蛇口からほとばしる水を両の掌で受けていると、火照った熱がそこから吸い取られていく  
ようだった。  
 授業中に廊下の水道を使う者などあまりいないが、授業中に水道を使う音が聞こえても、  
なんだろうと疑問には思っても、廊下まで出て確かめる事をする者もいないものだ。  
 ひんやりとした水で顔を洗い流し、気を引き締める。  
 下着を着けていないという羞恥心がこんな事で消えるわけではないが、羽山君に責め  
立てられた昂ぶりは収まっていた。  
──羽山君、なんであんな事を……。  
 水谷から救ってくれたのは、二人だけになる口実だったのだろうか。私の身体目当てで  
助ける振りをして誘い出し、まんまと引っかかった私の身体を弄んだという事なのだろうか。  
 そう考えるのが一番簡単だが、しかし、彼の言葉を思い返すと、それ以上のものを期待  
しないではいられない。  
 しかし、そんな都合の良い話があるのだろうか。私なんかを、彼のような男の子が好いて  
くれているなどという事があるのだろうか。  
──考えても意味無いか。  
 知りたければ彼に直接聞けばいいのだ。でも──  
──はぐらかされた?  
 さっき問いかけたとき、彼は答えを言わなかった。質問に質問で返し、彼が私にした恥ず  
かしい行為を口に出させようとし、絶句した私に甘い言葉と優しい笑みを投げかけた。  
 普段からあまり口を開かない彼は、ぶっきらぼうな口調で近寄りがたい空気をまとって  
いるのだが、だからといってその貌は仏頂面というわけでもなく、人を安心させる穏やかな  
雰囲気を醸している。  
 彼は私にあんな事をしたのだというのに、普段と全く変わりなく見えた。ポーカーフェイス  
というやつだろうか。  
 やはり、私は彼にはぐらかされたのだろう。  
 私の質問を、何故彼ははぐらかす必要があったのだろう?  
「だいじょうぶ?」  
 いつの間にそばに来ていたのか、彼の声が背後からして、私は身を縮ませた。  
「驚かせちゃったか、ごめん」  
 ごめんと言いながらも、さほど気にしていないような声だった。わざと驚かそうとしたの  
ではないかと思えてしまう。  
 私は急いでハンカチで手と顔を拭いた。  
「まだちょっと赤いね」  
 くすりと笑う。どうして彼はこんなにも優しい笑みを出せるのだろう。  
「さて、と。どうしようかな」  
 目を逸らした彼は、指先で鼻の頭を掻くような仕草をした。  
「その格好で、ずっとってのは辛いでしょ?」  
「え……うん」  
 顔を洗っているうちに熱が冷めたとはいえ、私は未だに下着を身につけていないのだ。  
その部分はまだ、淫らな蜜に濡れたままだった。  
「ちょっと良い?」  
 私に向き直ると、彼は私の手から、ハンカチするりと奪い取った。  
 ハンカチを軽くたたんで右の掌に乗せた彼は、突然、私のスカートを捲り上げた。  
「──ッ!」  
 そして、ハンカチを私の股の間へすっと差し込み、その部分へ押し付けた。  
 彼のもう片方の腕が、硬直した私の腰を抱く。  
「ここ、このままじゃ困るよね」  
 割れ目に沿って、私のハンカチが押し付けられ、前後に動かされる。  
「やだ、羽山君っ……」  
 ここは廊下の真ん中。さっきまでの階段の踊場とは違う。壁を挟んだすぐ横の教室では、  
何十人もの生徒たちが授業を受けているのだ。  
「声を出さないで」  
 耳元で囁かれ、私はされるがままになるしかなかった。  
 舌の唇から溢れた蜜が、私のハンカチで拭き取られていく。  
──恥ずかしい……。  
 濡れたそこを羽山君に拭かれるのは、指で刺激されるよりも恥ずかしかった。  
 ハンカチが敏感な部分を擦り、私の身体が再び反応してしまう。  
 また彼に弄ばれてしまうのだろうかと思ったとき、彼の手が抜き取られた。  
「これぐらいでいいよね」  
 私は彼と目を合わせる事ができなかった。  
 
「これ、すごいね」  
