静かに打ち寄せる波の音が、遠く離れたこの地まで届くことはない。  
確かにハンス港はアーダット侯爵家の領地内にある。  
だが、侯爵家の城から港までは駿馬を飛ばしても半日は掛かる距離にある。  
延々と繰り返される細波(さざなみ)の声は、彼のうちにしか聞こえていなかった。  
「ジルス様、『最果ての国』からの船が港に到着したとの報せがありました」  
「そうか……。1ヶ月、随分遅れたな」  
「最近、東では空も海も荒れ狂っているそうです。  
 航海の安全のために出発を3週間延ばしたものの、  
 結局は嵐に揉まれ更に1週間の遅れが出たと。  
 ただし、交易品には傷ひとつ付けていないから安心してほしい、とのことです」  
「……その言い草は、父親の方か、それとも娘か?」  
「娘の方です、今回もユザンス家の次男は同乗していないそうです」  
侯爵家に代々使えている老執事からの報告を聞き終えてから、ジルスと呼ばれた青年は、樫の木の机から窓へと目線を移す。  
硝子張りの大きな窓から、いつでも美しく整備されている庭園は一望できるけれども、青い海など見えるはずがなかった。  
 
 
「そんなこと言うならあなたもあの嵐に遭ってみればいいのよ、ジル。  
 あの嵐で商品を守り通せたのは奇跡に近いんだから」  
「その代わり、商品の数はいつもの半分以下。  
 これじゃあ王都には運べないな、父上も陛下も楽しみにしておられるというのに」  
「お偉いさん方の事情なんて知ったこっちゃないわ」  
栄えある侯爵家の御曹司に食って掛かる、見慣れぬ「色」の娘。  
帆は裂け、柱も何本か折れた、正に満身創痍の船。  
東で起きた荒波がいかに激しいものであったかを見る者全てに生々しく伝えている。  
最早修復は不可能であろうその船から、積み荷を運び出す男たちの群に、彼女は混ざっていた。  
「今回もケリー・ユザンスは来なかったのか、サナ」  
「こっちでの商売はしばらく私に任せるってさ。  
 殿様の機嫌がようやく好くなりそうだって、父さん喜んでいたから」  
沙那と呼ばれた少女は、さも自分のことのように嬉しそうに、長い緑の髪を揺らした。  
沙那・ユザンスはここより遙か東の彼方にある『最果ての国』の生まれだ。  
しかし、彼女の父親のケリー・ユザンスは、アーダット侯爵領で随一の商家・ユザンス家の出身である。  
家督こそ継げないが、それ故に自由に動けた才覚のある彼が、新規開拓と称して宛てもなく船出したのが今からおよそ20年前のこと。  
航海の末に死んだと思われた彼が、再びハンスの港に現れたのは、4年前とまだ記憶に新しい。  
彼の横から片時も離れない、背の低い緑髪の少女は、見る者全てに鮮烈な印象を与えた。  
アーダット領で、いや西の国々の誰にもない緑の髪は、東の国々の人たちが持つ身体的特徴のひとつだ。  
金や銀、茶に赤など、個々人異なる髪を持つ西の人に対し、  
『最果ての国』を初めとした東の国の人たちは、全員が緑の髪を持っているらしい。  
さらに付け加えれば、彼らは皆、黒曜石のように黒い瞳をその目に宿しているという。  
しかし、沙那の場合、それは当てはまらない。  
彼女は蜜をほんの少し煮詰めたような色の瞳をしていて、それは父ケリー・ユザンスの瞳とほとんど同じ色だったからだ。  
「君はまだ17歳だろう?しかも女性だ。  
 君にここでの商売の全てを任せるなんて、ケリーは何を考えているんだ」  
「あーら、私の国のこと、知りません?  
 私の国ではね、13、4も過ぎればもう大人なのよ?  
 私みたいなのなんて、全然珍しくないんだから」  
小さな沙那の両腕いっぱいに抱えられていた積み荷が、同乗していた船員の手に引き取られる。  
彼は紛うこと無き東の人だ。そして西の言葉はまるで分からないらしい。  
沙那がアーダットの人間と商売の話をしていると勘違いしたのだろう。  
日に焼け、鍛えられ黒光りする太ましい腕に、積み荷は軽々と持ち上げられ、近くの市場へと運ばれていく。  
「あー、ちょっと……私が運びたかったのに」  
「何が入ってたんだ?」  
「金細工の髪飾りよ。金を細く延ばして重ねた逸品でね、  
 素晴らしいものよ、お金があれば私が欲しいくらい。  
 だけど壊れやすいから私が運んでいたの」  
「……君が運ぶと逆に壊れそうだけれど」  
「何か言いましたかしら、ジルス・アーダット次期侯爵さま?」  
 
