──夕菜ちゃん、夕菜ちゃん……ごめんね夕菜ちゃん。  
 竜介はずきずきと痛む喉と側頭部をさすりながら廊下を歩いていた。  
 夕菜を追って教室へ戻り、いきなり彼女が抱きついてきた時には、驚いて抱きとめて  
あげる事ができなかった──と、竜介は思っている。  
 自分の身体に弾かれて倒れてしまった夕菜を、抱き起こしてあげようと思った。  
 しかし、クラスメイトたちは下品な言葉で自分たちをからかった。  
──あいつらっ、あいつら許せない!  
 彼女の大きな膨らみを揉んだのは、あの下品な連中に、彼女と自分の仲を見せ付けて  
やろうと思ったからだった。彼女の乳房に触れるのは、自分にだけ許されている事だ。  
夕菜は自分のものなのだと認識付けるには、ああするのが一番だったのだ。  
 竜介は、自分が何をし、どう見られたのかを解かっていない。竜介は自分と夕菜とが、  
固い絆で結ばれていると、主従関係にあるのだと勝手に思い込んでいる。  
 いや、思い込みなどではなく、彼の世界には事実として刻まれていた。  
──あいつ! 羽山の奴ッ!  
 恭也に蹴り飛ばされ、夕菜は窮地を救われた。  
 だが、竜介の中での恭也は、自分と夕菜を暴力で引き裂こうとする、最低で凶暴な極  
悪人という事になってしまっている。  
──でも大丈夫だよ夕菜ちゃん。僕が守ってあげるからね……。  
 竜介は意識を取り戻すと、おもむろに立ち上がり足元に落ちたビニール袋から、クラス  
メイトに頼まれたパンとドリンクだけ取り出し、ロッカーの後に置いて、何も言わずに  
教室を出たのだった。  
 自分の分だけビニール袋に残し、左手にぶら下げて廊下を足早に歩いている。  
──夕菜ちゃん、どこへ行ったのかなぁ。  
 ふと嫌な気配を感じて顔を上げると、廊下の壁に寄りかかっていた恭也と眼が合った。  
──あいつ! なんで、こんなとこに……。  
 竜介は濁った眼で睨みつける。  
 しかし、恭也はおどけたように眼を丸くして、すぐにいつも通りの涼しい顔に戻った。  
──気取りやがって……。  
 恭也の口元に湛えられた笑みが、竜介の心を抉る。  
──あいつ……いつも僕を小馬鹿にしたような眼で見やがって!  
 鼻息荒く恭也の方へと歩いてゆく。  
 たまたま自分の進行方向に恭也がいるというだけなのではあるが、竜介はこれから彼と  
殴り合いの喧嘩でも始めるような気分になってしまっている。  
 さっき自分を蹴り飛ばしたのが、恭也である事は認識している。あの時は油断していた  
から喰らってしまったが、今はそうはいかないぞ、と意気込む。  
 澄ました顔をしていられるのも今のうちだと、両の拳をぎゅっと握り締める。  
──こいつで不意をついて……。  
 まず、左手にぶら下げた、パンとドリンクの入ったビニール袋で牽制する。そっちに  
気を取られた隙に右の鉄拳を叩き込む──  
 竜介は体格は良いのだが、喧嘩はからっきしだった。小学生の頃には地域の柔道教室に  
通っていたが、格闘技をやっているからと言って喧嘩に勝てるわけでもない。そもそも、  
彼は下級生にすら遅れをとる程度の技量しかなかったのだ。  
 取っ組み合いになれば体格を活かして抑え付ける事も可能だろうが、まともに喧嘩した  
経験も無く、頑丈なだけで俊敏性に欠ける彼が、恭也に敵うはずもない。  
──でも、学校で喧嘩はダメだな……。  
 あと数歩で恭也に手が届くというところになって、竜介は拳を緩めた。  
──いつかきっと落とし前はつけるからな!  