 私自身の蜜がたっぷりと付着し、ぬめぬめと光を反射するハンカチを見せられた。  
「こんなについてる」  
「やだ……」  
 きっとわざとやっているのだろう。彼は意図的に、私が恥ずかしがるような事をしている  
のに違いない。廊下の踊場で私の身体を弄んだり、言葉に詰まるような質問を返したり、  
私のハンカチで濡れた秘処を拭き取ったり……。  
 私は彼の手からハンカチを引っ手繰ると、くしゃくしゃに丸めてポケットに押し込んだ。  
「一応、保健室に行っておいた方が良いかな」  
「え?」  
──あ、忘れてた……。  
 教室を抜け出したのは、私を保健室へ連れて行くという口実だったのだ。あの水谷が、  
保健室に様子を見に行くとも思えないが、その可能性がゼロではない以上、保険をかけて  
おいても悪くはないだろう。  
 しかし、保健室へ行くと、下着を身に着けていないと保険医に知られる事になる。できる  
ならばあまりそれを人に知られたくない。  
 羽山君は、私の迷いを見透かしたかのように苦笑した。  
「やっぱり、その格好じゃ嫌?」  
「……」  
「そんな怖い顔しないで。俺も困ってるんだ。とりあえず──」  
 私は彼に手首を掴まれ、再び階段へと引っ張られた。  
「廊下で立ち話なんてしてたら……見られたくないでしょ?」  
──やっぱり、わざと……。  
 顔が熱い。すっかり彼のペースに嵌まっている。  
「保健室って、下着とか置いてないのかな」  
「え?」  
「小学校って、なかった? おもらししちゃった子のためとか」  
 そういえば小学生の頃、教室で粗相をしてしまった子が、保健室に行って新しいショーツ  
を穿いてきた事があったのを思い出した。けれど、中学にもそんなものがあるのだろうか。  
「中学なら、そうだな……アレになっちゃった子のためとかさ」  
「え?」  
「ほら、アレだよ。んー」  
 口篭もる羽山君。  
「まぁ、生理とか」  
「──ッ!」  
 心臓が飛び出しそうになった。  
 男の子がそんな言葉を口にするなんて思ってもいなかった。  
 けど、私にあんな事をする羽山君ならば、平気で口にできるのかもしれない。  
 いや、平気でというわけではないのかもしれない。そういえば、私を教室から連れ出した  
直後も、私の下着の事を口にするのを躊躇っていたようにも思える。彼にも人並みの羞恥  
心というものがあるのだろう。  
 そう思うと、彼もまた同じ中学生なのだと、少しほっとしたような、安心できたような、不思  
議な気分になった。  
「女の子って大変だね」  
「え? うん……まぁ」  
 頷いてから気づいた。  
「あっ! えっ、あ──」  
 大変だねと言われ、頷くというのは、私が初潮を迎えているのを肯定した事も同然だ。  
「ふふ、可愛いなぁ」  
 私の手首を握る彼の力が強まり、ぐいと引き寄せられる。それと同時に彼は身体を回し、  
私の腰を抱いた。  
「夕菜、可愛い」  
──また名前で……。  
 心が揺れる。彼に全てを任せてしまいたいと思う反面、私を弄ぶケダモノのような男は  
拒絶するべきだとも思う。  
 間近に迫った彼の端正な顔。真っ直ぐに見つめられ、目が逸らせなくなる。  
 彼の暗褐色の瞳に、私自身の顔が映り込んでいる。  
 ふと、唇に触れた柔らかな感触──彼の唇だった。  
 私は彼に唇を奪われ、心も奪われていた。  
 初めてのキスは、ほんのりとミントの香りがした。  
 
 初めてのキスの余韻に浸る間も無く、彼は私の手を引いて階段を下り始めた。  
 私は夢を見ているのだろうか。  
 夢だったら、どれほど気が楽だろう。こんな格好で、羞恥に苛まれている事が全て夢で  
あれば、残る半日をどう過ごせば良いのか思い煩わずにすむというのに。  
 けれど、夢ならば醒めないで欲しいとも思う。羽山君が私の身体に触れてくれる。羽山  
君が私を可愛いと言ってくれる。そして、私の初めてのキス──。  
