やはり彼を傷つけたくない。その気持ちが勝った。  
怒るにせよ泣くにせよ、ショックを受けるのは確実だ。  
また、事と次第によると、彼女の元へと行ってしまうかもしれない。  
復讐にせよ、慰撫にせよ、私の元から去っていくことになるだろう。  
胸がズキリと痛んだ。   
森精は再び歩き出した。行かせたくない。ずっと私のところにいて欲しい。  
だが、たとえ今黙っていても、いずれ何かの拍子でこのことを知ってしまうかもしれない。  
どうすればいいだろう。  
天啓  
彼をここに引き止めるものが必要だ。それは――  
 
心は決まった。足を早める。私のすべてであの人をつなぎ止めよう。  
外の事など、気にする隙などないほどに。  
私のことだけを考えてくれるように。  
その準備のため、足を寝ぐらへと向けた。  
夜空を覆う雲が、少しづつ薄れていった。  
 
・・・呼ぶ声がする。落ち葉の寝床の中で俺はそれを聞いた。  
たかが葉っぱと馬鹿にしてはいけない。軽くて、暖かく、簡単にいくらでも手に入る。  
リーズナブルでベストチョイスなワンダフル大自然の恵みバンザーイ。  
とか何とかアホな事を考えている間にも、呼び声は続いている。  
静かに鈴を振るような、耳に心地よい声だった。  
目を開ける。  
・・・何も見えない、真っ暗な夜だった。  
「起きてください、起きてください。お願いです、目を覚ましてください・・・」  
なんかこう、妙な違和感があった。魚が平然と二本足で歩いているのを見たら感じるような、  
「当たり前のものが当たり前でない」印象を受ける。  
「・・・誰?」  
真っ暗で見えないが、声は左手―泉の方―から聞こえているようだ。  
その時、雲が切れた。  
満月の光の下、まるで月光が溜まっているかのような泉を背にして、  
森精がいた。  
 
だが、それは果たして彼女なのだろうか。  
いつも愛用しているロングブーツは編み上げのサンダルだし、  
ジャケットにホットパンツは影も形もなく膝まである若草色のワンピースだし、  
動きやすいように三つ編みにしている長髪は解かれ風の形にそよいでいる。  
ついでに弓掛を兼ねた長手袋も無く、彼女本来の白い素肌の腕が丸見えだった。  
なにより、  
頬を紅潮させて俯く様は、二足歩行魚よりも信じられないものだった。  
・・・信じられないほど、愛らしかった。  
「聞いてもらいたい、お話があるんです」  
加えてこの丁寧語、何か悪いものでも食べたのだろうか?  
心の中で必死に茶化す。そうしないと、自分がどうにかなってしまいそうだった。  
「話・・・って何?」  
森精の緊張が移ったように、心臓がドクドク言う、口の中がヒリつく。  
たった一言、搾り出すのが精いっぱいだった。  
ただ、その一言は目の前の彼女に勇気を与えたらしい。  
俯いていた顔が、まっすぐこちらを向いた。  
「私は、あなたが好きです」  
サアァァァ・・・  
二人の間を、一陣の風が吹き抜けた。  
 
「私は人間ではありません」  
そう言って、森精は一歩男に踏み出してた。あと十歩。  
「厳密には、動物ですらありません」  
つぶやくように、もう一歩。あと九歩。  
「親も無く生まれ、光と水を糧に育ち、孤独のうちに自らを知る」  
目線はただ、男の目だけに向けて。あと八歩。  
「そんな、貴方とは違った生き物です」  
ゆっくりと、歩みとともに自分の心を確かめるように。あと七歩。  
「でも、私だっておんなのこです」  
ぎゅっと手を握り締めながら。あと六歩。  
「夕方、楽しそうに他の女の子の話をする貴方を見ていて辛かった。」  
耐え難い何かに必死に耐えて。あと五歩。  
「わがままだって、わかっています、でも!」  
必死にすべてをさらけ出して。あと四歩。  
「私だけを、見て下さい」  
不器用に、一言一言考えながら。あと三歩。  
「ずっとずっと、傍にいてください」  
迷うことなく。あと二歩。  
「お願いです」  
目の前まで来て。あと一歩。  
「私の気持ちを、受け入れてください」  
ぴたり。  
森精はそこに留まり、男の返事を待った。  
 
これは本当にアイツなのだろうか。  
「私の気持ちを、受け入れてください」  
懇願調の命令形。  
この言葉を聞いた時、そう思った。  
出会ってから一週間、気の置けない友人だった森精なら、こう言っただろう。  
「私はおまえが好きだ。おまえは私をどう思っている?」  
高圧調の疑問形。  
すぐ隣で腰を下ろしつつも、決してそちらから触れてこようとしなかった彼女なら、きっとそう言ったはずだ。  
コレハホントウニアイツナノダロウカ?  
俺の心に得体の知れない恐怖が満ちてゆく。  
その恐怖は、赤い髪の少女と、それを羽交い絞めにする様にして抱く男の形をしていた。  
たとえば俺と引き換えにこの世を去った母、村と引き換えにこの世を去った父、そして『彼女』。  
ああ、そうか。  
唐突に理解した。愛することはすばらしい。しかし、失うことはなお辛い。  
その二つをはかりに掛け、重い方に流される。死人は忘却を、別離には無感情を。  
それが俺だ。俺という人間だ。  
そう思うと、迷いが晴れた。  
断ろう、そしてここから出て行こう。なぜなら俺には受け入れるだけの余裕が無いから。  
コイツはコイツ、俺ハ俺。出会いモ有れば、別レモアルサ。  
スッキリシタカオデ、森精ニヨクニタオンナノホウヲミタ。  
そこで動きが止まった。  
長くとがった耳が見えた。  
 
森精の耳。それは犬の尻尾に似ていた。  
表情というものを変えない彼女。その代わり、耳は良く動いた。  
楽しいときはふるふる震え、あせったときはぴくぴく動き、怒ったときには天を突く。  
耳は彼女の『顔』だった。耳を見れば、彼女が分かったのだ。  
さらに思い出す。初日より二日目、二日目よりも三日目・・・彼女の耳は動きを増していた。  
問い:その変化の原因は何か  
答え:俺  
俺が彼女を変えていたんだ。俺の影響でコイツはこんなにも、『耳』を動かしている。  
期待に小刻みに震え、怯えに地を指差して。  
なんだ、やっぱりアイツじゃないかこの娘は。ちょっと目に涙をためて、唇を引き結んでるぐらいで、どうして別人なんて思ったんだろう?  
それは俺がよわっちいプライドを必死にかばっていたからだ。  
アイツを失うのが怖い、アイツを失うことを恐れて逃げようとする自分に気付きたくない。だからこの娘はアイツじゃない。  
・・・最悪だな俺。  
問い:なぜ、今になって俺はこんなにも自分のことが良くわかるのだろう  
答え:彼女を見たから  
こころを育ててこなかった彼女、こころから目をそらしてきた俺  
よく分からないものを見たから詳しく知ろうとし、よく考えてこなかったから必死に見つめなおした。  
まるで合わせ鏡だ。  
 