 竜介本人は、理性を働かせて殴りかかるのを抑えたつもりになっているのだが──  
 実際はそうではなかった。  
 恭也は、左手を学生ズボンのポケットに突っ込んで、右手はだらりと下げたまま、壁に  
もたれていた。口元に僅かに笑みを浮かべ、緊張感の欠片も感じられない姿だというのに、  
一分の隙も無い──  
 つまり、竜介は本能的に悟ったのだ。  
 自分では刃が立たないと──  
 そういう意味では、竜介は格闘者としての才能があるのかもしれない。自分より強い奴  
を嗅ぎ分ける力を備えていると言えるのだから。  
 ともかく竜介は戦意を喪失し、恭也から眼を逸らして廊下を進んだ。  
 恭也の前を通り過ぎ、今頃になって、これからどこへ向かおうかと考える。  
 竜介は行き先を考えていなかった。教室にいるのは我慢ができず、しかし食事は摂らね  
ばならないのでパンとドリンクだけは持って、無意識のうちに教室を出たのだった。  
 
──図書室はダメだなぁ。  
 飲食物の持ち込みが禁じられている事を思い出す。  
──屋上にしようかな……。  
 屋上なら滅多に人が来ない。  
 校舎の屋上へ抜ける金属製の重たい扉には、大仰な南京錠が掛けられ、普段は生徒の立ち  
入りが禁止されている。  
 ここで彼が屋上と意識しているのは、屋上の手前の小さなスペースの事だった。  
 屋上へ続く階段を登りきると、数メートル四方の小部屋のような空間があり、屋上自体が  
立ち入り禁止のため、生徒も教師もほとんど寄り付かない場所になっていた。  
 竜介はそこで独りで昼食を摂ろうと考えたのだが──  
「なぁ、どこ行くの?」  
──ッ!?  
 すぐ後から聞こえたのは、恭也の声だった。  
 足を止めて振り返ると、竜介の嫌いなあの微笑があった。  
「俺も一緒していい?」  
──なんでこいつが……なんの用なんだ?  
 全く恭也の意図が掴めず、竜介はただ立ち尽くす。  
「どっかで飯食うんだろ?」  
 竜介の下げたビニール袋を指差す。  
「ど、ど、どこだって、いいだろ」  
 どもりながら言って、前を向いて歩き出した。  
 恭也も、竜介に並んで歩き出す。  
「まぁ、どこでもいいんだけど」  
 そう言って、ふふっと笑う。  
──お前、なんなんだよぉ!  
 怒鳴りつけたい衝動に駆られるが、それを抑え込む。本能的に──  
 竜介が無言で歩く。  
 恭也も無言で歩く。  
 廊下にはそれほど人がいなかったが、二人の名はクラスだけでなく、学年全体にも知れ  
渡っている──もちろん正反対のラベリングを施され──この異色の取り合わせは、  
擦れ違う全員の眼を奪った。  
 竜介がやや先導し、斜め後に恭也が従う形になっている。しかし、恭也に促されておず  
おずと先を行く竜介──と見る者の方が多かった事だろう。  
──なんなんだ、なんなんだよまったく!  
 竜介の思考は、ずっとその繰り返しだった。それ以外には何も浮かばない。  
 それでも彼は歩を進め、廊下を折れて階段を登った。  
 二人はそのまま竜介の目的地へと辿り着いてしまう。  
「ここで食うのか。暑くない?」  
 恭也は、暑いと感じているようには見えない顔で言った。  
 たしかにここは、空調の吹き出し口が取り付けられていないし、いくつかの小さな窓は  
全て填め殺しで、屋上へ抜けるドアに無骨な南京錠が掛けられている。  
 その所為か、校舎の中では一番高いここは、階段を通して全ての熱気が集まってくる  
ような気にさせられる場所だった。  
「あ、暑いなら、きょ、教室戻ればいいだろ」  
 竜介はその壁際にどっかと腰を下ろし、胡座をかいてビニール袋からパンとドリンクを  
がさがさと取り出した。  
「けっこういいね、ここ」  
「……な、何が?」  
 自分で言っておきながら恭也は竜介の問いに答えず、階段の手すりにもたれて階下を  
覗き込んでいる。  
──なんだよ、用が無いならさっさと帰れよ。  
 恭也の態度に苛立ちを隠せず、包みを乱暴に引き千切り、パンをがぶりと頬張った。  
 水気の少ない菓子パンに咽ながら、コーヒー牛乳のパックにストローを突き刺す。  
「それ、美味い?」  
 恭也が後を見もせずに言う。  
「……べ、べ、別に。普通だけど」  
「ふうん」  
──なんだよ! 興味あるのか無いのかどっちなんだよ、はっきりしろよ!  