──私、羽山君とキスしちゃったんだ……。  
 これは現実だ。下着を盗られ、恥ずかしい思いをしていなければ、羽山君とこんな事に  
はならなかっただろう。そう考えれば、例のグループに感謝すべきなのかもしれない。  
 とはいえ、羽山君が私を好きでキスしたという保証は何も無いのも事実だ。  
 彼の本当の気持ちは私には判らない。でも、以前から気にかけていてくれていたよう  
だし、それに可愛いと言ってくれた時の彼の顔は……。  
 いや、頭に血が上っていて、正常な判断が下せていないだけなのかもしれないし、彼の  
演技力が私の洞察力以上だというだけなのかもしれない。  
──考えたって、わかんないか。疑い出したらキリがない……。  
 階段を一段一段下りるたびに、ブラに覆われていない私の双丘は大きく揺れる。先端が  
擦れて刺激される。先ほどの羽山君の指遣いがよみがえってくる。学校でなければ、家で  
二人きりだったらもっと先まで、──男女の身体の交わりに進んだのだろうか。着衣を全  
て脱ぎ捨て、彼の目に裸身を晒し、濡れそぼったその部分に、彼のものが……。  
──やだ、こんな事ばっかり考えちゃう……。  
 彼のそこは、どうなっているのだろう。私を刺激していた時、彼はそこを熱く滾らせていた  
のだろうか? 思い出せない。密着していた彼の身体。あの部分は……勃起していたのだ  
ろうか。後から抱かれ、身体が触れていたのに思い出せない。そんな事を考えている余裕  
もなかった。  
 ちらりと彼の下腹部に目をやる。今は、大きくなっていないようだった。  
──私、やらしい……。  
 水泳の時間に、水着の前が極端に膨らんで飛び出している男子生徒を見た事がある。  
 女子の水着姿に興奮するなんてと見下していたが、今の私はその子と大差無い。  
──羽山君って、どれぐらいなのかな。  
 インターネットだったか、日本人男性の平均は13cm前後だと書いてあるのを見た事が  
あった。中学生なら少し小さいのだろうか。羽山君の股間にそそり立つそれを妄想する。  
 インターネットを使えば、その手の画像や動画はいくらでも、もちろん無修正のものも  
簡単に入手できる。時々自分のPCでその手のサイトを回る事もあるが、それを直接に  
独りでする行為のネタにする事はあまりない。もちろん全く興奮しないわけではないが、  
大人のそれは、あまりにグロテスクで、私には刺激が強すぎた。  
 かといって、いわゆるロリータものなら許容できるというわけではない。私と変わらない  
年頃の子がそんなビデオに出演しているなんて信じられない。そんな子に淫らな行為を  
し、それをビデオや写真に撮って販売するなんて、まともな人間のする事ではない。  
──もう……何考えてるんだろ、私。  
 階段を下りきった私たちは、保健室のある方へと廊下を折れた。  
 やっぱり恥ずかしい。保健の先生になんと言えば良いのだろう。具合が悪いと言って  
教室を出てきたのだから、具合の悪い振りをした方がいいのだろうか。  
 けど、私がブラを着けていない事はすぐに知られるだろう。きっと何か訊かれるに違い  
ない。下着が無くなっていたと素直に言うのが良いのだろうか。そんな事をしたら、問題に  
なるのではないだろうか。担任や体育教師にも伝わり、犯人探しが始まるだろう。そんな  
事になれば、彼女らにまた恨まれる事になるのではないだろうか。  
──これ以上恨まれたって、変わんないか。  
 保健室はすぐそこだった。羽山君が私に顔を向けた。  
「入るよ」  
「……うん」  
 考えたって仕方ない。なるようになる。  
 覚悟を決めるなんてほど大袈裟なものでもないが、私はすうっと深呼吸をした。  
「あれ?」  
 羽山君がドアの前で立ち止まる。  
「職員室に行ってるみたいだね」  
 ドアには、この部屋の主が部屋を留守にしている時、どこにいるのかを書いた札が  