コイツはコイツ、俺は俺。  
その前提が崩れてゆく。  
彼女と俺。  
うん、これならしっくりする。  
さあ、いつまでもこの娘をほっとくわけには行かないな。  
だって今にも涙が零れそうなんだもの。  
 
長い長い若者の沈黙。それに森精は、ずっとずっと耐えていた。  
――それはいきなりこんなこと言われたら驚くだろうし、でもいくらなんでもこれはちょっと沈黙長すぎじゃない?  
でもでも文字通り一生の問題なわけだし、黙って信じて待つのが筋ってものだと思う・・・もしかして断りの言葉を考えてるのかも・・・そんなのイヤ!  
よし、ここは思い切って――  
森精は緊張に強張る唇を必死になってこじ開け・・・ようとしたその時  
 
ふわり  
日向と、土と、汗のにおい  
麻布と、毛皮と、人の肌のぬくもり  
 
出会ってから一週間。十歩の距離の最後の一歩を詰めたのは――  
男のほうだった。  
「一緒に、泉に来て欲しい」  
ようやく不安定なゆれから脱した森精の耳に、男はそっとささやいた。  
森精の耳がうなずくように大きく上下に動き、涙がほろりと頬を伝った。  
 
「泉へ行こう」  
これはこの地方に古くから伝わる契約の動作であり、『鏡』というものがまだ無かった昔の風習である。  
『二者間で大切な約束を交わすとき、自分と相手、そして水に映った互いの影を証人に立てる』というこの儀式は、  
その者の水影が契約の監視をし、約を違えた者を自らの影の手で縊る様に呪いを掛けあう、という呪術に端を発する。といわれている。  
最も現在ではそのような呪的効果は確認されず、「互いが死ぬまま守ると誓った約束」―たとえば婚姻契約など―の儀式としてあつかわれている。  
故に一般的に、年若い男女が「泉へ行こう」といえば、告白の代名詞として扱われる。  
                               某エルフ著 「森精に教える一般常識」第45版より抜粋  
 
二人は泉に着いた。きょときょとと落ち着かなく辺りを見回し、真っ赤になっては俯いてを繰り返す森精と、ただそっと彼女の手を握り、黙々と水辺を目指す男。  
告白のときと正反対なのがどこか可笑しい。水辺に着いて男は口を開いた。  
「勢いで――「ふぇっ!?」どうした「な、なんでもない!」――あー、勢いで『泉に来てくれ』って言ったけど、意味、分かってる、よ・・・な?」  
「う、うん、一生ものの大事な約束をする儀式・・・だよね?その・・・コクハク・・・とか」  
「一人ぼっちだったのに、よく知ってるもんだ」  
「エルフの人が、そういうこと書いた本も持ってきてくれた、から」  
「字、よく読めたな」  
「樹精が、教えてくれたから、その・・・眠ってるときに」  
「へ?」  
「夢に、緑髪のおねえさんが、白衣着て、ぐるぐるめがねかけて、マスクして、メガホンもって出てきて教えてくれたの  
・・・質問は一切無し、会話はしませんって言って・・・スパルタだったよ・・・」  
ぷっ  
ふふっ  
どちらからとも無く、笑いあった。緊張はいらない。いつものような、二人の時間。  
――これからも、ずっとずうっと続いて行くもの  
「それじゃあ、はじめるよ。水面は・・・よし静か。ばっちり俺たちが映ってる。」  
「な、なんかスカートっては、恥ずかしい、ね(耳が下を向いた)」  
「気にするな、よく似合ってる(耳が元気よく立ち上がった)」  
「それじゃあ、左手出して、俺の右手とぴったり合わせて・・・OK 」  
「わたし、何すればいいのかな(耳はぱたぱたと揺れた)」  
「俺が誓い終わったら、思ったように言えばいいさ、いくぞ」  
ごくり、唾を飲み込む森精。男が静かに口を開き、  
「我は、この女性(ひと)と、永遠を供にせん」  
と告げ、右手に力を入れた。  
大きな手が、美しい手を包み込む。すると、  
「わたくしは、この男性(ひと)と、永遠を供にします」  
と、小さな手が、力強い手に優しく絡んでいった。  
 
静かな水面に逆さに映る影が、そっと寄り添っていく。  
その唇が重なるのを、満月だけが、じっと見ていた。  
 
唇に甘い感触が当たっている。  
味覚としての甘さではなく、触覚としての甘さ。そして心で感じる甘さだった。  
俺の右手と彼女の左手はずっと組み合わされたままで、それぞれの空いた手は、互いの背中へと回されていった。  
とくとくと感じる心臓の音と、  
ドクドクと高鳴る心臓の音。  
・・・せめて毛皮の上着ぐらい、脱いでおけば良かったと後悔する。彼女の身体が、もどかしいほど遠い。  
もしもこの邪魔な布切れが無かったとしたら?  
ドクンドクンと高鳴る音と  
トクントクンと聞こえる音。  
どうやら同じようなことを考えているようだ。  
お互いに荒くなった鼻息をくすぐったく感じてきたあたりで、  
唇を離した。上気した顔を見て思う。これは俺が切り出すべき仕事だ、と。  
「儀式は終わったけど、さ」そのまま続ける。  
「欲し「成りたいものがあるんです」」  
途惑いがちに言った俺と、一息に言い切った彼女。・・・ここは譲るとしよう。  
「成りたいもの?」  
「はい。覚えていますか?初めて会った時の事を。あなたは私に尋ねました。『おまえは何になるんだ』と」  
覚えている。忘れるはずなんて無い。  
「そっか、エルフと樹精、どっちになるんだ?なんか儀式とかいるの?俺に手伝えることは?」  
俺がそう言うと彼女は一瞬目を丸くし(肩をすくめるように耳が持ち上がり)、  
まるで何も分かっていない子供に言い聞かせるようにこう言った。  
「わたしは、あなたのものになりたい。今すぐここで、私を受け取ってください」  
・・・俺はその場で彼女を押し倒した。  
 
某エルフ著 「森精に教える一般常識」第45版 項目「泉へ行こう」追記  
『なお、水辺で事に及ぶことは、終了時に身づくろいをするのにも都合がよく、大変便利である。  
・・・ってかここが勝負どころだ!行け!先んじて勝負をかけろ!諸君の健闘を祈る』  
 
・・・俺はこの文章の存在を知らなかった事を明記しておく。  
 
気がつくと、互いの衣服は一枚だけだった。下腹を覆う、小さな布きれ。  
彼女のそれは、サイドをリボンで結ぶ下向き三角形をしていた。  
今は見えないが、その下には・・・  
想像力が掻き立てられる。もぞり、とより激しくいきり立つものがあった。  
「・・・おおきいん、ですね」  
俺が熱い視線を注いでいる間、彼女も負けず劣らず熱く見つめていたらしい。  
そのまま視線を自分の胸へとずらし、  
「ちいさくて、ごめんなさい」  
悲しそうにそう告げた(耳はぺったりと伏せられていた)。  
彼女のそこはある種感動的ともいえた。「慎ましやか」とすら言えないぐらい「まったいら」なのだから。  
興奮してか立ち上がっているピンクの乳首だけが唯一の隆起である、といっていい。  
「その胸の良さは、見ただけじゃあ分かり辛いみたいだから」  
あやすように告げ、脱いだ衣服が背になるように、  
「ゆっくり触ってたしかめることにする」  
彼女の上にのしかかった。  
 