 その台詞を面白おかしく表現できたのなら、竜介ももっと周りと打ち解ける事ができる  
のかもしれない。  
 
 恭也はまるでうしろが見えていたかのように、竜介が最後の一口を飲み込むのと同時に、  
振り向いた。  
「ご馳走様は?」  
 すっとぼけたような口調でそんな事を言う。  
「食べる前は頂きます、喰ったらご馳走様だろ?」  
「……う、うるさいな」  
「俺も毎回言うわけじゃないけどさ」  
──だからなんなんだよ、何が言いたいんだ!  
 こんなに苛々した食事は久しぶりだ、と言ってやろうと思った時だった。  
「リュウは、なんであんな事したの?」  
「は……?」  
 恭也は手すりに背を預け、竜介を真っ直ぐに見る。  
「夕菜を、押し倒したじゃん?」  
──夕菜……夕菜だって? 僕だってちゃんづけなのに、呼び捨てか!?  
 ちゃんづけは竜介の頭の中だけに過ぎないのだが、そんな事は彼にとっては些細だ。  
恭也が夕菜と呼び捨てにした事は、極めて重大で我慢ならない。  
 彼女と親しくしていいのは自分だけなのだ。女子たちが呼び捨てにするのはまだ許せるが、  
他の男、特に恭也のような女誑しが呼び捨てにするなんて、自分を差し置いて夕菜と呼び  
捨てるだなんてのは、絶対にあってはならない事なのに──  
 瞬間湯沸かし機のごとくに沸騰した頭だが、しかし別の考えも浮かんでくる。  
──押し倒した? 僕が? 夕菜ちゃんを?  
 あれは自分が抱き留めてあげられなくて、彼女が倒れたしまったのであって、押し倒した  
わけではない。その後の事を言っているのであれば、もっと簡単だ。  
 二人の絆をクラスの連中に知らしめるため──押し倒したなどと人聞きの悪い言い方を  
するこいつは──  
「は、は、羽山君は、う、う、羨ましいの?」  
「どうかな」  
──そうだ、羨ましいんだろう? そうだよ、そうに違いない!  
 竜介は残っていたコーヒー牛乳をずずっと吸い上げて飲み干すと、にやりと笑った。  
 柔らかな乳房の感触が甦る。剥き出しになった夕菜の二本の白い脚が──  
「む、胸、や、や、柔らかくて……す、スカート捲れてただろ? あ、脚だって、きき、き、  
綺麗なんだぞ」  
 虚勢を張った竜介の台詞に、恭也は眉をぴくりと動かした。  
「ふうん? スカート捲れてたもんな。見えた?」  
「え? あ、あ、当たり前だよ」  
 夕菜ちゃんは僕だけにスカートの中を見せてくれたんだ──と。  
「し、白、白くて、可愛いかったぞ、ゆ、夕菜ちゃんの、ぱ、ぱ、パンティ──」  
 竜介のどろどろと濁った眼を、恭也は射抜くように見据えている。  
「ま、真っ白で、あの、あ、あの毛、毛だって、す、透けてたんだ」  
 スカートが捲れ上がり、竜介にだけ見えた純白の下着。そこにうっすらと透けた夕菜の  
秘密の茂み──  
 眉を顰めて、毛? と訊き返した恭也に、勝ち誇って踏ん反り返る。  
「け、け、毛だよ、ま、まん──い、陰毛、知らないのかい?」  
 知ってるけどさ、と答えた恭也の声は震えていた。  
──どうだ、お前なんて一生かかっても見る事は叶わないんだぞ!  
 竜介の得意げな顔に、だが、恭也は複雑な笑みで応えた。  
──なんだよ、なんだその顔は?  
「ふうん、なるほどね」  
 恭也は納得したように、眼を閉じて溜め息をついた。  
「想定外って奴だけど、面白いな。それに、そんなイメージなのか」  
──想定外? 面白い? イメージ? 何を言ってるんだこいつは?。  
「なんか、リュウって、思ってたより凄い奴なんだな」  
──褒めて取り入ろうって考えか? 悔しくないのか? もう降参か?  
