【魔法使いと騎士姫の幼馴染】  
 
 
「思ったより、だいぶかかっちゃったな」  
 
城門から出てきたロレットは、天を見上げて身震いすると、秋口の冷えた風を通さぬよう、ローブの襟元をきつくしめた。  
昼間明るく町並みを照らしていた太陽は町並みの向こうに沈み、青白い月が、薄い雲に半分ほど遮られている。  
白亜の巨城を背にしたロレットの眼下に映るのは、城下町に住む人々の生活の灯だった。  
それが、まるで見下ろせる満点の星空のように見え、ロレットは知らず知らず、感嘆を漏らしていた。  
 
(たった3年で、この町もだいぶ大きくなったんだな……)  
 
ロレット・エクセデアが3年前の13の時、騎士の名門の末弟にもかかわらず、  
故郷である王都を離れて辺境の魔術協会に入会したのは、それなりの訳があった。  
 
幼い時に肺病を患い、体の弱かった体質であったこと。  
それに加え、中性的で少女のような顔立ちが引きずるように、剣の才能も全く見出せなかったこと。  
そして既に3人の兄が、騎士として家名を継ぐに相応しい功績を成していたことなどが、主な理由として挙げられる。  
 
(あとは、なんだったっけかなぁ……)  
 
もうひとつ、他にもうひとつ、何か一番大切な動機を持っていた気がするのだが、  
ロレットは何故か思い出せなくなっていた。  
それでいて、喉の奥に刺さった小骨のように、常に忘れることができないものだった。  
 
剣の才はなくとも、幸い魔術の才には恵まれていたらしく、療養も兼ねて辺境の魔術師に弟子入りしたロレットは、めきめきと魔術師としての頭角を現していった。  
しかし、皮肉なことに時を同じくして、ここ、ルーンベルク聖王国で魔術師による国家反逆事件が起こされ、魔術師の立場は近年、国内で肩身の狭い立場に立たされたのである。  
ロレットがこの度、魔術師の免許を取るために、わざわざ王都まで戻ったのも、その余波によるものだった。  
厳正な検査と試験が成されるために、試験期間は一週間を要し、その準備手続きだけでも、朝から丸々一日かかるほどだった。  
 
そして今、ロレットは手続きを終えて夜遅くなったがために、城下町までの護衛の騎士を一名貸し出してもらうことになり、それを待っている最中だったのである。  
 
「付き添いねえ。僕の護衛っていうより、むしろ……」  
 
城門から少し離れた位置に立っていたロレットの後方から、かつんと金属の音色が響いた。  
 
「そうね。アンタが変なことをしでかさないための“見張り”ってことよ」  
 
「えっ……!?」  
 
振り返ったロレットが頓狂な声を上げたのも無理はない。  
左右に靡かせた長い金髪と、透き通るような蒼い瞳を持った少女がいつの間にか背後に立っていた。  
薄めの革作りの軍服の上に、王国の紋章が入った軽装備の白金を身にまとい、僅かに露出した肌は更に白い。  
目の覚めるような美しさだけではなく、凛とした端正な顔立ちのその少女に、ロレットは見覚えがあった。  
 
エルフィ・アークベルク。  
 
ロレットの実家であるエクセデア家に並ぶ騎士の名門の生まれにして、ルーンベルク聖騎士団の一員。  
若干16にして分隊長を務めるほどの実力と、幼さの残る美貌を兼ね備えた少女の名声は、  
ロレットが魔術の修行をしていた辺境にまでも届くほどで、道中、特に王都に入ってからは、幾度もその名を耳にした。  
 
「エルフィ……!? もしかして、君が……?」  
 
「そうよ、ありがたく思いなさいよね? 弱虫騎士見習い――いえ、もう魔術師見習いさん、だったわね。ロレット」  
 
エルフィが口の端を吊り上げて、いきなり嫌味を言った。  
 
顔見知り――どころか物心ついたときからの幼馴染だが、ロレットはひどく、この少女が嫌いだった。  
 
幼いころから頭も剣の腕も良く、可愛らしかったが、その外見と実力に比例してプライドも人一倍高い。  
騎士名門の血筋ながら満足に剣も扱えない、女にすら劣る体力のロレットを、エルフィはどこか見下したような態度をとっていたからだ。  
 