指先が触れる。ふに、とほんのわずかだけ指が沈んだ。びくり、と彼女の身体が震える。  
やらわかく、あたたかく、小刻みに震え続ける、ぬくもり。  
森精は目をぎゅっと閉じ、右の親指のつめを噛みながら震えている。  
身を捧げる発言をしたとしても、やっぱり恥ずかしくて緊張しているんだな。  
そう思うと、微笑ましくもいとおしい。  
やさしくしたい。手の中のぬくもりに対して自然とそう思えた。  
「きみはあたたかくて、いい匂いがする」  
黙っているのはまずいと思い、そういいながらゆっくりと胸を触る。  
揉むというより撫でるというようがしっくりする指使いで、ゆっくりと、軽く軽く手を這わす。  
指が森精の乳首の傍に触れるたびに、ああ、ああと声が漏れ、ひくひくと華奢な身体が痙攣した。  
もう一押し、かな。  
右手はそのまま胸に、左手は彼女の頬に、そっとあてがい、ゆっくりと撫で回す。  
すると彼女の右手が左手に重ねられ、うっとりするような顔を見せてくれた。  
手を止める。そのままただ、彼女のぬくもりを感じ続ける。  
・・・しばらくして、彼女の震えは納まった。  
「あなたの手もあたたかく、そして、とてもやさしい」  
ようやく目を開けてくれた彼女は、そういって花のように笑った。  
だから俺は、そのまま唇を重ねた。  
 
一緒に気持ちよくなりたい。その為にはあせらないことと、おどろかせないことが大切だと思う。  
女性が不安に怯える様を、思うが侭に蹂躙するのはマトモな男のする事じゃない。  
快楽を求めて動き出すのは、お互いのぬくもりが安心感を呼び起こしてからでいい。  
『あったかいから、だいじょうぶ』  
森精はどうやらその段階に達したらしい。だから、  
きもちよくなり始めるとしよう。  
頬に添えた左の手のひらをそのまま後頭部にまわし、頭のてっぺんから後ろへと撫で下ろす。  
サラサラの緑髪が指の間をすり抜けるさまが心地よい。  
ぺったりと胸の上に置いた手でそのまま円を描く。ただし今度はやや強く手のひらを押し付ける。  
滑らかな肌とかすかな弾力、そして敏感な場所を触れる際には、重ねた唇からかすかに喘ぎが伝わってきた。  
そのままじっくりと撫でさする。  
いつしかサラサラとした彼女の肌触りは、かすかに浮いてきた汗による、しっとりとしたものへと変化していた。  
そのままじっくりと撫でさする。  
喘ぎが大きくなり、唇がわずかに開く。その隙間に、舌を差し入れた。  
一瞬硬直する森精。だけど、手も舌も止めてあげない。  
小さな舌と、形よくそろった歯と、ぬめるような口腔を味わいつくす。彼女の唾液は不思議と甘かった。  
やがて・・・おずおずと彼女の舌が動き出した。  
はじめは恐々と、好奇心に突き動かされてしだいに激しく、しまいには俺に対抗するように大胆に。  
やさしく、強く嘗め回された。  
そのころには森精の目は熱っぽく潤み、ぬめる胸は激しく上下し、鳩のような喘ぎと頬を伝い地に溢れる唾液の筋が感じられた。  
もういいだろう。  
身を起こし、唇を離すと、二人の間に銀の橋がかかり、そして切れた。  
 
男が森精の上に乗ってから30分後、ようやく男は彼女から離れた。  
森精はしどけなく手足を投げ出し、無い胸をあえがせ、熱っぽく男を見ている。  
与えられた快楽を受け入れ、次に来る未知なる歓びに心をとろかせている、といった風情だ。  
男はそんな森精のある一点を見据え、そこに手を伸ばした。  
それすなわち下帯、その両サイドのリボン。  
森精が「あっ」と声を漏らし、羞恥から足をぴったりと閉じ、両手で股間の布地を押さえたときには、下着はすでに砂時計形の布切れになっていた。  
そのとき布越しに手のひらに感じた、じゅくり、とした重い水気。  
その音と手触りは森精の羞恥をさらに強く煽り、彼女ははずかしさのあまり己の耳で両目を覆ってしまった。  
そんな森精をみて、男は楽しげに苦笑を浮かべて説得を試みる。  
「ほら、手をどけないと脱がせられないよ」  
「やっ」  
目を覆ったまま森精はいやいやと首を振る。男は仕方が無いな、という風に首を振り、なにやらごそごそと始めたが、硬く目をつぶっている森精にはよく分からなかった。やがて  
「目を開けてごらん」  
という男の声に、ほんの少しだけ耳をずらして薄目を開けると、  
全裸の男とその股間のいきり立つ肉棒が目に飛び込んできた。  
 
森精の足元で胡坐をかいて座る男の肉棒は、先ほどまでのやり取りで隆々とそそり立っていた。  
先走りに濡れ光ながら、ひくひくと脈打ち、血管を浮かび上がらせていきり立つ。  
その偽らざる男の中の雄性の顕現に、森精は瞬きも忘れて見入っていた。  
「君を見ていたら、こうなった」  
明け透けな男の言葉。森精の下腹が、じくり、と熱くなる。  
「これが今から、君の中に入る」  
今度は、膣内がきゅっと収縮した。  
「だから、その手をどけて欲しい」  
そこで完全に火が付いた。少女の羞恥を女の感性がじわじわと駆逐してゆく。その内心の変化そのままに、脚が小刻みに震えながらもゆっくりと開いていき、  
股間を布ごと押さえていた手が脇へとずれていく様は、清楚であるが故にはてしなく淫靡だった。  
文字通り一糸纏わぬ森精の裸が、男の前にあらわれた。清らかな少女のそこは、髪と同色の、いまはぺったりと濡れて皮膚に張り付いている薄い翳りに覆われ、  
羞恥と期待にひくひくと蠢動しつつ、内部からの蜜を吐き出していた。  
握っていた布を脇にどけた森精が、しっかりと男の目を見据えて告げる。  
「私も、あなたを迎えたいです、だから・・・手を握っていてくれませんか」  
自らの蜜にしっとりと濡れた手に、思い人の手のぬくもりを感じつつ、今まさに自らのうちへと押し入ろうとする隆起を、森精はじっと見守った。  
男の先走りの雫が、露に濡れた女の茂みに触れ・・・  
 
 
 
