もしも世界がひとつではないのなら──  
 もしもあの時、差し伸べられた彼女の手を握っていれば、私はどんな世界でどんな風に  
生きていたのだろうか──  
 
「ゆ、夕菜ちゃんっ、ほら!」  
「え……?」  
 私は驚いて眼を見開いた。金森に大切なところを見られてしまった絶望に、一切の思考  
を停止させた私に向かって──彼が手を差し伸べてくれていた。  
 金森だった。  
 気色の悪い、吐き気のする男。澱んだ眼は腐った魚のようで、何を考えているのか解から  
ない。こんな男に毎日背中を凝視されているのは耐えられない──そう思っていた。  
 だが、私の心は、彼の意図せぬ行動に揺れ動いた。  
 差し伸べられた手を握れば、私は──  
 そう思った瞬間、金森が私の腕を掴んだ。思っていた以上の力でぐいと引っ張られ、  
私は呆然と立ち上がった。  
「ご、ごめんね夕菜ちゃん……さぁ、行こう」  
「え……?」  
 私は彼の言葉を測りかねる。  
「こんなとこ、い、居場所じゃないよ」  
 そう言った彼は、私の腕を引っ張ると、走って! と大きな声を出した。  
 わけも解からず腕を引かれ、クラス中が呆気にとられている中を、数学の時と同様に──  
羽山君ではなく、金森によって教室から連れ出されていた。  
 金森は私の腕を掴んだまま、廊下を走った。  
 乳房が揺れるのも、スカートがなびくのも気にならなかった。それ以上に、どうして  
自分は金森に引かれて廊下を走っているのだろうと思っていたからだった。  
 階段まで来ると、羽山君の時とは逆に、私たちは上へと登った。  
 金森はひいひいと息を荒げていたが、私が彼から離れようと走っていた時と違い、足取り  
はしっかりとしていた。  
 それが頼もしく思えてしまったのは、どうしてなのだろう──  
 屋上に通じる重たい鉄の扉の前は、少し開けた小部屋になっている。扉は施錠されて  
いて、自由に出入りする事はできない。  
 金森は立ち止まると、ぜえぜえと肩で息をしながら振り向いた。  
「ご、ごめんね、夕菜ちゃん」  
 そう言った彼に、私は強い違和感を覚えていた。  
 目の前にいる少年は、間違いなく金森なのに、何かが違って感じられた。  
「夕菜ちゃん……や、やっぱり怒ってる?」  
 そうだ──口調だ。  
 さっきも私を夕菜ちゃんと呼んだが、そこではない。  
 私の知っている金森は、粘っこくて聞き取り難い、ガムを噛んでいるような喋り方をして  
いたはずだった。  
 しかし、目の前にいる金森の言葉は、息が荒い事もあるのだろうが、多少どもりこそする  
ものの、聞きづらいわけではない。そして、どこか一本、強固な芯が通っているかのような  
印象を受けたのだ。  
「金森、君?」  
「え、ええと……」  
 私が訝しんでいると、彼は慌てたような苦笑したような顔になった。  
「ぼ、僕とキミとの仲だし、助けるのは、あ、当たり前でしょ?」  
──助けてくれた……そうか、助けてくれたんだ。  
 そう考えて、ふと思う。  
 ついさっきまでの私なら、きっとこう思っただろう──お前と私の間にどんな仲があると  
いうのだ、と。  
 そう思わなかった自分に当惑してしまう。  
──ああ、そうか。  
 いつもの眼と違う。  
 確かに、いつも通りの澱んだ瞳ではあったのだが、その奥に一筋の、ぎらぎらとした強い  
光が煌めいている。  
「金森君……」  
「だ、大丈夫だよ。僕はゆ、夕菜ちゃんの為なら、なんだってできるんだ」  
「え? ──えっ!?」  
 私は彼に抱きしめられていた。  
 
