午前七時半、電車は定刻通り駅を出た。車内はまずまずの混みようで、乗車率は八十
パーセントという所だろうか。立錐の余地もないという程ではなく、立っている乗客同士
の肩が触れ合うくらいの状態である。客の大半はくたびれた感じのサラリーマンで、稀
に高校生などが混じっているが、その中に一際、目を引く美しい少女の姿があった。制
服を見ると名門の私学の物で、今時の女子高生とは装いも違って、一昔前の清楚な少
女を思わせる黒髪と、化粧っ気のない素顔がとても美しい。
だが良く見ると、少女の表情はどこか憂いを帯びていた。何かに怯える子犬のような、
今にも泣き出しそうな顔をしているのである。
(やだ、もう・・・)
須賀奈保子は先ほどからしつこく尻を撫で回す手に、いい加減、うんざりしていた。高校
入学以来、毎日のように痴漢に遭うのだが、今日のは特にしつこかった。横目で背後を
見ると、背広姿の中年が鼻息を荒くしながら、体を密着させている。十中八九、この男が
尻を撫でているのだろうが、奈保子はその手を払いのけるほどの勇気を持ち合わせてい
なかった。
この卑劣漢の手を掴み、痴漢だと罵ってやったらどうなるだろう。風紀の乱れた今のご時
世である。逆上されて暴力を振るわれないとも限らない。そんな時、他の乗客は助けてく
れるだろうか。むしろ痴漢に遭った女子高生を、興味深げに眺めるのではないかと、奈保
子は思っている。何故かというと、友人が痴漢に遭った時、そういう風になったと言っていた
からだ。痴漢は証拠がないと自らが行った陰湿な犯罪を否定し、名誉毀損だと叫んだとい
う。周囲の人々も痴漢をどうこうするより、痴漢された女子高生に興味津々だったというの
である。
腕力も無く内気な奈保子には、痴漢の腕をひねり上げる力も晒し者になる気概もない。
ただ黙って時が過ぎるのを待つのみである。
「お嬢さん、ちっとも抵抗しないね」
背後の男が小声でそんな事を言い、奈保子は思わず俯いた。抵抗しないのではない。出来
ないのであると叫びたかったが、勿論、その思いもかなわない。
「もしかして気持ちいいのかな?おじさん、自信持っていい?」
男の指がパンティ越しに、尻の割れ目を這う。そしてどんどん前の方へ忍び寄り、最も敏感
な場所を探り当てようとした。
「はあ、はあ・・・お嬢さん、声を出しちゃ駄目だよ」
男は更に体を密着させてきたと思ったら、ズボンのジッパーを下ろして、男根を放り出し
た挙句、それを奈保子の尻に押し付け、身勝手な動きを始めたのである。
「お嬢さんは、毛が・・・生えてないんだね。その方が可愛いよ」
男の手がパンティの中に入っていた。そのせいで奈保子は恥丘に若草が無い事が知ら
れてしまった。高校生にもなってまだ生えぬとは妙な話だが、稀に性毛の生えぬ女性が
いるというから、奈保子もおそらくそうなのだろう。男は少女の秘密を知った興奮の為か、
指使いを激しくする。
「う、うっ」
奈保子は男のうめき声と共に、尻に生温かな感触を得る。男が射精したのだ。
「次は、OO駅・・・」
車内に駅到着のアナウンスが流れ、電車がホームに着くなり、奈保子は走り出した。まだ
降りるべき駅ではなかったが、この場合、どうしようもなかった。そうして階段を駆け上がり、
改札を抜け素早く手洗いに入って、スカートを捲って見ると・・・
「あっ・・・」
白いパンティに染み付いた、大量の粘液。これが精液である事は、奈保子でも知っている。
「汚い」
奈保子は慌ててパンティを脱ぎ、ゴミ箱に放り込んだ。あの中年男が放った精液が付着し
たままの下着を穿き続けるのは、とても無理だった。
「なんで私がこんな目に・・・」
男の身勝手な行為が憎く、か弱い自分が悲しかった。しかし、学校へ行かねばならないの
で、予備の下着を探して穿こうとしたが、
「無い。忘れちゃった・・・」
今日は体育も無いので、着替えに注意が回らなかった事を奈保子は悔やんだ。生理が近い
時は予備をいくつも持つが、生憎、今はその時期ではない。ゴミ箱のパンティを見たりもした
が、とてもこれを拾って穿こうとは思わなかった。
「コンビニで買うにしても、お金、足りるかな。その前に学校に間に合わないかも」
遅刻しない為には次の電車にどうしても乗らねばならない。少し迷ったが、奈保子は気を取り
直し、下着を穿かないままトイレを出て行った。改札を抜けて階段を降りていく時、奈保子は
今までに感じなかった空気の流れを、スカートの中で感じた。
(あっ!)