 
肉棒は入り口に弾かれ、滑らかな皮膚を勢い良く擦った。  
 
ぬるん  
「うっ」  
「はうっっ」  
男は先端、カリ首、その下の茎を勢い良く少女の下腹に擦った快感に、危うく放出しそうになった。  
森精は包皮越しとはいえ、生まれて初めて敏感な肉芽を強く擦られた快感に、一瞬視界が真っ白になった。  
「はやくっ、はやくうぅ・・・」  
うわごとの様な森精のおねだりに男はあせり、二度、三度と遮二無二己を突き入れようとするが、上へ、或いは下へと滑ってしまい。  
愛する少女と己自身を延々とじらし続けてしまうはめになった。  
森精に片手を離してもらい、空いた左手で肉棒を支える事を思いついたときには、それは少女の蜜でベタベタになっており、森精はぐったりと脱力し切っていた。  
・・・痛みを和らげる、という観点からすると、かえって良かったのかもしれない。  
己が左手で根元をしっかりと支え、先端が森精の秘唇を割り開く感触を確かめ、あとは腰を突き入れるだけと確信したところで、男は「いくよ」と告げる。  
森精は無言でこくりとうなづき、ただじっと「その時」を待った。  
男の腰が沈む。ゆっくりと、ゆっくりと・・・  
ずっ、ずずっ、ずずずっ  
・・・みち・・・みちちっ・・・みぢっ  
猛り立つ剛直の硬度に、少女の肉は割り広げられていく。その進行に連れて、森精の口は「あ」の形となりやがて「い」の形となったが、男に心配をかけないためか、その音を発することは無かった。  
そんな森精の気遣いを視界に納めつつ、男は慎重に腰を進めていく。少女の内部から押し出された蜜は下腹と下草を濡らし、同じく内部から押し出された涙はほろほろと頬を滑ってゆく。  
ひどく濃密な時間の後、男の先端が行く手を阻まれた。  
少女の少女たる、純潔の証。  
「もらうよ」  
「は・・・い・・・うけとって、ください・・・わたしを、あなたのものに・・・して・・・っ!」  
突。  
「あぁぁあぁぁぁああっ!」  
ズンッと少女の胎に付き込まれる衝撃。  
この時、森精は女になった。  
 
胸を喘がせて、息を整える森精。結合部からあふれ出す、蜜に薄められた血。ぎゅっと握り締められた手と手。  
ただ静かに、とめどなく流れ続ける涙は、歓喜と疼痛果たしてどちらによるものか。  
わからないから、ただ黙って白磁の頬に唇を寄せた。  
静かで深い達成感があった。  
ぴったりとあわせられた裸の胸を通して、互いの鼓動が染み入っていく。  
そのままじっと、ぬくもりを分け合っていた。  
どれぐらいの時間が過ぎたのだろう。ふふ、という森精の笑いがきこえた。  
「?」  
「女として生まれて来てよかった、そう思っていたところです。だってほら」  
そう言うと彼女は開いた右手を身体の隙間から下腹へ差し入れ、  
「中にも外にも、あなたを感じられる」  
そういって円を描くように、自らの腹部を撫でまわした。  
その微笑みはまるで俺を丸ごと包み込むような、慈しみに溢れた、きれいな笑みだった。  
その瞬間、俺の中の静かな達成感は、その形を変えていった。  
もっと動的なもの、激しいもの。  
俺を包み込むこの女性のすべてを「俺」で一杯に成るまで埋め尽くしたい。  
そんな欲求だった。  
暖かく、柔らかく、隙間無くぴったりと濡れそぼった、そんな安らぎの中で、ぎりぎりと鋭く立ち上がっていくもの。  
その感触を感じたであろう彼女は、その笑みを深くしてこう言った。  
「動いてください。もっとあなたを感じさせて」  
俺を包むぬくもりが、きゅっ、きゅっ、と断続的に締め付けてきた。  
 
ずるずると腰を引き抜く。茎を離すまいとするかのように絡みつく媚肉を掻き分けて肉棒を引き抜く。  
張り出した雁首が柔肉を抉るように押し広げる。  
はぁぁあぁぁぁっ」  
先端を残して引き抜いた肉棒には、破瓜の赤い血が絡みついていた。その色に一瞬躊躇が生まれるが、  
さっきの「動いてください。もっとあなたを感じさせて」という言葉がそれを打ち消した。  
なにより、俺自身我慢の限界だし。  
だから、引き抜いた速度に倍する勢いで再び中へと突き込んだ。  
「ああうぅぅ ううっ」  
森精の声には未だ苦痛の色が濃い。それも仕方ないだろう。先ほど奥まで割り広げたとはいえ、処女を散らしてすぐなのだから。  
ただ、その声には明らかに快感も含まれていた。  
ならば快感で苦痛を覆い尽くせばいい。内なる雄性がそう告げる。もっと速く、もっと強く、もっと深く!  
じゅっ、じゅぷっ、ずずっ、じゅぷっ  
「はっ、はあっ、はげし、すぎですッ、お、ねが・・・い、もっと、ゆッくりイィぃッ!」  
森精の膣内は汁気を増し、その狭さにもかかわらずスムーズに肉棒を受け入れ、心地よい締め付けを与えてくれる。  
その快楽が、俺の腰を加速させる。  
一方、森精の声と腰は俺の勢いと未だ残る痛みに慄き、尻を揺すり上げるようにしてじりじりといざり、逃げようとする。  
その怯えもまた、腰を加速させた。  
・・・この上から下へ突き下ろす動きでは、勢いが足りない。  
俺は膝立ちになり、彼女の手を振り解いて、その細腰を両手でがっしりとつかんだ。  
森精の腰を挿入れやすい高さに持ち上げ、力いっぱい突きこむ。  
ぷちゅりと、蜜が跳ね飛んだ。  
「ふあぁぁぁあっ、やっ、なに?こ、怖い、こわいぃぃ」  
彼女はいわゆる「下付き」だった。体位の変化と、それにより深くなる結合、増していく勢いと、離された手。  
そして自分の中で天井知らずに高まっていく快感におびえを隠せないようだ。  
・・・好きな娘を不安にさせるのは良くないね。だから、  
もっとたくさんの快楽をあげられる様、胸の突起に口付けた。  
 
胸。そのまったいらな胸部は森精のコンプレックスであり、身体の中でもっとも「意識して」いる場所である。  
その場所を、男に舐められている。  
羞恥が瞬時に沸騰し、おびえが一気に揮発した。  
「はひゃあぁぁッ、そ、そんなとこなめちゃ、やだぁぁぁあッ」  
「なら、吸う」  
「ふわぁぁぁあん、そういう意味じゃ、あっ、ないぃぃイイッ」  
森精は激しく頭を左右に振った。長い髪が打ち振られ、ちゅっ、ちゅっ、と音を立てて乳首に吸い付く男の頬を打つ。  
何の痛痒も感じず、男はより一層音高く胸に吸い付いた。  
(ちょっと、かわいいかも・・・ってそんなこと考えてる場合じゃ、はぁぁぁあん)  
怯えの消えた後に、湧き上がる思考。それはすぐに打ち消された、が、  
その精神の空隙に、圧倒的なまでの快楽が押し寄せてくる。  
気がつくと森精は両の手で男の頭を抱え、足で男の腰を抱えていた。  
怯えも苦痛も、もうここには無い。  
あとは二人で上り詰めるだけだった。  
唾液の軌跡を描きつつ、男の舌は森精の肌を這い登り、可憐な唇へと進入を果たす。  
「うむっ、むうぅぅぅ、はむ、ぴちゅ」  
すぐに激しく絡まりあう舌。吐息と唾液が卑猥なリズムを刻む。女の手はいまだ男の後頭部にあり、より深く、より強く男を味わおうと  
己のほうへと抱き寄せている。  
その間も男の腰は力強く突きこまれ続けており、大きく開かれた女の腰は、くねるようにしてそれを迎え入れる。  
じゅっ、じゅぷん、ぬぷ、ぬぷ、にゅぷ  
「ふっ、ふむっ、ん!、ん、んんっ、んむぅっ」  
実際には腰同士がぶつかるぱんぱんという音も聞こえるはずなのだが、たっぷりと濡れた粘膜と、唇を塞がれてもなお漏れ聞こえる吐息が、その音を掻き消していた。  
 