 恭也は、よっ、と声に出して、跳ねるように手摺りから離れた。  
「夕菜のあそこ、つるつるで可愛いよな」  
──ッ!? なんだよ、なんだそれっ!  
 竜介の世界がぐらりと揺らぐ。  
 自分が世界の中心から追い出されたような気になってしまう。  
「つつ、つ、つ──ッ!」  
 竜介は自分でも驚くほど俊敏に立ち上がり、恭也の二の腕を掴んでいた。  
 
 恭也の左腕を握り締め、鬼のような形相で睨みつける。  
 横を向いた身体で、顔だけを竜介に向けた恭也の口元には、平時と変わらぬ僅かな笑みが  
浮かんでいた。  
 しかし竜介には、それが自分を嘲り、蔑んでいるように見えてしまう。  
「な、な、なんだっ、お、お前っ、なな、な、何が言いたいんだよっ!」  
「何って、本当の事だよ」  
 竜介の怒声を、恭也はさらりと受け流す。まるで相手にしていないように。  
 つるつるで可愛いよな──恭也の台詞がフィードバックする。  
「つ、つ、つつ、つる……」  
 舌が縺れて言葉にならない。  
 ただでさえ喋るのが苦手な竜介は、恭也の言葉に思考を掻き乱されてまともに話せない。  
「つるつるがどうした?」  
「つ、つっ、つるって──」  
 恭也の身体が揺れた──と思う間も無く、彼の自由な右手が翻り、二の腕を掴んでいた  
竜介の右手首を捻り上げていた。  
「痛ッ!」  
 それほど力を篭めたようにも見えないのに、手首を内回りに捻られた竜介の身体が、痛み  
から逃れようと、くるりと回ってしまう。  
 体格差をものともせず、流れるような動作を一呼吸で終えた恭也は、苦痛に歪んだ竜介と  
は対照的に、顔色ひとつ変えていない。  
「そんな強く握ったら痛いだろ?」  
 そうと思えない口調で、完全に背中を見せてしまった竜介を解放する。  
──くそ! くそっ、くそくそくそくそくそぉっ!  
 竜介は、よろめいた身体を壁に手を突いて支えた。  
 肩越しに恭也を睨みつけるが、恭也は僅かな笑みで応える。  
「もう一度よく思い出せよ」  
「な、なにを──」  
「夕菜のスカートの中身だよ」  
 竜介の思考が停止する。  
──こいつは、何を……。  
 恭也の言葉が理解できない。理解不能の焦燥に駆られて冷や汗がにじむ。  
「下着は穿いてたのか?」  
「し、下着──」  
「本当に透けてたのか?」  
 教室でぶつかった夕菜は、竜介の前で、膝を立てたまま尻餅をついてしまった。白い  
太腿が露になって、捲れ上がったスカートは──  
「あ、あ、当たり前だ! 当たり前だろっ!」  
「いいか、リュウ。もう一度だ」  
 がなり立てる竜介をなだめるように、恭也は穏やかな声を投げかける。  
「もう一度、落ち着いて、ようく思い出すんだ」  
 何度思い出しても変わらない。夕菜のスカートからは、白い下着が見えていたのだ。  
「下着は見えたのか?」  
 白い布が、そこを覆っていた。夕菜のそこは、白い布に覆われ──  
「ほんとに、毛が透けてたのか?」  
 恭也の声が、竜介の意識に染み込んでゆく。  
 竜介の世界に亀裂が走る──  
 白い布は、そこを覆ってはいたが、ショーツのように密着していたわけではなかった。  
皺を作ってそこに被さっているだけで──  
「それは、本当にお前の眼に映ったものなのか?」  
──違う……違うんだ。  
 自分の眼が捉えた光景が、今ははっきりと竜介の脳裏に甦っていた。  
 彼の世界が、音を立てて崩れ始めた。  
「あ、あ、あっ、あれは……」  
 白い布地は確かに見た。  
 だがそれは──ブラウスの裾だ。  
 ブラウスの裾が、夕菜のスカートの裾から覗いていただけなのだ。  
 彼女のしなやかな太腿の間から、それが顔を出していただけで──  
 竜介は俯いた。  
「せ、せ、制服の、す、裾だよ……」  
