほっ、えほっ、ごほっ!」  
「ご、ごめん!大丈夫!?」  
 
その声を聞いた途端、罪悪感が襲ってくる。目の見えない事が恐怖となる。目の前に彼女がいて、自分のせいで苦しんでいるのに、それを見る事すらできないなんて……!  
僕は必死に手探りで彼女を探し回った。  
だが手に当たる感触はベッドのシーツ以外何もなく、代わりに僕の左頬にそっと触れるものがあった。  
彼女の手だ。それはそのまま二回、僕の頬を優しく撫でてきた。「大丈夫」のサイン。それを僕に伝えると、彼女は肩に手を置き体重をかけてくる。  
ぽすっという音をたて、僕はベッドに押し倒されていた。  
 
不意討ちに近い形で押した彼の身体はあっさりベッドに横たわった。素早く彼の身体の上に跨がり騎乗位の体勢をとる。  
困惑した表情で見上げてくる彼の手を取ると、私はそれを彼の胸元に持っていった。そのまま自分の手を彼の手に重ねて、「私にまかせて」とサインを送った。  
彼の物を見ると一度射精したにも関わらず全く固さを失っていない。口に含んだ時にも思ったが、その外見はとてもグロテスクだ。しかしそれも彼の物だと思えば不思議と怖さはなくなってくる。  
私は怒張したそれに手を添え、すでにグショグショになっている秘部へとあてがった。先端が触れ合い、その刺激に思わず小さく喉を鳴らしてしまう。  
 
「――ッ」  
 
いよいよだな、と思った。正直言えば少し怖かった。心臓はさっきから破裂しそうにバクバク鳴っている。  
でも目の見えない彼の方からしてもらう事はできないし、それに怖くはあっても逃げ出したいとは思わなかった。それは多分、目の前の彼も同じ気持ちだと確信してるからだろう。  
私は意を決し、途中で躊躇わないよう一気に腰を落とした。  
 
「ッ!〜〜ッ!!」  
 
ずん!という衝撃と共に激痛が身体を駆け巡った。お腹の奥でミチリと何かが破れる感覚がする。  
必死に歯をくいしばってその痛みに耐えていた私は眼下に見える彼の顔に思わず目を止めた。  
 
(なんて顔……)  
 
今まで私が見た事もない、悲痛な、そして不安そうな顔だった。  
 
(……私のせい?)  
 
自分の耳に届かなくても、私は今きっと苦痛の悲鳴を上げてしまっているのだろう。私の身を案じる彼がこんな顔をするのも無理のない事だった。  
私は痛みを押し留めながら、彼の左頬にゆっくり手を伸ばし、何度も何度も「大丈夫」のサインを送った。自分でもやり過ぎなくらい執拗に。  
とにかく彼に苦しんでいると思われるのだけは嫌だった。あなたとのこの行為に私が苦しむ事なんて何もない、この痛みさえ愛おしいのだと伝えたかった。  
すると頬に伸ばした手がぐいっと引かれ、私は彼と繋がったまま、彼の胸の中に倒れ込んだ。彼の腕が背中に回され、強く抱きしめられる。大好きな人の匂いが鼻腔いっぱいに広がり私はくらくらと陶酔してしまう。  
ぼーっとしている私に彼は顔を近付けると探り当てるように口づけした。入り込んでくる舌の熱さに私は秘部の痛みも忘れ、同じように舌先で彼の口腔内を味わう。脳がとろけそうな感覚に二人とも貪るようにキスを続けた。  
それで私は彼にも私の気持ちが伝わっていると理解した。  
どれほどそうしていたのか。気がつくと秘部の痛みは薄れ、代わりにむずむずした感覚がそこに生まれていた。  
 
(やぁっ、何?身体が、熱くなって……)  
 
未知の感覚に私はモジモジと身体を揺すっていたが、つい我慢できなくなって少しだけ腰を動かしてみた。  
「ッ!?」  
 
瞬間、私は声を漏らして喘いだ。さっき胸を弄られた時とは比べ物にならないほどの快楽が襲ってくる。  
 
(や、すごぉ……い、こんな、私、初めてなのに。ふぁ、やだ……わ、私……自分から……)  
 
涙と嬌声にまみれながら私は自ら腰を振っていた。自分の浅ましさに顔が熱くなる。それでも私の動きは止まらない。恥ずかしくてたまらないのに、身体は勝手に動いてしまう。  
 
(あぁ……こんな、ダメなのに……。でも、気持ちいい、気持ちいいよぉ!)  
 