やがて互いの動きに変化が生じる。  
ただ勢いに任せて律動を繰り返していた男の腰は、女の快楽をより強く引き出すポイントを求めて探るように胎内で円と螺旋を描き、  
ただ男の勢いを受け止めてくねるだけだった女の腰は、自らより深い結合を求めて前後の揺れを開始していた。  
「ふむぅぅぅぅうう、うんン!、ん!、んん!、ひはあぁぁあああ!ダメッ、だめ、ソコダメぇぇぇぇ!」  
亀頭が胎奥の壁を押し付ける深度、括約筋に力を入れて擦り上げる上壁  
男の肉棒がそこを突いたとき、森精は目の前が真っ白になった。  
最大級の快楽に、一気に絶頂間近へと押し上げられる。男と唇を話し、激しく頭を打ち振る森精。  
その様を見て、男は「そこ」を小刻みに突き上げた。  
「あっ、あっ、あっ、いくっ、いっちゃうっ・・・やだっ、いやっ、いやぁぁあッ」  
脱衣のときのように、いやいやと頭を振る森精。  
だがそれを行わせている感情は、先ほどのような『羞恥』ではなかった。  
「やあっっっ、やああッ。ひとりでなんてイキたくないのぉッ。いっしょ、一緒、いっしょがいいの・・・ッつ」  
それは享受している快感を少しでも引き伸ばす為と、  
おんなのこの感性ゆえの、かわいらしい『慕情』故の動作だった。  
その恋人のかわいいおねだりが、男への最後の一押しになった。  
 
「くっ、ダメ、だ、もう、射精るッ」  
「はあっ、はあぁぁん。っだ、射精して、射精してぇ、はや・・・くうッ、なっ、なか、膣内に射精してぇぇぇえ!」  
ドクン!  
「ああああああああああああああああああああああああああああーっ」  
最後に一度、肉棒を奥壁に力いっぱい押し付けたところで、男は放出した。同時に、森精の膣壁が力強く収縮する。  
「くっ、ううっ、うっ」  
どくっ、どく、ドクン!  
「あっ、膣内にきてる・・・いっぱい、いっぱい射精てるぅ・・・」  
睦みあいを始めてからはや一時間。乏しい知識をかき集めて、森精と「一緒に」気持ちよくなろうとしていた男の射精は、長かった。  
その律動と放出を、女の膣内はひくひくとやさしく受け止め、受け入れ、己が内部をいっぱいに満たしていった。  
どくん、どくん、どくん  
きゅっ、きゅっ、きゅうぅっ  
「やだ、あふれ、ちゃいま・・すぅ・・・」  
こぽり  
森精の内腿を白く汚すころになって、男の射精は終わった。男の全身から力が抜け、愛する森精の上にぐったりとのしかかる。  
その身体を、森精はゆったりと抱きしめた。  
「たくさん、でましたね・・・」  
耳元でささやかれたその言葉と、肉棒に感じるゆるい締め付け、それに搾り出された尿道内の最後の精液の放出。  
それを心地よく感じながら、男は目を閉じた。  
 
身体の下に感じる。人肌のぬくもり。頬に感じる、力強い胸板と鼓動。髪を撫でてくれる、優しい手。  
まだ胎内(なか)にある、少し小さくなったあの人。  
それらにうっとりと身を任せつつ、わたしは耳をぱたぱたさせます。  
この人はすぐに目を覚まし、「重いから悪い」といってすぐにどこうとしました。  
それを腰に足を巻きつけて引き止めたのは私の方です。  
「まだでていっちゃ、やです」  
・・・はしたなくてもいいんです。だってこんなに気持ちがいいのですから。  
折衷案として、つながったままごろりと横に転がりました。  
わたしが上、この人が下。  
気だるくも心地よい時間が過ぎています。少しうとうとし始めたころ、彼が口を開きました。  
「今夜起こされたとき・・・」  
「?」耳をそばだてます。  
「誰だかわからなかった」  
「・・・」あうー  
「あんなに丁寧におこされたこと、なかったから」  
・・・そんなに乱暴だったでしょうか?  
「『おきろー』と同時に、蹴りとか木の実とか顔面の上に鱒とか」  
・・・ら、乱暴だったかもしれません  
「でもそんなのが、すごく、楽しかったよ」  
くつくつ、というからかうような笑い声。わたしは赤くなって言います。  
「いいんです、イメチェンです!おんなのこは恋をすると乙女にかわるんです!・・・すぐ女になっちゃいましたけど(ぽそ)」  
・・・・・・・・・・・・・・・・  
・・・し、しばらく、赤い顔をして見詰め合いました・・・  
少しだけ不安になって、上目遣いにききました。  
「似合いませんか?」  
「・・・・・・かわいいよ」  
今度はからかいの無い微笑とともに、そっと額にキスしてくれました。  
穏やかで、幸せな時間。  
ドグン!  
「!」  
激痛。  
それは私の身体に起きた異変によって破られました。  
 
何が起こったのかわからなかった。  
胸の中にいる最愛の女性が苦しんでいる。全身を細かく痙攣させ、ああ、とも、うう、とも突かないうめき声を発している。  
そこには演技の匂いも、先ほどまでのような快楽も一切見られなかった。  
「お、おい、どうした?」  
「うああぁああぁぁぁぁっ」  
肩をつかんで揺さぶったのがいけないのかもしれない。森精は激しく絶叫し、その身を仰け反らせていく。  
背はまるで海老のように反り返り続け、背骨の限界か俺の上で寝そべることもかなわず、仕舞いには腹の上に座り込む形となった。  
傍から見たら、きっと騎上位で交わっているように見えただろう。  
・・・事実半萎えの男根は未だ彼女の中にあり、激しい収縮を味わっているのだが・・・  
こんなのはちっとも楽しくない。  
「しっかりしろ!今医「やああぁぁあっ!ひ、一人にしないでぇッ!」」  
言葉は遮られ、抜こうとした腰は、ガクガクと震える太腿によって阻まれた。  
森精は両腕を自らの身体に回して抱きしめ、その両の手の爪は自らの二の腕を掻き毟っている。両の目は真円になるまで見開かれ、その瞳孔は梁のように収縮している。  
地面に振り撒かれる透明と赤の雫。  
加えて上半身全体は激しく前後にうち振られており、全身の筋肉がまるで引き絞られているようだ。  
その異変は当然下半身にも及んでおり、白く汚れた太腿には太い腱が浮かび上がり、秘唇まるで命綱であるかのように俺の物を締め付けている。  
「カ、あ、いたい、はっ、カラダが、イタイ、あ、アツ、熱いィィィッ」  
・・・全身で苦痛を訴える最愛の人を、俺はただ身を起こして抱きしめることしかできなかった。自分が追放者であることを思い出したからだ。  
 