(嫌なのに会っちゃったなぁ……)  
 
ロレットが反射的に目を逸らすと、呼応するようにエルフィが歩み寄ってきた。  
 
「あら、ずいぶんとつれない態度じゃない。久しぶりなのに。そうそう、もうお家には顔を見せたのかしら?  
あなたのお兄様たちも、ずいぶん心配しているでしょう?」  
 
「別に……今更僕の顔なんてみたって、誰も喜ばないでしょ」  
 
騎士の名を捨て魔術に走ったロレットの存在など、エクセデア家では既になかったことにされている。  
 
そういうイヤミは魔術試験の手続きを行う際、城内でうんざりするくらい耳にした。  
 
(ああそうか、その噂を聞きつけて、エルフィが僕のところにきたのか……)  
 
ロレットはそっけなく王城に背を向けると、護衛の話もせずに、そのまま丘を下って城下町へ向かい始める。  
嫌な話題から逃げようとするロレットを、エルフィが追いかける構図になった。  
 
「たいぶ腕をあげたみたいだけど、魔法はどうなのかしら? でも残念ね。最近は王都でも魔術師は忌避されてるのよ。あと10年もしたら、魔術は全てこの国から廃絶されてしまうかもしれないわね」  
 
可愛らしい顔に似合わず、ロレットの痛いところをついてくる。  
なまじ過去を知った仲だけあって、その刃の先端も、心の鎧を縫う鋭さだ。  
 
(そういえば、レイピアが得意だったな、エルフィは……)  
 
一本道の見渡しのいい下り坂を、ロレットはずんずんと降りてゆく。  
松明はないが、雲が晴れた月と城下の明かりで迷うことはない。  
 
「そのときは、国を出るから平気さ……」  
 
「ふうん、剣と家を捨て、魔法に逃げ込んで、今度は国からも逃げるのね。騎士道の風上にも置けない弱虫にお似合いの答えだわ」  
 
「ッ……!」  
 
どうしてこう、この少女は自分に辛辣な言葉ばかり浴びせるのかとロレットは思う。  
少なくとも三年前は、ここまでひどい態度ではなかったはずだ。  
 
一時期は、ロレットと仲良くしていた時期もあったのに。  
あるときから、少女はロレットに対して嫌がらせばかりするようになっていた。  
 
そして、ロレットもそんな彼女のことが、いつしか顔を見るのも嫌いになっていたのだ。  
少女と口げんかをすることに意味はない。  
無言で歩みを続けると、やがて森に面した一本道を抜け、城下町に辿り着いていた。  
 
「もう、この辺でいいよ……」  
 
早足だというのに、ロレットにとっては異様に長い道のりに感じられた。  
 
「あら、宿まで送らなくていいの? 心細いでしょ? なんならトイレまで送ってあげてもいいわよ」  
 
「うるさいなっ! いい加減にしろよ!」  
 
道中からしつこく絡んできたエルフィに、さすがのロレットも我慢の限界がきた。  
懐に隠した杖を取り出してみせる。  
騎士でいうならば、それは帯剣を抜く行為に等しかった。  
 
「なあに、やる気なの? いいわ、どの程度腕を上げたか、試してあげる」  
 
そういって、少女は怯むどころか好戦的に微笑み、腰に差したレイピアに手をかけた。  
 
「…………」  
 
「どうしたのよ、先に攻撃させてあげるわ」  
 
――やめた。  
ついカッとなったものの、正式な免許もなしに、しかも聖王国お抱えの騎士団に魔法を使ったとあっては、勝負がどのような結果になろうと処刑されるのはロレットの方だ。  
 
そもそも、勢いで杖をとってしまったものの、本気で魔術をエルフィに使う気もなかった。  
 
「あら、怖気づいたの? そうよね、アンタにそんな勇気なんてないわよね」  
 
それに、冗談でもなく誇張でもなく、エルフィは強い。  
三年前の時点で、同年代の男の騎士見習いで、彼女に勝てる人間は一人もいなかった。  
今現在、その才能が曇ることなく一層輝きを増しているのは、目の前にした気配から十分に伝わってきた。  
だが、ロレットが学んだ魔法も強力なもので、それこそ戯れに使えるものではない。  
それゆえ選択肢は、初めからなかったのだ。  
 
