「私、お化粧した姿、羽山君にだけ見て欲しい……」
彼の手に頭を撫でられる。
子どもをあやすような、優しい手が心地好い。
「それって、俺と二人きりで、誰にも見られないところで、って意味?」
「え……?」
──そっか……そうだよね。
その通りだ。
無性に恥ずかしくなる。
「……う、うん」
「例えば──」
彼の言葉が想像できた。
「俺の部屋とか、夕菜の部屋とか……それに、ホテルとか──」
一度も見た事の無い彼の部屋、見慣れた自分の部屋、そして、そういう事をするための
大人のホテル──
「でも、ホテルは入れてもらえないかな」
彼は苦笑する。
私たちはまだ中学一年生なのだ。そんなところへは入れないだろう。いくらぐらいなのか
知らないが、お金もかかるだろう。
「今度、うちに来る?」
「えっ?」
「俺の部屋。両親は帰りが遅いし、俺は一人っ子だし」
いろいろできるよ、と続いた言葉に、淫らな空想を掻き立てられる。
二人きりで、いろいろ──いやらしい事をしたい。いやらしい事をされたい。
「またエッチな事考えたでしょ?」
頭をぽんぽんとされて、私は俯いてしまう。
「うん……」
──なんでばれちゃうんだろ……。
彼に全て見透かされる事は、恥ずかしいけれど、嬉しかった。
彼が私を解かってくれていると思えるから。彼に受け入れてもらえたのだと思えるから。
「エッチなとこも好きだよ」
頤に指を掛けられ、上を向かされた。
眼を閉じて、彼を待つ──
唇が重ねられた。
どちらからともなく、舌が絡み合い、水音が木霊する。
私の恥ずかしいところから、とろりと雫の垂れる感触があった。
──垂れちゃってる……。
内腿を雫が伝い落ちてゆく。
それはくすぐったくて、ほんの僅かに触れた指で撫でられているようでもあった。
──当たってる……。
身体が密着し、彼の硬く突き出したものが押し付けられている。
きっと、わざと押し付けているのだろう。
自分も興奮しているのだと、私に伝えるために──
「夕菜」
唇が離れ、羽山君が私の名を呼んだ。
彼の眼が、意地悪な色を湛えている。
「夕菜のあそこ、どうなってる?」
「──ッ!」
彼の言葉は私を震わせ、蜜を零れさせる。
「いっぱい濡れてるんだろうね」
「うぅ……」
触れてもいないのに、露を溢れさせてしまう。
「垂れちゃってる?」
「あぁっ!」
びんっと震えた私に彼も刺激されたのか、んっ、とうめいて口を緩ませた。
少しだけ、やり返せたような気分になった。
「俺も、濡れてる」
「えっ……」
──羽山君も……。
彼もまた、露を溢れさせ、下着を湿らせているのかと思うと、私はいっそう興奮する。
見上げれば、私たちと同じ一年生の階。そんなところで、私は──
俯いて、自らスカートを捲り上げた。
同級生に見られてしまうかもしれないというのに、私はそんな事をしてしまう。
「触って欲しいの?」
「うん……」
彼に促されてではない。私は、自分からそれをしてしまったのだ。
「いじって欲しいの?」
「うん……羽山君に、いじってもらいたい」
自分からお願いするなんて、彼はどう思うだろう。
そんな卑猥な私でも、彼は愛してくれるのだろうか。
彼の顔を真っ直ぐに見られない。
──ほんとは、もっと……。
彼のそれを見てみたいと思ってしまう。
私もこうして晒しているのだから、彼も晒してくれはしないだろうか。
いや、それだけじゃない。もっといやらしい事をしたいと思う。
彼のそれを、手で握り、口に銜え──
「夕菜はエッチだなぁ」
「うぅ……」
毎度、見透かされたようなタイミングだ。
身体が反応し、露が腿を伝い落ちる。
「羽山く──んぅっ!」
彼の指が、腿の内側に触れた。
垂れ落ちる雫を、指で掬われてしまう。
「すごい、こんなに……」
「あっ、あぁぁ……」
そうされているだけで、私はぞくぞくと震えて倒れそうになってしまう。
片手で彼にしがみ付いてなんとか堪えるが、指がそこへと近づくにつれて、身体中の力が
抜けてしまうようだった。
「こんなに濡れるなんて、夕菜はすごいんだね」
腰を抱かれる。支えられて立っているのがやっとだった。
私をこんなふうにしたのは羽山君だ。
「ブラもパンツも着けないで、学校でエッチになってる」
確かに私は、もともとエッチだったのだろう。ネットでもアダルトサイトは時々見るし、
部屋で自慰に耽る事もあった。
でも、学校でこんなふうに、いやらしい事をしてしまうなんて思ってもいなかった。
「おっぱいこんなに大きいのに、ノーブラだ」
小学生の時から、大きすぎる胸をからかわれてきた。触られた事もあったし、いやらしい
事も散々言われてきた。