――追放者とは、文字通り追放された者の事だ。それは無視、無関心という生易しいモノではない。  
「助けなくて良い」と「助けてはならない」の間にどれほどの差があるのかは分かってもらえると思う。  
命の、そして心の苦痛。苦しむことこそが罰なのだ。だから俺は人を呼べない。俺ではこいつを助けることは、決して、できはしないのだ――  
 
満月の光の下、腕の中でもだえ苦しみ、獣のような咆哮をあげる最愛の人の姿。  
俺の頬を涙が伝う。無力な自分が情けなく、情けなく思うことしかできない自分が憎かった。  
だがその時、俺はある異変に気付いた。  
 
深い翡翠色の森精の髪。長くて綺麗なその髪の色が、先端から根元へとグラデーションを描いている。  
髪先は深い深い緑の色、どこまでも広がるこの森の木々の葉とおなじ色だった。  
その色が、根元の方へと広がっていく。  
やがてすっかり深緑へとその色を変えた髪は、吹きだした汗に濡れた肌にぺったりと張り付いていた。  
その紅潮した肌がうごめいている。  
「熱い、熱い・・・体が、内側から・・・はじけ、そうッ」  
その森精の言葉通り、森精の身体が内側からおし上げられている。俺が必死に掻き抱いていた華奢な肩が、柔らかい手ごたえを伝えて来た。  
彼女は痩せ型だった。良く引き締まった筋肉がすっきりと全身を覆っていたが、余分な肉は一切無く、少女のような愛らしさ―細い肩、平らな胸、引き締まった尻―はあっても、  
成熟した女性のなまめかしさとは無縁だった。  
その身体が、いま、肉を増している。  
異変は肩だけにとどまらず、俺の胸板に何かが触れてきた。  
やわらかく、熱く、みっしりと肉の詰まった感覚が、俺に押し潰されてひしゃげ、圧迫してくる。  
圧迫感ははるか下方からも伝えられて来た。俺自身の付け根を、みっしりとした肉が押し挟んで来る。茎に伝わる感触は、ついさっきまでの鍛えられた括約筋によるきつい締め付けだけでなく、  
内部に生じた多数の襞の凹凸による、メリハリの利いたものへと姿を変え、加えて肉棒を奥へと引き込むような蠕動運動を開始していた。  
腕の中の女性をまじまじと見直す。  
そこには、汗に濡れた肌に深緑の髪は張り付かせ、深い谷間を有する豊かな胸部を押し付け、秘裂というより秘唇、秘貝というべき陰部に男根をくわえ込んだ絶世の美女が、俺にもたれかかって荒い吐息をついていた。  
満月の下で起きた、目の眩む様な奇跡だった。  
 
「身体が、あつひ・・・れす・・・」  
ぐったりとしなだれかかり、頬に髪を張り付かせてうわごとの様につぶやく様は、ぞっとするほどの色気を放っていた。  
その声は疲労に呂律が回っていなかったが、先ほどのような苦痛はもう全く見られなかった。  
「身体は・・・もう、痛くないか」  
「は、はひ・・・れ、でも、なんだかつかれて、しまっれ・・・もうふこし、こうしていれ・・・くらさひ・・・」  
その声は鈴を振るような可憐さを残しつつも、成熟した女性の持つ艶をたっぷりと含んでいた。  
どうやら命の心配は無いらしい。  
彼女のゆっくりと背中を撫で下ろす。それはさっきまでの睦事で繰り返していた「安心させるため」だけでなく、  
「このしっとりとした美肌の感触を心ゆくまで楽しみたい」というものが多分に含まれていた。  
「あ、せなか、じんじんします。やだ、すごく、キモチいい・・・」  
彼女の声から先ほどまでの呆けっぷりが次第に抜け、芯がもどってきた。  
それに伴い、活発にうごめきだす胎内。  
「あー、また大きくしてる。元気ですよねー、なら」  
くすり、と微笑み、「えーい」とか間抜けな掛け声とともに身体を上下させ始めた。  
 
俺のものを収めたまま身を仰け反らせた彼女。  
心配のあまりそれを抱きしめた俺。  
あきれるほど立派な対面座位だった。  
彼女の両手は俺の肩、鎖骨と背筋の間のくぼみにぴったりと乗せられている。彼女の肩幅より若干狭いその間隔は、  
その白くたおやかな腕を並行から多少内向きへと向かわせていた。  
結果彼女の豊胸は自らの両腕に左右からやや圧迫されることとなり、その谷間をより深いものとしていた。  
それもまさに俺の目の前で。  
タプンタプンと眼前で揺れる大きな胸は、彼女が身体を持ち上げればその弾力で俺の目を楽しませ、  
力を抜いて身を沈めれば俺の胸板で綺麗にひしゃげ、俺の胸を押し返していた。  
視覚と触覚に対する鮮烈な刺激は、俺の怒張を暴発寸前にまで追い込む。  
少しでも気を紛らわせるために、目の前の巨乳にむしゃぶりついた。  
みっちりと中身のつまった乳肉は荒々しく食むおれの歯と舌にやわらかく形を変え、またその弾力で元に戻ろうと押し返してくる。  
その感触にますます俺はいきり立ち、より一層激しく胸をむさぼった。  
「あん、あン、やん!だから胸は恥ずかしいって・・・ふぇぇぇエエ!?」  
半ばしびれた身体で俺の愛撫を受け止めていた森精は、自分の変化に気付いていなかったらしい。  
その美巨乳を自ら見て、初めて気がついたようだ。  
 
「は?え?これ?私?あん!」  
はむ、んちゅ、れろ、はくっ  
「やだ、うそ、胸、おっきくなってる・・・やぁん」  
「さっきのあれ、一種の成長痛、みたいなものだったみたいだな」  
互いに動きを止め、まじまじと大きな胸を見つめた。  
「そっか、わたし大人に『樹精』になったんだ・・・・・・なにか声が聞こえます・・・はい・・・はい・・・(赤面)」  
しみじみとつぶやいた森精―いや、今は樹精か―は目を閉じると耳をピンと立てて何か返事をしている。  
俺には何がなんだか分からなかったが、どうやら何かを聞いているようにも見える。しかも途中から赤面しだした。  
「頭、変になってない、よ、ね?」  
恐る恐る聞くと樹精は目を開けて、  
「樹精は森の中の相手と心を通わせることができます。わたしの『姉たち』が祝ってくれました。  
『おめでとう、新しい妹、貴方の時が幸福とともにありますように』って」  
「そっか。でも、なんでそんなに恥ずかしそうな顔してるわけ?」  
「・・・『お楽しみを邪魔するのは野暮。覗いたりしないから彼と一緒に思う存分楽しみなさい』って・・・」  
「・・・なんて返事したの?」  
「・・・えっと、その・・・『はい、目一杯、可愛がってもらいます』・・・です・・・」  
赤面し、恥じらいつつもどこか誇らしげな樹精を見ていたら、中断していた欲望が再びせりあがってきた。  
「いくよ」とだけ告げて下からの突き上げを再開する。  
「はっ、はいッ、来てっ、きて、くだ、っさいッ」  
それからしばらくは、結合部から響くくちゅくちゅという音と、はっ、はっ、という樹精の粗い息遣いだけがあたりに響いていた。  
 
