午前七時半発の快速電車は混んでいた。毎朝、乗り合わせる顔が幾つもあるが、  
誰一人として名も知らなければ挨拶を交わす事も無い。相澤優希はそんな都会  
の風習をおかしいものだと思っている。また、おかしくなければ混み合う電車に揺  
られながら会社へと向かう人生を送ってまで、都会に住みたいとは考えないは  
ずだ。そんな気がしてならない。  
 
かくいう優希本人だってそうである。出身は北関東の外れで、都会へ出たいが為に  
東京の大学を選んだ。安アパートに住み、アルバイトをしながら四年間、真面目に  
勉強して教員免許を取得し、今は区立のべたん高校の社会科の教師をしている。  
そして、これからも東京で暮らす。田舎暮らしは性に合わなかった。  
 
駅を幾つか過ぎると、黒づくめの学生が車内を埋め尽くすようになる。優希はその  
中に知った顔を見つけ、頬を緩ませた。  
「二階堂君」  
「あっ、先生。おはようございます」  
乗車し、優希にぴたりと寄り添ったのは二階堂賢哉という教え子だった。まだ少年  
の雰囲気が抜けぬ面持ちで、目上の者を敬う律儀な性格を優希は好んでいる。  
 
「混んでますね」  
「混んでるわね」  
優希はもっとこっちへいらっしゃいと、健也を懐へいざなった。他の乗客から守る  
ように、胸襟を開いてその腕の中へ招いてやった。  
「先生・・・」  
「窮屈かしら?」  
「いえ・・・」  
たっぷりと肉付きの良い優希の乳房に挟まれながら、少年は恥じらった。優希は  
そんな態度が愛しくてたまらない。気がつけば優希はそっと賢哉を抱きしめていた。  
 
駅を出る時、優希と賢哉は別々だった。立場が立場ゆえ、人目を憚る必要があった。  
(今度、あの子を遊びに誘ってみようかしら)  
教師と生徒という枠を超え、いつか男女の関係になりたい。そんな事を考えていると、  
背後から、  
「先生」  
いかにも下品な感じの声が優希の耳に届いたのである。  
 
振り向くとそこには学内の不良で、鼻つまみ者の戸田という生徒がいた。土工の倅で  
品がなく、女子生徒に悪さをする事で有名な悪童であり、優希自身も戸田を蛇蠍の如  
く嫌っている。しかし、教職にある以上、嫌な顔も出来ず、表向きは普通に接していた。  
それを何か勘違いしたのか、戸田は優希に対し好意を抱いているようなふしがあり、  
今も鼻の下を伸ばして、彼女の全身を舐め回すように見つめている。  
 
「おはよう、戸田君」  
「へ、へ、へ」  
戸田はあばたまみれの顔を醜くゆがめた。同じ少年でも賢哉とはまったく違うタイプ  
である。優希は少しだけ眉間に皺を寄せた。  
「何か用かしら」  
「いや、別に。ただ、よう」  
「ただ?」  
「俺も二階堂みたいにしてもらいたいもんだと思ってさ」  
 
戸田は懐から携帯電話を取り出し、液晶画面を優希に見せつけた。  
「はっ」  
優希は絶句した。何とそこには、先ほど賢哉を抱きしめた時の姿が写っていたので  
ある。  
「シャッター音にも気づかないほど、熱がこもってたってわけだ」  
「あ、あなた・・・」  
優希は怒りで真っ赤になった。何という卑劣な少年だろうか。きっと醜い性格が彼を  
作り上げたのだろうとさえ思った。  
 
「先生はともかく、二階堂は困るだろうな。こういうの」  
こういう写真が万が一、学内に流布されれば優希は終わりである。それだけなら  
まだしも、賢哉の将来まで巻き込んでしまう事になり、優希は震え上がった。  
「その写真をどうする気?」  
「さて、どうしようかな」  
戸田は優希の腰周りをちらと見た。明らかに性的な意味を含んだ眼差しである。  
 