吊るされている。そこには、「外出中・職員室」と書かれた札が掛けられていた。  
「うん……」  
「とりあえず、中に入ろうか」  
 彼に背中を押され、薬品臭の満ちた小奇麗な部屋へと入った。  
 
 保健室は無人だった。体調を崩した生徒がベッドに寝ているでもなく、時計が秒を刻む  
こちこちという音と、机にある電気ポットの立てるぶぅんという低い音だけが聞こえる。  
 窓の外には植え込みの緑が青々と茂り、真夏の太陽を反射して艶やかに輝いている。  
その向こう側はグラウンドだが、体育が水泳の今の時期、そこには誰もいない。  
「どうしようか」  
 羽山君が腕を組んで苦笑する。  
 保険医の加藤先生は職員室にいるようだが、いつ戻るのかまでは判らない。  
「下着って置いてあると思う?」  
「え……」  
 さっき言っていた、何かあった時のための着替え用の下着。この部屋にも常備してある  
のだろうか。  
「どう、なのかな」  
「探すにしても……見当がつかないな」  
 言いながら、羽山君は適当に引き出しや棚を開けている。勝手に開けてはまずいので  
はないかと思ったが、口には出さない。私のためにしてくれているのだ。  
「夕菜も探してみなよ」  
──また下の名前だ……。  
「あ、うん」  
 といっても、どこを探したら良いものだろう。いくつか引き出しを開けてみたり、積み重ね  
られたケースを覗き込んでみる。  
 下着があるのかどうかより、彼がどうして下の名前で呼ぶかの方に気が向いてしまう。  
 これは彼のアピールなのだろうか。「柏原さん」という他人行儀な呼び方ではなく、親しみ  
を込めて「夕菜」と呼び捨てにするのだと。私も「羽山君」ではなく、「恭也君」と……。  
──できないよ。私の思い違いだったら……。  
 なんでこんなに動揺しているのだろう。きっと下着を着けていないからだ。揺れる乳房が  
心までも揺らしてしまうのかもしれないなんて、馬鹿な事も考えてしまう。  
「見あたらないなぁ。そっちはどう?」  
「え? うん……」  
「ジャージか何かでもあれば良いんだけど」  
 残念ながら、ジャージは持ってきていないし、教室のロッカーに置いてもいない。置いて  
あれば真っ先にそれを着ている。  
「俺も持ってないし……あ」  
「え?」  
「今日あの子、安達さんと佐伯さんは見学だったけど、貸してもらうとか」  
 さっきの体育の時間、その二人は授業を見学していた。おそらく、アレだろう。  
 水しぶきの上がるプールサイドに制服で立つわけにも行かないので、水泳の見学は  
体操服に着替える事になっている。  
「二人から体操服を借りるとかは?」  
「……無理だよ」  
 クラス中から嫌われている私に、貸してくれるわけがない。  
「んー、男のは、夕菜が嫌だろうしなぁ」  
 下着を着けていたって男子から借りるなんて考えたくないし、貸してもくれないだろう。  
「誰も私になんか貸してくれるわけないよ」  
「そうかな。俺は夕菜になら貸すけど」  
「え……」  
「俺のトランクス、穿く?」  
「えぇっ?」  
「はは、冗談だよ」  
 あまりに普段と変わらない調子で言うので、本気なのではないかと思えてしまう。  
「体操服ぐらいなら貸すけどさ」  
「……」  
「あー、でも、ブラは持ってないしなぁ……んー」  
 彼がブラを着けた姿を想像してしまった。あわてて掻き消す。  
「まぁ、制服だけよりマシか」  
 彼はいきなり制服のワイシャツのボタンを外し始めた。  
「え、あの……?」  
 彼はワイシャツを脱ぐと、そばにあった椅子の背に引っ掛け、下に着ていた白いタンク  
トップも脱いだ。彼の引き締まった身体は、プールサイドで見るのとは違っていた。  
 脱いだばかりのそれを私の方へ突き出す。  
「ちょっと汗臭いかもしれないけどさ。着なよ」  
 
 着るって、これを? たった今まで羽山君が着ていたこれを?  
