安原麻耶は弟の部屋に来客があるのを知ると、体の線がぴっちりと出るTシャツと、  
太もも辺りまでしか丈の無いスカートに着替えた。そして階下の台所まで行き、紅茶  
と菓子の載ったトレーを持って、再び二階へ戻るのである。  
「春樹。お友達来てるんでしょう。お茶を持ってきてあげたよ」  
そう言って弟の部屋に入ると、見慣れた顔が二つ。ひとつは弟の春樹で、もうひとつ  
は友達の秋野誠治という少年だった。  
 
「こんにちは、誠治君」  
「あ、お姉さん、こんにちは」  
「なんだよ、姉貴。鬱陶しいなあ」  
嫌な顔をする弟をさておき、麻耶は床の上に座る誠治の前に傅いた。スカートの裾  
を気にせず片膝をつき、わざと前屈みになって少年の目を奪うと、いかにも忌々しそう  
に春樹の方を睨みつける。  
 
「春樹は本当に可愛げが無いよね。それに比べると誠治君は可愛いわ」  
紅茶を入れたカップをテーブルへ置く為に、左膝を床につけ、右膝を立てているので、  
誠治の目からはスカートの中身がほぼ丸見えの状態。下着は予め白を選び、濃い茶  
色のスカートの奥で明かりのような眩しさを齎すよう意識している。漫画本に夢中な弟  
はベッドの上に寝転び、姉の姿を顧みようともしないが、誠治は目を皿のようにして麻  
耶のパンティを見つめている。  
 
麻耶はあえて誠治からそっぽを向き、春樹に食って掛かる。その訳は誠治少年に  
たっぷりと下着を見せつける為だった。Tシャツにはブラジャーの刺繍がくっきりと  
浮かび上がっており、胸囲九十二センチ、Gカップに及ぶ豊乳の存在を知らしめん  
とする。上下どちらにしても、薄皮一枚の向こうには女の存在があると分かるので、  
誠治はきっと心を乱されているに違いない。そう思うと麻耶は楽しくて仕方が無かった。  
「じゃあ、誠治君。ゆっくりしていってね。私、これからバイトがあるから」  
「ありがとうございます」  
麻耶はウインクをして、部屋から出て行った。  
 
「凄い目で見てたわね、ふふ」  
家を出て車に乗り込んだ麻耶は、誠治の血走った目を思い出して、ひとり悦に浸っ  
ていた。今夜、誠治は帰宅したら、自分の事を思い出して、手淫に耽るのであろうか。  
友人の姉を慰めとして使う事に罪悪感を覚えながら、ちび筆を擦るのかもしれない。  
麻耶は妄想し、ハンドルを握りながら下着の中を淫らに蒸らしていた。  
 
車で向かった先は駅前のビルに入ったカラオケ店。麻耶は週に二回、ここで接客の  
仕事をしている。時給は安いが、麻耶がまだ大学生という事で、時間に融通を利かせ  
てくれる所がありがたかった。  
「おはようございます」  
「おう、麻耶」  
店のカウンターでは柄の悪い若い男が競馬新聞を読んでいた。一応、これがここの  
店長で、畑中という二十二歳のチンピラだった。  
 
「お客いませんねえ」  
「まあ、平日だしな。ちょっと、こっちへきな」  
麻耶がカウンターの中に入ると、畑中は手を伸ばして尻を触った。  
「いやね、店長」  
「たまってるんだよ。なあ、奥の部屋に行こうぜ」  
「お店、どうするんですか?」  
「客なんざこねえよ。さあ」  
 
畑中は店長の特権とばかりに、アルバイトに手をつけるのが癖である。麻耶も勤めて  
早々に手活けの花となり、時給アップの見返りとして、畑中を楽しませてやる事が当た  
り前となっていた。  
「ああ、もどかしいな。脱げよ、麻耶」  
「ここで?」  
「さっさとしろよ」  
「はあい」  
麻耶はスカートに手をかけ、衣服を脱ぎ始めた。ガラスの扉は一応、表からは中が  
窺えぬようマジックミラーになっており、開けられない限りは誰かに見られる懸念は  
無い。  
 
「全部、脱ぐの?」  
「ああ、全部だ」  
Tシャツにスカート、そして下着までもすっかりと脱ぎ、店のカウンターに佇む姿は  
異様だったが、それが麻耶に歪な興奮を与えた。誰がいつ、入ってくるかもしれな  
いこの場所で裸になるという事が恐ろしく不道徳で、かつ甘美であった。麻耶は肌  
寒さを感じながら、下半身だけは火照って仕方が無かった。  
 