「とりあえず、便所行こうや、先生」  
「・・・」  
否も応も無かった。断れば全てが終わる。戸田の要求はどういった事だろうか。  
優希は不安で胸が潰されそうになりながら、戸田の後をついていった。  
 
駅のトイレには誰もいなかった。戸田は男子用に優希を手招き、個室へ押し込む  
と早速とばかりに乳房、そして尻を撫でまわし始めた。  
「ねえ、戸田君。お金なら少しは何とかなるわ。お願い、やめて」  
「黙ってろよ」  
はあはあと息を荒げ、女体を弄る戸田の薄気味悪さに優希は怯えた。そして魔手  
はついにスカートの中へと及ぶ。  
 
「ああっ、いやッ!」  
「パンティ、もらうぜ」  
戸田はあっという間に優希の下半身を守る布切れに手をやり、一気に膝まで下ろ  
してしまった。美しい花刺繍が施された薄桃色のパンティは、そのまま足首を抜け  
て戸田の鼻っ面にあてがわれた。  
「たまらねえ・・・先生、好きだぜ」  
「もう、やだッ!」  
我慢の限界だった。優希は本能的に戸田を突き飛ばし、個室の扉を開けて逃げ  
出した。嫌っている男の変質的な行動を目の当たりにして、恐怖心ばかりが突出  
し、写真の事は頭から消えていた。  
 
戸田は追いかけてこなかった。優希は大通りへ出て呼吸を整えてから、のべたん  
高校に向かう生徒の波に加わり、何事も無かったように歩き出す。  
(最悪の気分・・・それに・・・)  
パンティを奪われたせいで、下半身がやけに心許ないのである。やや短めのスカー  
トをはいているという事もあるが、普段は何とも感じない風の流れや人目が気になっ  
て仕方が無い。おまけに──  
 
(替えを持っていないな。どうしよう)  
先週、生理を終えた安心感からか、下着の替えを忘れていた優希は、やむを得ず  
そのまま学校へ向かった。駅前まで戻ればコンビニがあるが、戸田と鉢合わせする  
かもしれず、恐ろしくてとても足が向かない。仕方が無いので今日一日はこれで我慢  
するしかないと自分に言い聞かせ、優希は歩幅を小さくして進むのであった。  
 
一時間目はあの賢哉、そして戸田がいるクラスでの授業だった。優希は戸田の動き  
を警戒したが、特に変わった所は無い。まさか戸田も授業中には変な行動に及ぶま  
いと思い、ごく普通に授業を始めた。が、しかし。  
(何か落ち着かないわ)  
黒板に白墨を食いつかせながら、優希は何かこう尻にむず痒さを感じていた。下着一  
枚ないのがこれほど頼りないとは思ってもみなかったのである。  
 
スカートの丈は十分にある。フレアではないのでたとえ突風が吹いても、捲れる心配  
は無いのだが、もしパンティをはいてない事が誰かに知られたらと思うと、気が気では  
なかった。教壇から見て右手には愛らしい賢哉がいて、もっとも奥にはにっくき戸田が  
いた。どちらも優希に特別な視線を投げかけてくるのだが、そのせいで授業に身が入  
らない。  
 
戸田はきっと奪った下着を持ち帰り、おかしな事をするに違いない。それならば  
いっそ、賢哉にくれてやりたかった。相手が賢哉であれば、下着の一枚や二枚、  
それどころか自分そのものを捧げても良い。だが、優希は毛嫌いしている戸田  
が自分の下着を持っているという事実が許せなかった。しかし、そんな事を考え  
ていると不思議なもので、相反する二つの気持ちの境目が徐々に薄れてきたの  
である。  
 
(やだ、私・・・濡れてる?)  
優希は女の入り口が開いているような気がした。更にそこが湿り気と熱を帯び、  
恥ずかしい状態になっていると感じた。今朝、経験した二つの出来事。良否の差  
はあるが、今の状況で女の部分が花開くのは、それが起因しているに違いないと  
思った。  
 
