衣笠由梨香はそんな服を生まれて初めて纏った。  
 
 
由梨香の体にぴったりと張り付き、その抜群に美しい体のラインを何倍にもコワクテキに見せる白のワンピース。  
それだけならまだいい。問題はそのワンピースが、背中が異常なほど開いており、その下端は彼女のお尻の  
割れ目のあたりにまで及んでいるし、スカートの裾は足の付け根のあたりまでしかなく、両脇のスリットは  
腰の辺りにまで裂けていた。あと彼女が身に着けているものはファーの首輪と凝った装飾のハイヒール。それだけ。  
そのようなデザインの服は、当然下着を身に着けることを許さないのだ。  
 
「こんなにエッチな服をよく思いつくよね…  
 
衣笠家は天郷という地区の一角を担う高名な貴族だ。  
 
由梨香はその家の長女として大事にされながら、ときには厳しく、貴族らしい華やかな居振る舞いが身に付くように  
育てられてきた。  
 
中学高校と、天郷の貴族やセレブリティが多く集う名高い私立女子高で、世間の風紀の乱れとは無縁な、  
幸福な毎日を送ってきた。その華やかな空気が、彼女をより美しく形作ってきたのだ。  
 
 
その彼女が、彼女の基準においてはもちろん、世間の基準においても、  
裸よりもいやらしい服を着てこうして立っている。  
 
 
天郷の貴族には掟がある。年に一度開かれる、貴族たちの祭にも似た大規模なパーティー。  
17歳以上の男女は何をおいてもこれに参加せねばならず、その際ドレスコードは徹底して守られなければならない。  
そのパーティーの運営が由梨香に要請したのが、上記の服装だった。  
 
 
由梨香はワンピースの首にかかった紐を念入りにきつく締めた。この紐が万が一解けることがあれば、  
その艶やかにして淫らな衣装はあっという間にはだけ、貴族生活で培われた美しい体が完全にあらわになってしまう。  
 
家を出ると高級外車の横に正装の若い男が立っていた。  
 
「お待ちしておりましたお嬢様。よくお似合いですよ。」  
 
曇りひとつない美しい笑みで彼は言った。  
 
「あ…ありがとう…結城。  
 
由梨香は一応褒められたことに対する感謝と、それに勝る圧倒的な恥ずかしさで声を上ずらせた。  
顔は真っ赤だった。  
結城が後部座席のドアを開ける。由梨香は恥ずかしい気持ちに包まれながらも、慣れた奥ゆかしい動作で  
車に乗り込んだ。  
 
由梨香が乗りなれた車の革張りのシートは、いつもの何倍も冷ややかに感じられた。  
彼女の背中とお尻が、何も隔てぬまま触れている。ほとんど、裸で座っているのと一緒だった。  
 
結城が運転席に乗り込み、エンジンを回して暖房をつける。しかし、外車は発車しない。  
俯いていた由梨香は、顔を上げると結城も彼女を振り返っていた。目が合った。  
 
「…どうしたの?  
 
「あ、お嬢様…大変申し上げにくいのですが…  
 
結城は、申し訳なさそうに笑いながら、銀の剃刀を胸のポケットから取り出して、言った。  
 
「今日はそのお体ですし、大切なパーティーですから…”あそこ”を剃毛しないといけないと思うのですが…  
 
由梨香は自分を落ち着けようとしていた。  
天郷のパーティーは、貴族が統べる大人の交流会。だから女性は大人っぽい露出の多めな衣装を着る――  
それは、なんとか理解できる。それに、同じ学園の友達だって、同じような格好をしてくるはずだもん。  
わたしだけが恥ずかしい目にあうんじゃない、みんなそうなんだから――  
 
「お嬢様。」  
 
結城は表情も変えずに言った。  
 
「あまり俯かれますと、胸が服からこぼれてしまいますよ」  
 
咄嗟にあわてて両腕で胸をかばった。確かに由梨香は俯いて背中を曲げた姿勢をとっていたせいで、  
服がたわんでいた。背中が広く開いているため、布がずれこみ、脇の辺りから胸が覗いていた。  
 
「姿勢を正しくなされませんと。」  
 
由梨香の顔はさらに紅潮していく。  
 
貴族は人をうらんではならない。衣笠の掟だ。由梨香は掟に忠実に育っていたため、  
挑発的な使用人に対してもなんらの悪意を持つことはなかった。その代わりに羞恥心の一切を誤魔化すことができなかった。  
 