けれど、私にとってそういうものは、羞恥と屈辱だけしか与えなかった。
「ノーパンで、こんなに濡らして」
それなのに、彼の言葉に、私は反応してしまう。
彼のいやらしい言葉が、私をどんどん淫らにする。
「はぁっ……んっ、羽山君……」
彼の指が、付け根に触れた。
たっぷりと濡れてとろとろになった秘処を、彼の指が撫でている。
「ここ、まだ溢れてくる」
もっと言って欲しいと思ってしまう。
いやらしい言葉で、私を責めて欲しい。
「また出てきたよ」
身体が震えるたびに、そこから蜜が溢れ出す。
彼を導いているかのように、彼の心を絡め捕ろうとするかのように──
彼のそれを、受け入れたがっているのだろう。
彼としたいと──男女の交わりをしたいと──
学校なのに、授業中なのに──
木嶋深雪と、その友人たちの顔が浮かんだ。彼女らは今、どうしているのだろう。
私の下着を奪った彼女らは、私が教室にいない事を、どう思っているのだろう。
羽山君と一緒だなんて、こんな事をされているなんて、思ってもいないだろう。
──ちょっと優越感、かも……。
そんな事を考えてしまい、少しだけ自己嫌悪した。
こんな事を考える子は、嫌われるだろうか。嫌われたくない──と、無意識的に彼を
求めた手が、あろうことか、その部分に触れてしまった。
「あっ……!」
思わず手を引っ込める。
自分から触ってしまうはしたない子──そう思われたらどうしよう。
羽山君は微笑みながら、私の露で濡れた手を、私の手に重ねる。
「俺も、触って欲しい」
「えっ?」
「俺も同じだよ、触って欲しい。夕菜に、ここを」
導かれ、膨らみに触れさせられる。
ズボンの前は、さっきよりも盛り上がっているように思えた。布地の奥に、彼の硬く
そそり立った男の象徴が感じられる。指で触れているだけなのに、とくとくと脈打つ音が
聴こえてくるような感じがして、羞恥と興奮が、私の意識を集中させてしまう。
ここは学校なのに、すぐそこには、私たちの学年の教室があるというのに、私は彼の
ものに触れて──
「このまま登ろうか、階段」
「えっ……」
「そっちは、さっきみたく」
もう片方の手は、スカートを持ち上げたまま──
「あぅ」
「こっちも、このままね」
彼自身のそこに触れた私の手に、自分の手を重ねながら言う。
彼も興奮しているのだろう。私に触れさせて、いやらしい事をさせて興奮しているのだ。
二人の昂ぶりが共鳴するかのように、私の気持ちも昂揚してゆく。
彼がいてくれるなら──
「……うん、できる」
「もっと、持ち上げて」
「うん」
言われるままにしてしまう。
三階の廊下を横切った時のように、お腹まで持ち上げて、ブラウスの裾も巻き込んで、
私は下腹部を丸出しにしてしまう。
子供と変わらないつるりとした丘も、淫らな露を溢れさせた裂け目も、零れた雫に濡れた
太腿も、全て曝け出してしまった。
そこを覆うべきショーツは無い。木嶋深雪たちの誰かが持っているのだろう。保健室で
借りたショーツも机の中だ。
授業中の校舎は、教師の声と生徒たちのざわめき、チョークが黒板を擦る音、エアコンの
低い唸りが響いている。学校の傍を走る通りから、車の音がする。窓を開ければ、小鳥の
さえずりも聴こえるだろう。
ごくありふれた、夏の昼下がりの光景だった。
だが、私は、こんなにもはしたない姿で、階段を登ろうとしている。
教師や生徒、車や小鳥たちと同じ空間を共有していながら、羽山君と私の二人だけは、
別の世界に存在しているかのようだった。
ならば──
私たちだけの世界には、誰も入る事はできないに違いない。
たとえ侵入者が現れても、腰に手を触れている羽山君が、きっと守ってくれる──
「大丈夫?」
「……うん」
ゆっくりと、促すように押され、踏み出す。
「あっ! うぅ……」
──また、零れた……。
内腿を伝い落ちる感触に、私は震えてしまう。
「どうした?」
「また、垂れちゃった」
羽山君に訊かれ、素直に応えてしまう。
「誰かに見られたら、大変だ」
そんな事を言う。自分で言い出しておいて──なんて無責任な言葉なんだろう。
誰かに見られてしまえば、きっと今までの、根暗で内向的、自己中心的で、胸が大きい
以外に取り得の無い女の子、という私への評価に、学校で男子の股間を触りながら自分の
股を晒していた変態露出狂、とでもいうものが加わるのだろう。
──でも……それでもいい……羽山君が望むなら……。
そう思ってしまう私は、どうかしている。
けれど、私は心の底から、そう感じていた。
私が一段登るたびに、羽山君も一段登る。
彼のそこに触れた手は、彼の興奮を伝えてくる。
──ッ!?