「ふうん、ちっとも変わってないのね。まあいいわ。いくらでもチャンスはあるもの」  
 
「どういう意味?」  
 
「ちょうど聖騎士団から任務を授かったの。魔術の免許取得中。あなたのお目付け役を任されたから」  
 
「えっ……」  
 
「見張っててあげるわ。アンタがおかしなマネをしないように――いえ、アンタが試験から逃げ出さないようにね。楽しみだわ」  
 
不適な笑みを残してエルフィが踵を返し、城の方へ消えてゆく。  
最悪だ。と、ロレットは苦虫を噛み潰すと、エルフィの消えた一本道に背を向けて、宿探しに歩き出した。  
 
 
 
「はぁ、気が重いなぁ……」  
 
城下町に着き、エルフィと別れてから、数刻後。  
辺境から王都までの長旅で疲れていた体に反して、エルフィとの邂逅ですっかり目が冴えてしまったロレットは、酒場で安酒を一杯あおった後、夜風を浴びながら、再び宿を探して街中を散策していた。  
あてどころもなく歩いていると、ふとエルフィに見送られた森の近くまで、再び戻って来ている事に気づいた。  
王城も既にほとんどの明かりが消え、一日の終焉を告げている。  
 
(そういえば、マスターはまだ王宮だろうか?)  
 
ふと、辺境からロレットの試験に合わせて出てきた師匠である魔術師、ベルモットのことが気にかかった。  
 
妙齢の美しい女性でもあることが気にかかったが、不安は抱いていない。  
それ以上に、大魔術師としての実力と知性を兼ね備えていた人物だからだ。  
 
(……あれ?)  
 
視線を城下町に戻そうとしたとき、ロレットは違和感を覚えた。  
森の中に、ふと小さな明かりが見えたような気がしたのだ。  
 
山火事を防ぐために、松明を持って――つまりは夜に森に入ることは禁止されている。  
その明かりも、見間違いかと思うほどの早さで消えた。  
 
「…………」  
 
そのときロレットは、別段に不穏な気配を感じたわけでも、胸騒ぎを覚えたわけでもない。  
にも関わらず、そのともすればなんでもなかった出来事に食いついたのには、いくつか理由ある。  
 
酔い覚ましに少し散歩をする理由が欲しかったこと。  
夜に森の中を歩いている言い訳ができたこと。  
そして、もしかしたら身に降りかかるかもしれぬ危険を払える実力がついていると驕っていたこと。  
そして、ロレット自身が酔っていたことが最大の原因だった。  
 
(よし、ちょっと調べてみるか)  
 
ロレットは、気配探索の魔術を用いて、森の光を追ってみることに決めた。  
 
暗い、そして深い森の中を進んでゆく。  
すぐに気づいたのは、森に入っていった4〜5人の人間が、樹海の深くで歩みを止めたこと。  
そして彼らは、明かりをなくして進めるほど、この誰も来ない森の仕組みに精通した人間たちであることだった。  
 
(まずったなぁ。こんな時間に狩りってわけでもないし、どうみても盗賊の類だよなぁ……)  
 
うすうすそう気づいていながらもロレットが引き返さなかったのは、魔術による感知を習得したことによる好奇心が主だったが、危険に鈍感だったわけではない。  
この暗さと歩きにくさが幸いし、魔術で気配を感知できる距離さえ保っておけば、襲われることはないであろうと確信していたからだった。  
 
(あれ? 奥に明かりが――)  
 
気配に追いつくと、樹海の奥に開けた場所があった。小川の傍に建てられた少し大きめの小屋。そこからほのかなランプの明かりと、小さな声が漏れていた。  
 
(間違いない。盗賊たちのアジトだ。王城と城下町の近くによくいられるなぁ)  
 
ロレットは中の様子が気にかかったが、さすがにこれ以上接近するわけにはいかない。  
酔いも程よく醒めてきたところで、近くの木に登り、新たな魔法を発動させた。  
 
(よし、これで見える。どれどれ、中の様子は――)  
 
発動したのは、目と耳の感度を上げる魔法だ。集中力がいるために身動きは取れないが。幸いにも大きめの窓があることとカーテンがかかっていないこと。  
そして内側から照らされていることで、中の様子はほぼ丸分かりのはずだ、が。  
 
(え……!?)  
 
