(この下種どもめ……)
スカートの奥に直接触れる冷たい空気を感じながら、美弥子は目の前のビデオカメラを睨みつけた。
これから起こる全てを記録しようとする機械の眼は、同じくらい冷たく見つめ返してくる。
教室の机を下げただけの簡易ステージ。
普段なら気にもならない10センチ足らずの教壇だが、今の美弥子には絶望的な高さに感じられた。
ただでさえ膝上20センチのスカート丈では、いつ内側が覗かれるかわからないのに………
赤いランプが点いて録画が開始されたことを示す。
開始の合図だ。
三脚に載ったカメラの他にも、数人の男子が携帯を翳している。
(下種どもの前で…こんな……)
「あら、美弥子さん。
随分とお顔が赤いようですけど、お熱でもあるのかしら?」
わざとらしく副会長の久遠真紀が言った。
「まあ、本当。どうなさいます?
中止にしてもよろしくてよ」
取り巻きでクラス委員の佐々木由美がそれに合わせる。
クスクスと人の悪い微笑混じりの台詞には、美弥子を気遣う気配は微塵も感じられない。
「もちろん、、学園祭の件、認めて下されば。ですけど」
久遠の言った『学園祭の件』とは、2学期に行われる学園際の事だ。
副会長である久遠は、学園祭の出店を全て専門業者に委託することを提案したのだ。
専門業者といえば聞こえはいいが、その中身は地元の指定暴力団体だ。
久遠は度々ニュースを賑わす、暴力指定団体の組長にあたる人物の孫娘である。
つまるところ、久遠の提案とは、学園祭の場を組のしのぎに使わせろというものだ。
学園をそんな得体の知れない連中に預けるわけにはいかない。
「まさか、生徒会長として特定の業者を優遇するような提案を承認出来るわけないでしょ!」
「あら、最後のチャンスだったのに。
それじゃあ、約束どおり見せてもらいましょうか、
みんなの前で『ノーパン スカート捲り』」
楽しそうに久遠が宣言すると、教室は怒号のような喝采に包まれた。