「しゃぶれ」  
「はい」  
椅子にふんぞり返ってズボンのジッパーを下げる畑中の前に麻耶は跪き、勃起し  
た男根を口に含んだ。塩気と苦味が一瞬、舌先を痺れさせる。が、その後は生臭  
さも気にならず、麻耶はゆっくりと舌で男の味を堪能した。  
「いいぞ・・・おっと、客だ」  
自動ドアが開いて、男女数人の客が入ってきた。麻耶は身を固くし、カウンターの  
下に隠れた。しかし、男根はまだ咥えたままだった。  
 
「いらっしゃいませ。五名様ですね。お時間の方は・・・」  
畑中が接客を始めても、麻耶の舌は止まらなかった。男根をねぶり、音を出さぬよ  
う吸い、目を閉じて客の気配を感じ取る。今、ここで客が自分の存在に気づいたら  
どうなるのだろう。刹那の煌きの向こうに、何やら新しい世界があるような気がして、  
麻耶の女孔はズキズキと疼く。  
 
「では、一番奥のお部屋へどうぞ。ごゆっくりお楽しみください」  
客を送り出した後、畑中は射精した。麻耶はそれを飲み干しながら、軽い絶頂に  
達した。無意識の内に自分の指で肉芽の皮を剥き、刺激していた。  
「いいぞ、麻耶。残り汁も啜れよ」  
麻耶はこくこくと頷き、目を細めた。畑中に対して従順である事に充実感を得て、  
被虐心が芽生えているようであった。  
 
「麻耶、奥の部屋にいけよ。本格的にやろうぜ。どうせ、カラオケ代は機械が徴収し  
てくれるし、電話を持っていけば構わないからな」  
「はい。あっ・・・」  
散らばった衣服を手にしようとした瞬間、麻耶は裏口から入ってきたいかつい男を  
目にして、体を強張らせた。  
 
「てめえら、何やってるんだ」  
「あ、兄貴」  
男は店の経営者で、山岡という四十男。本職は暴力団員で、店は当然、組の所有  
物。畑中は山岡の子分で、使い走りの身だった。  
「店ん中でいちゃつきやがって。場所を弁えろ、このバカヤロウ」  
山岡は畑中の頬桁をぶん殴り、椅子から転げ落とした。  
 
「兄貴、すいません」  
「すいませんじゃねえぞ、このうすらバカが」  
殴る蹴るの暴行を受ける畑中を見て、麻耶は震え上がった。チンピラと本職の差で  
あった。今の今まで支配者だった畑中が乞食同然の姿と化し、山岡という新たな強  
者が現れ、麻耶の精神は追い詰められていく。  
「いいか、二度とこんな真似をするんじゃねえぞ」  
「は、はい」  
いい加減、畑中を殴った所で、山岡は素っ裸の麻耶をねめつけた。熟れかけのいい  
体である。チンピラの玩具にしておくには、勿体無い女だった。  
 
「おい、お前さん、名前は何て言うんだ」  
「麻耶です」  
「いい名前だ。今から一緒に飯でもどうだ」  
否も応も無い。あんな暴力シーンを見せ付けられたら、とても断る勇気が出ないで  
あろう。麻耶は即座に頷いた。  
「連れてってください」  
「聞き分けの良い子だな。さ、きな」  
服を身につける間も無く、麻耶は山岡と一緒に裏口から出て行った。  
 
山岡の運転する黒塗りの高級外車の助手席で、麻耶は裸になっていた。元々、  
食事だけでは済まない事は分かっているが、服も着させて貰えないのが不安で  
ある。窓にスモークシールドを貼ってあるとはいえ、他の車から見えないとは限ら  
ないのだ。おまけに店を出てくる時、衣服は下着すら持ち出せなかった。事が終  
わってもまさか裸で帰れとは言わぬだろうが、不安は募るばかりである。  
 
山岡はしばらく無言でハンドルを握っていたが、県道沿いのオートレストランで一  
旦、車を停めた。そして、  
「悪いが、タバコを買ってきてくれ」  
と、千円札を出しながら、麻耶に言うのである。  
「あ、あの・・・」  
麻耶は裸である。買いに行けと言われても、どうしたらよいのか分からない。  
 
「ラークマイルドな。手早く頼むぜ」  
「わ、分かりました」  
結局は裸で買いに行けと言う事なのだろう。麻耶は逆らわなかった。光に満ちた  
店内を見ると客が数人。タバコの自動販売機は、学校帰りの不良学生たちが陣  
取るテーブルの前にある。  
(あんな所にこの格好で行って、無事に帰れるのかしら)  
恐る恐る車から出ると、夜風が肌を突き刺した。だが躊躇はしていられない。山岡  
の目が光っているからだ。  
 