ぽた、という音がした気がして、足元を見る。
──やだっ、垂れた……。
両足の間の階段に、小さな雫が丸い玉を作っていた。
「どうした?」
歩を止めた私に、羽山君が訊く。
「うぅ……階段に……」
ん? と下に目を向けた彼も、それを見つけたらしい。
「夕菜……濡れすぎ」
「うぅ」
「これじゃ、教室なんて戻れないな」
戻る気でいたのだろうかと思ってしまう。
そんなのは無理だ。彼がいても、そんな事はできない。
──でも……。
やれと言われれば、してしまうかもしれない。彼に言われれば、全裸のまま歩き出して
しまいかねないほどに、淫らになっている。
ここで自慰をしろと言われれば、してしまうかもしれない。彼のものをしゃぶれと言われ
れば、しゃぶってしまうかもしれない。
ずっと触れている彼の膨らみ。男の子の象徴が、私の掌に収まっている。
いや、収まりきらない。私の小さな手にはありあまる大きさだ。
──羽山君の……見たい……。
男の子のそれを見たいなんて思ったのは、何年ぶりだろうか。小学生の低学年、幼稚園の
頃以来だろうか。その頃は、異性の身体を知りたいという単純な好奇心だった。
けれど、今は──
興味と言えば興味なのだろう。だがそれはもっと生物的な欲求のように思う。雄のDNAを
求める雌としての本能──そんな気がする。
「夕菜、この上に行くんだよ」
「う、うん」
羽山君が片手の親指を立てて上階を指差して、私の背中を背中を押す。
階段を登った先には、屋上へ抜ける小部屋がある。
そこが目的地なのだろう。屋上へのドアは大きな南京錠が掛けられていたはずで、屋上へは
出られないだろうから。
彼が先に脚を上げると、私の掌にそれが押し付けられる。
──羽山君……硬いよ……。
月並みなのだろうが、硬くて大きいというのが素直な感想だった。
これが私の中に──そう思うと、身体が震える。
どんな気持ちなのだろう。最初は痛いという。指ですら痛みを訴えるのだから、こんな
大きなものが入ったら──その痛みは想像に難い。
けれど、その震えは恐怖への怯えではなく、その先にある悦楽への希望の身震いのように
思える。
──あたし……その気になってる。
私たちはまだ中学生になって数ヶ月だというのに、そんな事を想像してしまう。
無理も無い、と思うのは言い訳だろうか。
私たちは、お互いの気持ちを確認し合った仲なのだから──お互いを求め合うのは何も
おかしな事ではない。ただ、年齢が低いというだけで──
私は震えながら階段を登った。
目の前には四階の廊下。一年生の教室が並ぶ階は、一番見慣れた空間だ。
見慣れた場所に、こんなあられもない姿で近づいてゆく。
ふらつく脚をなんとか持ち上げ、一段ずつ登ってゆく。
脚に力を入れるたび、乳房が揺れて身体が震え、蜜が溢れ出す。
とろりと零れて腿を湿らす。ぽたりと垂れて床を濡らす。
所々に雫を残しながら、私は少しずつ、少しずつ四階へ近づいてゆく。
そこには、小学生だったときの同級生も、中学生になってからの顔見知りも、たくさんの
生徒がいる。三階への階段を登ったときよりも、その一歩は重たく、恥ずかしい。
腰に触れる羽山君の手からも、私が触れているそこからも、彼の興奮が伝わってくる。
目線が廊下を越えて、視界が開け、ぽたりと雫が音を立てた。
その音が、廊下に響き渡ったような気がして──
身体が、びくんと跳ねた。
ひくひくと、身体中が蠢動しているようだった。
軽く、達してしまったのかもしれない。
「夕菜、エッチだなぁ」
──気づかれちゃった……違うっ!?
「あっ──」
慌てて手を離そうとして──彼に抑えられる。
身体が跳ねた拍子に、私は彼を──彼のそこを、握ってしまっていたのだ。
「そのまま、ね?」
「う、あぅ……」
彼の隆起したものが、私の掌に包まれている。触れているだけではない。学生ズボンの
上からではあるが、握っているのだ。
「うぅ、羽山君……」
彼の顔を見ていられない。
「どんな気分?」
耳元で囁かれ、はぁはぁと喘ぎながら私は答える。
「恥ずかしい……いやらしいよぉ」
「すごいよな、今の夕菜。階段で、あそこ丸出しで、俺のを握って……な」
こんなところで、こんな格好をして、こんな事をしている。
「うん……すごい、私……」
どうかしている。理性はどこへ行ってしまったのだろう。
彼も時々びくんと震える。
気持ち良いのだろうか。私の手に包まれて、彼も快感を覚えているのだろうか。
私にこんな事をさせて、気持ちを昂ぶらせているのだろうか。
私なんかよりはるかにいやらしい羽山君は、もっとすごい事を知っているのだろう。
もしこのまま、彼とうまくやっていくためには、彼のそういう性癖にも応えなければ
ならないのだろう。
──したい……色々、してみたい。
そう思ってしまう。
羽山君に求められたのなら、なんだってしてしまうだろう。