 私は咄嗟に、彼の太り気味の身体を突き飛ばそうとしたが、予想以上の力で抱き締め  
られて、身動きが取れなかった。  
 あまり意識した事は無かったが、どうやら彼はかなりの腕力を持っているようだ。  
 そういえば、男子たちに雑用を押し付けられて力仕事をしている事があったが、さほど  
苦にせずやっているようだったのを思い出す。  
 こんなところを誰かに見られたらなんと言われるだろう。金森に腕を引かれて教室から  
立ち去り、人気の無い場所で抱きしめられている──まるで恋人同士のようではないか。  
 羽山君の時にも勝手に想像してどきどきしていたが、今の相手は金森だ。そんなロマン  
チックな感傷に浸ることなどできはしない。  
「やだっ──」  
 小さくうめいて抗うが、離してくれない。それどころか、さらに強く抱きしめられる。  
「く、苦しっ──」  
「あっ、ごめん!」  
 彼の束縛が弱まり、私はするりと抜け出した。  
 背を向けて息を整えようとする。階段を駆け登った疲労がまだ残っていたのに、こんな  
事をされては早打つ鼓動が収まらない。  
──これが、守るっていう事?  
 ふと彼の言葉を思い出す。  
 彼がどんな考えを抱いてこんな行動に出たのかは解からないが、少なくともあの時、  
私はクラスメイトたちの好奇の視線と、淫らな言葉を浴びせられていたのだから──  
 そこから連れ出すというのは、守るという事になるのかもしれない。  
 けれど、私は彼に守られる事など望んではいない。  
 私は独りでいい。誰の力も借りずに、独りで生きていけばいいのだ。誰かに迷惑をかける  
事も、誰かを傷つける事もせず、たった独りで生きて寂しく死んでいけばいい。それなのに、  
金森は私を守るなどと言う。  
 差し伸べられた手を──  
 私は、彼の手を握るべきなのだろうか。  
 しかし、彼の手を握ってどうなるのだ。彼だって孤独ではないか。彼に頼ったところで、  
何も変わらないだろう。  
 それとも──  
 ほんとうに彼は私を守ってくれるのだろうか。からかわれ、虐められる私を、彼は守って  
くれるのだろうか。私と同じ立場にいる人間に、そんな事が可能なのだろうか。  
 お似合いのカップル──なのだろう。  
 私たちは、虐められっ子同士、傷を舐めあって生きていくのがいいのかもしれない。彼の  
気持ちを受け入れ、彼に保護してもらって──  
──あ、そうか。  
 私は今更ながら、彼の気持ちを理解できたような気がした。  
 彼は私が今考えていたように、同類だと、仲間だと──むしろ、彼は私よりも自分の方が  
優位にあるのだと思っているのだろう──私が彼を下に見ていたように。  
 更衣室から教室に戻った私がブラをしていな事に、彼はすぐに気づいただろう。その時、  
彼はどんな想像をしたのだろう。もし私が彼の立場なら──  
──自分へのアピール……かな。  
 自分が仲間意識を抱いている相手が、自分の前に無防備な姿で現れれば、自分に都合  
のいいように、自分と特別な関係になる事を望んでいると──夢想するだろう。  
 だとしたら、彼の中の私は、彼と仲良くなりたがっていると考えている事になる。彼も  
私と同じなら、きっと自分の世界を持っている。自分だけが干渉し、自分の思い通りに  
なる世界を。  
 だから、私を守ると言ったのも、私を連れ出したのも、きっと保護欲のような──いや、  
もっと強い、保有欲や独占欲、支配欲の表れなのだろう。  
 あの瞳の奥に見えた光は、尋常じゃない。私を自分のモノとして見ている眼だ。  
 もちろん正常な人間なら、空想と現実の区別はつくし、妄想は妄想だと割り切れる。  
 しかし──  
「ゆ、夕菜ちゃんっ!」  
「あっ──!」  
 私は後から抱かれた。垂らした両腕の上から、彼の両手が、左右の膨らみを掴んでいた。  
 彼の中の私は空想の産物だが、今こうして乳房を掴まれている私は現実の女の子だ。  
 彼の手が激しく動き出し、乳房を乱暴に揉みはじめた。彼はどういう気持ちで揉んでいる  
のだろう。羽山君も、笹野先生も、どういう気持ちだったのだろう──  
 二人の顔が浮かんで、消えていった。  
 私は、金森の乱暴な愛撫に、身体を火照らせていた。  
 