だが次の瞬間、ロレットは一気に術を解いてしまいかねないほどの動揺に襲われた。  
窓の中に、少し前に再会したばかりのエルフィの姿があったからだ。  
それだけではない、斜めに傾いた十字架の板に磔にされ、眠っているように薄く目を閉じた顔の下は、胸を覆う薄布とショーツを除いて、全ての衣類を剥ぎ取られていた。  
 
(な、どうして……!? しかも、はだっ……)  
 
ロレットの頬が酒とは別のもので高潮し、心臓が高鳴った。  
感覚向上の術が切れかけて視界がぼやけ、鼓膜に砂嵐のようなノイズが走る。  
 
「くっ……!」  
 
反射的に登っていた木の幹に拳を打ちつけ、痛みで冷静さを取り戻す。  
再び術を発動させると、やはり見間違いではなかった。  
 
『それじゃ、早いところ始めようぜぇ』  
 
声と同時に、小屋の中に、エルフィとは別の3人の男がロレットの目に映った。  
 
頭の禿げ上がった中年男。腹の出た口ひげの男。若そうだが、薄汚い乞食のような姿の男。  
3人の纏う雰囲気は野盗そのものだったが、そんなことはどうでもいい。  
 
(どうして、エルフィが……!? さらわれたのか?)  
 
剣の腕も立つエルフィが、あっさりさらわれた理由の不可解さについては、今はどうでもよかった。  
考えるべきは今現在、彼女は貞操または命を失う窮地に立たされており、ロレットがその第一目撃者となっているという事実だった。  
 
『しっかし、いい買い物をしたもんだ。なぁ兄弟』  
 
『ああ、こりゃ今まで掠め取ってきたお宝なんかとは比較になりゃしねえ』  
 
盗賊たちは上機嫌で下品な笑い声を上げ、その一人の腹の出た男が、磔にされ眠っているエルフィの胸に手を伸ばす。  
 
『んっ……』  
 
(あ……)  
 
寝顔は天使のように無垢な、エルフィの声が聞こえたような気がした。  
 
白地の薄い布生地をめくり上げ、ぷるっと真白い二つの小ぶりな乳房が露になった瞬間、野盗たちが息を飲むのが、ロレットにも伝わってきた。  
 
『おおお……』  
 
『……ガキみてぇな顔のクセに、なかなかいいもの持ってんじゃねえか』  
 
いかにも感心したような男の台詞だが、興奮で上ずっているのが丸分かりだった。  
 
(きれいだ……)  
 
と、それを目にしてしまったロレットは不覚にも思った。  
折れてしまいそうなほど細い体に滑らかな起伏を描く艶かしい二つの肉の塊は、妖精のように美しい少女が、一匹の牝として成熟しつつあることを、否が応でも分からせてくれる。  
 
ごくりと生唾を飲み込んだ男たちが手を伸ばした瞬間、ロレットの視界には入らない小屋の中から、くぐもった妙な声が聞こえた。  
 
『早まるなよお前ら。儀式が先だ。呪を唱えてからでなければ、《隷属の契約》は行えん』  
 
(なんだって……?)  
 
唐突に死角から聞こえたその声と内容に、ロレットは内心、ぎょっとした。  
 
(儀式、呪い、隷属の契約……。こいつ、魔術師か!?)  
 
もうひとり小屋の中に存在していた人間が魔術師であったこともさることながら、その台詞の内容にロレットは戦慄した。  
 
隷属の契約というのは、特製の媚薬を対象に塗りこみ、術をかけ、異性の体液――この場合は精液を胎内と口内、肌に浴びせかけることにより発動する。  
そして対象を犯した人間との性交依存症にし、それなしでは生きられない性奴隷を作り上げる禁忌の呪術だ。  
 
術の使用はもちろん、媚薬の作り方も術を学ぶことも教えることも、ルーンベルク王国では処刑ものの厳罰をもって禁止されている。  
 
魔術に深い造詣を持ち、かつ歴史と裏事情に通じていなければ、できることではない。  
そういうロレット自身も、ベルモットに冗談のように話題を一度振られて知っていたレベルだ。  
 
(こいつ、何者だ――? よほど名のある魔術師じゃないのか?)  
 