にーっこりと微笑みを湛える沙那であったが、その声には茨のような棘がいくつも刺さっている。  
ジルスは首を軽く横に振った。父親がこの国の生まれであるとは言え、彼女の気質は『最果ての国』人そのものである。  
相手が貴族だろうが何だろうが、その姿勢を崩すことは一切ない。  
そんな彼女と話していると、時々違和感がふっと現れる。  
そしてすぐに消える。何故だろうか。  
年齢にしては背が低いからか。緑の髪に蜜色の瞳、その組み合わせがおかしいからだろうか。  
 
西の国の貴族は、いくつも屋敷を持っている。  
もちろん本邸は領地内のあるべき場所にあり、それは豪奢な佇まいをしているものだ。  
その他の屋敷、つまり別邸なるものをどこに置くかは、その家の性格に任されている。  
アーダット侯爵家の別邸のひとつは、ハンスの港からそう離れていないところにあった。  
「窮屈そうだね、何度目だっけ?」  
「6かいめ……、だけど、慣れない……」  
その屋敷への招待を受けた沙那は、先日の威勢のいい態度はどこへ行ったのか、落ちそうなくらい柔らかい椅子の上で縮こまっていた。  
テーブルを挟んで向かい側に座るジルスは、至って平静であった。  
無駄などひとつもない、流麗な動作でティーカップを持ち、紅茶を飲み、時折焼菓子を摘む。  
対しての沙那は、紅茶を飲むにしたって一苦労だ。  
この広い客間にメイドが一人もいないのが唯一の救いだった。  
「大福が食べたいよぅ……」  
「ダイフク?君の国の菓子か?」  
「聞けば分かるでしょ」  
「美味しいなら是非、僕も食べてみたいな」  
「運んでいる最中に腐るから却下」  
香り高い紅茶を一口啜ってから、沙那は山盛りのクッキーにようやく手を付けた。  
さくさくとした食感が楽しくはあるが、彼女にとっての菓子とは、大福や団子などを指す言葉である。  
「ここで作ることは出来ない?」  
「小豆がないならまず無理よ。大体、料理はあまり得意じゃありません」  
「そんなことはメイドにでも任せればいいだろう」  
「……お気楽ですこと。  
 それで、本題は何なの?」  
完全に熟れる前のオレンジの果実。その色にも彼女の瞳は似ている。白い肌の上にはそばかすが浮いていた。  
対するジルスはプラチナブロンドに紫の瞳と、まあ西の貴族らしい色をしている。  
昔から変わらずのその容姿で、穏やかな気質を持ち、更に聡明と来たものだから、彼は領民に人気があった。  
何せ、ケリー・ユザンスとその娘、沙那の話を受け、『最果ての国』との交易を決断し、父侯をも説き伏せたのは彼なのだ。  
そのおかげでアーダットは益々の発展を見せている。  
最近、金持ちの間には、かの国の大胆な色遣いを用いた絵の収集が流行となっているが、そのきっかけ作ったのも彼と言っても過言ではないだろう。  
「君の船のことだ。あれではもう航行は無理だろう」  
「何だ、商談じゃないのね。  
 船のことなら気にしなくていいわ。  
 商品が傷つくことなくここに到着出来て、それだけで運が良かったもの」  
「……帰らないのか?」  
考える間もなく、反射的に返したその言葉に、希望のようなものが混じるのは仕方のないことだろう。  
解せない行動もする彼女のこと、すぐに落胆することとは分かっていても。  
「帰るわよ。船ならもう造船所に頼んでおいたから、心配はないわ」  
「その金はどこから出すんだ?  
 いくら商家とは言え、そう気軽に買えるものでもないだろう?本家に頼んだのか?」  
「……見ての通り、私は東の人間。  
 父さんがいればその手も使えただろうけど、私だけじゃ交渉に何年かかるか分からないわ」  
大体本家には、私が父さんの子供だと認めない一派もあるらしいしねー。  
沙那は笑顔で好ましくない事実を吐きつつ、紅茶をまた一口含んだ。口腔内で転がして遊ぶ。  
「……当てがないなら、アーダット侯爵家が負担する。今日はその話で君を呼んだんだ」  
口の中で転がる紅茶、行く先も知らず転がる話。  
生まれつきの商人たる彼女に翻弄されながらも、ジルスはようやく本題までたどり着く。  
「とても、お優しいのね、侯爵様」  
「君たち親子の商家がここで貿易を始めて、領内は更に栄えた。その礼がしたい」  
「だけどお生憎様、あなたの手を取らずとも、間に合っていますので」  
一瞬。それは僅かな間だ。しかしその間、確実に、ジルスの頭は白に染まった。  
「…………どうするつもりだ?」  
彼のプラチナブロンドは、それは素晴らしく輝いていたが、今この時に限っては、紫の瞳の方が鋭く光っていた。  
雨露に濡れる菖蒲よりも輝く紫。素直に綺麗だと思う。  
 