「じゃあここまで、ちょっとノートに書き写しておいて。中間テストで出すからね」  
優希はそう言っておいて、教室内を歩き始めた。一心不乱にノートを取る生徒た  
ちを横目にしながら、まずは賢哉の席に近づいていく。  
(可愛いわ)  
自分を敬愛の目で見る賢哉に優希は目配せをして、ゆっくりと通り過ぎる。そし  
て今度は戸田の席である。  
 
戸田は嫌われ者らしく教室の隅に陣取っていた。優希はそこまで行くと、腕を  
組んでにやけ顔の戸田を睨みつけた。  
(後で話があるわ)  
他の生徒に聞かれぬよう小声で言う為に、優希は戸田の耳元で囁いた。すると、  
不躾な手が優希の尻を撫でるのである。  
(やめなさい)  
注意にも関わらず、戸田は尻を触った。ここで騒げば恥をかくのは優希という  
事を分かった上での行動である。やめる気はさらさら無かった。  
 
(や・・・め・・・て)  
いつしかスカートが捲られ、生尻が撫でられていた。戸田は特に割れ目の奥の  
すぼまりに執心を見せ、中指でそこを穿った。  
(あッ!ああッ!)  
危険な状態である。中指は第二関節辺りまで入っただろうか。すぼまりは反射  
的に指を食い締め、優希はさながら田楽刺しにでもなったような気分である。  
 
慌てて戸田から離れようとしても、もう遅い。第一、反射的な事とはいえ、指を食  
い締めているのは自分の尻なのだ。  
(ああ、酷い、こんなのって・・・)  
優希は膝が震えだし、立っているのもやっとの状況。声を出せば他の生徒に  
知られ、すべてが終わる。そういう精神状態の中、優希の女は貪欲な性を見せ  
た。  
 
(濡れてるじゃねえか、先生)  
戸田は目で語った。事実、スカートの中に差し込まれた手が、優希の女の入り  
口に触れていて、どうなっているかを知っている。  
(話し合いには応じてやる。だけど、写真の事を忘れるなよ)  
戸田は小声でそう言うと、穿っていた指をようやく抜いた。その瞬間、優希は軽い  
絶頂を感じたのであった。  
 
授業が終わり、職員室に戻った優希は連絡網を盗み見て、戸田の携帯電話の  
番号を知った。それからメールを打ち、話し合いは放課後、駅で待っていて欲し  
いと伝えておいた。  
(素直に応じてくれるかしら)  
尻に残る悪戯の余韻を感じながら、優希はため息をつく。写真を素直に消して  
くれれば良し。もし駄目なら、その時はどうすればいいのだろうと思い悩んだ。  
 
放課後がやってきて駅に向かう足取りも重く、下着の無い心許なさも手伝って優希  
は憂鬱だった。もっとも駅で待っていた戸田は、  
「よう、先生。待ってたぜ。へへへ」  
と、上機嫌である。  
 
「戸田君。落ち着いて話し合いましょうね」  
「分かってるよ。さあ、どこへ行く?」  
出来れば人目のある所と言いたいが、そういう訳にもいかないので、優希は駅裏に  
ある小さな喫茶店に入ろうと提案したが、  
「俺、先生ん家がいいな」  
戸田はそう言って譲らない。結局、優希が折れて諾する事となった。何せこの状況  
では相手が絶対的な優勢である。拒む事は難しかった。  
 
電車に乗って優希のアパートに着いたのは午後五時頃。すでに薄闇が街を包み始  
めていた。  
「へえ、ここが先生ん家か。案外、安普請だな」  
「上がって」  
室内で戸田と二人きり──この状態がいかに危険かは優希も承知だった。また、  
もし体を要求されるような事があっても拒まないつもりでいた。ただし、一回限りを  
確約させて、写真も消去した上での話である。その覚悟がなければ、賢哉の将来が  
守れないのは分かっていた。  
 