などと、ロレットが熟考していられたのは僅かな間だった。  
 
『わかってますって、ぐへへ……』  
 
そう答える野盗たちは、魔術師を見てはいなかった。  
ただ、無垢な寝顔を見せる、若い騎士少女の胸の膨らみを血走った目で見つめているだけだった。  
 
『始めるぞ、まずは全身に媚薬を塗りこめ』  
 
『へへへっ、待ってました』  
 
そこで、野盗たちに一歩歩み寄ったおかげで、僅かに魔術師の姿が見えた。  
仮面にローブまとった姿の、男女の区別もつかない姿。  
それが懐から取り出したのは、蜂蜜のような琥珀色の液体が入った小型の瓶だった。  
媚薬に間違いないだろうそれを、薄汚い男が受け取り、中身を人差し指で掬い取る。  
そして、エルフィのさくらんぼのような艶やかな唇を割り、口内にその指を忍び込ませた。  
 
『んんっ……んうッ……』  
 
つぷりと、口内に異物を入れられて、愛らしい寝顔がかすかな苦悶に歪む。  
 
『おおおっ、あったけぇなぁ……』  
 
薄汚い男が指先で口内をかき回す。まずは舌の上に広げるように蜜を塗り、舐めさせた指を再び瓶に戻しては、今度は二本の指で更にたっぷりの媚薬を掬い取って、口内から抜き差しし始めた。  
 
『いい眺めだぜ、さっさと俺の一物もしゃぶらせてぇなぁ……』  
 
『おいおい、遊んでんじゃねえよ。さっさと飲ませろ』  
 
『いいから待てって……、すげぇ気持ちいいぜぇ、お嬢様のクチん中』  
 
まるで、エルフィの膣自体をかき回しているような声と表情で、薄汚い男は、エルフィの口腔を蹂躙し続ける。  
 
『んっ、ふっ……。ふぐっ……ちゅるっ……』  
 
早くも媚薬の影響が出始めているのか、苦しそうに眉根を寄せるエルフィの寝顔の頬に、うっすらと赤みが差し始めていた。  
 
(エルフィ……)  
 
半開きにされた口から、綺麗な舌を野太い指につままれているのが見えた。  
更に男の指が唇を撫ぜ、歯茎の裏まで丹念に擦りあげている。  
 
『んっ……んんぅ……んくっ……』  
 
二本指を深く差し込んでは引き抜きを繰り返すうちに、ちゅぷちゅぷと唾液が溢れ始めていた。  
仰向けのため、溢れた逃げ場のない唾液を自分で飲み込んでいるのだろう。  
こく、こくっと時折嚥下のためにエルフィの喉が震えた。  
媚薬の唾液割りを、男の二本指で時間をかけて飲まされていく年頃の幼馴染の姿は、未だ性交を体感したことのないロレット目に、これ以上もなく淫靡に映った。  
 
(な、何を考えているんだ僕はっ……! そんなことより、助けを呼ばなくちゃ!)  
 
とは思ったものの、すぐに途方に暮れてしまう。  
城下町にせよ王城にしろ、この森の深くでは助けを呼びに行ってから戻る前に、最低でも半刻はかかる。  
だが、目の前に行われている静かな陵辱を見る限り、エルフィが処女を失い、秘肉に白濁液を注がれ、野盗たちの性奴隷と化すには十分な時間だろう。  
 
貴族の家の子女にとって、婚姻前の貞操は命より重い。特に王国名門の令嬢と呼ばれる少女だ。  
しかも『隷属の契約』は、完全な解除方法のない魔術と聞いている。  
万が一助けが間に合わなかったら――エルフィは立場を失うどころの話ではない。  
人生そのものの破滅が待っている。  
 