そよそよと僅かな風が、無毛の下半身を攫うのである。下着一枚の事だが、あると無いとでは
外気との接触度がまったく違っている。
(危ないな。見えたらどうしよう)
途端に心細くなって、奈保子はスカートの裾を押さえながら階段を降りた。
(恥ずかしい。どうして、こんな思いをしなくちゃいけないの)
スカートの丈は太ももまであるので、滅多な事では下半身を人目に晒す事は無い筈だ
が、奈保子の心細さは大変なものである。階下から上がってくる誰かの目に、自分の局
部が映りはしないかと、それこそおっかなびっくりの有り様で、階段を降りていく。しかし、
急ぐ身である。そうゆっくりとはしていられず、心が逸った。
「あっ、電車が」
今、ホームに入ってきた電車に乗らないと、遅刻は確定である。乗り場まではまだ五十メ
ートルくらいの距離があり、今のペースでは乗車するのは無理だろうと思われた。
「ままよ」
止むを得ず、奈保子は走った。パンティさえ穿いていれば、大股で颯爽と走り抜けるのだ
が、今はそうもいかない。なるべく小走りで足を開かないよう、気をつけねばならなかった。
しかし、慣れない事をしたせいか、奈保子の足はもつれてしまう。
「あっ!」
電車まで後半分の距離まで来た時、奈保子は前のめりに倒れた。かろうじて手はついた
が、体は完全に地に伏せた。しかも反動がついた所為か、哀れにもスカートは前へ花のよ
うに広がった。
「きゃあっ!」
奈保子は自分の尻が外気に晒された事を感じた。咄嗟に立ち上がって背後を見ると、お爺
さんが心配そうに自分を見ていた。
(大丈夫、あのお爺さんなら、見られてなさそう)
転んだ時に打った膝が痛んだが、構ってはいられない。電車から降りてきた乗客たちが、お
っちょこちょいな女子高生という風に奈保子を見たが、それを不快に思う余裕は無かった。
(他のお客さんも、大丈夫っぽいな)
奈保子は降りてくる乗客をやり過ごしてから、乗車した。先ほどまで乗っていた電車に比べる
とやや混み合っていたが、今は遅刻しないで済むという安堵感に包まれている。
(パンツは学校でも借りられるし、大丈夫)
ぐっとスカートの裾を押さえつつ、奈保子は車窓から街を眺めていた。そうして五分もした時
の事。
(やだ・・・誰か、触ってる?)