私は自分の喉が微かに掠れているのを感じ、よほどの声を上げている事を知った。それでも彼は先程のように止めたり私を気遣うような素振りは見せない。それどころか自らも腰を使い出し、一層私の事を責め立ててきた。  
 
「ッ!?〜!〜〜ッ!!」  
(あぁ!ダメぇ!こ、こんな激しいのぉ!……すごくて、もう……飛んじゃう!アタマん中飛んじゃうよぉ!!)  
 
彼の態度の変化を疑問に思うような余裕はもうなかった。いや、私はすでに彼にその行為を止めて欲しいのか続けて欲しいのかすらわからなくなっている。ただひたすら脳を灼くような快楽に酔い、私の意識は白く染まっていった。  
 
「あっ、ん……ああっ!ひあぁ、くぅ……はん、あん、ぉああ!」  
 
彼女は僕の上に跨がり、激しく体を揺さぶっていた。その動きが彼女の体重を通して伝わってくる。  
結合部は熱く、互いの性器が淫泌な音を立ててぶつかりあっている。  
 
「はぁ、あうぅ!んっ、くひっ!」  
 
耳が通じず言葉を持たない彼女は意味のない喘ぎをただ漏らすだけだ。それでも彼女はとりつかれたように必死に腰を振る。  
 
「……動くよ」  
「ひゃあぁ!?あぅ、んあぁぁ!あひぃぃぃぃ!!」  
 
届く事のない言葉をかけながら、僕も思い切り腰を突き上げた。彼女はいよいよ獣じみた嬌声を上げる。  
ともすればそれは悲鳴のようにも聞こえる声だ。だが僕は動きを止める事はなかった。挿入れたばかりの時とは違い、彼女の声は悦の感情で満たされているからだ。  
例え目明きでなくとも、この耳でずっと彼女の声を聞いてきたのだ。彼女自身すら気付いてない感情でも読み取れる。  
 
「んんっ、ああぁ!あっ、あっ、あああ!んああああぁぁ〜〜〜〜!!」  
「くっ、んん!」  
 
激しい喘ぎが一層強くなる。昇り詰めていた彼女の情感が絶頂を迎え、熱い淫肉が僕をきつく締め付ける。僕も我慢出来ず、彼女の膣内に思い切り精を吐き出していた。  
 
「……かはぁ、はぁ……ん」  
「はぁ……はぁ」  
 
長い長い嬌声を終え、互いに荒い息を吐いて絶頂の余韻に浸っていた。だが彼女はふっと糸が切れるようにベッドに倒れこむと、そのまま眠り姫のように動かなくなった。  
 
 
真っ暗な闇と音一つしない静寂、夜の気配が満ちた部屋の中で、僕は眠る彼女を腕の中に抱いていた。  
僕らは出会った時から言葉を交わす事が出来なかった。彼女は手話で話していたが僕はそれを見る事が出来ず、彼女は僕の話す言葉を聞く事が出来なかったからだ。  
そんな僕らが共通して認識出来たのは「触れる事」だった。彼女の頬に触れ、彼女の髪に触れ、彼女の手に触れ、彼女の身体に触れる事で彼女に想いを伝えてきた。  
そして僕らは通じ合い、今僕の腕の中に彼女がいる。  
僕はもう彼女との間にどんな障害も感じなかった。暗闇だろうと静寂だろうと二人の間に通じない想いなんて無いと。  
 
「大好きだ……」  
 
僕はそう呟いて彼女の頬に顔を擦り寄せ、キスをしようとした。すると彼女も起きていたのか、自分から口づけてきた。  
柔らかな彼女の唇。その感触は確かな言葉となって、僕に想いを伝えてきた。  
 
「私も大好きだよ♪」  
 
 
了  
 

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