麻耶は意を決して店内に入った。乳房と股間だけ手で覆い、俯き加減で自動販売  
機のある場所へ行くと、さっそく不良学生が食いついてくる。  
「おっ、なんだよ、露出狂か」  
「お姉さん、何やってんの?俺たちと遊ぼうぜ」  
学生は四、五人もいて、すぐさま麻耶を囲んだ。彼らからは外にあるいかにもその  
筋の高級外車が見えていない為、怖れが無い。  
「あの、その・・・違うの。近寄らないで」  
そうは言っても学生は離れてくれない。それどころか囲みを縮めるようにして、麻耶  
を追い込もうとする。  
 
学生たちの手が麻耶の体に伸びた。乳房を揉まれ、尻を撫でられた。それを振り  
払おうと抗えば、別の手が伸びてくる。タバコは辛うじて買ったが、どうやってもこ  
の場所から逃れられそうになく、麻耶は泣きそうな顔になっている。  
「お願い、私、帰らなきゃ」  
「うるせえな。おい、便所に連れ込もうぜ」  
学生どもに囲われたまま、麻耶は男子便所へ連れて行かれそうになった。  
 
あそこへ入れば、無事ではいられない。この危機に誰の助けも無いのかと悲嘆  
にくれかけた時、  
「おい、麻耶」  
という山岡の野太い声が店内に響いた。その声に振り返った学生どもは、山岡を  
見て絶句した。どう見ても本職である。彼らがいかなる不良でも、流石に相手が悪  
い。麻耶は呆然としている学生どもの手から逃れ、山岡に抱きついた。  
 
「遅いじゃねえか」  
「すみません」  
山岡は学生どもには一瞥もくれずに店を出た。そして車は再び、闇の中へと消えて  
いったのである。  
「興奮したか」  
「えっ?」  
車中で山岡は意外な事を言った。  
 
「俺はお前がそういう性癖の持ち主だと踏んだんだがな」  
そう言われて麻耶ははっとした。今日、弟の友人に下着を見せて楽しんだ事を思い  
出した。また、畑中との淫らな戯れも、山岡の言葉の意味に含まれているような気が  
する。すべては、見せてやる。見られるかもしれない。見られたらどうしようという、  
露出願望を影に潜めた強迫観念に帰結しているのではないか。実を言えば、麻耶  
も薄々と気がついてはいるのだが、それを認めるのは人としての尊厳を失うような  
事に思えて、後一歩が踏み出せずに今日まで来た。  
 
「まあ、それは今夜一晩、可愛がってやれば分かる事だ」  
山岡はタバコを吸いながら、インター近くのラブホテルを目指して車を走らせた。  
助手席の麻耶は震えながら、今夜、自分が別の自分になる予感を得ている。も  
しかしたら、そのまま淪落するかもしれないが、今やそんな事は瑣末事だった。  
 
秋が過ぎたある寒い朝、麻耶は大学へ向かう電車の中に揺られていた。コートを  
蓮っ葉に羽織り、手には鞄がひとつだけ。車内はさほど混み合っていないが、通勤  
中の会社員などの姿が目立っている。麻耶は着ているコートのボタンを弾かれ、そ  
こから見知らぬ男の手の侵入を許し、乳房を弄ばれていた。  
「あっ」  
声は殺したが、熱い吐息が漏れる。男が乳首を抓んだからだ。  
 
「驚いたな、お嬢ちゃん。あんた、縛られてるのか」  
男は乳首を指で弾きながら、麻耶の白い肌に食い込む赤いロープの存在を知って  
驚いた。鎖骨の上からぐるりと乳房を上下に挟むように掛けられたロープは、腰の  
所で結ばれていた。一見すると、まるで罪人を戒めるような惨めさだが、麻耶がそれ  
をやると淫猥極まりなく、男は興奮が収まらぬ様子である。  
 
「何か訳ありかい?」  
「私、ヤクザの情婦なの」  
「その年で?本当かい?」  
「ええ・・・」  
男の手が下半身へと及ぶと、金属製の何かに触れた。少しコートを捲ると、貞操帯  
と思しき物が装着されていた。男はそれで麻耶の言葉を信じる事が出来た。  
「セックス以外なら何をされてもいいように、着けられてるの」  
「驚いたな」  
「でしょう?もっと触ってもいいのよ」  
気がつけば手は増え、全身を舐めるように指が這わされている。一体、何人の男  
がこの体を弄ぶのだろう。麻耶は肌を晒しながら、そんな事を考えている。  
 
おちまい  
 

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