スカートの上から、何者かの手が尻を撫でていた。感触から察するに、手の甲で確かめて
いるようだが、経験上、これが更なる悪戯の予兆である事を、奈保子は知っている。
(こんな時に・・・やめてよ)
今度は手のひらが、尻の形を確かめるように吸い付いた。いよいよ、本格的な痴漢行為に
出てきたのだ。奈保子は体をよじって逃げようとするが、混み合う車内ではそれもままなら
ない。
指は無防備な下半身に迫り、スカートの中を侵した時、一瞬だけびくっと驚くような仕草
を見せたが、何かを得たという風にすぐにまた蠢いた。
(下着が無いのが、ばれちゃう)
おぞましい指の動きだった。尻の割れ目を這ったかと思ったら、いつの間にか恥丘の敏
感な場所を滑るように走っている。そして痴漢はしっかりと体を密着させ、奈保子を手中
収めた。
(やめて、やめてよ)
尻の上の方で、何か硬くて棒のような物が突きつけられているのを知ると、奈保子は泣き
そうになった。
男がこれを女の中に入れたがる事は知っており、まさか車内でそのような行為に及ぶとも
思えないが、奈保子は武器を突きつけられたも同然。それ故に怯えは当然であった。男の
意思が明確になった以上、今の奈保子は猛獣に食いつかれた草食動物の赤子に等しく、
逃げる事も出来なかった。
(あっ!い、いやだ)
指が二枚貝を押し開き、柔らかな花弁に触れようとしていた。奈保子自身だって、滅多に
触れぬ場所なのに、男は図々しくもそこを指でいじり始めたのである。
(ううっ・・・)
ぬるりと何かぬめるような感触に、奈保子は怯えた。
男の指が奥深くに入ろうとしている。そこは柔らかな肉の密集する洞穴だった。何かで穿て
ば開いてしまう為、本来は本人の許しが無ければ決して入ってはならない場所だが、時々、
こういう図々しい輩がいるのもまた事実である。指は二本、束ねられていた。それが奈保子
の女穴を穿ち、蒸れさせた。蒸れた後は粘液が体の芯から出てきて、男の指を濡らす。ぬめ
る感触は、奈保子の愛液だった。
(うっ、うっ・・・駄目・・・)
目を細めて声を出さないよう、必死に耐える奈保子。まだ男を知らぬとはいえ、こういう悪戯を
されれば反応するのは当たり前である。
指は女の仕組みを熟知しており、右手で陰核を、左手で女穴を悪戯していた。乳房には目も
くれず、ひたすら下半身に集中するやり方は、堂に入っている感じだった。おそらくこういう悪
さをする事に生き甲斐を感じる人種なのであろう、奈保子の抗いなどは何とも思わず、ただ
指を働かせた。
(あっ、何か変になる・・・)
奈保子は下半身に痺れるような何かを感じ取っていた。自慰の時に味わう事の出来る、あの
小波の如き絶頂だった。気がつけば奈保子は僅かにいく、とだけ呟いて、知らぬ間に男に体
を預けていた。
電車がある駅を走り去ると、ホームには呆然とする女子高生が残された。それは今しが
た痴漢の指で絶頂に導かれ、恥をかいたばかりの奈保子だった。まだ下半身には痺れる
ような快感が残っていて、太ももを粘液が伝っている。
(なんなの、これ)
顔すら見る事が出来なかった卑劣漢の指技に女冥利を味わった奈保子は、ブラジャー
のカップの中で、乳首が痛いほど尖っているのが分かる。もし、あのまま男が声でもかけ
てきたら、自分はどうなっていただろう。
万が一、トイレにでも連れ込まれ、犯されそうになっても、はたして自分は拒絶しただろうか。
奈保子は自身の心の中で揺れ動く何かを感じていた。
(それもこれも、ノーパンのせいだ・・・)
唇をぎゅっとかみ締めながら、奈保子は泣いた。今、これからどうしていいか分からなかっ
た。もう学校は遅刻である。痴漢に遭いましたと言って、家に帰るのも癪だった。しょうがない
ので奈保子はベンチに座り、考え事をするようなふりをして、じくじくと疼く下半身に指を当て
てみる。
(まだ、熱っぽい)
男のせいで熱せられた女穴は、本来の機能を悟ってしまったらしく、異性をここに招けと命じ
ているような気がする。奈保子は鞄を膝に置いて、周りを気にしながら自慰をした。下着が
無いのが幸いし、自分の指はすぐに敏感な場所に触れる事が出来たが、
(駄目だ、こんなのじゃ・・・)
あの電車の中で味わった快感とは、比べ物にならないのである。下着無しで電車に乗るとい
う異常な行為が、自分を奮い立たせてくれたのだと分かると、奈保子はもう一度、電車に乗る
決心をした。
(まだ、電車は混んでるもの)
遠くに電車の影が見えると、奈保子はおもむろに立ち上がり、乗車位置へと向かう。彼女の
狙い通り、車内はかなり混み合っていて、それこそ立錐の余地も無い状態だった。電車が
ホームに着くと、奈保子はわざと男の乗客に体を密着させながら乗車した。発車のアナウンス
が流れ、電車が走り出すと、すぐに少女の姿は見えなくなった。
おしまい