「古風な手段よ。お輿入れ。  
 少し生き遅れている身だけれど、商売が上手く行っているものだからね、嫁の貰い手はあるのよ。  
 私は一人娘だから、家の商売と一緒に私も貰ってくれて、その上大金持ちの殿方って言うのはそこそこにはいるのよ?」  
輿入れ。生き遅れ。どこの言葉だ。  
この言葉は聞き取れた。嫁。言葉の意味が後からついてくる。  
「跡継ぎを作らなくちゃいけないから、しばらくはここに来れなくなるね。  
 その間は父さんと旦那にやってもらうことになるから、その時は」  
「駄目だッ!」  
次がれるはずの言葉は、それよりも大きな声に遮られた。  
自分よりも3つも年上の男が、燃える瞳で自らを見下している。  
先ほどまでは、どこまでも優雅であったのに。  
いや、この男は怒っていても優雅であり、貴族然としている。  
「何をそんなに怒っているの、あなたの問題じゃないでしょう」  
ここは彼の領域なのに、今平静を保っているのが、異邦人である自分であるという事実に、沙那はおかしくなる。  
この男が恋慕のようなものを自分に向けていることは、前々から何となく気づいていた。  
それを利用したことも何度かある。  
自らの立場を客観的に正確に理解しているならば、そんな感情を抱くことすら間違いと分かるはずだろうに。  
年上なのに、甘い感情を持ち合わせている彼が少しだけ羨ましかった。  
「君は、僕の……!」  
「あなたの気持ちなんて知るわけないでしょ、ジル?」  
沙那はジルスをわざと愛称で呼んだ。  
領民ですらない、ただの異邦人に、こう呼ばせること自体がおかしいのだ。  
あざ笑う商人の瞳は、夕焼けの色にも似ている。  
それはそれは、残酷な色であった。  
笑みにより細められた目の中にその色を見た時、ジルスの中の何かが切れた。  
 
 
「だったら、教えてあげるよ……」  
その声音は、いつもより低かった。異様なまでに低かった。  
それを聴いたから、沙那は自分が失態を犯したことに気づけた。……ようやく。  
さりとて、それで冷静さを失う彼女ではない。  
「……本題が終わったのなら、帰らせてもらいます。  
 他の取引が残っているから」  
沙那は立ち上がる。作法などまるで気にせず、足で蹴るように椅子を退かすと、  
そのままジルスの顔も見ずに踵を返し、まっすぐに扉に向かおうとした。  
だが、たった2、3歩歩いただけで、その腕をジルスに掴まれてしまう。  
無言で振り払おうとしても、掴む力が強いし痛い。  
「……離して」  
「嫌だ」  
「子どもみたいねェ、私よりも年上の癖して」  
「何とでも言えばいい。  
 ……そうだ、船の件をアーダット家に一任するなら、離してやる」  
少し、考える。悪い話ではないように聞こえる。  
事実、また彼を利用してそういう方向へ仕向けようと考えもした。  
だけど、最終的には別の手段を選んだ。それを曲げるつもりはない。  
「お断りするわ、離して」  
「……仕方ないな」  
何が仕方ないのか。純粋な疑問だが答えないだろう。  
ジルスは掴んだ腕を勢いよく引いた。  
口は減らないが非力な異国の少女は、抵抗する間もなく彼の胸へと引き寄せられる。  
沙那の身体を軽々と抱え、彼は奥の続き間へと向かった。  
 