気がつくとあたりには生あたたかく湿った女のにおいが立ち込めていた。  
樹精の身体はいまやぬらぬらと艶を増し、深緑の髪をぺったりとその身に纏いつかせる様は、眩暈がするほどいやらしい。  
背骨を伝って這い上がってくるリズミカルな刺激と眼前の光景。勢いを増す射精の欲求から少しでも遠ざかるために、  
目の前の熟れた乳房に吸い付いた。  
「・・・甘い」  
汗のしょっぱさを期待した味覚は大きく裏切られた。楓の蜜にも似た甘さが口いっぱいに感じられる。  
舌先で触れた時の感触はかなりヌルヌルしていた「ソレ」だが、その芳醇な味は口内で唾液に解けてサラリと広がり、  
喉に絡まることなく胃の腑へと落ちてゆく。まさに甘露といえた。  
「あ、あのっ、はン、樹精っ、は、身、体から、『樹液』っが、でるん、で、すぅっ」  
荒い息の合間に、樹精が解説してくれる。  
「気持ちよくなると、と、止まんなくなっちゃうのッ。だ、だからッ」  
息を弾ませつつ、樹精は背を仰け反らせる。豊かな胸がピンと張り詰める。  
「わっ、わたしをッ、食べてくださいっ。いっぱいいっぱい、味わってくだ・・・ひゃあぁぁっ」  
ちゅっ、ちゅるっ、れろ、んちゅう  
あん、あん、はン、はン!  
脳が沸騰した。眼前で揺れる左の『果実』に夢中で吸い付き、嘗め回し、彼女の甘い樹液を飲み干す。  
しかし樹液はとめどなく樹精の肌から滲み出し、彼女の胸は乾くことは無かった。  
そんな俺を熱っぽく見つめつつ、樹精は腰を動かし始めた。  
それに伴い、乳房も大きく揺れる。逃がさないようにより強く吸い付く俺の口により、彼女の胸は紡錘形に形を変え、  
さらにぐにぐにとその頂点の位置を変えた。快感の高まりにより樹精の腰が左右にも振られ始めるとその揺れは胸にも伝わり、  
ぷるぷると震えてさらに強く俺を蟲惑した。  
ちゅうぅぅぅ  
「はあぁぁん、おっぱいそんなに、キツく吸ったら、跡付いちゃぅぅう」  
嫌がることなく発せられたその鼻にかかった声に、俺の怒張は暴発寸前だった。だが、彼女の声にはまだまだ余裕が感じられ、  
俺の悶える様をどこか楽しげに観察している。  
 
・・・なんだか、ちょっと癪。  
樹液のヌメリのせいでヌルヌルすべる彼女の細腰を強くつかみながら、そんなことを考えていた。  
彼女への刺激を強めたら俺が先に参ってしまう。だが、このままでは男のメンツが丸つぶれな気がしないでもない。  
その時、閃いた。  
「あん、もっとはげしくするんですか?」  
腰を抱えていた手を樹精の尻たぶへまわす。胸よりもやや弾力がある手触りが掌に伝わった。  
彼女はそれをより激しい前後運動の前準備ととったようだが、  
甘い、それでは正解の半分だ。  
「いいですよ、もっとはげしくして・・・いっぱい気持ちよくなりま・・・ひゃぁぁぁあ!」  
ぬぷぷぷぷっ  
俺は彼女の奥まで男根を突きこむと同時に、彼女の分泌液にたっぷりと濡れた右中指を後ろの穴―アヌス―へと目一杯突き入れた。  
予想外の場所からの刺激に樹精は激しく仰け反った。彼女の喉が目の前に丸見えになり、胸がより一層強く押し付けられる。  
すでに真っ赤にうっ血した乳頭を、前歯で挟んで左右に転がす。  
「ふぁぁぁっ、うっ、うそ、そっ、そんな、お尻なんてッ、ひゃん!胸ぇ、ちくび、そんなにこりこりしちゃ、だメェぇっ  
あぁぁあっ、お尻のなかで暴れちゃダメェーーッ、お、おち○ちんそんなにおっきくしないでっ、らめぇ、ちくびぃ、ひくびとれちゃうぅぅぅーッ」  
同時に三箇所へ加えられた刺激に、彼女は一気に高ぶってゆく。  
「はっ、はっ、はっ、はああっ、ナカ、ナカで擦れてるぅぅぅぅっ、らめ、らめらめらめぇ、もうイク、イッちゃうぅううッ!」  
その激しい乱れっぷりに俺もまた限界を超え、一番奥のコリコリしたところまで肉棒を埋め込み、彼女のアヌスへ突き入れた指をカギ上に曲げて、  
射精した。  
ドクン、ドクン、ドクドクどくどく・・・  
「イックぅぅぅぅぅぅッ!・・・ああ、でてる、でてるの・・・なかに、いっぱい、いっぱぁあい・・・」  
彼女は俺の頭を力いっぱい谷間に挟み込み、いつまでもその身を震わせていた。  
 
「・・・いじわる」  
「いやその、おまえがあんまりかわいいから、つい」  
対面座位のまま、樹精は俺の胸板に顔を寄せ、頬を膨らませて拗ねている。  
「せっかく、せっかくあなたのイくところをじっくり見ようと思ってたのに、わたしばっかり先にイかされて、不公平です」  
「あー、そのー、スマン」  
ただひたすらご機嫌をとろうと頭を撫でること数分、  
「もう・・・次はちゃんと、イくところ見せてくださいね」  
と、彼女は笑ってくれた。  
だがその時、俺はあたらしい事を思いついていた。  
「そっか、そうだよな、やっぱりしっかり見せないとマズいよな、ふふふ」  
「?あ、あのー、なんか企んでま・・・ひゃっ」  
樹精は頓狂な声をあげるがそれも無理はあるまい。やおら俺が彼女の尻を鷲掴みにして膝立ちになり、そのままズリズリと歩き出したからだ。  
未だ抜いていない男根が彼女の膣内にその振動を伝えている。  
「ふぁああぁぁん、はぁあぁぁあ」  
移動することわずか数歩。その場所に着いた俺は膣穴から己を抜き取り、彼女の身体をくるりと回して、今度はしみひとつ無い滑らかな背中を抱えた。  
背面座位である。  
 
「あの、どうして抜いちゃったんで・・・あっ」  
どうやら彼女も気付いたようだ。眼前の光景に。  
静かな水面には、一対の男女の姿が映っている。満足げな顔で女を抱える男。その男に背を預ける耳長の女性。  
ゆったりと男にもたれかかっており、わずかのたるみも無く大きくせり出した胸はその左の先端を真っ赤に染まり、そこだけは森精時代と変わらない細い腰へと続いている。  
腰は再び急激にせり出して来ており、その肉厚の秘唇はいまもトプトプと白濁を吐き出している。淫猥に濡れ光る素肌には深緑の髪がまとい付き、その身体を見つめる視線は酔ったように熱っぽく、たっぷりと享受している肉欲と愛情にすっかりとろけきっていた。  
眩暈がするほどいやらしく、うつくしい女の姿。  
それが樹精が始めて見た『自分』の姿だった。  
「この映ってる人が、ほんとにわたし?」  
「そう、これが君。俺が好きな人」  
「・・・あはっ、この女の人、今の一言で感じちゃったみたいですよ。あそこから吹きだす白濁が増えてます」  
「・・・後ろの男もそれを見て興奮してるみたいだ。彼女の股の間でアレおっ立ててる」  
「ほんとだ。しょうがないひとですねー」  
「いや、そいつ『獣』だから」  
「・・・・・・おいしくたべてくださいね」  
 
