コンクリートの壁と分厚いドアの所為でよく聞こえないが、近づいてくるのは男子生徒
のようだ。
──どうしよう。
男子生徒なら、女子更衣室には入らないだろう。ならばしばらくここに留まって、やり
過ごすか。今はなるべく人に見られたくない。もう今日は我慢するしかないと腹を括っては
いるが、できる限り人目に触れないようにしたい。
足音がドアの前で止まり、話し声が続く。
よりにもよって、女子更衣室の前で立ち話だなんて──どういうつもりなのだろう。
壁の時計に眼をやると、一時十二分を指していた。あと八分で五時間目が始まる。
早くここを出なければと思うのだが、ドアを開けるのを躊躇ってしまう。
何年生かは判らないが、男子生徒の前にこんな姿で出たくない。それに、昼休みの
更衣室にたったひとりでいるのを訝しがられたら、なんと答えれば良いのだろう。下着を
探しに来ました、なんて言うわけにはいかない。
いや──やましい事など無いのだ。変に意識するからびくびくしてしまうのだ。問い詰め
られるとも限らない。むしろ、そんな事になる方が珍しいだろう。
──もういいや。
見られるとは言っても、ほんの少しの間だけだ。何事も無かったようにここから出て、
そのまま教室へ戻れば良い。
ドアノブに手を伸ばす。
「かし、かしはら、だっけ?」
──え?
表の声が、はっきりと聞こえ、手が止まる。
「そうそう、柏原夕菜!」
私の名前だった──聞き違いではないかと耳を澄ます。
「一年、何組だっけ? 知らんけど、あれほんとすごいよなー」
「一年とは思えないって」
数人の声のうちひとつは、聞き憶えがあった。ほんの数十分前に聞いた声だった。
──保健室の、あの先輩……。
顔はよく思い出せない。背が高く、日焼けした肌と、臙脂のラインが入った三年生を示す
上履きが印象に残っているだけだ。笹野先生と親しげに話していた事から、保健室の常連
なのだろうというぐらいしか判らない。
「目の前で見てマジすげーって思ったわ」
「あの巨乳は一度揉んでみたいよなぁ」
「しかもノーブラだぜ?」
「うっは、乳首勃ってた?」
「勃ってた勃ってた!」
「うわマジ?」
「さおりんとエロい事してたんじゃね?」
「かもなー」
「お前、揉んだのか?」
「いや、それはないけど──」
「揉みたいよなぁ!」
彼らの会話に眩暈がしそうだった。
──やっぱり、気づかれてた……。
名前も知らない三年の先輩に、ブラを着けていないと気づかれていた。
さおりんというのは──そうだ、笹野紗織──
先生との事も、気づいていたのだろうか。いや、それよりも──彼女は噂どおり、校内の
生徒とああいう事をよくしているのだろうか──
胸が高鳴り、汗ばんだ身体がさらに熱を帯びてしまう。そんな気持ちは収まっていたはず
なのに、ぶり返してしまう。
──んっ……。
ノブに伸ばしていた自分の手が、胸に触れた。持ち上げるように包み、指で──
「はぁっ……」
乳首がきゅっと尖っている。指を動かすと、ぞくぞくとした刺激が広がってしまう。
──私、なんでこんな事……。
自ら乳首を抓んでいる私は、きっととても淫らな顔になっているのだろう。
いきなりドアが開いたら──こんなところを見られるわけにはいかない。
それなのに──
「夕菜ちゃん、やらせてくれねぇかなぁ?」
「やりてぇよなー」
「なんか暗い子だし、襲ったらおとなしくやらせてくれそうじゃね?」
「ありそうありそう」
表にいる三年生たちの声がはっきりと聞こえる。
彼らは、私と淫らな事をしたいらしい。こんな、胸が大きい以外に取り得の無いような
私と、そういう事をしたいらしい。
強引にされたら、私は抵抗できないかもしれない。羽山君や、笹野先生に、されるが
ままだったように──
「レイプは拙いだろ〜」
「でもさ、レイプして下さいってお願いされてるようなもんじゃね?」
「あの乳でノーブラだろ? 襲ってくださいって言ってるようなもんじゃん」
「いや、ブラしてたってなぁ、あの乳だけで誘ってるようなもんだな」
レイプ──私がどれだけ悲鳴を上げても、どれだけ涙を流しても、彼らはそれを気にも
かけず、自分本位でただただ快楽と征服欲を満たそうとするのだろう。
乳首を強く抓むと、痛みと快感が同時に湧き立ってしまう。
まさか彼らも、猥談の対象がドア一枚隔ててこんな事をしているなんて思ってもみない
だろう。
「あー、あの乳むちゃくちゃにしてみてぇー」
「揉みたいよなぁ。頼んだら揉ませてくれるんじゃね?」
「ちょ、マジ?」
「知らねぇよ。頼んでみたら?」
「うは、今度見たら頼んでみるか!」
彼らに頼まれ、乳房を好きに弄ばれる私──
両手を乳房に重ね、乱暴に指を動かしてしまう。ずきずきと痛むのに、どういうわけか
快感へと変換されてしまう。
「でもさ、巨乳って鈍感っていうじゃん?」
「ああ、言うよな」
「あんだけでかいと感覚無いんじゃね?」
「そうかも〜」
「揉まれてる事にも気づかないとかな」
「それはありえねー!」
鈍感なわけがない。こんなにも痛くて、こんなにも──気持ちいい。
服の上からなのに、乳首も乳房も、こんなにも敏感に反応してしまう。
「でもさおりん、けっこう感じてるじゃん」
