『機電神ブラフマー1』  
 
ブラフマー1(α);六郷 茜(ろくごう・あかね)  
ブラフマー1(β);弘明寺 葵(ぐみょうじ・あおい)  
アスラ軍団幹部・ヴリトラ  
洗脳スパイ・大岡浅黄(おおおか・あさぎ)  
研究所長・花月 菫(かげつ・すみれ)  
 
(ここまでのあらすじ)  
 地球に飛来した謎の隕石から発見された3つの光玉。  
 研究の結果、それは知的生命の意思をエネルギーに変換する装置であると分かり、『カルマドライブ』と名づけられた。  
 折しも同じころ、『アスラ軍団』と名乗る一団が全世界に対し戦線を布告。メカスレイブと呼ばれる攻撃兵器群の圧倒的な力の前に人類はギリギリの戦いを強いられていた。  
 そして彼らは使いようによっては無限の力を行使できるカルマドライブを狙い、研究所の置かれている日本を攻撃し始める。  
 対して研究所ではこれまでの研究成果を応用し、カルマドライブを動力源とする迎撃用ロボット兵器『ブラフマー1(α・β)』を建造、残るひとつを研究所の防御システムに組み込んだ。  
 しかしブラフマー1を制御しきれるパイロットは現在のところたったふたりの女戦士だけ。  
 はたして反撃のラッパは高らかに鳴り響くか?それとも敗北し絶望のエンディングを迎えるのか?  
 
「二正面作戦」  
(前回のあらすじ)  
 攻防一体のブラフマー1と研究所。  
 どちらかを完膚なきまでに戦闘不能にしても残るひとつの力が発動し、これまでのメカスレイブはすべて撃退されてきた。  
 しかしある作戦時、大停電によって研究所の制御部が一時ダウンしたとき、戦闘不能に陥ったブラフマー1も本当に何もできなくなっていたことを、アスラ軍団の支配者ヴリトラは見抜いていた。  
 すなわち、三つのカルマドライブ(なかんずく研究所のもの)をすべて同時に落とせば、彼ら最大の敵は排除できるのだ。  
 そこでヴリトラは一計を案じる。  
 洗脳したスパイを潜り込ませ、戦闘中に研究所のカルマドライブを停止させる。そのため事前に「奴隷収容所作戦」を実行、わざとブラフマー1に救出させた。  
 かくして準備は整い、後は本作戦を決行するのみとなった…。  
 
「緊急事態発生!オクトパス級メカスレイブ3機出現、ブラフマーチームは戦闘態勢に入ってください」  
 けたたましく鳴るアラート音。  
 研究所内はにわかに緊張感に包まれ、白衣に身をまとったスタッフはそれぞれ所定のコンソールに向かう。  
『α号・茜、スタインバイOK』  
『β号・葵、準備整いました』  
「状況はブリーフィングのとおりよ。頼むわ」  
『了解!!』  
 ふたり同時に答えると同時に、巨人像を拘束していたクレーンが音を立ててはずれ、直後、カタパルトによって打ち出される。  
 赤と青、ふたつの女神像。ブラフマー1と名づけられた、地球最強の兵器にして最後の防衛ラインだ。  
 これまで何度も繰り返してきた出動シークエンスではある。  
 しかし戦いへの恐怖と緊張、そして高揚感はいつでもはじめてのように感じる。茜も葵も、サブモニター越しに互いの表情を確認し、うなずきあう。  
「…でも変ね。アスラ軍団がこうも単調な攻撃を仕掛けてくるなんて…」  
 戦場に向けて飛び立った女神たちを見ながら、誰にも気づかれぬ小声で、花月博士がつぶやいた。  
 齢三十でカルマドライブ研究の、そして地球防衛の責任者になった者の、あるいは第六感なのだろうか?  
 そんなものじゃない、これは理由ある疑問だと、頭を振りながら不安げに彼女は飛行機雲だけが残る空を見つめていた。  
 
 同じころ。  
 基地内・カルマドライブ制御室の奥まった一角では、ふたりの女性が揉みあっていた。  
「や、やめなさい大岡さん!離さないとどうなるか分かってるの!?」  
「どうなるんですか?フフフ」  
 両手を後ろ手にガッチリ締め上げながら、大岡と呼ばれた女は不敵に微笑む。  
「次の定例会で、あなたを配置転換するよう言うわ」  
「それは残念。だって、次なんてもう無いもの」  
 唇の端を邪悪に吊り上げる大岡。片方の手の上には、小さく黒い物体が握られていた。  
 彼女はそれを素早く、相手の首筋に打ち込む。  
「一体なにを…あ、ああっ…」  
 崩れ落ちる女性。それを冷ややかに、やや楽しそうな表情で見下ろす大岡。  
「これであなたもヴリトラ様の下僕。さあ、立ちなさい」  
 その言葉を合図に、倒れたはずの女性が背中から糸で引かれたように立ち上がる。  
 顔を上げると、その額にはアスラ軍団の紋章、女陰と鉤爪の合わさったものが黒く刻み込まれていた。  
 相対する大岡の額にも同じ紋様が浮かび上がっている。  
「アナタに命令よ。アタシのロッカーにあるエナジーキャンセラーを制御室に設置しなさい」  
「ハ…イ。わたしは、エナジー…キャンセラ…ーを、設置します」  
「人手が足りないようなら、これを他の職員に取りつけて、手伝わせなさい」  
 女の手に、先ほどの黒い物体…蜘蛛の形をしたアスラ軍団の催眠ユニットが握られる。  
「ハ…イ。これを、他の職員に…とり、つけます」  
「よろしい。ではさっそく行きなさい」  
 腕を振り上げ、行動を促す。  
「ハ…イ」  
 フラフラと頼りなさそうな足取りで、女性は歩きだし、制御室から出ていった。  
 それを確かめ、また笑みを浮かべる大岡。  
 その瞳は、これから起きるであろう事態への淫らな期待に潤んでいた。  
「ンフフ、あと数時間もすればココもヴリトラ様の淫宮になるのね…。ああん、もう待てないわぁっ」  
 白衣の前をはだける。その下には何も着けていない。  
 正確には、陰部にペニスバンド様のモノをつけ、胸の双丘には額と同様、淫らな紋章が刻み込まれ、首には大型犬に使うような黒く太い首輪が巻きついていた。  
 