もっと淫らな事も、もっと過激な事も、私には想像もつかないような官能的で蠱惑的な
秘戯を、彼はきっと色々知っているだろう。
「夕菜、上に行くよ?」
「あ、う、うん」
止まっていた脚を持ち上げる。
片手でスカートを纏め上げ、下腹部を曝け出したまま、もう片方の手で彼のそこを握り
ながら、私は階段を登る。
目の前には、一年生の教室──五組の教室が、迫っている。
誰かが廊下に現れれば、私の姿は丸見えになるだろう。恥ずかしい姿で階段を登る私と、
一緒にいる羽山君は、どんな風に見えるのだろう。
さながら、いやらしい格好をさせられている性奴と主人だろうか。
彼の奴隷になら、なってもいい。彼のために一生尽く奴隷になってしまうというのは、
とても魅力的に思えた。
彼の望むまま、私の身体の全てで奉仕するのだ。
そんな時、きっとこの大きな乳房は、役に立つだろう。そのためにこんなにも大きいの
かもしれない。
大きな胸が好きだと言ってくれた。好きなだけ、弄んでもらいたい。その後には、私が
彼自身──彼のこの、硬くなったものを胸に挟んで奉仕する。じっとりと汗の浮かんだ
谷間に挟み込み、彼に満足してもらいたい。
彼の精を──さっき、更衣室の前で三年の先輩たちが言っていたように、胸や顔に浴びせ
られてしまいたい。
「夕菜、後少し」
彼の声は、いやらしい想像を見抜いているようで、しかし、それは心地好い快楽で──
階段を登る。
あと三段──二段、あと、一段。
崩れ落ちそうになりながら、彼に支えられて──
四階に到達した。
自分たちの学年の教室がある四階の廊下を踏みしめる。
身体が震える。彼が背中を押す。
促され、私はまっすぐ歩いてしまう。階段から離れ、教室とを隔てる壁が迫る。東西に
伸びた廊下は、私を隠すものなど何も無く、そんなところで、私は──
彼の身体が私の後ろに回る。
それを握った私の手も、後に回った。角度が変わり、手が離れてしまう。
「あとでまた、触ってもらうよ」
彼の囁きは、今は触らなくても良いと言っているのだろう。
彼の指が頬に触れた。
滑るように唇を撫で、中へと侵入されてしまう。
左手の指が──中指なのだろう。つんとした匂い──私の香りが、まだ残っていた。
他の指が、私の唇を塞ぐ。口を抑えられてしまった。
つぎに何をされるのか、想像に難くない──
「んっ──」
彼の右手が、私の胸に触れた。
私の背中と、彼の胸が密着する。お尻には、怒張が押し付けられている。
「こりこりだ」
「んっ、んぅ」
胸の蕾を撫でられて、びくんとなってしまう。
口を塞がれているため、声は出ない。小さなうめきだけが漏れる。
ブラウスの上からでも、突起がはっきりと見て取れる。
右の乳房を包まれて、人差し指と中指で、きゅっと尖ったそこを交互に転がされる。
びくびくと震えてしまう。
廊下の真ん中で、遮るものも何も無い場所で、こんな事をされてしまう。スカートを
捲ったまま秘処を晒して、恥ずかしいというのに、抗う事もせずに身を任せている。
私が嫌だと言えば、彼はきっとやめてくれるだろう。そうは思うのに、されるがままに
なってしまう。
私自身が望んでいる。恥ずかしい事をされるのを、彼に虐められるのを、望んでいる。
乳房を揉まれ、乳首を抓まれる。
快楽の波が、身体を跳ねさせる。羞恥と快感に飲み込まれてゆく。
「んっ、ん、んぅっ……」
気持ちいい。恥ずかしい。もっとしてほしい。もっと恥ずかしく──
「自分でいじれる?」
彼が囁く。
──自分で……こんなとこで……。
さっきまで、彼を握っていた手で、自分のそこを──
「うぅ……ん」
恥丘に触れる。未だにほとんどヘアの無いそこは、汗が滲んでいた。いや、身体中の
いたるところから汗が吹き出しているのに気づく。
身体が熱を帯びている。顔は真っ赤なんてものではないのだろう。
指が降りてゆく。
彼の愛撫に刺激されながら、自らそこへと指を伸ばしてしまう。
一番恥ずかしい場所に顔を覗かせた、一番敏感な蕾──
「ひんッ──!」
触れただけで、身体が弾けた。
乳房を包んでいた彼の手が、崩れそうになる身体を抱き留めてくれた。
膨らみのすぐ下で、彼の腕に抱かれている。ずり落ちそうになる身体のおかげで、乳房が
持ち上げられているのが判る。
乳首がぷっくりと浮いている。彼に借りたタンクトップの生地が、優しく包んでくれて
いる。
「大丈夫?」
「ん、ん……」
彼の指を銜えたまま、私はこくんと頷いた。
大丈夫、なのだろうか。
自分でもよく解からない。
気持ちよくて、恥ずかしくて、興奮して、もっと刺激を味わいたくて──
指を股の間に滑らせた。
──こんなに……。
驚くほどに濡れていた。
ぴたりと閉じた割れ目も、その周囲も、両腿の内側も──私の秘処の周りは全て、私自身
の蜜で溢れかえり、粗相をしてしまったかのような状態だった。