 恭也の眼が、ふっと緩んだ。  
 
「そっか、裾だったのか」  
 恭也の言葉で、それを改めて認識する。  
──僕は、見てなかった……夕菜ちゃんのパンティーを、見てなかったんだ。  
 自分の眼の前で尻餅をついてしまった夕菜は、白い太腿を剥き出しにしていた。眼を  
奪われた竜介は、スカートから覗くブラウスの裾を、ショーツだと勘違いしたのだ。  
 しかも、皺が寄って陰になったそこに、夕菜の陰毛を幻視してもいた。  
 それどころか、彼女の脚の付け根の映像が、竜介の記憶には存在しなかったのだ。  
 全身の力が抜けてしまうようだった。ひどく心細い。  
 世界の中心から追い出され、虚空を漂っているような寂然とした気持ちだった。  
「リュウは、見なかったんだな」  
 恭也はいつの間にか、彼の横の壁に背を預けていた。  
 うん、と頷き、竜介も壁にもたれた。  
「み、見えなかったよ」  
 竜介は恭也を嫌っていたはずなのに──どういうわけか、今は彼が隣にいる事で、  
寂しさが和らぐような気になっていた。  
「残念だったな」  
「はは……そ、そうかもね」  
 力無く笑った。  
 やはりこいつには勝てない、と竜介は思う。  
──いや、最初から勝負になるわけがないんだ……。  
 横目で恭也の顔を見ると、彼も竜介を見ていた。  
 全てを見抜くような彼の視線から、眼を逸らしてしまう。  
「リュウは、おっぱい好き?」  
 ぶっと吹き出してしまう。  
 いきなり何を言い出すんだと、表情の読めない彼の顔をまじまじと見てしまう。  
「夕菜のおっぱい、すごいよな」  
「ゆ、ゆ……か、柏原さんの……」  
「夕菜ちゃん、って言えばいいじゃん。さっきは言ってたろ?」  
 慌てて顔を伏せたが、視線は痛いほどに感じられる。  
「俺、実は巨乳好きなんだよ」  
「えっ……」  
「好きなんだろ、夕菜の事?」  
「──ッ!」  
「やっぱ、巨乳は良いよな」  
「な、なっ、そ、そんな事で、僕はっ──」  
「最初はそんなもんでいいじゃん。切欠はそんなんだろ? 見た目が好みとか、喋り方が  
可愛いとか、ちょっと優しくされて嬉しかったとか、さ」  
 そういうものなのだろうと、竜介も思う。  
 最初に興味を持ったのは、彼女の胸だった。規格外の乳房に触れてみたいと思った。  
日が経つにつれ、どうやら彼女は自分と似た境遇なのだと理解できるようになり、仲間  
意識を覚え始めた。そして、日々妄想に耽り、彼女への想いを強めていったのだ。  
──妄想、なんだよな……。  
 それは彼のたったひとつの拠り所だった。  
 自分の世界を創り上げ、そこに心を留め置く事で、辛い外界から守っていたのだ。  
「まだ痛むか?」  
 言われて思い出す。教室で蹴られた痛みは、まだ少し残っていた。  
「謝らないからな」  
「うん……」  
 今の竜介には、自分が何をしたのか理解できている。  
 夕菜は嫌がっていた。恐怖に怯えていた。謝るのは自分の方だ。  
「たぶんリュウはさ、どっかでギアが噛み合わなくなってただけなんだろうな」  
 責めるでもなく、慰めるでもない淡々とした口調で言い、俺にもそういう時期があった  
からな、と恭也は笑った。  
 彼がそんな事を自分に言う理由が解からず、竜介は何も応えられずに床を見続けた。  
 不意に、恭也はもたれていた壁から身体を起こした。  
 竜介の肩に手を乗せ、顔を上げた彼の顔を正面から見据える。  
「ま、あの胸から、つるつるなのは想像できないよなぁ」  
 不敵に笑って、初めて歯を見せた。真っ白で、濁りの無い歯だった。  
 竜介は、敗北を悟った。  
 と同時に、どこか安らかな気持ちに包まれているのも感じていた。  
 

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