それでもなんとか由梨香は気持ちを落ち着けようとした。  
これが当たり前なんだから、みんな同じように掟を守るのだから。  
 
布の幕で仕切られた広い部屋に通された。誰も居ない。  
いくつもあるテーブルにグラスと、チョコレートなどが用意されてはいたが、給仕も居なかった。  
なれたパーティーとはずいぶん違う雰囲気で少し寂しかったが、今は少し気が楽だった。  
 
「まだ、あたししか来てないのかな…  
 
由梨香は両腕を胸の真ん中に持ってきて体を小さくしながら、なんとなく部屋の中ほどのテーブルまで歩いていく。  
ふと冷たい風が吹いた。由梨香は一瞬硬直し、スカートがまくれあがるのを大急ぎで押さえつけた。  
急いであたりを見渡すと、壁際にオブジェのように装飾され、部屋になじんだファンが備え付けてあった。  
彼女は少しため息をつき、両腕をまた胸の前に持ってきた。  
 
そのときだった。  
 
 
   ム   ニ    っ   !  
 
 
由梨香の乳房を後ろから、おもむろに鷲づかみにされたのだった。何者かに。  
 
由梨香の顔が見る見るこわばり、両手で鼻から下を覆った。声が出なかった。何が起こったのかわからなかった。  
しかし、あるいは幸いなことに、由梨香の集中が先ほどから自分の、外気にむき出しになって靡くヘアに注がれていたため、  
その瞬間に由梨香の衣装が派手に持ち上がるのをすんでのところで抑えることができたのだった。  
ほとんど反射的に由梨香が抵抗を完了したその瞬間に、聞き覚えのある声がした。  
 
 
 「ゆ  り  か  −−ー!!  
 
 
スカートの裾に手をやりながら振り向くと、そこにいたのは、由梨香の従姉妹である七瀬レイだった。  
由梨香とは小さなころから一緒にご飯を食べたり、お風呂に入ったりして姉妹のように育った、幼馴染。  
 
 
 「…びっくりしたぁー!!もう!!心臓止まるかと思ったよー!!  
 
 
由梨香は一気に脱力し、へなへなと悪戯な笑みを浮かべるレイにもたれかかった。ごめんごめん、とレイは由梨香の  
頭を撫で回す。  
 
 「由梨香ちゃん、すごいカッコだねー。びっくりしちゃった!  
 
 「レイちゃんこそ…すごいね…  
 
由梨香はレイから体を離してまじまじと彼女の体を見つめた。中学生のときに旅行でお互いに裸を見合っているとはいえ、  
今日のレイの格好は裸よりずっと大人っぽく、女っぽく、色気だっていた。  
 
首から提げた大判のストールが、これもまた深いスリットの入ったスカートの腰の飾り布に結び付けてあるデザインのドレス――  
彼女は後ろから見たら、上半身は完全に裸だった。  
 
 「色っぽい?  
 
レイは片腕を上げて片足を前に出したポーズを決めて見せた。  
 
 「え?あ、うん、レイちゃんらしいなって…  
 
 「ありがとう。でも今日は由梨香の圧勝だねー  
 
 「そんなこと…  
 
 「でもさ、この部屋!温度とか過ごしやすいのはいいけど、この床よくないよね。パンツ見えたらどーすんのって思う。  
 
由梨香はそのとき初めて、自分の足元を注視した。  
部屋の床はまるで鏡のように磨き上げられ、由梨香の姿を正確に写し取っていた。  
 
心臓が止まりそうだった。  
 
 「あんまり急いだりして、脚広げて歩けないね」  
 
思わず脚を閉じた今は、床には由梨香の脚の付け根までうつることはなかった。だが、もしいつもより少しでも広く  
脚を開いたら…あるいはそこに、パンツどころの騒ぎではない。由梨香のヘアだけでもない。あるいは。  
 
 「あ、ほら…他の参加者がくるみたい。  
 
由梨香が自分がどのくらい脚を開いてもいいのか測る間もなく、部屋の外から、靴音や話し声など、何人もの参加者がやってくる気配がした。  
 
 
状況は悪すぎた。  
 
 
人がどんどん入ってきた。同い年らしい女性も、年上の男性もいた。  
でも男性は、多少派手だけど常識的なスーツ姿だったし、他の女性も、  
確かに露出は多かったけど、それは普通の範囲内のもので…  
とてもあたしの着ているような、露骨にえっちな衣装とはまるで違う、貴族らしい格好…  
 