裂け目に指先を埋めると、とろりと溢れて指に絡み付いてきた。
指を伝い、重力に引かれ──
ぽたっ、と雫が垂れた。
「んぅッ! んっ、んんっ……ふぁ」
──私、こんなとこで……。
学校の廊下──目の前には自分たちの教室が並んでいる。
そんなところで、私は秘処を晒し、自慰をしていた。
どろどろになった秘処を指で掻きながら、ぷくりと膨れ上がった蕾を刺激する。
頭がおかしくなってしまったのだろうか。まともな思考ができなくなっている。
恥ずかしくて、いやらしくて、気持ちよくて──
羽山君の指が口の中で動いている。
舌を撫でられて、私も応えるように舐めてしまう。
胸を責めてくれないのは、私が倒れてしまわないように支えてくれているから。
お尻に当たるこりこりした感触は、彼の欲望の象徴。
今すぐにでも、貫かれてしまいたいと思う。
彼とひとつになりたい。
こんなところでするわけにはいかないと解かっている。
けれど、欲望が抑えられない。
だから、私は──自慰をする。
「んっ、んっ! はぁッ、んんっ!」
刺激が身体中を駆け巡る。
私はなんていやらしい子なんだろう。
深雪たちに下着を奪われ、羽山君に責められ、保健室で自慰をしたばかりなのに、笹野
先生にもされてしまったというのに、更衣室では淫らな妄想に耽り、今こうして、廊下で
また自慰に溺れている。
ほんの数時間の間に、私は何度達してしまうのだろう。
「んぅ、んっ、ふぅっ、くぅッ!」
もう、すぐそこまで来ている。
身体ががくがくなる。
時折、びくんと反り返り、彼に支えられる。
小さな波がいくつも重なって、大きな波になってゆく。
力が抜けてしまう。
気持ちいい。
彼に抱かれながら自慰をしている。
口の中で、羽山君の指が蠢いている。
舌と指が絡み合っている。
「んんっ、んッ、んっ! んぅッ!」
限界が近い──
達してしまう。昇り詰めてしまう。
「夕菜」
囁きとともに、彼の手が、そこに触れていた私の手を掴んで引き離した。
「あっ──」
あと少しで、ほんの少しでイってしまいそうだったのに──
「おあずけ」
「えっ……?」
「おあずけだよ、夕菜」
もう少しだったのに──
寸前で止められ、喉元まで込み上げていた衝動が次第に力を失ってゆく。
「そんな……」
「夕菜のイく顔、見たいから」
──イく、顔……?
彼の身体が離れた。
私はふらついて倒れそうになってしまい──
「よっ、と」
視界が回る。
一瞬、何が起きたのか解からなかった。
「お姫様抱っこ、一度してみたかったんだ」
──それって、ええと……。
文字通り、白馬の王子様が可憐なお姫様を抱くような──
彼の腕が私の背中と膝の下に回されていて、私は抱き上げられていた。
羽山君の、はにかんだような笑みが、すぐ近くにあった。
「お連れしますよ、夕菜姫」
本当にお姫様になったような気分がして、私は彼の首に腕を回して頬を押し付けた。
羽山君は私を横抱きにしたまま、階段を登る。
──男の子って、すごい……。
華奢に見えても、しっかりと筋肉はついているという事なのだろうか。彼は私を軽々と
抱え上げている。
──重たいって、思われてないかな?
春の身体測定では、体重が三キロほど増えていた。平均よりも下だし、気にするほど
ではないと思うが、羽山君にそう思われるのは嫌だった。
──あそこ、見えちゃってるんじゃ……?
スカートは捲れて、腿が剥き出しになって、だらりと垂れ下がっている。
ついさっきまでは、廊下の真ん中で自らそこを晒していたというのに、状況が変われば
また違った羞恥に見舞われるらしい。
「あっ、あぅ」
「ん?」
──垂れてる……。
腿を伝うほどに濡れたそこから、お尻の方へと雫が零れてゆく。
くすぐったくて、いやらしい。
反射的にきゅっと力を篭めると、また垂れてゆくのが感じられた。
「どうした?」
「お尻に……垂れてる……」
「たっぷり濡れてたもんな」
「うん……」
──やっぱり意地悪だ……。
踊場で折り返すと、屋上へ抜ける扉が見えた。
「誰もいないか」
羽山君の言葉にほっとする。
彼は先客がいるかもしれないと言っていた。
入学直後は、物珍しさもあって男子生徒たちがよく遊んでいるのを見たが、最近はもう
ほとんどそういう光景は眼にしない。もっとも、私自身ほとんどここに来ないのだから、
私が見ていないだけなのかもしれないが。
とはいえ、さすがに授業中に人がいる事など稀だろう。サボるにしても、もう少しサボり
易い場所があるはずだ。体育館の裏や、部活動の部室──
「いたら、面白かったのになぁ」
「えっ……」
「冗談」
そうは思えない。羽山君は意地悪な笑みを浮かべていたのだから。
私を恥ずかしがらせ、いやらしい事をさせて、そんな私を見て、彼は愉しんでいるのだ。
──悪趣味だよ。
本心からそう思う。それでも私は、そんな彼を拒絶しようとは思わない。