『しょうがねえヤツだ。唇なんてガキじゃあるめえし。……っと、まだ熟れてねえが、こっちもなかなかいいぜ』  
 
その声にロレットはハッとした。  
 
『んあぅ……っ!』  
 
腹の出た男が、媚薬を塗りたくったエルフィの乳房を揉みしだいていた。  
揉むというより握るほど力を込めているのか、男の指の隙間から小ぶりな柔肉がはみ出ている。  
未成熟だが柔らかく、それでいて十分な張りを備えていることが、男の指が離れる度に綺麗なお椀形を取り戻すことで、遠目にもうかがえた。  
 
『あっ、うあっ、あああうっ……。あああっ……んんぅ……』  
 
白い二つの柔肉と、その先端でツンととがった桜色の乳首は、媚薬の粘液に包まれ、男の無骨な指に弄ばれ、テラテラと卑猥な輝きを放っていた。  
 
唇を指で犯していた男は、調子に乗って可愛らしい耳たぶにまで舌を這わせ、禿頭の男は、最後に残ったショーツの上から、秘裂の縦筋にそって、その柔らかさを愉しむように、ゆっくりと指を上下させていた。  
 
(エルフィ……)  
 
そんな淫猥な光景を目の当たりにしつつも、ロレットの心中は興奮ではなく、深い悲しみに満たされていた。  
あの強気で自信家な少女が、もっとも嫌いな類であろう輩たちに大切な体を弄ばれている。  
 
ロレットの今の立場を鑑みれば、エルフィを助けないという方策もあった。  
魔術師は肉弾戦と多人数に弱い。  
小屋ごと燃やし尽くすならともかく、エルフィだけを助けられる魔法は、今のロレットは手にしていなかった。  
 
それを打ち破る手段は、ロレットが師匠ベルモットより授かった護身用のアイテム。  
『魔弾』と呼ばれる魔法の矢を使う以外にない。  
しかし、これは矢本体を投擲するのではなく、対象めがけて魔力を込めることにより敵の心臓を止める、いわば死の呪いをかけるアイテムであり、そのような強力な魔法を役人の許可なく使うことは、現在のルーンベルク領内では重罪であった。  
 
エルフィを救うという建前で、それが無罪となるかは五分五分だ。  
ましてや、今は魔術師の免許を取りに赴いている身分だ。  
仮に罪が赦されたとしても、ロレットの未来とも言うべき魔術師の道の、大きな障害になる可能性がある。  
自分を毛嫌いしているエルフィを救うことに、それだけのメリットがあるのだろうか。  
 
だが――。  
 
『よおし、そろそろいくぜぇ』  
 
そうこうロレットが思考しているうちに、禿頭の男が磔にされたエルフィのショーツを、太ももの間からゆっくりと引き抜いた。  
 
なだらかな白い腹の下に現れたのは、淡い生えかけの柔毛と、乱れのない薄紅色の縦裂。  
幼馴染だったロレットですら初めて見る少女の花弁は、下着の上からの愛撫に反応して、既に薄く塗れ光り、うっすらと花開こうとしていた。  
 
『こりゃあすげえや、こんな綺麗な入り口は初めて見たぜぇ……』  
 
禿頭男の指が、くっと割れ目を押し広げる。  
そして、そこに媚薬をたっぷりつけた指の第一関節をそっと差し込んだ。  
 
『あっ、つうっ……』  
 
目を閉じたままのエルフィの顔が、今までにない苦悶に歪む。  
処女膜に到達しない位置で、男に指を挿れられる痛みに間違いなかった。  
 
『っと、さすがにきついな』  
 
『まあ、すぐに奥までほぐしてやろうぜ、へへ……』  
 
『では、今から術をかける。少し離れている』  
 
久々に仮面のローブの声が聞こえ、男たちは名残惜しそうに十字架から離れた。  
 
(まずい! もう儀式を始めるのか……!)  
 
迷っている時間は、もうなさそうだった。  
助けを呼ぶには、明らかに時間が足りない。  
 
(っ……よし!)  
 