 最初のうち、金森はブラウスの上から乳房を揉んでいたが、やがてぎこちない手つきで  
ボタンを外し始めた。  
 夕菜ちゃん、夕菜ちゃんと耳元で囁かれ、私は身体の力が抜けていくのを感じていた。  
 ボタンが上から外されるたび、ブラウスは徐徐に開かれてゆく。  
 5つめのボタンが外され、金森が肩越しに覗き込むのが判っても、私は抗わなかった。  
「夕菜ちゃん、お、おっぱい……おっぱい……見てあげるよ」  
 そう宣言した金森は、羽山君のタンクトップを掴んで引きずり上げる。興奮して指が  
滑ったのか、右手が跳ね上げられ、乳首を掠めた。その刺激にぴくんとなってしまう。  
 布地を掴みなおした金森は、一気に胸の上まで捲り上げてしまった。  
「あぁ、夕菜ちゃん……おっぱいだよ」  
──見られた……金森に、胸見られちゃった……。  
「お、おっぱい、やっと、み、見せてくれたね……嬉しいよ」  
 見せてあげたわけではない。けど、同じ事なのだろう。  
 保健室のような閉ざされた場所ではない。屋上に抜ける小空間で、大きな膨らみを露に  
してしまった。  
 こんなところで、こんな姿になって──階下を向いているわけではないが、もし誰かが  
今の私を見たら、なんと言うのだろう。露出狂、変態、色情狂、淫猥症──  
 熱を帯びた身体がどんどん昂ぶってゆくのを意識してしまう。  
「ち、ち、乳首……勃ってるね」  
 あれだけ乱暴に扱われれば、肌も萎縮してしまう。しかし、それだけでないのは私自身が  
一番解かっていた。  
「ほら、こんなに……おっきいよ」  
 金森が両方の乳房を下から持ち上げた。乳房がさらに大きく見えてしまう。  
「おっぱい……見たかったんだ。見て、触ってあげたかったんだよ」  
──してあげる……か。  
 金森の言葉は、全て押し付けだった。守ってあげる、見てあげる、触ってあげる──彼の  
世界での、彼と私との力関係が現れているのだろう。  
「こ、ここ、触ってあげるね」  
 金森の指が乳首を抓んだ。痛みに身体がびくんと震えてしまう。  
「こんなに、こりこりして……気持ちいいんだね」  
 気持ちいいのだろうか──判らない。痛いけど、痛みだけではない。それは性的刺激と  
いうよりも、もっと別の──もっと心の奥にある、何かが刺激されているような──  
「いつでも、い、いじってあげるからね。ぼ、僕がずっと、一緒にいるからね」  
 いじってもらいたくなったらいつでも言うんだよと言いながら、彼は抓んだ乳首をきゅっと  
捻った。  
「くぅっ、ひぁ……」  
「エッチ、エッチな声が、で、出ちゃってる、ね」  
「ひっ、んっ、ぐっ……」  
「もっと、え、エッチになりたいんだよね」  
 私は金森に突起を捻られる──彼の中の私は、痛みにすら快感を覚えるエッチな子、  
なのだろう。なんて身勝手で、なんて自分本位な──  
 それなのに、私は──  
 逃げようと思えば逃げられる。大声を上げればすぐに誰かが駆けつけるだろう。けれど、  
私はどちらもしなかった。  
 私を守ってあげると言った彼の言葉を信じたわけではない。信じていたら、こんな行為を  
受け入れてはいない。私は今どんな顔をしているのだろう。苦痛と快楽に苛まれ、淫らな顔  
になっているのだろうか。  
 ここでこのまま、金森に全てを許し、全てを受け入れて、身を任せてしまうのだろうか。  
──それも、いいかな……。  
 どうせ私なんて、彼ぐらいにしか相手にされないのだ。  
 羽山君──彼は今、何をしているのだろう。クラスメイトとともに、金森と私の事を話して  
いるのだろうか。もし彼がほんとうに私を好きだというのなら──  
 羽山君の顔を慌てて掻き消した。私に彼を責める権利など、想う資格など無い。  
 もう、金森に全てを任せてしまおう。  
 金森に私の全てを預け、彼の望むまま、彼にされるがままになってしまおう。  
 自分の意思なんて持たなければいい。そんなものがあるから苦しいのだ。  
 私の居場所は、そこでいい。彼の閉ざされた世界の中で生きていこう。  
「金森君……もっと、して欲しい」  
 身体がすっと軽くなった。束縛から解放されたようで──  
 何もかもが、空虚だった。  
 