続き間は寝室となっていた。  
さすが侯爵家、寝室と一口に言うが、沙那が滞在しているホテルの1室よりも2倍は広い。  
そんなことを考えている場合ではなかった。  
白いベッドの上に、些か乱暴に叩きつけられる。  
全身が跳ね飛ぶような寝具など故郷にはないなと考えるが、そういう余裕も本来はないはずだ。  
身体の大きな異国の人間に、組み敷かれている状況ならば。  
「私は商人だけれど、身体は安く売らないわよ」  
「……いくらなら売るんだ」  
「そうねぇ、せめて……」  
大粒の金剛石がたくさん買えるくらい、と嘯こうとしたところで唇を塞がれた。  
ほとんど同時にジルスの舌が沙那の口腔内に侵入する。  
歯茎をなぞり、歯列をなぞり、そして自らの舌がなぞられる。  
なぞる、と言うよりは絡まれる、と表現した方が正しいか。  
舌から伝えられる感覚が、存外に苦しくて、彼の舌から逃れようと抵抗するも、無意味に等しかった。  
深く激しい口づけで相手の余力を奪いつつ、ジルスは沙那の上着を脱がせにかかる。  
沙那は普段から、商売服と称して『最果ての国』の衣装を着用していた。  
その方が売れ行きがよくなるのだという。  
しかし今回ばかりはそれが災いした。釦もついていないかの国の衣装は、少しずらすだけですぐに柔肌が露わとなる。  
腰に巻かれた青い帯を緩め解くと、ジルスはようやく沙那の唇から離れた。  
沙那の息は乱れに乱れ、口からは透明の唾液がだらしなく垂れる。  
ジルスの口からも同じく細い銀糸が流れている。  
まだ高い日の陽光の下で、それは酷く卑猥に煌めいていた。  
沙那の頬は紅潮を始めていたが、目にはまだ力が残っているようだった。  
「ふふ……こんな、こと、して……楽しい、の?」  
……憎らしいことに、口もまだ達者である。  
彼は答えず、今度は彼女の首筋に唇を寄せ、吸いついた。  
赤く跡が残るほど吸いつかれては、叩き口も出ない。  
はだけた胸に実る丸い乳房を掴まれ、乱暴にこね回されては、軽口の代わりに喘ぐ声が漏れる。  
自らの手の中で自在に形を変える白い胸を、面白そうに絶えずいじりながら、ジルスが言う。  
「君の方こそ、楽しそうだけれど?」  
「た、たのしくなんか、なぁッ、あぅっ」  
「ほら、ここが硬くなってきたけれど?楽しくないの?」  
「だれが、たの……ッ、やぁっ!」  
丸い実の中心で硬さを増していく赤い蕾を、彼は指先で弾く。  
それから人差し指と中指で摘んで、引いて、少しだけねじる。  
少しずつ強まっていく刺激を、沙那はただただ受けるしかなかった。  
やがて、首筋から下へと下りてきたジルスの濡れた唇が、硬く膨らんだ胸の蕾を吸った時、沙那は耐えきれずに声を上げた。  
「ああっ、やっ、やめ……」  
先ほどまではまだ残っていた余裕が、沙那の顔から完全に消え去る。  
真っ赤に頬を染めて、苦痛に顔を歪める今の沙那は、若手の商人などではなく、  
官能の味を知り始めた只の女に過ぎなかった。  
ジルスは引き続き沙那の乳房を吸い、舌で押し込み、時に甘く噛んで快楽を与えていたが、  
先ほど出した喘ぎ声を屈辱と感じたのか、沙那は下唇を噛んで無理矢理に注がれる刺激に抗っていた。  
右手でくびれた部分を撫でようが、下腹をさすろうが、ぴくりと反応するだけで意地でも声を上げようとしない。  
だから、性急であると自覚はしつつ、彼女の秘された場所を探るしかなかった。  
 
彼女の服を脱がせた際、せめてもの慰めということで下半身の下着だけは残していたが、どうせ脱がすので無意味だった。  
それでも最後の砦が崩されるのを沙那は黙っては見ていなかった。  
下着に手が掛かったのを察知すると、最後に残された力で必死に身を捩る。  
が、体格からして違う男に押さえ込まれる。無駄な抵抗、それ以上でもそれ以下でもない。  
それでも男の嗜虐心というのは煽られるものだ。  
犯される寸前の屈辱に満ち、涙すら浮かべる沙那を見て、ジルスは微笑した。  
力のない瞳で自らを見返す沙那の耳に、低い声音でそっと囁く。  
「少し慣らしてから、よくしてあげるよ」  
沙那は顔を背けたが、ジルスは構わずに行為を続ける。  
何もかも取り払われた彼女の秘所に、人差し指を挿し入れる。  
そこはしっとりと濡れ始めていたが、男を受け入れるにはまだ足りない。  
まだ指1本だがきゅうきゅうと締め付けて離そうとしない柔らかな肉壁を擦ってやると、  
沙那もさすがに耐えられなかった。  
「あっ、ゃん、やめて、だめぇ……っ」  
「こんなことで音を上げていいのかな、サナ」  
一度入り口に戻って、てらてらと光る肉豆を摘むと、沙那の声は一層高まった。  
抜いて、挿して、強弱をつけながら擦り上げる。  
いやいやと拒絶の意を身体全体を使い沙那は示したが、しかしそこだけは本能に忠実であった。  
「……もう1本で我慢出来なくなったの?」  
「そんな、ことは」  
「じゃあ、2本でもいけるね?」  
彼女自身に何を訊いても、虚実しか返ってこない。  
だから彼女に訪ねても意味がない。  
自分勝手な理屈を信じ込み、今度は人差し指と中指を同時にねじ込む。  
一瞬だけ、沙那の呼吸が止まったが、何ら問題はない。  
むしろ、彼女の秘所は濡れに濡れ、もうこれだけじゃ足りないと哀願している。  
二つの指をばらばらに動かし、ぐちょぐちょと淫猥な水音を立てる彼女の中を更にかき混ぜる。  
ジルス自身の限界も近づいてきていた。  
 
