何か
変だなぁ
何か
足りないなぁ
そんなふうに思いながらあたしは、通学路を一人で歩いていた。
夏休みが終わって1週間、クラスメートも学校の雰囲気も落ち着いてきて、金曜の放課後は
仲良しの友達とカラオケ行って、じゃあまた来週ね、なんて、まったく普通の日々。
いつもどおりの毎日が始まってるだけなのに、今日はなんだかなにかが足りない、あたしは
朝からずっとそう思ってる。
ここらへんの道はまだ通学ラッシュの合流前で、人通りもほとんどない。だから一人で歩いて
いるのは別に、普通。
そういえば前にこんな感じを受けたときは、教室に着いた瞬間『あ、机の上に宿題忘れたー!』
って思い出して、しかもそれそのまま声に出してしまって、すっごく恥ずかしい思いをした。
あれからしばらく、あたしは朝教室に入るたびに『おはよ、宿題持ってきた?』『よう、机の上
確認してきたか?』なんてからかわれていたのだ。
イヤな予感がして、慌ててカバンの中を探る。ん、だいじょぶ。今日提出するのは日本史の
レポートだけど、ちゃんとある。出来のほうは……だけど。
でも、なにか足りない気分はなくならない。ハンカチ?ケータイ?ううん、ちゃんとある。
まさか、服が違う?まさかね。制服はちゃんと夏服だし、髪のリボンも決められた紺。よもや
靴が?とか思ったけどスリッパを履いたりしてるっていうこともなく、校章入りの紺のソックスに
茶色の革靴がピカピカ光ってる。まさか足りないのは服の中?いやいや、生徒手帳にも
『制服の下には適宜(なんて読むんだっけ)シャツを着るなど、学生らしい清潔で節度ある
身だしなみをこころがけること』ってなってるし、あたしだって白セーラーからブラが透けてる
なんていやだから、ちゃんとTシャツを着ている。わざわざ襟元から覗いて確認しちゃった。あはは。
でも、それじゃあ何が?
考えながら道の角を曲がった。ここにブティックがあって、あたしはいつもここのショーウインドウで
服装をチェックしている。ちょうどいいからじっくり見ようと立ち止まり、姿見みたいに自分を
映す窓に向き合うと……。
あーっ!わ、わかっ――
パンツ……は、いつも履いてないからスースーするのは問題ないって思ってたら。
宿題忘れた時みたいに、あたしはつい大声で叫んでしまった。
「あーっ!スカート履いてなかったああぁ!」
周りの人がなにごとかと振り返る。クラスメートも何人かいた。
あーもう、恥ずかしい。またからかわれちゃうよう。
あたしはあまりの恥ずかしさに、思わず両手で顔をおおったのだった。