当然だった。私もまた、それを望んでいるのだから。
──ほんと、変態になっちゃう……。
身体が疼く。
寸前でおあずけを喰らった私の身体は、火照りに満ちて疼いている。すぐにでも続きを
して欲しいと、快楽を求めて熱が渦巻いている。
羽山君にこんなふうに抱かれているなんて、数時間前の私は考えもしなかった。
彼に抱かれているだけで幸せだと思う。
彼にもっと刺激して欲しいと思う。
陶酔感とも言える満ち足りた気持ちと、おあずけされた快楽を貪りたいという欲求が、
同時に私の心に並存している。
どちらも、私の本音だった。両方が私の昂ぶりを消さずにいた。
彼にも伝わっているはずだ。
彼もまた、昂ぶりを抑えられずにいるのが解かる。彼の胸からは早打つ鼓動が聞こえて
いるし、私を抱く腕も熱を帯びていた。
「夕菜」
呼ばれて初めて、屋上手前の小部屋まで登っていたのだと気づく。
「降ろすよ?」
私が頷くのを待って、彼は膝を折った。
視線が下がり、足が、続いてお尻が床に着いた。ひんやりとした床が剥き出しのお尻に
じかに触れた──少し埃っぽい。
私の背中を支えていた彼の左腕は、その役を壁に譲る。
彼の顔が近づいて──唇が重なった。
羽山君とのキスは、私をとろけさせてしまう。
くちくちと静かな音を立てて、二人の舌がお互いを求めて絡み合っている。
「んぅっ……ふぁ」
「夕菜……んっ」
ぼーっとした頭に響く水音は、私をどこまで連れてゆくのだろう。
恥ずかしくて眼を開けていられない。
彼の舌が緩急をつけて私の口内を掻き回す。唾液が混じりあい、それにつられるように、
私の心も掻き乱されて、高みへと昇ってゆく。
彼の手が、そこを覆っていただけのスカートの下へと潜り込んできた。
「んっ! はぁっ……ひッ!」
びくんと跳ねて、壁に背を押し付けてしまう。
悲鳴のような嬌声を上げた私の肩を、抱きながら引き寄せた羽山君は、
「声、聴かれちゃうよ?」
「あぅ、うぅ……んッ」
意地悪な眼で微笑んで、貪るように唇を責め続ける。
彼の激しいキスに翻弄され、下の唇もまた、彼の巧みな指遣いに苛まれる。
「んっ、んっんぅっ!」
口を塞がれて声を上げる事もできず、身体をびくびくと震わせて刺激に身を委ねる。
ぴちゃぴちゃと淫らな音が響いている。
硬いコンクリートの壁は、音を反響させる。階段の空間を伝って、私の音は全校に響き
渡ってしまうのではないかと錯覚する。
しかし、それを聴かれてしまう恐怖より、官能と興奮が勝ってしまう。
溢れ出す露は、お尻にまで垂れて、床を濡らしているのだろう。埃っぽい床が、じとっと
湿っているのが判る。
汗も酷い。胸の谷間を滴り落ちてゆく。
熱い所為だろうか。空調の吹き出し口の無いこの空間は、むっとした熱気に包まれている。
私たちの放つ熱も加わっているのかもしれない。
熱くて、いやらしくて、恥ずかしくて、気持ちよくて──
気づけば、促されもしないのに、私は脚を広げてしまっていた。
教室で、金森にぶつかって尻餅をついてしまった時と同じ姿──
彼に見られてしまったかもしれない。恥ずかしいところを、あんな奴に晒してしまった
なんて──
すぐ後の席で、いつも私をいやらしい眼で見ていた金森竜介──彼の濁った眼が浮かび、
「大丈夫だよ、夕菜」
「えっ……」
唇が離れ、優しく包み込むような羽山君の瞳に見つめられる。
いつもよりも熱の篭もった、温かい瞳──
「リュウの奴、見てないって」
「え──」
「夕菜のここ、見えなかったってさ」
羽山君も同じ事を考えていたのだろうか。顔に出てしまっていたのだろうか。
彼は、金森と何か話をしたのだろうか──二人が話している姿を見た事はあまりない。
「それにさ、深雪も──」
私にちょっかいをかけてくるグループの一人、木嶋深雪。
「たぶんもう、夕菜に手出ししないよ」
「えっ……?」
ちょっと気の弱そうな女の子──それが第一印象だった。入学直後は、席がすぐ傍だった
事もあって、時々話し掛けてきた。
私なんかに構うと良い事なんか無い、と思いながらも、もしかしたら──そんな希望も
持たないではなかった。
だが、いつしか、小学生の頃からの馴染みらしい脇田千穂と、同じ部活の楠井舞香と連み、
私を疎み、虐げ、私の孤立を先頭に立って推し進めるような立場になっていた。
「まぁ、判んないけどな」
おでこにキスされる──
「でも大丈夫」
俺ももう逃げないから──彼はそう続ける。
「羽山、君……」
「今まで、見て見ぬ振りしてて、ごめんな」
彼はにっこりと微笑んだ。
私は泣きそうになってしまった。
羽山君は、苦笑しながら私の髪を撫でた。
「それと、やっぱ、あいつらだった」
「あいつら……」
「夕菜の下着、深雪の水泳バッグの中だって。さっき本人から訊き出した」
──羽山君……そんな事まで……。
私は嬉しさと感謝と、自分の情けなさを痛切に感じた。