 
ベッドの下に脱ぎ落とされた男女の衣類。  
何も纏ってはいない自らの身体。同じ状態の男の身体。  
口を、首を、胸を、そして、誰も触れたことのない場所を散々いじり回されて、沙那にはもう何かを考える余裕など残っていなかった。  
自らの奥が融けるように熱くなっているのを感じる。  
そことほど近い場所にある臀部は水浸しになっていて冷たい。  
熱いのに冷たい。ちぐはぐな気がした。  
もしかすると、航海中の嵐の時よりも酷い目に遭っているのかもしれない……。  
しかし、彼女にとっての「嵐」はこれからが本番だった。  
 
痛いほどにそそり勃つそれを、沙那は見ていなかった。  
経験のない彼女には、それが自分と何の関係があるのか分からなかったのかもしれない。  
この時点でほとんど呆然としていた彼女を現実に戻したのは破瓜の痛みだった。  
「……や、いやッ、痛い!」  
ジルスの"準備"の間は攻撃が止み、沙那は多少の体力を戻していた。  
それを振り絞って再度の抵抗を図るが、何度やっても無駄は無駄。  
熱い異物がじわじわと時間を掛けて、自らの内へと侵攻していく様は、恐怖でしかなかった。  
同時に感じる痛み。平行して襲い来る未知なる感覚。  
どうしても逃れたくて身体を捻れば逆に深く突き刺さる。  
更に余力を奪いに来るジルスの唇に自らの唇を塞がれ、絡まれ、吸い尽くされた。  
商才に恵まれる異国の少女は、呪いの贄のように身を貪られるしかなかったのだ。  
 
沙那の最奥まで自らを差し込んだジルスは、しばし停まっても痛がり続ける沙那を哀れんだ目で見ていた。  
ただの島国の娘の癖に、辺境に住む娘の癖に、逆らうから悪いのだ。自分から去ろうとするから悪いのだ。  
自分と彼女の結合部から、愛液に混じって赤い液体が滴り落ちているのを見て、彼は内心ほくそ笑む。  
彼女から全てを奪ってやった。奪うだけ奪って、もう返してやらない。  
そんな思いで彼は再び動き始める。  
沙那がうめき声を上げるが、意に介さない。  
痛いならば痛がるがいい。気にせずに彼は腰を打つ。  
「もう、だめ……ぇっ、ゆる、して……」  
沙那は涙ながらに許しを請うが、ジルスの耳には届かない。  
彼女の中はとろとろに溶けきっていた。それでいて、ジルス自身に食いついて離さない。  
ただ激しくなっていくばかりの動きに、彼女の視界には白い靄がかかり始めていた。  
やがて、彼女の中が大きく震え始めた。  
彼女が上り詰める間際に、ジルスはより深くより鋭く入り込む。  
「ジル……ッ!」  
ジルスの愛称を呼んで、沙那は果てた。  
同時にジルスも彼女の中に自らの欲望全てをそそぎ込む。  
最奥に余すことなく解き放つと、彼は沙那の中から自らを抜き出した。  
激しい行為の末に上気した肌は薄紅に染まり、首筋から胸に掛けて赤い花がいくつも咲き乱れていた。  
緑の髪は額に張り付き、目尻からはまだ涙が流れ出ていた。  
「サナ……」  
優しく名を呼んでも返事はなく、せめてもの報いと涙を指で掬い上げる。  
今は眠りにつく彼女を、他の男に譲るつもりはなかった。  
たとえ、彼女の気持ちがこちらへは向いていなくとも。  
 

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