みんな同じじゃ、なかったの?いったい何なの!?  
足元を気にしなければいけないような格好をしてるの、わたしだけじゃん……  
レイだって……  
それにレイは、七瀬家と関わりのある人を見つけて、私を置いていっちゃうし……  
 
 
みんな私を見てる…  
こんなにえっちな格好してるから…  
背中からも感じるし、なんだか、私の足元のほうを見てる人もたくさんいる……  
 
見えてない…見えてないはずだけど…  
もし、でももしこの白い布切れが、何かの反射で、肌色とは違うものが透けてしまってたら!?  
たとえば…乳首とか、たとえばその…あの…  
 
 
結城に剃ってもらえばよかったの!?  
こんなに大勢の人に、あたしの、えっちなところを見せてしまうより、結城一人に全部頼んでしまったほうが、よかったの!?  
 
 
あ、声をかけられた。きちんと、きちんと挨拶して、笑顔で、自然に…そう……  
貴族らしく、社交を果たさないと……!  
 
 
由梨香は、それでも何とか体面を成していたが、心中はもはや爆発寸前だった。  
 
そのとき由梨香のヒールに何か当たった。  
見ると、それは高そうなボールペンだった。  
 
「すみませんが、お嬢さん。それを拾っていただけませんか?」  
 
目が合ってしまった。由梨香はその男と目を合わせてしまった。  
人の壁の向こう側にいる、30代くらいのひげの男……脳が考える前に自然に会釈してしまう。  
ということは、私が拾わなければいけない、それを!!この場で、この服を着たまま!!  
 
だが由梨香には、冷静にそれに対処するために頭を動かす時間さえ与えられなかったのだ。  
 
近くに居た男性が3人ほど、一斉に、しゃがみこむモーションに入ったのだ。当然だ。  
当然、拾う。たとえ自分が指されていなくても、近くにいるのだから。  
 
 
由梨香の頭の中に、思わずよぎった。  
彼らが鏡の床を立っているより近くで見つめるさまを。そしてペンを拾い、立ち上がりざまに、  
由梨香の脚とその先を、ごく自然に見上げるさまを。  
 
 
 
だめっ!!  
 
 
 
由梨香は勢いよくしゃがみ込み、男性らを完全に制して、ボールペンを拾った。  
そして裾に手を添えながら、打って変わってゆっくりと立つと、  
男性の間を抜けて、人の間からひげの男にボールペンを手渡した。  
 
 
あぶなかった…  
 
 
由梨香は一事を成し終えてため息をつき振り返った。そこで、由梨香の目に飛び込んできたのは、  
口に手を当てて何か話している、先ほどの3人の男性だった。  
 
そして3人は、一斉に、由梨香を見た。  
 
 
由梨香は戦慄した。  
 
 
この服……  
しゃがんだ姿を上から見たら……  
背中の開いてるところから……  
お尻が見えちゃうんじゃない!?  
 
 
 
由梨香は、思わず駆けた。  
早足で、その場を去ろううとしたのだ。入り口のほうへ。  
 
もう無理…もう無理…絶対に…!!この場には…いちゃだめだ!!  
 
床のことを気にする余裕もなかった。  
見られてしまった。見られたしまったんだ。  
 
男の人に…あたしの……  
 
 
 
  ズ   ル   っ   !  
 
 
 
由梨香の体が浮いた。  
 
 
 
由梨香のヒールが舞う。  
参加者のドレスの裾にとられて。  
 
 
由梨香の手足が、テーブルに勢いよくぶつかり、倒す。  
割れる音が鳴る。  
 
 
「由梨香!!」  
 
 
 
会場中の注目を集めた大音の真ん中に、従姉妹の姿を捉え、レイは近くまで駆け寄った。  
由梨香の無残な姿があった。  
 
 
 
由梨香の体は酒浸しで、服の布はほとんど色を失い、火照ったからだの色を隠すことをやめ、  
より生々しく見せ付けていた。由梨香の薄桃色の乳首はまっすぐ立ち上がり、うっすらと布のテントを張っていた。  
布の役目はそこまでで、由梨香の腹の辺りでくしゃくしゃになったその下は、完全に由梨香そのものを、  
会場中に見せ付けていた。由梨香の脚は大きく開き、その付け根のヘアが、会場のファンが作る風に揺られていた。  
 
由梨香はまさしく裸だった。  
会場中が息を呑んだ。  
レイは動けなかった。  
 
 
「痛…  
 
 
あれ、私どうなったの?今、足を何かに引っ掛けて転んで……  
体が濡れてるみたい…え、  
 
え  
 
え  
 
え!!?  
 

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