私の知らないところで──私が意味も無く更衣室に向かっていた時だろう──羽山君は
私の代わりに彼女らの口を割らせてくれたのだ。
私は──
下着を奪われたのに、彼女らには何もせず、羞恥に怯えるだけだった。
いや、私は──
羞恥のもたらす官能に、はしたなく秘唇を潤ませていた。
初めから、彼女らに訊いていれば良かった。更衣室で、下着が無いと気づいた時、すぐに
彼女らを問い質していれば良かった。
どうせ白を切られると判っていても、誰も加勢してくれないと判っていても──
それでも私は、彼女らに、意志を示すべきだった。彼女らのバッグの中身をぶちまけて
しまえば明白だったのだから。
そうすれば、数々の恥ずかしい想いなどせずとも済んだだろう。乳房を揺らしてあちこち
歩き回る必要も無かった。淫らな想いに耽ってしまう事も無かった。
けど──
「夕菜、気にするなって」
「羽山く──んはッ! あッ、はぁっ!」
鋭敏な突起を転がされる。
温かな手で、頭を撫でてくれる。
しかし、それで良かったのかもしれないと考えてしまうのは、私のエゴだろうか──
私が彼女らに反旗を翻していたら、こういう事にもならなかったのだろうから。
下着を着けずに教室に戻らなければ、彼に助けてもらう事は無かった。彼に助けられ
なければ──
「はっ、ひっ……んッ、はぁっ」
身体が跳ねる。
彼の刺激に反応して、私の四肢がびくびくと震えている。
私は知らぬ間に、彼のワイシャツをぎゅっと握っていた。
ワイシャツから腕に──腕から首に──
彼を感じたい。身を任せて昇り詰めてしまいたい。
「気持ちいい?」
「うんっ、気持ちいっ……んッ!」
穏やかな声をしていながら、指では激しく私を揺さ振っている。
正反対の彼の行為が、私の心を解かし、身体を解かす。
「あぁぁ、はぁッ……んっ、はっ」
全身が波打ち、声が抑えられない。
羽山君の責めに応えるように、頂点へと駆け昇ってゆく。
「はぁっ、あッ、あっ! はやまっ、くんぅ……」
「夕菜……」
彼に抱かれている。彼に責められている。
彼に、愛されている──
「ひゃぅ……あっ、あっあぁッ! はぁっ、んぁッ!」
全身ががくがくと震えて、身体の真ん中に熱が集まってゆく。
たった二時間程度の間に、色々な事が起きすぎていた。
呼吸が苦しい。
気持ちが揺らいであちこちに振れ、どこに収まれば良いのか判らなかった。
彼の腕に抱かれて、背を反らして波に飲み込まれてゆく。
けど、私の収まる場所は、きっと──
「あぁんっ! ひッ……ひぁっ、あっ!」
「好きだよ、夕菜──」
ひときわ大きな衝撃が、凝縮された熱を弾けさせた。
「ひッんぁっ、あッ、あぁぁっ──ッ!」
とてつもない大波に、全身が飲み込まれ──
真っ白になった──
何度も何度も訪れる波に、私は身体中を震わせていた。
彼はずっと私を抱いていてくれた。
「──というわけで、男子!」
教室の正面、黒板の前に立った脇田千穂が、突然大声を上げた。
五時間目と六時間目の休み時間──
あれから私はしばらくの間、羽山君とあの場所にいた。
五時間目の終業を告げるチャイムが鳴って、私たちは教室へ戻った。国語担当の杉山は
すでにおらず、がやがやと騒がしい、普段通りの休み時間の光景だった。
ただ、いつもと違って──
「千穂ー! 戻ってきたよー」
私が教室に入った途端、楠井舞香がそんな声を上げ、教室は静まり返った。
「おっけ──」
舞香の声にこちらを向いた千穂は、羽山君の姿を見て、少しだけ怯えたような顔をした。
が、すぐにいつも通りの澄ました顔に戻った。
そして、私たちには何も言わず、席を立つ。
「じゃあ、私は──」
そう言い残し、教室の前の方へと歩いていった。
「ちょっと、深雪っ?」
「あ、うん……」
舞香に促され、俯いていた木嶋深雪も、こちらを向いた。
彼女は私より、羽山君の方を意識しているようで──
「ただいま。杉山の奴、なんか言ってた?」
「えっ? えっと……」
ポーカーフェイスの羽山君。
口篭もってしまった深雪の代わりに、舞香が明るい声を上げた。
「羽山くーん、あとで怖いよー? 杉山センセーに殴られるかも〜」
「ははっ、それは怖いな」
とても怖そうに思えない彼の台詞だった。
クラスのほとんどの生徒たちが、こちらを見ていた。
恥ずかしい──私はまだ、下着を着けていないし、ついさっきまで、羽山君の指に淫らに
喘ぎ、達するまで責められていたのだから。
「ていうわけで、夕菜」
舞香がこっちを睨んだ。口を尖らせている。
私はたじろぐ──
「あの時の事、あたしずっと怒ってんだぞっ!」
あの時──小学生の、時の事だろう。私は彼女の友達に手を差し伸べられ、しかし、その
手を払い除けてしまった。
あれが発端だったのだろうか──今となっては、何が始まりなのかよく思い出せない。
けど、舞香の言葉に、私は改めて思い知らされる。