「あー、やっぱ嫌?」  
「え、そうじゃなくて……」  
「そう? なら着てよ。その下、何も着てないよりはマシでしょ?」  
 上半身裸のまま、彼が私の乳房に頂き触れた。  
「んっ」  
「ほら、そのままじゃ乳首も目立つし。ね?」  
「あ──」  
「脱がしてあげようか?」  
「え、え──!?」  
 タンクトップを私に握らせ、ブラウスのボタンに指を掛ける彼。上から順にボタンを外して  
いく。  
 動けなかった。彼の強引さに頭を掻き乱され、どう対処して良いのか判らない。  
 ひとつ、ふたつ、みっつ……。ボタンが外され、胸元が広がる。うっすらと水着の跡の  
ついた乳房の谷間が露になった。  
「真っ赤になって可愛いな」  
「え、あ……」  
「恥ずかしい?」  
「や、うぅ……」  
「綺麗だよ、夕菜の身体」  
 身体中が沸騰してしまいそうだった。  
 おなかまでボタンを外され、スカートに押し込まれた裾が引き出される。  
 と、ブラウスは左右に開き、彼の前に乳房のほとんどが曝け出された。  
「すごいね、夕菜のおっぱい」  
「あっ、あ……」  
 見られてしまった。何度も妄想したシーンが、現実になっていた。  
 ブラウスのボタンを全て外した彼は、その内側に手を差し入れ、両の脇腹に触れた。  
 びくんと震える。  
「腕上げて。力抜いて」  
 言われるままにそうしてしまう。彼の言葉には魔力がある。私を縛る力があった。  
 乳房の横を上り、ブラウスを左右に開ききった。乳房の全てが彼の目に晒された。  
「こんなに細いのに、こんなに大きい。すごいよ、夕菜」  
 彼に乳房を見られている。恥ずかしい。恥ずかしいけれど──  
「柔らかくて、張りがあって、敏感で……乳首も可愛いし、形も綺麗だし」  
 息が荒くなる。階段で触れられた感触がよみがえる。彼の手が私の乳房を包み、突起  
を指で抓み上げて刺激された。ブラウスの上からでもあんなにも感じてしまった。  
「触って良い?」  
「え、えっ?」  
「ダメでも触るけどね」  
 言うや否や、彼は両手で膨らみに触れた。  
「あ、あぁっ!」  
「やっぱりすごいな、夕菜は」  
「やっ、だめ……」  
──だめじゃない……もっと……。  
 さっきみたく、感じさせて欲しい。羽山君の指で、言葉で、私を責めて欲しい。  
「硬くなってきたね」  
「はっ、んっ……羽山君」  
 彼の指に、突起を転がされる。片方を転がされ、片方は抓まれて、私の身体はびくびく  
と震えた。何かに縋ろうと、彼のタンクトップをぎゅっと握り締めた。  
「あっ、はぁ……はぁっ!」  
「声、可愛いよ」  
「やっ、やだぁ……言わないで」  
──いやじゃない……もっと言って欲しい……。  
 彼になら、もっとして欲しい。私を弄んでいるだけでも構わない。性的好奇心を満足させ  
るだけの相手でも構わない。そう思えてしまうくらいに、気持ちよかった。  
 けど、彼は手を離した。  
「もっとして欲しい?」  
 なんとなく、解かった。彼はきっと、嗜虐的趣向の持ち主──いわゆる、Sなのだ。  
 そして私は、被虐的な快感を覚える──Mなのだろう。  
 私が頷くと、彼は私のブラウスを脱がし取ってしまった。  
 

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