それを見て、ロレットは懐の《魔弾》を握り締める。  
術を発動可能にするための詠唱を呟き、そして、注意深く様子をうかがった。  
 
ロレットが立場の危険を顧みず、敵対者であったエルフィを救うことを決めたのは、恩情を期待してのことでも、正義感に駆られたからでもない。  
 
何か言葉にできない衝動のようなものに突き動かされて、ロレットは生まれて初めて、魔法で他者の命を奪うことを決めた。  
 
(問題は、あの魔術師だ……)  
 
野盗たちは問題なく殺せる。呪い対策の護符(アミュレット)をつけているわけでもないし、魔法をかじって抵抗する術も持っているようにも見えない。  
距離をとって、エルフィの体に夢中になっている隙を突けば、そう難しくはない。  
 
だが、仮面の魔術師の方、禁忌の魔法を使いこなしていることからも、おそらくは相当魔法に精通した人間であることは疑いない。  
 
護符で防がれることも困るが、その種類によっては、魔法を反射されロレットが死に至るケースも想定できた。  
 
(肉弾には自信がないけど、どうにかしてあの魔術師だけは遠ざけないと――)  
 
ならば魔術をかけている今が唯一のチャンスなのだが、手元に物理的な武器がない上に、野盗たちが手持ち無沙汰になって、仮面のローブの周囲にいる。  
 
この状況では魔術師を殴り倒せても、すぐに野党たちに取り押さえられる。  
 
(焦るな……! 失敗は許されない……! でも、チャンスは来るのか?)  
 
ロレットは木から下りて、小屋の傍の大木に身を寄せる。  
再び感覚を研ぎ澄ます前に、仮面の声が聞こえてきた。  
 
『よし、術式は完了した。あとは好きに犯せばお前ら専用の肉奴隷となる。  
私は町に戻っているから、後始末は頼んだぞ』  
 
『おお!』  
 
野盗たちの歓声と共に、小屋の扉が開き、仮面とフード姿が外に出て行く。  
ロレットが隠匿の魔術で気配を殺していると、気づかずにそのまま森の外へ向かっていった。  
 
(しめた!)  
 
どういう段取りになっていたかは知らないが、千載一遇の好機がきた。  
 
《魔弾》を握り締めたロレットが腰を上げる。  
そして、草薮から飛び出して走り出すと、カギのかかっていない扉をこじ開けて、一気に小屋の中へと乗り込んだ。  
 
「うおっ……!?」  
 
「な、なんだテメェは!?」  
 
幸いにも、野盗たちは入り口から遠い位置で、エルフィを囲んでいた。  
予想だにしていなかった闖入者に驚く賊三名に、ロレットは問答無用で、既に準備を済ませていた、魔力を帯びた黒い矢を構える。  
 
「《魔弾》よ、心臓を打て!」  
 
投擲する動きと共に、一番手前の禿頭のめがけて腕を振る。  
一条の黒い線が、緩やかな軌道を描いて、そのまま心臓に吸い込まれる――と、同時に禿頭の男の心臓が止まり、糸を断たれた操り人形のように崩れ落ちた。  
 
「こ、この野郎ッ!」  
 
残り二人の野党がそれを見て臨戦態勢に入る。  
が、遅い。下手に近くに武器があり、それを取ろうとしたのが裏目にでた。  
 
「《魔弾》よ、心臓を打て!」  
 
手斧をとった腹の出た男が、獲物を振り上げるより早く、魔弾の呪いがその心臓を射抜いた。  
 
首尾よくいったが、同時にロレットに異常が起こる。  
 
(くっ……まずい!)  
 
さすがに強力な呪術を連続で使ったために、精神の疲労が一気に蓄積する。  
視界がマーブル状に歪み、足元が泥沼のように崩れて、平衡感覚を失った。  
白昼夢のように、意識が一瞬途切れそうになるのを、ロレットは唇を噛んで堪えた。  
これ以上は自分自身も危険だ――が、最後の一人さえ倒せれば、この場は収まるのだ。  
 
最後の気力を振り絞って、ロレットは魔法を唱えた。  
 
「《魔弾》よ、心臓を打て!」  
 
同時に、ビィン! と、ばね仕掛けのような金属音がロレットの耳を横切った。  
クロスボウの発射音だ。  
だが、幸運にもふらついたロレットから矢は逸れて、開いたままの扉の外に飛んでいった。  
 