「ねえ、戸田君。大人の取引をしましょう」  
「なんだい、急にしおらしくなって」  
「お願い。勝手は分かってるけど、あの写真、消して欲しいの。その代わり今日だけ、  
私を・・・好きにしていいから」  
「二階堂の為にかい。泣かせるねえ」  
戸田は携帯電話を懐から取り出すと、画面を優希の顔の前へと突き出し、キーを操  
作した。  
 
写真は消去されましたというメッセージが出て、優希はほうっと胸を撫で下ろした。  
「さて、先生。これからどうする?俺を追い出しても良いんだぜ。もう、写真は無い  
んだからな」  
「私、嘘は嫌いなの。だまし討ちなんてしないわ」  
「ありがたいね」  
衣服を脱ぎだす優希を見て、戸田は感心したような顔をした。  
 
「明かりを消していい?」  
すっかり裸になった優希はカーテンを閉め、照明を落とす。娼婦にでもなった気分  
だが、戸田が約束を守ってくれた事に対する安堵が、彼女を大胆にさせている。  
二人は横になるとすぐにひとつになった。  
「俺、先生の事、本当に好きだったんだぜ」  
「そう、案外、悪い気はしないわ・・・」  
意外な事に、それは本心だった。この晩、優希は戸田を何度も受け止め、女の喜び  
さえ感じたのであった。  
 
今朝も午前七時半の快速電車に優希は乗っていた。そろそろ冬物の衣服を出さね  
ばならないなどと思っていると、不意に尻に違和感を覚えた。  
(来たわね)  
誰かが尻を触っている。更にスカートを捲り上げ、パンティをはかなくなった優希の  
尻の割れ目を執拗に嬲っていた。  
 
優希の背後にはあの戸田がいた。戸田は優希にひたっと密着し、股間をすりつけて  
いる。  
(ああ、そこ・・・)  
女の入り口とすぼまりを嬲る指に、優希は身悶えた。実はこの二つの穴の中には、  
精液がたっぷりと入っている。この所、毎晩のように泊まりにやってくる戸田が放っ  
た物だった。  
 
(精液をこぼすなよ。こぼしたら、大変な事になるぜ、先生)  
混み合う車内の中、そんな事を耳元で囁かれると、優希はたまらなくなる。いっそ  
こぼしてしまい、自分が下着をはいていない事を、皆に知ってもらおうかという気分  
にもなった。  
 
実はあの日から優希はずっと、戸田と関係を持っている。一晩、可愛がられて変心  
したと言われればそうかもしれないが、実の所、優希はノーパン羞恥の魅惑にとりつ  
かれたのであった。今ではパンティだけでなく、ブラジャーも身に着けなくなり、そん  
な姿で通勤し、授業を行っている。まだその事を他の生徒に察知されてはいないが、  
例えるのであれば綱渡りの最中といった所であろうか。見えそうで見せないという  
状況を保っている。  
 
緊張感がもたらす羞恥、羞恥による快感が連鎖し、もう止まらなくなっていた。その  
引き金を絞るのはいつも戸田である。戸田は散々に優希の中で射精し、それを清め  
るなと命じていた。そういう姿で教師然とし、教壇に立てと言う。たまに力尽き、内股  
を精液が伝う事があると、もうたまらない。緊張を体験した後に味わう戸田との性交  
を、たとえ学内でも望むようになっていた。屋上、更衣室、体育倉庫、男子トイレの中、  
優希は様々な場所で戸田と交わった。特に覚えはじめの肛門性交は、それまで知り  
得なかった世界へ旅立たせてくれた。気がつけば優希は、立ちながら肛門を犯される  
のを喜ぶ女になっていた。  
 
今朝は久しぶりに二階堂賢哉と電車の中で一緒になった。優希はいつかのように胸  
襟を開き、こちらへおいでなさいといざなった。  
「先生・・・?」  
「なあに?」  
賢哉はすぐに異変に気がついた。いつもの優希ではないと。  
「あなたも先生のあそこ、触ってみる?うふふ」  
優希は賢哉を抱きしめながら、ふたつの穴を弄り抜く戸田の指で達していた。  
 
おちまいん  
 

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