樹精は首を捻り、背後の男と口付けを交わす。はじめから互いに舌を吸いあうような情熱的な口付けだった。樹精の手は男の後頭部を優しく探り、男の手は樹精の豊かな胸に回されていた。  
付け根から先へと、絞るような動作。それは時に左右の胸を交互にプルプルと縦に揺すったり、指がめり込むほど強くつかんだりといったバリエーションを交えていた。  
そのたびに女の口からはくぐもった喘ぎが聞こえ、その腰は股間を男の肉棒に擦り付けるように前後していた。  
女の胸は男が鷲掴みにしても大部分がはみ出してしまうほど大きいが、そのことを抜きにしても乳首に全く触れない、というのはわざとだと思われる。じりじりとすぐ近くまで揉み寄り、  
女の目が期待に潤んでいるのをそ知らぬ顔で流しつつ、また付け根へと引き返していく様は、じっくりと女の性感を煽っているのに間違いあるまい。事実、じらされ続ける女の腰はその動きを過激なものへと変え、  
いまや下半身はティッツ―素股―といっても差し支えないほど激しく擦りあわされていた。  
「も、もおぉう、どうしてあなたはそんなにイジワルばっかりするんですかっ?」  
「濡れ濡れで拗ねるおまえが、あんまりにもかわいいんで、つい、ね」  
「・・・そんなこと言うんなら、覚悟してくださいね、いっぱいえっちになっちゃいますっ」  
ふっきれたようにそう言った樹精はいたずらっぽく笑うと、男の男根を両手でつかんだ。そのまま奉仕を開始する。  
左手で太い茎をしっかりと掴み、大きく広げた右掌を亀頭に押し付けてゆっくりと円を描くように擦ったり、そのまま人差し指と中指を折り曲げ、大きく傘を張ったカリ首を抉るようにくすぐる。  
男の意識が亀頭部に集中したところであえてそこから手を離し、肉茎を両手で掴んで扱きながら上下左右に揺り動かし、時にその反り返った上部を自らの肉真珠にこすり付けたりもした。  
 
「はん、はん、はぁん、どんどん、くうぅ、おっきくな、るぅぅ、はっ、ま、まるで、わたしにおち○ちん生えてるみたい・・・はあっ、はあぁあぁん!」  
「はっ、はっ、はっ、ヌルヌルして、クッ、くあぁっ」  
たがいに情欲を高ぶらせ、結合部と水面に映る自分たちの姿を見た。ますます高ぶる性感に耐えかねたように、男は樹精の耳に舌を這わせ始める。  
「ふゃぁぁああ!み、みみ、耳だめっ、すごく感じ、ああっ、ジンジン痺れ、ああぁぁあぁっ耳にナニか入っちゃ、うぅぅぅっ」  
敏感な耳たぶを嘗め回され、耳穴にねっとりと唾液を流し込まれて、樹精はゾクゾクッとその身を震わせた。また、その「身体の中に何かが流れ込んでくる感触」は性交を喚起させ、下腹部の甘い痺れをより一層強くさせた。  
「も、もう、ガマンできな、ひぃぃぃぃ」  
樹精は股間でいきり立つ男の男根を両手でしっかりと掴み、上を向かせて固定し、自らの秘部にあてた。  
くちゅり、と接触部から濡れた音がし、男の茎をねっとりと蜜が伝い落ちる。  
そのまま一気に腰を落とした。  
ぬぷっ、ぬぷぷぷぷっ  
「ああぁぁぁぁぁっ!は、挿入ってクるぅぅぅぅッ」  
「お、おおぉぉおおオオオ!」  
自ら男のものをくわえ込んだ樹精は軽く絶頂へと押し上げられ、男はまるで獣のような咆哮をあげた。  
そのまま休むことなく律動を開始する。  
 
「あ、ああ、や、やっぱり、ナ、ナカ、膣内がイイッ、いいのぉ」  
「この締め付けと、襞と、奥の感触、病み付きになるッ、おおおオオッ」  
男は腰ではなく乳房をつぶれるほど握り締めて腰を突き上げ、女はしばらく所在無げに手を彷徨わせていたが、やがて真っ赤にしこり立った己の肉真珠と左の乳首をつまむと、乱暴に押し潰しながら内股を力いっぱい締め付けた。  
突き上げ、締め付け、握り潰し、押し潰し、痙攣し、分泌する。  
互いが自分勝手に快楽を汲み出している。ただそれだけの動作のはずなのに、気が付くとパートナーを歓ばせている。  
互いの心と身体が、寸分の狂いも無く重なった瞬間だった。  
自分がとか、相手のためにとか、そんな限定なんて意味を成さない、快楽。  
「きゃん、きゃふぅうッ!もっと、もっと、いっぱい、はうぅッ、つよく、キモチいいッ、胸もあそこもきもちイイのオっ!」  
「くっ、くっ、くおぉッ、もっと奥まで、もっと激しくッ、まだ、まだまだ、強く撃ち付けたいッ!」  
ずちゅっ、ズチュッ、ちゅぷっ、ちゅぐっ  
ぱん、ぱん、ぱん、ぱん、ぱん、ぱん  
 
そんな二人の至福の時も、やがて終わりも迎える。樹精の膣内で男の亀頭が大きく膨らみ、勢い良く精液を迸らせた。  
「があぁぁアッ、射、射精るッ」  
ドクッ、ドプッ、どぷどぷどぷどぷ・・・  
精液は三度目とは思えないほどの勢いで噴出し、噴き出し続け、樹精の胎奥を突き上げ、膣内の襞の隙間を満たし、膣穴と肉棒の隙間から逆流した。  
「はっ、射精てる、射精てるぅ、わたしの膣内で、まだいっぱいどくどくイってるうぅぅ・・・・・・ふぁあああぁああん」  
男の絶頂と、最大級の射精を膣内で浴びせられ、その精液の感触で樹精もまた絶頂を迎えた。  
その締め付けがまた射精を促し、吐き出された精液が新たな絶頂を招く・・・。  
その絶頂連鎖が収まったときには、二人の股の下の草は愛欲の混合液でドロドロだった。  
男は虚脱して樹精にもたれかかって息を整え、樹精はぐったりと男に背中を預けて胸をあえがせていた。  
ハァハァと荒い吐息に弾む胸。その上で、二人の手が結び合わされる。  
「ずっと、ずうっと、一緒ですよ・・・」  
「離れるぐらいなら、死んだほうが、マシに決まってるさ・・・」  
そのまま目を閉じる二人。すると樹精の髪がスルスルと動き出し、渦を巻き、まるで繭のように二人を包んでいった・・・  
 
夜が明けた。どこまでも続いているような深い深い森の中、一箇所だけ開けたところにある泉に朝日が差し込んでゆく。  
あたりに人影は無く、ただ、脱ぎ散らかされた男女物の一対の衣服と、  
泉のほとりに瑞々しく葉を茂らせて立つ、一本の樹だけがそこにあった――。  
 

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