「っく……」  
 
魔術の疲労でたまらずロレットは膝をつく。  
猛烈なめまいに襲われて、視界が黒と白の交互に塗り潰された。  
 
(お願いだ――もう魔法は使えない。これで生きていたら……)  
 
祈るような気持ちと姿勢のまま、一分、二分と時間が経つ。  
ようやくロレットの双眸に視力が戻ると、そこには三人の野盗たちが倒れていた。  
 
(よかった、本当に……)  
 
エルフィの自分に対する態度は嫌いでも、努力を怠らず毅然と振舞う少女の性格は好きだったし、何より自分を弱虫とののしっていた彼女をひとりで救ったことに、ロレットは胸をなでおろした。  
 
「っと……、うわッ……」  
 
拘束を解こうと近寄って改めて見ると、エルフィはすごい格好だった。  
儀式の途中のためか、野盗たちに撫で回され、媚薬を塗りたくられた全身は艶かしく光っており、肌は上気し、その表情は切なげに歪み、熱い吐息を漏らしている。  
 
まるで男を求めて淫夢にうなされているような少女の青い肢体に、改めてロレットは興奮を覚えた。  
助けたは良いが、もしこの状況でエルフィに目を覚まされたら、ロレットは殺されかねない。  
なるべく眩しい裸体を視界に入れないようにしながら、ずりおろされたショーツを引き上げようとしたそのとき、声が聞こえた。  
 
「やれやれ、まさか外にネズミが潜んでいたとはな……」  
 
「なっ!?」  
 
気づけば、背後にさっきの仮面のローブ姿が立っていた。  
しかし、ロレットはそれが分かっていてもかすかに首が振り向けるだけで、体の身動きが取れない。  
 
振り向いて見えた仮面の手には、赤い魔方陣が浮かんでいた。  
ロレットが魔術書で見た覚えのある、体の動きを操る魔法だった。  
既に先の戦いで魔力を使い果たしたロレットに、抗う術は残されていない。  
 
「どう、して……?」  
 
「さっき、背後から、この矢が飛んできてな」  
 
片手で魔法を使いながら、魔術師がロレットの目の前に、一本の小さな矢を放り投げる。  
見覚えがある。最後のゴロツキがロレットに向けて放った、あのクロスボウの矢だった。  
 
「ゴロツキどもが私を裏切ったかと思ったが、この木々に囲まれた森深くで、あんなものに頼るとは考えにくかったのでな。  
しかし、意外だったぞ。この結果は」  
 
「くッ……!」  
 
抵抗を試みたが、失敗に終わる。ロレットの持つ護符でも防げないほど、魔法の威力が強い。  
魔術師同士の戦いは、完全な先手必勝に帰結する。先に術式を決めたほうの勝ちなのだ。  
ロレットが抗う術は、完全に断たれていた。  
 
「エルフィを……どうする、つもり、だ……」  
 
「その小娘は邪魔なのだよ。まあよい、お前が男で助かった。儀式の続きは、お前の手でしてもらおう」  
 
「な、何を――」  
 
仮面の魔術師が、床に転がっていた媚薬のビンを取る。  
そして、背後から忍び寄ると、半開きのロレットの口元で、それをゆっくりと傾けた。  
 
「ふふふふふ……」  
 
「うっ、ぐっ……」  
 
熱い――酒のようだが、アルコールよりも甘さがロレットの舌を侵す。  
そして、次の瞬間。全身が発火したように熱を帯びた。  
 
(な、なんだ――これっ!?)  
 
「んん……、う……」  
 
肉体操作の魔法により、なす術もなく媚薬の飲み込まされていくロレットの視線に、うっすらと目を開きかけたエルフィの姿が目に入った。  
 
「ほう、子供だと思っていたが、なかなか立派ではないか。これなら無事、努めは果たせそうだな」  
 
仮面の魔術師が笑い声を上げる。  
気がつけば、ロレットの半身は異様なまでに硬く、熱さを帯びてそそり立っていた。  
 
「まさかッ……!?」  
 
「くくくく……」  
 
仮面の魔術師が指先を動かすと、ロレットは自分の意思とは無関係に、エルフィの白い胸の膨らみへ、ゆっくりと手を伸ばしていた。  
 

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