自分の蒔いた種は、自分で摘み取らねばならない──そういう事なのだろう。
「あたしもちょっと……なんか、色々して、悪かったと思ってるけどぉ……」
眼を逸らし、再び視線を合わせてきた。
「ご、ごめんねっ! だからあんたも謝れ!」
そんな顔で、そんな口調で言われても、とても誠意の篭もった謝辞とは思えない。
けれど、私は──
「私も……ごめんなさい」
「よしっ! 深雪っ!」
「え? あ、うん……」
「ちょっとぉ、深雪が言い出したんじゃん。なんでそこで固まってんのー?」
なるほど──
なんとなく、理解できた。深雪はきっと、私と似た部分を持っているのだろう。
千穂のような引っ張ってくれる友人や、舞香のようなムードメーカーに支えられていな
ければ、きっと──
私にはそんな友人はできなかった──ちょっと、羨ましい。
「あ、あっ……あのさ、夕菜……」
「いいよ、もう」
「え?」
「別にいい……伝わってるから」
羽山君を通してだけど──彼女に変化が起きたのだろう事は知っていた。
素っ気無い口調でしか言えない──こんなだから、友達ができないのだろう。
「──というわけで、男子! 速やかに教室から出る事っ、いいねっ!?」
そこに、千穂の声が教室中に響き渡った。
それまで私たちのやり取りを遠巻きに静観していたクラスメイトたちが騒ぎ出す。
「なんだよそれー?」
「いきなりそりゃねーだろ」
「なになに? どうしたの?」
「あっ、もしかして……」
女子の何人かは、千穂の意図に気づいたようだった。そして──
「そういうわけだから、俺らは外に出てようぜ」
羽山君が声を上げた。
爽やかでいて重みのある、よく通るテノール。
クラスの中心人物二人に言われては、黙って従うしかないと判断したのだろう。渋々と
いった調子で、男子たちが外へ出てゆく。
その中に、金森の姿もあった。
背筋を冷たいものが流れたが、しかし、ほんの一瞬交差した視線からは、以前の彼とは
どこか違うものが感じられた。それが何かを考える間も無く──
「それじゃ、みんなうるさいから、急げよ」
羽山君が最後に、教室を出て行った。
千穂と舞香によって、前後の出入り口が閉められた。
深雪は椅子から降り、机の横にしゃがんで何かごそごそとやっていた。水泳用具の入った
バッグから引き抜かれた手には、白い上下の下着が握られていた。
私のブラジャーとショーツ──
そのために男子を追い出したのかと、私はようやく理解した。
「これ……ごめん」
深雪が立ち上がり、おどおどと言いながら、こちらに手を伸ばした。
ブラのストラップが垂れ下がり、ショーツはくしゃくしゃに丸められていた。
「やっぱりそうだったんだ……」
「やりすぎじゃない?」
「酷いって……」
教室に残っていた女子たちがざわめく。彼女らの眼は、千穂と舞香、深雪の三人に向け
られていて、千穂は普段通りの毅然とした顔で、舞香は口を尖らせて拗ねる子供のように、
深雪は俯いたまま──三者三様でその視線を受けていた。
いい気なものだ──三人を責めるような、女子たちの空気が腹立たしい。
自分を棚に上げて、何を善人ぶっているのだろう。私たちはやってません、今回の事は
彼女ら三人だけの罪です、とでも言うつもりなのだろうか。彼女らをエスカレートさせた
のは、自分たちの醸していた空気も要因のひとつだと、何故解からないのだろう。
いや──解かっているのだ。解かっていても、何もできないものなのだ。私はずっと、
そういう空気を見てきた。
彼女らだって解かっている──自分たちにも咎があるのだと。
でも、それを認めるのは、容易ではない。私だって──
「いいよ、もう」
笑顔なんて作れない。けど、できる限り穏やかに言ったつもりだった。
下着を受け取る。体育の前に脱いだ下着は、ようやく私の手に戻ってきた。
知らぬ間に、千穂と舞香も傍に来ていた。
「今までごめん、悪かった」
「あたしはもう謝ったからね。さっきのでチャラ!」
千穂は感情の篭もらぬ冷めた口調のまま、舞香もそんな調子で──
「なにあれー?」
「それで謝ったつもり?」
案の定、他の女子たちが非を上げる。
「もういいよッ!」
私の叫びに、教室がしんと静まり返った。
私自身、ものすごく久しぶりに荒げた声に、少し驚いてしまう。自分にもこんな大きな
声が出せたのだなと思うと、何故かおかしかった。
三人の心境の変化はよく解からない。こうも簡単に覆るものなのだろうか。
羽山君は彼女らにいったい何をしたのだろう。
そんな事は知る由も無い──きっと、知らなくても良い事だと思う。
この事で、私のクラスでの立ち位置が変わるかどうか、それは解からない。
三人がこれからも私にちょっかいをかけないとも限らないし、他の子の態度が改まるか
どうかも解からない。
けれど、私には──
羽山君がいてくれる。それだけで、私は満足だった。