 破壊された都市で対峙するメカスレイブとブラフマー1。  
 いつものように先攻せず、触手をゆらめかせているだけのメカスレイブたちの不気味さに、コクピット内のパイロットふたりは焦りを感じていた。  
「このエロタコ、どういうつもりだ…」  
「いつでも勝てる、とでも言いたそうですね」  
 強気な言葉を出しているつもりでも、怖れが徐々に高まってくる。茜も葵もそれを充分に感じていた。  
 触手のいやらしい動きを止めず、本体もフラフラと浮遊するかのごとく動く敵は立ち位置を定めない。  
 ジリ、ジリ。  
 後ずさりするブラフマー1。間合いは変わらないが、戦場は少しずつ移動している。  
 互いに睨みあったまま、数分後。  
「ええい、このままじゃどうにもならない。行くよ葵!」  
「了解です。いざ!」  
 決意を言葉に出すと、そのまま敢然と正面に向けて走り出す。  
 ロボットという言葉からは想像もつかない軽やかな動きで肉薄、メカスレイブの眼前で予備動作なしで垂直に飛び上がる。  
 これまで多くの敵を屠ってきた必殺のアクションだ。  
「グラビティ・シュート!」  
 高空から位置エネルギーとカルマドライブによって発せられたプラズマ火球を叩きつける、強烈な飛び蹴りが決まった  
 …はずだったが、  
「な、そんな?」  
 三体のメカスレイブはついに立ち位置を固定、その触手を交差させバリアを作り出していた。  
 ドウゥゥゥンッ!!  
 はじき返される火球、ブラフマー1本体もその光の壁に阻まれ、あえなく背中から落下する。  
「アウッ…んっ!!」  
「ヒッ!!」  
 情けない声をあげるふたり。  
 カルマドライブ制御の副作用としてパイロットにフィードバックされるロボット本体の衝撃、すなわち痛みが全身を鋭く貫く。  
 バリアを解除したメカスレイブが、動けないふたりにゆるゆるとにじり寄ってくる。  
 その緩慢な動作は傍目から見ても嫌悪感を催すに充分だ。  
「ンクッ…や、やるしかないよね」  
「当然です、茜さん!」  
「こういうとき、葵が一緒だといいね。いくよ!」  
「了解!」  
 
 力を取り戻し立ち上がるふたり。両腕を互いに組み合わせ、顔を正面に向ける。  
「ヴェーダ・コンビネーション!」  
 腕の間に、先ほどより強力な青白いプラズマが形成される。  
 その力の反動に耐えるかのごとく大地を踏みしめる四本の足。無表情なはずのロボットの顔にも気合と緊張とが見えるかと思うほどだ。  
 その殺気を意に介さずにじり寄るメカスレイブ。  
 いっぽ、また一歩と近づく間合い。  
「ブラフマー・ファイヤー!」  
 組み合った両腕が振りかぶられ、プラズマは極太のレーザーとなって撃ち出される。  
 過去2回だけ使われた彼女ら最大の技であるが、反面、これを使った後は2時間の間、完全に戦闘不能になっていた。  
 最後の切り札である。  
 大地をつんざく轟音、そして光。  
 その果てに、消滅していくメカスレイブの姿が一体、二体…。  
「…な?」  
 消滅したのは二体。それでは残る一体はどこに?  
「茜さん、うしろ…キャアッ!」  
 葵の勘が察知するよりわずかに早く、α号の背中に鈍い衝撃が走る。  
 β号の視界には、相方を人質にするかのような体勢で触手を揺らめかせるメカスレイブの姿が映っていた。  
「なんでそこに?」  
「さっきまでのノロさはウソだったって言うのか!」  
 すでに戦闘に使う力を出しきり動けないふたりをあざ笑うかのようにぬらぬらとした表面を見せつける敵。  
 呆然とする葵、β号の背中にも嫌悪感を催す感触が加えられる。  
「ヒッ…なにこれ…?」  
「葵!ち、ちくしょう!」  
 α号の背後から伸びたメカスレイブの触手が、β号の背後から彼女の体に巻きついていた。  
 その粘液質な表面を光らせながら、まるで生身の人間を愛撫するかのごとく、脇腹から胸、肩へ、そして太腿から陰部へと。  
 次々と新しい触手が肢体に伸ばされていく。  
 ズルリ。ズルリ。ゆっくりと、しかし本数を増やしつつ機体の表面をまさぐっていく触手が、巨人の表面を濡らし、汚していく。  
 元々はアジテーションの意味もあって鮮やかに塗られていた体が、粘液によって濁っていく。  
 
 

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