「いや、さおりんはヤリマンだからだろ」
やっぱり彼女は──彼らと、しているのだ。
匂い立つような大人の色香に、何人もの生徒が囚われてしまっているのだろう。
──私もその一人……。
ヤリマン──誰とでも身体を交わらせる女性をそう言うらしい。私はそんな子じゃない。
誰とでもだなんて──
けれど、顔も知らない先輩たちに、好きなように弄ばれる自分を想像してしまう。
──こんな風に……おっぱいも、乳首も……。
「あの子あんだけ乳でかいんだし、マンコもすごいんだろうなぁ」
「毛もぼうぼうでさ、すごいマンコしてそうだな」
「スジマンとかありえねぇな。ぱっくり口開けてそうじゃん」
──すごくなんか……。
片手でスカートの裾を手繰り上げる。汗ばんだ太腿が露になってゆく。
──私のここ、まだこんなに子供っぽい……。
スカートを捲り上げ、そこを晒してしまう。
産毛しか生えていない私の恥丘。ぴったりと閉じた秘裂からは、とろとろと熱い蜜が溢れ
出ている。
──すごくエッチになってるよぉ。
スカートを捲ったまま、秘処を晒したまま、硬くなった突起を抓みながら、先端を撫でる。
びくびくと身体が震えて、ますます止められなくなってしまう。
──気持ちいい、気持ちいいよぉ。
ほんの数十分前に、二度も達してしまったというのに、また私は自ら慰めている。
二つの乳首は硬く尖って、ブラウスの内側から──彼らの言うように、いじって下さいと
言わんばかりになっている。溢れた蜜は太腿を伝い落ちそうなほどだ。
──いやらしい……気持ちいい……どうしよう……。
「いや、でもあれは処女だろ、どう見ても」
「そうかぁ? なんか虐められてるっぽいし、とっくに犯られてんじゃねーの?」
「教室で輪姦されたりとかな」
「セックスショウとかやってんだよきっと」
「何本も突っ込まれて、ザーメンまみれになってんだ」
「いややっぱ中出しだろ〜」
「妊娠させられてんじゃね?」
「おい、今の一年はそんな事してんのかよ〜」
「いや、してねーだろ!」
教室で、クラスメイトに──
男子に代わる代わる犯されてしまう。女の子たちも見ている前で、軽蔑の眼差しを受け
ながら、乱暴に突き入れられ、身体中に精液を浴びせ掛けられ、子宮に子種を注ぎ込まれ
てしまう──
「わかんねーぞぉ? ノーブラも命令されてやってんのかもしんないじゃん?」
「命令って、奴隷かぁ?」
「そうそう、クラス中の性奴隷!」
「エロい事いろいろさせられてんだな、きっと」
性奴隷の私──
男子だけでなく女子からも奴隷のように扱われてしまう。下着を着けないよう強制され、
言われるままに双丘を晒し、脚を開いて秘処を露にしてしまう──
「休み時間なんか、いつも犯られてんだ」
「同時にフェラとか手コキとかさせられて?」
「あの乳でパイズリして欲しいな〜」
「マンコにバイブ突っ込まれて授業受けたりとか」
「クリにローターくっつけてたり?」
「乳首もな」
「イきすぎて漏らしちゃったりとかな」
「うわ、おもらしかよ。マニアックだなー」
休み時間になるたびに、何人もの男子の相手をさせられてしまう。欲望に貫かれながら、
口にも銜えさせられ、手で扱くようにと言われ、乳房であれを挟んで──
大人のおもちゃ──バイブやローターまで使われてしまい、授業中も刺激されてしまう。
止む事の無い強い刺激が私を何度も絶頂に導く。快楽に飲み込まれてしまった私は、教室
だというのに粗相をしてしまう──
──そんなっ、そんなぁ……。
自分の噂話──そんな生易しいものじゃない。卑猥で下品で、まるでアダルトムービーか
青年コミックのような、非現実的な戯れ言なのに──私はそれを想像してしまっている。
──いやらしいよぉ。
きっと彼らは本気であんな事を言っているわけではないのだ。自分たちの下らない空想を
ぶつけあって盛り上がっているだけなのだ。
それなのに、私は──されるがままに弄ばれる自分を想像し、淫らな気持ちを昂ぶらせて
いる。自ら刺激し、淫らな汁を溢れさせている。
スカートを捲ったまま、もう一方の手を下腹部へ伸ばす。
指が汗ばんだ肌の上を滑り、ぷくりと膨らんで顔を覗かせた蕾に──
「ひゃぅ──あっ!」
その瞬間、予鈴が鳴った。一気に現実に立ち戻る。
──私……!
つんと突き出した乳首、雫が零れ落ちそうなほどに濡れた秘処──自分が何をしていた
のか再認識してしまう。
スカートを戻し、ブラウスも整えて、頭を振って気持ちを切り替えようとするが──
そんな簡単に冷めるようなら、こんな事などしてしまわないだろう。
──私やっぱり、エッチだ……。
「あんたら、そこで何してんの!?」
遠くから、女子生徒──おそらく三年生だろう──の大声がした。
彼女の声に弾かれるように、ドアの向こうにいた先輩たちが、うわぁとか、やべぇとか言い
ながら立ち去っていくのが判った。
きっと彼らは、五時間目にプールを使うクラスなのだろう。のんびりしていては、もっと
大勢の三年生が現れるだろう。
急いで教室に戻ろう──その前に、トイレに入って秘処を拭おうと思った。
重たいドアを押し開く。
日差しがあまりにも鋭くて、眼が痛かった。