 床に仰向けに寝かされた夕菜──その双眸は、虚ろに澱んでいた。  
「あ、はぁっ、んぅ……」  
 竜介の手が乳房を掴み、乳首を刺激する。夕菜はそれに応えて身体を奮わせる。  
「あっ! ん、ふぁ……」  
 竜介の唇が、乳房に触れる。舌が伸びて肌を這いまわる。  
「ひゃっ、はぅ!」  
 淡褐色の突起を銜えて、吸いながら舌で転がしてゆく。  
「美味しいよ、夕菜ちゃんの乳首」  
「ふぁ、やっ、あぁっ!」  
 両方の乳首を指と舌とで責められる。  
「こっちも、いいよね?」  
「ひゃぅっ!」  
 竜介がいきなり蕾に触れた。  
「ひっ、やぅ! そこっ、ふぁあっ!」  
 夕菜自身の蜜を絡めた指が彼女の一番敏感なところを撫で、くちゅくちゅと音を立てる。  
 竜介の頭を抱え、刺激に全身を震わせる夕菜。大きな乳房に顔を埋めた竜介が、白い  
膨らみを唾液でびしょびしょにしてしまう。  
 とめどなく溢れる夕菜の蜜は、秘処の周りをぬめぬめと濡らしていた。  
 
「夕菜ちゃん、僕もうっ……い、いいよね?」  
 夕菜がこくんと頷き、竜介はズボンのベルトを外して前を開いた。  
 白いブリーフが下ろされ、竜介の怒張したペニスが飛び出した。  
 彼のそれは、頭の半分を包皮に覆われたままではあったが、大人の男としての機能は  
じゅうぶんに備わっていた。鈴口から溢れた透明な雫が、ぽたりと垂れて床を濡らした。  
「大丈夫、大丈夫だよ夕菜ちゃん」  
 竜介は彼女の股を広げ、両脚を抱え上げた。  
「夕菜ちゃんの、お、おまんこ……綺麗だ」  
「あっ、あぁぅ……」  
 硬く怒張した彼のものが、夕菜の濡れそぼった秘裂に押し付けられる。  
 亀頭を剥き出しにして、幼い裂け目に潜り込む。夕菜から触れた蜜と、竜介からも溢れた  
露とが混ざり合った。  
「金森君、私、初めてだから……お願い」  
「も、もちろんだよ。大丈夫だよ、ゆ、夕菜ちゃん」  
 竜介は緊張に震えながら、位置を確認して狙いを定めた。  
「い、いくよ、夕菜ちゃんっ!」  
 腰を押し込む──ぬるりという感触と、強い圧迫感に、竜介は包まれた。  
「ひッ、ぎぅッ!」  
 夕菜は破瓜の激痛に、うめき、顔をゆがめた。  
 だが竜介は、初めて味わう女性のぬくもりに我を忘れていた。  
「ゆ、ゆ、夕菜ちゃん……すごい、すごいよっ!」  
 少し腰を動かしただけで、今までに感じた事の無いほどの快感が打ち寄せてくる。  
「ひぃッ、ひぐッ、ひぁッ!」  
 夕菜は竜介の二の腕に爪を立てるが、竜介はそれにすら気づかない。  
 強烈に締め付けられながら、夕菜の初めてを受け取った悦びと、込み上げる本能の  
ままに、奥まで突き進んでしまう。  
「夕菜ちゃ──うあぁッ!」  
 竜介が先端に硬いしこりを感じた瞬間、彼はあっけなく爆発した。  
 竜介は、夕菜の胎内にどくどくと精を放った。  
「あぁ、ああぁ……夕菜ちゃん……」  
 包まれたままの射精は、今までのどんな絶頂感よりも激しく長い、至福の時間だった。  
 夕菜は激しい痛みに苛まれ、わけも解からずにじっとしていた。  
 ただ、金森の恍惚とした表情から、自分の中に精を注ぎ込まれたのだろうというのは  
理解できた。夕菜の両腕が、ずるずると金森の腕を伝って床に落ちた。  
 竜介は肩で息をしながら、自分のものを引き抜いた。竜介の精と、夕菜の秘蜜と鮮血が  
混じりあった、艶めかしい色の液体が、どろりと溢れて床に零れた。  
「夕菜ちゃん……これからもずっと、いつでも、してあげるからね」  
 
 差し伸べられた手の先には、どんな世界が待っているのだろう──  
 
                        夕菜 ── if / another case ── fin.  
 

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